ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
ゴールドシップ
「初っ端から決めてきやがったな!
ゼロバンゲート!
ラヴズオンリーユーはこっから止められんの!?」
歓声を吹き飛ばすほどの声量でゴールドシップが叫ぶ。
その声は、影の街の熱狂をさらに煽り立てた。
そして──
ゴールドシップ
「やっぱり見ちゃいられねぇー!
アタシも走る!!」
実況席の椅子を蹴り飛ばし、
観客席から飛び出そうと靴を放り投げた。
実況席の椅子を蹴り飛ばし、
観客席から飛び出そうと靴を放り投げた。
周囲の観客が悲鳴を上げる。
タイニィ
「や、やめてくださいっ!!!」
タイニィが必死にゴールドシップの腰にしがみつく。
彼女は片足を上げたまま、
まるで飛び出す寸前のロケットのようだった。
ゴールドシップ
「史上最強のゴルシ様が出なきゃ誰が主役を務めるんだよ!?
この伝説のレースは、アタシが締めるんだよ!!」
タイニィ
「み、見てください!ゼロさんの様子が……!」
ゴールドシップは動きを止めた。
ゴールドシップ
「へぇ……。」
ゼロはスタート直後──
笑っていた。
観客の熱狂を背に受け、
大外から飛び出し、
影を置き去りにして走るゼロの横顔。
その口元が、確かに笑っていた。
ゴールドシップ
「笑ってやがる……。」
その声は、いつもの豪快さではなく、
どこか懐かしさを含んだ低い声だった。
彼女は手すりにもたれ掛かり、頬杖をつく。
ゴールドシップ
「いいじゃねぇか。その顔で走れよ……
ゼロバンゲート。」
暴走しようとしていた彼女が、
ゼロの走りを見て静かに落ち着いた。
タイニィ
「ゼロさんのあんな嬉しそうな顔……
見た事ないかもしれない……」
ゼロが笑っている。
影の街の王としてではなく──
ただ走ることが嬉しくて仕方ない少年の顔で。
タイニィは胸に拳を当てた。
ずっと近くにいたつもりだった。
ゼロの影のある笑顔を見て、
「自分が支えている」と安心していた。
ゼロに必要とされていれば、
自分はこの街で守られていると信じていた。
でも──
今のゼロは、
誰の手も届かないほど遠くへ走っていくように見えた。
タイニィ
「ゼロさん……本当に帰ってきますよね……?」
解き放たれたゼロの笑顔。
それは、
この街から──
自分から──
遠く離れていく予感となって、
タイニィの心を静かに埋めていく。
ゴールドシップがタイニィの肩を軽く叩いた。
ゴールドシップ
「なに、険しい顔してんだよ?」
タイニィはびくっと肩を震わせる。
ゴールドシップ
「お前もウマ娘なら追いかければいいんじゃねーかよ!
あのクソボケ、追いかけられるのが好きって言ってただろうが。」
タイニィ
「え!」
タイニィの心臓が跳ねた。
ゼロは──追いかけられるのが好き。
それは、ゼロがタイニィにだけ見せていた“弱さ”の裏返し。
ゼロはずっと、
誰かに追いかけてほしかった。
誰かに見ていてほしかった。
誰かに帰る場所を作ってほしかった。
そう気づいた瞬間、
タイニィの胸に浮かんだ顔は、ひとつしかなかった。
──私が、追いかけるんだ。
タイニィは胸に当てた拳をぎゅっと握る。
ゴールドシップ
「やべぇ…、今の話全部マイクに入ってたわ…」
タイニィ
「えぇ!?」
その瞬間──
巨大モニターが タイニィをアップで映し出した。
観客席がざわつく。
観客
「おや、可愛いじゃないの」
「ゼロ様のお気に入りの子?」
「隅に置けないわねぇ……」
タイニィは両手で顔を覆った。
目には涙が溜まり、肩が震えている。恥ずかしさ、
驚き、何よりも──
胸の奥にある“名前のつかない気持ち”が溢れそうだった。
ゴールドシップは、
そんなタイニィの頭にそっと手を置いた。
ゴールドシップ
「ま、いいんじゃねえの?
これで、アイツもお前を無視できなくなったわけだし…」
その声は、
いつもの豪快さとは違う、
どこか優しくて、温かかった。
タイニィは涙をこらえながら顔を上げる。
タイニィ
「……無視、できない……?」
ゴールドシップはニヤッと笑った。
ゴールドシップ
「そうよ。
ゼロのやつ、追いかけられるのが好きなんだろ?
だったら──
お前が追いかけてるって、
街中にバレちまったわけだ。」
タイニィの胸がドクンと跳ねた。
タイニィ
「……無視できない……
……なら……」
胸に当てた拳をぎゅっと握る。
タイニィ
「……追いかける……!」
涙で滲んだ瞳に、
小さな炎が灯った。
ゼロが遠くへ走っていくなら、
自分も走ればいい。
影の街のウマ娘として。
ゼロの帰る場所として。
ゼロが振り返った時、
そこに自分がいるように。
タイニィは、
静かに、しかし確かに──
走り出す覚悟を決めた。
ゼロと出会う前、タイニィもまた孤独でした。
フェアレディのもとに身を寄せてはいたものの、特に自分にできることもなく、明日の見えない日々を過ごしていました。
そんな彼女の運命が動き出したのは、偶然にもゼロの付き人になったことがきっかけでした。
タイニィにとってゼロは、恋愛対象というよりも、自分自身で作り上げてしまった檻から外の世界へと導いてくれる存在だったのです。
ゼロと過ごす日々の中で、彼女は自分の居場所を見つけていきました。
だからこそ、ゼロが遠くへ走っていってしまうことが怖かったのかもしれません。
けれど、ゴールドシップの言葉をきっかけに、タイニィは気づきます。
待っているだけではなく、自分から追いかけたっていいのだと。
ゼロに導かれた彼女が、今度は自分の意志で走り出す。
そんなタイニィの小さな一歩を、この場面に込めました。