ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
配信はいつものように明るく始まった。
ラヴズオンリーユー
「ラブミー? ラブユー!
ラヴズオンリーユーです!
今日もこの街からお届けします〜!」
コメント欄はハートで埋まり、
画面は光に満ちている。だが──
その光の端に、影が映った。最初に気づいたのは視聴者だった。
コメント
「ラヴちゃん、後ろ……」
「え、ウマ息子?」
「コスプレ?」
「いや、あれもしかして…
ゼロXXXXXXじゃない?」
「トレセンで騒ぎ起こしたやつ?」
「なんで海外にいるの!?」
彼女は最初、気にしないように笑っていた。
だがコメントの流れが止まらない。
ラヴズオンリーユー
「え? 後ろ……?」
彼女は振り返らない。
配信者としての癖で、まず画面の反応を見る。
そして──
画面の端に映る“影”を見つけた。
ラヴズオンリーユー
「……あれ?」
笑顔がほんの一瞬だけ止まる。
視聴者が気づかないほど微細な揺らぎ。
だが、勝負師の目は嘘をつかない。
彼女は画面を拡大するように覗き込み、影の輪郭を確認する。
ウマ耳。
しっぽ。
体格。
歩き方。
ラヴズオンリーユー
「……ゼロ、バンゲート……?」
声は配信に乗らないほど小さく、
唇だけがその名を形作った。
タイニィ
「ゼロさんがフェアレディさんと談笑しているところが映り込んでます……。
え、それにこのコメント欄……
みんな、ゼロさんのことを知ってる?」
言葉を失った。
沈黙が落ちる。
部屋の空気が、ゆっくりと冷えていく。
ゼロバンゲート
「……忘れられたと思ってた」
声は自分でも驚くほど弱かった。
影の街で走り続ければ、
誰も自分を知らない世界で生きていける
フェアレディの興行で勝ち続ければ、
過去は薄れていく
タイニィと日常を積み重ねれば、
心の傷は少しずつ消えていく
そう思っていた。
しかし──最悪のタイミングで見つかった。
タイニィは不安げにスマホを握りしめる。
だがゼロの視線は、コメント欄のひとつに吸い寄せられた。
詳細はこちらを参照されたし
☞動画URL
皇帝杯ダービーの真相
自己顕示欲に取り憑かれたトレーナーに
利用されてトレセン学園から追放されたウマ娘の話
ゼロの心臓が、一拍遅れて脈打った。
胸の奥が、冷たい手で掴まれたように痛む。
ゼロバンゲート
「……」
タイニィはゼロの沈黙を見て、さらに表情を曇らせる。
タイニィ
「ゼロさん……これ……
本当のことなんですか……?」
コメント
「ちょっと! ラヴちゃんの配信に関係ない話やめて!」
「そうだよ!ラヴちゃん、続けて!」
「コミュメン規約守れない人、退出してください!」
視聴者達がラヴズオンリーユーの配信を守ろうと必死になっている。
だが、コメント欄の流れは止まらない。
ゼロバンゲートの名前が、次々と画面を埋めていく。
ラヴズオンリーユー
「えっと……こういうハプニングも楽しんでいかないとね!」
声のトーンはいつも通り軽い。
だが、目だけが一瞬だけ鋭くなる。
配信者としての判断。
勝負師としての観察。
そして──
“愛されたもの”としての余裕。
ラヴズオンリーユー
「ゼロバンゲートさんだっけ?
その人のこと教えてくれた人もありがとう!
まだまだ世界には私の知らないこと、
いっぱいあるのよね!」
その言葉は、荒れかけたコメント欄を一瞬で黙らせた。彼女は笑う。
画面越しに、光が広がる。
ラヴズオンリーユー
「それって、もっともっと愛を届けに行けるってことだと思うの!
これからも頑張るから、応援よろしくね!」
指でハートマークを作る。
その瞬間──
殺伐としかけた空気が、
一気に彼女の色に染められた。
ラヴズオンリーユーの配信は、
ただの“ハプニング”だったはずだ。
けれど──
ゼロにとっては、
過去が突然、目の前に突きつけられた瞬間だった。
影の街で怪物として生きることを選んだ自分。
光の世界で愛されることを許されたラヴズオンリーユー。
その差が、
胸の奥で静かに疼き続けていた。
皇帝杯ダービーの解説
第一章の最終レースとなる「皇帝杯ダービー」は、
ゼロバンゲートという“存在しないはずのウマ娘”が、
トレセン学園の秩序を揺るがした結果として生まれた、異例のレースです。
ゼロのトレーナー・榊原は、
ゼロの才能が埋もれたまま終わることを恐れ、
学園内で非公式にゼロと他のウマ娘を競わせるという“禁じ手”を使いました。
その行為は、
ゼロを守るためであり、
ゼロを証明するためであり、
そして──
ゼロを世界に見せるための、榊原なりの“賭け”でした。しかし結果として、
学園は大きく揺れ、
生徒会はゼロを制裁するためのレースを開催します。
それが 皇帝杯ダービー。
本来、ウマ娘個人を狙い撃ちにしたレースなど存在しません。
それでも開催されたのは、
ゼロという存在が、
“無視できないほど大きな影”
になってしまったからです。
第3話でゼロが見た配信は、
その影がまだ世界に残っていることを突きつける瞬間でした。
影の街で怪物として生きるゼロ。
光の世界で愛されるラヴズオンリーユー。
その対比が、
ゼロの胸に静かに疼きを残します。