ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

8 / 10

1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第8話 影を追うもの 影に追われるもの

オーラは先頭集団の中で脚を貯めていた。

砂煙の向こう──最外から飛び出した黒い影を見据える。

 

 オーラ

「全く……デタラメなヤツだ……」

 

吐き捨てるような声。

だがその奥には、怒りでも呆れでもない。

理解した者だけが抱く、静かな恐れと興奮 があった。

 

ゼロバンゲートの走りの中に、

オーラは“危うさ”を見ていた。

 

かつて影の街を支配していた女王・ブルーバード。

速すぎるが故に挑戦者が降りていく。

誰も追いつけない。

誰も勝負にならない。

そして女王は、頂の孤独を見た。

 

孤独を感じた者は──

自分が壊れていくことに愉悦を感じていく。

 

勝負師の心が、勝負そのものよりも

“壊れる快感”に傾いていく。

 

オーラはそれを知っている。

ブルーバードの走りを見た時、

その危うさを感じ取ったから。

 

そして──

ゼロバンゲートの走りには、それに通じるものがあった。

 

向正面。

ゼロバンゲートは先頭集団を引き離していく。

 

オーラ

「耳付きのしっぽがまだ立ってない……

余裕をかましているのか……。

舐めやがって!

おい、耳付き!退屈してるんだろ!?

私が遊んでやるよ!!」

 

その叫びは挑発でも怒りでもない。

勝負師が怪物に向けて放つ、宣戦布告。

 

オーラは脚を解放した。

作戦も何もない。

ただの無謀なロングスパート。

 

だが──その“無謀”こそが、勝負師の本気だった。

芝を踏みしめる音が変わる。

軽やかだったリズムが、一気に重く、鋭くなる。

 

観客席がざわついた。

 

観客

「おい……あの女、耳付きに追いつくんじゃないか?」

「いいぞ!もっと追え!」

「今夜飲む酒は一味違いそうだ!」

 

歓声ではない。

期待でもない。

“狩りが始まった”ときの熱。

ターフの空気が、ゼロの逃げ一辺倒だったレースから

“怪物を追う勝負”へと変わっていく。

 

背中から迫ってくるのは、風でも砂煙でもない。

殺意にも似たプレッシャー。

ゼロの背筋がわずかに震えた。

 

ゼロバンゲート

「来た……!」

 

他のウマ娘が息を切らし始める中、

オーラだけが違った。

脚を解放した瞬間、

彼女は先頭集団から頭ひとつ飛び出してきた。

 

その姿は──

まるでゼロを追うためだけに生まれた影。

 

その影が背中に迫った時、

ゼロバンゲートのしっぽが、電流が走ったかのようにそそり立つ。

恐怖と興奮が混ざり合う、あの“壊れゆく瞬間”の兆し。

オーラはそれを見逃さない。

 

オーラ

「やっと本気か……。

私は知っているぞ!

お前が怖くてたまらない時に、そうやってしっぽを立てて逃げることをな!」

 

ゼロの背中に、オーラの声が突き刺さる。

 

オーラ

「怖すぎて麻痺する感覚に取り憑かれてるんだろ!?

気持ちイイもんだろうな!

頭が真っ白になる感覚ってのは!」

 

その瞬間──オーラの目の色が変わった。

勝負師の目ではない。

獲物を追う獣の目でもない。

壊れゆく怪物を追う者だけが持つ、危うい快楽の目。

 

ゼロとの距離が

3馬身、2馬身と縮まっていく。

 

オーラ

「アハハ!いいぞ……逃げろ!もっと逃げろ!!」

 

いつしかオーラも足の感覚が無くなっていた。

ただゼロの背を追いかける。

 

ついに半馬身差。

ゼロの背中が、オーラの視界の中心に固定される。

 

ほんの一瞬、世界が緩やかに過ぎていく。

 

オーラはゼロを追うことで、

“領域”に足を踏み入れたことを自覚した。

 

オーラ

「なんだここは…?楽しい?」

 

オーラとゼロを結ぶ半馬身が2人のの何かを結びつける。

そして、それはすぐに解けていく。

 

ゼロの背中が遠くなる

 

 オーラ

「終わるんだな……この時が……いつまでも続けばいいのに……」

 

呼吸が荒くなる。

心臓が焼けるように熱い。

脚は痛みを感じない。

 

ただ、追う。

ゼロのしっぽは立ちっぱなし。

オーラのしっぽも逆立っている。

 

二人の走りは、勝負という言葉だけでは説明できないものになっていた。

 

ゴールまであとわずか。

 

オーラ

「くっ……届かない……!」

 

半馬身。

たった半馬身。

それだけが、どうしても埋まらない。

さっきまで消えていた足の感覚が、

じわじわと戻ってくる。

 

──痛み。重さ。限界。

 

オーラ

「待て……待ってくれ……!

耳付きの見ていた世界……もう少し……私に……!!」

 

ゼロの背中は、ほんの指先ほどの距離にあるのに──

絶対に触れられない。

その“届かない半馬身”が、勝負師を壊す。

 

 観客

「あの女……失速しやがった。」

「なんだよ、やっぱり期待はずれかよ!」

「チッ……酒が不味くなるわ。」

 

歓声が嘲笑に変わる。

影のレース場は残酷だ。

勝負師の限界など、誰も気にしない。

 

ラヴズオンリーユーは、

さらに強く立ち見席の手すりを握りしめた。

拳が白くなる。

 

ラヴズオンリーユー

「違う……

期待はずれなんかじゃない……」

 

彼女の声は震えていた。

恐怖ではない。

興奮でもない。

理解だ。

彼女は気づいてしまった。

 

オーラは──

ゼロの背中を追うために、自分の脚を壊しにいった。

その走りは、

表の世界では絶対に見られない“影の勝負”。

 

ラヴズオンリーユー

「あの子……ゼロバンゲートさんの走りを……本気で追いかけてた……」

 

観客が嘲笑しても、彼女だけは知っている。

オーラの走りは、期待はずれなんかじゃない。

本物の勝負師の走りだった。

 

ーー

 

影のレース場の最上段。

誰も近づかない特等席

──そこから、フェアレディはターフを見下ろしていた。

この街の熱は、いつも彼女の掌の上にある。

だが今夜は違う。

ゼロバンゲートとオーラ。

そして、誘い込まれたラヴズオンリーユー。

 

ゼロは壊れゆく走りをしている。

オーラは壊れゆく者を追っている。

ラヴズは壊れゆく走りに心を奪われている。

 

フェアレディ

「カードが揃ってきたわね……。

影と光が、壊れながら交わる。

最高のショーを見せてちょうだい……ゼロ」

 

興行師としての冷たい計算。

そして──ゼロを守ろうとする親心。

 

その両方が、今夜のレースを見て静かに笑っていた。




フィガロとオーラについて、少し裏話を。
もともとこの二人は、
「ぽっと出の仕事屋コンビ」
くらいの立ち位置で、深い設定を作る予定はありませんでした。
最初は脇役のつもりだったのに、
自動車のイメージを重ねた途端、
二人の関係性や勝負師としての哲学が自然に生まれてしまい──「これはもう、メインキャラに昇格させるしかない」
という流れになりました。
影の世界の“実働部隊”として、
ゼロやラヴズの物語に深く関わる存在になったのは、
完全にキャラの自走です。

設定など…
◆フィガロ
名前の由来は、某国産自動車メーカーのコンパクトスポーツカー。
軽快で小気味よい走りのイメージから、
本人も軽薄で挑発的な言動が目立つ。
しかし、仕事に対する姿勢は本物。
興行の裏側で最も動き回る“実働の刃”であり、
ゼロの走りを見た時に誰よりも早く心を奪われたのが彼女。

◆オーラ
名前の由来は、某国産自動車メーカーのエコカー。
省エネ性能と加速性能を両立する車のイメージから、
本人も無駄のないシャープな走りを得意とする。
レースの実力は確かで、
自分の身が危険になるリスクがあっても仕事を遂行するタイプ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。