どうしてこうなった。
紅白の巫女服姿の少女 博麗霊夢はそう思う。
霊夢の目に映るのは草が風によって海のように揺れる平原地帯。
綺麗な川があり、そこには浮いてる巨大な魚がいたりする。なぜ浮いてるのだろう…
彼女はこのような平原地帯を知らない。
その地は幻想郷ではない。
母なるクリスタルによって誕生した一つの世界。
その名は"ヴァナ・ディール"
冒険者が駆け巡る人々が愛する幻想世界であった。
★
異世界ヴァナ・ディールと忘れ去られたものが行き着く幻想郷が繋がり早一年。
幻想郷が存在し続けるために博麗大結界の管理をする博麗神社。
その神社には主人である霊夢と居候兼大黒柱となった謙虚なナイト ブロント。黒い服を着る幼い妖怪ルーミアが暮らしていた。
霊夢は賽銭が入っていない賽銭箱を見つめては溜息をつき、ブロントは何処の世界であってもレベリングをかかさず、ルーミアは残像が見える程の速さで神社内を遊んでいた。
神社内の掃除を終え、熱いお茶を飲みながら霊夢は一息つく。
昼頃になり、気持ちのいい程の青い空を見上げると人と妖怪が空を飛びながらやってきた。
魔女のような格好をした霧雨魔理沙。複数の小さな人形を傍らに置くアリス・マーガトロイド。鴉のような翼を持つ射命丸文。最後に二本の日本刀を持ち、近くにふよふよと半霊を浮かす魂魄妖夢であった。
「よー、霊夢。また遊びにきたぜ」
「付き添いに来たんだけど…見事に賽銭箱には何も入っていないわね」
「いやいや、そもそも人里離れたこの神社に賽銭客なんて来ないでしょう」
「うっさいわねぇ。いいのよ、賽銭が無くても生きていけるわ。ブロントさんのお財布で」
「自分の食費すらブロントさんに払わせる恥知らずな巫女がいた!あ、これ余りものですがどうぞ」
妖夢にずっしりと重い箱を受け取ると、霊夢はその箱の中身を見てみる。
そこには小ぶりの球体に近い餡がいくつも入っている。
「あら、おはぎじゃない。いいの?こんなに貰って」
「はい、ブロントの手ほどきを受けてる身ですから感謝の印みたいなものです」
妖夢は一級廃人であるブロントに稽古を受けており、未熟者と言われた妖夢の実力は確実に上がっていた。
そんな師弟関係からか、時折こうして妖夢から余りものを貰う事があるのだ。
博麗神社においてその金欠ぶりから朝昼夜のおかずが湯豆腐であり、ひどい時は二週間ぐらいはそれが続く程。
妖怪であるルーミアと頑健な男であるブロントは「肉食わせてー;;肉食わせてー;;」と喚くがどうにもならなかった。
そのため、こうしたものは霊夢にとってとてもありがたいものだ。
ものによっては湯豆腐からお肉へと晩飯がグレートアップして湯豆腐よりも充実したご飯生活を認可される。
「お茶でも飲んでく?今ならおはぎを付けてやるわよ」
「お、貰う貰う。甘いものは大歓迎だぜ」
「遊びに来たんじゃなかったの?しょうがないわね」
「折角だから私も頂きましょうかな」
「え?あの、それブロントさんのために…いえ、もういいです」
アワレにもおはぎはブロントに一つも渡る事無く、全て少女達の胃の中に収まる事になったのだった。
おはぎを食べ終え、お茶を飲む魔理沙。
きょろきょろと見回すと、霊夢に尋ねる。
「なぁなぁ、ブロントさんは何処にいるんだ?ちょっと聞きたい事があってよ…」
「残念ながらブロントさんならレベリング中よ。何か用があったの?」
あちゃーと手を顔に当てる魔理沙。
「いや、大した事じゃないんだけどさ。ブロントさんってヴァナにいた頃って冒険者だろ?その冒険を聞いてみたいんだよ」
ブロントは幻想郷の住民ではなく、幻想郷と繋がった異世界ヴァナ・ディールの住民だ。
職業は冒険者と呼ばれるものだが、やる事は冒険だけではなく、貧弱一般人から一級役人からの依頼をこなしたりと実質何でも屋に近いと言える。
そしてブロントは元の世界では謙虚な騎士などと呼ばれる一級廃人であり、その見事なメイン盾っぷりから皆からの人気が絶えない。とはいえ何処ぞの汚い忍者は盛大にディスりまくっているが。
「ならなんでまた」
「幻想郷とは違う世界ってのが興味があってな。それに如何にもファンタジーな世界って憧れないか?」
ブロントさんが身近にいた時はあんまり気にとめてなかったけど、結構凄い事だよなー、と魔理沙は言う。
「私達も充分ファンタジーな部類だと思うけど?特に魔法とかね」
「そうだねー。妖怪も魔物も幻想郷だと珍しくないからね」
「ヴァナ・ディールから来た冒険者も、最初こそ驚いていましたが、すぐに順応にしてますからなぁ…
根本的な部分はあまり変わらないんでしょうね」
魔法使いであるアリス。
今宵の妖怪であるルーミア。
鴉天狗である文。
彼女達は人ではなく妖怪と言われる人外であり、ヴァナ・ディールで言うなら獣人に近い存在だろう。
更に普通の人間では使えない魔法や妖術を使い、人には為せぬ奇跡を為す妖怪は、まさにファンタジーの塊と言える。
幽霊と人間のハーフである妖夢も普通の人間とは言い難い。
「ファンタジーがただある世界じゃなくて、その世界を冒険しようとするからワクワクできるんだよ。
ブロントさんは一級廃人だからそれまでの道の冒険話を聞きたいんだ。
幻想郷にはない、未知に溢れた冒険って奴をな」
魔理沙の脳裏に浮かぶのは幼い頃の自分だ。
まだ親との縁を切る前の自分。
現在では香霖堂の店主である森近霖之助が魔理沙の実家である霧雨店で修業をしていた時に、幼い魔理沙によく本を読んでいた時があった。
そしてその話に魔理沙にワクワクとしたものだ。
剣と魔法を武器に、未知の世界へと冒険していくありきたりな物語。
魔理沙にとって、それは忘れない思い出だ。
魔法と出会う前はその話の主人公のように世界を冒険したいと思っていたぐらいである。
「憧れって奴かしら?ま、ブロントさんが帰るまでゆっくりと…」
「あら、そんな冒険がしたいならその望みを叶えてあげますわ」
隙間が開いた。
それは六つ。霊夢、ルーミア、魔理沙、妖夢、文、アリスの背に隙間が開く。
「な!?」「おいこれって!」「あやややや!!」「わわ、はなしてよー」「まさかこれ…紫様?!!」「くっ、振り払えない!」
割れた隙間から現れたのは無数の白い腕。
その腕は少女達を掴み、隙間の中へ引きずり込もうする。
当然、それに抗おうとするがビクともしない。
数分後、神社の中にいた六人の少女は幻想郷から忽然と姿を消す事になった。
「狩りに時間がかかってしまった感。しかし久々の肉の獲得にエイ夢とうーみあの喜びはマッハにあんる」
カカッっととんずらで爆走していく白銀の鎧を着込む騎士。
長い首と、とがった耳。頑健な事が分かるであろうその肉体。
彼こそが幻想郷で名を轟かせた謙虚な騎士にして、ヴァナ・ディールの冒険者。ブロントであった。
何時如何なる時であっても一級廃人である彼はレベリングを欠かさず、ヴァナ・ディールと繋がった影響で幻想郷にも出現した魔物を次々と討伐していった。
そしてブロントが今持っている肉はその狩りの過程に手に入れたものだ。
その肉はバッファローの肉。
丸々と太った巨大な体躯と大きくねじれた角を持つ。通称、水牛と呼ばれる魔物である。
その狂暴そうな外形からは想像できない草食系であり、主に植物系の食物を次々と食べ続ける。
その食べる量もわずか一日で博麗一家の一か月分に相当する程であり、アワレにも山の幸がバッファローで枯れるのが時間の問題だったのが、ブロントさんがカカッっと討伐していったのだ。
そしてそのバッファローから採れる肉は臭みが無く肉質も良好。味も霊夢も感動の余りに涙を流すぐらいは美味である。
「今日は三人で牛鍋だな…寒い日には鍋が最高だよ>>牛肉感謝」
狩り場から普通ならまだ辿りつかないのをとんずらできょうきょ神社に帰宅する。
「??誰もいにぃのか?」
いつもなら霊夢かルーミアがいるはずなのだが、神社の中には誰もいなかった。
あるのは居間の机に置かれた六人分のまだあったかいお茶の入った湯飲みのみ。
「おいィ…」
誰もいない神社に、騎士はただ一人途方に暮れていたのだった。
東方幻想鉄
第一話「幻想と幻想が両方そなわり究極幻想に見える」
「はっ!」
霊夢は目を覚ます。
何か悪い夢を見ていた気がする。
具体的に言うなら隙間に…
「お、霊夢も目覚ましたか」
魔理沙の声がした。後ろを向くと、霊夢のよく知る黒白の少女がいる。
「ここ、何処なんだろうな。紫の隙間に引きずられて目を覚ましたらもうここにいたし」
夢じゃなかったか。
霊夢は今見ている光景が現実であると認識し始める。
それはまるで草の海であった。
風が舞うたびに、青い草はゆらゆらとゆれる。そのゆれが波を作り、遥か彼方まで伝わって行く。
所々には木々が生え、その木には大きな実を付けている。
川を見つけた。遠目からでも分かる透き通るような綺麗な川だ。
河童が喜びそうな川ね、と心の中で思う。
それだけの光景なら驚きはしない。そう、それだけの光景なら。
芋虫を巨大化したような化け物が茶色のウサギを捕食し、川ではあきらかに宙に浮いてるとしか思えない魚と大きな蟹っぽいのが共存している。
先ほどの芋虫のように、蜂を巨大化したような化け物は花に群がっている。蜜を吸っているのだろうか。
それは幻想郷にはない光景であった。
いくら幻想郷はヴァナ・ディールと繋がっているとはいえ、ここまで自然の一部になっているようなぐらいに魔物は出ているわけではない。
そもそも霊夢はこの平原は覚えがない。
ここが幻想郷であるなら、霊夢は覚えがあるはずなのだ。伊達に幻想郷の結界管理をしているわけではない。幻想郷の事なら隙間妖怪の次ぐらいは知っていると自負している。
「ん…ちょっと待って…」
幻想郷の博麗大結界に何らかに異常が感じれれば、博麗の巫女である霊夢は即座に反応できる。
彼女は博麗大結界に何か異常がないか感じ取ろうとするが、何も感じ取れなかった。
いや、違う。これは感じ取れないと言うより…
「あやや。霊夢さんはすでにお目覚めですか」
「おー、文。どうだったよ?」
霊夢が考え事をしている間に、文、ルーミア、妖夢、アリスが戻ってきた。
彼女たちは霊夢よりも先に目覚め、ここが何処であるかを調べに行ってきたのだ。
「近くを色々と見て来ましたが私達の知る所ではないのは確かですな。自然が多いようで、遺跡のような構造物があり、幻想郷で見た事がある魔物が自然と調和しながら生きている」
文はうむむと唸りながら、考え始める。
これでも文はそれなりに長く生きた妖怪だ。
幻想郷に博麗大結界が施され、外界と完全に閉ざされる以前からの。
その長生きした文ですら、この光景には見覚えはない。
「はぁ、はぁ、…あの隙間は、恐らく紫様の、だと思うので、紫様が、連れて来たんでしょうけど…はぁ」
息が切れ切れに話す半人半霊の侍娘、妖夢はあの隙間の正体は八雲の大妖怪にして、幻想郷の賢者 八雲紫ではないかと言う。
八雲紫の持つ能力「境界を操る程度の能力」は物事の隙間を作り、操る事が可能となる力だ。
その超常現象を引き起こす事が可能な力は幻想郷でも上位に位置する程であり、空間と空間の隙間を開き、瞬間移動する程度なら造作もない事だ。
「ま、問題なのは、あの紫がなんで連れてきたのかなんだが…てか妖夢大丈夫かよ?顔が青いぜ?」
「す、すみません。なぜかここに来てから楼観剣と白楼剣がみょんに重く感じて…」
妖夢の持つ長刀「楼観剣」と短刀「白楼剣」。
それぞれが一振りで幽霊十匹分の殺傷力と、斬られた者の迷いを断ち切る効果を持ち、
祖父である先代白玉楼の剣術指南役兼庭師であった魂魄妖忌から受け継がれた名刀である。
その二刀に恥じぬ剣客であろうと日々鍛錬に励む妖夢。
ブロントが幻想郷に来る前からその二刀を同時に使用し、高速戦闘が可能とする膂力を持っていたのだが、
今ではその重さにひぃーひぃーと言っている有様である。
「ねぇ、妖夢。もしかして…"霊力"が練れなかったりしない?」
考え事が終わったのか、霊夢は妖夢に"霊力"が練れるかどうか尋ねる。
"霊力"とは幻想郷に住まうモノなら誰もが持ち合わせる力だ。
その"霊力"を使う事で弾幕を作ったり、術を発動させたり、空を飛ぶ事ができる。
中には魔法を使うための"魔力"、妖怪が持つ"妖力"、神々の使用する"神力"などがあるが、似たようなものだろう。
「え、ええ。確かに"霊力"が使えませんが…私は体が悪いのかと思いましたけど…」
「いえ、違うわ。それは体が悪いとかじゃないの。
文とルーミアは"妖力"が使える?アリスと魔理沙は魔法が使える?」
その言葉に一同は顔を変えて、己の持つ力を確認する。
「あ、あれー?闇がでないよ?」
ルーミアはえい、えい、と「闇を操る程度の能力」で闇を作り出そうとするがうまくできない。まるで今までできた事を忘れてしまったように。
「風は…感じる事はできても、操れない…これでは早く飛ぶ事ができませんな。最も妖力が使えないとなると飛ぶ事自体が無理ですか…」
天狗の扇を片手に風を感じ取ろうする文。そのまま操ろうとするが、そこから能力が使えない。
幾つか天狗の術も試してみるが、見事に発動しなかった。
「駄目だわ…術式自体は行けるけど、魔力が絶対的に足りない。これじゃ魔法が発動できないわ。人形も一体操るのが限度なんて…」
「…シャンハーイ」
「光符「ルミネスストライク」!魔符「スターダストレヴァリエ」!儀符「オーレリーズサン」!!
……おいおい、嘘だろ?全然発動しないぜ…どうなってんだよ!これは!」
二人の魔女は魔法を試してみるも、そのどれもが発動しない。
いつもなら軽く数十体は同時に人形を操る七色の人形遣いと言われたアリスは今では一体が限度である状態になっている。
魔理沙もヤケクソ気味にスペルカードを使用するが、どれもが不発している。
「私にも理由は分からないわよ…でも今言える事は私達は力を失い、貧弱一般人になっている。そしてここが幻想郷ではない"何処か"って事よ」
そう、霊夢達はその力のほとんどを失っていた。
幻想郷では一級廃人とも渡り合える程の実力者が一転し、貧弱一般人になってしまったのだ。
これを悪夢と言わずに何と言うのだろうか。
「でも、なんでこんな事に…」
「その問いは私が答えますわ、妖夢」
霊夢達の目の前に隙間が現れた。
隙間は大きく開き、その隙間から美しい美女が現れる。
流れるようなウェーブのかかった金の髪。完成された人形を超える恐ろしく整えられた顔。スタイルも紫色の服ごしからも分かる起伏のとれた妖艶な体。
人であるはずがない。化け物のような美しさを持つそれは人に非ず。名は八雲紫。境界を操る大妖怪であった。
「紫…やっぱあんただったのね…で、なんでここに連れてきたのか、なぜ能力を使えないのか。
きっちり全部話して貰いましょうか」
「ええ、霊夢。そのために私が来たんですもの」
フフフと微笑する紫。それにムカっとしそうになるが、冷静さをすぐに取り戻す。
状況が状況だ。少しでも情報が欲しい。
「まずこの世界に連れて来たのは私、八雲紫よ。そしてこの世界はあなた達のよく知る世界」
"世界"。場所ではなく、"世界"と言った。
「世界ですって…まさか」
「そのまさかよ、霊夢。
ようこそ皆様。人々の愛する世界"ヴァナ・ディール"へ」
ヴァナ・ディール。それは幻想郷と繋がった異世界であり、ブロントの元いた世界。
「ヴァナ・ディールって…本当かよ!ここがブロントさんのいた…!」
「あやややや…これはこれは…」
皆、驚きは隠せなかった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、紫!あんたが隙間を使って、この世界につなげられるのはまだいいわ!
ならなんで私達をここに連れてくるのよ!」
「その黒白の魔法使いが望んだのを叶えただけですわ。冒険がしたいという望みをね…
魔理沙以外にあなた達も連れて来たのは、あなた達も心の何処かで望んでいたからよ。
白夜の騎士が歩んできたヴァナ・ディールを見てみたい、体験したい、冒険してみたい…という気持ちをね」
魔理沙はブロントと共に幻想郷の異変を解決するたびにある思いがあった。
ブロントのいた異世界であるヴァナ・ディール。
その世界は、少女が幼い時に夢見ていた冒険者が活躍する世界だったのだ。
そしてそれは魔理沙だけではない。
霊夢とルーミアはヴァナ・ディールはどんな世界なのか考えた事がある。あの謙虚な騎士が己の身一つで守り続けた世界を。
文はさぞかしネタが広がってそうだと考えた事がある。しかもブロントが言うにはヴァナ・ディールにも新聞があるので、どのような新聞が作られているか興味もあった。
アリスはヴァナ・ディールの魔法理論とカーディアンに強い興味を抱いていた。特にカーディアンはアリスの夢見る「自立する人形」のヒントになると思っていた。
妖夢はブロントのような一級廃人がいるヴァナ・ディールに憧れを持っていた。聞けばブロントを超える実力者がいるという事ではないか。妖夢はただ、その世界に生きる武人にわずかながらも尊敬を抱いていた。
「なるほどね…なんでヴァナに来たのかは分かったわ。次は私達の事よ」
「そうね。それが少しやっかいな事なの。
まず幻想郷とヴァナ・ディールは世界の下地自体が違うのよ。
例えるなら水と油。そのぐらいに違うわ。
あなた達、幻想郷の住民は、ヴァナ・ディールの世界からして見れば異物でしかないのよ。
その異物が長くいれば当然、世界に矛盾が生じる。
そうなったら世界が破局を迎える事だってあり得る。だから世界はあなた達を"幻想郷の住民"から"ヴァナ・ディールの住民"に塗り替えたのよ。
水と油は交わらない。でも水と水、油と油なら極論だけど交るのよ。
あ、それと安心しなさい。幻想郷に戻ればちゃんと"幻想郷の住民"に戻るから。」
それが霊夢達の能力が使えない事であった。
世界が違えば、その法則は世界ごとに違う。
元の世界のままの法則で行けば、異物となる。ならその世界の法則に定まった存在になればいい。
その過程に、"霊力"、"妖力"、"魔力"を失ってしまい、一級廃人から貧弱一般人になってしまったのだった。
「じゃあ、なんであんたはその隙間は使えるわけ?おかしくない?」
「どうやら能力自体の影響は少なかったみたいなのよ。
これでも苦労したのよ?この世界でも隙間が使えるようになるのにね。
それに隙間以外の能力は、私も貧弱一般人と対して変わりないみたいだし…大妖怪と言われた私が世界の法則に逆らえないなんて笑えないわねぇ」
紫が言うには、能力…つまり霊夢の「主に空を飛ぶ程度の能力」やアリスの「人形を操る程度の能力」は訓練次第に使用できるにはできるらしい。
現にアリスは、上海人形を一体だけであるが、巧みに動かしている。
「纏めると、
この世界はブロントさんがいたヴァナ・ディール。
そしてそれを連れて来たのは八雲紫で、理由は私達が行ってみたいと思っていたから。
能力が使えないのは、世界の法則が違うから…と言った所ですかな」
「ああ、また見事に三行に収まったな。十四行も使った賢者(笑)は相変わらず話が長くて纏める事ができないこまったちゃんだぜ…」
「;;」
酷い言われように紫は静かに涙を流していた…。
ゆかりんは乙女なので、酷い事を言われると心が簡単に傷つくってけーねが言ってた。
「くっ、ゆかりんは強い娘、優しい娘。例え何を言われても怒らない(この辺の器の大きさが人気の秘訣)
では本題に移りますわ(キリッ
あなた達はこれからこのヴァナ・ディールで冒険者として活動してもらいます。そして私からの依頼を完了したら私が幻想郷に帰してあげる。
もし依頼を果たせず一年かかっても、幻想郷に戻す事になるからそのつもりで」
「はぁ!?いきなり何言ってんのよ!だいたい私がいないと博麗大結界が維持できないじゃない!それに私がいないとブロントさんが空腹のあまり骨になる!」
「いえ、それはないんじゃないですか?ああ見えて自給自足は出来るみたいですし…って私も幽々子様のお世話が!」
さすがに最高でも一年は異世界に留まり続ける事にギャーギャーと騒ぎ始める。
特に霊夢は幻想郷で必要不可欠な人物なのだ。彼女がいなければ博麗大結界が維持できなくなってしまう。
「それも問題ないわよ。帰る時には幻想郷からヴァナ・ディールに送った時間の直後に送り帰すから結界には影響はないわ
存分に世界を感じて…冒険をしていらっしゃい」
その時の彼女は、まるで親が子を送り出すような優しい顔をしていた。
「依頼ねぇ…あんたの能力なら私達に頼まなくてもやれるんじゃないの?」
「あら、それは駄目よ。あなた達をこの世界に送った個人的な理由が二つがあるんだから」
紫はその細く美しい指を二本立てる。
「理由?何なんだぜ?」
「一つは絆を感じてほしいのよ。と言っても幻想郷でブロントさんと共に闘ったあなた達に絆の意味は分かっていると思うわ。
でもブロントさんが生きたこの世界で、この世界だからこそ見つけられる絆を紡いでほしいの。
それはあなた達にとってとても尊いものになると思うわ。
そしてもう一つ…」
紫はニヤっとした。
「貧弱一般人になったあなた達がひーこらこいて苦労するのを楽しく見させて貰うわwwwwwww」
「くたばれ、クソババァ!!」
霊夢はふざけた事を抜かす妖怪ババァに一発殴るために拳を固め、殴りかかる。
それをひょいっとかわすと、指を西に向ける。
「この先にウィンダスという連邦国家があるわ。
冒険者登録は先にやっておいたから、そこにいるガードに話せば晴れて冒険者になれるはずよ。
そこから先はガードとモーグリが教えてくれるから、頑張りなさい」
隙間に潜り、その姿を消していく紫。
紫の声が響く。
──氷河に眠る古代遺跡。そこに眠る龍の爪を取りに行け。これが私からの依頼よ。
後に残されたのは貧弱一般人として異世界ヴァナ・ディール降り立った霊夢達であった。
★
ウィンダス連邦。
魔力に満ちた水と、偉大なる大樹の恵み。
月と星の加護を受けし、それはそれは、古き都。
ミンダルシア大陸の南方や、その近隣の島々に住む小柄な民タルタルの諸部族が連合して成立させた連邦国家。
街の一角には、タルタル族と友好関係にあるミスラ族が暮らし、天性のハンターである彼女達の狩りの技が、この都を一層豊かなものにした。
連邦の首都ウィンダスは、数十年前の戦火で一度は見る影もなく荒れ果てたが、今では街全体が魔法研究機関として機能する学術都市として、見事な復興を遂げている。
人々が多く行き交い、荒廃の面影はもはや無い。ウィンダスは今、再び静かな平穏に包まれている。
―四国家の歴史:ウィンダス編。その誕生と国家までの発展。より抜粋。
徒歩で数十分。霊夢達はウィンダスに辿りついた。
その過程に魔物は避けている。貧弱一般人となった彼女らは雑魚であっても対抗するのが難しい。
草原の中に浮かぶ魔法都市は、どの建物も木と土で自然を尊重した作りとなっている。
そのためか、木々の多さも相まって空気が非常にうまく感じた。
「はぁー…ここがえっと…」
「ウィンダスよ、魔理沙」
「そうそう、アリス。ウィンダスだ。…本当に異世界に来ちまったんだな」
口と目を見開きながら、ウィンダスをきょろきょろと見回す。
ウィンダスにあるモノ全てが魔理沙にとって未知そのもの。
その姿は田舎者そのものであった。
「何?もうほーむしっくになっちゃった?」
「へへ、何言ってんだよ、ルーミア。むしろ逆。ワクワクとドキドキが堪らないぜ」
貧弱一般人になってしまい、それでも魔理沙の心の中にあるのは止まらない好奇心であった。
それは子供の頃に抱いた夢が、今実現している証でもある。
「待ちなさい!そこの者!!」
門をくぐり、ウィンダスに進もうとする途中で猫耳と尻尾を生やした女性が遮る。
猫のような外形をした彼女はミスラ族。ヴァナ・ディールに住まう五大種族の一つである。
鎖帷子を身に付けた彼女は冒険者ではない。戦闘魔導団に所属する冒険者を支援するガードだ。
「君達…見たところ冒険者じゃないね。いったい何者だい?」
目を薄くしながら、霊夢達をじろじろと見つめている。
「悪いけど、冒険者じゃなきゃ許可無しでは通れないよ!通りたかったら許可を得てからね!」
しっしっと虫を払うような対応に霊夢はカチンと来た。
「ちょっと!何よそれ!だいたい紫からここに行けと言われてきたのに、許可なんて知らないわよ!」
「お、おい、霊夢、おちつけって!」
「ん?レイム…?」
ミスラの女性はレイムという言葉に反応し、腰のポーチから大ぶりの真珠を取りだす。
それを手に持ち、目を閉じる。
「…ス、レ……、はい…りました」
突然真珠を手に持ち、ぶつぶつと呟く彼女に霊夢は少し引いた。
「ん?なんで引いてるのさ?
えーと、一応、確認するけど紅白の君はハクレイ・レイムで合ってる?」
「ええ、確かに私は博麗霊夢よ」
「で、黒白の君はキリサメ・マリサ。黒い女の子はルーミア。翼を生やしたのがシャメイマル・アヤ。カタナを持ってるのがコンパク・ヨウム。オートマトンを操ってるのがアリス・マーガトロイド?」
「合ってるぜ」「そうだよー」「合っていますよ」「はい、そうです」「合ってるわ」
ミスラの女性の顔がさーと血が引くように青くなっていく。
「ご、ごめん!」
腰を下げ、謝る。力の入り具合から本気で謝っているようだ。
「おいおい、どうしたんだ?いきなり謝って」
「き、君達が"東方"から来た冒険者志願だって事分からなくて…!」
「東方?何言ってんだ?私達はもがぁ!?」
「ええ、そうなんです。いやはや大変でしたよ、"東方"からここまで来るまでは…
さて、もう通っていいですかな?」
幻想郷から来たと口走りそうだった魔理沙の口を閉じ、文が代わりに言葉を返す。
「待って!渡したいものがあるから!」
ミスラの女性は門の横にある扉を開き、そこに入る。
数分後、ネックレスと何かが入った袋を携えて戻ってきた。
「はい、これが冒険者の証になる《シグネット》だよ。これがあれば他国でもほとんどノーパスで行けるから。
それでこっちは資金と地図。そんなに多くないけど資金は装備を揃えるのに使ってね。あと地図には迷わないように必要な所に印を付けておいたから」
ミスラの女性から渡されたのはヴァナ・ディールの冒険者なら誰もが持っている橙色をした宝石のネックレス。
それは幻想郷から来た少女にも見覚えがあった。
ブロントだけではない。内藤やリューサンも肌に離さず首にかけているものだ。
《シグネット》
特殊な魔法加工で出来た冒険者の身分証明書であり、それを付けて魔物を討伐したり、国からの依頼をこなす事で"戦績"を貯める事が出来る。
その"戦績"と引き換えに国から支給を受けたり、冒険者の位を上げ、危険な依頼を引き受けたり、危険な場所への冒険が可能となるのだ。
無論、例え位が低くてもそれは身分証明書代わりになるので他国に行っても問題無く通る事が可能だ。
地図はウィンダスを上から見たように正確に書かれている。
調理ギルド。骨工ギルド。織工ギルド。漁師ギルド。合成を生業とする者たちの施設であり、そこには冒険者が日々、技術を磨いている。
モグハウス。冒険者に無料で貸与されるワンルームハウスだ。冒険者一人一人にモーグリという謎生物が派遣され、その部屋を管理する事になっている。
ウィンダスはとても広い。そのため、各エリア(水の区。石の区。港。森の区)に高位の魔道士が移送の魔法で「移送サービス」をしてくれる。
それ以外にもウィンダスを魔法国家と言うに至った五院や、国からの依頼であるミッションを発行するなどをする天の塔など初心者にも分かりやすくメモも書かれていた。
「おー!ありがとうな!えーと」
「ルッ・ヅゥだよ。ルゥでいい。いや、焦ったよ…君達が追い出したままだったら最悪クビだったかも…特に僕はまだ新人だからボスは簡単に切るだろうしなぁ」
はぁー、と大きく溜息をつくミスラの女性…ルゥ。
「それはそれは大変な事で。しかしなぜそこまで?」
「ん?知らないのかい?最近じゃあ、冒険者は各国からしてみれば一人でも欲しい人材なのさ。
何せ、相応の依頼を下せば大概は果たしてくれる。果たせなくても国からしてみれば痛手ではない。
しかもコンクェスト政策…簡単に言ってしまえば領土争いも冒険者が勝手にやってくれるからこれ程都合のいい人材もいないだろう?
それに君達は"東方"から来たらしいからね。"東方"との貿易がウィンダスにとって優位になるから特に重要なのさ」
冒険者は冒険をするだけではない。金を稼ぎ、日々を過ごすために何でも屋として様々な依頼をこなさなくてはならない。
そして国からおつかいから国の命運をかけるミッションを冒険者に依頼する。
そのほとんどが多額の報酬、もしくは"戦績"だ。
冒険者が断る必要もなく、中には報酬目当てに奴隷のように国のために働く者だっている。
「("東方"から来たわけじゃないんだけどなぁ…)領土争いって…せんそーでもしてるの?」
ルーミアは幻想郷から来た事を黙りながらも、コンクェスト政策に質問する。
「いやいや、そんな事はしないよ。
《シグネット》を渡した時に、魔物を倒すと"戦績"が入るって説明したよね?その"戦績"分の数値が領土勢力を伸ばす事になるのさ。
そしてだいたい半年ぐらいで各国の領土勢力で最も高かった国がその国の領土になるわけ」
「そーなのかー」
その国の領土となった地域はその特産品を優先的に輸入する事ができ、領土が多ければ多いほど物価も安くなり、更に"戦績"で手に入る支給品も質が良くなる。
そのため、時には意識をしながらもコンクェスト政策を行う冒険者もいる。
「親切にありがとうね。感謝するわ」
「どういたしまして。ではようこそ、ウィンダス連邦へ!
私達はあなた達を歓迎します!」
風が吹き、木々が揺れる。
その木に止まる鳥達はピピピと鳴きながら飛んでいく。
それはさながら、霊夢達を歓迎しているようだった。
★
──とりあえずモグハウスに行って、準備をするといいよ。
ルゥにそう言われて、地図に書かれたモグハウスを目指す一行。
途中で小人のように小さい五大種族の一つ、タルタルやルゥと同じミスラとすれ違う。このウィンダスはタルタルとミスラの国だけあってか、すれ違う人のほとんどはそれだけだ。
たまに霊夢や魔理沙と同じ種族のヒュームがいるぐらい。鎧姿に《シグネット》をかけている事から冒険者だろう。
ブロントと同じ種族であるエルヴァーンは見た事がない。魔法国家だけあって、頑健な肉体を生かしたエルヴァーンでは魔法が主体であるウィンダスとは合わないのかもしれない。
途中で自立人形の形であるカカシに似たカーディアンに目を奪われるアリスであったが、慌ててついていこうとする。
「お、ここだな」
森の区と呼ばれるウィンダスのエリアの一つ。中央の噴水から右側に進み、途中にあるガーディアン制作と知られる手の院を超えた先に分かれ道がある。
ここから左に進み、道沿いに進むとそこは冒険者に無料貸与されるモグハウスだ。
「★トマレ」
モグハウスの中に進もうとすると、カーディアンがそれを遮った。
「《シグネット》ヲ★ミセろ」
「これでいいかしら?」
霊夢は首にかけているネックレス…《シグネット》を見せる。
「……カくニン★シた★トオレ★」
カーディアンは霊夢達の《シグネット》を確認すると道を開く。
「愛想のない奴だったなー。あれなら上海のがかわいく見えるぜ」
「でも完全に自立してたわ…誰かが操ってるわけでもない…興味深いわね」
魔理沙はカーディアンの淡々ぶりに愛想がない奴と感想を言うが、アリスは逆だ。
ある程度、やる事に関しては命令プログラムされているだろうが自分の人形と違って誰かが操っているわけではない。
自分の意思を持って仕事を行っているのだ。動きもまるで命を吹き込まれているぐらいに滑らかだった。
「ここが私達の部屋ですか?」
「個室ではなく、共部屋ですか…纏まってるほうが楽でいいですかな」
モグハウスの通路を歩き、複数ある扉から地図のメモに書かれたナンバーを見つけ出し、扉を開く妖夢。
「へぇ…結構広くていいじゃない」
霊夢は部屋を見回すと、満足したようだった。
部屋は割と広かった。六人が暮らすとなるとやや狭く感じるかもしれないが、暮らせない事はない。
冒険者として成り立ての彼女達にとって、破格の部屋と言えるだろう。
「くぽぽー、君達がモグの新しいご主人様クポ?モグはモーグリクポ!こんごともよろしくクポ!」
突如、部屋に現われた謎生物。
赤い丸い鼻に、ぼんぼんを生やしている。背中から生える小さな蝙蝠のような翼で飛んでおり、そのもぐらのような顔が愛嬌がある…かもしれない。
白い毛皮で覆われたその謎生物はモーグリ。モグハウスを管理する小さな管理人だ。
「か、かわいいー」
ルーミアはそれを見ると飛びだした。妖怪とはいえ、精神は幼い女の子。
かわいいものを見つけた時は、見た目相応に喜ぶものだ。
ルーミアに飛びかかれ、ぬいぐるみのようにぎゅっとされるモーグリ。
しかし、ぬいぐるみ扱いされるモーグリは苦しそうだった。
「く、苦しいクポォ…」
「こらこら、ルーミア。かわいそうだろ、モーグリが」
ルーミアからモーグリを取り上げるように離す魔理沙。
ルーミアはやや残念そうな顔をしている。
「た、助かったクポ」
「いいってことよ」
モーグリを持ち続ける魔理沙。
意外と柔らかな感触にちょっとした出来心ができてしまう。
ぎゅー。
「いひゃひゃひゃ」
「だはははは!見ろよ!アリス!こいつ、すっげー伸びるぜ!」
モーグリの頬を伸ばしていた。
餅のようにびろーんと伸びている。
「やめろ馬鹿!」
アリスの拳骨が魔理沙の頭に落ちた。ちゃんと帽子を取ってから。
ゴチンと音がし、モーグリは何とか難を逃れる。
「いってー。本気で殴っただろ!」
「当たり前よ!いきなり何してんのよ!
…ごめんなさいね、こんな馬鹿がいて」
頬を伸ばされたモーグリの頬を優しく撫でるアリス。
「こ、今度こそ助かったクポ…
…?モグに何かついてるクポ?」
アリスはモーグリのとある部分をじぃーと見つめていた。
「え、えと…そのぼんぼんを触らせて欲しいな、なんて…な、なんでもないわ」
「モグはご主人様のお部屋の管理のほかに、道具の整理や冒険者として戦闘に関する職業(ジョブ)の選択もやるクポ!」
「ほほぉー、つまりモーグリさんは我々冒険者のサポートをする立場だと」
話は再開した。
モーグリから、モグハウスの利用法を聞きだした。
「すべてのモーグリはそうと言えないけど概ね間違っていないクポ」
まず部屋の管理だが、ベッドや布団、身の回りの整理などの家政婦のような事をしている。
そのため、冒険から帰れば常に清潔でふかふかとなっている布団で睡眠を取る事ができる。
これがモーグリが冒険者に好かれている理由の一つだ。最高の睡眠を約束するのに、彼らはそういった事に手を抜かない。
時々、その布団の上で寝ている時もあるらしいが。
「あと栽培もやるクポ。栽培用の種と植木鉢があれば、ご主人様が冒険に出ている間にモグが世話をやるクポ。
…でもあまり期待しないで欲しいクポ。あまりモグハウスから離れすぎて管理を怠るとカリカリになっちゃうクポ。」
そしてこれが嫌われる理由でもある。
栽培と一言に言っても、それは中々奥が深い。なぜならその栽培は時に、高級なアイテムを落とすからだ。
大抵の場合が合成用のクリスタルで稀に鉄やプラチナの葉が採れる事があり、それは高く売れる。
超高級の種ともなれば属性を帯びた鉱石が採れる事ができ、一気に金を稼ぐ事が可能だ。
…なぜ植物の種から鉱石が採れるかは気にしていけない。
しかし最悪のは収穫時期を見逃し、枯れる事だ。この事に棚をあげ、モーグリの事を嫌う冒険者は少なくない。
「そして冒険者の本題!職業の変更クポ!」
冒険者は様々な職業ジョブで、世界を冒険していく。
王道の戦士や魔道士もいれば、踊り子や吟遊詩人など、到底戦いに向いていないようなものまでその種類は二十二種。
今では情報が世界に周り、特別な鍛錬をすれば誰でもナイトや召喚士になる事は可能だ。
しかし竜がいなければ始まらない竜騎士や歴史の中に消えた学者などはなるのが難しいと言えるものはあるが。
モーグリはそんな冒険者の職業ジョブを変更できる力を持ち、今まで戦士として歩んできた冒険者が黒魔道士として活動する事が可能だ。
とはいえ、鍛錬のやり直しになる事になるので大概は一つの職業を極めようとするのがほとんどとなる。
「職業ジョブですか…これは慎重に決めませんと…」
「そうね。じゃあ私はモンクで行くわ。リアルでもモンクタイプの私に隙は無かった」
「おいィィィィ!慎重に決めようと言った先からこれだよ!」
妖夢は最初に選択できる六つの職業ジョブを睨めっこしながら、霊夢はあっさりとモンクの道に突き進んでいった。
モンクとは己の肉体を武器とする格闘のエキスパート。
その拳は高い戦闘術によって凡庸な武器すらも超える凶器となる。
「私は黒魔道士以外あり得ないぜ。精霊魔法はパワーだぜ!」
魔理沙は黒魔道士の道を選んだようだ。これは予想道理と言った所で特に反論は無かった。
精霊魔法と呼ばれる攻撃魔法を主体にした攻撃の魔道士。
その代わり魔道士だけあって重厚な防具は装着できず、アウトレンジを維持した行動が求められる。
「私は白魔道士かなー。魔法と回復、どっちも使ってみたいし」
「それはいいかもしれないわ。ルーミアは小さいから前には不向きでしょうし」
「それに別作品だと黒魔道士だから、こっちでは回復役になるよー」「おい馬鹿やめろ」
ルーミアは白魔道士となる。いくら妖怪とはいえ、見た目相応の力しかでない現在では後方から魔道士が適任と言えるだろう。
女神アルタナを信仰し、癒しの力で仲間を助ける回復の要。
回復以外にも防御を引き上げたり、逆に敵を弱体化させる魔法など得意とする。
「なぜ侍が初期から選べないのですか;;」
「侍は"東方"から伝わる特別な職業クポ…ヨウムさんが侍の鍛錬をこなし、侍になれる資格を取らないとなれる事はできないクポ。
ごめんだクポ」
「いえ、モーグリさんは悪くないです…私のできるのだと戦士ぐらいしかないですか」
妖夢は戦士となった。侍がないため、それ以外に道がないのだ。モンクは霊夢がやるので、かぶりを避けるしかない。
様々な武器の扱いに精通する武器の達人。
更に多様な防具を装着できるため防御力も高いので、メイン盾をこなす事も可能。
とはいえ、魔法に対しての抵抗力が低いのでナイトに比べると盾としては劣ってしまう。
「前で戦うのは性分ではありませんし、シーフが妥当なとこですかな。素早い職業なら相性も合っているでしょうし」
別に文はめんどくさがり屋というわけではない。ただ自分の相性のいいのがシーフであった。それだけだ。
正面から戦うよりも、敵の行動を妨げたりアイテムを盗み取ったりと、俊敏な性質を生かして支援をする盗賊。
時には不意打ちを突く事で、致命的な致命傷を与える事もできる。
「何でも一通りこなせる職業ジョブならパーティーも安定するかしら」
最後は赤魔道士を選んだアリス。攻撃と回復、両方が器用に可能となる職業ジョブに、アリスは進んだ。
癒しの力である白魔法と精霊魔法による黒魔法。それに加えて剣術にも長ける万能魔道戦士。
しかしその出来る量から長い鍛錬を必要とする、難易度の高い職業でもある。
「くぽぽ?ちゃんと職業決めたクポ?では行くクポ!」
モーグリはくるくると回り始めた。
「職業変更~~!くぽぽぽぽ~!」
霊夢たちの体が光に包まれた。
暖かく、優しい光に包まれる。
変化はすぐに表れた。
今まで力がろくに感じられなかった貧弱一般人だった体に、別の力が加わったような気がした。
それは"霊力"とも、"妖力"とも違うが、確かに力である事が分かった。
今はそれが何の力か分からない。それでも今、彼女達はヴァナ・ディールの地で戦う力を手にしたのだ。
「これで職業は決まったわね。あとは装備か…」
ルゥから貰った袋からじゃらじゃらと通貨を取りだす。
割とずっしりとしていたため、中々の量だ。
ヴァナ・ディールの共通通貨。ギルだ。
「むぅ…」
「これ…いくらぐらいなんでしょうな」
「ブロントさんに聞いとけばよかったですね」
六人の少女はギルの単位が分からなかったのだ。
それは当然と言えば当然だろう。
ヴァナの住民であるブロントは幻想郷でもギルではなく、幻想郷の通貨である円を使っていた。
そして、ギルの事を聞き忘れていたツケがここで来たようだった。
「ねぇ、モーグリ。ギルの単位って分かる?」
ルーミアは袋から出されたギルの山を指指しながら、及び腰なモーグリに尋ねる。
モーグリがやや及び腰気味なのは、先ほど抱きつかれた事でルーミアに恐怖心が残っているからだろう。
臆病者であるモーグリはちょっとした事でも隠れてしまう事で知られている。
「くぽ?この量だと…6000ギルはあるクポ。たぶん、一人当たり1000ギルクポ」
「それって多いのか?」
「初心者の冒険者にとっては多いクポ。装備を一通り揃えられるクポ」
1000Gというのは中々の多さだ。冒険者を始めたばかりの初心者が相応の武器、防具を買ってもおつりがくるだろう。
「よし、まずは装備を買いに行こうぜ」
「魔道士と戦士組に分かれて、買い終わったらモグハウスに戻る事にしましょう」
霊夢、妖夢、文と魔理沙、ルーミア、アリスと分かれ、モグハウスを出る事にした。
魔理沙達の場合
ウィンダス港は桟橋に係留された船の上にギルドやショップのある一風変わったエリアだ。
港と言うだけあって、すぐ先には青い青い海が見える。
外界が閉ざされ、初めて見るそのあまりに広大な海にアリスですら呆けてしまった。
「おい、何だ、ありゃ!!」
魔理沙は空を指さす。
その先にはパッパッパッと音と共に、何かがやってくる。
でかい。ただひたすらでかい。
魔理沙やアリスの家よりも…いや、博麗神社よりもでかい。
空に浮かぶ巨大な船であった。
そのあまりに非現実的な光景に、またまた呆けてしまう。
前後に大きな風車が横倒しの形で取り付けられており、猛烈な勢いで回転している。
あれが音の正体なのだ。
これこそがジュノ大公国首長カムラナート大公が復活させたクリスタル推進機関と古の設計図を基に、
工業技術都市国家バストゥークの天才技師シドが指揮して作り上げた「空に浮く船」。
特殊な回転翼による揚力とクリスタル機関による推力によって、 ほとんど滑走を必要とせずに、離水・着水することができる。
その名は「飛空艇」。
最新技術の集大成にして、ヴァナ・ディールを代表する一つの象徴であった。
ウィンダム港にある商い船の一つ。錫杖のホービバムビバ。
元々は店名にある様に魔道士向けの杖や錫、棍棒のみを扱っていたが、冒険者の時代というこの時勢と冒険者の要求に抗いきれず、息子のタニコマニコには鎌や槍、弓矢なども扱わせている。
同店は、来客を一風変わった挨拶で迎えることで知られる。
「ホービバムビバ。
いらっしゃい。うちは武器を取り扱っている店だよ」
店主であるホービバムビバはタルタルだ。
子供にしか見えない彼だが、立派な大人である。
タルタルは子供のうちに成長が止まり、そこから成長する事がないのだ。
「見たところ、まだ冒険者の成り立てだね?隣に仕立のグルナマグルナがあるから防具も見るといい」
「そうね。後で見に行くわ。ところで何の武器を置いているのかしら?」
「基本的に魔道士向けの杖が中心だね。タルタルの武器だからってバカにするなよ?あると無しで大きな違いがあるから」
店主であるホービバムビバはいくつかの武器を持って来る。
そのほとんどが木製の杖だ。
大きな杖から、しゃもじような杖まである。中には銅製の短剣もあるが、あまり切れ味は良くなさそうだった。
「初心者ならこの杖をオススメするよ。取り回しが楽だし、盾も装備できるからね」
ホービバムビバが手に取ったのはしゃもじに見える杖メープルワンド。
片手根に分類されるそれは、職人の手によって作られた立派な武器だ。
持つだけで魔道士に必要にされる力が増加すると言う。
「お、軽いぜ、これ」
「そーなのかー」
「じゃあ、これを三つくださいな」
「毎度。一つ55ギルだから…150ギルでいいよ。15ギル負けてあげる」
どうやら、三つ買ってくれる事で負けてくれるようだ。
「これ以外にも武器はないの?おじさん」
「おじさん…息子のタニコミニコには冒険者用に槍だとか弓を扱わせているけど…そんなに数があるわけじゃないね」
ルーミアのおじさん発言にちょっぴり傷ついたホービバムビバ。
元々、魔道士の武器が専門である錫杖のホービバムビバは刃物の類はそこまで置いていない。
コンクェスト政策の結果次第では、それこそ品ぞろえが更に激減するぐらいだ。
「剣だとか欲しいなら、ここの近くにライアンという露天を開いている者がいる。
確かそいつから買えるはずだよ」
「ありがとうだぜ。ホービバムビバ!」
「ホービバムビバ!なのかー」
「あんたら何言ってんのよ…」
「いや、中々語呂が良くてよ…」
三人の魔道士は、錫杖のホービバムビバを後にし、防具を買いに隣の仕立のグルナマグルナに向かって行った。
霊夢達の場合
目の前の鎧を見て、妖夢は唸っていた。
戦士となった彼女は必然的にパーティーのメイン盾になる。
そうなると、できるだけ良い防具が必要となる。
まぁ、それはいい。理解できる。師事をしている騎士も、頑丈な鎧を身に付け、メイン盾をしているぐらいだ。
「あの…これ本当に装備しなきゃいけないんですか…?」
妖夢の目にあるのは青銅製の鎧であるブロンズハーネス一式だ。
ブロンズ板と大羊のなめし革で強度と柔軟性を実現し、それなりに高い防御性能を誇る。
だが…。
「何を言ってますか。私も着ているんですから恥ずかしがる必要はないでしょう」
ブロンズハーネス一式を装備した文だ。
背には翼を通すために穴を開けたのか、ちゃんと翼が出ている。
が、その姿はあまりにも露出が激しかった。
まず胸元に当たる部分が大きく開いている。文の大きくとも小さくもない、形のバランスが取れた膨らんだ胸がはっきりと分かるぐらいに。
左肩にあるバックラーも右肩には無く、腋を晒している状態だ。
サブリガと呼ばれる太ももが露出する金属製の防具だが、どう見てもそれはパンツか何かにしか見えない。
腰布と大して変わりないのではないか?と妖夢は思う。
「肌を晒しすぎですよぉ。これって防具として役に立つんですか?」
防具とは何らかから「身を防ぐ為の道具」だから防具と呼ばれる。
むしろ守るべき所が少ないのでは?と思わずにいられないのがブロンズハーネス一式なのだ。
「あー、もう。愚痴愚痴とうっさいわねぇ。だいたい今買えて装備できるのがこれしかないんだから贅沢言うな!」
物置から霊夢が出て来た。
どうやら彼女もブロンズハーネス一式に着替え終わったようだ。
「それにこれ、金属がガチガチじゃないぶん意外と動きやすいわよ?
モンクタイプの私には最適ね。腋も出てるし」
「うう、分かりました…着替えてきます…」
一式を手に持ち、物置に行こうとする妖夢。
少しばかり、気が重く感じた。
着替え終わった妖夢は、霊夢と文と共にモグハウスに帰ろうとしていた。
腰には青銅製の剣である、ブロンズソードを付けている。
ショートソードに分類されるそれは、妖夢の持つ長刀 楼観剣より短いが、立派な片手剣である。
力量が足りないため、今の妖夢には楼観剣と白楼剣はその力の重みに負けてしまう。
そのため、別の武器として片手剣を選択したのだ。
メイン盾もこなすためか、左腕には木製の盾であるラワンシールドを身につけている。
「あら、魔理沙たちはまだかしら」
モグハウスの前に辿りついたが、魔理沙達はまだいない。
どうやら早く帰ってしまったようだ。
「いえ、どうやらもう来たみたいですよ」
文は後ろを振り向くと魔理沙達の姿が見えた。
いつもの違う格好をしている。
三人とも、お揃いの胴衣ローブを着ている。
知る人が見れば分かるだろう。彼女達は魔道士の装備をしているのだ。
違いはルーミアとアリスは輪っかのようなサークレットを頭部にはめこんでいるが、魔理沙は尖って後ろに折れたクラウンに大きなブリムのついた革製の帽子。
ウィッチハットと呼ばれる帽子を被っている。
ウィッチハットは非売品の防具であり、ハロウィンイベントのみに配られるものだ。
仕立のグルナマグルナで防具を買う際に、「これに近い帽子はないか?」と魔理沙がよく被っている魔女風の帽子を見せ、余りものだったウィッチハットを格安で譲ってもらったのだ。
「遅れたみたいだな。すまん」
「いえいえ、私達も先ほど来たばかりですから」
六人の少女はいつもの格好ではない。
貧弱一般人になってしまい、ヴァナ・ディールの地で冒険者となった姿である。
「ま、ちゃっちゃっと終わらして幻想郷に帰るわよ。ついでに紫を殴りにも」
楽園の巫女から、リアルモンクになった博麗霊夢
「よーし、頑張るよー」
小さな体に勇気と癒しを込めて。白魔道士になったルーミア
「折角だからいっぱい魔法を覚えておかないとな…腕が鳴るぜ!」
幼い頃の夢が叶い、普通の魔法使いから黒魔道士になった霧雨魔理沙
「異世界の地でも魂魄の名に恥じぬ強さを身につけなくては…師匠!ブロントさん!見ててください!」
手に持つは剣と盾。己に恥じぬ強さを身につけるために戦士になった魂魄妖夢
「精々死なない程度にやりましょうか。いやはや、どれだけネタが作れるやら」
自ら作る文文。新聞のネタ作りに頭を回転させる。シーフになった射命丸文
「はぁ…ちゃんと元の世界に帰れるのかしら」
「シャンハーイ?」
人形と共にいるのは幻想郷の人形遣い。赤魔道士になったアリス・マーガトロイド
伝説はこう始まる。
全ての起こりは「石」だったのだ、と。
遠い遠い昔、おおきな美しき生ける石は
七色の輝きにて闇を追いはらい、
世界を生命で満たし、
偉大なる神々を生んだ。
光に包まれた幸福な時代が続き、
やがて神々は眠りについた。
世界の名は"ヴァナ・ディール"
人々が愛する幻想の世界で彼女達は何を見るのだろうか?
それはまだ誰にも分からない。
そう、物語は始まったばかりなのだから。
Hakurei Reimu モンク/- Lv1/-
個別特性:主に空を飛ぶ程度の能力
状態異常を受け付けない。通常より成長は早い。
メイン:― サブ:― レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:― 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ブロンズハーネス 両手:― 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:― 両脚:ブロンズサブリガ 両足:ブロンズレギンス
Rumia 白魔道士/- Lv1/-
個別特性:闇を操る程度の能力
一瞬だけ相手を暗闇にする事が可能。耐性無視だが、近付かなければならない。通常より回復(HP)が早い。
メイン:メープルワンド サブ:ラワンシールド レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:サークレット 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ローブ 両手:カフス 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:― 両脚:スロップス 両足:アッシュクロッグ
Kirisame Marisa 黒魔道士/- Lv1/-
個別特性:主に魔法を使う程度の能力
八卦炉サポートによる魔法詠唱を短縮化(ファストキャスト)&魔法攻撃力増加。魔力(MP)が平均より少ない。
メイン:メープルワンド サブ:― レンジウェポン:― 矢弾:八卦炉
頭:ウィッチハット 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ローブ 両手:カフス 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:― 両脚:スロップス 両足:アッシュクロッグ
Konpaku Youmu 戦士/- Lv1/-
個別特性:剣術を扱う程度の能力
戦士には装備できない武器(刀)を装備可能。武器技術(スキル)の成長が早い。武器技術の限界(スキルキャップ)が普通より高め。
メイン:ブロンズソード サブ:ラワンシールド レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:ブロンズキャップ 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ブロンズハーネス 両手:ブロンズミトン 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:― 両脚:ブロンスサブリガ 両足:ブロンズレギンス
Syameimaru Aya シーフ/- Lv1/-
個別特性:風を操る程度の能力
DEX(器用さ)とAGI(敏捷性)に補正。技能(アビリティ)を通常より早く覚える。通常より回復(HP)が早い。
メイン:ブロンズダガー サブ:ラワンシールド レンジウェポン:ショートボウ 矢弾:木の矢
頭:ブロンズキャップ 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ブロンズハーネス 両手:ブロンズミトン 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:― 両脚:ブロンスサブリガ 両足:ブロンズレギンス
Alice Margatroid 赤魔道士/からくり士 Lv1/Lv1
個別特性:人形を操る程度の能力
オートマトンの人形を操る。からくり士の職業(ジョブ)を取っていなくても使用可能。通常より回復(MP)が早い。
メイン:メープルワンド サブ:ラワンシールド レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:サークレット 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ローブ 両手:カフス 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:― 両脚:スロップス 両足:アッシュクロッグ