ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
影の街が騒ぎ始めても──
ラヴズオンリーユーは焦らなかった。
むしろ、
いつも通りのテンションで配信を始めた。
それが彼女なりの 覚悟の表れだった。
ラヴズオンリーユー
「ラヴミー? ラヴユー!
ご機嫌よう。ラヴズオンリーユーです!」
明るい声。
いつもの挨拶。
だが、その奥にある緊張は隠しきれない。
画面越しでも、彼女の胸の鼓動が伝わるようだった。
ラヴズオンリーユー
「コミュメンのみんな。
まずはごめんなさい。
今日はコメントを真っ先に返さないといけない人がいるの。」
コメント欄がざわつく。
「誰?」
「まさか……」
「ゼロバンゲート?」
ラヴズオンリーユーは、
画面の向こうの“影の王”に向けて言葉を放った。
ラヴズオンリーユー
「ゼロバンゲートくん……見てるよね?
私、今、腹立ててるよ。人の事追い返しておいて、
今更、ご指名なんて、虫が良過ぎない?」
コメント欄が爆発する。
「宣戦布告見た!」
「恥知らず!」
「やっぱり最低の悪役じゃん!」
ラヴズオンリーユーは、
その荒れたコメント欄を見て──
優しく微笑んだ。
ラヴズオンリーユー
「でも、ちょっとだけ嬉しかった気持ちもある。
だから、言うね。」
彼女は目を閉じ、
心臓を落ち着かせるように深く息を吸った。
ラヴズオンリーユー
「私はあなたの走りは凄いと思っている。
魂を削りながら、研ぎ澄まされた牙、
そして、生き様を見せつけるような走り……
この目で見てわかった。」
コメント欄が静まり返る。
誰もが息を呑んだ。
ラヴズオンリーユー
「私はあなたのような走り方はできない……。
これからも真似するつもりもない。」
彼女は胸に手を当てた。
ラヴズオンリーユー
「私は……コミュメンのみんな、
応援してくれるみんなに愛を届けるために走る。
そうやって強くなってきた。
それは誰にも否定させない……!」
そして──
画面の向こうのゼロへ向けて、
はっきりと言い切った。
ラヴズオンリーユー
「決着をつけましょう。
“勝負を挑まれたら断れないのが、ウマ娘”だから!」
彼女はコミュメンに向けてウィンクし、
明るく手を振った。
配信を切り、
決戦のターフへと歩き出す。
そこにはもう、
ゼロの剣幕に怯えていた彼女の姿はなかった。
ーー
ラヴズオンリーユーが決意を固めた。
だが、その裏で。
まったく別の“影”が動いていた。
影の街の入口。
ネオンの光が届かない、薄暗い路地。
そこへ──
黒い車が複数台、無音で止まった。
ドアが開く。
無線機を付けた男たちが、
次々と車から降りてくる。
???
「ラヴズオンリーユー、移動開始しました。」
???
「追うぞ。
違法賭博の現場を抑えてやる。」
路地裏の賭場で殴り合っていた客たちが、
黒い車列を見て一瞬だけ動きを止める。
客A
「……なんだ、あれ。」
客B
「やべぇの来たぞ……!」
影の街の住人たちは、
本能的に理解していた。
“祭り”とは別の、もっと冷たい力が動いている。
黒服の男たちは、
影の街の入口を迷いなく進んでいく。
まるで、
この街の構造をすべて把握しているかのように。
???
「組織的な動きも確認済み。
影の街の上層部は、すでに興行を開始している。」
???
「なら、なおさらだ。
今夜で全部終わらせる。」
その声は、
影の街の熱狂とは正反対の“冷徹な使命感”に満ちていた。
フェアレディは窓の外の黒い車列を見て、
ゆっくりと笑った。
フェアレディ
「来たわね……URA。」
部下
「どうしますか!?
レースが止められるかもしれません!」
フェアレディは脚を組み替え、
興行師ではなく”支配者”の顔になる。
フェアレディ
「止められないわ。
ゼロが本気で走るんだから。」
そして、部下たちに命じた。
フェアレディ
「情報を流し続けなさい。
URAの動きをかき乱すの。
デマでもなんでもいいわ。
“記憶”には残しても、
“記録”には残さないようにね。
話題も収益も……私達で独占よ!」
部下たちは一斉に動き出す。
影の街の“戦い”が始まった。
ーー
黒服の男たちが、影の街の路地を一斉に駆け出す。
その動きは軍隊のように統率され、
祭りの喧騒の中でも異様な存在感を放っていた。
だが──
影の街は、彼らを歓迎しない。
黒服が細い路地へ入った瞬間、
そこにいたのは屋台のおばあちゃんだった。
屋台のおばあちゃん
「おっと……すまないね。
ままならない身体なもんで……」
よろけた拍子に、
通路いっぱいに木箱が散乱する。
ガラガラガラッ!
URA職員
「く……!
別の道を使うぞ!」
黒服たちは舌打ちし、方向転換しようとする。
屋台のおばあちゃん
「悪いねぇ、ちょっと拾うの手伝って……」
その声は柔らかいのに、
“絶対に通す気はない”という強い意志が滲んでいた。
黒服たちは一瞬だけ動きを止める。
この街の住人は、ただの一般人ではない。
URA職員たちが別の路地へ向かうと──
そこでは子どもたちが走り回っていた。
男の子
「ゼロ様の応援に行くんだー!」
女の子
「ラヴズちゃんも応援するー!」
黒服の男
「どけ!危ない!」
だが子どもたちは、
まるで黒服の進路を塞ぐように
路地いっぱいに広がって遊び続ける。
別の路地では、屋台の兄ちゃんが鉄板を持ち上げていた。
屋台の兄ちゃん
「すまん!通路塞いじまっててな!
こっち片付けるまで待ってくれ!」
黒服の男
「……っ!」
影の街は、大人も子どもも老人も、
全員が“興行を守るための妨害網”になっていた。
URAの黒服たちは、影の街の路地を走り回る。
だが、どの道を選んでも──
必ず“誰か”が立ち塞がる。
誰も直接妨害しない。
ただ、絶妙なタイミングで“道を塞ぐ”。
それだけで、URA職員の動きは完全に封じられた。
黒服の男
「A班、目標ロスト……応援要請します。」
短い無線が、黒服たちの間に緊張を走らせる。
黒服の男
「B班も同じく……
何だこの街は……
住民が結託してるとでもいうのか?」
ラヴズオンリーユーの背中はすぐそこに見えているのに、“追えない”。
影の街は、URAの想定を完全に超えていた。
黒服の男
「……この街、地図と違う。
路地が増えている……?」
URA本部
「そんなはずはない。
影の街は登録済みだ。」
黒服の男
「いえ……住民が勝手に屋台を出して、
通路が変わっているんです……!」
影の街は、
**“興行のために形を変える街”**だった。
黒服の男
「住民が……こちらの進路を読んでいるとしか思えません。
曲がるたびに誰かが道を塞ぐ……!」
URA本部
「妨害しているのか?」
黒服の男
「いえ……“偶然を装って”塞いでいます。
証拠が取れません……!」
屋台のおばあちゃんが、
散らばった木箱を拾いながら微笑む。
屋台のおばあちゃん
「黒服さん達……
ウマ娘の走りを邪魔するような連中は、
誰も歓迎しないんだよ。」
その言葉は、
影の街の総意だった。
屋台のおばあちゃん
「さて……、フェアレディちゃん。
あとは上手くやりな…。
この街に正解は無いさね。
熱狂を覚ますんじゃないよ……。」
たじろぐ黒服の男たちを尻目に、おばあちゃんは路地裏へと歩いて消えていくのだった。
走りたい、でも、自分が走ることで誰かを傷つけるのではないか
ずっとゼロの心に引っかかっていた迷い
それが消えた訳じゃないんですよね。
ただ、自分の走りを肯定してくれる人がいる
待ちわびている人がいる
そのことに気づいた時、ゼロの走りたい気持ちはより純化したわけです。
いよいよ最終章ですね