東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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第五章「御礼には義によって示すが道理」

まだ神々が存在していた頃のお話である。

遠い遠い昔、大きな美しき石が、世界を生命で満たしていた時代。

生まれながらに神の獣であり、異能を持ちし霊獣がいた。

 

空の覇者・バハムート

再生の鳥・フェニックス

夢の使者・ディアボロス

星月の導き・フェンリル

虹の子・カーバンクル

 

神々が眠りに付き、ヴァナ・ディールという世界が新たに生まれても、彼らは世界の行く末を見守り続けている。

バハムートはかつて古代人との契約に、世界を護るために人間の抹殺を、

フェニックスは人々の可能性を信じ、自らの力を失ってでもバハムートへ牙を向き、

ディアボロスは争いのない夢の世界を作り上げ、己の世界に全てを閉じようとし、

フェンリルは天才と同化し、救いのない未来を提示しながらも運命を切り開いていく事を信じ、

異なる神々の力を合わせ、世界を救おうとしたカーバンクル。

 

様々な思惑があれど、彼らの行く先は結局のところ、「世界のため」であるのだ。

そのためなら数多の犠牲を辞さない者もいれば、犠牲を最小限に抑えるために行動する者もいる。

ある者が見ればそれは正しくとも、正しくないとも映るだろう。

それでも彼らは己の行動に疑問を抱かなかった。

世界を守護する事こそが霊獣の役目であり、そして世界を壊してしまう災厄の男神はそれほどに抗い様のない存在なのだ。

 

龍の鱗と翼を持ち、王たる風格を持つ霊獣は言う。

 

――プロマシアと戦うのは無謀だ。我らがヴァナ・ディールに顕現できない以上、■■■を滅ぼして彼奴の存在を無かった事にするべきだ

 

猛々しいまでの巨大狼であり、星月の輝きを照らす霊獣は言う。

 

――それはまだ早い。■■■にもヴァナ・ディールの住民がいるのだ

 

悪魔の如き姿をし、夢とも現実とも知れない霊獣は言う。

 

――所詮、夢の世界。幻想ノ世界に過ぎナい。何を躊躇う必要ガあル?

 

不死鳥の翼を背に生やし、黒衣の服に色白の少年は言う。

 

――否、如何に幻想の世界と言えども彼等と出会ったのなら意味はあるはず。あの時のように、再び運命は乗り越えられるはずだ

 

蒼色の毛並みを持ち、少年のような、少女のような声をしながら霊獣が言う。

 

――なら、こうしない?

 

その霊獣は一つの提案をした。

世界を護るために世界を殺す。

だけどその犠牲は計り知れない。だが、それしか手段がなければ霊獣達は何も躊躇いもなく実行に移すだろう。

 

――■■■の住民が呑まれようとした時、僕の身体を分け与えよう。ヴァナ・ディールの冒険者と違って、彼らはクリスタルの加護を得てない。虚ろに呑まれたら肉体を失って虚ろの残思になるだろうからね

 

――何をスる気ダ?

 

――■■■の住民達がかつて、冒険者達がプロマシアの呪縛に打ち勝てたように彼女達もどうなのかを定めるのさ。幸いヴァナ・ディールと繋がってる■■■にも虚ろが噴出している

 

――奇跡は二度も起こらぬ

 

――奇跡は起こすものだよ。そうだね、肉体を本当に失ってしまっては僕達と出会っても戦えないだろうから……神獣達のクリスタルを使い、保護をしようか。アストラル界でなら保存も利くだろうしね

 

――彼らが納得するとも思えないが……

 

――何とか説得してみるさ。……ああ、好都合だ。虚ろの活性化で彼女が呑まれている。

 

霊獣の目には見えていた。

幻想の世界、忘れ去られたモノが行き着く最後の楽園。

その管理人が、虚ろに呑まれようとしている。

このまま行けば彼女は虚ろに呑まれ、その存在の一欠片も残さずに消えて無くなるだろう。

あれに耐えられるのはクリスタルの加護を得た者か、それとも虚ろに近しいモノを宿した者か、もしくは霊獣に近しい者だけだ。

 

他の者も虚ろに呑まれていく中、霊獣は楽園の管理人だけに狙いを定めた。

世界の身守りし者が選択する答え、だからこそ彼女が適任なのだ。

■■■とヴァナ・ディール、二つの世界を守れるのは彼女次第なのだ。

 

――八雲紫、君に僕の身体を分け与えよう。それは無力な獣に堕ちてしまうけど、己の世界を護りたくば僕達の所に来るんだ

 

肉体と精神が分離され、肉体はクリスタルに包まれていく。

残った精神は霊獣からの"魔力"によって仮初の肉体が構成されていく。

 

その姿は――

 

――さぁ、行こうか

 

紫の毛並みに紫の水晶を額に宿し、リスのような顔立ちをしながらも羽のような尻尾を持つ獣。

霊獣の姿を象ったその名はカーバンクル。中身の精神は八雲紫と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノーグからタブナジアへと戻ってきた。

二日ほどの航海を終え、特に荒波に揉まれる事もなく安全な航海であった。

船は地下壕にある港に到着し、船員達はそれぞれがようやく自分達の帰る場所に戻れた事にリラックスしている。

 

船から降りていくのは屈強な船乗り、そして少女達であった。

ずっと船に居っぱなしだったためか、博麗霊夢は身体をぐっと伸ばしていた。

 

「船に乗り続けるのも大変ね。やる事がないもの」

 

「私はこいつの修理に時間が足りないぐらいだったぜ」

 

送れて下りて来たのは黒白の少女である霧雨魔理沙。

魔法使いである彼女の手には愛用の箒、そして少しばかり大き目の鞄を持っていた。

鞄の中身は近東の地で作られた自動人形であるマトンだ。

ノーグにあるゴミ山から広い、壊れているのか修理をしようとするがウンともスンともしない状態であった。

この二日ほどマトンに触り続けた結論、それは「専門家でなければ修理する事は不可能」であった。

それこそ魔理沙と同じ魔法使いであり、人形遣いでもあるアリス・マーガトロイドであっても難しいだろう。

人形専門の修理ではなく、マトン専門の修理でなければいけないのだ。

せめてマトンを操るからくり士がいれば別なのだろうが、からくり士をメインにしている冒険者はさほど数はいない。専門を求めるならそれこそ近東の地に赴かなければならないだろう。

 

続けてノーグで再会したナズーリン、飛竜のクビラ、そして紫も遅れて船を下りていく。

傍から見えれば腋の空いた巫女服少女、黒白の少女に鼠耳と尻尾のある少女、そして飛竜と色違いのカーバンクルが歩いている様は奇妙に見えた。

ヴァナ・ディールであっても珍しく映るだろう幻想少女達。

彼女達を出迎えたのはエルヴァーンの女性だった。

 

「おかえりなさい、みなさん。楽しんできましたか?」

 

「ウルミアさん。まぁ、それなりに収穫はありましたよ」

 

橙色の髪を肩まで伸ばし、ノーグの住民であるウルミアは霊夢達を出迎えに来たようだった。

少女達に遅れてプリッシュも船から出ると、ウルミアがいることに気付いたようだ。

 

「出迎え御苦労さん。わざわざ待ってたのか?」

 

「それもあるけど、プリッシュ。あなた忘れてないかしら?」

 

「忘れてる??」

 

「……前に言ったじゃない。今日はひんがしの国から貿易の人がやってくるって。もし間に合わなかったらどうするの?」

 

ウルミアの言葉にプリッシュは、ああと頷いた。

栄華を極めたはずのタブナジアが滅び去って二十年。そこから少しずつ復興されていき、生き残りがいる事が世界に知られて一年以上。

国土の大半が失われ、更に数多くの魔物が跋扈するようになったといってもタブナジアにはまだ数多くの資源がある。

特に貴重な海産資源が多く取れる事からそうした取引を求めて各国との貿易は絶えない。

 

「別に俺がいなくてもいいだろ。デスパシエール老やジャスティニアスがいるわけだし」

 

「でも、ひんがしから来るならテンゼンさんも来ているかもしれないわ」

 

「あー、ござるのおっちゃんか……。どうだろうな」

 

プリッシュの脳裏に思い浮かべるのはひんがしの国にいる侍であり、ござるござるとタブナジアやサンドリアでは聞かない語尾をしている男。

ひんがしから来るのであれば確かにウルミアの言う男が来る可能性もないわけでもないはずだ。

プリッシュの知り合いであり、様々な事があったとはいえ異変の解決に力を貸してくれたのだから。

ウルミアとプリッシュの話を聞いて魔理沙が興味本位で聞いてみた。

 

「なんだなんだ。また貿易の話か?」

 

「おう。どうやらひんがしの国から来るそうだぜ。」

 

「ひんがしと言ったら侍と忍者の国だっけ?……ござるの集団とか胸が熱くなるわね」

 

ひんがしと言えば侍。侍と言えばひんがし。

そのぐらいに常識的な事であり、ヴァナ・ディールの地名もある程度知っている霊夢は脳裏に煩いぐらいに気合いを入れて黙想する侍、目線をかけた忍者の集団を浮かべてしまった。

 

「しかしなぜそんな重要な事を忘れていたんだい?」

 

「俺からすればさほど重要でもないからなぁ」

 

「プリッシュ……あなたね……」

 

ナズーリンの問に答えるプリッシュ。

本当にそう思っているような口ぶりにウルミアは頭が痛くなりそうになった。

 

「まだひんがしの人達が来るまでに時間があるから、それまでに身体を休めておきなさい」

 

「そうさせてもらうわ。さーて、来るのはテンゼンのおっちゃんかねぇ」

 

船旅で身体が疲れを訴えている。

ウルミアの言う通りに部屋へと戻っていき、身体を休める事にした。

ひんがしから来るのは果たしてプリッシュの知る人物なのか。それは実際に見てみなければわからないことだろう。

 

「あ、レイムさん達もお休みになってください。長い船旅で疲れてるでしょうし」

 

「私はそうでもないんだけど……魔理沙はどうする?」

 

「寝る。帰りの船であまり寝てないのがまずった」

 

魔理沙の目の下は隈が出来ていた。

寝不足から起きる現象だ。

魔理沙は一つの事に集中すると止められないタイプだ。

マトンの他にマトン以外の戦利品を弄るのに熱中しすぎて帰りの船であまり寝ていなかったのだ。

 

「あ、ノーグで知り合いが一人ついてきたんで、部屋を一つ空けてほしいですけど大丈夫ですかね?」

 

「知り合い……あの子の事ですか?」

 

ウルミアの目に映ったのは鼠のような耳と尻尾を生やした幼い女の子。

幼いとはいえ、背中に槍を背負い、少女の周りを飛んでいる飛竜の姿が見える。

霊夢と同じくヴァナ・ディールではあまり見る事のない服装と外形をしている事から、霊夢達の元いた場所の住民だという事が予測できた。

 

「わかりました。一室空けておきますね」

 

「すまないね」

 

「いいわよ。礼なら帰ってから賽銭箱に賽銭を入れて頂戴」

 

別に大した事をしたつもりはないと霊夢は言う。

それでも礼を言うのなら賽銭入れろ。

幻想郷では博麗の巫女の事を噂に聞いた人物像で固めていたが、それは本当でもあるが、間違いもであるとナズーリンは分かった。

 

(ハハァ、なるほど。こういう人なのかい)

 

優しさを持っていないわけではないが、それは表に出さない。

そして本人はそれを優しさであると分かっておらず、自分の行く道を進む事しかできない。

何処までも不器用で、何処までも人間らしく、何処までも純粋のようで歪んでいる。

当然だ。

博麗の巫女である博麗霊夢は全てに縛られてはいけない。

普通の人間にあるはずの喜びも、悲しみも、怒りも、優しさすらも。

自由であるがゆえに妖怪と人間の調停者で有り続けなければいけない。

巫女であるがゆえに幻想郷を監視しなければいけない。

 

(ベクトルは違うが聖のように中々めんどくさいタイプだな。いやはや彼女と一緒に住んでいるという騎士には合掌だな)

 

霊夢という少女を理解するのは生半可な事ではないはずだ。

ただの少女のように見えて、何処か浮世離れしている節も見える。

それがナズーリンの主人である寅丸星、その星が慕っている聖人聖白蓮にも似た何かに通じていた。

霊夢の友人である魔理沙は幻想郷の遊びであり、白黒はっきりつける決闘である弾幕ごっこが成立した頃からの長い付き合いであるが、霊夢と一緒に暮らしている騎士と今宵の妖怪はヴァナ・ディールが融合して一年かそこら程度。

たった一年で、博霊の巫女である霊夢の心を開かせたのだ。

そんな事も露知らず、苦労しているであろう霊夢の同居人にナズーリンは心の中で合掌をした。

 

ウルミアと別れ、ナズーリンを連れて霊夢の部屋へと戻った。

冒険者用とはいえ、質素な一室であるが人が住むのには問題はない。

二つあるベッドの一つはすでに魔理沙が布団に包まって静かな寝息をしながら寝ていた。

 

「あんたの部屋ができるまでここでゆっくりしていきなさい。私は食堂に行って酒貰ってくるわ」

 

「ああ、わかった」

 

そのまま霊夢は食堂に向かって行き、部屋を出ていく。

あまり広いとも言えない部屋に残され、ナズーリンの飛竜であるクビラは何か面白いものはないかと部屋の中を飛び始めた。

 

「こらこら。寝てるのがいるんだ。静かにしなさい」

 

「るぅぅぅぅ……」

 

しかしこの部屋では寝ているのが一人いる。騒ぐのは得策ではないので、先にクビラを静かにするように言った。

親の言う事には素直に聞くのか、地上に降りると翼を畳みながらちょこんと座り始めた。

 

「どうせなら私のちょっかいを出すのもやめてほしいんですけども」

 

「うん?仲が良くていいことじゃないか」

 

「その仲の良さで私の寿命がストレスでマッハですのよ……」

 

丸い机にいるのは紫色のカーバンクル。

幻想郷の管理人であった姿が変わり果て、今では飛竜のじゃれあいに命の危機に晒される紫であった。

 

「もうじきこれも直るだろうから、探し物をするのも楽になる。さて、宝塔はいったい何処にあるのやら……」

 

ナズーリンの首からかけられた青い宝石。

探しものをする時に使う能力に欠かせないペンディラムであるが、まだ罅が入っていて痛々しい。

これでも初めてヴァナ・ディールに来た時に比べて大分マシになっているのだ。

あと少しばかりの霊力を流し込めれば完全に修復は完了するだろう。

 

「私は修理に入るから管理人殿はクビラを見てくれ。黙るのに飽きたら遊び始めるだろうからその時の相手になってくれると嬉しい」

 

「またですの!?もうゆるしてくだしぁ;;」

 

修復するのはただ霊力を流し続けるだけでは意味がない。

長年を共にしてきたペンディラムが何処を壊れているのかを察知し、的確に霊力を流し込まないと意味がないのだ。

その間にクビラを静かにさせることはできないし、集中も切れてしまう。

クビラの注意を引きつけるためにも紫を贄にしようとし、紫は全力で拒否しようとする。

が、拒否したところで無駄なのはナズーリンも分かっていた。クビラが飛ぶのが駄目と分かればお気に入りである紫と遊ぼうとするはずだ。

まだ紫が何かを言っているかそれを無視してナズーリンはペンデュラムの修復に取りかかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあ……?」

 

パチリと目を覚ますと見知った天井が見えた。

魔理沙はまだ眠たげに目を擦り、ベッドから起き上がる。

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

 

「……ナズーリンか?なんでここにいるんだぜ?」

 

「私の部屋ができるまでここにいる事になったんだ」

 

まだ視界がはっきりとしない中、ナズーリンがペンデュラムの修復を、クビラが紫を小突いているのが見えた。

 

「私、どのぐらい寝てた?」

 

「だいたい六時間ほどだな。巫女のほうは食堂で飲んだくれてるのを見た」

 

「……腹も減ったし、私も食堂に行くか」

 

部屋に戻ってすぐ寝たためか、魔理沙の腹は空腹を訴えていた。

ナズーリンに見送られた形に部屋を出ていき、見知った道を歩いていく。

寝る前の時間が朝であったのを考えると今は昼頃だ。

薄暗い地下壕を進んでいき、食堂へと向かって行く。

 

「んん~……もうのめないぃ……」

 

食堂には寝言を言いながら机に寝そべっている巫女がいた。

霊夢の周りには幾つもの酒瓶が転がっている。あれを一人で全て飲んだらしい。

 

「あら、マリサちゃん」

 

「よっ、おばちゃん。何でもいいから飯作ってくれ」

 

食堂で働く40代であろう女性に飯を頼み、霊夢とは少しばかり離れた所にある席に座った。

離れた場所からでも分かる酒臭さ。いったいどれだけ飲んだのだろうか。

老けづらいエルヴァーンながらも、やや皺のある食堂のオカンに飯を頼み、魔理沙は食事を待つ。

 

「はい、お待ち。簡単なものだけどこれでいいかい?」

 

「サンキュー。これで大満足だぜ」

 

海苔を巻かれたオニギリ、塩焼きにされた魚、微塵切りにされたラテーヌキャベツ。そして冷たい水が入ったコップだ。

昼飯にしては量は少なめだが、起きたばかりの魔理沙には丁度いい。

 

ほかほかとした丁度いい温度のおにぎりを手に取り、口に運べばパリパリとした海苔とご飯の食感がしてくる。

軽い塩付きで握られていたのか、ちょっとばかり辛みが感じた。

お次は箸を手にし、山盛りとなった微塵切りのキャベツを多めに掴んで食べ始める。

新鮮な野菜だけあってか瑞々しい食感が溜まらない。シャリシャリと心地よい音が口の中で歌っている。

最後はおかずである塩焼き魚だ。あらかじめ骨を抜かれていたのか、箸で崩すと簡単に肉だけが掴み取れる。

タブナジアで捕れた新鮮な魚介類だ。美味くないはずがない。

 

「相変わらずいい食いっぷりだね!おばちゃん嬉しいよ!」

 

「おばちゃんの飯は美味いからな!」

 

長年の培った技術というものなのだろうか?単純な塩焼きだと言うのに、離れたところで眠っている霊夢が作ったのに比べて味の深みが出ていた。

 

「食い終ったらレイムちゃんを部屋に連れて行ってくれないかい?まーたく若い女の子がお酒を飲んでぐーすか寝るなんてねぇ」

 

「私からすればいつも通りな光景すぎて泣けるぜ」

 

ここ最近見ていなかったが、お茶を優先して飲むとはいえ、酒も同じぐらいに飲む霊夢。

博麗の巫女でありながら、幻想郷では昼間から酒を飲んで寝る姿も普通に見られるため、むしろこの光景が古い付き合いの魔理沙からすれば当たり前なのだ。

そして貧弱一般人であれば確実に二日酔いはするであろう量を飲んでるのだが、無駄に酒に強い霊夢なのだから目を覚まして弾幕ごっこを即座に行う事だって出来るだろう。今は霊力不足で出来ないが。

 

飯を食い終り、水をぐいっと飲み干す。

食べ終えた後に水を飲むのは格別だ。それが冷たければ更に格別である。

 

「飯を食い終わった事だし、霊夢を連れていくか……」

 

未だに眠っている少女を連れて行こうとすると、食堂の扉が開く。

誰が来たのか、そう魔理沙はふと見てみると、扉には魔理沙のよく知る少女……そして、本来タブナジアにいるはずのない者がいた。

 

「なっ……!」

 

魔理沙の行動は不思議な事ではなかった。

なぜならそれは、幻想郷でも現れ、妖怪と人間に関係なく粘着してくる存在。

見た目は人に似ているが、決して人ではない。

鴉のような黒い羽根を全身を多い、鳥のような足をしている。

人の敵とも言われるヴァナ・ディールの亜人。ヤグードそのものであった。

なぜプリッシュの横にヤグードがいるのかは分からない。

だが、それでも魔理沙は即座に魔法の詠唱に入った。幻想郷、そしてヴァナ・ディールで獣人に粘着され続けてきたための無意識的な行動だったのだ。

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!落ち付け、マリサ!こいつは敵じゃねぇ!」

 

プリッシュの声に魔理沙はハッと正気を取り戻した。

冷静に考えてみればそもそも警備隊のいるタブナジアで獣人が入れるわけもなく、プリッシュの横にいる時点ですぐに敵と考えるのも早計だった。

そのヤグードは、幻想郷やウィンダスで見たヤグードとはあまり変わっていない。

あえて違う点を言うのなら持っている武器だろう。

 

天昌暦589年、七人の少女からなる使節団がひんがしの国より渡来したのだが、当初は使者として来たのにも関わらず、ウィンダス側はアルタナを信仰していないという理由でひんがしの使節団は門前払いを喰らってしまう。

するとひんがしの姫は機転を利かせ、ひんがしで伝えられる「天狗」に似た人々であるヤグードに書状を渡す先を変更したのである。

当時のヤグードの指導者であり、現人神ムー・サジャは宗教上の問題を一切不問として訪れた使節団を厚遇し、更に使節団の帰路に際には自らしたためた書状、100名からなる選りすぐりのヤグード兵を家臣として姫に与えた。

この関係からヤグードの文化にはひんがしの文化が混ざっていき、ヤグードの装飾に数珠、武器には刀などが使われるようになったのだ。

 

そしてプリッシュの横にいるヤグードは刀を腰につけていた。

それも両手で扱うような長刀ではなく、片手で使うような短めの刀だ。

つまり、このヤグードは冒険者の職業ジョブで言う忍者の部類なのだろうと魔理沙は予測する。

 

 

 

時は少しばかり遡る。

ひんがしとの貿易が始まる事に、タブナジアの者達は少しばかり浮き足気味であった。

まだ栄華を極めていた頃のタブナジアでさえ、ひんがしとの交流はほとんど無かったのも理由の一つだろう。

 

「お、来たぜ!」

 

「あれがひんがしの船か」

 

「あまり見た事のない造形だな……」

 

タブアジアの港にやってくる船。

それは三国の貿易としてやってきた機船とは違う、ひんがし特有の造船だった。

船底にはオールのようなものが幾つも飛び出る形となっており、あれで海を渡るのだ。

タブナジアの住民は知らない事だが、その船の構造は近東の地で活動をする死者の軍団が使うオール船に酷似していた。

 

船が桟橋と接舷すると、船の中から使節団らしき者達と護衛の者らしき達が下りてくる。

モンクや忍者が防具として身に付けるような拳法着にも似た、それでも袖や裾の長い服を纏ったひんがしの住民であった。

使節団の中で一際目立つのは絹のような長く美しい黒髪をしたヒュームの美女であった。

見ているだけで惚れ惚れとしてしまいそうであり、タブナジアの男の一人がその美しさに見惚れてしまい、偶々近くにいた女に足を抓られていた。

 

わらわは『たぶなじあ』との交友を深めるために来た使節団の一人。汝がこの町の首長でええかや?」

 

「これはご丁寧に……はい。私がこの地下壕を纏めているデスパシエールです」

 

「ほほほ。よい、そこまで畏まらなくてもな。うむ、薄暗い地下壕ながらも人の目は失っておらぬ。良きかな良きかな」

 

その美女はひんがしの姫である事を明かした。

とは言っても、数多くの兄弟姉妹の一人であるらしく、地位的な高さで言えばそこまで高くはないと言った。

 

「時にですぱしえぇる老。この国にはぷりっしゅという女子がおるらしいが?」

 

「プリッシュ、ですか。確かにおりますが……」

 

「その娘を呼んでほしい。妾ではなく、他の者に用があるんじゃがな」

 

姫がなぜプリッシュを知っているのかは分からなかったが、デスパシエールは疑問を抱きながらも他の者にプリッシュを呼ぶように命じた。

しばらくするとまだ眠たげに目を擦りながら少女がやってきた。

 

「あ~……いったい何の用だよ、デスパシエール老……」

 

「この馬鹿者がっ!ひんがしからの遣いが来るとウルミアが言っておっただろう!」

 

滅多に口を荒くさせないデスパシエールであるが、この時ばかりはさすがに無理であったようだった。

ウルミアから事前にひんがしからの遣いが来ると知らせていたのにも関わらず、プリッシュは自室でぐーすかと眠っていたのだ。

 

「申し訳ありません……少しばかり煩くしてしまいました」

 

「良い。……ふむ、テンゼンの言ってた通りの娘じゃな」

 

「ん?あんた、テンゼンを知っているのか?」

 

仮にも姫に対するこの口調。

いくらプリッシュが目の前の女性が姫であると知らないとはいえ、デスパシエールは頭が痛くなりそうだった。

 

「よう知っておるとも。我が国の宝刀である「鳳凰丸」の使い手である侍じゃからのう。テンゼンがよく汝の事を語っておったぞ。「型破りで常識を踏み越える誰よりも男児らしい女子」であるとな」

 

「あのおっちゃん……どういう目で俺を見てるんだよ……」

 

プリッシュの性格は豪快で細かい事を気にしない男らしい性格だ。

そのため、テンゼンという侍の語るプリッシュの事もあながち間違っていないのだが、それをはっきりと言われるのも何となく納得できない。

それを見て姫はカラカラと笑っていた。

 

「鳳凰丸の力を失ったとはいえ、それでも汝らの活躍によってひんがしでも問題にあった『虚ろ』を解決し、世界を救ったというのも話に聞いた。その事は感謝しようぞ」

 

「俺だけが解決したわけじゃないんだけどな」

 

「ほほほ、謙虚な娘じゃな。さて、汝にはテンゼンが世話になったそうじゃからな。……月照!」

 

姫の声が高らかに響き渡ると、疾風が舞い上がる。

その疾風と共に姫の隣に控えるのは天狗であった。

忍びのように音もなく、気配もなく、その者は現れた。

 

「拙者の名はゲッショーと申す者。ぷりっしゅ殿、そなたの活躍はテンゼンから聞いているでござる」

 

獣人でありながらも流暢なアルタナ語であり、ひんがしの国特有のござる口調である。

 

「我がひんがしに置いては何よりも義を重んじるもの。即ち――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方幻想鉄~プロマシアの幻影~

第五章「御礼には義によって示すが道理」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけ、このおっちゃんは敵じゃないって事だ」

 

「そーなのかー」

 

思わずゲッショーに攻撃を仕掛けようとした魔理沙であるが、プリッシュの静止と説明に魔理沙はようやく納得した様子であった。

獣人とは敵である事が常識であり、敵ではない獣人は街中で商売をするゴブリンを除いてごく僅かだ。

ゲッショーを含むひんがしにいるヤグードは、200年以上の昔に家臣としてひんがしの姫として仕えていた者達の子孫である。

そうしたヤグードは獣人でありながらも人と共に生活をしており、中には武人として名を馳せる者も少なくない。

 

「ゲッショー……だっけ?あんた、ひんがしの人?でいいんだよな?」

 

「然様。今は姫に仕えるしがない忍の身。このゲッショー、ひんがしの使者として、恥じぬ働きをするでござる」

 

「そうでござるか。苦しゅうないでござる」

 

「よーし、そこまで言うなら沢山働かせてやろう!死ぬまで働かせてやろう!」

 

「……いかん、拙者、身を早まったか……?」

 

義によってプリッシュの元で動く身になったゲッショーであるが、それが早計であると感じ始めてしまった。

ひんがしの侍であり、過去にプリッシュと共に異変解決をしていたテンゼンの話を聞いていたゲッショーは、プリッシュが言う事はほぼ間違いなく実行されると知っていた。

ゲッショーは近東の地で汚い傭兵会社の策略によって死ぬまで働かされそうになった経験がある。

その事を思い出し、思わず身震いしてしまった。ゲッショーの人生に置いてあれほどの恐怖を感じた者はいないのだから。

 

「おい、おっちゃん。大丈夫か?顔が悪いぜ?鳥だけど」

 

「……ぬ。少しばかり取り乱してしまったようでござる」

 

「で、プリッシュはなんでここに来たんだ?」

 

魔理沙の疑問。

話を聞くばかりではゲッショーがかつての恩のためにプリッシュに協力しているのは分かる。

だが、なぜ食堂に来たのかは分からないようだ。

 

「ああ。そろそろ活動を始めるぜ」

 

「へっ!ようやくか!」

 

身体は充分に休めた。

ならば次に行うのは当然、異変の追及と解決だ。

タブナジアに戻ったのもそれが理由なのだ。この土地の何処かに、謎を解き明かす何かがある。

 

「ぷりっしゅ殿。いったい何が起こっているのござるか?」

 

「『虚ろ』だ。それがまた出やがった」

 

「何と!?いやしかし、『虚ろ』はすでに消え去ったと……」

 

そう、虚ろは確かに消えたはずだった。

世界の、人類の滅亡の危機に陥るはずだった異変の解決を持って。

 

「なんでかしらねぇがまた出たんだよ。俺らはそいつの謎を追っている。ゲッショー、会って早々だが協力して貰うぜ?」

 

「……元より拙者はぷりっしゅ殿に出来る限りの協力をしろと姫から言われているでござる。そして『虚ろ』の脅威はテンゼンから聞いている。ならば協力するのは当然の理」

 

「私はナズーリンを呼んでくる。プリッシュはそこで寝てる腋巫女を起こしてくれ!」

 

そう言い残すと魔理沙は食堂を出ていき、ナズーリンのいる部屋へと行った。

この異変の解決にはナズーリンの物探し能力が必要不可欠だ。

戦争によって国土の大半が失われたとはいえ、それでもタブナジア半島全てを調べ回るのは広すぎるし、中には一級廃人でも苦戦するような魔物も多く生息している。

そこでナズーリンの物探しの能力が生きてくる。

アバウトな探し物であればピンポイントに探せないとはいえ、それでも大まかな位置は確認できる。それだけでも充分と言えた。

残ったプリッシュは寝ている霊夢を起こそうとするが、少女からの酒臭さに鼻を抑えてしまった。

 

「うぅ……?はら?わたしねちゃってた?」

 

「レイム、酒臭いにも程があるぜ……」

 

「ちょとばかり羽目外しすぎちゃったわね……おばちゃーん、水ちょうだい!」

 

「アイヨー」

 

冷たい水を受け取り、霊夢はそれを一気に飲み干していく。

起きたばかりの霊夢であったが、冷たい水が喉を通るとそれに刺激されて眠気を飛んでくる。

まだ酒臭さもあったが、頭が完全に覚醒していった。

 

「あら?プリッシュじゃない。なんか用?」

 

「ああ、実はな……」

 

プリッシュが霊夢に事情を説明していく。

 

「ふぅん。もう動くの。とりあえずナズーリンのペンデュラム次第ね」

 

「ああ……お、来たようだぜ」

 

振り返ると魔理沙がナズーリンを連れてきたようだ。

魔理沙は紫色の獣を抱き抱え、ナズーリンの横にはクビラが飛んでいる。

 

「博麗の。随分と酒臭いが体調は?」

 

「まだ飲み足りないぐらいね(キリ」

 

「つまり大丈夫だって事だな」

 

魔理沙は呆れた様子で霊夢の体調を言った。

あれだけ飲んでまだ飲み足りないと言えるのは幻想郷の強者であるなら当たり前であるのだが霊夢は人間だ。人間の身でここまで飲めるのだから大したものである。

 

「……むっ。お主、化生の類でござるか?」

 

少しばかりの沈黙を保っていたゲッショーであるが、ナズーリンの一目見て人ではないと看破した。

その事に少しばかりナズーリンは驚いてしまう。

 

「君は……確かヤグードと言った獣人か。なぜ分かる?」

 

「人間とはまるで違う気配、かと言って魔物や亡霊とも違う気配。拙者が今まで感じ取った事の無き妖気をも孕んだ者。その小さき姿もまことの姿でもないと見た」

 

「……なるほど、武術の達人であっても見分けが付くのか。そうだ、君の言う通り、私は人ではない。だが、今はそんな事はどうでもいいだろう?」

 

以前にナズーリンは、南国の村であるカザムで出会ったタルタルの魔道士に観察眼の優れた者はナズーリンが人間ではないと気付く者がいるかも、と言っていた。

目の前のヤグードの忍がそうなのだ。

気配という、各それぞれが持ち合わせる気質を読み取る武術の達人。

微細な流れを感じ取り、人ではないと看破するゲッショーの実力の高さが伺える瞬間でもあった。

 

「あいや失礼。話を脱線して申し訳ない」

 

「ああ。とりあえずペンデュラムなんだがこの通り。ほぼ修復に漕ぎ着けた」

 

ナズーリンの首にかけられた青い宝石。

最初に見た時は罅の入っていたと言うのに、それは青い輝きを持った宝石へと元通りになっていた。

 

「まだ試しもしていないが……まぁ問題はないだろう」

 

「そりゃ朗報だな。そんじゃ、ナズーリン」

 

「『タブナジア』『虚ろ』『紫の肉体』『巨大クリスタル』……とりあえずこの辺りで頼める?」

 

まだ探し物としては曖昧ではあるが、能力が復帰したナズーリンには充分と言える検索情報だ。

『タブナジア』大陸の全土を範囲とし、異変の象徴ともいえる『虚ろ』を探し当て、元の世界に戻れる糸口である『紫の肉体』を見つけ、更に異変の謎を握る『巨大クリスタル』まで迫る。

ペンデュラムの修復によってナズーリンの能力はそれこそ幻想郷中を探す事のできる能力になる。

タブナジア孤島を範囲として探すのも骨が折れるだろうが不可能ではない。

ナズーリンは、細長いロッドとペンデュラムを使い、ヴァナ・ディールで初となるナズーリンの真の能力を発動させた。

 

能力を発動させた瞬間にナズーリンの脳内にタブナジアの国土が広がって見え始める。

多くの自然を残し、多くの動物が生きる孤島でありながらも、人間に害を為す魔物、獣人であるオークがいる。

このタブナジアには確かに巨大クリスタルの反応が存在した。そして、紫の肉体すらも。

島の隅々まで探っていく。少しでも反応を逃さない。

ただでさえ少ない霊力に加え、本気で探し物をする能力を発動した消耗は桁違いだ。

額に汗が出そうになりながらも能力を使い続けていく。

 

「……見つ、けた!!」

 

それはタブナジアであって、タブナジアではなかった。

通りで見つからなかったはずだ。

なぜならそこは、タブナジアにありながらも一種の異空間と化していたのだから。

そこは岩々が空中に浮かびあがり、異界と化しているところであった。

ロッドが強い反応を示している。間違いなくその異界の先に探し物は存在する。

 

「岩盤が丸ごと浮いたような、不思議なところだった。だが、そこに強い反応があった」

 

「リヴェーヌ岩塊群かっ!」

 

ナズーリンの話を聞くと、プリッシュは大声を上げた。

どうやらナズーリンの言う異界を知っているようだった。

 

「リヴェーヌ……?どういうところなんだぜ?」

 

「元は西にある岬だったんだが、ちょいとトラブルがあって異界になっちまったんだよ」

 

タブナジア本島の西にあるリヴェーヌ岬。

元は畑などの農園をする場所であり、戦争が起きる前は穏やかな場所であったと知られる。

だが、一年以上の昔、真龍の王が目覚めてしまった異変の前兆が起きる。

神の域に達した霊獣の中でもトップクラスな存在でもあるバハムートの影響は凄まじく、リヴェーヌ岬はその影響を受けてしまった結果、岩盤ごと雲上まで浮上する現象が発生。

その影響で穏やかだった岬は異界と化し、今ではリヴェーヌ岩塊群という空に浮かぶ岩塊となっていた。

 

「空に、浮かぶか……!そりゃ楽しみだな!」

 

空を浮かぶ岩塊と言えば幻想郷での天界を思い出す。

が、今回のは天界とは少しばかり違う。

異変解決では同じ事かもしれないが、それでも魔理沙は感じ取っていたのだ。冒険の匂いを。

 

「じゃあ、今回はリヴェーヌなんたらってところに行くって事?」

 

「そうなるね、博麗の。管理人殿はどうする?留守番をしてるかい?」

 

「愚問ですわ。そこに私の身体があるかもしれないのに留守番はしていられません」

 

探し物は見つかった。

あとはそれを行って見つけ出すだけ。

その先に何を待っているのか。まだ、少女達は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タブナジアにはチョコボ調教師がいないため、チョコボに乗って移動する事ができない。

そうなると必然的に徒歩になるのだが、いくら島々が重なっているタブナジア半島とはいえ、徒歩で歩くのには広い島でもあった。

目的の場であるリヴェーヌ岩塊群はタブナジアの西側にある。

本来であれば最西端にあるはずの岬であるが、その岬が丸ごと失ってしまった結果、二時間ほども地下壕から出発すれば異界の入り口に着いてしまうほどに近くなってしまった。

 

「おぉー!すっげぇー!!」

 

「これは面妖な……」

 

「凄いな……これほどの異界を安定させた形で維持しているとは……」

 

岬があったであろう部分が綺麗に抜き取られ、その先には異界の入り口らしき空へと続く空間の歪みが宙に存在していた。

そしてただ空間が存在しているだけではない。

周囲には大きな岩、小さな岩が重力を無視した形で浮いているのだ。

空間の先にある空を見続ければ更に大きな……それこそ島の一部分を切り取ったような浮島が見えた。

あれこそが、リヴェーヌ岩塊群なのだ。

 

「この先どうやって行くの?」

 

「あの空間を突っ込む」

 

「え」

 

「突っ込むんだよ」

 

プリッシュに答えに霊夢は固まった。

空間に突っ込むという事は、この先にある崖を飛び越える事に他ならない。

そして崖の下は当然に海だ。紳士はいないが、元気なお魚さんはいっぱいである。

 

「よし、行くぜ!俺に続きな!」

 

「あ、待ちなさいよ!」

 

「ずるいぜ!私を置いていくな!」

 

「この歪みの奥に何があるのかしらね……」

 

「ぬぅぅ……ええい、南無三!」

 

「さすがに空を飛べない状態でここから行くのには勇気がいるな……遅れるなよ、クビラ」

 

「るうぅぅぅぅぅ!」

 

各それぞれが空間へと突き進み、目の前が真っ暗に染まった。

いったいどれだけの時間をそう感じただろうか?

音もなく、匂いもなく、感触すらも感じない。

一秒にも一分に感じられる中、視界が突然に眩しく映った。

 

「――ッ!」

 

太陽が近いのだ。

すでに昼を過ぎているのにも関わらず、雲の上よりも高いそこは、太陽の光を直に浴びてしまう。

それでも不思議と空気が薄く感じられない。

高い場所は空気が薄く感じてしまい、身体に異常を来たしてしまうのだが、自然に溢れ、草木の匂いのする岩塊は空中にいる事すら忘れてしまいそうになる場所だった。

 

「ここが……リヴェーヌ岩塊群、か」

 

天界に似ているが天界ではない。

不思議な空間だった。

空中にいるはずなのに、感覚としては大地にいる時と何も変わりないのだ。

魔理沙が辺りを見回せばみんながいるかどうかを確認する。

無事だ。みな、無事にここまで来れたのだ。

 

「相変わらず移送の転移ってのは慣れないわね……頭がクラクラしそうになるわ」

 

異界の入り口は移送の魔法による転移に似ていたのか、少しばかりの耳鳴りがする。

霊夢は頭を振ってその耳鳴りを無理矢理に吹き飛ばした。

 

「で、お探しのものはいったい何処にあるんだぜ?」

 

「ちょっと待ってくれ。もう一度探してみる」

 

現地に辿りつき、ナズーリンは再度能力を発動させた。

居場所は見つけ出したが、まだ正確な位置を割り出していない。

巨大な岩塊が浮く不思議な異界全土を範囲に探し出していく。

 

「ここから奥にある……何と言ったらいいか、この異界とはまた違った空間の歪みが存在する場所に何かある」

 

「この奥で空間の歪みつったら……帝龍の飛泉か?」

 

プリッシュは何度かリヴェーヌ岩塊群に足を運んだ事もあり、それなりに地形は詳しい。

異界と化しているリヴェーヌ岩塊群であるが、岩塊の道を行き来するのに所々に存在する空間の歪みを超える必要がある。

その奥にあるのが帝龍の飛泉。

龍王がその翼を休めると伝えられ、あるべき者が召喚の唄を歌う時、真龍の王を呼び寄せる事が可能とも言われる。

もしも巨大クリスタルがあるとすれば、リヴェーヌ岩塊群の中でそこにある可能性は充分に高いと言えるだろう。

 

「プリッシュはそこまでの道を知ってるの?」

 

「道なりに行けばすぐだぜ。途中で何度か魔物に会うがな」

 

リヴェーヌ岩塊群はそこまで道は複雑にできてない。

基本的に分かれ道は少なく、道なりに進んで行けば簡単に目的地までに辿りつける。

この場合、問題となるのは生息している魔物だ。

タブナジアに生息していた魔物に加え、タブナジアにいなかったはずの魔物すらも紛れ込んでいる。

異界となってしまったがゆえに他の場所に生息していた魔物を引き寄せてしまったのか、環境の変化によって魔物の生態系も変化したのか。

どちらにせよ、冒険者からしてみれば無視できないような魔物が数多く現れるようになったのだ。

 

「じゃ、回避できそうな魔物は無視して、邪魔な魔物は倒す方向で行きましょう」

 

霊夢がそう言い括ると皆が傾く。

今のパーティでは隠蔽の魔法を使える者はいない。そのため、自ら襲い掛かってくる魔物を回避するのは難しくなってしまう。

モンクタイプである霊夢とプリッシュ、黒魔道士の魔理沙、竜騎士見習いのナズーリン、忍者のゲッショー、そして無力な獣である紫。

見事な脳筋パーティだとするが何処もおかしくない。

唯一、プリッシュだけが癒しの魔法を扱えるが、本職がモンクタイプである事を考えると"魔力"の無駄はできない。

 

話が終われば後は進むだけだ。

帝龍の飛泉を目指し、草木の生えた地面を歩いていく。

岬を丸ごと抉ったように出来た異界だけあってか、自然は豊富であった。

太陽の日差しが強く照らし、地上にいた時はまだ肌寒さが残っていたが、ここでは少しばかり暑く感じる。

道としては苦難というほどでもない。

安定した道筋を歩いていくと、死鳥などと言った鳥の魔物が羽ばたいている。

どこぞのいやらしい鳥と違い、色こそピンク色だがいやらしくはない。放っておいても害はないので無視をした。

 

「うぉ!?なんじゃこらぁ!」

 

岩の塊が浮いている中、それ以上に珍しいものを魔理沙は見た。

一言で言うのなら宙に浮いた葉っぱ。もしくは草だ。

ふよふよと辺りを浮いている不可思議な何かであった。

 

「こやつは……確か『かだぁは』で見た『ふらいとらぷ』でござるな。このような場所でも生息しているとは何でもありでござるな」

 

食虫植物のような頭らしきものを持つ植物系の魔物。

フライドラップと呼ばれ、その名の通り食虫である魔物だ。

生息によっては主食とする物が変わっており、人食いタイプから、合成獣であるプークをも食すフライドラップも存在する。

しかしこれもまた、刺激をしない限りは自ら襲い掛からないタイプの魔物である。

ゲッショーはその事を知っており、プリッシュも同様だった。

 

「食えるの?」

 

「まずい」

 

「おk。把握」

 

一体何を確認しているのか、霊夢とプリッシュは一瞬に確認を行った。

フライドラップの葉は主に錬金術の素材に使われるために食べる代物ではない。

一応、菓子の素材にも使われる事もあるが、そういったのはキチンとした手順を踏んでいるからであって、そのまま食べるようなものではないのだ。

 

地上でもあまり見る事のない珍しい魔物、そしてリヴェーヌ岩塊群の光景を見ながら先を進んでいく。

これだから冒険というのはやめられないのだ。

まだまだ世界には自分の見たことのない光景が沢山ある。そんなヴァナ・ディールという大地が魔理沙は好きであるのだ。

 

「鳥か?でかいな……」

 

「いや、あれって鳥なのか?」

 

狭い道を進んで行くと、少しばかり広めの広場に辿りついた。

その広場には先程見つけたフライドラップなどが浮いているが、それとは別の魔物をナズーリンが発見した。

鳥のような嘴と頭を持ち、全身には薄緑の羽根を生やしている。

しかしそれは鳥ではない。鳥ならあるはずの翼がなく、更にそれは四足の足で地面を駆け回っていた。

まるで馬と鳥を足して二で割ったような外形だ。

 

「ヒッポグリフだ。この辺りじゃあまり珍しくないな」

 

プリッシュの言うヒッポグリフは、鳥に比べて大きな嘴を広げると近くにいた死鳥を丸呑みしてしまった。

ヒッポグリフから得られる羽根は高価に取引されるが、そのヒッポグリフと戦おうとする冒険者はあまりいない。

その理由は単純に強い事が挙げられる。

動きが素早く、攻撃の一つ一つには相手を鈍速にさせてしまう呪いが付加されている。

それに加え、ヒッポグリフの持つ技は防ぐのが難しく、食らってしまえば一気に不利になってしまう。

素材は魅力であるが戦いたくはない。そうした一面を持つ魔物なのだ。

 

「おい、あれってドラゴンか!?」

 

ヒッポグリフとは別の方向に魔理沙が指す。

指された方向には巨大な蜥蜴に立派な翼を生やした魔物がいた。

二足歩行で大地に立つそれはワイバーンである。

数の少ないドラゴン類の一つであるが、その中で比較的に見かける事も多い竜であった。

魔理沙の知る限りではヴァナ・ディールのドラゴンを見たのは竜騎士の飛竜を除いて二度。

 

一度目は幻想郷の地底に生息していた悪名高い魔物ノートリアスモンスターであるファブニル。

二度目はヴァナ・ディールの北に位置する古代遺跡で戦った邪龍だ。

 

それらに比べると小さく見えるが、ドラゴンは他の魔物とは違った強さを持っている。

単純な力、防御力、速さ。どれを取ってもトップクラスだ。

 

「丁度いい。帝龍の飛泉に行くのにあいつの鱗が必要なんだ。倒しちまおうぜ」

 

掌に拳をパンと音を立て、戦う準備を始めるプリッシュ。

なぜ鱗が必要なのかが気になるところだが、どちらにせよ、あの二匹を倒さないと先には進めない。

ヒッポグリフのワイバーン。

この二匹は自ら襲い掛かってくるタイプなのだ。リヴェーヌ岩塊群は隠れながら進むのに適さない場所でもあるため、倒したほうが先に進むのは早い。

 

「俺とマリサはヒッポグリフ。ゲッショーとレイムとネズ公はワイバーンを相手にしてくれ!」

 

「二匹同時に相手をするでござるか?」

 

「俺達の実力じゃそこまで強くないからな。だったら一気に一網打尽だ!」

 

今この場にいる者達の実力はプリッシュとゲッショーが飛び抜けて高い。

二人から見る魔物の強さは高く見積もっても楽な相手でしかない。

そして実力が戻りつつある霊夢達の強さもまた、ワイバーンを相手にしても一人で何とかできる程度の強さになっている。

戦力を二分化し、それで一気に倒していく。

確かにそちらのほうが効率的であるし、問題もないと言えるだろう。

 

「よし、行くぜ!」

 

そうと決まればプリッシュは二匹の魔物がいる広場へと突っ込んでいく。

それに遅れて他の者も武器を手に取り、戦闘を開始した。

 

「どらぁぁぁぁぁ!」

 

ヒッポグリフが気付く頃にはもう遅い。

振り向き様にドロップキックをまともに食らい、プリッシュの何倍もあるはずのその体格が吹き飛ばされる。

 

「こいつの弱点はよくわからんが……ファイア!!」

 

倒れている間に追撃の精霊魔法が襲い掛かる。

火の元素が急速に高まり、それは炎の塊となってヒッポグリフを襲った。

突然の襲撃に軽いパニックを引き起こしているのか、ヒッポグリフはごろごろと転がっている。

そのお陰か、燃えていた羽根が鎮火したようだった。

 

「速効で決める!」

 

何とか立ち直ろうとするが、それを許さずにプリッシュの拳が襲い掛かる。

分厚い羽根に覆われているのにも関わらず、それすらも無視するかのような重い一撃が身体の奥底まで貫いた。

例えプリッシュから見て雑魚と言っても、ヒッポグリフにはやっかいな技が多い。

それを使わせる前に即殺する気なのだ。

 

「大地の怒りが自然を伝う!岩石となりて押しつぶせ!ストーンⅢ!」

 

プリッシュの攻撃によって怯んだのを見逃さず、次の魔法を唱える。

即殺という意図を見抜き、魔理沙も同じように自分の使える強力な魔法を唱えたのだ。

土の元素を働きかけ、地面が少しばかり崩れると、それはヒッポグリフの大きさほどもある岩柱へと変容していく。

その岩柱は真っ直ぐとヒッポグリフに叩きつけられ、ヒッポグリフは悲鳴をあげた。

 

「弱点は土か!」

 

どんな魔物であっても弱点というのは必ず存在している。

それは一部分の構成する元素が崩れている事の証であり、生きている事の証でもあるのだ。

"ストーンⅢ"によって与えられたダメージが大きいのか、プリッシュの攻撃よりも高い悲鳴を出していた。

つまりヒッポグリフの弱点は土の元素なのだと魔理沙は記憶する。

冒険者であるなら魔物の弱点を即座に把握する事は重要であり、特に元素の魔法を扱う黒魔道士であるなら当たり前の事でもある。

弱点さえ分かれば怖いものなどない。

冒険者は人間には対抗できないはずの魔物を、注意深く弱点を探り、特性を調べ上げる事で数多の怪物を討伐していったのだ。

 

だが、ここで誤算があるとすれば、魔理沙はヒッポグリフと戦うのは初めてであるという事だ。

ヒッポグリフと戦った事のある後衛職であるなら、彼らは決してヒッポグリフの正面には立たない。

その理由は、すぐに魔理沙も味わう事になった。

 

――ギャアアアアアアアアアアアア!!

 

「うぉぉ!?」

 

瀕死ではあるがまだ目の力を宿したヒッポグリフは、嘴から真空の刃の如きブレスを吐いた。

腕を構え、防御をする事で致命的な致命傷を避けるプリッシュであるが、その刃の範囲は魔理沙に及んでいた。

 

「いってぇぇぇ!」

 

黒白のエプロンドレスを引き裂き、柔らかい肌が容易に切り裂いていく。

幸い、肌に負ったのは掠った程度の傷ではあるが、それでも痛いものは痛い。血が滲み出て、怪我を負った腕を抑えた。

 

「!?」

 

反撃とばかりに魔法を唱えようとするが、声が出なかった。

魔法を使うのには理に干渉するための言霊が必要になる。これでは魔法を唱える事ができない。

 

(静寂か!やっかいな!)

 

ヒッポグリフのブレスには静寂の魔法が掛けられていたのだ。

状態異常に属するそれを食らってしまえば、声を出す事ができず、魔法を唱える事もできない。

それに、何処か身体がぎこちない。もしかしたら麻痺も食らってしまったかもしれない。

これがヒッポグリフのやっかいな技の一つなのだ。

技の一つ一つに状態異常を付加させ、確実に追い込んでいく。

至近距離で食らったプリッシュも例外ではない。

声が出せない、身体も動きにくい。ダメージそのものはそこまで大きくないが一気に不利に立たされてしまった。

 

「!!!(この鳥野郎!汚いなさすがヒッポグリフきたない!これで俺もヒッポグリフが嫌いになったな!!)」

 

声が出せないので心の中で罵倒をする。

ここぞとばかりに動きが鈍くなったプリッシュに、ヒッポグリフは攻撃の手を緩めなかった。

一回の爪の引っ掻きを回避したと思ったら、続けざまに三回連続の引っ掻きがやってくる。

麻痺によって鈍くなった身体では回避し切れず、鍛えているとはいえ、細い少女の腕で防いでいく。

何百キロもあるヒッポグリフの攻撃だ。当然、まともに受け止めようとしたら防げるものでもない。

爪が肌を食い込み、引き裂いていく。

 

「離れなさい!!」

 

少しばかり拮抗した状態になり、それを救ったのは紅白の少女である霊夢であった。

ワイバーンに向かって行ったはずの霊夢に全力で脇腹を殴られ、ヒッポグリフはプリッシュから離れる。

 

「!!(レイム、なんでここにいるんだよ!)」

 

「あー、言いたい事はわかるけどあっちは平気よ。あんたらが危なそうだから私がこっちに来ただけ」

 

霊夢はそう言うと、こちらを苦々しく見つめるヒッポグリフを相手に報復者の異名を持つナックルを身に付けた拳を構えた。

 

一方でワイバーンを相手にするのはゲッショーとナズーリン、そして飛竜のクビラだ。

大きさで言えばゲッショーよりも少しばかり大きい程度であり、一般的なワイバーンに比べると半分程度でしかない。

しかしその半分な大きさであっても力は並外れ、強固な鱗は鉄の剣すらも通さない。

間違いなく強敵に属するはずのドラゴンではあるが、この二人の一匹にすればそこまで苦戦もするほどでもないようだった。

 

「斬ッ!!」

 

ゲッショーの持つ片手刀が鱗を切り裂き、ワイバーンの傷を次々と増やしていく。

己の身体を傷つけるゲッショーに怒りを燃やし、咆哮を上げながらゲッショーに突撃をするが、攻撃が当たった瞬間にゲッショーの身体は霞のように消えていく。

 

「これが空蝉の術でござる。チェアアア!」

 

大きな隙を晒したワイバーンに、ゲッショーの回し蹴りが測頭部を狙い撃った。

その鋭い一撃にワイバーンもたたらを踏み、耐えることができない。

 

「隙を晒したな。ダブルスラスト!!」

 

動きが鈍くなったところにナズーリンの技が襲い掛かる。

本来は闘気だとか呼ばれる生命エネルギーを武器に纏わせて使う武技ウェポンスキルではあるが、ナズーリンは霊力を代用に使用したのだ。

二連槍の一撃がワイバーンの翼を貫き、風穴を開ける。これではもう飛ぶ事すら叶わないだろう。

 

「るぅぅぅぅぅぅ!!」

 

そしてナズーリンが武技ウェポンスキルを放ったのに合わせ、クビラもブレスを吐いた。

元々、ワイバーンの鱗を手に入れるという目的を理解しているのか、鱗を極力傷つけない"フロストブレス"を吐く。

氷のブレスによって二足が凍っていき、身動きが取れない。

 

「御免!」

 

最後の一撃にゲッショーの刃がワイバーンの巨大な首を刎ね飛ばした。

ごろごろとワイバーンの首が転がっていき、残った身体のほうがゆっくりと崩れ落ちていく。

 

「こっちも決めるわよ!そりゃあぁぁぁ!」

 

右足で大きく地面を叩き割ると、その影響で岩盤が盛り上がり、ヒッポグリフを浮き上がらせる。

そのまま一回転しながら回し蹴りをし、岩盤ごと敵を蹴り砕いた!

格闘の武技ウェポンスキルの一つであり、熟練した者しか扱えぬ"双竜脚"であった。

元々、瀕死であったヒッポグリフは霊夢の一撃をまともに食らってしまい、そのまま地面に倒れていく。

 

ヒッポグリフとワイバーン。

少しばかりハプニングがあったものの、特に危なげも無く倒す事に成功した。

 

「…………ようやく喋れるようになったかな。たくっ、静寂とかやっかいなもん持ちやがって」

 

「油断しすぎじゃない?私が入らなかったら危なかったわよ?」

 

「何を言うか。あれから俺の怒涛の反撃祭りが始まったんだよ。ケアルガ!」

 

霊夢に嗜めながらも、プリッシュはそれを気にせず癒しの魔法をかけた。

周辺に広がる癒しの魔法は生きている者を癒していく。とは言っても、怪我をしているのはプリッシュと魔理沙だけなのだが。

 

「お、終わりましたの?」

 

「あ、何処に隠れてたんだよ紫」

 

戦いが終わったのを見計らって、紫はこっそりと出てきた。

そこらの野生の魔物でも余裕で負けてしまう今の紫からすれば、先程のヒッポグリフとワイバーンはとても強そうだという言葉では収まりきらない。

戦いの余波を避けるためにも隠れていたのだが、魔理沙はそんな紫を弄り始めた。もふもふの刑である。

 

「さてと、鱗を取らないとな」

 

プリッシュは首のないワイバーンの身体を物色し始め、一枚一枚の鱗を確認していく。

 

「ところでなぜ奥に行くのに鱗が必要なんだい?」

 

「さてな。俺もよくわからん。でも帝龍の飛泉に行くにはこいつの鱗が必要なんだよ」

 

リヴェーヌ岩塊群はただ単純に進めば目的に辿りつけるような場所でもない。

中には空間の歪みが小さく、飛び越えるのが無理なのが存在するのだ。歪みを大きくするために媒体が必要になる。

その媒体こそがワイバーンの鱗なのだ。

異界を生みだしたのが真龍の王が原因であるためなのか、歪みを大きくするのにリヴェーヌ岩塊群に生息するワイバーンの鱗が必要だ。

プリッシュはワイバーンの鱗を確認していき、一枚の鱗を抜き取った。

 

「見つけた!」

 

プリッシュが抜き取った鱗。

それは空間の歪みを大きくし、道を作り出す鍵。

高らかに上げた鱗は太陽の光に反射し、少しばかり輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒッポグリフとワイバーン。

リヴェーヌ岩塊群に生息する魔物の中では強力とされるが、見事に倒した一同はそのまま先に進んでいく。

穏やかな気候であると裏腹に、襲い掛かってくる魔物はそれなりに多い。

特にヒッポグリフの数が多く、彼らの獲物を感知する能力が高い為に戦闘は避けられなかった。

とはいえ、霊夢らの実力にかかればさほど強くないため、襲い掛かって来ても複数体で来ない限り、苦戦する事はない。

状態異常を付加させる技を使うとはいえ、実力が離れ過ぎていてるのであまり意味はないのだ。

道を歩き、空間の歪みを飛び超え続け、ようやく最後の空間の歪みへと辿りついた。

 

「なんだかちっさいな……」

 

今までの空間の歪みに比べると小さく感じる。

魔理沙はそう思った。

 

「このままだと先に進めないからな。これを使う」

 

プリッシュはワイバーンとの戦闘で入手した鱗を掲げると、鱗は歪みに吸収され、消えていく。

鱗に反応したのか小さな歪みが大きく変質して行った。

 

「よし、これで進めるぜ!」

 

大きくなった歪みを飛び超え、更に奥へと進んでいく。

歪みの先は洞窟のようであった。

今までずっと太陽の下にいたためか、突然の薄暗さに目が追い付かない。

鳥目のヤグードであるゲッショーは、足を躓いていた。

 

「この先が帝龍の飛泉か。見た通りの場所だな」

 

能力によって居場所を突き止めたナズーリンは、この場に見覚えがあるように言った。

この先に探し物がある。そう信じて洞窟の奥へと進むと、光が見えた。外だ。

 

「……人がいる?こんな所に……?」

 

洞窟の外に出ると、階段状になっている浮いた岩塊がある。

その下を見れば、黒いフード付きの胴衣ローブを着た人間らしき者が数人ほどいた。

冒険者なのだろうか?霊夢は一瞬そう思うが、いくら冒険者でもこのような場所に意味もなく近寄るだろうか?

 

「おいおい……ちょっと待て、なんでこいつらがここにいるんだよ!」

 

プリッシュは、まるで出会う事がないはずの者に出会ったような顔をし、絶叫していた。

そしてすぐさまに戦闘態勢を取る。

 

「プリッシュ、何してるんだよ!?」

 

「マリサ、前を向け!!あいつらはもう俺達の事を気付いてる!」

 

プリッシュに何であるかを聞こうとしたが、後ろを向けば何かを調べていたように見えた人型のそれがこちらに向き、全力でこちらに走ってきた。

 

「速い!」

 

ゲッショーが言うのが早かったのか、それともそれらがこちらに来るのが早かったのか。

仮面を付け、まるで顔無しのように見える敵は、一瞬にして少女達に襲い掛かっていた。

 

「どわぁ!?」

 

「くっ!」

 

素早い拳の一撃を避け、霊夢と魔理沙は離れるように走っていく。

 

「紫!あんたは隠れてて!あんたを守れるほどの余裕がないかも!」

 

「わ、わかりましたわ!」

 

霊夢の観察眼が目の前の敵を見極めていた。

強さで言えば倒せない事はない。だが、不気味だった。

目の前の襲い掛かった敵にはまるで感情が見つからない。いや、感情だけではない。

気質すら感じ取れないのだ。例え死者の亡霊であるアンデッドですら感じ取れるのに、目の前の敵にはそれすらない。

 

「あいつらいきなり何なんだよ!?」

 

「知らないわよ!とにかく今は逃げる!来るわよ!」

 

二人の敵はそれぞれの少女に襲い掛かっていく。

霊夢と魔理沙は顔を合わすと頷き、二手に別れた。

この敵がなんであるかは分からないが、それでも黙ってやられるわけにもいかない。

まずは分断させる。

プリッシュ、ゲッショー、ナズーリンと別れてしまったが、あの三人なら問題はないだろう。

 

「来なさい!」

 

一体だけ霊夢に向かって走ってくる真っ白で装飾のない仮面を付けた敵に、霊夢は愛用のナックルを身に付け、戦闘の構えに入る。

謎の敵を前に、霊夢はただ己の心を冷静にし、待ち構えていた。

 

 

 

「くそ!相変わらず邪魔くせー奴らだな!」

 

複数の顔無し相手に一人で相手をしているのはプリッシュであった。

この相手の事を仲間である霊夢達に伝える必要があるのだが、仮面付きがそれを邪魔するように遮る。

自慢の拳で次々と殴り倒しても、倒れた端から次々と起き上がっていく。

まるで無限ループだ。これでは切りがない。

 

「ぷりっしゅ殿!こやつらはいったい!?」

 

「こいつらはジュノのアルマター機関が造りやがった人工生命体、マメットだ!!」

 

大きくアッパーカットとして振り上げられた一撃がマメットの顎を貫いた。

全力の一撃だ。5mほど宙に浮くが、そのままくるりと一回転しながら地面に着地する。

ご丁寧にも首を手で押さえ、鳴らすような動作をしていた。

 

「チッ!これだからこいつの相手はいやなんだよ!」

 

世界の中心であるジュノ大公国。

そのジュノには幾つかの機関が存在しており、プリッシュの言うアルマター機関というがある。

貧弱一般人には馴染みのない研究機関であるのだが、現在のヴァナ・ディールの技術で扱う事のできない古代文明の収集、究明を主にしている。

そしてマメットはそのアルマター機関が造り上げた人工生命体であり、生命体ながらも人形のような代物であるため、生物としての『痛み』や『死』などは存在しない。

プリッシュの馬鹿げたまでの拳が効かないのもそのためだ。生半可な攻撃では動きを止める事すら叶わない。

 

「さすがに数が多いでござるな……忍法「影灯篭」とくと御覧じよ!」

 

たった二人でさすがにマメットを六体も相手にするのは少しばかりきつい。

いったいこれだけの人数で何をしていたかもわからぬが、ゲッショーは秘術を唱えていく。

 

「ぷりっしゅ殿!拙者が三体ほど受け持とう!」

 

「おう!」

 

忍法「影灯篭」を唱え終えたゲッショーはすぐさまプリッシュを狙おうとしたマメットを三体、切りつけ注意を引いた。

それによってマメットはゲッショーの方を向くが、人形でありながらも一瞬だけ、困惑したように動きを止める。

そう、ゲッショーが五人に増えていたのだ。

幻影の分身である"空蝉の術"とは違い、実体の分身を作り出す忍法「影灯篭」。

これによってゲッショーは己の数を増やし、数の差という不利を覆す事も可能なのだ。

 

「先手を撃たせて貰うでござる!」

 

足に力を入れ、高まる"気"が集って行く。

分身も同じように行動を真似ていく。

 

「旋風の如く……!」

 

高めた"気"を解放し、空中回り蹴りを放った。

その蹴りはただの蹴りにあらず。神速の蹴りとなった一撃はまるで刀と同じような切れ味となって襲い掛かる。

そしてそれが五つ同時に襲い掛かった。

旋風のような蹴りはマメットを切り刻み、蹴りの衝撃で吹き飛ばされる。

生物であれば間違いなく致命的な致命傷。人間であれば死んでいても可笑しくない渾身の一撃だ。

 

「ぬぅ……これすらも立ち上がるか!」

 

切り傷から黄色の液体を流しながらも、何も支障も無く立ち上がる。

いや、これは分かっていた事だとゲッショーは改める。

プリッシュの一撃を食らいながらもマメットには効果が薄い。

ならば……。

 

「切り捨て御免!」

 

五人が同時に片手刀を構え、一体のマメットに切りつけた。

一太刀が左腕を吹き飛ばし、二太刀が胴体を切り裂き、三太刀が一本の右足を丸ごと奪い、四太刀が心臓の位置を貫き、最後の五太刀が首を刎ね飛ばす。

多元抜刀によって一体のマメットの命を確かに奪った事を、ゲッショーは己の手応えと共に感じた。

それと同時に分身も消えていく。効果は高いが、空蝉ほど長持ちをしてくれないのが弱点なのだ。

 

「ごふっ!?」

 

あと二体、それに獲物として狙いを定めた時、横っ腹に強い痛みを感じた。

横を見れば、曲刀のような剣が突き刺さっていたのだ。そしてその剣の持ち主は、先程切り捨てたはずのマメットであった。

 

「莫迦な!?首を刎ねてまだ動けるとは!?」

 

首から黄色の液体を噴出しながらもそれはまだ動いていた。

なまじ人の形を模っているためか、一種のホラーである。

まだ力が残っているのか、剣をより深く刺そうとし、ゲッショーは刀で払い除けた。

 

「ゲッショー!こいつらはただ攻撃するだけじゃ止まらない!中にある液体を無くすか!もしくは……!」

 

高速の拳を突きだされ、プリッシュはそれを潜りこむように回避する。

そのまま右足を振り上げると、無防備となったマメットの膝小僧に振り下ろし、砕いた。

 

「中身を壊して動きを止める!!」

 

倒れそうになるマメットの後ろに回り込み、手と手を合わせ、手をハンマーのようにして横に薙ぎ払う。

回避の遅れたマメットは何もできない。そのまま背骨の砕ける音がし、追撃とばかりに倒れたマメットに倒れ込みのエルボーでダメージは更に加速した。

ここまでされてもまだ動こうとするが、背骨を破壊されたためか、下半身の部分が一切動いていなかった。

ならば腕で這いずり、プリッシュの元へと行こうとするが……。

 

「ふんっ!」

 

その腕を拳で粉砕し、マメットの腕はあらぬ方向へと曲がってしまった。

これでは一切動く事はできない。普通の方法では倒せないというのなら、動けないように無力化するのだ。

そして首なしのマメットも液体を流しすぎたためか、動かなくなってしまった。

ゲッショーは腹に刺さる剣を抜き取り、投げ捨てる。

 

「ならば足を切り捨て、術で焼き払うのが最善かつ有効なる手段か。先程の一撃には遅れを取ったが、今度はこうも行かないでござる」

 

どれだけの傷を帯びても執拗に動き続けるマメットに対しての薄気味悪さがあれど、ゲッショーとて歴戦の忍者だ。

対処法さえ分かれば後は容易に実行できる実力を持っている。

いったい何処に持っていたのか、両手杖、剣などを構えるマメットにゲッショーは勝利のために刃を振るった。

 

 

 

「ぜぇ……!ぜぇ……!」

 

文字通りの全力疾走をするのは黒白の魔法使いである魔理沙だ。

魔法使いであり、黒魔道士でもある彼女には、他の者と比べて体力が欠けている。

力も弱く、魔物の攻撃をたった一度でも食らえば致命的な致命傷となる。

彼女が戦うためには魔物の攻撃範囲よりも離れた位置から魔法を撃つ必要がある。

せめて幻想郷の頃にいた力がもっと戻っていれば箒に乗って空を飛ぶ事もできたのだが、今はまだできない。

 

「はぁ……!はぁ……!……バインド!」

 

幸いと言ってもいいのか、後方から追い掛けてくるマメットの速度はそこまで早くない。

魔理沙の走る速度でも充分に引き離せるほどだ。

だが、魔法による攻撃で詠唱をすればすぐに近付かれるのもまた事実。

そのため、引き離したと感じたら足止めの魔法をかけ、足止めされてる間に攻撃を叩きこむのだ。

 

「悪いが手加減も温存もしてられねぇ!行くぜ!ヴァナでの私の魔法!」

 

取り出すのは魔理沙専用の魔力増幅炉である八卦炉。

それに"魔力"を流し込めれば八卦炉は反応を示し、少量の"魔力"が肌に感じ取れるほどに増大していく。

おまけとばかりに火力を引き上げる化け茸の粉塵を振りかけ、八卦炉は煩いぐらいに唸りをあげる。

これこそが「普通の魔法使い」である霧雨魔理沙の代名詞とも言うべき魔法。

あまりにも威力が高く、弾幕ではなく、一本のレーザーのように放つその技の名は――

 

「マスタァァァァスパァァァァァァァァァァァァク!!」

 

八卦炉をマメットに向けられ、放たれるは星色のした高密度のレーザーであった。

魔理沙の得意とする魔法の一つであり、そのあまりの威力と光景から魔法ではなく魔砲という名称が似合うだろう。

まだ幻想郷にいた頃に比べて威力は発揮されないが、それでも並みの魔物であれば消し滓も残らない。

幻想郷でしか採る事のできない火力上げの茸の媒体を使った一撃だ。

マメットと言えども、ただでは済まない……はずだった。

 

「なっ!き、効いてない!?」

 

動きを止める"バインド"によって足止めされ、"マスタースパーク"に飲まれ、真正面から食らったはずだ。

それだと言うのに、マメットには掠り傷すら負っていなかった。

自慢の攻撃がまったく通じていなかった魔理沙はショックを受けそうになるが、魔法使いとしての目がそれを改める。

 

(こいつ……まさか私の魔法を吸収したのか!?)

 

マメットの内から感じれる"魔力"。

それは先程追いかけていた時のに比べて明らかに増大している。

そしてその"魔力"は、魔理沙が撃った"マスタースパーク"と同じものだと魔理沙は確信した。

 

(クソ、仕切り直しだ!魔力を吸収するなんて相性が悪すぎる!)

 

魔法使いである魔理沙の攻撃手段は魔法だけに限られる。

近接手段はある事にはあるが、目の前の敵には効果が薄いだろうと何処か感じ取っていた。

"バインド"の効果は非常に切れやすく、攻撃を一発与えればすぐに動けるようになる。

マメットが動きだしたのを見て、魔理沙も逃げ出そうとするが、前には後ろにいたはずのマメットが、槍を構えて魔理沙に突き刺そうとした。

 

「!!」

 

回避ができない。回避をするよりも早く、その槍は魔理沙の心臓を貫くだろう。

そもそも離れていたはずのマメットがなぜすぐに魔理沙に追いついている?

殺されそうになる瞬間なのか、魔理沙の脳内は恐ろしいほどに早く結論を出してしまった。

 

(空間転移……!どんだけチートなんだよ!)

 

吸収した"マスタースパーク"の魔力で魔理沙の前に転移したのだ。

マメットを見つけた時、一瞬で霊夢達に辿りついたのもこの力なのだ。

一瞬もすれば槍が少女の身体を貫く瞬間、隙を伺っていた彼女は姿を現す。

 

「下がれ、魔法使い!!」

 

「なっ!」

 

空中から飛来するそれはマメットの首筋を切り裂き、魔理沙を間一髪のところで救った。

裂かれた首筋から黄色の液体を噴出し、魔理沙は一歩遅れて後ずさるが、マメットの液体が頬にかかった。

 

「浅かったか……!」

 

「るぅぅぅ……」

 

魔理沙を救ったのは、空中から飛来する技を得意とする竜騎士の技能によって高く飛び上がり、姿を隠したナズーリンであった。

ナズーリンは直接的な戦闘はあまり得意ではない。

特に未知の敵であるマメットと真正面から戦おうとせずに、他の者が戦っている情報を手に入れ、更に隙があれば"ジャンプ"による不意打ちをしようとしたのだ。

不意打ちには成功するが、まだ技のキレに本職の竜騎士に及ばないためか、首を断ち切るつもりで放った一撃は浅く終わった。

人間であるなら出血多量で死んでも可笑しくないのだが、人形であるマメットにそんなものは存在しない。

それこそ体液中の体液を無くさない限り、永久に動き続けるのだ。

 

「魔法使い、平気かい?」

 

「……ああ、ありがとう。今のはマジでやばかったぜ……」

 

チラ見をして魔理沙を見つめ、無事である事を確認するとナズーリンはマメットに向き合う。

首に一撃を食らいながらもじりじりと近寄ってくる。転移をしてすぐに近付かない事を考えると、大量の魔力がないと使用できないのだろう。

得物は奇しくも同じ両手槍。果たして技量はどちらが上になるか。

 

「クビラは後ろから、魔法使いは援護を頼む。プリッシュ達の戦いよると奴は致命的な致命傷を帯びてもあまり意味はないらしい」

 

「じゃあ、どうやって倒すんだぜ?」

 

「動きを止める、もしくは君の魔法で欠片も残さない。そのどちらかだな」

 

プリッシュとゲッショーの戦闘を見ていたナズーリンは、マメットがどれだけの傷を帯びても意味がないのを知っている。

首筋の体液噴出から時間が経てば勝手に動かなくなるだろうが、その前にマメットは襲い掛かってくるだろう。

 

「奴が魔法を吸収するなら君の役目は邪魔をする事だ。奴の槍術がどれほどかは分からないが、私より下である事はないだろう」

 

「支援に徹しろって事だな。分かったぜ、前衛は任せる」

 

自慢の魔法が通じない以上、魔理沙は支援に徹する他ないだろう。

弱体魔法すらも吸収するかは分からないが、それでも試す価値はある。

そこまで強くないナズーリンに前衛を任せる以上、彼女の負担を和らげるためにも弱体魔法の効果は馬鹿にできないのだ。

 

「ふっ!」

 

小柄な少女には少しばかり不釣り合いな三つ叉の両手槍を構え、一気に駆けだす。

同時にマメットも駆けだすが、マメットの後ろからクビラが口でフードの部分を噛んだのだ。

一瞬だけ動きが止まってしまい、その隙を逃すナズーリンではない。ただ槍を突くだけでは意味がない。

打撃による攻撃で内部を破壊する必要がある。

槍の刃ではなく、棒部分を強く足の脛を狙い打った。

骨の砕ける音が響き、追撃とばかりにマメットの身体中を打ちのめしていく。

 

「とっ!」

 

ただ打たれ続けるマメットではない。

例え攻撃をされ続けてもそれに気にせず、マメットは槍をナズーリン目掛けて突き立てた。

紙一重で回避し、回避し切れなかった髪の毛数本が宙を舞う。

 

「ポイズン!バイオ!ついでにラスプ!」

 

その間にも魔理沙は魔法と唱え続けていく。

攻撃の魔法であれば吸収されてしまうが、弱体の魔法であるならどうにか通じるようだ。

水の元素が体内から毒素となって狂わしていき、闇の元素がヘドロのようにマメットに纏わりつき、雷の元素が霧となってマメットの動きを鈍らせる。

 

「良いぞ、この調子なら……!」

 

マメットの両手槍の腕前は決して悪くない。

だが、あまりにも綺麗すぎるのだ。

型通りの技しかしないために動きが読みやすい。これなら海蛇の洞窟で出会ったサハギンの竜騎士のほうがまだ強かった。

この調子で行けば勝てる。

ナズーリンはそう確信して槍を反転させ、尾の部分を首から横に打ちつける。

首の骨を折る勢いで放った一撃。だが、その一撃は手応えとは裏腹に、骨の砕ける音がしなかった。

 

「どういうことだ……?」

 

違和感を感じたナズーリンは即座にバックステッポし、マメットの身体を見ると驚きが鬼になる。

首の切り傷が治っているのだ。何時治したかは分からない。

癒しの魔法をかけてる素振りもなければ、プリッシュ達が戦っているのを観察している時には自己修復らしき能力はないと分かる。

そういえばと先程の一撃は手応えがあったが、傷つけるような感触はなぜかしなかった。

疑心が確信になっていき、ナズーリンは叫んだ。

 

「クビラ!今の奴に攻撃するな!」

 

「くわぁ!?」

 

敵対心ヘイトがナズーリンに向かっている間、ひたすら己の爪で引っ掻き続けたクビラであるが、主人の命令で攻撃をやめる。

それを好機と見たのか、マメットは攻撃をやめたクビラに向かって槍を投擲する構えに入り、クビラは攻撃をされるのを防ぐために槍を持つ腕を噛み千切ろうとした。

だが、噛み千切れない。小さいながらも竜の力で噛まれているのにも関わらず、マメットは腕の力でクビラを薙ぎ払った。

 

「あいつ……傷が治ってないか?」

 

ナズーリンに滅多打ちにされ、腕が折れ曲がっていたはずなのに、元の状態に治っている。

首の傷も完璧に治っており、すでに体液は噴出していない。

魔理沙は、まさかとありえない事を考えてしまった。

 

「ああ……どうやら奴は物理的な攻撃すらも吸収してしまうようだ」

 

物理と魔法。

その二つの攻撃手段を吸収するマメットに、ナズーリンは少しばかり歯軋りをした。

原理がまったく分からない。いったいどうやって物理攻撃すらも吸収してしまうのか。

攻撃の手段を失い、もはや二人にできるのは救援が来るまで逃げるしかない。

そう思った矢先だった。

 

「うるぅぅぅぅぅぅ!!」

 

薙ぎ払われ、怒りに燃えるクビラがまたマメットに攻撃をしようとしていた。

主人であるナズーリンに攻撃をやめろと命令されながらも、また中身が子供のためか自分を気にとめないマメットが気に入らないようだった。

マメットを丸焼きにする勢いで炎のブレスを吐き、マメットは炎に包まれる。

飛竜のブレスは魔力が込められた魔法の吐息だ。魔法を吸収するマメットであるならクビラのブレスも魔理沙の魔法と同様に吸収できる。

 

「待て。あいつ、燃えてやがんぜ」

 

炎のブレスによってマメットは確かに燃えていた。

燃えながらこちらに近づいてくるが、ブレスを吸収しようとしていない。

 

「ふむ……どうやら物理と魔法、二つの吸収はできないようだな。あとでクビラには肉とお仕置きをプレゼントだ」

 

「お仕置きは簡便してやれよ」

 

勝手な命令違反とマメットの弱点の発覚。

その二つをしたのだからナズーリンはクビラに愛と鞭を与える事にした。

 

「同時に仕掛けるぜ。物理と魔法が同時にできないなら同時にやれば問題はないはずだぜ!」

 

「分かった。魔法の詠唱は?」

 

「19秒……いや、15秒で済ませる」

 

「了解。その間を抑えておこう」

 

生半可な魔法で打ち倒す事はできない。

ならば、強大な魔法によって欠片も残さず消滅させる。

魔理沙はその勢いで膨大な"魔力"を発生させる"魔力の泉"を解放し、魔法の詠唱に入った。

その間にナズーリンはマメットを抑え込み、魔理沙の魔法と共に物理的な攻撃をする必要がある。

 

「あまり隙を晒すのも宜しくないな!」

 

クビラに注意を逸れた先にナズーリンの槍がマメットの右腕が貫く。

三股の刃が黄色の液体で濡らし、それを引き抜くと同時に槍の尾で胴体を打ち抜いた。

一撃目は効いたが、二撃目は吸収だったようで腹に目掛けての打撃の攻撃が吸収され、右腕の傷が回復する。

ただの槍の攻撃では通用しないと学習したのか、マメットは槍を突進するかのように突き立て攻撃してくる。

普通であれば大振り過ぎて当たらない攻撃なのだが、大きく突き立てた後に風を纏った衝撃が襲い掛かる。

 

「ぐぅ!」

 

突然の大技に反応し切れず、衝撃をまともに食らい、吹き飛ばされてしまう。

まだ身体は動ける。そして、魔理沙の魔法も完成しようとしている。

 

「地の底に眠る星の火よ!

古の眠りから覚し時、裁きの手をかざせ!

滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻み、始原の炎蘇らん!」

 

"マスタースパーク"を放った時よりも"魔力"を滾らせ、例え魔法使いではない者が見ても魔理沙の身体中から"魔力"が満ちている事が分かる。

膨大な"魔力"を極限なまでに圧縮し撃とうとするのは古代魔法。

桁違いに消費する"魔力"から好んで使う者はいないとはいえ、その威力はマメット一体を消滅させるのには十分すぎるほどだ。

そしてナズーリンもまた、己の脚力のみで空中に跳び上がる。

槍を持ちながら宙に飛び、戦場を駆けるその姿は竜騎士そのもの。

そして――

 

「フレア!!」

 

「終わりだ!」

 

物理か魔法か。

どちらかの攻撃を吸収するかのマメットの行動に遅れが発生し、それが仇となった。

太陽のような核熱の塊がマメットを包み込み、全身を隈なく焼き尽くす。

それと同時にナズーリンの槍が今度こそ、三又の刃が首を落とした。

熱い、という言葉では収まりきらない古代魔法"フレア"の熱は火の元素を極限まで圧縮し、一種の太陽に近い代物を作り出す。

マメットの服も、身体も、体液すらも残らず焼き尽くしていく。

 

「熱っ!」

 

当然、近くにいたナズーリンにも被害は及んでいた。

素早く槍を手放し離れるが、槍を持っていた右腕は焼き爛れたような傷を負っていた。

残った槍もマメットごと溶けて消滅していく。

もう少し槍を手放すのが遅ければ、ナズーリンごと消滅させていただろう。

 

「……とんでもない威力だな。あやうく焼け鼠になるところだったよ」

 

「焼け鼠って食えるのか?まぁ、さすがに威力がありすぎたな……」

 

古代魔法の威力を知っているとはいえ、数ある古代魔法の中でトップクラスの"フレア"には魔理沙も恐れを隠せなかった。

なぜなら槍を溶かし、マメットを消滅させた核熱の塊はまだ消えていない。

本来であるならすでに魔力が分散し、消えてもおかしくないのに残り続けたままなのだ。

いったい何時無くなるのかは検討も付かないが、少なくとも近寄らないほうはいいだろう。

 

「今ポーションしかないんだけど足りるか?」

 

「無いよりはマシだね。ヒリヒリして堪らないから早くしてくれ」

 

「るぅ~……」

 

焼き爛れた腕は見るも無残な状態となっている。

これをヒリヒリした程度と言えるナズーリンであるが、クビラはその傷を心配しているようだ。

 

「るぅー!るぅー!」

 

クビラの取った行動。

それはナズーリンの怪我にブレスをするという事だった。

攻撃のためのブレスではなく、癒しのブレス。"ヒールブレス"だ。

その癒しの息によって焼き爛れたはずの右腕が治っていく。

まだ赤くなっている部分を残すが、少なくとも痛みは消えた。

 

「おぉ!?すげぇな!お前の子竜!」

 

「これは……」

 

まさか治療すらもできる事に驚きが隠せない。

クビラはどんなもんだいと胸を張り、ナズーリンはふっと笑った。

 

「良い子だ、クビラ。肉の追加をしてやらないとな。お仕置きは忘れないが」

 

「くわ!?」

 

どうやらお仕置きの実行は確定のようだった。

 

 

 

モンクタイプの出来る事はただ殴る蹴る、己の肉体を武器にした戦いしかできない。

無論、一部は例外はあるだろうが基本的にそれだけだ。

そしてモンクタイプの霊夢もまた、例外ではない。

 

「シッ!」

 

真っ直ぐと突き出されたマメットの拳を掻い潜り、霊夢の右拳が脇腹に突き刺さる。

足の捻りから腰に伝わり、体重の乗せた一撃は確かな手応えを感じる。

硬いナックル付きの攻撃だ。この一撃でマメットの肋骨が折れ、その感触が直に伝わる。

さすがに骨の折れた感触が伝わるのが慣れていないのか、霊夢は嫌な顔をしながらも、すぐさまバックステッポで後ろに下がる。

 

「……効いてないわけじゃないけど、単純な攻撃じゃ止まらないようね」

 

すでにマメットと殴り合いを続けて数分が経過するが、未だにマメットは倒れようとしない。

相手の攻撃を回避し続け、ほぼ一方的に殴り続けているのにも関わらず、戦闘の意欲がまるで落ちないのだ。

攻撃そのものは効いているはずだと言うのに、ダメージを無視するかのように動き続けるマメットに薄ら寒さを感じた。

 

しばしの間に硬直し、先に動き出したのはマメットだ。

少女の顔を粉砕するために殴りかかるマメットであるが、霊夢からすればあまりにも遅すぎる。

悠々と"カウンター"を取り、逆に頭を殴り飛ばされるが、それも致命的な致命傷になりえない。

このままでは決着が付かない。心の中で舌打ちをしながらも、マメットが懐に手を伸ばした。

 

(何を……?)

 

する気?と思った頃にはもう遅い。

マメットが腕を振り切った瞬間、霊夢の胴体は横一文字に切り裂かれていた。

 

「なっ……あ……」

 

まるで反応ができなかった。

あまりにも早すぎるそれは、マメットの持つ片手剣。斬撃だったのだ。

素手である拳よりも早すぎる一撃に、霊夢は静かに倒れそうになる。

だが、切り裂かれたはずの霊夢は幻影のように消えていく。まるで蝉の抜け空のように。

 

「遅い!」

 

マメットが後ろに向こうとした時には霊夢の攻撃が素早く決まる。

一、二、三、四、五と拳と蹴りを矢次に繰り出し、"乱撃"によって背中を殴られ続けられたマメットは無様に仰向けに倒れた。

 

「私が一人、私が二人、ファイナル分身ってね」

 

得意気になりながら霊夢は口には人型の紙を挟み、指で印を結びながら術を唱えている。

幻影を作り出す忍術であり、単体の攻撃であるなら問答無用に回避する"空蝉の術"。

海賊の住処である"ノーグ"で学んだ忍術がさっそく役に立ったようだ。

"乱撃"を食らいながらも立ち上がるマメットであるが、何処か動きが鈍くなっている。

先程の一撃で背骨の何処かを傷つけたのだろう。それでも動き、戦おうとするのは『痛み』のない人形だからこそである。

 

「今のはさすがにヒヤリとしたわよ……今度は……!」

 

確かに歩きは鈍くなったが、剣の動きはまるで衰えていない。

紙一重でマメットの斬撃を回避し、反撃に移ろうとするが相手の攻撃が更に早く襲い掛かってくる。

これでは攻撃どころではない。下手に攻撃すれば今度こそ切り裂かれてしまう。

"空蝉の術"をかけているとはいえ、回避できる数には制限がある。

今の霊夢に張れる蝉の数はわずか三枚。最初の一撃で一枚減ってしまった。

残り二枚しかない状態で、霊夢の動体視力で持っても反応の難しいこの斬撃の嵐を馬鹿正直に突っ込めば一瞬にして蝉が剥がれ、切り刻まれるだろう。

 

「ちょ、はや、すぎでしょ!?」

 

剣のスピードは際限無しに上がっていく。

もはや霊夢を捉えるのも時間の問題。二枚目の蝉が切り裂かれる瞬間、霊夢は身の毛もよだつことをやってのけた。

 

「しつこい!!」

 

何十何百の斬撃の嵐の中、霊夢はその中でたった一発を見極めて"カウンター"を狙い打ったのだ。

恐るべき天賦の才。そして如何なる攻撃の前に対して臆さぬ心。

その二つを備えた博麗霊夢は、真の意味で天才だった。

 

「ふっ!はっ!せいっ!だぁ!」

 

尚も片手剣を振るい続けようとするマメットであるが、その嵐のような攻撃が全て迎撃されていく。

首を刎ねようとした一撃は、肘で刀身の腹を跳ねられ、蹴りが胴体を狙う。

脳天にかち割ろうとする上段切りは、左手の甲によって防がれ、無防備となった状態に三発の拳が襲い掛かる。

胴体を真っ二つにしようとする一文字の斬撃は、振りきる前に右腕が殴られ、あらぬ方向に曲がっていく。

左手に剣を持ち変え、突き刺す一撃は頬を掠める程度に終わり、霊夢の蹴りが左腕の間接を砕いた。

 

嵐のような攻撃をしたはずのマメットであるが、逆に反撃を食らい続けてしまう。

もはや両腕を壊され、剣は辛うじて持っているような状態だ。

これが人間であるならもう降参をしているはずだ。

それだというのにマメットはまだ戦おうと、剣を握りしめた左腕を動かそうとする。

 

「まだ戦う気!?」

 

折れた左腕を構え、遠心力を付けるかのように回りながら切りかかってくる。

回避する事も反撃する事も容易であるはずの大振りな技だが、マメットを中心に風の嵐が同時に襲い掛かってくる。

 

「ぐぅう!」

 

マメットのやろうとしている事。

それは回避も防御もできない広範囲での攻撃であった。

範囲攻撃であるがために幻影の変わり身である空蝉ごと剥がされてしまい、風の刃が霊夢を切り刻んでいく。

紅白の巫女服は、霊夢の血によって更に真っ赤に染まっていく。

まずい一撃を食らってしまった。モンクタイプである霊夢はさほど敵の攻撃に対して強くない。

その状態での大技を食らってしまえば致命的な致命傷になりやすいのだ。

 

「やって、くれるじゃないの!いいわ、だったらこの技をあんたに奢ってやるわよ!」

 

まだ"霊力"が充分に戻っていない。

ならば、足りない分を"気"で補う。

込められた力を足に集中させ、幻想郷で多くの妖怪を殺してきたキックを放つ!

 

「神技「天覇風神脚」!!」

 

まるで疾風の如き速さでマメットに向かい、霊力の込められた黄金の鉄の塊で出来た右足で強く蹴り上げる!

そのまま天高く放り出されてたマメットに向かうために飛び上がると、一回転を加えた踵落としが決まる。

二種類の力が込められ、常識を超えた破壊力となってマメットはそのまま地面に叩きつけられる。何度も何度もバウンドをしながら転がっていく。

ようやく止まった頃にはマメットは動いていない。指先がまだ動こうとするが、霊夢の持つ肉弾戦用のスペルカードをまともに食らい、動くために必要な骨を完全に砕き切ったのだ。

これでは如何に不死身に近いマメットと言えども身動きが取れない。

 

「はっ!まだまだね、出直してらっしゃい!」

 

勝利宣言を上げると霊夢はすぐさま仲間の元に急ぐ。

戦いはまだ終わってはいない。

 

 

 

ようやく最後のマメットの動きを封じこみ、プリッシュは息を静かに吐いた。

囲んでいたはずの三体のマメットのは、見るも無残な状態をしている。

首が180度回転している者から、全身の骨を砕かれた者、胸に大きな穴が開き体液を空になった者。

これが人形だからいいものを、人間であったならR-18G指定がかかっても可笑しくない状態である。

 

「ぷりっしゅ殿。そちらのほうも終わったでござるか」

 

そしてゲッショーの姿もまた酷かった。

返り血ならぬ、返り体液とも言うべきか。黒い羽根で覆われたヤグードの身体はマメットの体液である黄色の液体で汚れている。

プリッシュとは違い、刀でのマメット制圧をしていたのだから仕方ないと言えるだろう。

 

「ああ。何とかな。……こいつら、いったい何をしていたんだ?」

 

マメットはアルマター機関、正確に言えばジュノの所持する戦力ではあるが、同時に他国からは機密にされている代物でもある。

何せ人ではないのだから死なない上に、熟練した冒険者であっても苦戦させる程度には強い。

もしも戦争があるとすれば、マメットの有効性は計り知れない。ジュノはこのマメットの使用は厳重に管理と制限がされている。他国に技術の漏洩を防ぐためだ。

そのため、プリッシュは疑問に思った。

なぜマメットはこんな辺鄙な場所、しかもこれだけの人数を引き連れたのか。

現在のマメットはプリッシュのよく知る人物であり、親のように慕うアルマター機関の幹部の一人であるエシャンタールが厳重に管理しているはずだった。

彼女がそう簡単にマメットを複数体も動かすはずがない。そう考えていると、突然に鳴き声が響いた。

 

「きゅー!きゅー!!」

 

「あ、何捕まってんだよ、ムラサキもふもふ!」

 

いったい何処にいたのか、マメットの一体が隠れていた紫を捕まえていた。

必死に逃げだそうとするがマメットの拘束から逃げられない。

 

「ゲッショー!」

 

「うむ!」

 

名を呼び、何をするかをアイコンタクトで伝える。

実力が近いからこそ出来る即急のアドリブだ。

 

「フラッシュ!!」

 

プリッシュの神聖魔法である光が辺りを強く照らした。

その光によってマメットは腕で遮ろうとするが、それこそが狙いだ。

一瞬の隙を作り出され、その間にゲッショーは紫を持つマメットの腕を断ち切った。

突然の自由に放り投げ出され、キャッチしたのはプリッシュである。

 

「イ~ナ~ズ~マ~」

 

腕から大量の体液を噴出し、マメットはもう片方の手から武器を取りだそうとする。

それを遮るかのように空から少女の声がした。

 

「キィィィィィィク!!」

 

紅白の巫女が空から降ってきた。蹴りを入れながら。

不意打ち染みた一撃に吹っ飛ばされ、せっかく取りだした槍があらぬ方向へと飛んでいく。

 

「クビラ!」

 

「ファイガⅡ!」

 

何とか立ち上がろうとした瞬間、炎がマメットを包み込んだ。

ファイアブレスと火炎の魔法を同時に食らってしまい、燃えながら動こうとするが燃える肉体の方が持たなかったのか、少女達に近付く前に動かなくなってしまった。

 

「なんとか無事だったみたいね。紫は捕まってたみたいだけど」

 

「きゅー;;(隠れてたのに見つけるのが上手いとかずるい;;)」

 

少しばかり苦戦したものの、何とか数多くのマメットを倒しきる事ができた。

ようやく一息付ける。そう思ったのだが、紫は何かを感じ取った。

 

「きゅ!」

 

「あ!おい!」

 

プリッシュの腕から抜け出し、感じ取った場所へと急ぐ。

知っている。この感覚を確かに八雲紫は知っている。

出会った事がある。紫の記憶がだんだんと、だんだんと蘇ってくる。

この身体が仮初である理由が、だんだんと分かってくる。

 

突然に走り出す紫に追いつくと、一同は目を瞑ってしまった。

巨大な魔法陣が強い閃光を発しながら形勢されているのだ。紫を中心にして。

 

「紫!」

 

「いったい何なんだぜ!?」

 

霊夢と魔理沙が叫んでいるが、このような現象が起きても紫の心は不思議と安らいでいた。

慌てることはない。

この魔法陣から召喚される者を、紫は知っているのだから。

 

『待っていたよ、八雲紫。君がここに来るのをね……』

 

「カーバンクル……」

 

召喚陣から飛び出るように現れたそれは、獣の姿である紫と瓜二つであった。

リスような可愛らしい顔立ちをしながら、兎のような長い耳を持ち、身体の半分ほどもあるふわふわとした尻尾。

違いがあるとすれば色だ。

紫が紫色の毛並みを持つ獣なら、魔法陣より現れたそれはは青白い毛並みを持つ獣。

美しいほどの毛並みを持つそれは、霊獣であるカーバンクルそのものであった。

 

『でも、残念。ここで君の試練を行うわけにはいかないんだ。ここは彼の目を欺くだけの囮。案の定、マメットがここにいるのが何よりの証拠さ』

 

「な、何を言っているの?あなたは」

 

『すまない。あまり長い時間を話している余裕はないんだ。君の身体を維持させるために僕自身の余裕もそこまでないからね』

 

カーバンクルは、そこまで言うと身体が消えかけているようにも見えた。

召喚士が召喚獣を使役する際に、"魔力"が足りない時に起きる現象だ。

その先にあるのは彼らの眠る場所に戻るだけである。

 

『紫。君の世界を救いたくば近東の地に向かえ。そこで君は試練を受けて貰う。もうバハムートとディアボロスは……』

 

「何奴!姿を現せぃ!」

 

カーバンクルがまだ話している途中でありながら、ゲッショーは手裏剣を手に取ると何もない場所へと投げつけた。

手裏剣が高速で飛び、それは何もないはずの空間で黄色の体液が飛び散る。

突如として姿を現したのはマメットだった。隠蔽の魔法が道具で身を隠していたのだろう。

たったの一体だけのマメットだ。すぐさま戦闘態勢に入ろうとした瞬間はマメットは一枚の紙を取り出し、こちらに投げつけてきた。

 

「あれは……!まずい、飛ばされる!」

 

魔理沙の目に見えたのは移送の術式が描かれた呪符であった。

いったい何処に飛ばされるかは分からないが、回避しようにも呪符の魔法が発動している。

 

プリッシュが駆け出そうとするが、

霊夢が術を唱え、相殺しようとするが、

ゲッショーが刀で切りつけようとするが、

ナズーリンが腰にある短剣で、クビラがブレスで焼き払おうとするが、

魔理沙が魔法を詠唱しようとするが、

 

そのどれもが間に合わずに呪符の効果が発揮され、カーバンクル以外の全てが移送の魔法で飛ばされてしまった。

己に移送の魔法をかけ、何処かに飛び立ったマメット。黒い闇に覆われるように姿を消した所を見ると、記録した拠点に戻る"デジョン"か何かだろう。

後に残るのは身体が薄くなり始めるカーバンクルだけになってしまった。

 

『まずいな……今ので彼に気付かれたかもしれない。紫、早く、早く来るんだ。早くしないと君の世界が無くなってしまう』

 

まだ伝えきれなかった事を言い残し、カーバンクルは己を構成する"魔力"を失い、消えてしまった。

龍が翼を休めるとされる場に残るのはアルマター機関の作りし人形達。

その人形もカーバンクルと同じように消失していく。

まるで、最初から実体などない幻想・・であったかのように……。

 

 

 

 

 

……To Be Continued?

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