東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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プロマシアの幻影
第一章「とこしえに響く幻想」


一年前、とある世界で一つの戦いがあった。

それは完全なる死を望んだ神の計画。

それは世界を守護する神獣の計画。

それは滅んだ古代人が固執する計画。

 

様々な願いと思いと欲望。互いが混ざり合い、世界は混沌に包まれるはずであった。世界は…終焉を迎えるはずであった。

 

だが、それらに抗う者達がいた。

「世界の終わりに来るもの」という宿命を背負う少女、それに集まる仲間達。

裏取引を扱う頭領、業を背負う暗黒の戦士、喪われた唄を知る女、ひんがしより来る侍、異国を渡り歩く仮面の騎士、罪を狩る三姉妹、お騒がせ三兄妹、少女と同じ宿命を背負いながら一度は神の器の犠牲による平和を目指し、少女と共に宿命に立ち向かった少年。

そして…彼らを支えた冒険者達。

 

なぜ彼らは抗いようのない、滅ぶしかない世界で様々な困難に立ち向かう事ができるのだろう。

世界に在りて彼らは何を想うのか?

 

少女は言うだろう。

高らかに、迷いもなく、ただ、己の信じる道を進んで。

 

──笑っちまうぜ!さぁ!笑いながら勝とうぜ!――!

 

時には裏切られ、時には協力し合う事で運命を乗り越えた。一万年もの続く夢を終わらせ、神の計画を真っ向から潰し、世界にはようやくの平和が戻った。

そして、この話には続きがあった。

一万年前から続く計画を実行し、神の住まう真世界に向かおうとした男がいた。

神と同化する事で世界の真実を知り、絶望の海に染まってしまったアワレな男。

 

その男は少女達に倒され、禍々しい力を持った魔晶石に変えられ、砕かれた。

それは母なるクリスタルに還らず、永遠に消滅した事を意味する。

それで全てが終わるはずであった。

闇の王、古の兄弟、そして神と同化した男は「世界の終わりに来るもの」として打ち倒されたはずであった。

 

だが、世界が幻想の世界と繋がり、その男は生き延びる事に成功した。

白と黒の神が争った結果から生まれた形無き世界と、忘れ去られた者が行き着く最後の楽園。

男は神と同化する事で世界に絶望し、生き延びた先で手に入れた力で希望を見た。

行ける。これならば、真世界に辿りつく必要もない。

自らが新しい世界での新しい神となる。

 

何処とも知れぬ世界で男は笑う。

自分こそが選ばれた存在だということに確信して。

 

「ふ、ははははは…そうだ、やはり私はクリスタルに選ばれた存在なのだ…まだ、終わってはいない…!!」

 

その瞬間、人々の愛した世界ヴァナ・ディール、そして神々の愛する幻想郷。

二つの世界が、真の意味で一つになろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒い寒い冬は過ぎ、春告妖精が幻想郷を駆け回るこの時期。

花が咲き、動物たちは冬眠から目を覚まし、人であっても、妖怪であっても、誰もが季節の初めを感じながら日々を過ごしていた。

それは幻想郷の大結界を担う博麗神社の巫女、博麗霊夢とて例外ではない。

 

「よっと」

 

台所に立ち、油の入った鍋に芽を入れるのは、腋の部分が見える巫女服姿の少女。艶やかな黒い髪は赤いリボンでポニーテールにしてある。

白いエプロンを着けている霊夢は鍋に次々と春の山菜であるタラの芽を入れ、揚げていく。

 

「ふんふんーん」

 

陽気な鼻歌をしながら調理をしている。

何も知らない者が見れば、とても様々な妖怪や神が住まう幻想郷で秩序の調停者を担う博麗の巫女とは思わないだろう。

 

「ルーミアー!ちょっと来てー!」

 

タラの芽を揚げながら霊夢は、神社で一緒に住まう妖怪の同居人を読んだ。

すると、扉からひょっこりと小さな金髪の女の子が入ってきた。

 

「呼んだー?」

 

「そろそろ出来るからお皿を用意しといて。あとブロントさんもね」

 

「わかったー」

 

不思議な縁で同居する事になったルーミアに仕事を頼み、ついでに同じ同居人となった謙虚な騎士を呼ぶように言った。

ルーミアが行った事を確認すると、残りのタラの芽を揚げていく。

揚げ終えた天ぷらを紙の敷いた皿に盛り、その後ご飯の炊けたかどうか別の鍋を確認し、蓋を開けばふっくらとしたの白米が見えた。

 

「よし、今日もいい出来ね」

 

「おーい、霊夢」

 

さっそく料理を運ぼうとした時、後ろを振り返れば黒白エプロンドレスの少女がいた。

帽子と相まって、如何にも魔法使いという見た目である。

 

「あら?魔理沙じゃない。何かようなの?」

 

「んー、少し聞きたい事があってな」

 

「話ならご飯の後でいい?あと運ぶの手伝ってくれると嬉しいんだけど(チラッ」

 

「へいへい。お、タラの芽か。私にも食わせてくれよ」

 

霊夢と霧雨魔理沙はご飯の入った鍋と、天ぷらの盛られた皿を運んでいく。

運ばれた先にある部屋には、すでにルーミアと長身痩躯の男が着者姿で胡坐をかきながら座っていた。

耳が長く、褐色の肌、そして煌くのように輝く銀の髪。

幻想郷ではない、異世界の住民であるエルヴァーンの冒険者。

博麗神社に居候をしてすでに一年以上となるブロントが今か今かと飯を待っていたようだった。

 

「おいすー^^。お邪魔してるぜ、ブロントさん」

 

「○沙か。再々天ぽらでも食いに来たのか?」

 

「天ぷらを作ってるのは今知ったばかりだけどな」

 

机に天ぷらの盛られた皿を置き、茶碗にほかほかの白米を入れていく。

魔理沙のぶんの皿と茶碗も用意、全員が机の前に座った。

 

「いただきます」

 

手を合わせ、食材を作った自然と人達に感謝を込め、箸を動かした。

小皿に入れたポン酢に天ぷらを軽くつけ、口の中へと運ぶ。

さくりさくりと衣と芽を噛んでいく感触が口全体に広がる。

苦味のある春の山菜と、味付けの酢が両方備わり最強に見える天ぷらにほっこりとする。

 

「朝から油ものはどうかと思った俺だが、春を思わせる味わいに思わずほう…と唸ってしまう事に感心が鬼になった。

やはりタラの芽の天婦羅は最高だな今回でよく分かったよ>>巫女感謝」

 

「はいはい、食べながら喋らないでね」

 

「反論するために必死に頭を回せていたが何も浮かばなかった感。俺はこのまま飯を食べる事にする…」

 

ご飯とタラの芽を交互に食べながらを腹を満たしていく一同。

最後の天ぷらを食べ終え、お茶を一飲み。

なぜ食事の後のお茶はとても美味しいのだろうか。そう思いながら魔理沙は箸を置く。

 

「ふぅーごっそさん、と。意外な所で飯を有りつけてよかったぜ」

 

「感謝しなさいよー」

 

「ああ、感謝してるってばよ」

 

博麗神社では常に金欠なためか、まともな食生活を送ってる事が少ない。

一週間毎日が湯豆腐で過ごす事も珍しくないぐらいに。

だが、最近の博麗神社の食料事情は少しばかりだが改善されている。

 

「ヴァナに行ったのは無駄ではなかったわね…三日に肉を食えるのは大きな進歩だわ!」

 

半年ほど前、霊夢と魔理沙、そしてルーミアに射命丸文、魂魄妖夢、アリスマーガトロイドの六人は幻想郷と融合した異世界であるヴァナ・ディールで冒険をした。

まだ完全に融合がしていないために能力の大半が封じられ、貧弱一般人からのスタートとなってしまったが、その経験は無駄にはなっていない。

ヴァナ・ディールで修得した技は幻想郷に戻ってからも問題なく扱え、特に役に立ったのが旅をする上で身に付けたサバイバル能力だ。

自ら魔物や獣を狩り、更に山菜までに至るまでを採っていく。

その経験のお陰か、博麗神社では肉が毎日とは言わないが、食事に出るようになった事でブロントとルーミアは泣いて喜んだ。

ブロントも負けじと狩りを励むためか、少しずつだが生活が楽になっているのは事実なのだ。

 

「で、魔理沙がここに来たのは?」

 

「あ、それがなんだけどよ。ちょっと人里や妖怪の山で変な噂が流れてるらしいぜ?」

 

魔理沙の言う噂。

それは最近、幻想郷に蔓延る気味の悪い闇が生まれたという事。

 

「闇?」

 

「ああ、何でもかんでも吸いこんじまうらしい」

 

その闇に近付いた者は人間であれ、妖怪であれ、そして冒険者であっても例外無く呑みこんでしまうらしい。

そして、飲み込まれた者が帰ってきたのは皆無。

この事に異常を感じた冒険者はすでに行動を動かしているのを魔理沙は見た。

 

「ずばり、これは異変なんじゃいか、って私は睨んでる」

 

その闇は突拍子もなく現れ、全てを呑みこもうとしている。

それは幻想郷によくある異変ではないかと、数多の異変を解決した普通の魔法使いは睨んでいた。

 

「ふーん。ま、幻想郷じゃ異変なんてぽかじゃか起きるもんだし、様子見でもいいと思うけど…ブロントさん?」

 

異変なんて幻想郷では珍しくない。

もし異変であっても、誰が起こしているのか判明するまでは動かないスタンスを取る歴代巫女でもぐーたらの霊夢はいつも通り様子見を決めようとするが、謙虚な騎士は真剣な面持ちをしながら唸っていた。

 

「どうしたんだぜ?腹でも壊した?」

 

「いや…その闇とやらはいくつかあるんですかねぇ?」

 

「結構あるみたいだぜ?確か…最低でも五つはあるって聞いたな」

 

冒険者の情報の出回りは早く、最初の闇が見つかってすでに五つが発見されている。

そのどれもが人里より離れているのが幸いと言えるだろう。

何でも吸いこむ闇が人里の近くにあればどうなっていた事か。

 

「俺の予測が正しければそれは幻想郷にはないはずなんですがねぇ…」

 

「ブロントさんはそれが何か知っているんですか?」

 

「ほむ…ヴァナ・ディールと同じとも言いきれんがあったにはあったな。だが、それはもう無くなってるはずなんですが…」

 

ぽつりぽつりとヴァナ・ディールで起きた事件を語るブロント。

ブロントが元いた世界であるヴァナ・ディールでは、幻想郷とは負けず劣らぬの異変が勃発する。

そして幻想郷に発生した闇もまた、ヴァナ・ディールで発生した闇と同じようなものかもしれないとブロントは考えていた。

もぞもぞとしながらブロントの背中に乗っかるルーミアは聞いてみた。

 

「それでその闇ってどうなったのー?」

 

「クエストを選ばないナイトはカカッっと終わらせるべく、きょうきょ世界中を駆け巡り、光と闇が備わり最強に見えるナイトである俺は黒幕をメガトンパンチ!とやるとたぶんリアルでビビったんだろうなこそこそと石になって砕け散った(リアル話)」

 

「よくわからんがブロントさんが解決したって事でいいのか?」

 

「【はい。】」

 

「そうですかグラットンすごいですね。やはりナイトじゃないとだめかー」

 

「それほどでもない」

 

さすがナイトは格が違ったのか、闇の発生を終わらせていた経験があったようだ。

これならブロントが動けばこの異変もすぐに終わるのではないかと魔理沙は思う。

 

「じゃ、ブロントさんは闇の抑え方を知ってるのか?」

 

「……すまにぃ、俺は黒幕をかなぐり捨てただけで闇を抑えたわけじゃない。

そもそも闇を出した黒幕は俺が倒したからもう出ないはずなんだが…mさかプロmすアが…?」

 

最後の声がぼそぼそとして聞き取りづらかったが、どうやら幻想郷の闇はブロントの想定の範囲外である事がわかった。

となると自ら動いて解決するしかないだろう。

 

「ああ、それと闇という言い方は間違いだべ。確か…虚ろ、『虚ろ』という名前が正しかったはずだ」

 

虚ろ。言葉だけなら一言だと言うのに、それは深く、魔理沙と霊夢の心の奥まで残り続けていた。

 

 

 

「準備いいわよ、魔理沙」

 

「うし、まずは妖怪の山から行こうぜ」

 

巫女としての装備と準備を整え、神社から出発しようとする霊夢。

もう少し様子見をするつもりであったが、ブロントの言う闇…虚ろに言い知れぬ危機感が沸いてしまい、調査に乗り出す事にしたのだ。

博麗の巫女としての勘の強さは伊達ではない。こういった、悪い予感というのは的中してしまうのだ。

 

「俺の助けはいらないのか(チラッ」

 

「ブロントさんは飛べないでしょ?大人しくルーミアと留守番していてください」

 

「ム牛ン…」

 

ついていこうとするブロントであるが、今回はあくまで異変の調査であるために必ずしも戦うとは限らない。

まずは虚ろの数の把握が必要のため、幻想郷中を飛び回る必要がある。

そのため、基本的に徒歩の手段しかないブロントがいると逆にお荷物になってしまうのだ。

 

ブロントに見送られながら飛翔に入り、空を飛ぶ。

魔理沙は箒に跨り、霊夢は無意識に宙に浮いた。

そのまま空を飛びながら空を駆ける。幻想郷の住民であるなら誰でもできる飛行術。

春とはいえ、まだ冷たい風を頬に受けながら目的の妖怪の山に向かう。

 

「そういや、それ持ってきてるんだな」

 

魔理沙が箒に跨りながら霊夢の腰あたりに指を差した。

それはヴァナ・ディールの冒険者であるモンクが扱う、ナックルと呼ばれる武器だ。

黒い輝きを放つそれは巫女服の少女には少々、無骨に見えた。

 

「結構使えるしね…もう半年近い付き合いよ」

 

それはヴァナ・ディールで手に入れた「報復者」の名を持つ武器。

彷徨い続ける亡霊の残した最後の遺産。

霊夢を主と認め、特に手入れをしなくてもその輝きは色焦る事はない。

 

「よーし!このままダラダラ行ってもつまらないし、先に妖怪の山に行けるか競争でもやるか!負けた方が奢りな!!」

 

「上等じゃない、奢りは私のものよ!」

 

二人の少女は競争を始めた。

このような突然の勝負も、幻想郷ならではと言ったところだろう。

空飛ぶ巫女と魔法使いは虚ろのある妖怪の山へと駆ける駆ける駆ける。

その先に、幻想郷の終わりがある事を知らないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里のとある一角には幻想郷では珍しい寺がある。

人妖の平等を掲げ、毘沙門天の教えを信条とする者。僧侶の身で妖怪を助ける破戒僧。妖怪からは聖人と、人間からは悪魔と蔑まれ、長く封印された大魔法使い。

聖白蓮が法力によって作り上げた空を飛ぶ船を亡霊に渡し、その船は寺に変形した後、その寺は聖人の弟の名前を借り、命蓮寺という形で広まる事になる。

人であっても妖怪であっても神であっても平等である考えを通す白蓮には彼女を慕う妖怪が寺に住み着いている。

 

かつては数多の船を沈め、数多の船乗りを溺死させた悪霊。

現在では空を海に航海する聖輦船の船長である村紗水蜜。

 

金色の輪で操るのは雲の妖怪。それと共に白蓮を姐さんと慕うハイカラ少女 雲居一輪。

 

何処にでもいる虎の妖怪であったが、白蓮と出会い、妖怪でも仏の教えを受ける事は出来ると毘沙門天の弟子となった寅丸星。

 

妖怪にも仏の教えを言い、毘沙門天の代理を仕立てあげた白蓮を監視するために毘沙門天から送られた小さな小さな賢将ナズーリン。

 

これ以外にも正体不明の妖怪だったり、誰も怖がらない、むしろ可愛いと言われる唐笠お化けの妖怪なども住み着いている。

 

白蓮以外に妖怪しかいないため、同じ妖怪しか寄り付かない博麗神社のように人間がやってこないのではないか?と思われたが、

裏表のない白蓮と、妖怪にしては気さくな聖ファミリーのお蔭でそれなりに人間と妖怪の支持者を得ているようである。

中には白蓮目当てに信仰するような冒険者もいるぐらいだ。お前それでいいのか?

 

 

基本的に白蓮を慕う妖怪は優秀揃いであり、特に毘沙門天の代理を任されるほどの星は際立っているだろう。

真面目に仕事をこなし、部下や白蓮の気配りを忘れない。オンとオフを切り替える事が出来る事から天狗の新聞の一つ、

"文。文新聞"で書かれている「幻想郷の上司にしたい女性ランキング」で新人ながらも上位を位置する好成績を収めた。

 

だが、星の部下でもあるナズーリンは思う。

上司にして初めてわかる事があるという事を。

確かに彼女は有能だ。まだ神達の下で働いていた時、星ほど熱心に信仰を集め、代理としての仕事をこなしたのは中々いない。

本来の上司達からもそれなりに評判も良かった。ぜひ我らの代理にしたいと言う神もいた。

だが、星の部下になって気づいてしまった。彼女は相当なうっかりを持っている事を。

 

「またか。またなのかご主人。いったいなんであんな貴重なモノを無くせるんだ?ある意味ご主人は天才だな」

 

「ナ、ナズーリン;;」

 

穴の空いた特殊なスカートと水色のケープを羽織る小柄な女の子。だが、二つの丸い耳と鼠のような尻尾が少女が人間でないと分かってしまう。

白き羽衣の僧服を着る女性を見て、鼠のような少女…ナズーリンはため息を吐いた。

黒の混じった短い金の髪で、やや釣り目で凛々しさもある顔付きは、可愛らしいというより、かっこいいという言葉が似合う。とはいえ、すらっとした手足と身体は誰よりも女性らしい。

涙目状態の星を見て、ナズーリンはどちらが上司か分からなくなる。

 

「で?今度は何処で落としたんだ?」

 

「いえ、ナズーリン。私は落としたわけではなくてですね…」

 

「言い訳はいいからさっさと言え」

 

「h,hai!確か妖怪の山に落としたかもしれません!!!」

 

ドスの効かせたナズーリンの声にたぶんリアルでビビった星は直立不動の形を取りながら答える。

その顔には汗をだらだらと流している。

星を毘沙門天の弟子として見てる妖怪や人間が見ればどうなる事やら。

星の部下になってから気苦労の絶えないナズーリンはやれやれと首を振る。

 

「まさか聖を助けるための宝塔を一度は無くし、そして二度目に落とすとは思いもしなかったよ」

 

「くくぅ…申し訳ありません…」

 

毘沙門天の弟子であり、代理でもある星に託された宝塔。

それは祭具であると同時に、強大な力を秘めた神器でもある代物だ。

幻想郷と融合した異世界であるヴァナ・ディール、その世界で言うならば宝塔はレリックやミシックなどと呼ばれる神話の時代から語り継がれた武具などと似たようなものである。

だが、宝塔に内蔵された力はそれらとは比較にならない。

一種の『解放』するという力に関しては、そこらのレリックを軽く凌駕する神秘性を持っているのだ。

そんなものを誰かが悪用でもされたら文字通りsYれにならない事が待っている。

何せ星の無くした宝塔は、1000年も封印された大魔法使いを解放する事が出来る代物。

使い方次第では封印された危険な魔物から邪神と言う存在まで『解放』しかねないのだ。

 

「しかし妖怪の山か…少しばかりやっかいだな…」

 

毘沙門天の代理として妖怪の山の主である天狗の長か、もしくはそこで神社を立てた戦神にでも会いに行ったのだろうか、

確か五日か、それより前の事なのだから、星はそれまでに宝塔を無くしたのを隠していたか、それとも今頃になって気付いたか。まぁ、後者だろうなとナズーリンは結論付ける。

ナズーリン自身はあまり彼らとは面識がない。

神社の関係者ならともかく、妖怪の山にいる天狗は一種の排他主義者であり、面識の薄いナズーリンでは【かえれ。】コールをされるかもしれない。

 

「でも、行くしかないのが部下のつらい所だな…」

 

寅丸星が毘沙門天の代理として立てるのは宝塔があってこそ。

宝塔も無しに妖怪の山でうろちょろとするとどんな噂が流れるかわかったものじゃない。

更に宝塔を無くした事もバレれば舐められる事は間違いなしだろう。

 

「ご主人、少しばかり妖怪の山に行ってくるぞ。宝塔を探してくる」

 

このうっかりご主人様の忘れもの、無くしもの探しは星を上司にしてから常にやってきた。

こればかりはナズーリンの能力である「探し物を探し当てる程度の能力」は幸いというべきか何というべきか。

 

「おお!さすがナズーリン!」

 

「だが今夜の食事でおかずを二品減らしておかわり禁止だ」

 

「なん……だと……?」

 

反省させるなら別にこれでいいだろう。

命蓮寺では一番の大食らいである星におかわりを禁止させればそれだけで罰になる。

 

「ナ、ナズーリン!後生ですからせめて一品に負けて!」

 

「却下だ。では行ってくる」

 

ナズーリィィィィィン!と自らの名前を叫ぶ主人を無視して、空へ飛翔した。

腰にから取り出したのはダウジングに使うようなねじ曲がった長細い棒を手に、さっそく宝塔を位置を把握しようとする。

 

「ふむ…どうやら妖怪の山にあるのは間違いないな」

 

ダウジングロッドで位置を、そして首にかけた青い宝石、ペンデュラムで距離を把握する。

この二つの道具とナズーリンの能力が合わさる事により、ナズーリンは探せない物は「この世にない物」と言われるぐらいに探し上手の達人になったのだ。主に主人のうっかり癖のせいで。

 

「む…?これは…巫女と魔法使いがいるな。やっかいな事になりそうだ…」

 

白蓮復活を異変と感じ取り、白蓮を含めてナズーリン、星、一輪、水蜜を弾幕ごっこという遊びとはいえ、問答無用に叩き潰した傍迷惑な連中。

緑の巫女はいないようだが、宝塔を探すだけなのに一苦労しそうだな、とナズーリンは妖怪の山に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!てゐぃぃぃぃぃぃぃいいいいい!待ちなさいぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「待てと言われて待つバカはいないウサ」

 

うっそうと茂る竹林。

その奥の奥、迷いの竹林と言う妖精でも迷うその先に、大きな屋敷が建っている。

永遠亭では月の姫とその従者、そして竹林でも元々生活していた因幡の兎が共に暮らしていた。

異世界ヴァナ・ディールと融合した結果、この永遠亭でも変化が起きている。

それは永遠亭では冒険者が住み込みで暮らしている事だ。

行く当てのない冒険者は、永遠亭で警護の仕事をしていたり、月の姫の従者であり、薬師でもある八意永琳が作った薬品の販売などをこなしている。

 

今日も騒がしい永遠亭。

長い廊下を走るのは小さな因幡の妖怪 因幡てゐ

ピンク色のワンピースを着た普通の女の子のように見えるが、頭から飛び出すように兎の耳が二つ生えている姿に人間ではないと分かる。

ニンジンネックレスを揺らしながら全力疾走。後ろから追いかけてくる月兎を逃げるために。

 

「あ、あんたぁぁぁぁ!私のパンツを冒険者に売るとか何考えてるのよぉぉぉぉぉ!!!」

 

「需要って奴があるウサ。マニアックな奴もいたもんだウサ」

 

腰まで伸ばした淡い藤色の髪をストレートにし、てゐと同じように兎の耳が二つほど。てゐと違うのはこれが付け耳である事だ。

短いスカートと白いシャツを着た姿。まるで外の世界で言う学生に見えるが、彼女自身は定義付けるとしたら弓や銃を武器にする狩人や、癒しを主にする白魔道士に近いだろう。

鈴仙・優曇華院・イナバは、逃げるてゐを全力で追いかけていた。

 

「それを売ってたあんたが言うかぁぁぁぁぁぁ!大人しく捕まりなさいぃぃぃぃ!」

 

「スタコラサッサだぜウサ。あ、そこ危ないウサよ」

 

「………え?」

 

突然の浮遊感。

追いかけていたはずのてゐとの目線がズレ初め、下に視線を向けば廊下に空いた落とし穴が。

 

(なんで廊下にぃ…!!)

 

考える暇もなく落とし穴にはまってしまった。

尻を強く打ってしまい、手で抑えながら上を見る。

どうやら、からくり的な作りになっている落とし穴のようだ。

ヴァナ・ディールの冒険者から様々な迷宮ダンジョンの仕掛けを聞いているてゐと鈴仙の師匠である永琳の事だ。

侵入者対策にこのような仕組みを作っていて不思議ではない。

 

「いい姿ウサ。これもいい売り上げになりそうウサ」

 

「は?」

 

天狗の持っているようなカメラを構えながらパシャパシャと撮っている。

そういえばこの落とし穴はなぜか水しぶきが上がった気がする。

元々薄着である鈴仙に水を浴びてしまえばどうなってしまうのか、即座に理解する。

 

「わぁぁぁ!見るな撮るな何してんのよアホてゐぃぃぃぃ!!」

 

「ええ体しとるのぅ、ねーちゃんwwwでも胸部の脂肪がやや足りない印象ウサ。せめてもうワンランクほしいウサ」

 

水を浴びた結果、服の上から透けて見えるようになってしまったのだ。

肌が服の上から透けて見え、胸の形を整えるブラジャーも丸見えだ。

下手に裸になるよりもいやらしく見える状態に顔を真っ赤にしながらいまだに写真を撮り続けるてゐに鈴仙の頭で何かが切れた。

 

「わ、私の怒りが有頂天になった…!!泣いたってもう許さないわよ!」

 

幻想郷の住民なら大小あれど誰もが持つ"霊力"。

それを凝縮させ、指を構えて弾丸を作り上げる。幻想郷の決闘として使われる弾幕がてゐ目掛けて撃った。

 

「おおっと、そんな弾が簡単に当たるとでも…!?」

 

そう簡単に当たるわけにもいかないと身をひねって回避しようとするが、弾がてゐではなく、手に持つカメラに直撃した。

アワレにも弾幕の餌食になってしまったカメラはバラバラになってしまい、フィルムも無残な状態になってしまう。

 

「な、なんて事を!?アレにはお宝画像がいっぱい…!?」

 

落とし穴から這い上がり、目を赤く光らせる兎が一匹。

ふっと笑い顔を浮かべ、てゐは次の瞬間には逃げ出そうとする。

 

「逃がすか!」

 

手でガシッと掴み、そのままアイアンテールの形で持ちあげていく。

ギリギリと音の聞こえそうな握力にてゐの顔が苦痛にゆがむ。

 

「いたたたたたたた!痛い、これマジで痛い!離して!お願い!頭がザクロになるウサーー!!」

 

「許さないって言ったでしょ…さぁ、楽しい楽しいお仕置きタイムの時間よ……」

 

「う、うさ~~~~~~~!!!」

 

 

 

「あーもう、てゐのせいで着替える羽目になるし、パンツが売られそうになるし、散々だわ……」

 

水に濡れてしまった服と下着から予備のスカートとシャツに着替えた鈴仙。

ヴァナ・ディールと融合し、変化しつつある幻想郷であるが、彼女の弄られ属性というのはまったく変わっていないのが問題であった。

姫には無茶ぶりをさせられ、師匠には危ない実験を付き合わされ、そしててゐには先程のように度の超えたイタズラで日ごとにボロボロになっていく。

妖獣である自分の身体が恨めしい。どんな無茶をしても妖怪ほどではないとはいえ、すぐに体力が回復し、また無茶をやらされてしまうのだから。

 

「で、なんで私の部屋にいるんですか、師匠」

 

「あら?弟子の部屋に師匠がいて何か不都合な事でもあるのかしら?」

 

鈴仙の部屋にいるのは赤青の色合いに分けた服を着た銀髪の女性であった。

美しい、という言葉ではとても表せる気がしない。いや、できない。

少なくとも鈴仙が知るあらゆる言語を用いても目の前の女性を説明する事は敵わないだろう。

同じ女であるはずなのに、鈴仙は師匠である顔をまじまじと見つめる事はできない。

この世のものとは思えないその美しさは、じっと見つめるだけで彼女しか視界に映らなくなり、頬を赤く染めてしまうほど。

幾千幾万の歳を重ねて今を生きる永遠者。月の頭脳と呼ばれ、不老不死の身となった蓬莱人である鈴仙の師、八意永琳であった。

 

「また無茶ぶりですかぁ?」

 

「あらら。随分な言われようね」

 

じと目になりながらまた何かやらされるんだろうなと思いながら永琳と向きあう。

永琳がわざわざ部屋にやってくるのは決まってやっかい事を鈴仙に頼むからだ。

 

「今度は簡単なものよ。別の因幡にも任せてもいいけど、私は別の用事があって、それを因幡に任せないといけないのよ」

 

その用事というのは、人里の集落にある喫茶店で働く姫の姿を見に行く事だろう。

すでに半年近くは通い続けてるというのに、よくまぁ飽きないものである。

 

「はぁ…それで内容は?」

 

「話が早くて助かるわ。地図を渡しておくから、この目印のある所に行ってちょうだい」

 

紙には永遠亭らしき絵から南の方角に、黒い塗り潰したような点があった。

様々な計算式が書かれており、あまりに複雑すぎるそれは鈴仙の頭脳では解読ができない。

 

「何ですか、これ?」

 

「最近、幻想郷で力場が異常な不具合が起きていてね。どうなってるのか確認していってほしいのよ」

 

「はぁ…」

 

この計算式はその力場とやらの異常がどうなっているのかを示す計算式なのだろう。

何を示しているのかは鈴仙には分からないが、もしかしたら大変な事が起こっている可能性もある。

 

「じゃ、これから輝夜のメイド姿…げふんげふん、働いている姿を見に行く系の仕事があるのでこれで」

 

「あまり遅くならないでくださいよー。急患が来たら因幡だけで面倒見切れないんですからー」

 

部屋から永琳が出て行き、一人になる鈴仙。

このまま地図に書かれた場所に向かってもいいのだが、幻想郷はヴァナ・ディールと融合してから、迷いの竹林であっても魔物がぽこじゃかと現れるようになっている。

数が少なければ鈴仙でも相手はできるが、敵によってはやっかいな敵も現れたため、正に一瞬の油断が命取りである。準備をこなして行かなければ今の竹林は危険なのだ。

 

「えーと、これとこれ…」

 

タンスから次々と服を取り出し、ついでに鉄製の砲も取りだしていく。

茶色という地味な色合いをしながらも、ひらひらとした派手な布地をした服であり、若干露出もある服。

それはアーティファクトと呼ばれる冒険者の防具であり、ダイスを扱う事で運を力に変えるコルセア専用の防具。

幻想郷でのとある魔剣の異変で謙虚な騎士と共に異変解決のために身に付けていたものである。

 

アーティファクトはただ己の身を守るだけの防具ではない。

高度な魔法の文字が施された防具であるアーティファクトは、並みの冒険者では扱う事は不可能である。

施された魔法の力があまりに強すぎて体がついてこないのだ。

だが、逆に身に付ける事さえできれば装着者に魔法の力を授ける事になる。

戦士であるならより強大な力を。

白魔道士であるならより高度な癒しを。

詩人であるならより優れた歌を。

防具としては最高峰に位置するそれは、一人の冒険者が一つ持っていればいいと言われるほどに性能が突出しているのだ。

本来はコルセアではない鈴仙であるが、狩人ほどではないが射撃に関する力と能力を引き上げてくれる性質を持つため、射撃使いの鈴仙に異変を共に解決した仲間から貰った装備。

そしてそれを幾つも所持している人里の集落在住の村長は何者なのだろうと考え、コルセアのアーティファクトに着替え始める。

 

一見した印象は、「なんでこんなに露出度が高いんだろう」だった。上半身は短いチュニックというよりも水着、下半身は大胆に裾を切り詰めたホットパンツ。

だが、たっぷりと襞を寄せたレース装飾で飾られた上着に袖を通すうちに、どことなく懐かしい気持ちになってくる。そう、かなり崩れたアレンジはされているけれど、この衣装はどことはなしに『軍服』に似た型をしているのだ。

後で聞いたなら、実際にコルセアたちの由来はかつての海軍に所属するという。鈴仙にとっても馴染みがあるはずだ。

折り返しを大きく取った膝までのブーツに、襟元には赤いリボンが豪奢なレースに重ねられたタイを結ぶ。指貫のグローブと折り返し帽はどちらも防水のために何重にも油を重ねたオイルレザー。飾りボタンをとめ、バンダナについた飾り紐を結ぶ。いくつも飾られた幸運のチャームがちゃらちゃらと音を立てる。

 

そのまま六つの砲を持つ奇妙な銃、ヘキサガンを腰のレースに挟み、銃の弾丸を幾つもポーチ状の鞄に詰めるだけ詰めておく。

この銃もそれなりに長い付き合いになるが、銃を撃つための弾丸に金がかかるためにあまり多用できないのが難点でもあった。

弱い魔物であるなら自らの"霊力"で作った弾丸を、強い魔物であるなら鉄の鉛弾を。それが鈴仙の基本的な戦い方となる。

 

「おっと、これは忘れちゃいけないわよね…」

 

脱ぎ捨てたスカートのポケットから取り出す小さな石ころのようなもの。

それは丁寧に加工された白いダイスだ。

赤い数文字が一から六まで刻まれている。

力を込めたり、"霊力"を込めたりするが、うんともすんともしないダイス。

 

「まだ…自信って奴が身に付いてないのかしら…」

 

このダイスをくれた相手はコルセアでとても有名な男であった。

その男が言うには、コルセアで最も重要なのは常に己に打ち勝つ事らしい。

ダイスをポーチに仕舞い、自分の部屋から出て行く。

永遠亭の出入り口を潜れば鬱蒼と茂る竹林と、その隙間から漏れだす太陽の光。

兎の少女は竹林に発生した異常を確かめるべく、素早く駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷の何処かにある、小さな家。

寂れた雰囲気は無く、古くから続くような和風の趣を覗かせるその家にある部屋の一つ、一人の妖怪が隙間から通して見える世界を見て唸っていた。

白いドレスに道士服によくあるような陰陽の装飾が入れられた前掛けのある服を着ている。

顔の造形は一言で表すなら魔性。神々ではない、まるで悪魔が一から丹念に作り上げたかのような完成された美貌であった。

流線の取れた眉、細い瞳の中で全てを見通すかのような紫瞳、理想的な形で構成された鼻梁、ややぷっくりとした紅の唇から覗かせる白い歯並みがかがやき、腰まで伸びたのは宝石か何かのように金に輝く髪。

人が知る「美」とはかけ離れた人外の「美」

百の人がいれば百の美的感覚を持ち、絶対の美貌を持つ者に感動しても弥勒菩薩の彫刻に感動するとは限らない。

しかし、人の知らぬ「美」であれば?

その答えである彼女を見れば、美女に慣れたプレイボーイであっても、その顔を一目見るだけで見惚れてしまい、己の人生全てをかけても貢ぎ続けるだろう。

その妖怪の名は八雲紫。

幻想郷の創設者にして、管理人。幻想郷に置いては最強に部類されるほどの実力を持った大妖怪である。

そんな彼女は隙間を開く事によって遠くを見通す力を持つが、珍しい事に困っている様子でもあった。

 

「何なのかしらこれは…まるで何もかも吸い込むような、虚ろ…こんなの私は知らない……」

 

紫の見つめる先には最近になって現れ始めた黒い渦。

今は活動を休止しているようだが、この闇はあらゆるものを呑みこむ『虚ろ』であることをすでに見抜いていた。

 

「…やっかいですわね。ようやく幻想郷とヴァナの融合が安定してきたと思った矢先に…」

 

幻想郷を管理する紫にとって、異世界との融合はどのような影響を与えるか危惧をしていた。

場合によっては幻想郷とヴァナ・ディールを無理矢理にでも切り離す。そのような強硬手段も考えていた。

今となっては、ゆっくりとだが世界と世界が融合してしまい、切り離す事は紫の「境界を操る程度の能力」であっても不可能なレベルに達している。

それに、ヴァナ・ディールと融合した後の幻想郷の悪い事ばかりではない。

人であっても、妖怪であっても、必要以上に興味と情を持たなかった博麗の巫女を一人の来訪者が良い方向に変えてしまったのだから。

 

「紫様…いま戻りました」

 

襖が開けられ、紫とは負けず劣らずの美女が入ってくる。

紫が完成された魔性の美であるならば、部屋に入ってきた女性の美は傾仙。俗世を完全に断ち切った仙人であっても、その顔を一目見れば惚れてしまう。それほどの代物であった。

主と同じような道士服を身に纏い、後ろには九本の狐の尻尾が見て取れる。

もふもふとして気持ちよさそうであるが、これは女性が人ではないものを示す事になる。

紫の式である八雲藍はそのまま言葉を紡げる。

 

「冒険者というのは優秀ですね。現在存在しているであろう虚ろが早期に発見されました」

 

「そう、数は?」

 

「吸血鬼の住む館の近くに一つ、冥界に一つ、妖怪の山に二つ、永遠亭の竹林に一つ…これは八意殿からの情報になります。

そして花映塚にも二つ、元地獄には三つ、まだあやふやな情報となりますが天界で一つ見つかってるようです」

 

「最低でも十一…そして私の見ているただの草原に有り続ける虚ろを入れて十四個…何なのかしらね、これは」

 

紫は藍に虚ろの数を正確に把握するために指示を与え、藍は効率よく『虚ろ』の数を集めるために人里に多くいる冒険者に依頼する事で情報を集めたのだ。

もちろん、冒険者から虚ろが何であるかを聞くのを忘れていないが、あまり有用な情報を得られなかったのが現状である。

 

「ヴァナにもあった闇の渦…でもそれを知るのは冒険者であっても少ない、か…」

 

「これに引きずられた者は二度と帰ってこないと噂がありますからね」

 

ヴァナ・ディールでも存在した虚ろ。

それに呑みこまれたら最後、二度と外の世界を見る事なく、本当の意味で裏世界にひっそりと幕を閉じてしまうらしい。

まだ春が明け、数週間前に冬眠から目覚めたばかりの紫は頭がかかえたくなる事態であった。

今はまだ、害というほどでもない『虚ろ』。

だが、それがいつ幻想郷に牙を剥くかわからない。

あれは危険だ。長く生きた紫であっても、あの闇を見続けるだけで思わずぞっとしてしまう。

 

なぜなら闇の底には何もない・・・・

妖怪としての目はどれだけ暗闇に囚われても見通す事が出来ると言うのに、『虚ろ』の先がまるで分からないのだ。

何も無いが故に『虚ろ』。

何もないからこそ紫の境界を操る能力が効かない。

条件さえ合えば理論上は最強となれる能力であるが、逆に境界を使えない状況になれば八雲紫はただの妖怪でしかないのだ。とはいえ、地力の力は最強と呼ばれるに相応しい物は身に付けているのだが。

 

「ブロントさん…もしくは終焉の騎士なら何かを知っているかしら?」

 

幻想郷にいる一級廃人と呼ばれるに相応しい実力者は何人かいる。

一級廃人と言われるからには、それなりにヴァナ・ディールの世界情勢から異変まで詳しいはず、と紫は睨んだ。

冒険者は元々は異変解決のスペシャリスト。人妻のおつかいから、世界の破滅まで守り抜く存在である。

 

「藍。あなたはこれから一級廃人に会って、虚ろの事を聞いてきなさい。それと依頼した冒険者からにも虚ろの数が増えてないかを聞くのも忘れないように。

私はここから虚ろを見張っていますわ」

 

「了解しました」

 

式としての「命令」を与え、藍は部屋からいなくなる。

高度な計算式によって作られる式は「命令」を忠実にこなせば本体に匹敵する強さを得る事になる。

藍自身は妖獣として最高峰の天狐とはいえ、八雲の名を持つ者として恥じぬ強さを持たなくては主に天狗などに舐められる。そう紫は考えていた。

 

「さて、これが幻想郷に齎すのは吉となるか凶になるか…」

 

管理人としてこれが幻想郷にどんな作用をするか見張らなくてはならない。

本来ならもう一ヶ月は二度寝をしているであろう紫は、小さな異変の始まりに対し、静かに溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いまのは絶対私が勝ってただろ!?」

 

「何言ってんのよ!偏差で私が先だったわよ!だから後で奢りなさい!」

 

「言い訳は見苦しいぜ!勝ちは私のものだ!」

 

数多の妖怪が住まう山で二人の少女が言い争いながら空を飛んでいた。

先に妖怪の山に辿りついた者が奢る。そんな勝負をしたのだが、決着はほぼ同着。それのせいでどっちが先に辿りついたのか分からなくなったのだ。

そして負けず嫌いの霊夢と魔理沙はそれで納得するはずがない。

器用に『虚ろ』があるであろう場所に勘を頼りに進みながら尚言い争う。

 

「そもそも乗り物有りでやるなんてハンデ付きなんだからもう私の勝ちは確定的に明らかじゃない?」

 

「限られたルールで戦っただけだぜ。勝ちは私のものなのはもう決まりだから」

 

妖怪の山もヴァナ・ディールからの魔物が多く現れているが、空を飛べば襲い掛かってくるのはいない。

同じように空を飛ぶいやらしい鳥もいるが、いやらしい色をしているのに温厚な性格なのでいやらしい仲間の鳥と一緒にいやらしく飛びながらいやらしく日々を過ごしている。

 

「でも食ってみると結構うまいのよね、こいつ」

 

コリブリというピンク色の鳥は丁寧に捌いて調理すると意外とうまかった。

博麗神社ではよく出る肉候補の一つである。

露骨にコリブリを食べるなんていやらしい…。

 

「ん?」

 

「お?」

 

「む」

 

もうそろそろ着くかなと思いながら飛んでいると、巫女と魔法使いと鼠が一挙に揃ってしまった。

しばしの沈黙となるが、先に口を開いたのはナズーリンであった。

 

「これはこれは博麗の巫女様と黒白じゃないか。まだ肌寒い中で空の旅とは元気なものだね」

 

「おお。そんなあなたは鼠の王様じゃないか。キーブレート探しはいいのかい?」

 

「あいにく王様じゃないから、探してはいないね。まぁ、私なら探そうと思えば探せるだろうが」

 

いつも通りの会話のキャッチボールになってるのか、なってないのかのナズーリンと魔理沙の門答。

これが幻想郷での腹の探り合いなのだからあまり気にしすぎるとハゲる。

 

「こんな事をしている暇はないんでね…私は用事があるから先に行かせてもらうよ」

 

「なに?またあんたのうっかり主人が何かやらかしたわけ?」

 

「ノーコメントだ、巫女殿。では宝塔探す系の仕事があるのでこれで」

 

「言ってる言ってる」

 

そのままナズーリンが行こうとするが、魔理沙は行かせるかと言わんばかりにナズーリンの尻尾を掴んだ。

意外とツルツルして触り心地のいいナズーリンの尻尾に「おおっ!」と心の中で驚いた。

 

「うわぁ!?き、君は何処を触っているんだ!?」

 

「悪い、けど行く前にちと力を借りたくてな」

 

さすがに尻尾を触られると敏感なのか、それとも気になるのか、魔理沙の手から離れるとナズーリンの背に隠れるように動いていく。

 

「お前って物探しって得意だよな?じゃ、概念的なものでも行けるわけ?」

 

「概念的?ああ、可愛い人形を探したいだとかそんな感じか?

やれない事はないが、探し物がアバウトだと範囲が酷く広くなるぞ?」

 

ナズーリンの能力は探す物が明確に判明していていることで効果を発揮する。

探し物があやふやであると効果が分散しすぎてしまい、探すのに時間がかかってしまう事もあり得るのだ。

 

「虚ろって奴なんだが…やれるか?」

 

「ふむ…まぁ減るものではないし、やってみるか」

 

宝塔を探す術を維持しながら、別の物を探知するために能力を解放する。

物ではなく言葉による物探しは骨が折れるが、やれない事ではない。

 

「…数は十三…いや、十四か?まるで闇が渦巻いてるように見えるな。この山の近くに2つほどあるみたいだ」

 

「ビンゴだな」

 

「へぇー。そこまで正確に分かるもんなのね。位置は?」

 

「少し待ってくれ…む…宝塔の位置と被ってるだと…?ここから南に百歩と言った所か」

 

「南か。礼を言うぜ!」

 

「後でうちに来て芋をファックしてもいいわよ。よし、行くわよ!」

 

「あ!待ちたまえ!」

 

虚ろの場所さえ分かればあとはそこに全力で向かうだけ。

ナズーリンを置いていく速度で飛んでいき、遅れて後を追いかけるようにする。

虚ろというのが特に興味のないナズーリンであるが、探し物である宝塔も同じ位置にもあるため、急いで取りに行かないといけない。

 

徒歩で行けば数分かかるが、空を飛べば数十秒もかからない。

目的の場に着き、速度を落としながら地面に降り立つとうっとうしいぐらいに生えた山の森、その中心にはぽっかりと穴が開いていた。

 

「なるほどな…確かにこれは闇だわ」

 

風を唸る音を出しながら、目の前の黒い何か。

魔理沙の手に嫌な汗がにじみ出てきた。

その黒い何かは光すら返さずにただそこにあり続けるのみ。

闇の渦、またの名は『虚ろ』が留まり続けていた。

 

「…どういう事だ…ご主人の宝塔が渦の先から感じる…?」

 

いつの間にか追いついていたナズーリンは手に持つダンジングロッドで宝塔の先を掴もうとするが、ダンジングの示す先には黒い渦が一つだけ。

さて、どうしたものかと考えるナズーリンであったが、霊夢と魔理沙のほうは渦に何かしら異常がないかを確かめていた。

 

「どう思う?こんな場所にぽつんとあるなんて不自然だと思うんだけど」

 

「私もだ。だけど、なんでこれがあるかだよなぁ…」

 

「軽く弾幕でも撃てば何か変わるかしら」

 

渦の周りには何もない。

恐らく周りにある草木と同じようなものが生えていた場所には、草すら生えていない。

もしかしたらこの渦が呑みこんだ、と思い、噂の一つを思い出した。

 

「これを触れたら呑みこまれる…だったか。それに二度と戻れないって言ってたけど」

 

「とは言っても、特に変化は起きないわねぇ…うんともすんとも言わないわ」

 

試しに符を何枚か投げてみるが、その全てが渦に呑まれて消えてしまう。

幻想郷に現れた不思議な渦に、少女三人は立ち止ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兎が駆ける。

竹林が何百何千と生えているであろう道無き道を駆けるはコルセアのアーティファクトに身を包む少女。

少女は追われていた。竹林を駐輪跋扈する数多の魔物に。

無論、追われるだけではない。魔物の数を減らすように逃げながら反撃をする。

 

「この…!しつこいのよ!」

 

ヘキサガンを構え、引き金を引く。

六つの砲身から飛び出る鉄の弾丸が鈴仙を追う魔物を狙い撃つ。

火薬によって加速した弾丸は弾幕ごっこに使われるような弾幕を遥かに越える威力でもって容易く魔物の肉体を貫通し、血を出しながら倒れて行く。

だが、それでもまだいる。

 

「あーもう!なんで今日に限って魔物の数が多いのよ!」

 

追われながらも文句を垂れる鈴仙であるが、思いのほか余裕ではない。

巨大な虎、引き締まった象ともいうべきマーリド、小型の竜に虫のような羽のついたプークなどが獲物である鈴仙を追いかけていた。

 

「永遠亭の奴らもちゃんと仕事しなさいよっと!」

 

振り向きざまに弾を詰め直したヘキサンガンを構え、更に撃つ。

月にいた頃は元軍人である事で銃の扱いに慣れており、妖獣の能力が両方備わり"動きながら撃つ"という本来では不可能な芸当をやりながらも鈴仙は目的の場所まで走り続けていた。

永遠亭にいる冒険者は、永遠亭の警護以外にも、迷いの竹林にいる魔物の討伐という仕事もある。

無節操に増えまくる魔物がいればいるほど、人里からの客足が途絶えてしまい、危険でもあるからだ。

無論、竹林の抜け方を知らない冒険者が一人で行っても迷うだけなので、道案内役の因幡を必ず付けるようにしている。

 

ここ最近の魔物の増加はsYれになっていない。

最初の頃は雑魚同然の魔物しかいなかったのにも関わらず、最近では一級廃人でもレベリングに狩るような一級魔物がぽこじゃか沸くようになって大変なのだ。

 

(これって師匠の言ってた力場の影響って奴じゃないわよね…?)

 

今はまだ、鈴仙一人でも対処は可能と言えば可能である。

だが、これから先にこの狭い幻想郷という世界で、更に強い魔物が現れるようになったらどうなるのだろう?

妖怪の全てが強いわけではない。

中には貧弱一般人にも劣る貧弱一般妖怪だっているのだ。

走り続ける内に追いかける魔物の数も減ってきている。あと二、三発も撃てば殲滅できるだろうとヘキサガンに弾を込め直し、ふと前に影が出来ている事に気づく。

 

「で、かぁ!」

 

巨大な角と体躯を持つサイのような焦げ茶色の魔物…ウィヴルが鈴仙の目の前にいた。

慌てて飛び上がり、魔物を跨るようにして先の地面に着地する。

するとどうだろうか。鈴仙を追いかけていた魔物達は急には止まれずウィヴルにぶつかってしまった。

凶悪な外形に似合わず普段は温厚な紳士タイプであるウィヴルも、攻撃をしてくる者には容赦はしない。

勘違いと共に始まった魔物と魔物との戦い。

鈴仙よりも遥かに大きいマーリドですら、体格の違いでウィヴルの突進で吹き飛ばされ、一撃でノックダウンしてしまう。

暴れるウィヴルを慄きながら、静かに鈴仙は立ち去った。

 

 

 

「あんな魔物までいるなんて聞いてないわよ…」

 

冒険者から迷いの竹林に沸きでた魔物の情報を教えられてるとはいえ、マーリドを一撃で沈めるような魔物は見た事がない。

とはいえ、走り続けたお陰か、地図に書かれた印の位置まであと少しである。

迷いの竹林と称されるほどの複雑な道を迷う事無く進んでいき、ようやく目的地にたどり着いた。

 

「…何これ……渦?」

 

竹林にぽっかりと開いた謎の空間に、竹林の葉を吸い込みながらそれは存在していた。

まるで、空間という紙に黒いペンで無茶苦茶に塗り潰したかのような違和感。

黒い、闇の渦が、世界という絵をすっぱりと切り取っているかのように感じ取ってしまったのだ。

 

突然、風が吹きだした。

それは闇の渦から招き入れるかのように風が強く、渦のほうに引きずられる。

異変を感じ取った鈴仙は急いで逃げ出そうとするが、もう遅い。

ばたばたと服に付いたリボンなどがはためき、闇の渦とは反対方向へと駆けようとするが、振り返ると闇が膨れ上がっていた。

 

「嘘、でしょ!?」

 

飛んで逃げようとするがもう遅い。

爆発するかのように急速に膨れた闇の渦は一辺の竹林を呑みこんでいった。

そのままだんたんと小さくなり、後に残ったのは小さな『虚ろ』。

そして、それに巻き込まれた鈴仙も、また、竹林と同じように幻想郷から消失した。

 

 

 

『虚ろ』の急速活性化は他の場所にも起きていた。

幸いなのは紅魔館や、地底の近くに人や妖怪などがいないために、呑みこまれる者はいなかった。

だが、妖怪の山にいる三人の少女と、『虚ろ』を監視する妖怪の賢者は違った。

 

急速に膨れ上がる『虚ろ』。

それは博麗の巫女と普通の魔法使い、更に賢将すらも呑みこんでいく。

 

「霊夢!こいつ、やばい!なんだかわからないけどやばすぎる!」

 

「分かってるわよ!…!?こいつ、私の術が効いてない!?」

 

魔理沙は魔法を、霊夢は術を膨れ上がる闇の渦に向けて放つがまったく効果がなかった。

八卦炉から放たれる巨大な光線が、数多の符を弾幕として放つ攻撃が全て『虚ろ』に呑まれ、消えていく。

 

「!…これはさすがにまずいと分かるな。逃げなければ」

 

長年を生きて培った勘が最大警報で鳴らしている。

あれはまずいと。あれに呑まれたらどうなるか分からないと。

しかし、ナズーリンの探し物である宝塔の気配はあの『虚ろ』からしてくるのだ。

逃げるか、それともあえて飛び込むか。コンマ数秒にも満たない考えが彼女の命運を分けた。

 

「やば、逃げ――」

 

魔理沙の言葉が発する前に、闇は三人を包み込んだ。

闇に囚われた瞬間に少女達は見た。

『虚ろ』の奥の奥。

闇の先には何もない。先から幻想郷が終わっていた・・・・・・

呑まれた後に少女の意識がぶつんと途切れ、闇が収まる頃には『虚ろ』以外に何もない。

霊夢、魔理沙、ナズーリン。この三人もまた、幻想郷から消失した。

 

 

 

 

そして『虚ろ』を見張る紫もまた、囚われようとしていた。

隙間から通じて吹き荒れる風。際限無く膨れ上がる闇の渦は隙間だけにも飽き足らず、紫すらも呑みこもうとしていた。

隙間を急いで閉じようとするが時既に遅し。すでに腕が闇に食われてしまった。

能力である「境界を操る程度の能力」を使おうとしているのだが、効果が発揮されない。

元から境界も何もない『虚ろ』に紫の能力は何の意味を為さないのだ。

 

「ぐ…力が……!」

 

闇に囚われてから力がガクンと抜けているように感じていた。

無理矢理抜け出そうとするが、力が体に入ってくれない。

不覚であった。

この妖怪の賢者であろうと者が、こんな得体のしれないものに良い様にされている事が屈辱極まりない。

そして闇の渦に呑まれてかけて分かったが、この先は別世界に繋がっているゲートである事が分かった。即ちこの『虚ろ』は何処かの世界に紫を飛ばそうとしているのだ。

 

「だからと言って…!良い様にはさせませんわよ!」

 

もう時間がない。

紫は抜け出すのではなく、精神を通じて繋がっている式に言葉を伝える。

細い、糸のような"繋がり"を感じ、本来なら音を出さなくても伝わる。だが、声が出ていた。

 

「藍!聞こえる!?藍、聞こえたら黙って落ち着いて聞きなさい!闇が異常に活性化して巻き込まれそうになっている!あなたに命令を与えるわ!一つは闇に近づかない事…もう一つはブロントさん達に――!」

 

例え能力が使えず、離れていても式に命令を与える事は出来る。

自らが最も信頼する藍に指示を残そうとするが、言葉を言い切る前に途切れてしまう。

『虚ろ』からの風は更に強くなり、隙間を丸ごと呑み込み、闇の渦はついに家ごと紫を呑みこんでしまった。

あとに残るは、綺麗に紫の部屋だけが消失した誰もいない家が一つ。幻想郷の管理者である紫は幻想郷から消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方幻想鉄~プロマシアの幻影~

第一章「とこしえに響く幻想」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が酷く重く感じた。

疲弊している、というより、寝過ぎたりする時に感じるダルさだ。

ゆっくりと身体を起きると霊夢は辺りを見回す。

見たことのない場所だった。足元が草の原で、辺りは林になっているのか、風が吹けば葉ずれの音が聞こえてくる。

耳を澄ますと、風によって揺れる葉以外に、昔聞いた事のある音が聞こえた。

波が、崖に当たる音。海だ。幻想郷にはないはずの海の音。

ほんのかすかだが、潮の匂いも感じた。

 

「…なぜかしら。こういうの、前にも体験したような」

 

空を見上げると厚い雲があって太陽の光を遮っている。

だが、雨雲ではないので雨は降らないだろう。たぶん。

 

「そうだ!魔理沙とネズミは!?」

 

この場所は分からないが、連れてきたのは『虚ろ』が原因だろう。

一緒に巻き込まれしまった黒白の魔法使いとネズミの賢将の姿が見えない。

ほんの少しだけ考え、ここにいるだけでは仕方ないと行動を始める。

とりあえずいつも通り、勘に任せて飛ぼうとするが、浮くには浮くが精々足首一つぶん程度しか浮かない。

しかもスピードもあまり出なかった。これなら歩いたほうが早いだろうと言った具合である。

 

「なんで飛べないのよ…」

 

地面に着地し、とぼとぼと歩き始める。

そのまま符を何枚か取り出し、"霊力"を込め始める。

だが、術が発動しない。発動させるための力が足りていないのだ。

 

「これって前にヴァナに行った時にあったわよね…でもあの時はほとんど力が使えなかったような…」

 

半年近く前に、八雲紫の手によってヴァナ・ディールに招き入れられ、世界の法則の違いがどーたらこーたらで貧弱一般人になってしまった事を思い出した。

一級廃人に迫る実力を持つ博麗の巫女が、リアルではモンクタイプとして異世界を駆け巡った記憶が蘇る。

その時は霊力を初めとして、博麗の巫女としての能力がほとんど使えない、本当の意味で貧弱一般人になってしまった。

今のところ、使えものにもならないが空が飛べるし、微力ながらも"霊力"も扱える。

それに、例え"霊力"が使えなくてもモンクタイプである霊夢は生身のまま戦う事も可能だ。ヴァナ・ディールで鍛え上げた拳と肉体はそのままでも戦闘に使える。

 

疑問が解消されずに暫く林の間を歩いて行き、息を潜めていると、葉ずれの音と潮騒の音に紛れこむようにして、虫の音や何処かで獣が啼く声も聞こえた。

近くには魔物か、それとも獣がいるのかもしれない。本調子ではない今の状態で戦うのは避けたいが、もし相手からやってくれば霊夢は迷うことなく向かって叩きに行くだろう。

 

勘のままに進んでいく霊夢であるが、幸いに魔物とは出会う事もなくどんどんと道を進んでいく。

緩い坂、急な坂と上り下りを繰り返すと林を抜け、先を見つめると丘が見つかる。そしてそこには、人影が見えた。

 

丘から見えるのは広大な林と草原、眺めているだけでも心から晴れ晴れとするかのような風景だ。

石の橋が二つの山のような巨岩を繋げる光景が真っ先に目に映る。遠くからでは分かりづらいが、巨岩の上には幾つもの建物が建っているように見えた。

 

 

 

魔女風な帽子を被る少女が親指と人差し指で囲みながら、それを見つめている。

呆れながらも、まだ霊夢に気づかない少女へと近付いた。

 

「何やってんのよ…魔理沙」

 

「お?霊夢。お前もいたのか。ま、当然だわな。一緒に巻き込まれたわけだし」

 

離れ離れとなり、何処とも知れぬ世界での随分と気楽な再開であった。

 

「いい光景だぜ、ここは。こうして指に入れると街もちっちゃいなっと思ってさ…」

 

特に意味のない行動であった。

だが、魔理沙は無意識に指で囲って先にある風景を眺めていた。

見知らぬ場所であるから、少なからず不安はある。

魔理沙とて、精神は普通の少女と変わりない。

それでもこの壮大な光景はそれを一時でも忘れさしてくれるようであった。

魔理沙の心の中には、とある思いが再び燃えあがろうとしている。

 

「…なんでかな、私、今すげーワクワクしてるんだよ。とんでもないことに巻き込まれたはずなのに、心臓の音が止まらないんだ」

 

「そりゃ止まったら死ぬからね。ま、だいたい見当ついてるわよ。ここがどんな世界なのかは」

 

霊夢も魔理沙もここが何処であるかを気付いていた。

幻想郷で使えていたはずの力が碌に感じ取れない今の感覚。

知っている。知らないはずがない。確かにこの場所に来るのは初めてだが、世界は初めてではない。

 

「ヴァナ・ディール…また、ここに来たんだな」

 

人々の愛する世界、ヴァナ・ディール。

少女達を迎えるかのように、頭上にある厚い雲が切れ、梢からやわらかな光があたりを照らしている。

 

それは、まるで少女達に新たな冒険の幕引きを祝福するかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

……To Be Continued?

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