ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
ゼロ側の観客席が盛り上がるほど
ラヴズオンリーユーの孤独は浮き彫りになっていた
ラヴズオンリーユー
「最初のコーナーまでが……あまりにも遠い……」
ゼロの背中は、まるで“別の世界”へ
走り去っていくように遠ざかっていく。
追いかけようとするほど、
プレッシャーと疲労がのしかかる。
脚が重い。
胸が苦しい。
空気が薄い。
明らかなオーバーペース。
覚悟を決めれば並べる──
そんな奢りが、完全に走りを乱していた。
ゼロの走りは衝動的に見える。
ただ速く走っているだけに見える。
だが違う。
ゼロの走りは──
勝負の理にかなっている。
大外からのスタート。
最初の加速で相手の心を折る。
影を置き去りにすることで、追う側の視界を奪う。
ゼロは“勝負師”として、
ラヴズの心を折るための走りをしていた。
ラヴズオンリーユー
「負ける……私が……?
みんなの応援の前で……?」
恐怖と不安が心を包んでいく。
視界が暗くなる。
空気を吸うことさえままならない。
身体を巡る血液でさえ、重石のように感じた。
胸の奥で、何かが沈んでいく。
ラヴズオンリーユーは光の世界のウマ娘だ。
愛を届けるために走る。
応援を力に変える。
誰かのために走ることで強くなる。
だが今は──その光が影に呑まれそうになっていた。ゼロの背中は、はるか向こうに揺れていた
観客
「なんだもう勝負ついてんじゃねーか」
「ゼロ様の相手には不足だったな」
「なんだ“期待はずれ”か…」
影の街の熱狂が、
まるで引き潮のように静まり返っていく。
さっきまで沸騰していた空気が、
一瞬で冷えた。
その冷たさは──
彼女の背中に氷の刃となって突き刺さる。
ラヴズオンリーユー
「待って……。置いて行かないで……。
私……なんて情けない……。」
ゼロの背中は遠い。
どんどん遠い。
追いかけるほど、距離が開く。
観客の反応は残酷だった。
それは彼女に“トドメ”を刺す。
膝が崩れ落ちそうになる。
モニターの応援コメントも目に入らない。
いつもなら力になる言葉が、今は届かない。
観客席からのブーイングが、
足にまとわりついてくる。
まるで重りのように、彼女の脚を引きずり下ろす。
ラヴズオンリーユー
「届かない……」
頬を一筋の涙が伝う。
それは悔しさの涙ではない。
自分が選んだ大勝負なのに、
相手と同じ土俵にすら立てない──
その事実が胸を刺した。
そして彼女は理解する。
これは、かつてゼロバンゲートが
皇帝杯ダービーで味わった屈辱と同じものだと。
ラヴズオンリーユー
「……私……浅はかだった……」
ゼロの物語に並ぼうとした自分の浅はかさ。
影の王の走りを“物語として消費”しようとした浅ましさ。
全てが今の自分だ。
時間を戻せるなら──
そんな弱気な考えが頭をよぎった瞬間。
観客席の端。
そこに──懸命に旗を振る子供たちがいた。
手作りの旗。
ラヴズの勝負服を真似た衣装。
その少女の肩を支える両親らしき二人。
少女は必死に叫んでいた。
少女
「ラヴちゃん、がんばれぇぇぇ!!」
その声は、影の街の冷たい空気を切り裂いて届いた。
ラヴズオンリーユー
「……ここにも愛は残ってる……」
胸の奥で、何かが再び灯る。
ラヴズオンリーユー
「私……追いつかなくてもいい……
愛を返すために……もう一度走る!」
視界が開ける。
小さくなっているが、
ゼロの背中はまだ見える。
なら──
走り抜けるだけ。
ラヴズは再び地面を蹴った。
光の世界のウマ娘として。
——
ゴールドシップはヘッドセットの音量を最大まで上げ、実況席から怒鳴りつけた。
ゴールドシップ
「おいおいラヴズオンリーユー!
今ごろ目ぇ覚ましたのかよ!!」
その声はターフ全体に響き渡る。
ゴールドシップ
「オーディエンス!
投票券捨てるなよ!!
もう一波乱、いや、二波乱は来るぞぉ!!」
その瞬間──
観客席の熱が、潮のように戻ってきた。
観客
「おい、ラヴズ来てるぞ!」
「まだ終わってねぇ!」
「ゼロ様だけじゃねぇ、ラヴズも見せろ!」
彼女の一声で、影の街の空気が再び“祭り”へと変わる。
ラヴズオンリーユーの走りは、明らかに変わった。
さっきまで重石のようだった脚が、軽くなる。
胸を締め付けていた恐怖が、風に溶けていく。
ラヴズオンリーユー
「……走る……!」
地面を蹴るたびに、ゼロとの差が少しずつ縮まっていく。
観客
「おい、差が縮まってるぞ!」
「ラヴズ、まだ死んでねぇ!」
「これだよ!俄然盛り上がってきた!」
影の街の熱狂が、再びラヴズオンリーユーの背中を押した。
ーー
徐々に──ラヴズコールが大きくなっていく。
観客
「ラヴズ!ラヴズ!」
「まだいけるぞ!」
「追えぇぇぇ!!」
その声は、影の街の空気を再び沸騰させる。
ゴールドシップはヘッドセットの音量をさらに上げ、
実況席から身を乗り出して怒鳴りつけた。
ゴールドシップ
「向正面の直線に入ったな!
ゼロバンゲート、もっと根性見せてみろよ!
追いつかれんぞ!!」
その声が、ゼロにもラヴズオンリーユーにも届く。
観客席の熱が上がり、ターフの空気が変わった。
ラヴズオンリーユーの気配が、
どんどん近く、大きくなってくる。
ゼロバンゲート
「来い……!もっと来い……!!
もっとだ!!」
ゼロは笑っていた。
背後から迫る気配を、まるで歓迎するように。
まだしっぽは痺れてこない。
まだ“限界”ではない。
ゼロバンゲート
「相手が背中を捉えた時に、
もう一段ギアを上げて突き放してやる……」
恐怖も不安も焦りも──
全部後ろに置いていく。
ゼロは、榊原トレーナーから受け継ぎ、
自分が完成させた走り方で勝つつもりだった。
ゼロバンゲート
「俺はここで勝つ。
榊原トレーナー……。
今度こそ、あの人の指導が間違っていなかったことを証明する!」
その走りは、過去の自分すら振り払っていく。
向正面の直線、熱が最高潮に達する
ラヴズオンリーユーの気配がどんどん大きくなるにつれて、観客の声は一つの波となってターフを押し寄せた。
ゴールドシップの煽りが追い風となり、
スタンドの歓声は耳鳴りのように高く、厚く、身体を包む。
ゴールドシップ
「さぁさぁ!まだ投票できるぞ!
ゼロが勝つか、ラヴズが勝つか
黙って見てる手はねぇよな!!」
歓声の中、ラヴズは叫んだ。
「やああああ!!」
貯めてきた足を解放し、ギアをさらに一段上げる。
観客の声が彼女の背中を押し、脚は軽やかに、しかし確実に力強く回り始めた。
ゼロの背中が、確かに近づいてくる。
彼女の伸ばす手が、届きそうで届かない距離を掴もうとするたびに、観客の声は鋭く尖る。
観客
「ラヴズ!ラヴズ!詰めろ!」
「あと少しだ、行け!」
ラヴズの胸の中で、これまでのすべてが一つに結晶する。
トレーナーや仲間たちと積み上げてきた日々、手作りの旗を振る子供の笑顔、応援の声――それらが今、脚に、心に、走りに変わる。
ラヴズオンリーユー
「これが私の求めていたレース……!
私は、みんなの記憶に残っている!」
最終コーナーを抜けた瞬間、
ゼロの世界は“静寂”に変わった。
風が凪ぎ、歓声が凪ぎ、鼓動さえ凪ぐ。
芝の上に落ちた一雫の汗だけが、時間を刻んでいた。
ゼロバンゲート
「ここだ。
この距離から逃げるんじゃない!
完全に切り離す!!」
ラヴズオンリーユーの気配はすぐ後ろ。
脚色は衰えない。
むしろ迫ってくる。
それでもゼロは、
“自分だけの世界”に入った。
五感より先に体が走る。
見えている景色が、
さっきの瞬間を巻き戻したように感じる。
ゼロバンゲート
「……?」
その世界の奥から──
ハミングが聞こえた。
ーー
ブルーバード
「へぇ……意外と早く来たのね。」
ゼロは走りながら、
その声の方向を探す。
ゼロバンゲート
「ブルーバード……?」
ブルーバード
「気安く呼ばないでくれる?
まぁ……覚えてくれてるだけ、
他の男よりはマシ……かしら。」
ゼロは息を飲む。
この景色──
孤独の中で見ていたはずの景色に、
ブルーバードが立っている。
ゼロバンゲート
「そうか……アンタもこの景色を見てたんだ……。」
ブルーバードは人差し指をチチチと振った。
ブルーバード
「やっと“孤独”と“自由”の違いが分かり始めたってところね。
でも、まだ早いわ。」
優しく手を引くような所作で近づいてくる
ブルーバード
「戻りなさい。
あなたはまだ振り返る場所があるでしょ!」
バチンッ!!背中に激痛。
誰かに思いっきり叩かれたような痛み。
ゼロバンゲート
「わっ!!?」
世界が一気に戻る。
風が戻り、歓声が戻り、鼓動が戻る。
そして──気がつけば、
ゼロは ゴール板を踏み越えていた。
次回、ついに最終話!
勝負の決着は?
そして、ゼロが見たもの、思ったこととは──?
最後まで、どうぞお見逃しなく!
乞うご期待!