ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
ゴールドシップはゼロの行列を遠くから眺めていた。
人だかりの向こう、派手な衣装の女たちが道を開き、
仮面をつけた黒い影がゆっくりと進んでいく。
その光景は、影の街の“王の行進”そのものだった。
ゴールドシップは背伸びをし、
ぴんと耳を立てて、目を細める。
ゴールドシップ
「随分にぎやかじゃねぇの?
あいつ、有名人にでもなったのか!」
その声は軽い。
だが、どこか本気で驚いているようでもあった。
タイニィは隣で、胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。
両手を合わせて握りしめる。
タイニィ
「有名人というか……。
この街を支配しているというか……。」
その声には、
“認めたくない”という感情が滲んでいた。
ゼロが王になったことを誇りに思う気持ちもある。
でも──
帰ってきてほしいという願いのほうがずっと強い。
フェアレディにも相談した。
だが返ってきたのは、あまりにも軽い言葉だった。
フェアレディ
「反抗期みたいなもんよ。
そのうち戻ってくるわ。」
取り合ってもらえなかった。
タイニィの胸の穴は、塞がらないままだった。
ゴールドシップはポケットから端末を取り出し、
カメラを構えて連写し始めた。
ゴールドシップ
「ヒヒッ……いいじゃねぇか、この絵面!
ゼロのやつ、すっかりスター気取りじゃねぇの!」
シャッター音が市場に響く。
タイニィは慌てて手を伸ばした。
タイニィ
「ちょっと!
文句言われるかもしれませんよ……!?」
ゴールドシップは肩をすくめ、
悪戯っぽく笑った。
ゴールドシップ
「上等じゃねぇか。
向こうから来るなら好都合だぜ!」
その声は、ゼロの行列に突っ込む気満々の声だった。
ゴールドシップ
「とにかく追うぞ。
ヒヒヒッ、面白くなって来やがった!」
銀髪が揺れ、
ゴールドシップは人混みをかき分けて進み始める。
その背中は、
“ゼロを見つけたらタダじゃおかないぞ”という凄みがあった。
タイニィはその勢いに飲まれながら、
胸の奥がざわつくのを感じていた。
ゼロの行列は遠ざかっていく。
仮面の奥の表情は見えない。
だが──
ゴールドシップの足取りは迷いがなかった。
――
実況
「ゼロバンゲート!
無慈悲!圧倒的な逃げ!
大差を付けて、今、ゴールイン!!」
観客席が揺れるほどの歓声。
だがゼロは振り返らない。誰も追いつけない。
誰も届かない。
誰も理解できない。
—それが心地よかった。
派手な衣装に身を包み、面で顔を隠す。
それだけで別人になれる。
心の乾きも飢えも孤独も誰にも見られない
走っている間は何も考えなくていい。
ゾーンに入る時間は日に日に長くなる。
ゼロは思う。
(走っている間だけ、俺は“空っぽ”でいられる。)
仰々しく差し出された賞金袋を掴み取り、
ゼロは出口に群がる観客へ向けて金を撒き散らした。
紙幣が宙を舞い、地面に散らばる。
観客
「ゼロ様!」
「我らが王!」
「この街の誇り!」
歓声と熱気が、ゼロの空虚を埋めていく。
偽物でもいい。
空虚を埋めるなら、それでいい。
その時だった。
観客の列の中から、みすぼらしい少女が顔を出した。
手には萎れかけた花。
もう片方の手には、痩せこけた幼い少年の手。
観客
「おい、テメェ。
ゼロ様に気安く近寄るんじゃねェ!」
少女は肩を震わせながら、ゼロに花を差し出した。
観客
「ゼロ様に汚い花を渡すんじゃねぇよ!」
ゼロは面の奥で目を細めた。
ゼロバンゲート
「構うな。代金だ。受け取れ……」
懐から金を引っ張り出し、床に撒いた。
少女はそれを拾い、少年の手を引いて列の中へ走り去った。
歓声は続く。
紙幣は舞う。
影の王の祭りは終わらない。
だが──
少女の震える肩だけが、
ゼロの胸にわずかな“揺らぎ”をもたらした。
あの花は、金では買えないものだった。
ゼロは気づかないふりをした。
気づきたくなかった。
——
観客
「ゼロ様!怪しい女が来ます!」
ゼロバンゲート
「今度はなんだ?」
心の奥で、冷たい苛立ちが走る。
どうせ金目当てに関係をでっち上げてくるような奴だろう──そう思った。
だが次の瞬間、耳がピクリと動いた。
ゴールドシップ
「おい、退けよ、三下ども!!
ゴルシ様が来てやったんだよ!!」
その言葉に、ゼロの耳が立った。
まさか──あの名を、ここで聞くとは。
勝負中、俺に飛び蹴りを仕掛けてきた危ないウマ娘。
忘れもしない。
あの狂気の笑い声。
そして、群衆を押しのけて現れた銀髪の影。
ゴールドシップ
「よォ〜、また会ったな!
ダハハハ!!
お前なんだそのダサい仮面!!
似合わねぇ〜!」
ゼロは面の奥で眉をひそめた。
ゴールドシップは腹を抱えて笑っている。
その笑い声は、影の街の喧騒を突き抜けて響いた。
ゼロバンゲート
「……ゴールドシップ。」
その名を口にした瞬間、仮面の下の表情がわずかに揺らぐ。
ゴールドシップ
「まずは仮面外せ……
それとも、アタシの前では照れくさいって?」
さっきまで甲高い笑い声を上げていたのに、
急に声のトーンが下がる。
その瞬間、空気が変わった。
ゼロは面の奥で息を止めた。
飛び蹴りを放ってきた時と同じ目だ。
ゴールドシップは真顔になった時こそ、何をするか分からない。
観客たちの熱気が一瞬だけ冷える。
影の街の喧騒が遠のく。
ゼロバンゲート
「……場所を変えよう。」
その声は低く、乾いていた。
仮面の奥で、ゼロの瞳がわずかに揺れる。
ゴールドシップはニヤリと笑った。
ゴールドシップ
「おう。逃げんなよ?」
ゼロは背を向け、これから祝杯を上げる予定だった店の奥へと歩き出す。
ゴールドシップはその背中を追う。
店の奥は薄暗く、
赤い提灯の光がゆらゆらと揺れている。
ゼロの影が壁に伸び、
ゴールドシップの銀髪がその影を切り裂くように揺れた。
ゼロは仮面を外さないまま、
ゴールドシップを奥の席へ案内した。
ゴールドシップ
「へぇ……、ファミレスじゃないんだな
洒落た店知ってるじゃんか」
ゼロは返事をしない。
ただ、仮面の奥でゴールドシップを見据えていた。
ゴールドシップは椅子に腰を下ろし、
片足を組んでゼロを見上げる。
ゴールドシップ
「なぁ、なんか頼んでいいか?
お前の奢りな。」
その笑みは、
ゼロの仮面よりよほど“怪物”だった。
ゴールドシップが、なぜわざわざこんなところまでやってきたのか。
実は、特に大した理由はありません。
ラヴズオンリーユーの配信に映ったゼロバンゲートを見つけて、
「……ん?」
鼻がヒクついた。
そして、
「ちょっくら2、3日、空けるぞ」
――たぶん、そんなノリです。
でも、私はこういう「面白そうなものを嗅ぎ分ける嗅覚」こそが、物語を動かす最大のエネルギーなんじゃないかと思っています。
誰かを救うためでもない。
使命があるわけでもない。
壮大な目的があるわけでもない。
ただ、
「なんか面白そうだ」
その直感だけで一歩踏み出した人物が、止まっていた物語を動かしてしまう。
ゴールドシップは、まさにそういう人物です。
そして今回、彼女はゼロの前までやってきました。
さて。
この自由人が、影の街の王様になってしまったゼロに、いったい何をしでかすのか。
ここから第2幕の幕が上がります。