ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第25話 Hong Kong night 決着

ゼロ側の観客席が盛り上がるほど

ラヴズオンリーユーの孤独は浮き彫りになっていた

 

ラヴズオンリーユー

「最初のコーナーまでが……あまりにも遠い……」

 

ゼロの背中は、まるで“別の世界”へ

走り去っていくように遠ざかっていく。

追いかけようとするほど、

プレッシャーと疲労がのしかかる。

 

脚が重い。

胸が苦しい。

空気が薄い。

明らかなオーバーペース。

 

覚悟を決めれば並べる──

そんな奢りが、完全に走りを乱していた。

 

ゼロの走りは衝動的に見える。

ただ速く走っているだけに見える。

だが違う。

ゼロの走りは──

勝負の理にかなっている。

 

大外からのスタート。

最初の加速で相手の心を折る。

影を置き去りにすることで、追う側の視界を奪う。

ゼロは“勝負師”として、

ラヴズの心を折るための走りをしていた。

 

ラヴズオンリーユー

「負ける……私が……?

みんなの応援の前で……?」

 

恐怖と不安が心を包んでいく。

視界が暗くなる。

空気を吸うことさえままならない。

身体を巡る血液でさえ、重石のように感じた。

胸の奥で、何かが沈んでいく。

 

ラヴズオンリーユーは光の世界のウマ娘だ。

愛を届けるために走る。

応援を力に変える。

誰かのために走ることで強くなる。

 

だが今は──その光が影に呑まれそうになっていた。ゼロの背中は、はるか向こうに揺れていた

 

観客

「なんだもう勝負ついてんじゃねーか」

「ゼロ様の相手には不足だったな」

「なんだ“期待はずれ”か…」

 

影の街の熱狂が、

まるで引き潮のように静まり返っていく。

さっきまで沸騰していた空気が、

一瞬で冷えた。

その冷たさは──

彼女の背中に氷の刃となって突き刺さる。

 

ラヴズオンリーユー

「待って……。置いて行かないで……。

私……なんて情けない……。」

 

ゼロの背中は遠い。

どんどん遠い。

追いかけるほど、距離が開く。

 

観客の反応は残酷だった。

それは彼女に“トドメ”を刺す。

膝が崩れ落ちそうになる。

モニターの応援コメントも目に入らない。

いつもなら力になる言葉が、今は届かない。

 

観客席からのブーイングが、

足にまとわりついてくる。

まるで重りのように、彼女の脚を引きずり下ろす。

 

ラヴズオンリーユー

「届かない……」

 

頬を一筋の涙が伝う。

 

それは悔しさの涙ではない。

自分が選んだ大勝負なのに、

相手と同じ土俵にすら立てない──

その事実が胸を刺した。

そして彼女は理解する。

これは、かつてゼロバンゲートが

皇帝杯ダービーで味わった屈辱と同じものだと。

 

ラヴズオンリーユー

「……私……浅はかだった……」

 

ゼロの物語に並ぼうとした自分の浅はかさ。

影の王の走りを“物語として消費”しようとした浅ましさ。

全てが今の自分だ。

時間を戻せるなら──

そんな弱気な考えが頭をよぎった瞬間。

 

観客席の端。

そこに──懸命に旗を振る子供たちがいた。

手作りの旗。

ラヴズの勝負服を真似た衣装。

その少女の肩を支える両親らしき二人。

少女は必死に叫んでいた。

 

少女

「ラヴちゃん、がんばれぇぇぇ!!」

 

その声は、影の街の冷たい空気を切り裂いて届いた。

 

 ラヴズオンリーユー

「……ここにも愛は残ってる……」

 

 胸の奥で、何かが再び灯る。

 

ラヴズオンリーユー

「私……追いつかなくてもいい……

愛を返すために……もう一度走る!」

 

視界が開ける。

小さくなっているが、

ゼロの背中はまだ見える。

なら──

走り抜けるだけ。

 

ラヴズは再び地面を蹴った。

光の世界のウマ娘として。

 

——

 

ゴールドシップはヘッドセットの音量を最大まで上げ、実況席から怒鳴りつけた。

 

 ゴールドシップ

「おいおいラヴズオンリーユー!

今ごろ目ぇ覚ましたのかよ!!」

 

 その声はターフ全体に響き渡る。

 

 ゴールドシップ

「オーディエンス!

投票券捨てるなよ!!

もう一波乱、いや、二波乱は来るぞぉ!!」

 

その瞬間──

観客席の熱が、潮のように戻ってきた。

 

 観客

「おい、ラヴズ来てるぞ!」

「まだ終わってねぇ!」

「ゼロ様だけじゃねぇ、ラヴズも見せろ!」

 

彼女の一声で、影の街の空気が再び“祭り”へと変わる。

 

ラヴズオンリーユーの走りは、明らかに変わった。

さっきまで重石のようだった脚が、軽くなる。

胸を締め付けていた恐怖が、風に溶けていく。

 

ラヴズオンリーユー

「……走る……!」

 

地面を蹴るたびに、ゼロとの差が少しずつ縮まっていく。

 

 観客

「おい、差が縮まってるぞ!」

「ラヴズ、まだ死んでねぇ!」

「これだよ!俄然盛り上がってきた!」

 

影の街の熱狂が、再びラヴズオンリーユーの背中を押した。

 

ーー

 

徐々に──ラヴズコールが大きくなっていく。

 

 観客

「ラヴズ!ラヴズ!」

「まだいけるぞ!」

「追えぇぇぇ!!」

 その声は、影の街の空気を再び沸騰させる。

 

ゴールドシップはヘッドセットの音量をさらに上げ、

実況席から身を乗り出して怒鳴りつけた。

 

 ゴールドシップ

「向正面の直線に入ったな!

ゼロバンゲート、もっと根性見せてみろよ!

追いつかれんぞ!!」

 

その声が、ゼロにもラヴズオンリーユーにも届く。

観客席の熱が上がり、ターフの空気が変わった。

ラヴズオンリーユーの気配が、

どんどん近く、大きくなってくる。

 

 ゼロバンゲート

「来い……!もっと来い……!!

もっとだ!!」

 

ゼロは笑っていた。

背後から迫る気配を、まるで歓迎するように。

 

まだしっぽは痺れてこない。

まだ“限界”ではない。

 

ゼロバンゲート

「相手が背中を捉えた時に、

もう一段ギアを上げて突き放してやる……」

 

恐怖も不安も焦りも──

全部後ろに置いていく。

ゼロは、榊原トレーナーから受け継ぎ、

自分が完成させた走り方で勝つつもりだった。

 

 ゼロバンゲート

 「俺はここで勝つ。

 榊原トレーナー……。

 今度こそ、あの人の指導が間違っていなかったことを証明する!」

 

その走りは、過去の自分すら振り払っていく。

 

向正面の直線、熱が最高潮に達する

ラヴズオンリーユーの気配がどんどん大きくなるにつれて、観客の声は一つの波となってターフを押し寄せた。

ゴールドシップの煽りが追い風となり、

スタンドの歓声は耳鳴りのように高く、厚く、身体を包む。

 

ゴールドシップ

「さぁさぁ!まだ投票できるぞ!

 ゼロが勝つか、ラヴズが勝つか

 黙って見てる手はねぇよな!!」

 

歓声の中、ラヴズは叫んだ。

「やああああ!!」

 

貯めてきた足を解放し、ギアをさらに一段上げる。

観客の声が彼女の背中を押し、脚は軽やかに、しかし確実に力強く回り始めた。

 

ゼロの背中が、確かに近づいてくる。

彼女の伸ばす手が、届きそうで届かない距離を掴もうとするたびに、観客の声は鋭く尖る。

 

観客

「ラヴズ!ラヴズ!詰めろ!」

「あと少しだ、行け!」

 

ラヴズの胸の中で、これまでのすべてが一つに結晶する。

トレーナーや仲間たちと積み上げてきた日々、手作りの旗を振る子供の笑顔、応援の声――それらが今、脚に、心に、走りに変わる。

 

ラヴズオンリーユー

「これが私の求めていたレース……!

  私は、みんなの記憶に残っている!」

 

最終コーナーを抜けた瞬間、

ゼロの世界は“静寂”に変わった。

風が凪ぎ、歓声が凪ぎ、鼓動さえ凪ぐ。

芝の上に落ちた一雫の汗だけが、時間を刻んでいた。

 

ゼロバンゲート

「ここだ。

この距離から逃げるんじゃない!

完全に切り離す!!」

 

ラヴズオンリーユーの気配はすぐ後ろ。

脚色は衰えない。

むしろ迫ってくる。

それでもゼロは、

“自分だけの世界”に入った。

 

五感より先に体が走る。

 

見えている景色が、

さっきの瞬間を巻き戻したように感じる。

 

ゼロバンゲート

「……?」

 

その世界の奥から──

ハミングが聞こえた。

 

ーー

 

ブルーバード

「へぇ……意外と早く来たのね。」

 

ゼロは走りながら、

その声の方向を探す。

 

ゼロバンゲート

「ブルーバード……?」

 

ブルーバード

「気安く呼ばないでくれる?

まぁ……覚えてくれてるだけ、

他の男よりはマシ……かしら。」

 

ゼロは息を飲む。

この景色──

孤独の中で見ていたはずの景色に、

ブルーバードが立っている。

 

ゼロバンゲート

「そうか……アンタもこの景色を見てたんだ……。」

 

ブルーバードは人差し指をチチチと振った。

 

ブルーバード

「やっと“孤独”と“自由”の違いが分かり始めたってところね。

でも、まだ早いわ。」

 

優しく手を引くような所作で近づいてくる

 

ブルーバード

「戻りなさい。

あなたはまだ振り返る場所があるでしょ!」

 

バチンッ!!背中に激痛。

 

誰かに思いっきり叩かれたような痛み。

 

ゼロバンゲート

「わっ!!?」

 

世界が一気に戻る。

風が戻り、歓声が戻り、鼓動が戻る。

そして──気がつけば、

ゼロは ゴール板を踏み越えていた。  




次回、ついに最終話!

勝負の決着は?
そして、ゼロが見たもの、思ったこととは──?

最後まで、どうぞお見逃しなく!
乞うご期待!
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