ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

9 / 10

1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。


第9話 冷たくしないで 前

ゼロバンゲートはゴールラインを駆け抜けた。

砂煙が舞い、夜のターフに黒い影が伸びる。

すぐ後ろを、オーラが通過する。

半馬身──

最後まで埋まらなかった距離。

 

 ゼロバンゲート

 「オーラ……すごい走りだった。」

 

差し伸べた手。

勝負師としての敬意。

影のレースでは滅多に見られない、静かな称賛。

だが──オーラはその手を振り払う。

 

 オーラ

「馴れ合いみたいな真似はするな……

客がシラケる。」

 

踵を返す。ゼロに背を向ける。

その背中は、敗者のものではない。

勝負師としての誇りを守るための背中。

 

オーラは歩きながら、

ゼロに聞こえないほどの小さな声で呟いた。

 

 オーラ

「……分かっているさ……

耳付きが本気だったことくらい……

だから余計に腹が立つんだろ……」

 

ゼロバンゲートの走りは、勝負師を壊すほどの“本物”だった。

オーラはそれを理解している。

だからこそ、

半馬身届かなかった自分が許せない。

勝負師の心は、勝敗よりも“届かなかった距離”に傷ついた。

 

——

入場口付近、フィガロが駆け寄ってくる

 

 フィガロ

「オーラ〜♪仕事お疲れ!飲みに行こう!」

 

フィガロはいつもの調子でオーラの肩を軽く叩いた。

その明るさは、軽薄さではない。

ラヴズオンリーユーをアンダーグラウンドに誘い込み、ゼロバンゲートの走りに視線を釘付けにした。

フェアレディの思惑通りの仕事が出来たという満足感からだ。

 

フィガロ

 「なーに〜?思い詰めた顔しちゃってぇ♪」

 

 オーラは少しだけ目を伏せた。

 

 オーラ

 「……つまらない意地を張ってしまったな……」

 フィガロ

 「いいんじゃない?たまには♪

そんなことより、フェアレディからたんまり報酬いただいて、パーッとやろうよ!」

 オーラ

 「……そうだな……」

 

二人は並んで歩き出す。

プロフェッショナル同士の静かな連帯感が、歩幅を自然と揃えていく。

オーラのしっぽがゆっくり揺れ、

フィガロのしっぽも同じリズムで揺れた。

それは“仕事を終えた者同士の落ち着いた呼吸”のようで、互いの存在を確かめ合うような、穏やかな歩みだった。

 

 ——

 

控え室に戻ると、

タイニィがいつものように駆け寄ってきた。

 

 タイニィ

 「ゼロさん!今日もお疲れ様でした!

飲み物どうぞ!」

 

 差し出されたペットボトル。

その手は少し震えている。

レースを見ていたのだろう。

 

 ゼロバンゲート

「ありがとう……

タイニィ、俺が走ってる姿ってどう見える?」

 

自分は以前よりも速くなっている。

それは分かる。

 

だが──

レース後のオーラの態度が、

何故か胸に引っかかっていた。

 

振り払われた手。

届かなかった半馬身を悔いるような背中。

ゼロはそれを“勝負師の悔しさ”として片付けられなかった。

 

タイニィ

「ど、どうって……///

そ、その……カッコイイ……と思いますけど……」

 

耳がぴんと立ち、

しっぽが小さく揺れる。

その反応は、

影の世界の殺気とは違う、

純粋な光の反応。

ゼロは思わず目を伏せた。

 

ゼロバンゲート

「……そうか……」

 

タイニィはゼロの表情を見て、

胸の奥がきゅっとなる。

 

タイニィ

「ゼロさん……

何か……気になることがあったんですか……?」

 

答えは返ってこない。

だが、タイニィにはまだ分からない。

ゼロは今──

自分の走りの意味を見失いかけていた。

 

ーー

 ラヴズオンリーユー

 「どうして……?

どうしてあんな走りが出来るの……?

名誉もない、記録にも残らない、誰も見ていないレースなのに……分からない……」

 

 握った拳に汗が滲む

耳は震え、しっぽは揺れ、胸の奥が熱くなる。

ゼロバンゲートの走りは、

表の世界のどんなレースよりも“本物”に見えた。

 

観戦の後、彼女に残ったのは、 

振り払おうとしても消えない──羨望。

 

ラヴズオンリーユー

「あれは、覚悟……?ううん、違う。

愛を背負って走る覚悟なら私にもある……

でも……違う……

分からない……もどかしい……」

 

胸の奥に生まれた“渇き”。

それは表の世界では決して得られなかった感情。

ゼロの走りを見た瞬間、

彼女は初めて“自分の走りの意味”を問い始めた。

 

――

 

控え室のドアがノックされた。

 

 タイニィ

 「フェアレディさんかな?」

 

ゼロは疑いなくドアを開けた。

だが──そこに立っていたのは、

どこかで見覚えのあるウマ娘。

 

帽子を深くかぶり、耳を隠し、

しっぽは力なく垂れ下がっている。

 

記憶を逡巡する。

数秒後──

名前と顔が一致した。

配信者、ラヴズオンリーユー。

 

ラヴズオンリーユー

「初めまして……

ゼロバンゲートさん……ですよね?」

 

声が震えている。肩も震えている。

恐怖と興奮が入り混じったような感情。

 

ラヴズオンリーユー

「あの……さっきのレース、見てました……」

 

その言葉は、ただの感想ではなかった。

“光の世界の住人が、影の怪物の走りに心を奪われた”

その事実が、震えとなって彼女の体に現れていた。

 

ラヴズオンリーユー

「この声……顔立ち……やっぱり男の子なんだ……」

 

その呟きは、彼女自身の戸惑いと願いの残滓だった。

 ──どこかで、自分と同じ“ウマ娘”であってほしい。

 その願いが、ゼロには ”好奇の目”から出たものに聞こえた。

 

ゼロの表情が強ばる。

しっぽがわずかに揺れる。

 

彼女はそれに気づき、

恐る恐る切り出した。

 

ラヴズオンリーユー

「…突然ごめんなさい。

どうしても聞きたいことがあって……」

 

肩が震えている。

耳は帽子の下で小さく揺れ、

しっぽは垂れ下がったまま。

そして──彼女は核心を突いた。

 

ラヴズオンリーユー

「どうして、こんなところで走ってるんですか……?」

 

ゼロは一瞬、呼吸を忘れた。

影のレースで走る理由なんて、誰にも話したことがない。

タイニィでさえ、本当の理由は知らない。

 

ゼロバンゲート

「……どうして、って……」

 

言葉が続かない。

胸の奥がざわつく。

オーラの半馬身後ろから聞こえた声が蘇る。

 

「怖すぎて麻痺する感覚に取り憑かれてるんだろ!?」

 

ゼロは自分の走りの意味を、まだ言葉にできない。

 

ラヴズオンリーユーはゼロの沈黙を見て、

自分の問いが踏み込みすぎたと悟る。

 

だが──それでも聞きたかった。

 

ラヴズオンリーユー

「……あなたの走りを見て……

私、知りたくなったんです……

どうして……あんな走りが出来るのか……」

 

その声は震えているのに、真っ直ぐだった。

光の世界の女王が、影の怪物の走りに心を奪われ、答えを求めてここまで来た。

 

ラヴズオンリーユー

「どうしてって聞いたのは経緯じゃなくて……その……あなた自身、どう思ってるかって意味です。

私だって事情くらい知っています。

存在しないはずのウマ娘として、表舞台に立とうとしたあなたがどんな目にあったのかくらい……」

 

ゼロはその震えを見て、胸の奥がさらにざわつく。

彼女の言葉から受け取ったものは、優しさでも理解でもない。

“外側から見た物語”を押しつけられた痛み。

 

ゼロバンゲート

「いや、君は何も知らない……。

 知るはずもない……。」

 

彼女が知っているのは、せいぜい配信者が得意げに語る“解説動画”の内容。

榊原トレーナーがどんな顔で自分を送り出したか。

秋川理事長がどれほどの覚悟で皇帝杯ダービーを許可したか。

 

トレーナーとの約束が果たせなかった上に、

ゼロが”好奇の目”に晒されてどれほど傷ついたか。

そんなもの、彼女が知るはずがない。

 

ゼロバンゲート

「話すことなんて何も無い。

もう終わりだ。帰ってくれ。」

 

その声は低く、震えていた。

怒りではない。

触れられたくない傷を守るための拒絶。

だが、彼女は一歩踏み込んでくる。

 

ラヴズオンリーユー

「帰りません!」

 

その声は小さいのに、揺るぎなかった。

ゼロは思わず目を細める。

 

「あなたはこんなところにいるべきじゃない!

ただ賭けの対象にされるだけ、

壊れたらおしまい、

そんな世界で走り続けることが正しいわけない!」

 

その瞬間──

ゼロの心臓が貫かれた。

 

ずっと考えないようにしていたこと。

ずっと見ないようにしていた現実。

 

逃げて、勝って、また逃げて、また勝って。

勝ち続けることでしか、この街にいられない。

 

壊れたら終わり。

壊れるまで走る。

壊れることで納得する。

 

彼女の言葉は、ゼロが自分自身に言えなかった“真実”そのものだった。

 




今回のラヴズオンリーユーの行動について、少し補足をさせてください。

彼女は本来──
身内以外に強く固執するタイプではありません。

光の世界で育ち、愛を届けることを使命とし、
コミュメンとの信頼を積み上げてきた。
そんな“安定した強さ”を持つウマ娘です。

だからこそ、
ゼロバンゲートの走りにここまで心を揺らし、
影の世界まで足を踏み入れ、
控え室にまで押しかけるという行動は、
原作の彼女よりも少し踏み込んだ描写になっています。

これは、ゼロとの対比を強く描きたかったためです。

ラヴズオンリーユーは、
ゼロから見たときに、
眩しく、強く、そして少し危ういウマ娘。

ゼロが影の世界で、
壊れながら走る存在なら──

ラヴズは光の世界で、
愛されることも、愛を返すことも含めて、
ひとつの“完成形”にたどり着いた存在です。

だからこそ、
そんな彼女がゼロの走りを見て、
「分からない」と立ち止まってしまう。

そしてゼロもまた、
ラヴズの存在によって、
自分自身の走りを見つめ直すことになる。

その二人が互いの走りに心を揺らすことで、
物語の“交差点”が生まれる。

そのため今回のラヴズの行動は、
あくまで──

「ゼロが見たラヴズオンリーユーの一面」

として描いています。

原作のラヴズオンリーユーそのものを変えたいわけではありません。

ただ、ゼロという人物の目を通したとき、
彼女がいつもより少しだけ眩しく、
少しだけ強く、
そして少しだけ危うく見えている。

そんなふうに受け取っていただければ嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。