ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第23話 Hong Kong night後編

ゼロは、巨大モニターに映った秋川理事長の姿を一瞥した。

その視線は冷静で、揺らぎがなかった。

腕を組み直し、

ターフの中央で堂々と立つ。

理事長はラヴズオンリーユー側に立っている。

それでいい。

それが自然だ。

 

馴れ合う必要なんてない。

媚びる必要もない。

理解される必要もない。

 

礼を尽くす方法があるとすれば──

全力で迎え撃つ。

それだけだ。

ゼロは無言のまま、

スタートゲートの方を顎でしゃくった。

挑戦者に対する“覚悟の合図”。

言葉はいらない。

ウマ娘は走りで語る。

 

モニターのコメント欄が一瞬で埋め尽くされる。

 

 コメント

 「本当に男なんだ?」

 「てか、感じ悪くない?」

 「自分に酔ってるって感じ」

 「ラヴちゃんにやられてしまえ!」

 

影の街の熱狂はゼロに向けられているが、

画面の向こうの“光の世界”からは罵声も飛んでくる。

だが──

今のゼロには、それすら演出だった。

 

ラヴズオンリーユーはゼロの顎のしゃくりに、

迷いなく頷いた。

その目はゼロバンゲートだけを見つめている。

自分自身の限界を超えるため

みんなの“記憶”に刻みつけるため

そして──未知の存在の隣に立つため

彼女は、

光の世界のウマ娘としての誇りを胸に、

スタートゲートへ向かった。

 

ゼロは、

まるで最初から決まっていたかのように、

迷いなくゲートへ入った。

 

ラヴズオンリーユー

「……大外……」

 

思わず呟く。

そう──最外周。

皇帝杯ダービーで、

ゼロが“誰にも邪魔されずに走るため”に選んだ場所。

それを、この影の街でも選んだ。

 

モニターのコメント欄が沸騰した。

 

 コメント

 「は?」

 「コイツ…どこまで舐めて…!」

 「舐めプとか最低だろ」

 

怒号と罵声が画面を埋め尽くす。

だが──ゼロは腕を組んだまま、

そのすべてを“演出”として受け止めていた。

 

――悪役らしくていい

 

コメント欄の怒りを押し返すように、

影の街の観客が一斉に湧いた。

 

 観客

「あそこがゼロ様の特等席だ!」

「力の差を見せてやれ!」

「スタートで3馬身!もう勝負は決まってる!」

 

影の街はゼロの“悪役としての美学”を知っている。

大外は、ゼロが本気で走る時の合図だ。

 

 秋川やよい

「馬鹿!ゼロバンゲート……お前……

この期に及んで……!」

 

しかし、すぐに秋川やよいは、

扇子をパタンと畳み、ターフを見つめた。

 

 秋川やよい

「いや……。律儀なやつだ。

 その性格は昔と全く変わってないな!!」

 

その声は、叱責ではなく、

まるで教え子が巣立つのを見守るような優しい眼差しだった。

秋川やよいは、ゼロが“影の王”ではなく

ウマ娘として走ろうとしていることを理解していた。

 

ラヴズオンリーユーは、ゼロの背中を見つめながら息を吸った。

 

 ラヴズオンリーユー

 「……負けない……!」

 

震えていた足は、もう止まらない。

光と影。

覚悟と覚悟。

矜持と矜持。

二人はついに、同じターフに立った。

 

 ——

 

ゴールドシップ

「おうおうおう!

 誰が実況やってんのよ、ゴルシ様が代わりにやってやるっての!」

 

 実況

「あんた、どこから入ってきた!?」

 

ゴールドシップが勝手にヘッドセットを装着する。

カメラが彼女を捉えると、会場は歓声と笑いに包まれた。

その顔は得意げで、いたずらっぽく輝いている。

 

ゴールドシップ

「さーてっ…マイクチェック!」

 

彼女が指を鳴らす音とマイクのハウリング音がレース場に反響する

 

ゲートが閉まる直前、

ゴールドシップはマイクを握りしめて低く、

だがはっきりと叫んだ。

 

 ゴールドシップ

「さあさあ、みんな!最高の走りを見せてくれ!

ゴルシ様はここで実況するから、後は二人に任せな!」

 

その声が会場に響き渡ると、観客の歓声は一段と大きくなり、ターフの空気は一気に張り詰めた。

 

彼女は満足げに頷き、カメラに向かってウインクを送る。

 

秋川やよいは扇子を握りしめ、額に青筋を浮かべていた。

 

ーー

 

ゲートの中

 

周囲の喧騒が遠ざかっていく。

ゼロの意識は、深いところへ落ちていく。

スタートゲートの金属の冷たさ。

芝の匂い。

自分の心臓の鼓動。

それらだけが、世界のすべてになる。

ゼロは目を閉じた。

影の街の熱狂も、コメント欄の罵声も、

ラヴズオンリーユーの気配すら遠くなる。

ただ──

走るための自分だけが残る。

 

ゼロの脚が芝を抉る。

その瞬間、

彼の影がターフから消えた。

観客席では悲鳴のような歓声が上がる。

 

観客

「決まった!必勝パターン!!」

「影がない!!」

「ゼロ様ぁぁぁ!!」

 

 ラヴズオンリーユー

「………え?」

 

号砲が鳴った瞬間、

ラヴズオンリーユーは確かに地面を蹴った。

いつも通りの、いや、いつも以上の反応速度で。

なのに──ゼロはもう 3馬身前 を走り抜けていた。

 

ラヴズオンリーユー

 「嘘……!!」

 

目が追いつかない。

耳が追いつかない。

心が追いつかない。

 

足がすくむ。

いや──動かない。

 

まるで世界そのものが、

自分を置いて先へ進んでしまったような感覚。

 

ゼロのスタートは、ウマ娘としての常識を超えていた。

芝が抉れ、影が消えた。

ゼロは“走った”のではなく、

世界から飛び出したようだった。

 

ラヴズの胸に、冷たいものが走る。

 

 ラヴズオンリーユー

 「……これが……ゼロバンゲート……」

 

自分が挑む相手が誰なのか。

改めて思い知らされる。

皇帝杯ダービーで見た“牙”。

影の街で感じた“生き様”。

仮面を外した少年の“覚悟”。

それらが全部、スタートの一瞬に凝縮されていた。

 

ラヴズオンリーユー

「……っ……!」

 

胸の奥で、何かが弾けた。

恐怖でも劣等感でもない。

もっと強い、もっと熱い──追いたい。

追わなきゃ。

追い越したい。

 

ラヴズは再び地面を蹴った。

 

影の街の最も熱い夜が幕を開けた瞬間だった




ラヴズオンリーユーにとって、
ゼロバンゲートは異性であり異質な存在です

他のウマ娘に挑むのとは話が違います

だからこそ、安易な恋愛展開には絶対にしたくありませんでした

彼は優しく助言してくれるトレーナーでもなく、暖かい言葉をかけてくれるファンでもない

剥き出しの感情をぶつけてくる男性

言わば、未知の存在だからです。

お互いを理解するには歩み寄るのではなく、
本気で競い合うしかない。

それが2人の出した答えだと思っています。
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