ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第18話 ゼロが動く

ゴールドシップは新しい皿を引き寄せ、

湯気の立つ料理を豪快に頬張りながら語りを続けた。

 

ゴールドシップ

「あの時は、みんな浮かれてたよ。

珍しいものが見れるんじゃないか、

なんかとてつもなく楽しいことが始まるんじゃないかってな。

それに、あたしも実際、すげー楽しかったしな。

見たか?

お前が男だって分かった時の生徒会長の顔!」

 

ゴールドシップは歯を見せて笑った。

豪快で、悪意がなくて、でも容赦がない。

その笑い声は、ゼロの胸の奥の古傷を軽々と踏み抜いていく。

 

ゼロバンゲート

「……」

 

言葉が喉に詰まる。

また黙ってやり過ごそうとしていた。

それが自分の悪い癖だと分かっているのに。

 

ゴールドシップ

「でもよぉ……。

お前が去ってから、みんな少しずつ反省しはじめたよ。お前を見世物にしてたんじゃないかって……。」

 

その言葉は、ゼロの胸の奥の古傷をえぐった。

庇われて、

逃げることしか出来なかった自分の弱さ。

“見世物”呼ばわりされても仕方なかった。

そう思ってしまう自分が、いちばん嫌だった。

 

タイニィ

「ゼロさんは……見世物なんかじゃありません!!」

 

椅子を弾くように立ち上がる。

声が震えているのに、まっすぐだった。

 

タイニィ

「ゼロさんは、この街にやって来てくれて、

凄いレースを沢山見せてくれました!

私は……私は……

ゼロさんは素晴らしい”ウマ娘”だって思ってます!」

 

ゼロバンゲート

「……!」

 

タイニィの言葉が胸を貫いた。

榊原トレーナーだけじゃない。

この子も──

ずっと俺をウマ娘として傍で支えてくれていた。

 

影の王でも、怪物でも、見世物でもなく。

“ウマ娘としてのゼロバンゲート”を見てくれていた。

 

その事実が、

ゼロの胸の奥で乾ききった場所に、

ほんの少しだけ水を落とした。

 

ゴールドシップはゼロの表情を読み取ったのか、

またニヤリと笑った。

 

その笑みは、ただの悪戯ではない。

“ゼロが動き出す瞬間を待っていた”

という確信の笑みだった。

 

ゴールドシップ

「素晴らしいウマ娘ねぇ……。

だったら、また名勝負を見せてくれるんだろ?」

 

ゼロバンゲート

「勝負……そうだな……。」

 

スカイラインを下した今、

自分に敵う相手はいない。重たい空気が場を包む。

 

ゴールドシップ

「わっかんねぇかな。

格好の相手がいるじゃねえか?」

 

ゼロの胸がわずかに跳ねた。

まさか──。

 

ラヴズオンリーユー。

国際GIを制覇した、時代を彩るウマ娘。俺とは真逆の存在。

光の住人。

愛を振りまき、世界に祝福されるウマ娘。

 

もし対決が実現するのなら──

誰もが熱狂する。

ゼロの胸の奥で、

乾いた場所に落ちた水滴が、

ゆっくりと広がり始めた。

 

ゼロはゆっくりと息を吐いた。

胸の奥に刺さったままの棘が、また疼く。

 

ゼロバンゲート

「実は少し前に……彼女と会ったんだ。

俺は二度と近づくなって、拒絶した。」

 

その声は乾いていて、どこか震えていた。

殻にこもり、外部との繋がりを拒絶しようとしたきっかけ。

それが──

ラヴズオンリーユーとの邂逅だった。

胸の奥で、痛みがじわりと広がる。

 

 ゴールドシップ

「ほぅ、それで?

逃げんの?」

 

その言葉は、ゼロの弱さを正確に突いた。

 

ゼロバンゲート

「今更、勝負しろだなんて言えるかな。

それに、俺がやってることは非公式の賭けレースだ。

彼女にとってリスクは大きいが……得るものがない。」

 

ゼロは自嘲気味に笑った。

その笑いは、痛みをごまかすためのものだった。

 

ゴールドシップ

「バーカ。

またウジウジ考えてんのかよ。」

 

銀髪が揺れ、ゴールドシップは身を乗り出す。

 

ゴールドシップ

「そんなもん──

“勝負だ”って言われて断るウマ娘なんていねぇよ!」

 

その言葉は、

ゼロの胸の奥に残っていた棘を、

一気に引き抜くような勢いだった。

 

ゴールドシップの言葉は乱暴で、雑で、

でも──真実だった。

 

ラヴズオンリーユーは光の住人。

愛を振りまき、世界に祝福されるウマ娘。

ゼロとは真逆の存在。

だが、あの瞳は──

確かに勝負を求めるものだ。

 

ゼロが拒絶したあの日。

ラヴズオンリーユーはとても悲しそうだった。

その笑顔が、ゼロの胸に棘として残り続けている。

 

ゼロバンゲート

(……俺は逃げたんだ。

あの時も、今も……ずっと。)

 

ゴールドシップはゼロの沈黙を見て、

またニヤリと笑った。

 

タイニィはゼロの横顔を見つめていた。

その瞳は揺れている。

 

タイニィ

「ゼロさん……

本当は、ラヴズさんと走りたいんじゃ……」

 

ゼロはその視線に気づかないふりをした。

だが、胸の奥で何かが動き始めていた。

 

ゴールドシップは皿を置き、

ゼロの顔を真正面から見据えた。

 

ゴールドシップ

「いいかゼロ。

お前が逃げたら──

ラヴズオンリーユーは一生“勝負の返事”を待ち続けるぞ。」

 

ゼロバンゲート

「……!」

 

その言葉は、ゼロの胸を深く刺した。

 

ゴールドシップ

「お前が逃げたら、

あの子は“愛を伝えるための勝負”を失うんだよ。」

 

ゼロの呼吸が止まった。

 

ラヴズオンリーユーが言った言葉が、

ゼロの胸の奥で静かに蘇った。

 

 ラヴズオンリーユー

「あなたの走りを見て、自分に足りないものが見えたような気がした。

どうしても、その答えが欲しかった。」

 

その声は、勝負師の挑発でも、

人気者の営業でもない。“本気”だった。

 

ゼロバンゲート

「互いに足りないものの答えか……」

 

今なら分かる気がする。

何が欲しかったのか。

 

ゼロバンゲート

(俺は──

自分が正真正銘のウマ娘だってことを認めてもらいたい。)

 

壊れるように走っていたのも

全部その渇きから逃げるためだった。

 

誰かに認めてほしかった。

“ゼロバンゲート”という名前じゃなく、

“ウマ娘としての自分”を。

 

ゼロはふと、ラヴズの配信を思い出した。

 

彼女は数字のために走っているわけじゃない。

人気のためでもない。

称賛を浴びるためでもない。

 

ゼロバンゲート

「彼女もまた……

自分は“ここにいる”って伝えたいのかもしれない。」

 

愛を届けるために走る。

誰かの心に触れるために走る。

そのために、彼女は光の中に立ち続けている。

 

ゼロとは真逆の場所にいるのに──

求めているものは、案外近いのかもしれない。

 

ゼロはゆっくりと息を吸い、

胸の奥にまだ残る痛みを押し込むように言葉を吐いた。

 

ゼロバンゲート

「ゴールドシップ……

俺はまだ“学園のヴィラン”なのかな?

俺が動けば、また祭りに熱狂が戻ってくる?」

 

その声は弱さではなく、

“覚悟の手前”にある静かな揺らぎだった。

 

ゴールドシップはニヤリと笑った。

その笑みは、ただの悪戯ではない。

ゼロの心が動き出す瞬間を、ずっと待っていた者の笑み。

 

ゴールドシップ

「お前が今から言おうとしてることは、

全部、アタシが考えてきたことだぜ!」

 

その言葉は、ゼロの胸の奥に火をつけた。

 

ゼロバンゲート

「なら、決まりだな!」

 

その瞬間、ゼロの瞳に宿った光は、

影の王のそれではなく──

ウマ娘としての“ゼロバンゲート”の光だった。

 

タイニィは二人の空気に置いていかれ、

慌てて声を上げた。

 

タイニィ

「え?え?

何が始まるんですか!?」

 

その声は震えていた。

不安と期待が入り混じった、

タイニィらしい真っ直ぐな声。

 

ゼロはまだ答えない。

ゴールドシップも答えない。

 

だが──

二人の表情がすべてを物語っていた。

 

“ゼロバンゲートが動く”

その瞬間が、ついに来たのだ。




走りたい、でも、自分が走ることで誰かを傷つけるのではないか
ずっとゼロの心に引っかかっていた迷い
それが消えた訳じゃないんですよね。

ただ、自分の走りを肯定してくれる人がいる
待ちわびている人がいる
そのことに気づいた時、ゼロの走りたい気持ちはより純化したのです。
いよいよ最終章へと突入します。
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