ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第2話 疼き出す

第2話 疼き出す

 

 気づいたら、屋台の並ぶ通りへ足を向けていた。

 

 レース場の喧騒とは違う。

 人の声と香りが混ざった、温かい空気が流れている。

 

 この街に来て、しばらく経つ。

 

 改めて思う。

 

 この賑やかな街並みが好きだ。

 

 暗い学園の隅で、誰にも見つからないようにモップを握っていた頃とは違う。

 

 今は、この街の影の実力者として歩いている。

 

 少しこそばゆいようで──でも、確かに誇らしい。

 

 だが──

 

 同時に、心の隙間へ冷たい風が吹き抜けたような感覚があった。

 

 ふと、思う。

 

 あの時、今のように堂々としていたら。

 

 今のように、力強く走れたら。

 

 ゼロバンゲート

「……俺は、まだ日本にいただろうか?」

 

 胸の奥が、静かに疼く。

 

 影として逃げ続けた過去。

 誰にも見つからないように生きていた日々。

 

 もし、あの時──

 

 今のように自分を認められていたら。

 

 未来は違っていたのだろうか。

 

 その「もしも」が、冷たい風となって胸を撫でていく。

 

 屋台の前で立ち止まる。

 

 店主の声で、意識が現実へ引き戻された。

 

 屋台のおばあちゃん

「おや、耳付きさんだね。

 うちの店に来てくれるなんて、嬉しいよ。

 お代はいいから、たんと持ってって!」

 

 驚いた。

 

 夜は「怪物」として恐れられることが多いのに。

 

 おばあさんは、まるで普通の若者に話しかけるように接してくる。

 

 その温かさが、胸にじんわりと染みた。

 

 両手いっぱいの袋。

 

 点心とエッグタルトが、ずっしりと重い。

 

 ゼロバンゲート

「こんなに……?」

 

 普段、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるタイニィへのお土産にするつもりだった。

 

 だが、これは明らかに食べきれない量だ。

 

そして──

脳裏に、昨日見たラヴズオンリーユーの笑顔がふっと浮かぶ。

屋台の明かりの下でタルトを頬張り、

「ラブミー? ラブユー!」と笑ったあの瞬間。

画面越しなのに、街の空気まで明るくなるような光。

 

ゼロバンゲート

「……フェアレディさんも、食べたがってたのか」

 

わざわざ動画を見せてきたのは、

ただの気まぐれではなかったのかもしれない。

 

ゼロバンゲート

「差し入れに行ってみるか……」

 

 フェアレディが滞在するホテル。

 

 ロビーで待っていてくれるというので、俺はまだ温かいエッグタルトを抱えて、駆け足になる。

 

 フェアレディ

「まぁ! ゼロ、わざわざ買ってきてくれたのね。嬉しいわ」

 

 ロビーの照明が彼女の髪を照らし、いつもより柔らかな雰囲気に見える。

 

 フェアレディ

「そういえば、ここのタルト、最近味が変わって人気になったのよね」

 

 ゼロバンゲート

「たくさんあるんで、もし良かったらフィガロとオーラにも……」

 

 フェアレディ

「あら、優しいのね。

 あの子たち、あなたに怪我をさせた負い目があるみたいなの。

 あなたからの差し入れだなんて知ったら、きっと喜ぶと思うわ」

 

 普段なら、ここで会話は終わる。

 

 次のレースの話をして。

 

 軽く世間話をして。

 

 「じゃあね」と別れる。

 

 だが、今日は違った。

 

 珍しく、フェアレディは饒舌だった。

 

 言葉が途切れない。

 

 話題を変えながら、ゼロをロビーに留めているようだった。

 

 ――

 

 普段から寝泊まりしている部屋に戻る。

 

 リビングでは、タイニィが熱心に動画を見ていた。

 

 ゼロバンゲート

「ただいま。

 ごめん、遅くなって。

 これ、お土産。

 フェアレディさんにもお裾分けに行ってたんだ。

 ……どうした?」

 

 タイニィ

「あ! おかえりなさい!

 エッグタルト、買ってきてくれたんですか?」

 

 慌てて動画を隠す。

 

 画面が暗転する瞬間、ちらりとラヴズオンリーユーの髪が揺れるのが見えた。

 

 ゼロバンゲート

「タイニィも、そういうの見るんだ?」

 

 タイニィ

「えへへ、まぁ、この街のことを配信してくれているみたいなんで……。

 でも、ゼロさんは興味ないんじゃないかと思って……」

 

 スマホを表にしたり、裏返したりしながら、タイニィはもじもじと指をなぞる。

 

 ゼロバンゲート

「フェアレディさんも同じの見てたよ。

 おやつ食べながら、一緒に見ない?」

 

 タイニィ

「はい! お茶、淹れますね!」

 

 ぱぁっと明るい顔になり、ケトルを持ってキッチンへ走っていくタイニィ。

 

 毎日、こうして言葉を交わす相手がいる。

 

 それだけで、十分だと思った。




タイニィの解説

 第2章でゼロと出会い、それ以来、ゼロの付き人を務めているウマ娘。

 体が小さく気も弱いため、レースには出ません。

 名前もそのまま「おチビちゃん」という意味で、いつしか「タイニィ」と呼ばれるようになりました。

 ゼロの栄養管理をはじめ、身の回りの雑用、さらにはお金の管理まで担当しています。

 本人は控えめでおとなしい性格だが、ゼロにとっては、何気ない日常を共有できる大切な存在です。

ゼロの過去

 物語の冒頭、ゼロはトレセン学園の清掃員として働いていました。

 レースとは無縁の場所にいた彼が、ある出来心から紛れ込んだ模擬レース。

 ただ、走りたかった。

 その純粋な衝動が、ゼロの運命を大きく動かすことになります。

 しかし同時に、学園や多くのウマ娘を巻き込む騒動を引き起こしてしまいました。

 自分が走りたいという気持ちを抑えられなかったこと。

 そして、その結果として多くのものを巻き込んでしまったこと。

 それはゼロの心に、今も消えない影を落としています。
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