ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
ゼロはゆっくりと仮面を外した。
煌びやかな衣装とは対照的に、
その素顔は乾いていて、どこか疲れていた。
ゴールドシップ
「ほほぅ……お前、そんな顔してたっけ?」
その声は、笑いでも驚きでもない。
“観察”だった。
ゴールドシップは後ろを振り返る。
ゴールドシップ
「なぁ、コイツがゼロバンゲートで間違いないか?」
その背後から、タイニィがそっと顔を出した。
タイニィ
「間違いありません……
でも、私の知っているゼロさんとは……」
言葉が続かない。
“もう違う”と言いたいのだろう。
ゼロは奥歯を噛み締めた。
ゼロバンゲート
(そうだな。自分でもこうなったことを信じられないでいる。でも、もう止められない。)
タイニィも、観客も、ラヴズも──
みんな勝手に“ゼロバンゲート像”を作り上げて、
そこに俺を押し込めようとする。
だから仮面をつけた。
独りになれば、誰の人生にも関わらなくて済む
ゴールドシップ
「そっか。
で、お前、最近どうなの?
ちゃんと歯を磨いてんの?」
ゼロバンゲート
「……無駄話なら帰ってくれ。」
ゴールドシップはスっと鼻を鳴らして席を立つ
ゴールドシップ
「ああ、そうさせてもらうぜ。」
軽い声。
だが、その次の言葉が空気を変えた。
ゴールドシップ
「理事長も、お前のトレーナーも、
お前がまだ元気に走ってるって知ったら安心するからな!」
ゼロの心臓が跳ねた。
ゴールドシップ
「お、そうだ!
なんかお土産買って帰るか。いい店知らねぇ?」
ゼロバンゲート
「……!
今……なんて言った?」
ゴールドシップ「お土産!」
ゼロ「違う!その前!!」
ゴールドシップは肩をすくめた。
ゴールドシップ
「ああ、お前のトレーナーだよ。
お前が突然いなくなって大変だったんだぞ。
あのオッサン、退職願なんか出すもんだから、理事長と大揉めになるわ。
生徒会長は、この騒動の責任の一端は自分にあるとか言って、生徒会の再選挙やるとか言い出すわ。
ま、しばらく賑やかで楽しかったけどよ!」
ゼロの呼吸が止まった。
榊原さんは、まだトレセン学園にいる──その事実が、
ゼロの胸を鋭く刺した。
ゴールドシップが扉へ向かおうとした瞬間、
ゼロは思わず声を上げた。
ゼロバンゲート
「待て!!待ってくれよ…」
ゴールドシップは振り返り、ニヤッと笑った。
まるで──その言葉を言わせるためにここへ来た
と言わんばかりに。
——
ゴールドシップは再び音を立てて腰を下ろす。
店の奥から料理が運ばれてくる。
香ばしい湯気が部屋を満たし
空気が少し和らいだ
タイニィ
「ゴールドシップさん…。
ゼロさんとは昔からの知り合いなんですか?
トレーナーさんって、一体…」
ゴールドシップは、運ばれてきた料理を豪快に頬張りながら答えた。
ゴールドシップ
「そうよ。コイツは、日本で“仲間はずれ”にされてた。
それで、今みたいに仮面で顔隠して、
男だってバレないようにレースに乱入してたってわけよ。」
その言葉は、雑で乱暴で、説明としては穴だらけだ。
だが──間違っていない。
ゼロの胸に、過去の棘がズキリと刺さった。
仮面をつけていた理由。
海外へ逃げた理由。
走ることだけが自分の居場所だった理由。
全部、蒸し返された。
タイニィ
「それで…
ゼロさんは、みんなに嫌われて追放されたんですか?」
タイニィの膝を掴む手が震えている。
言葉を間違えないように、
恐る恐る話しているようだった。
タイニィは、ゼロの過去を知らない。
ゼロの痛みも知らない。
ゼロの孤独も知らない。
それでも、
“嫌われた”“追放された”という言葉を口にするのが怖いのだ。
その優しさが、ゼロには逆に痛かった。
ゴールドシップ
「まぁ、最後まで聞けよ。
こいつの速さに真っ先に目をつけたのが、
こいつのトレーナーだ。
こいつを鍛えて、
公式レースに殴り込みをかけようって魂胆だな。
話題性を集めるために、ご丁寧に挑発的なビラまで配って、学園の生徒を呼び出しては勝負させた。
悪役ゼロバンゲートの誕生ってわけよ。」
ゴールドシップは豪快に笑った。
まるで自分の武勇伝を語るように。
だが──ゼロの胸には、その笑い声が“棘”となって刺さった。
タイニィ
「やっぱり…ゼロさんはトレーナーに騙されて悪者扱いされて…」
ゼロバンゲート
「違う!」
声が店の奥に響いた。
タイニィが肩を震わせる。
ゼロバンゲート
「榊原さんはそんな人じゃない。
俺の才能を見出してくれて、俺が走れるように鍛えてくれた!
俺が他のウマ娘と同等に走れるように、取り計らってくれたんだ。
全部…俺のためだ。
俺のワガママを叶えるために…」
その言葉は、ゼロがずっと胸の奥に押し込めていた“本音”だった。
ゴールドシップは目を細めた。
ゴールドシップ
「だったらよ…。
お前、なんでエルコンのやつに素顔を晒された時、
自分の声で、自分の言葉で、そう言わなかったんだよ…。」
ゼロ
「そ、それは……」
胸を抉られるような痛みが走った。
その瞬間──
ゼロは気づいてしまった。
皇帝杯ダービーで負けたことじゃない。
素顔を晒されたことでもない。
俺はあの時、ただ守られるしかなかった“弱い自分”を許せなかったんだ。
仮面をつけたのも、
影の王になったのも、
金を撒き散らしたのも──全部、
あの瞬間の“弱さ”から逃げるためだった。
第1話からゼロの心に絡みついていた違和感や葛藤。
それらを一本の糸に繋いでくれたのは、他でもないゴールドシップの言葉でした。
彼女とゼロが言葉を交わした期間は、ほんのわずかです。
それでもゴールドシップは、まだ何者でもなかった頃のゼロを知る、数少ない人物のひとりです。
友達と呼ぶほど親しくはない。
ライバルと呼ぶほど、競い合ったわけでもない。
何より、ゴールドシップ自身はゼロよりも自分のほうが立場が上だと思っている。
そんな微妙な距離感に、私が名付けたのが「姉貴分」という関係でした。
近すぎず、遠すぎず。
けれど、ゼロがどれほど変わってしまっても、昔のゼロを知っている。
そんな彼女だからこそ、今のゼロが目を背けているものを指摘できたのかもしれません。