東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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黄金の鉄の塊で出来た冒険

真鍮と青銅で作られた手甲であるブラスナックルを身に付け、少女は目の前の敵に殴りかかる。

葉の生えたカブのように見える頭を持ち、ヴァナ・ディールに住まう子供のように小さな種族の一つ。

 

タルタルより小さな体で、それは攻撃してくる。

その攻撃を殴りかかろうとした腕で払い、軌道を逸らそうとする。

がつっと手ごたえを腕全体に感じる。

うまく攻撃を逸らした。

腋が露出している特注の拳法着を着た少女 博麗霊夢は少しばかり距離を取り、態勢を整える。

 

(中々しぶといわね…雑魚だと思ってたのが間違いね…)

 

霊夢と戦っているのはウィンダス連邦周辺の領土であるサルタバルタ地方では珍しくない魔物。

マンドラゴラだ。

見た目は人に近い。頭があり、足で歩いて、手で殴りかかってくる。

しかしその正体は歩行植物だから驚きだ。

霊夢がヴァナ・ディールに来る前にいた世界、幻想郷も常識は大概通用しないのが多いが、ここもそれに負けず劣らずの常識知らずが多い。

 

(早苗がいたら喜ぶかも?)

 

なんて心もとない事が思い浮かぶ。

謙虚な騎士 ブロントに喧嘩教育されてから緑巫女は「常識には囚われてはいけません!」が口癖になってる気がする。

 

「常識と非常識は違うと思うのよね、と!」

 

マンドラゴラの体当たりを回避し、反撃にその拳を叩きこむ。

己の肉体を武器とするモンクの拳は一種の凶器だ。

真っ直ぐと綺麗に射抜かれた霊夢の攻撃はマンドラゴラの頭に直撃し、二m先まで吹き飛ぶ。

が、拳にいい感触が残るぐらいの手ごたえを感じたにも関わらず、すぐにマンドラゴラは立ちあがり威嚇するようにキーキーと鳴いている。

 

「ああ、もう!無駄にしぶといわね!悪名高い魔物ノートリアスモンスターってのは!」

 

今、霊夢と戦っているのはただのマンドラゴラではない。

この世界に来て冒険者となり、五日経とうとしてる彼女の実力はウィンダス周辺の魔物なら一人で相手に出来る力量まで上がっている。

 

悪名高い魔物ノートリアスモンスター

 

魔物の世界では時折、同種でありながら桁外れに強い魔物が現れる。

それは自然界に起こりうる突然変異なのか。それとも冒険者が魔物を狩る事で起きる自然への歪みなのか。

 

どちらにせよ、彼女が相手にしているのはトム・ティット・タットと呼ばれるマンドラゴラの悪名高い魔物ノートリアスモンスターだ。

今のところ優位に戦えているが、トム・ティット・タットはまだまだ気力が充実してるようである。

 

「霊夢!大丈夫か!」

 

霊夢の後ろから声が聞こえた。

今、敵を相手をしている状態で振り向く事はできないがこの声は知っている。

 

「魔理沙様、参上!援護するぜ!霊夢!」

 

魔道士が好んで着る胴衣ローブを身に付け、魔女のような帽子であるウィッチハットを被った霧雨魔理沙は、

背中に背負った両手棍を携えて、魔法の詠唱に入る。

体の中に巡る"魔力"を感じ取り、奇跡を為すために必要な音律を作り、その流れに巡る"魔力"を流し込む。

それで魔法の下地は完了する。後は詠唱をする事で世界の法則に働きかけ、己の為したい奇跡を為す。

 

「バイオ!」

 

トム・ティット・タットの周りに緑色のヘドロのようなものが現れ、トム・ティット・タットの体を浸食していく。

世界には八つの元素が存在し、それが世界を構成している。

即ち、火・氷・風・土・雷・水・光・闇であり、黒魔道士の使う精霊魔法や暗黒魔法は、その属性に強く働きかけるものだ。

魔理沙の使った"バイオ"は闇の元素を大気中からかき集め、相手にぶつける暗黒魔法だ。

一定の元素を濃く当てられた生物は、構成する肉体の元素が狂い始め、肉体を保てなくなってしまう。

事実、トム・ティット・タットの体からゆっくりとだが体力が減っていく。

だが、魔物がそのような事をする者に容赦するだろうが?

 

「げ、まず!」

 

霊夢と戦っていたトム・ティット・タットが、霊夢に目もくれずに魔理沙に突っ込んでくる。

敵対心ヘイトを稼いでしまったのだ。

何らかの方法で魔物に恨みや引き付ける行動をした場合、魔物はそれを優先的に排除しようとする性質がある。

霊夢の攻撃よりも魔理沙の魔法で体力が減っていき、そんな魔法を使う彼女を排除しようと考えたのだろう。

魔理沙の実力は着実に上がってるとはいえ、黒魔道士である彼女はそこまで体力と防御力は高くない。

この世界で初めての悪名高い魔物ノートリアスモンスターの攻撃に何処まで耐えられるか分かったものではない。

 

「あなたの相手はこっちです!来なさい!!」

 

剣と盾を叩いた音がした。

横を見れば銀髪のおかっぱ少女が青銅製の長剣であるスパタと盾を構え、トム・ティット・タットを挑発している。

その挑発に乗せられたトム・ティット・タットは魔理沙から、戦士である魂魄妖夢にターゲットを変える。

突っ込んできたぶんの加速をそのまま体当たりに使い、妖夢に向かっていく。

当たる瞬間に青銅製の盾であるアスピスを構える。

ガツンと金属の音がするとともに妖夢がのけぞる。攻撃は防いだが、その衝撃までは受け切れなかったようだ。

 

「そのまま、抑えてー。パライズ!」

 

トム・ティット・タットに氷の元素が纏まり付いた。

"パライズ"は氷の元素を強く働きかける白魔法だ。強すぎる氷の元素が、体を麻痺させていく。

白魔法を唱えたのはフード付きの胴衣ローブを着る幼い少女ルーミア。

 

「今だよ、霊夢!」

 

「でかした、みんな!」

 

霊夢は独自の呼吸法で体から"気"を生みだしては溜めて行く。

ゆらゆらと。ゆらゆらと。

溜めこんだ"気"はまるで陽炎のように霊夢の体を包み込む。

 

「これで終わり!」

 

トム・ティット・タットは霊夢のしている事に気づくが、もう遅い。

"気"を練り上げ、それを体全体から腕と足に回していく。

裂帛の気合と共に、霊夢は武技ウェポンスキルを繰り出す。

 

「ふっ!はっ!せいぃ!」

 

右!左!右!

連続で繰り出される拳と蹴り。

格闘の武技ウェポンスキルである"コンボ"をまともに食らい、一気に吹き飛ばされていく。

 

本来、"気"とは冒険者なら誰でも使える生命エネルギーだ。

その"気"を使う事で先ほど、霊夢が使った技を使用する事が出来る。

だが、"気"を実践にまで使えるのにヴァナ・ディールの住民とて長い鍛錬が必要となる。

幻想郷の住民である霊夢達が異世界ヴァナ・ディールに来てすでに五日。

霊夢は一日足らず。その短い日数で習得したのだ。

恐るべき天賦の才。

修業嫌いな面がある彼女が幻想郷に置いて最強の二文字を有するのは常識を超えた才能を持っているからだろう。

 

武技ウェポンスキルを食らってしまったトム・ティット・タットは己の不利を悟ると霊夢達とは逆方向に走って行く。

逃げようとしてるのだ。

自然の世界に置いて、不利を感じて逃げるのは当然の事だ。

強いから正しいのではない。弱くても生き残れるのが自然界では正しいのだ。

 

「逃がさないわよ」

 

突如、風が舞い上がった。

つむじ風のようにトム・ティット・タットは風の刃に切り裂かれ、その動きを止める。

風の精霊魔法"エアロ"だ。

 

「トドメ!」

 

背後から"不意打ち"を食らうトム・ティット・タット。

致命的な致命傷を同時に食らってしまい、ついに地に倒れた悪名高い魔物ノートリアスモンスター

 

「あー!何いいとこ持って行くんだよ!」

 

魔理沙は声を上げてしまう。

遅れてやってきたのは胴衣ローブにサークレットを身に付けた赤魔道士であるアリス・マーガトロイドと、シーフの射命丸文だ。

先ほどの"エアロ"は精霊魔法が使える赤魔道士であるアリス。"不意打ち"はシーフである文の技能アビリティだろう。

 

「それは仕方ないでしょう。悪名高い魔物ノートリアスモンスターを見つけるのに、パーティから一人にばらけていたわけですから。

何はともわれ、これで依頼は完了ですね」

 

彼女達はある依頼を受けて、悪名高い魔物ノートリアスモンスターであるトム・ティット・タットを探していたようだ。

文は短剣を取りだすと、トム・ティット・タットの頭から生えた葉を切り取る。

四枚葉だ。マンドラゴラの四葉と呼ばれる大変珍しいマンドラゴラの芽である。

 

「よし、帰るわよ!」

 

霊夢の号令をもとに、彼女達はウィンダスへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方幻想鉄

第二話「黄金の鉄の塊で出来た冒険」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンダス連邦は魔法が主流の魔法都市であり、その国民の大半が魔法を得手とするタルタル。同盟を結んだ俊敏で知られるミスラだ。

そして魔法国家として知られるようになったのはウィンダスを代表する五つの院がある。

それぞれ目の院、口の院、耳の院、鼻の院、手の院と分けられており、その院から卒業する者は優秀な魔道士、研究者になると広く世界に知られている。

身体の各機関の名前になったのは連邦という身体、天の塔という頭脳と有機的に結びつき、連携を取るための組織となるためである。

こういった各院の連携によって、ウィンダスの学術・学問はより発展を遂げている。

 

現在、霊夢たちがいるのは石の区と呼ばれる広いウィンダスのエリアであり、その中央には天の塔と呼ばれる巨大な大樹が存在している。

依頼人の住むエリアである。

その依頼人とはこれまたウィンダスを代表する三博士と呼ばれる偉人であるヨランオランだ。

三博士とはウィンダスにおいて、最も偉大な知識の担い手とされる三人の博士の事である。

ヨランオランを加えて、変人と名高いコルモル、傲岸不遜傍若無人の最強魔道士シャントット。

その実力・名声・政治的発言力ともにウィンダスのみならず、他国ですらなくてはならない存在である。

 

「四葉とは珍しい。珍しいのですが、私の研究には役には立ちません。しかし、幸運を呼ぶ四葉があれば、

良いアイディアが浮かぶかもしれませんね……。もらっておきましょう。これが報酬です」

 

特徴的なトンガリ帽子を被ったヨランオランは生物の品種改良やヴァナ・ディール全土の動植物の生態調査などの生物化学研究機関である"鼻の院"の元院長である。

引退後、マンドラゴラの生態を研究しており、よく冒険者にマンドラゴラに関する資料を集めさせるのに依頼をしている。

冒険者である霊夢もその依頼を引き受け、サルタバルタ周辺に何処にでもいるマンドラゴラを次々と討伐していき、珍しいと思える部分をかき集めたのだ。

マンドラゴラから取れたのは葉に付着した硫黄と、隠し持っていたコルネットと呼ばれる楽器が数個、そしてトム・ティット・タットの四葉である。

 

「一人に770ギル、六人で4970ギルですね。ではどうぞ」

 

机の引き出しから袋を取り出し、ギルを詰め、それを霊夢に渡すヨランオラン。

これで依頼の完了だ。

 

「ありがと。それと一つ聞きたい事があるんだけど」

 

「何です、お嬢さん」

 

霊夢はギルの入った袋を受け取り、ヨランオランに質問する。

 

「氷河に眠る古代遺跡。そしてそこにあるはずの龍の爪。これについて何か知らないかしら?」

 

霊夢達が異世界であるヴァナ・ディールに来たのは、幻想郷の大妖怪にして賢者 八雲紫が原因である。

異世界と異世界である幻想郷とヴァナ・ディールの道を繋げ、幻想郷の住民であった霊夢達をヴァナ・ディールに送り込んだ張本人。

その妖怪が言うには、紫からの依頼をこなせば幻想郷に帰してくれるという。

その依頼とは「氷河に眠る古代遺跡。そこに眠る龍の爪を取りに行け」である。

ヴァナ・ディールを知らない霊夢達にとっては氷河にある古代遺跡など知るはずがない。

文がこの五日で集めた情報によると目の前にいるタルタルは、このウィンダスで名高い三博士の一人という事なので何かヒントを掴めるか聞いてみたのだ。

 

「古代遺跡ですか…氷河というとクォン大陸の北にあるバルドニアの事でしょうか。そこには古代人が作ったとされる遺跡が多数あると言われます」

 

ウィンダス連邦を成立させたミンダルシア大陸は全体的に荒廃した乾燥地帯になっているのに対し、隣のヴァナ・ディール最大の大陸であるクォン大陸は北部の氷雪地帯から南部の砂漠地帯まで、気候もバラエティに富んでいる。

そして最北部にあるバルドニア地方は年中雪と氷に閉ざされた地方であり、余りにも寒冷なため、わずかに定住していた漁師も数百年前に立ち去ったと伝えられる。

バルドニアは古代エルヴァーン語で"人外の地"を意味する程、過酷な環境なのだ。

 

「しかし龍となると…たしかにバルドニアは数が少ないとはいえ幻獣である龍(ドラゴン)がいますが…

遺跡の中に龍がいた、というのは聞いた事がありませんね」

 

バルドニア地方のエリアであるボスディン氷河には、サルタバルタにあるホルトト遺跡とそっくりな遺跡が存在する。

その遺跡のお宝を求め、冒険者が行くのも珍しくない。

しかし、その遺跡が見つかって何年も経つが龍がいたというのは聞こえてない。

遺跡に住まうのは何かの怨念を持って現代に彷徨うアンデッドや自然に住み着いた蝙蝠などと言った魔物だ。

 

「きみ達がなぜそれを聞いたのかは問いません。しかし、今の実力で氷河に行くのはやめたほうがいいでしょう。あそこは危険ですからね」

 

話を切るとヨランオランは霊夢に渡された依頼品を携え、部屋の奥に入って行く。

マンドラゴラの研究に入るのだろう。

 

「危険ね…そんなもん、冒険者になってから百も承知よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手に持つ銀色のナイフで皿に乗せられたこんがりと焼かれた肉を切る。

サクリ、と表面の皮が切れる。そのまま中身の肉まで切っていくと、肉汁が溢れ出てくる。

ごくっと唾をのむ。

綺麗に一口サイズに切ると、もう片方の手に持つ三又のフォークで突き刺す。

肉汁がぽたぽたと溢れ出る、それをゆっくりと口に運んでいく。

焼けた表面を噛みつぶし、柔らかい肉の感触を味わっていく。

黒胡椒…こちらの世界ではブラックペッパーと言ったか。スパイスの効いた味と肉のうまみが両方そなわり最強に見える。

 

「ん~!美味しい!仕事の後の飯はうまい!メシウマ状態!!」

 

ウィンダス水の区には耳の院が運営している国立魔法学校とあらゆる書物を扱う目の院の魔法図書館、生物化学研究機関である鼻の院という学術施設が存在している。

それ以外にも調理を生業とする者が集う調理ギルドの他、「憩いの宿」で知られるララブのしっぽ亭という宿屋があるエリアだ。

そして今、霊夢たちがいるのは調理ギルドの近くにある音楽の森レストランである。

その食事のほとんどが調理ギルドで作られたものであり、味は折り紙付き。他国からもその味を求めてやってくる程だ。

また音楽の森だけあって食事中に生演奏を聴き、楽しむ事ができる。

 

ヨランオランからの依頼を果たした少女達は、報酬で貰ったギルで食事をしているようだった。

 

「はぁー。ヴァナに来てよかったのは美味しいものが食べれる事ね」

 

ダルメルと呼ばれる足と首の長い魔物の肉を厚切りに焼いたダルメルステーキ。

ちょっと高いが、その味は絶品だ。霊夢もその味に至福の顔をしながら魅されてるようである。

 

アリスはそれとは別にボスディン菜のソテーを食べている。

寒冷地に生息する、ボスディン菜をバターで炒めた料理だ。

ボスディン菜のシャキシャキとした食感とバターで炒められた特有の味に満足していく。

 

何がウィンダス風なのかは分からないが、様々な野菜と果実を盛りつけられたウィンダス風サラダ。

霊夢の教育のお陰か、最近ではちゃんと野菜も残さず食べるルーミア。

ミスラントマトと言われる栄養価のある野菜を食べる。野菜の食感を感じながら、口の中に甘みが広がっていく。

本来は見かけによらず意外と硬いのだが調理人の腕がいいのか、サクサクとやわらかく食べていける。

次に一口サイズにカットされたカザムパインを手に取る。南方のエルシモ島にあるカザム村の特産品だ。

黄色の果肉からは程良い匂いがしてくる。食べてみると、舌がひりひりした。

ややすっぱさのある甘みがある。美味しい。

 

音楽が聞こえる。後ろには楽器を持ち、演奏をし始めるタルタル達がいる。

演奏を聴きつつ、少女達は楽しい食事を過ごしていくのだった。

 

 

 

「ふぅー、食った、食った」

 

魔理沙は腹を押さえ、満足そうに食器を置く。。

 

「ちゃんと冒険者用の食事があってよかったですな」

 

文は食べ残しがない綺麗な皿に食器を置く。

割と几帳面な文はこういった食事は残さないようだ。

 

「ま、タルタル用の食事を出したら何回か注文しなくちゃならないからな」

 

透明な瓶に蒸留された純粋な飲み水を飲む魔理沙。

冷たくひんやりとした液体が喉を通り、思わず息を吐く。

 

音楽の森レストランは元々タルタルが経営し、タルタルが客である事が前提になっている店だ。

事実、霊夢たち以外の机や椅子などはタルタルサイズである。

しかし冒険者の時代となったヴァナ・ディールでは他国の冒険者…つまりタルタル以外の客がやってくるようになった。

タルタルの体格は小さく、大人であっても見た目相応の食事でも満足できるがそれ以外の人種はそうもいかない。

特に頑健な肉体で知られるエルヴァーンや強靱な肉体を持つガルカでは到底満足できない量だ、

そのためそういった冒険者の要望にも答えるため冒険者用の食事も作られているのだ。

 

「あれ?霊夢。その痣…」

 

「ん?ああ、これか」

 

ルーミアは霊夢の袖が捲れた腕に痣があるのを見つけたようだ。

 

「たぶん、あの時払った時かな。唾付けとけば治るでしょ」

 

トム・ティット・タットと戦っていた時に攻撃を逸らすために腕を払った時の衝撃が残っていたのだろう。

大した傷でもないので放っておいたのが霊夢らしいと言えばらしいだろう。

 

「駄目だよー、霊夢。傷をそのまんまにしたら後で痛いよ。今回復するね」

 

ルーミアは"魔力"を流しながら、癒しの呪文を紡ぎ始める。

白魔道士となり、己の"魔力"を感じるようになったルーミアは指先に"魔力"を集めて行く。

正しい言の葉の音律で魔法を唱えていく。

魔法とはそれぞれ決まった音律が存在し、それに従い"魔力"を流せば魔法は発動する。

中にはオリジナルの詠唱や音律で詠唱速度を高めたり、"魔力"の消費を抑える者もいる。

ルーミアの唱える魔法は始めたばかりの白魔道士が使う一般的な詠唱だ。

 

「ゆえにめがみは、つばさにつどいし、みずからのみこを、いつくしみたもう、いやしたもう…」

 

魔法が発動される。

白い光が、霊夢の痣のある腕に生じる。

暖かな光が一瞬だけ感じ取るとすでに光は消え、腕の痣はみるみる消えていく。

肉体の持つ再生能力を促進させる白魔法の"ケアル"は霊夢の痣を消し取り、いつもの綺麗な白い肌に戻したようだ。

 

「ん、あんがと」

 

手を握りながら腕の感覚を調べ、礼を言う霊夢。

 

「そういえば妖夢ってまだ"気"が使えないのか?」

 

食事が終わり、一息を付いた一同。

魔理沙は妖夢に"気"が使えるか聞いた。

 

「はい…あと少しって所までは来てるんですけど…そこから先が分かりづらくて」

 

霊夢はすでに"気"を使っているというのに、妖夢はまだ"気"が使えないようであった。

 

「たぶん、半人半霊である事が関係しているんでしょうね。"気"ってようは生きている人が使うものでしょう?

半分生きてて、半分死んでいる妖夢には分かりづらい事なのかもしれないわ」

 

緑茶であるウィンダスティーを飲み終え、カップを置くアリス。

妖夢は幽霊と人間のハーフである半人半霊であり、生きている者が使う"気"は感じ取りづらいのだ。

 

「いずれ使えるようになるでしょ。私はすぐにできたわよ」

 

「それは霊夢だけだと思うぜ…」

 

 

 

食事の会計を済ませ、音楽の森レストランを出て行く霊夢達。

すでに外は夕方だ。太陽が沈んでいる。

このまま寄宿先であるモグハウスに戻ろうとする。

 

「ん?誰だ?」

 

途中で、一人のタルタルがうろうろとしてる。ツインテールをした女性のようだ。

 

「鼻の院にあると思ったら在庫切れなんて使えません事…ああ、早くあの実験をして、わたくしに舐めた態度をしたヘッポコくんを…」

 

霊夢達に目が移る。

タルタルの目が光ったように見えた。

 

「あら、あなた達…冒険者ですわね?」

 

「そうよ。そういうあんたは?」

 

「今はそのような不遜な発言は許してあげますわ。わたくしの名はシャントット。これからあなた達に依頼をする者ですわ」

 

シャントット。その名は聞き覚えがあった。

三博士の一人にして、魔道士最強の名を欲しいままにする傲岸不遜傍若無人のタルタル。

その気位はユタンガ火山より高く、気性はグスタベルグ山脈よりも荒削り。

二十年前に起きた獣人と人間との世界をも巻き込んだ水晶大戦クリスタルウォーでの英雄の一人。

現ウィンダス連邦政府元老院議員首席にして、口の院の元院長の政治的権力は計り知れない。

それはまさにウィンダスが生んだある意味の災厄。良くも悪くも、ウィンダスを象徴する人物であった。

 

「依頼はシャクラミの地下迷宮にある良質な埋れ木を持ってくる事ですわ。報酬は…黒魔道士の魔法の書物スクロールをいくつか差し上げますわ。まぁ、なんて太っ腹!」

 

オーホホホホホホと高笑いするシャントットに呆気を取られる一同だが、アリスは違っていた。

 

(な、なんて"魔力"よ…!桁が違いすぎる!まったく底が見えないなんて…!)

 

幼い女の子に見えるシャントットから溢れ出る程、感じ取れる"魔力"。

底が見えない、桁が違う魔力量に気を失いそうになる。

明らかに人間の持てる"魔力"の保有量を超えている。"魔力"の優れたタルタルとはいえ、それは明らかな異常であった。

ここまで濃密かつ異常な"魔力"を持つ魔法使いなど見た事も聞いた事がない。

下手したら幻想郷の上位に位置する者とも真っ向から渡り合えるのではないかと思ってしまう。

 

「あら?勝手にわたくしの中を覗き見てるのがいるようですけど…呪いますわよ?」

 

思わず、ビクっとしてしまうアリス。まさか魔力を見ているのがバレたとは思わなかったのだろう。

 

「あら、あなた…」

 

じろじろと霊夢を見始める。

 

「な、何よ…」

 

「あなた、いえ、あなた達、この世界に住まう人間ではありませんわね?」

 

シャントットの言葉に皆が驚く。

 

「あらあら、どうやら人間ではない者も混じっていらっしゃるわ。見た目はヘッポコくんでも、これなら依頼は果たせそうですわね」

 

再び高笑いに入るシャントット。

人間ではない者…つまり、ルーミア、妖夢、文、アリスの事だ。

まさか見ただけで看破されるとは思わなかった。

 

「安心なさいな。あなた達が人間でなくても、わたくしには何も関係のない事ですわ。さっさと依頼を果たしに行きなさい、冒険者」

 

「あの、その依頼を断る事は…?」

 

妖夢は思わず聞いてしまう。

シャントットはニッコリと笑うと、

 

「あら!わたくし、ブチ切れますわよ」

 

無理そうであった。

 

 

 

依頼を冒険者に与えたシャントットは満足げに家に帰って行く。

例え冒険者が依頼に失敗しても、自分の持つ権力を利用して埋れ木を寄越しに行けばいい。

冒険者が持ってくるのが早いか、自分の権力が使うのが早いか。それだけの違いだ。痛手など何もない。

 

「そういえば…」

 

彼女達はヴァナ・ディールに生きる人間とは違うものだと感じた。

中には人外が混じっており、それは獣人や悪魔デーモンなどとは違うものだ。長く生きて初めて見たものだった。

この世界とは違うモノ。それが意味するモノとは…

 

「ふ、ふふふ…オーホホホホホホ!!これは新しいですわ!次元を超えた先にある、もう一つの世界!

ヘッポコくんをぶっ潰したら、早速新魔法の製作ですわ!」

 

できる!己の頭脳と魔力があれば、次元の穴を広げて、世界を超える事がっ!

 

そしてこれが、後に"シャントット帝国"事件を引き起こす事になるのだが、別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャクラミの地下迷宮かぁ…」

 

モグハウスに戻り、すでに寝巻となっている魔理沙はブロンズベッドに寝転がっている。

ふかふかの布団に体が沈み、思わずそこから寝てしまいそうであった。

 

「ここからだと結構遠いわね…徒歩で行くと一日以上はかかるわ」

 

同じく、寝巻となっているアリス。

地図を見ながら、ベッドに腰をかけている。

 

「東サルタバルタから北側に進んでタロンギ大峡谷を抜け、北東にあるのがシャクラミの地下迷宮ですか…確かに遠いですな…」

 

文は幻想郷にいた頃の服を着ている。

手には安価の安酒を持っている。

酒場に行き、情報を集めに行っていたのだ。

 

「ここに来て初めての迷宮探索ダンジョンだねー。どんな所か分かる?」

 

可愛らしい花柄の寝巻に身を包むのはルーミアだ。

 

「地下水によって侵食されてできた自然の迷宮だとか。化石が露出し、そこから依頼の品が出てくるみたいですが…問題の埋れ木は割と奥にあるみたいでして…

我々の今の実力で、果たしてそこまで辿りつけるかが問題になります」

 

情報はすぐに集まった。

シャクラミの地下迷宮を冒険した冒険者は多く、その情報のほとんどが世界に駆け巡っている。

どんな敵がいるのか。どんなお宝があるのか。いったい奥に何があるのか?

そうした情報は素早く伝わって行く。

特に未知のダンジョンだとそうした情報を手に入れるのに金を払う者だっている程だ。

とはいえ未知というのは言い替えれば無知である事であり、何も知らない状態で冒険する事は命取りになる。

 

「生息している魔物はゴブリンや蝙蝠、ワーム。それとスケルトンのアンデッドがいるみたいです。

まぁ、それなら我々でも倒す事はできるでしょうが…

サソリ…言い方を変えればスコーピオンが怖いですな」

 

「スコーピオンですか…強いんですか?」

 

扉から風呂を終え、寝巻姿になっている妖夢が入ってきた。

髪は水気をおびており、その顔はやや赤くなっている。

 

「一言でいえば勝てません。見つかったら逃げるのみ。これが我々のできる事です」

 

何とも簡潔に纏めてくれた事だ。

 

「何か対抗手段とかないのか?弱点とかさ」

 

「氷と光に弱いみたいですが…まだ魔理沙さんとルーミアはその魔法を使えませんよね?」

 

黒魔道士であるなら氷。白魔道士であるなら光。属性に応じた魔法が使えるのだが。

 

「うん…回復と補助を優先してるから…」

 

「氷っていうとブリザドか…まだ使えないな」

 

どうやら二人はまだ使えないようだ。

ルーミアは優先としている魔法の影響で光属性の魔法を覚えていない。

魔理沙の場合は純粋な力量不足だ。"ブリザド"を覚えるのにもう少し力を付けなくていけない。

 

「それに今回は無理して戦う必要ない依頼でもあります。

戦闘を避け、埋れ木を見つけてさっさととんずらしましょう」

 

「そうね。じゃあ、明日も早いからさっさと寝るわよ。おやすみ」

 

ようやく会話に入れた霊夢はベッドに入るとそのまま眠ってしまった。

話が纏まると皆ベッドの中に入り、睡眠を取る。

安物のブロンズベッドであるが、モグハウスの小さな管理人であるモーグリが管理するだけあって常にふかふかだ。

ヴァナ・ディールに降り立った少女達の夜は明けていく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の区の中央にある噴水に少女達が集まっていた。

冒険者の証であるネックレス《シグネット》を首にかけた霊夢達だ。

 

「採掘に使うのはこのつるはしでいいんだよな?結構でかいからあまり数が持てないぜ」

 

魔理沙は、鞄からはみ出る形になっている、つるはしに溜息を付く。

 

「別に数は多く持つ事はないでしょう。そんな頻繁に壊れるわけでもないでしょうし」

 

文は地図屋から買ったシャクラミの地下迷宮の地図に採掘場所や魔物が何がいるかなどのマークに洩れがないか確認している。

 

「ね、ねぇ。文。これって結構恥ずかしいんだけど…」

 

いつもの胴衣ローブ姿ではない。革の鎧と言われるシープレザーアーマーを身に付けたアリスは妙にもじもじとしている。

刃物に対する防御としてはやや脆弱だが、打撃や擦過に対しては十分な防御力を持つため、

これから初めての長旅と迷宮探索ダンジョンに備えて文が買ってきたのだ。

今のパーティで回復の魔法が使えるのは白魔道士のルーミアと赤魔道士のアリスだけだ。

そのため、回復の要である二人にはできるだけいい装備を付けてある。

 

「それを言ったら私だって同じようなもんでしょうが。以下レスひ不要です」

 

文の姿はブラスハーネスと呼ばれる軽装の鎧だ。最初に装備していたブロンズハーネスによく似ている。

シーフとしての力量が上がったので鎧を買い替えたのだ。違いは青銅製と真鍮製の違いである。

そしてアリスの装備しているシープレザーアーマーは鎧でありながらピッチリとしている。

それを意味するということはアリスの胸がはっきりと出てしまう事だ。

それに加えて脚装備のレザートラウザは文の装備しているサブリガとあまり大差がないようなものである。

生足を晒し、後ろから見ればアリスの形のいい尻がはっきりと見えてしまう。

 

「こ、こんなのブロントさんには見せられないわ…」

 

「ん?なんでブロントさんがでるんだぜ?」

 

アリスは魔法使いという名の妖怪である。とはいえ精神は女である事に変わりは無く、一般常識内の恥じらいも持っている。

今は幻想郷にいる謙虚な騎士にこんな姿は見せられないと思い、それに感づいた黒魔道士の少女がニヤニヤしながら近寄ってくる。

 

「な、なんでもないわよ」

 

「それはないぜ。安心しな、アリス。今のお前はかわいいから、ブロントさんも褒めてくれるぜ」

 

「そうだよー、アリスはかわいいよー」

 

「だからなんでもないって言ってるでしょうが!」

 

アリスはここぞとばかりに魔理沙とルーミアにからかわれ、二人を追いかける。

冷静なアリスだが、ヴァナ・ディールに来てから少しばかり変わり始めた

自らの欲求を満たす異世界の魔法理論と人形に好奇心を刺激しているのだろう。

普段なら軽く流す事もこのように感情を出すようになっている。

もしアリスの母親がこの光景を見れば、微笑ましく眺めているだろう。

 

「アリスにも、妖夢の装備してる鎧があれば良かったんだけどね…」

 

霊夢は競売所から戻ってきたようだ。

競売所とは各国に存在するアイテム取引のための施設であり、ヴァナ・ディール経済の中枢を担っている。

そこでは冒険者が冒険によって手に入れたアイテムを出品手数料を支払い、出品する。

このとき落札希望額を指定し、落札者は出品されているアイテムに対して入札する。

出品者の設定した落札希望額以上の額で入札すれば、落札となり取引が成立する。

 

これが競売所のシステムである。

霊夢は競売所で傷を回復させるポーションや毒を癒す毒消しなどを落札してきたようだ。

この世界に来て六日経ち、冒険者として慣れた彼女は準備を万全にするようにしている。

 

そして妖夢の装備しているのはブロンズスケイルアーマーだ。

鱗がいくつも重なったように見えるその鎧は青銅の子札こざねで丁寧に作られた戦士の鎧だ。

なめし革を使われた鎧は柔軟性もあるため、冒険に慣れた戦士であるなら誰もが一度は袖を通す一品である。

 

しかし魔法国家であるウィンダスに置いて、戦士の武器や防具はあまり置かれていない。

競売所ですら中々置かれていないため限りある戦士の武器と防具はメイン盾の妖夢に優先されている。

赤魔道士はある程度なら鎧も装備する事ができる魔法戦士だ。

今のアリスの力量であるならシープレザーアーマーではなく、ブロンズスケイルアーマーを装備する事は可能であるが妖夢のぶんで競売所にある在庫は切れてしまったのだ。

 

「準備は終わったわね?行くわよ!」

 

各自が必要とする道具が入った鞄を持ち、東サルタバルタに続く門に進む。

朝日が昇ろうとしていた。

 

 

 

 

「はい、《シグネット》の更新終わったよ」

 

門を潜り抜け、進む前に門の前にいる猫耳と尻尾を生やしたミスラのガードに《シグネット》を更新をしていた。

冒険者の証である《シグネット》は特殊な魔法加工で作られており、その中にある情報を読み取って、冒険者が今まで獲得した"戦績"を読み取る事ができる。

しかしそれを可能とする魔法は長続きはしないのでこうやって定期的に更新する必要があるのだ。

また、更新をしないからといって別に不都合があるわけではない。

"戦績"を獲得できない、それに応じたコンクェスト政策領土争いに参加できない、倒した敵に応じて支給されるクリスタルが貰えないぐらいで身分証明書代わりにはなる。

 

「ありがとう、ルゥ」

 

首にかけられた橙色のネックレス《シグネット》の更新が終わり、礼を言う霊夢。

 

「ガードの仕事だからね。礼には及ばないよ」

 

肩まで伸びた山吹色の髪を纏めたミスラのガードルッ・ヅゥは苦笑をする。

ガードとは冒険者を支援する国家の一部隊であり、今のように《シグネット》の更新の他、"戦績"に応じた支給を渡したり、国からの依頼であるミッションを伝える事を主な仕事となっている。

 

「シャクラミだっけ?もうあんな所まで行けるようになったんだね…」

 

「あくまで探索と採掘目当てだけどな」

 

ルゥは正直、驚いていた。

目の前の少女達は冒険者となって、一週間も経っていないはずだ。

それなのに、迷宮探索ダンジョンに行ける程の実力を身に付けたのだから驚嘆してしまう。

 

「じゃあ、頑張ってね」

 

「はい、行ってきます」

 

律儀にお辞儀をする妖夢に「こうして見るとただの女の子にしか見えないな」と思い、先に行く霊夢たちを見送り、ルゥはガードの仕事に戻って行った。

 

 

 

 

 

それは過酷な環境であった。

赤茶けた色をした起伏のある大地が、日差しが強く照りつけている。

雨が滅多に降らない乾燥した気候のためか植物の種類は少なく、風が吹けば砂塵が舞い上がり、空の色まで青から赤茶けて見えた。

サルタバルタが暖かい穏やかな気候なら、タロンギ大峡谷は一変して日差しが強く、汗が止まらなかった。

ウィンダスから出発しすでに昼を過ぎているが、まだ目的地の半分程度であり、サルタバルタとタロンギ大峡谷の気候の変化に手間取っていた。

 

「あっちぃ…何なんだ、この暑さ…」

 

額からにじみ出る汗を腕で拭う魔理沙。

安定したウィンダスの気候に慣れていた魔理沙にとって、タロンギ大峡谷の環境は中々厳しいようだ。

特にきつく感じているのは妖夢だ。重い鎧を着込む戦士である彼女は、この暑さは正に地獄の宴である。

フード付きの胴衣ローブを着たルーミアはあまりの暑さにフードを外し、煌びやかな金の髪を晒している。

いくら妖怪とはいえ、違いすぎる環境の変化には耐えられないようだ。

 

高低差のある大地にある細い道筋を歩いていく。

登り降りを繰り返し、疲労は着実に溜まって行く。

汗をかいたからか、喉が乾いてくる。

途中でマンドラゴラやウサギに見える魔物と通り過ぎるが、野生の獣として生きる彼らは刺激さえしなければ害はない

 

「ん、何あれ」

 

高低差のある大地を登りきり、広い大地が見え、一息を付く。

霊夢はこの暑さでも汗はかいていたが、いつも通りであった。

霊夢が見ているのは四足の獣だ。

首が長い。とっても長い。

濃い茶色と薄い茶色。縞々の毛皮を持っている。

脚も首と同じぐらい、長い。

タロンギ大峡谷に生息する野生のダルメルだ。

 

「あれは、ダルメルね。森の区で飼育されているのを見た事があるわ」

 

「【へぇー】、あれが…」

 

ウィンダスではダルメルは飼育されている。

肉が良質であり、更にその体躯から運搬用としても役に立つからだ。

霊夢の脳裏に浮かぶのは音楽の森レストランで食べたダルメルステーキ。

あれは美味しかった。幻想郷では金欠で、肉なんて贅沢品。毎日が湯豆腐でも不思議ではない生活。

たまにブロントが狩りで肉を採ってくるが数と量自体はあまり多くない。

ダルメルステーキは厚切りに焼いた料理のため、とても満足できる量だ。

肉だけでお腹がいっぱいになるなんて、ヴァナに来て初めてであった。

 

霊夢の口から、涎がでている。

その目にはダルメルが肉にしか見えていない証拠であった。

 

「お、おい。霊夢…」

 

「わ、わかってるわよ」

 

涎を拭き、いつもの表情に戻る。

そう、今は狩りをしている暇はないのだ。

しかし、霊夢の顔はちょっぴり残念そうであった。

ルーミアも、ダルメルステーキの味を知ってるため、同じような顔をしていた。

 

 

 

思わず見上げてしまう。

そんな高い建造物であった。

白い骨のような色をしたそれはタロンギ大峡谷北部にある謎の巨大建造物である。

通称"メアの岩"と呼ばれ、白い部分を触るとひんやりとして、熱い日差しのあるタロンギ大峡谷では気持ちよく感じた。

 

シャクラミの地下迷宮に行くにはここを通る必要があり、近くには各国のチョコボ厩舎から派遣されたチョコガールがいる。

チョコボは飛行能力を失っている巨大な鳥であるが、その強靭な脚力から冒険者を乗せ、すぐに目的地に運ぶ事のできる。

そのチョコボは本来、各国のチョコボ厩舎から借りるのだが、世界中を行き来する冒険者を対象に様々な場所でチョコボを借りれるように、チョコガールを派遣したのだ。

結果は見事に大成功。冒険者は多少、賃金の高くてもチョコガールからチョコボを次々と借り、乗って行ったのだ。

 

そのチョコガールがいる所に魔物がいない所を見ると、安全な場所のようだ。

 

「ちょっと休憩しようぜ」

 

「日が落ちてますから、ここで今夜を過ごしたほうがいいですな」

 

太陽の日は落ち、空は暗くなっている。

あれだけ日差しで暑かったのが、今では寒く感じるほどだ。

多くの魔物と獣人がいるヴァナ・ディールの大地では、夜の行動はできるだけ避けるべきである。

夜といえば妖怪だが、それは魔物も変わりは無い。

それに初の遠出で皆疲れている。無理して先に進む事もないのだ。

 

適当に木の枝を集め、火を付ける。

鞄の中から水や食料を取りだしていく。

夜食だ。

 

「むぅ~」

 

ルーミアの眉は捻っていた。

軽くて保存の効く食料を中心を選んでおり、味は薄くあまり美味しいと言えないものだ。

ヴァナ・ディールに来てから割と美味しいものを食べてたせいか、その味に不満がでそうになる。

とはいえ幻想郷では何も食べれない日々が続いたし、霊夢の家に住み着いてから湯豆腐の日々だったので食料自体には不満は無かった。

 

「? 魔理沙何してるの?」

 

鞄から色々と取りだしている魔理沙。

 

「へへ、まぁ、見てな」

 

取りだしたのは乾燥させたマージョラムと呼ばれる臭みを消す効果があるスパイス、紙で丁寧に包まれた肉、そして掌サイズの小さな赤い結晶。火のクリスタルだ。

クリスタルは鉱石のように、自然にあるものではない。

世界を構成する八つの元素の内、一つの元素だけが集まった結晶化したのがクリスタルだ。

火のクリスタルは元素の一つ、火だけが集まったものだ。

 

魔理沙は火のクリスタルを掲げ、"魔力"を流し込む。

"気"にしろ"魔力"にしろ、クリスタルは力を流し込めば元素の力を発揮する。

キィンと音が鳴り響き、結晶の形が解け、赤い火の塊となる。

火の塊を作り上げると紙に包まれた肉を取りだす。ウサギから採れる野兎の肉だ。

それに加えて乾燥マージョラムを肉と共に火の塊に投下した。

再び魔力を流し、魔理沙の頭の中でイメージを固めていく。

 

魔理沙のしているのはクリスタル合成だ。

クリスタルさえあれば材料だけで、器具も無しに様々なモノが作れるヴァナ・ディールの技術である。

とはいえクリスタル合成は魔法ではない。

あくまで器具を必要とせず、作る手順を無視できるだけでその本質は変わらない。

作ろうとするモノの本質を理解しなければ、合成は成功しないのだ。

 

軽い爆発音が響く。野兎の肉を包んでいた紙に、こんがりと焼かれた肉がぽんっと置かれる。

合成の成功だ。

 

「よし、今回は中々いい出来だぜ」

 

渾身の出来に、満足したように傾く魔理沙。

香りも離れていても分かるそれは、網焼きされた野兎のグリルだ。

乾燥マージョラムを使う事で野兎の肉独特の臭みを消している。

表面をカリカリにしながらも、決して焦がさず、中身の肉をふっくらと仕上げるのにちょっとしたコツが必要な料理だ。

焼いた肉の香りと苦味のある乾燥マージョラムの匂いが混じり、鼻の奥を刺激する。

 

「おいしそう…」

 

「うまいぜ」

 

野兎のグリルをナイフで切り分け、仲間に分ける魔理沙。

さすがに腹を満たす量ではないが、舌を楽しませるぐらいの味はある。

食べてみるとカリカリの皮が歯で破れ、肉汁がじわじわと口の中で広がっていく。

焼き立ての肉だからか、とても熱い。しかし、その熱の帯びた肉の味はとてもうまい。

ダルメルステーキも柔らかい肉質だったが、これもそれに劣らない柔らかさだ。

 

また野兎のグリルを食べるたびに、身体の奥から燃えるように熱くなっている。

合成によって作成された食事は元素の力を付加されている。

そのため、冒険者は身体に良いとされる合成された食事を大切にする。

ただ腹を満たすだけではない。安全な冒険をするために必要なものでもあるのだ。

 

小さい鍋に入った簡単なスープと携帯食料も口に運びながら、交互に食べていく。

数十分後、夜食を食べ終え、げふっとするルーミア。

 

「でも、魔理沙が合成できるなんて知らなかったわ」

 

アリスは食後の紅茶を飲みながら、魔理沙を見ている。

合成自体は幻想郷でも見ている。ヴァナ・ディールからやってきた冒険者がやっているのを見た事があるからだ。

しかし、魔理沙は合成は出来なかったはずだ。

幻想郷ではクリスタルがあまり採れないため、流通していないのが原因の一つなのだが。

 

「んー?まぁ、できて損はないかなって思ってさ。調理ギルドに行って、色々と習ったんだよ」

 

合成を生業とした組合。それがギルドであり、"ウィンダス水の区"には、調理を専門としたギルドがある。

そこで魔理沙は合成のやり方を習い、暇を見つけては合成の鍛錬もこなしていたようだ。

 

「明日の朝から行くとして、だいたい一時間もあればようやくシャクラミの地下迷宮に辿りつきますね」

 

「結構近いわね…今から行く事は出来ないわけ?」

 

「危険です。シャクラミの地下迷宮前はアンデッドがいるみたいなので。スケルトンならともかく、ゴーストが危険ですね」

 

スケルトンは通称、骨と言われるアンデッドであり、その名の通り骸骨がそのまま動いてる魔物だ。

何らかの怨念があって彷徨い続ける怨霊であり、迷宮ではよくいるタイプである。

そしてゴーストは邪悪な魂が布切れに憑依したアンデッドだ。

ただの布切れと侮るなかれ、強力な精霊魔法を使いこなし、自分と同じ亡者を生み出そうとしている危険な魔物だ。

どちらも薄暗い所に生息しているが、朝のように明るい場所だと消えてしまう。

今は夜だ。空を見上げれば、星々と月が綺麗に大地を照らしている。

 

「明日に備えて、寝るとしますか…誰が見張りをやる?」

 

鞄から毛布を取りだし、寝ようとする霊夢。深く顔を見てみれば、彼女も疲労が溜まっているのが分かった。

野生の生き物がいる所で、見張りも無しで寝ようとするのは「どうぞ、食べてください」と言わんばかりの自殺志願者ぐらいだろう。

 

「私がやりましょう。あまり疲れていないので」

 

どうやら見張りは、文がやるようだ。

夜は妖怪の本領を発揮する時間。この世界で貧弱一般人になってしまったとはいえ、その性質は失われていない。

例え二~三日寝なくても体調を崩すような事はない。

 

「じゃ、頼むわよ。文」

 

毛布に纏まると、静かに寝息が聞こえてくる。

皆が寝静まる夜の時間。文は空の星を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が昇る前に起きると準備を整え、出発する。

寝ずに見張りをしていた文だが、体調に変化はない。むしろ体力は万全だ。

これが妖怪の特性だろう。人間と違い、ちょっと休めば自然と体力は回復している。

 

朝早くから出発するのは日差しによる体力の低下を避けるためだ。

シャクラミの地下迷宮は魔物が生息している。そんな場所に体力がない状態では行けないだろう。

そう考えた一同はまだ肌寒く感じる時間に出発したのだ。

もたもたしているとまだあの日差しが襲い掛かってくる。

 

「ここが入り口みたいだぜ」

 

一時間近くメアの岩から歩き続け、北東にある地下迷宮前に辿りつく。

巨大な何かの骨が埋まっており、その先には洞窟が見える。あの先がシャクラミの地下迷宮だ。

 

「みんな、プロテアをかけるから集まって」

 

ルーミアは白魔法の詠唱に入る。

その魔法は"プロテア"。加護の魔法だ。

赤魔道士やナイトの使う"プロテス"は一人一人にしかかけれないのに対し、"プロテア"は範囲内の仲間にも同じ効果をもたらす。

"プロテア"がかかると体に白い光が包み込む。

魔法の加護を受けた状態だ。非力な魔道士であるルーミアと魔理沙にとって、その恩恵は計り知れない。

 

「よし、進むわよ」

 

皆が傾く。

迷宮探索ダンジョンの始まりであった。

 

 

 

シャクラミの地下迷宮は、遥か太古の地層が地下水によって出来た天然の洞窟である。

そこには様々な化石が露出しており、それを目当てに採掘に来る冒険者も少なくない。

しかし化石目当ては冒険者だけではない。

ゴブリンだ。

獣人であるゴブリンは獣人の中で最も金稼ぎに優れている。

金のためなら獣人の敵であるはずの人間と取引をするぐらいだ。

また優れているのは金稼ぎだけではない。その技術もバカにできないものだ。

火薬を使い、爆弾を作るなど他の獣人からも重宝される技術を持っている。獣人の持つ武器や防具はゴブリンが制作したと噂が立つほどである。

 

シャクラミの地下迷宮に入り、坂を下りるように進むと広場に出る。

天井には大きな穴が開いている。そこから日が差しているようだった。

 

「ゴブリンがいるわね…」

 

広場には犬のようなマスクを付けたゴブリンがいた。

手には、鈍い輝きをした短剣を持っている。

 

「採掘場は何処にあるんですか?」

 

妖夢はすぐに剣を抜けるように柄を手にやる。

いつ見つかっても、すぐに対応できる構えだ。

 

「この先に更に大きな広場があります。北に進めば、下層にいける坂があるので、そこから採掘のできる場所があるとか」

 

地図を片手に真っ直ぐと指を指す文。

 

「ゴブリンはまだ気付いてないな…気づかれる前に行こうぜ」

 

霊夢達は静かに広場を通り過ぎて行く。

ゴブリン以外も魔物がいたようだがそれも無視だ。

そのまま先に進んでいくと大きな広場にでた。

ゴブリン以外にも蝙蝠が三匹ひと組に飛んでいたり、ミミズを大きくしたようなワームが地中から飛び出ている。

ワームと蝙蝠は刺激さえしなければおとなしいが、獣人であるゴブリンは霊夢たちを見ればすぐに襲い掛かってくるだろう。

ゴブリンがこちらの目を逸らした間に通り抜けて行く。

ある程度奥に進むと坂が見えて来た。

敵がいないかを確認しながら坂を下っていく。

 

「あれが採掘できる所でしょうか?」

 

先頭に立つ妖夢は、坂の先にある化石に目を付けた。

 

「みたいだな。さっそく掘りにいこうぜ」

 

魔理沙は鞄からつるはしを取りだし、駆け足で進んでいく。

 

「魔理沙!後ろ!!」

 

ルーミアが叫ぶ。

魔理沙が気づいた時には、もう遅い。

背後からまともに攻撃を食らってしまい、地に倒れる魔理沙。

 

「がっ!?」

 

それは突然、現れた。

見た目は片手棍と盾をもった骸骨だ。だが、全身が青白い輝きを放っている。

ぼんやりと、骸骨を周りにまとわりつくそれは怨霊だ。

それはたたの骸骨ではない。死して尚も現代に彷徨うアンデッド。

スケルトンである。

 

「あなたの相手は私です!」

 

スパタを腰から抜き、スケルトンに斬りかかる。

背後からの不意打ちを食らってしまった魔理沙から、スケルトンを引き離すため、敵対心ヘイトを稼がなくてならない。

妖夢の攻撃を盾で防ぐスケルトンだが、注目を集めた。

剣と盾を鳴らし、戦士の技能アビリティである"挑発"で、更にその敵対心ヘイトを稼ぐ。

メイン盾は相手を如何に盾に固定させるかが課題となる。

そうすれば他の仲間は攻撃されることがなく自由に行動できるからだ

 

「魔理沙!大丈夫!?」

 

ルーミアとアリスは倒れた魔理沙に近付く。

スケルトンの攻撃をまともに食らってしまったのだ。薄い胴衣ローブしか装備ができない黒魔道士は、魔物の一撃一撃が致命的な致命傷になりやすい。

 

「あ、ああ…後ろの棍が盾になってくれなかったら、危なかったぜ…」

 

何とか立ちあがろうとする魔理沙。

背中には背負っていた両手棍に罅が入っている。

これがスケルトンの攻撃を防いだのだ。魔理沙の体には"プロテス"の加護が消えていない。これも影響があるのだろう。

ルーミアとアリスから"ケアル"を貰い、吸収し切れなかった衝撃のダメージが回復していく。

立ちあがると罅の入った両手棍を構える。

 

「ひやひやさせやがって!百倍にして返してやるぜ!」

 

「ひやひやしたのはこっちよ!まったく…」

 

アリスは、魔理沙に呆れながら、同じように杖を構え、魔法の詠唱に入った。

 

「ポイズン!」

 

「ブライン!」

 

水の元素に強く働きかけ、毒をめぐらす"ポイズン"。

闇の元素をかき集め、目をかすませる"ブライン"。

魔理沙とアリスは、それぞれ、相手を弱体化させる魔法を唱える。

唱えた理由は、いきなり攻撃魔法を唱えて敵対心ヘイトを稼がないためだ。

まずは前衛に相手をさせ、関心をこちらに向かないようにしなくてはならない。

しかし、その間に何もしない事はない。今のように弱体を掛ける事で前衛が戦いやすくするために必要な事だ。

 

抵抗レジストされたわ!」

 

「ちっ!大人しく掛かってろよ!」

 

スケルトンは、弱体魔法を抵抗レジストし、無効化したようであった。

抵抗レジストとは、魔法のダメージや効果が減少する現象を指す。

如何に高い威力を持つ魔法であっても抵抗レジストされると途端に効き目が弱くなってしまう。

特に弱体魔法は抵抗レジストが発動されると効果がまったく出ないのだ。

目の前では妖夢が盾となり、霊夢と文がスケルトンを攻撃していた。

 

 

ブラスナックルを身に付け、スケルトンを殴っていく霊夢。

"挑発"で完全に、妖夢に敵対心ヘイトが向いている。そのため、存分に攻撃できるのだ。

 

「ふっ!」

 

シーフである文はスケルトンの背後から"不意打ち"をする。

バキッと音とともに短剣が骨の一部を折ったようだ。網状に罅が入っている。

 

「砕くつもりだったのですが…ちょっと浅かったようで」

 

攻撃を加えた文はスケルトンの範囲から離れる。

シーフである彼女は真正面から魔物とやりあわない。隙を見て、渾身の一撃を"不意打ち"するのがシーフの役割だ。

ある意味、忍者よりも暗殺者らしいと言える戦い方だろう。

 

片手棍の一撃を回避し、逆に片手剣を叩きこむ。

斬るというより叩くような斬撃を食らい、のけぞるスケルトン。

 

(いまだ!)

 

今のスケルトンは隙だらけだ。ここで武技ウェポンスキルを放てば、一気に優位になれるだろう。

妖夢は"気"を練ろうとする。

この世界に来てから"霊力"が使えず、全力で戦えない日々が続いている。

武技ウェポンスキルの形はできているのだ。元々剣術を使っていたため、そういった技に関しては慣れている。

しかし、中身の"気"が無ければ武技ウェポンスキルは完成しない。形だけではだめなのだ。

 

(駄目だ…"気"がでない…!)

 

使えなかった。あと少しといった所で、詰まってしまう。

いったい、何が駄目なのか。

霊夢は"気"を練り上げては、溜めこんでいる。

"気"を溜め、武技ウェポンスキルを放つつもりなのだろう。

 

(早く…早く使えるようにならないと…)

 

このままでは足手まといになってしまう。

妖夢に抱く心にあるのは、いまだに"気"が使えない自分に対する焦りであった。

 

モンクである霊夢は、"気"を溜め続ける事ができる。

そして溜めこんだ"気"を攻撃に使う事で、大きな威力を出す事ができるのだ。

まだ妖夢に向いているスケルトンに力強く踏み込む。

 

右拳が、文が事前に折った罅のある骨を砕いた。

左拳が、盾を持つ左腕を打ち抜き、罅を入れる。

トドメの蹴りが更に追い打ちをかけ、左腕を盾ごと砕き、吹き飛ばした。

 

"コンボ"によって、スケルトンをズタズタにしていく。だが、スケルトンはまだ動いている。

アンデッドは最初から死んでいる。

痛みを感じないアンデッドは体を一部を失っても、尚動き続ける。

霊夢の一撃を食らったスケルトンの敵対心ヘイトは、妖夢から霊夢に切り替わる。

 

「くっ、こっちに来なさい!」

 

必死に"挑発"をする妖夢だが、スケルトンは無視して霊夢に攻撃しようとしている。

片手棍を持つ右腕を高く、天井に掲げた。

 

そのまま、素早く霊夢の脳天へと振り下ろす!

 

まともに当たれば頭蓋骨が砕け、中身を散らしかねない一撃。

スケルトン渾身の一撃、"ヘルスラッシュ"。

 

が、霊夢の目は恐ろしく冷静にその動きを追っていた。

スケルトンの片手棍だけではない。神経を集中させ、相手の攻撃から生じる微細な動きまで感じ取る。

振り下ろされる片手棍が前髪を掠り、紙一重に回避しながら頭骨に一撃を食らわした。

相手の力を見極め、回避と反撃を両方こなすモンクの技能アビリティ

"カウンター"だ。

 

まさか渾身の一撃をかわされ、逆に一撃を食らってしまうとは思わなかったスケルトン。

頭骨に大きな罅が入る。

カタカタと歯をかき鳴らすスケルトン。まるで怒り狂ってるように見えた。

だが、もうおしまいだ。

 

「こいつで年貢の納め時だぜ!ファイア!!」

 

魔理沙の魔法が発動した。

火の元素が集まり、それは火の塊となってスケルトンに叩きこんだ。

全身が火達磨となり、炎に包まれるスケルトン。

 

ガアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 

長い断末魔が、"シャクラミの地下迷宮"に響く。

骸骨の形が保てず、崩れていくスケルトン。

彷徨い続けた怨霊はようやく安らぎを得たのだ。

炎は消え、骸骨は塵一つ残さず消え去った。

それは戦いの終わった瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、掘るぜー」

 

つるはしを構え、化石を採掘する魔理沙。

シャントットの依頼である埋れ木は、シャクラミの地下迷宮の化石から採掘できる。

そもそも埋れ木とは、何らかの原因により土泥に埋もれ、火山活動などによって圧力を受け半分無機質化した木の事だ。

シャクラミの地下迷宮は太古の地層が地下水で長い時間をかけて、自然が作り上げた洞窟だ。

そして太古の地層には化石が埋まっている事が多く、埋れ木もその一つなのだ。

 

「せーの!」

 

バキャ!

 

つるはしを両手に持ち、掘ろうとする魔理沙だったがいきなりつるはしが壊れた。

青銅部分がいきなりバッキリと、二つに割れるつるはしに唖然となる。

 

「なんだこりゃ?!なんでこんな簡単に壊れるんだよ!」

 

「いきなり壊れるとはついてませんですね…やり方が悪かったのでは?」

 

「ちょっと、魔理沙!あまり数がないんだから壊さないでよ!」

 

一回で壊れたつるはしでもめ始める、魔理沙、文、霊夢。

妖夢、ルーミア、アリスは先ほどのスケルトンのように敵がこないか見張っている。

 

「でも、魔理沙凄いねー。もうファイアが使えるなんて。私なんてまだケアルⅡも使えないのに」

 

ルーミアは座りながら精神を落ち着かせていた。

スケルトン戦の後、前衛組に"ケアル"をかけたぶんの魔力を回復しているのだ。

 

「相当、努力をしたんでしょうね。自分の力で魔法が使えるから」

 

アリスも同様に座り込み、"魔力"を回復している。

赤魔道士の保有する"魔力"は黒魔道士や白魔道士と比べてそこまで多くない。

そのため、こまめに回復する必要がある。

 

「え?魔理沙って普通に魔法使えてたよね?」

 

幻想郷では普通の魔法使いと呼ばれる彼女は、魔法が使えるはずだ。

能力も「魔法を使う程度の能力」である。

その腕前も、弾幕ごっこでは霊夢に次ぐ程だ。幻想郷では良くも悪くも有名な魔法使いの一人である。

 

「私達、種族としての魔法使いが使う"魔法"は魔理沙には使えないのよ。

魔理沙がただの人間なのもあるけど、魔力が圧倒的に足りないの」

 

魔理沙は普通の魔法使いという二つ名がありながら、種族は人間である。

また、生まれも一般の家庭から育った普通の娘に過ぎない。

魔法の魅力に気づき親と縁を切る事になった彼女だが、アリスや幻想郷の紅魔館に住まう動かない図書館パチュリー・ノーレッジの使う魔法は、ただの人間に過ぎない魔理沙には使えなかった。

 

そこで彼女は自分に足りない魔力を補うために様々な方法を試してきた。

魔理沙が常に持ち歩いてるミニ八卦炉もその一つだ。

魔法の火種として利用し、足りない魔力では不可能な大火力を実現している。

魔法の森に生えるキノコを調合と実験を繰り返し、試行錯誤を繰り返して自分だけの魔法を作り上げていく。

 

しかし、そんな魔理沙だけの魔法は結局媒体が無ければ発動できない程度のものだ。

"普通"の魔法使いでありながら"普通"の魔法が使えない魔法使い。

 

アリスのように己の魔力だけで魔法を使いながら人形を操作し、戦う事はできない。

パチュリーのように喘息というハンデがありながら、複数の魔法を組み合わせるという器用な真似はできない。

 

凡人の魔理沙にとって自分の力だけで魔法が使えるのが少しばかり羨ましかった。

 

ヴァナ・ディールに来てから彼女は"幻想郷の住民"から"ヴァナ・ディールの住民"に塗り替えられている。

それを意味するのはヴァナ・ディールの住民なら誰もが等しく持つ、魔法の力を得られる事。

結局は"世界"から与えられた力。

それでも魔理沙にとって、自分だけの力で使えるようになる魔法は嬉しかったのだ。

 

「そっか…だから魔理沙はあんなに頑張ってたんだ」

 

決して表には出さない努力家の彼女だが、親しい者にはバレているようである。

 

霊夢がお手本を見せてやるといい、つるはしで化石を掘ろうとしたら、また折れたようだ。

折れたつるはしの柄を霊夢は踏み捨てる。それを諌める魔理沙と文。

あの光景を見れば到底、彼女たちが幻想郷では一級廃人の実力者だとは分からないだろう。

 

(まだ長くなりそうね…)

 

アリスはその光景に苦笑し、霊夢を諌めるのを参加し始めた。

 

 

 

 

 

何とかつるはしの使い方がわかってきたのか、折れずに採掘ができるようになった霊夢と魔理沙。

カツーンカツーンと音が響き、化石から採掘していく。

 

「これはどうだ?」

 

「ただの骨くずですな」

 

カツーンカツーン

 

「これはどう?」

 

「何かの原石でしょうか?埋れ木ではないですね」

 

カツーンカツーン、カツーン、カツーン

 

掘り続けてみるもほとんどが何かの原石か骨くずであった。

原石は売れば金になるだろうが、骨くずはどうすればいいのか判断に困った。

そして肝心の埋れ木が出てこない。埋れ木が出なければ依頼はこなせない。

普通なら依頼が難しく失敗してもいいだろうが、依頼人はあのシャントットである。

依頼を果たせなかったら何をされるか分かったものではない。

 

「あらかた掘り尽くしたな…ここにはないんじゃないか?」

 

魔理沙はつるはしを纏め、鞄に入れ始めている。

ルーミアは手に入れた原石を色別に分けながら鞄に入れている。

 

「うむむ…そうなると、先にある採掘場に行かなければいけないんですが…」

 

「スコーピオンですか?」

 

「ええ、いるとは限りませんがね」

 

"シャクラミの地下迷宮"に生息する魔物。その中で悪名高い魔物ノートリアスモンスターを除いて最強クラスの魔物が、スコーピオンだ。

基本的にそうした魔物は奥にいるものだ。今ある採掘場の更に奥に進めば、それだけ遭遇する可能性が高くなる。

 

「ここじゃ掘れなかったんだ。だったら奥に行ってみようぜ。出たら出たらで逃げればいいし」

 

鞄を持ち、立ちあがる魔理沙。

 

「あまり危険な事はしたくないんですけどねぇ…」

 

新たな採掘場を目指し、少女達は先を進む事になった。

 

 

 

シャクラミの地下迷宮において、エリアは下層と上層に分けられる。

上層にはそこまで強い相手はいないのだが、下層のエリアは敵の強さが格段に強くなる。

 

「結構強そうだな…」

 

下層にうろつくゴブリンを見ながら、冷静に相手の強さを見極める。

とてもとても強そうに見える。果たして、今の自分達で勝てるかどうか…

一体だけならともかく、二体以上来れば劣勢にしかならないだろう、と分析する魔理沙。

とはいえ、別に戦いに来たわけではないのだ。

細心の注意を払い、見つからないように先に進んでいく。

 

採掘場を見つけては掘っていく。

なぜかサソリの爪や甲羅がでてくる。

しかし、肝心の埋れ木が見つからない。

つるはしも壊れやすいのか、すでに残り少ない。

 

採掘を始めて数時間が経過している。

次の採掘場で五つ目だ。

 

「これ、見つからないんじゃないか…」

 

弱気になる魔理沙。

 

「見つかりにくいと言ってましたからね…もっとつるはしを買っておけば良かったです」

 

文は地図に採掘した所のメモに×を付けている。

五つ目の採掘場に辿りつく。

つるはしを持ち、化石を掘り出す魔理沙。

カツーンとつるはしが化石を掘り出すために地層を掘る音が響く。

 

「ん?これは…」

 

色々と掘りだされる採掘品が何であるかを見るのは文だ。

 

「何だ?埋れ木でもあったか?」

 

「いえ、埋れ木ではないですが、珍しいものですね」

 

文が手に持つのは、珪砂と呼ばれる砂だ。

ガラスの材料になる珪砂は割と高めに売れる。

採掘を続け、ついにつるはしが残り一個になってしまった。

最後の望みと言わんばかりに、力強く振り上げてしまう魔理沙。そんな雑な使い方をすれば壊れやすいつるはしは、たった一回で使い物にならなくなる。

 

「いーかげんに、出ろ!」

 

バキィ!

 

つるはしが粉々になった。この壊れやすさには思わず笑ってしまう。

 

「はぁ…結局でなかったかぁ」

 

依頼は失敗かしらねー、と呟く霊夢。

 

「いえ、待ってください。これ…」

 

砕けたつるはしが抉った地層。

それを手で丁寧に、掘り、払っていく。

 

「これ…埋れ木です!埋れ木がありましたよ!」

 

そこに埋まっていたのは依頼品である、埋れ木であった。

木、というより無機質化してるためか、炭に近い物体だ。

 

「よかったねー。これで帰れるよー」

 

「最後の最後に、見つかってよかったですね…」

 

ルーミアと妖夢はほっとしているようだ。

これで最後まで見つからなければ、ここまで来て苦労した意味がないだろう。

 

「これで帰れるわね…よし、かえ…!」

 

霊夢の声は止まる。

何事かと思い、皆も霊夢の見る先を見て、言葉を失う。

 

「最…悪。なんでこんな都合よく出るのよ…」

 

文の言葉は、皆の心を代弁したものだ。

霊夢たちの前に現れた存在。

名はスコーピオン。蠍を巨大化したような魔物であった。

 

 

 

 

スコーピオンは、じりじりと霊夢達に近付きつつあった。

初めて見る人間の姿に警戒しているのか、随分と消極的だ。

 

(そっちのが私達としてはありがたいんだけどね…)

 

文は目の前のスコーピオンを見る。サソリと呼ばれる、蠍をそのまま巨大化した魔物。

いったい、何を食えばここまででかくなるのか。

元の蠍の何百倍はあるのだろうか。

その黒い甲羅は鉄の鎧のように輝いている。生半可な攻撃では傷一つ付かないぐらい頑丈だろう。

かなり強そうに見える。

幻想郷にいた頃の強さなら相手にもならないだろう。しかし貧弱一般人になってしまった自分達が何処まで戦えるか…

 

『合図を出したら、散開よ』

 

小声で霊夢は仲間に伝える。

 

『戦う気ですか?』

 

『まさか。隙を見せたら、すぐ逃げるのよ』

 

まともに戦えば、負けるのはこっち。

目の前のスコーピオンは隙を見せていない。普通に逃げれば、すぐに追いかけてくるだろう。

せめて隙を作るか、足止めをしなければ逃げる事ができない。

スコーピオンがあと十歩もしない距離まで近付いてきた。

 

「今!」

 

霊夢の合図に、散開する。

一か所に集められた獲物がバラける事で、一瞬だけ戸惑うスコーピオン。

最初は小さい獲物であるルーミアを狙いにつけたようだ。

 

「バインド!」

 

魔理沙の魔法が迷宮に響く。

相手の動きを氷の元素によって束縛し、動けなくさせる魔法だ。

 

「また抵抗レジストかよ!」

 

氷が弱点のスコーピオンであったが、"バインド"を抵抗レジストする。

如何に弱点とはいえ、力量差がありすぎるのだ。

 

「こっちに来なさい!」

 

スコーピオンを"挑発"し、ルーミアから妖夢に狙いを定めさせる。

その間に、背後に回っていた文は"不意打ち"で攻撃をする。

しかし短剣で斬り付けた傷はそれこそ掠り傷程度であった。硬すぎる。

 

「この!倒れなさいよ!」

 

己の拳でスコーピオンの足を攻撃し続ける霊夢。

殴るたびにまるで鉄を殴るような感触に顔をしかめる。

霊夢と文の攻撃、魔理沙とアリスの魔法を無視し、妖夢へと向かっていく。

すでにスコーピオンと妖夢の攻撃は互いに届く範囲に近付く。

 

「くっ!」

 

長く、鋭い前足の爪が襲い掛かる。

盾では受け切れない。そう判断した妖夢は、ギリギリ回避に成功する。

反撃に剣で斬るが、その甲羅に弾かれる。

 

「う、わ!」

 

次は尻尾がまっすぐ、狙ってきた。

バックステッポし、その尻尾は地中を抉る。

まともに当たれば鎧ごと胴体を突き刺し、その命を奪うだろう。

 

一度も攻撃は食らってはいけない。

 

頬に汗が流れる。相手の攻撃は、戦士である妖夢ですら致命的な致命傷になる。

剣で攻撃を弾き、盾で受け流し、時には攻撃を大きな動きをしてでも回避していく。

例え、ヴァナ・ディールに来てから貧弱一般人に強さが落ちても、体に染みついた戦闘経験と目の良さは消えてはいない。

その経験の差が、力量差のあるスコーピオンと互角に近い戦いを繰り広げていた。

 

しかし、どれだけ攻撃を加えてもスコーピオンは猛攻を止めない。

霊夢達に限界があっても、魔物であるスコーピオンは死ぬまで限界はない。

いい加減、効かない攻撃をする獲物に鬱陶しく感じたスコーピオンは大技を繰り出す。

 

「何?」

 

プルプルと震えだすスコーピオンに感づく霊夢。

 

「まずい!離れて!」

 

文もその危険を感じ取ったが、遅かった。

 

回り出した。その巨体を、大きく揺らし、暴れ出す。

スコーピオンの暴れるその姿はまるで台風だ。

そしてその対象は離れていた後衛組も入っていた。

 

「がっ…は!」

 

吹き飛ばされ、背後にある地層にぶつかってしまう。

額を傷つけたのか、血が目に入る。

全身がバラバラになったような衝撃を食らい、倒れる霊夢。

他の仲間も同様だった。スコーピオンの大暴れをまともに食らい、一気に劣勢に立たされてしまう。

 

(じょう…だんじゃない…わよ)

 

一歩も動けなかった。

瀕死に近い傷に、身体が動いてくれないのだ。

 

(あのバカ…!何を!)

 

朦朧とする視線の先に、ルーミアが何をしているか理解した。

たしかに、アレなら、今の状況を立て直せる。

しかし、そうすればルーミアはあの蠍にズタズタにされ、後に残るのは闇色の雑魚だろう。

 

ルーミアは祈っている。

ヴァナ・ディールを創世したとされる女神アルタナに。

今のルーミアに、全員を癒す魔法は使えない。

仮に使えても、ほとんどが瀕死だ。一回二回で全開はしない。

 

だからルーミアは女神に祈る。

女神の加護を受けし白魔道士は、女神に祈る時、その祝福を受けられるのだ。

 

ルーミアの体が白く輝く。

それは大きな風となり、採掘場を満たし、仲間達を包み込んでいく。

 

女神の祝福を受け、霊夢の体は急速に回復していく。

あれだけ苦しかった体が、解放される。

あれだけ重く感じた体が、軽くなる。

力が、戻ってくる。

 

スコーピオンはルーミアだけを狙い定めている。

回復という行為は最も敵の関心を引きやすい。特にパーティ全員を限りなく全開にする祝福は、敵対心ヘイトを固定してしまう。

傷から回復し、"挑発"している妖夢だがスコーピオンはルーミアだけしか見ていない。

まずはやっかいなものから排除する。

それが魔物の習性なのだ。

 

「あんたの相手はっ!」

 

霊夢の体は"気"を溜め、ルーミアのもとに行こうとするスコーピオンに突っ込む。

 

「この私よ!」

 

その拳を前足に力強く叩きこんだ。

それでも鉄を殴った感触に、スコーピオンは見向きもしない。

が、霊夢の攻撃はそれで終わらない。

初めの一発が叩きこまれると同時にその腕を引き、反対側の拳を叩きこむ。

一連につながる攻撃は段々と早くなり、ついには人の目では追い切れない速度になっていく!

これこそが己の肉体を武器とするモンクの奥の手である"百烈拳"!

 

そのあまりに早すぎる猛攻に動く事ができないスコーピオン。

いくらダメージがないとはいえ獲物に近付く事ができない。

尻尾を動かし、霊夢に狙いを定める。

その小さな体を突き刺そうと尾が霊夢を狙う。

 

「させないわよ!上海!」

 

「シャンハーイ」

 

アリスの人形である上海が、スコーピオンの尻尾に纏まり付く。

 

「つぅ!重いわねぇ!」

 

アリスの指から上海に繋がれた細く、頑丈な糸

それがスコーピオンの尻尾を止めたのだ。

とはいえ、力の差は歴然。すぐに糸は千切れ、尻尾は動きだす。

だが彼女にとって、その一瞬で充分。

 

「隙だらけですよ」

 

文が尻尾を"不意打ち"した。

例え"不意打ち"したところで、文の短剣では尻尾の甲羅は傷つけられない。

しかし、文が狙ったのは尻尾を巧みに動かす、関節の隙間であった。

 

ギエェェェェェ!

 

鳴き声を発した。

尻尾は隙間から斬られ、血を噴き出す。

初めて傷らしい傷を与えた瞬間であった。

 

「これで最後ぉぉぉぉぉ!!」

 

百発目の拳を叩きこみ、百烈拳の効果が切れる。

体に疲労感が襲い掛かる。すぐに倒れてしまいそうになるのを堪え、殴りに殴り続けて溜めこんだ"気"を練り上げる。

 

「霊夢!」

 

妖夢だ。動き出そうとしているスコーピオンの前に立っている。

その剣には"気"が陽炎のようにゆらめている。

何をするのかを把握した霊夢は、無言でうなずく。

 

「レッドロータス!」

 

その武技ウェポンスキルは、本来、妖夢の力量には扱えないはずの技だ。

しかし、「剣術を扱う程度の能力」を持つ妖夢の武器技術スキルは一回り上の剣技を可能とする。

妖夢の剣が、炎に包まれる。

その剣でスコーピオンの霊夢が攻撃し続けた前足に斬り付けた。

殴られ続けた鋼鉄の如き前足は、ついに切り裂かれる!

その斬られた後から炎が舞う。

それに合わせて、霊夢は武技ウェポンスキルを放つ!

 

「吹っ飛びなさい!」

 

"気"を体全体にまとわせ、激突する勢いで"タックル"した。

スコーピオンはその一撃を食らい、見事に転倒してしまう。それだけではない。

"レッドロータス"と"タックル"と武技ウェポンスキルは、互いの"気"が混じりあい、閃光のような爆発が起きると、スコーピオンを包み込んだ!

 

これこそ、冒険者に伝わる戦闘術。"連携"だ。

"気"と"気"を連携させ、相乗させた破壊力のある技に発展していく戦闘術。

それに合わせ、魔理沙も己の中に存在する"魔力の泉"を発動させ、無限に等しい膨大な魔力を発動させる。

黒魔道士は極小の次元の穴を広げる事で、魔力を一時的に湯水の如く使える事が可能だ。

 

「燃え尽きろぉぉ!」

 

ファイア!ファイア!ファイア!!

 

ミニ八卦炉のサポートによる魔法詠唱短縮ファストキャストを受けながら連続で唱え、火の魔法を連発する。

"連携"によって、効果が発生している間に抵抗レジストが大幅に低下されている。

これが魔法の連携マジックバーストだ。

今までろくに魔法が通らなかったスコーピオンの甲羅はそのファイアの熱に耐えきれず、解け始めている。

しかし、まだスコーピオンは生きていた。

炎に包まれながらも、体を動かし足掻いていた。

 

「もう充分です!逃げますよ!魔理沙さん!!」

 

文はすでに自力では立てないぐらいに疲労している霊夢を肩で支えながら、魔理沙に声をかけた。

そう、無理をして倒す必要はないのだ。

まだスコーピオンは生きているが、もう追ってこれまい。

両手棍を背中に背負い、魔理沙は仲間と共に外へと目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでくれば…平気ですかね」

 

シャクラミの地下迷宮の入り口前に辿りつき、一息つく一同。

すでに外は暗くなっている。文は外を様子を見ると、外にある巨大骨にアンデッドがいるのを確認する。

そのため、地下迷宮の入り口前で一夜を過ごす事になった。

魔物もいないため、安心できる。

 

「どちらにせよ、霊夢さんがこの調子では満足に帰る事ができませんからね」

 

霊夢の体は"百烈拳"の影響で、疲労が溜まっている。

限界の限界を超えて繰り出すモンクの奥義に、さすがの霊夢といえども、休まなくてはいけなかった。

 

「はい、回復終わったよ」

 

ルーミアは霊夢に"ケアル"を唱える。

己の拳を顧みずスコーピオンを殴り続けた結果、皮膚が裂け、骨が砕けていた。

血だらけになった霊夢の拳を見て、だから"タックル"を使ったのか、と納得する。

"ケアル"を受け、霊夢の拳はすでに綺麗な少女の手をしている。

 

「はぁー、今日はしんどかったぜぇ…」

 

魔理沙は気が抜けたのか座り込んで、そのまま倒れ込む。

 

「確かにね。あそこまで緊迫した状況なんて中々ないわよ」

 

アリスは上海を点検している。先ほどの戦闘で壊れていないかチェックしているのだ。

 

「そういえば、妖夢。さっき"気"が使えてたよな?」

 

「はい…スコーピオンの攻撃を食らってしまって…本当に死ぬかと思いました。

死にたくない、死にたくないと思っていたら、ルーミアの回復を貰って使えるようになっていたんです」

 

半分死んでいる妖夢が、死ぬような状況に陥りかけ、その逆境が半分生きている部分に眠る生命の力である"気"を生み出したのだ。

 

「ま、さっきの連携は見事だったぜ!」

 

「あ、はい!」

 

魔理沙の称賛に、妖夢は素直に喜ぶ。

 

「ブロントさんも…こんな苦労をしていたのかなぁ」

 

幻想郷にいる謙虚な騎士。

彼はこの世界で戦い抜き、一級廃人へと至ったのだ。

 

「彼も人間ですから、そりゃ苦労ぐらいはしてるしょう。たぶん」

 

「そっか…」

 

文の言葉に、魔理沙は体を起こす。

 

「確かにつらかったよ。あのサソリだって怖くないって言ったらウソになる。

でも!」

 

魔理沙は笑った。

 

「凄く楽しく感じた!これがブロントさんが歩いてきた冒険なんだって!

今、私の中にあるのは止まらないドキドキだぜ!」

 

魔理沙の夢。

未知の場所へと、冒険する。

それは魔理沙の心を常に刺激している。

 

「だから──」

 

──もっと、もっと…新しい所に、楽しい所に冒険しようぜ!みんな!!

 

魔理沙の決意の声は、仲間の心に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

……To Be Continued?




Hakurei Reimu モンク/- Lv15/-
個別特性:主に空を飛ぶ程度の能力
状態異常を受け付けない。通常より成長は早い。

メイン:ブラスナックル サブ:―         レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:鉢巻        首:―          左耳:―          右耳:―
胴:拳法着       両手:手甲        左手の指:―        右手の指:―
背:―         腰:兵児帯        両脚:下ばき        両足:脚絆


Rumia 白魔道士/- Lv10/-
個別特性:闇を操る程度の能力
一瞬だけ相手を暗闇にする事が可能。耐性無視だが、近付かなければならない。通常より回復(HP)が早い。

メイン:ウィローワンド サブ:メープルシールド  レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:―         首:正義バッジ      左耳:―          右耳:―
胴:チュニック     両手:ミトン       左手の指:―        右手の指:―
背:―         腰:―          両脚:ズボン        両足:ソレア


Kirisame Marisa 黒魔道士/- Lv13/-
個別特性:主に魔法を使う程度の能力
八卦炉サポートによる魔法詠唱を短縮化(ファストキャスト)&魔法攻撃力増加。魔力(MP)が平均より少ない。

メイン:ホリースタッフ サブ:―         レンジウェポン:―      矢弾:八卦炉
頭:ウィッチハット   首:―          左耳:―           右耳:―
胴:リネンローブ    両手:リネンカフス     左手の指:―         右手の指:―
背:―         腰:―          両脚:リネンスロップス    両足:ホリークロッグ


Konpaku Youmu 戦士/- Lv12/-
個別特性:剣術を扱う程度の能力
戦士には装備できない武器(刀)を装備可能。武器技術(スキル)の成長が早い。武器技術の限界(スキルキャップ)が普通より高め。

メイン:スパタ     サブ:アスピス      レンジウェポン:―      矢弾:―
頭:フェイスガード  首:―          左耳:―           右耳:―
胴:スケイルメイル   両手:スケイルファイガー   左手の指:―         右手の指:―
背:―         腰:―          両脚:スケイルクウィス    両足:スケイルグリーヴ


Syameimaru Aya シーフ/- Lv11/-
個別特性:風を操る程度の能力
DEX(器用さ)とAGI(敏捷性)に補正。技能(アビリティ)を通常より早く覚える。通常より回復(HP)が早い。

メイン:ブラスダガー  サブ:ラワンシールド   レンジウェポン:ショートボウ 矢弾:木の矢
頭:ブラスキャップ   首:―          左耳:―           右耳:―
胴:ブラスハーネス   両手:ブラスミトン    左手の指:―         右手の指:―
背:―         腰:―          両脚:ブラスサブリガ     両足:ブラスレギンス


Alice Margatroid 赤魔道士/からくり士 Lv10/Lv5
個別特性:人形を操る程度の能力
オートマトンの人形を操る。からくり士の職業(ジョブ)を取っていなくても使用可能。通常より回復(MP)が早い。

メイン:ウィローワンド サブ:アスピス      レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:蟲眼のサークレット 首:―          左耳:―          右耳:―
胴:レザーベスト    両手:レザーグローブ   左手の指:―        右手の指:―
背:―         腰:―          両脚:レザートラウザ    両足:レザーハイブーツ
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