ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第5話 興行師の部屋

フィガロ

「へぇ、耳付きから差し入れなんて、どういう風の吹き回し?」

 

エッグタルトをひとつ頬張りながら、

フィガロはフェアレディの部屋のソファに腰を落とした。

フェアレディは柔らかく微笑む。

その笑みは優雅だが、奥に計算がある。

 

フェアレディ

「あの子の中では、あなた達は競走仲間になってるみたいね。

そういうところが可愛いんじゃない?」

 

オーラはタルトを見もせず、真剣な目でフェアレディを見た。

 

 オーラ

「今日はお菓子を配りに来たんじゃなくて、

ビジネスの話なんだろ?

セドリックのグズの所から引き抜いてくれたんだ。

恩返しくらいはさせてもらうよ。」

 

 フェアレディ

「そう焦らないで。お茶を淹れるわ。」

 

まるで世間話をするように、

フェアレディはゆっくりと話し始めた。

 

フェアレディ

「日本のトレセン学園から来てるウマ娘、知ってる?」

 

オーラはすぐに察した。

興行師の“前置き”は、いつもこうだ。

 

 オーラ

「なるほどな……私らに“接触しろ”って?」

 

 フェアレディは満足そうに微笑む。

 

フェアレディ

「あら、さすが。

セドリックのお守りを務めてただけあって話が早い。助かるわ。」

 

フィガロはタルトを食べ終え、

食べカスのついた指を舐めながらスマホを差し出した。

 

 フィガロ

「動画配信やってる子でしょ?

あの子……もう耳付きのこと気になってるみたいだもんね!」

 

 画面にはラヴズオンリーユーの配信。

コメント欄にはゼロバンゲートの名前が溢れている。

フェアレディはスマホを受け取り、

画面を一瞥しただけで全てを理解した。

 

光の世界の女王ラヴズオンリーユー。

対するは影の世界の怪物ゼロバンゲート。

トレセン学園での過去の騒動。

皇帝杯ダービーの主役はゼロバンゲート。

視聴者の興味、炎上寸前のコメント欄。

誰だって波乱の展開を期待する。

 

フェアレディ

「……いいわね、このカード。」

 

あとは──

賭け金が最大に膨らんだ瞬間にカードを表にするだけ。

興行師としての勘が告げている。

この街の熱は、まだ上がる。

 

フィガロ

「ふふ!

影の世界の女王を追い落とすだけじゃ飽き足らず、

表の世界にすら喧嘩を売るのね!

あなたのそういうところ、最高にイカれてて好きよ。」

 

その声は楽しげで、

まるで新しい玩具を見つけた子どものようだった。

 

オーラ

「フェアレディは雇い主様だ。

口の利き方には気をつけな。」

 

言葉は制しているのに、

オーラの口角は上がっている。

面白いものを見つけた時の二人の反応。

それが今、目の前で起きている。

 

フェアレディは二人の様子を見て、

ゆっくりと微笑んだ。

 

フェアレディ

「イカれてる?

いいえ、これはちゃんとした親心よ。」

 

フィガロが眉を上げる。

オーラが静かに息を飲む。

 

フェアレディ

「ゼロに対して、とても“誠実”なね……」

 

その声は甘く、

しかし底にあるのは興行師としての冷たい計算。

だが同時に──

ゼロを守ろうとする母のような温度が確かにあった。

 

オーラ

「まずはラヴズオンリーユーに、耳付きが走ってるところを間近で見せてやればいいんだな?

彼女を焚き付けてみせろ……なんとまぁ、簡単に言ってくれる……」

 

彼女は低い声で呟いた。

だがどこか楽しげだった。

“仕事”の話をしているはずなのに、

ゼロの走りを思い出して胸が少し高鳴っている。

 

フィガロ

「簡単な仕事ね。

もうどこにいるか目星はついてるから、私が声掛けて誘い込むわ。」

 

フィガロはスマホを軽く振りながら笑う。

その笑いは、獲物を見つけた猫のように軽やかで危険。

 

だがその瞳には、ゼロの走りを見た時の“ゾクッとした感覚”がまだ残っている。

 

オーラ

「耳付きの相手は私がする。

もう一度、本気でやり合ってみたかったしな……」

 

しっぽの先を指に絡めながら、静かに言う。

その横顔には、隠しきれない高揚が浮かんでいた。

フィガロは、それを見逃さない。

 

フィガロ

「面白い。耳、赤いわよ♪」

オーラ

「よ、余計なことを言うな……!」

 

オーラの耳がぴんと立ち、しっぽが跳ねる。

フィガロは声を上げて笑った。

 

フィガロ

「やっぱりね。

あの耳付き、相当気に入ってるじゃない」

 

オーラ

「……違う。

ただ、あいつとは決着がついてないだけだ」

 

フェアレディは二人を眺めながら、静かに微笑む。

 

決着。

 

その言葉を、心の中で転がす。

ゼロはまだ知らない。

自分の走りを見た者たちが、

それぞれ違う理由で、再び彼の前に集まり始めていることを。

 

そして──

 

その中には、

光の世界からやって来るウマ娘もいる。

 

フェアレディ

「さあ……少し面白くなってきたわね」

 

興行師の微笑み。

けれどその奥には、

誰にも見せない、もうひとつの顔があった。

 

──ゼロ。

 

あなたが望んでいた場所で、

あなたが望んでいた走りをさせてあげる。

 

それが私の“親心”なのだから。




フィガロ&オーラについて第2章 Re:スタートライン で登場した仕事屋コンビ、フィガロとオーラ。
彼女たちは元々、興行を支配しようとして八百長レースを仕込んでいた小物興行主・セドリックの配下でした。
セドリック失脚後はフェアレディの元へ身を寄せ、
現在は“影の街の興行”を支える実働部隊として動いています。

ゼロとの因縁
八百長レースを成立させるため、
レース中の事故を装ってゼロバンゲートに怪我をさせた過去があります。
彼女たちは依頼された仕事を淡々とこなすことを信条とする仕事人ですが、ゼロの走りに触れたことで、
その心にわずかな“揺れ”が生まれた経緯があります。
興行の駒としてではなく、
勝負師としての本能が刺激された──
そんなニュアンスを第5話で描いています。


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