ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


最終話 スタートライン

ゴールドシップがヘッドセットを外した。

その「コトン」という小さな音だけが、

影のレース場の観客席に反響した。

潮が引くように静まり返る空気。

誰もが息を呑んで、ゴール板の先を見つめていた。

 

 コメント

 「え、どっちが勝ったの!?」

 「ラヴちゃんだよね?」

 「いや、ゼロバンゲートかも…」

 

影のレース場には写真判定など存在しない。

挑戦者が勝ったと認められるには──

明らかな差をつけて勝つしかない。

だからこの状況は、

影の街の誰もが判断できなかった。

 

 ゼロバンゲート

「同着……いや、逃げきれなかった俺の負け……か。」

 

そう呟いたゼロの声は、

不思議と穏やかだった。

悔しさはなかった。

全てを出し切って走り終えた後も、

胸の中には何か満たされるものがあった。

 

ラヴズオンリーユーは黙って自分の両手を見つめている。

彼女も何か掴めたのなら──

この勝負は価値があったのかもしれない。

 

観客

「おい!賭け金どうすんだ!?」

「ゼロ様の勝ちだろ!!」

「さっさと判定しやがれ!!」

 

影の街の興行は、

熱狂と混沌が常に隣り合わせだ。

声を荒らげた連中が騒ぎ出す。

 

ゼロは手を挙げようとした。

「俺の負けだ」と言えば、

この場は収まるかもしれない。

だが──

それはラヴズオンリーユーのプライドを傷つける。

 

 ゼロバンゲート

「……また俺は迷ってる。

誰かの言葉を期待してる。

俺は……弱いな……」

 

足元を見ながら、

その言葉を落とした瞬間──

 

秋川やよい

「同着!!同着だ!!

この勝負、私が預かるぞ!!」

 

モニター側から大声の笑い声が響き渡る。

 

秋川やよい

「ハッハッハー!!

これほどの熱い勝負、

ここで決着をつけてしまうには惜しい!!」

 

理事長は次々と扇子を広げる。

“感涙”

“圧巻”

“激走”

“魂”

 

秋川理事長は、

影の街の混沌を一瞬で支配し、

この勝負を“伝説”として預かった。

 

秋川やよい

「決定!!

ここにURAファイナルズの開催、そして──

招待選手としてゼロバンゲート!

お前を指名する!!」

 

モニター越しの声なのに、

その響きはターフの地面を震わせるほど強かった。

 

秋川やよい

「東京に来い!

その素顔のまま、ウマ娘として!」

 

ゼロバンゲート

「……!!?」

 

信じられなかった。

URAファイナルズ。

ウマ娘達の憧れの舞台。

最後のGIレース。

“光の世界の頂点”。

そこで──

俺が走る。

かつて学園のヴィランとして騒ぎを起こし、

トレセン学園を去り、

アンダーグラウンドに潜り、

影の街で悪役として走ってきた俺が。

光の女王ラヴズオンリーユーの前に立ちはだかった俺が。

 

その俺が──

光の舞台へ招かれた。

胸が熱くなる。

息が詰まる。

視界が揺れる。

 

 ゼロバンゲート

「……俺が……?」

 

フェアレディは、

秋川理事長の宣言を聞いた瞬間──

ほんの一拍だけ、息を止めた。

観客席が揺れ、

影の街が沸騰し、

ゼロバンゲートの名が光の世界へ響いたその瞬間。

 

 フェアレディ

「予想の斜め上……いえ、はるか上空かしら……」

 

彼女は静かにVIPルームを出る。

興行師としての完璧な笑みは消え、

ポーチを開き、厚手のハンカチを取り出した。

 

 フェアレディ

「よく頑張ったわね……ゼロ……」

 

鏡に映った顔は、

影の街の興行師ではなく──

ただ一人の少年を見守ってきた“保護者”のような優しい顔だった。

 

 秋川やよい

「無論……今夜の賭け金の件だが……

持ち越しとするので、投票券は捨てぬように!」

 

観客がざわつく。

 

 秋川やよい

「ゼロバンゲート、ラヴズオンリーユー両名の着順によって、色をつけて払い戻す!

約束だ!」

 

 影の街の混沌を、理事長は一瞬で“祝祭”へ変えた。

 

 ——

約束の日がやってきた。

 

パドックにざわめきが走る。

数ヶ月前、影の街で“同着”を演じた二人の名が、

ついに光の舞台で読み上げられる。

 

実況

「秋川理事長特別推薦枠として──

18番ゼロバンゲート!

ゼロバンゲートです!!」

 

その瞬間、空気が変わった。

影の王が、ついに光の祭典へ姿を現したのだ。

 

かつての覆面ではなく、

男の顔をさらけ出したまま、パドックへと足を運んでいく

 

ゲート前でエルコンドルパサーは口角を上げる。

 

エルコンドルパサー

「ゼロ……バンゲート!?

ブエノ!!

何度でも返り討ちにしてあげマースっ!!」

 

彼女は観客へ向けて腕を広げる。

 

エルコンドルパサー

「さぁ、オーディエンス!

名前を呼んでください!

最強のウマ娘は……?」

 

観客

「エルコンドルパサー!!!」

 

エルコンドルパサー

「グラシアス!!」

 

その声は、ゼロの胸にも届く。

皇帝杯ダービーでの“熱狂”を、彼女はまだ忘れていない。

 

ラヴズオンリーユーは、

コミュメンのカメラに向けて手でハートを作り、

甘く微笑んだ。

 

ラヴズオンリーユー

「ふふふ……♥

みんなー!

今度こそ、ゼロバンゲートと決着つけるから見ててね♪」

 

ラヴズオンリーユー

「きっちり“3馬身”借りを返すから!」

 

観客席が一気に沸騰する。

影の街での同着──

あの勝負の続きが、

ついに光の舞台で始まる。

 

秋川やよいの声が、

VIPルームの空気を豪快に揺らした。

 

 秋川やよい

「榊原!どうだ!

ゼロバンゲートを守る約束は果たしたぞ!!」

 

その胸を張った姿は、

まるで自分がゼロを育てたかのような勢いだった。

 

榊原トレーナー

「ふん……アンタは“一枚噛み”したかっただけだろ?」

 

 秋川やよい

「無礼!

そんなことを言うと仕事を押し付けるぞ!

ゼロバンゲートの晴れ舞台を見せてやらないからな!」

 

榊原は肩をすくめ、

しかし次の瞬間、静かに頭を下げた。

 

 榊原トレーナー

「……悪かった。

アンタには本当に感謝してる。」

 

榊原はVIPルームを出て、

観客席へ向かって歩き出す。

 

 秋川やよい

「どこにいく?

ここから見てやればいいだろう。」

 

 榊原は振り返らずに答えた。

 

 榊原トレーナー

「俺はあいつと同じ目線で見たいんだ。」

 

部屋を出た榊原は微笑む。

晴れやかなゼロバンゲートの顔を眺める

 

そして呟いた。

「……大きくなったな、ゼロ。」

 

その言葉は、まるで父親のようだった。

ゲートへと、ゆっくり歩を進める。

その一歩ごとに、影の街で積み上げた日々が遠ざかり、光の舞台の熱が胸に満ちていく。

 

もう俺は──

“存在しないゲート”

“0番目のゲート”

にはいない。

 

かつては挑戦状を叩きつけるために走った。

誰かの物語を壊すために走った。

影の王として、光の女王に牙を剥いた。

だが今は違う。

歓声を受けて走る。

応援を背に走る。

誰かの期待を背負って走る。

 

ゼロバンゲート

「俺は……ここに立っている。」

 

パドックの中央で立ち止まり、

俺はゆっくりと観客席へ向けて──

人差し指を立てた。

 

影の街で、誰にも届かなかった指。

0番目のゲートで、誰にも見えなかった指。

存在しない走者だった俺が、

今は光の観客に向けて堂々と掲げる。

観客席が揺れる。

名前を呼ぶ声が波のように押し寄せる。

 

ゼロバンゲート

「ゼロ番目じゃない。

俺は──ここにいるんだ。」

 

その時、確かにつま先がスタートラインに並んだ。

 

END

 




これで、ゼロバンゲートのお話は完結です。

最後まで彼の走りを見届けてくださった皆様に、心より感謝申し上げます。

彼は三冠を手にしたわけでも、前人未到の記録を打ち立てたわけでもありません。

けれど、彼は自分の居場所を見つけました。

「ゼロバンゲート」という名前が消えることはありません。
けれど、その名前を名乗る意味は、物語の始まりから確実に変わりました。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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