東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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第⑨章「天地の終わり」

幻想郷では一つの異変に追われていた。

それは、博麗の巫女と管理者の消失からなる幻想郷消滅の危機。

全てを飲み込もうとする『虚ろ』が現れ、幻想郷を成り立たせる者が飲み込まれるという事態に誰もが恐怖をした。

当然だ。

幻想郷という楽園があるからこそ、外の世界では幻想となり、忘れられた者が存在できる。

その幻想郷が消えてしまえば全てが、本当の意味で消滅してしまうだろう。

そしてヴァナ・ディールからの来訪者である冒険者、そして魔物達もどうなるかも分からない。

 

情報が圧倒的に足りないのだ。

なぜ『虚ろ』が現れたのか。なぜ巫女と管理者がいないままだと言うのに幻想郷が存在し続けるのか。

理解のできない事が多くなればなるほど、人は焦り始める。

冒険者達も幻想郷中を探索しているとはいえ、情報を何も得ずに出来ていたのだ。

 

「ブロントさん、今日も……?」

 

「すまにぃ、ルーミs。良い子にお留守番をして神社のHPを務めるべきそうすべき」

 

主が不在となったままの博麗神社に、一人の男と一人の少女がいる。

白銀に輝く鎧を着込むナイトであるブロントは、妖怪でありながら神社に居候をしているルーミアの頭を撫でる。

ブロントは博霊霊夢が『虚ろ』に飲まれたを知ってから、一日も休まずに幻想郷を探しまわっている。

『虚ろ』があったとされた場所を出向いては何も情報が得られなかったのがほとんどだ。

正直、打つ手がないとしか言えないのだが、ブロントという冒険者は何もせずにいられるような性格でもなかった。

 

「うん……霊夢と魔理沙、大丈夫かな」

 

「鬼巫女とサポシが簡単にくたばるとも思えないな(笑)巣鴨はどうでもいいが」

 

ルーミアにも寂しい思いをさせているとブロントも知っている。

出来るならルーミアと共に行動をするか、もしくは博麗神社で休みを兼ねて共にいるのもいいだろう。

しかしそれは出来ない事だった。

『虚ろ』を探しだすのもあるが、ブロントのような一級廃人には別の仕事を集落の村長であるマートから依頼をされていた。

 

「至高のナイトはアワレにも村を守り切れずに「はやくきてほしいんじゃのう?(チラ」「はやくきてほしいんじゃがのう?(チラチラ」とほざく限界爺の依頼をこなすために今日は少しばかり帰りが遅れるかもしれねぇ。今夜は昨日食った湯豆腐と野菜炒めの残りを全力で食べるといいぞ」

 

幻想郷の魔物が、最近になって急速に活性化しているのだ。

中には見た事のある魔物にも関わらず、見た事のない技を使う魔物となっているのも増えている。

そして幻想郷では稀にしか見る事のないはずの最も悪名高い魔物ハイノートリアスモンスターすらも増えつつある。

これらの魔物に対して最も不可解な点は二つ存在する。

一つはいったい何処からやってきたのか、という事だ。

普通であればヴァナ・ディールと答えるだろうが、冒険者ですら見慣れたはずの魔物にも関わらず、歴戦の冒険者すら知らない技を使うのもいるのだ。

そしてもう一つの不可解な事とは、その魔物を倒すと死体が残らないのだ。

素材すらも残さずに、最初から存在などしていなかったように消えてしまう。

とある天才薬師と管理者の式は、依存の生命体とかけ離れた魔物に対して、異なる世界との融合によって生まれた『歪みある生命体』なのではないかと推測し、"アビセアン"と名付けた。

 

ブロントは騎士だ。

冒険者であるとはいえ、それでも人を守る事を優先する事に変わりは無い。

確かに『虚ろ』を探し出したいが、人々と妖怪に危機に追いやるであろうアビセアンも放って置けるものではなかった。

 

博麗神社から出発し、普通のナイトならきゅうきょ辿りつかない所をカカッっと集落に辿りつく。

途中で何処にでも現れるようになったアビセアンに粘着されたが、道中に置けるアビセアンの強さはそこらの冒険者や妖怪でも打倒可能だ。ブロントの敵ではない。

そして村長のマートまで辿りつくと、彼の見知った者は幾つかいた。

 

「ああやにリューサンか」

 

「あややや、これはブロントさん」

 

「ブロントさんもここに来たと言う事は俺達と一緒かな、目的は」

 

鴉天狗の記者である射命丸文と、紫色の軽鎧を着込む竜騎士リューサンであった。

珍しい組み合わせと言えるが、マートの元にいるという事はブロントと同じ目的なのだろう。

 

「リューサンは分かるが、文がいる事に理解不能状態」

 

「失敬な。まぁ、私の場合は仲間集めなのが主な目的ですがね。妖怪の山にもアセビアンが増えつつあります。大天狗は自分達だけで大丈夫だけと言ってますが、正直何処まで持つか怪しい所ですよ」

 

文はブロントと共に異変解決に力を貸していた仲間であるが、人助けをするような性格でもない。

そんな文がマートにいる理由は、妖怪の山に現れるアビセアン退治の冒険者を雇うためだ。

天狗の中では相当な速さと実力を持つ文とはいえ、妖怪の山全域に現れ続けるアビセアンを倒し続けるのは無理がある。

中には文ですら苦戦しかねない怪物も現れるのだ。そういった怪物は大天狗と天狗の纏め役である天魔が倒すとはいえ、いったい何処まで持つかも分からない。

 

「内藤どもは永遠亭へ、ファイナルタツヤさんは紅魔館、それ以外の冒険者ですと地底に行ったり、人里の護りに入ったりとしてたんですが、偶然フリーのリューサンがいたので彼に助力を願おうかと」

 

「俺が思うにリューサンがフリーなのはいつもの事じゃね?それはそうとしてなぜ俺の力を当てにしないんですかねぇ?ブンブンは汚い記者ではあるが俺の仲間だからな何時でも力は貸してやるぞ?」

 

「それはありがたいんですが……ブロントさんも『虚ろ』の調査に力を入れてるじゃありませんか。無理強いはできませんよ」

 

新聞記者だけであってか、アビセアンの問題が片付くと文もまた、『虚ろ』を調べ回っている。

結果は何も出ていないとはいえ、同じように『虚ろ』を調べるブロントの邪魔もまたできない。

妖怪の山の件はあくまで自分達のもめ事に過ぎないのだ。

 

「ふぉふぉふぉ、丁度いいわい。ブロントさん、今回の依頼は妖怪の山のアビセアン退治じゃ」

 

「現在、大天狗達が凌いでいますが何処まで持つかは分かりません。私も見た事のない大型のアビセアンが暴れ回っていて手が付けられない状態です」

 

「うむ、射命丸殿が来る前に冒険者を先に向かわせたが天狗が苦戦するほどの相手じゃ。急ぎで頼むぞい」

 

マートからの依頼を受け、さっそく妖怪の山に向かおうとする。

一級廃人にしてメイン盾のブロント、そしてブロントと互角に近い強さを持つ竜騎士のリューサンがいるのだ。

大概のアビセアンどころか、強力な魔物を相手にしても勝てるだろう。

 

「久しぶりのパーティだ、全力全開で力を出すぞ!」

 

基本的にパーティに誘われずに一人でいる事の多いリューサンは久しぶりの誘いにいつも以上に気合いが入っている。

人里を出て、ブロントは地上を、文とリューサンは空から行こうとした時、大きな声に引き止められる。

 

「リューサン!」

 

「っと、衣玖さんか!なんでここに?」

 

リューサンを空から引き止めたのは竜宮の使いである永江衣玖であった。

美しい紅の羽衣を纏う淑女でありながら、その顔は珍しく焦燥感にある。

そして衣玖だけではなく、リューサンの知る少女達も付き沿うにいた。

 

「ああ、もう、やっと見つけたよ!ぼっちのリューサンだからいつも玉出ししてるかと思ったらいなかったし!」

 

「リューサン、手空いてる?」

 

毒舌ながらも同じようにリューサンを探していたらしいミスティア・ローレライ、亡霊の三姉妹の長女であるルナサ・プリズムリバーであった。

彼女達もまた、リューサンの数少ないパーティメンバーにして知り合いでもある。

 

「申し訳ありません、リューサン。天界は今、アビセアン……と言いましたか、その魔物の襲撃によって一種の混乱に陥っています。緋想の剣を持つ総領娘様を始めとする戦える者達が凌いでいるとはいえ、ヴァナの魔物に詳しくない彼らでは何時まで持つか……」

 

「こっちも屋台が壊されそうになるし、リグル達も危なかったし大変だったよ!力の弱い妖怪がどんどん襲われてる!」

 

「……私達の屋敷も襲われた。妹達が結界を張ってるけど何処まで持つか分からない……」

 

彼女達の言いたい事はただ一つ。

リューサンに助力を求めている事だ。

各地で際限無く現れ続けるアビセアンに対し、妖怪も人間も関係無く協力して撃退をしている。

しかしアビセアンは文字通り、幻想郷中何処にでも出現するのだ。

人手が足りない。妖怪ならまだしも、人間で戦えるのは人里の住民でもごくわずか、冒険者の数もそこまで多くは無い。

衣玖達の知る中で、唯一フリーだろうと思い当たる冒険者を考えるとリューサンに行き着いたわけである。

 

「しかたありませんね、リューサン。彼女達の助けになってください」

 

「いいのかい?妖怪の山の事は……」

 

「やっかいと言えますがブロントさんがいますからね。安心してください」

 

「至高のナイトが一人来るだけで妖怪の山の天狗どもは「早い!」「もう来たのか!」「来た!メイン盾来た!」と大歓迎状態になるだろうからな。リューサン、全力でこちらは任せていいぞ」

 

ブロントの一声に封印が解けられたのか、リューサンは名残惜しさも残るものの、妖怪の山の件はブロントに任せて三人の少女の力になる事を決める。

数回であるとはいえ、ブロントと組んだからこそ分かる。彼に任せておけば妖怪の山は平気だろうと。

 

「すまない、恩に着るよ。まずは一番近いみすちーのほうから行こう!ryu-san in the sky!」

 

冒険者でありながらも竜騎士であるリューサンは空を飛ぶかのように跳ぶ事が出来る。

心強い仲間が一人減ってしまったのが残念とはいえ、これが今の幻想郷の環境……または異変と言えるのだ。

 

「行きましょう、ブロントさん!」

 

「おう!」

 

少し時間を取られてしまったが問題は無い。

幻想郷最速の天狗と、普通ならきゅうきょ辿りつかない所を辿りついてしまうナイトの二人なのだ。

多少遠い距離にある妖怪の山でもさほど時間をかけずに辿りつく事はできる。

 

そして一方で妖怪の山では、山の神、妖怪、そして人間である冒険者。

様々な種族が入れ乱れる中で、敵対するのはアビセアンの群れ。

何処からともなく現れ続ける魔物に対し、一心不乱に葬り続けるしかない。

 

「右翼三番隊は西の方角に行け!五番隊と六番隊は後ろに下がり身体を休めろ!二番隊は八番隊の救援に急げ!」

 

「四番隊の連絡が途絶えている!誰か確認に行けないか!」

 

「癒しの魔法を使える奴がいるなら来てくれ!傷が深い奴がいる!」

 

「西から大量のアビセアンが沸いている!休みを終えた七番隊と冒険者は早く向かってくれ!」

 

てんてこ舞いとは正にこの事だ。

いつもは余裕である事を顔に現す天狗達であるというのに、状況を常に確認し続ける彼らにその余裕などない。

アビセアンの猛攻は留まる事を知らない。

どれだけ倒しても倒しても際限無く沸き続け、ついには冒険者の手すら借りなければいけない程に追い詰められている。

 

「北西と東に沸きだした化け物はどうなってる!?」

 

「北西は天魔様と山の神達が向かっておりますが、東のほうは集落から新しく送られた冒険者達が……」

 

「大天狗様は他の隊を率いて動きが取れん……東、持つか!?」

 

アビセアンの中では幻想郷の中で猛者と呼ばれる部類ではなければ打倒できない存在も現れようとしている。

ただでさえ数が多い中で、そのようなモノが多くなれば必然的にこちらの分も悪くなる。

北西に湧き出たアビセアンなら問題はあるまい。天狗の頂点である天魔と山の神の二人が向かったのだ。負けるはずがない。

しかし、東のほうは手薄になっている。冒険者がどれだけ持つかは分からないが、大天狗でも圧倒されかねない強さを持つ最も悪名高い魔物ハイノートリアスモンスターは危険の一言。天狗の考えではそこまで持つはずがないと考える。

 

その考えは、正しく的中していた。

東から現れたアビセアンの数はわずか一体のみ。

その一体だけで何十の妖怪と何十の冒険者を薙ぎ払い、今も尚進軍を続けようとする鉄の巨人。

異様の外形だった。

ヴァナ・ディールの魔物で言うならば、古代から作られた遺跡防衛人形であるドールやゴーレムに近いながらも、間接などの接合部分は炎のような輝きをしながら連結している。

鉄のような鈍い輝きをした甲冑に、右腕には人間よりも遥かに大きな剣を持っている。

その剣でいったいどれだけの血を吸ったのか。赤色の鮮血によって剣を濡らしている。

 

「んんんんんんんん!おおおおおおおおおおおおおお!!」

 

その鉄巨人を相手に、半裸で素手という格好で立ち向かう凄い漢。

雄叫びをあげながら鍛え抜かれた拳を鉄の甲冑へと叩きこむ。

 

「はあああああああああああああああ!!」

 

一発二発だけで終わらない。

己の拳を顧みず、鈍い音を響かせながら鉄の甲冑には拳大の凹みを与えていた。

しかし殴られ続ける鉄巨人ではない。

一回の斬撃の振るい、凄い漢はそれを察してか大きく回避する。

反撃を捨てたかのような回避をしながらも、筋肉で覆われた肉体が大きく裂かれ、血飛沫が木々を濡らした。

 

「不破!下がれ、後は俺がやる!」

 

「わかったああああああああああああああああ!!」

 

漢と入れ替わるように目線をかけた忍者の男が鉄巨人の前に立つ。

汚い忍者は回避したはずの攻撃に傷を負った不破刃を見て、顔を顰める。

 

「ちっ、冗談じゃねぇぞ、こいつ……」

 

汚い忍者の考えている事が正しければ、この鉄巨人は忍者という職業全ての天敵だ。

しかしここで引けば妖怪の山は目の前の怪物によって蹂躙される事など目に見えている。

危なくなれば当然逃げるが、そう簡単に逃げるのも彼のくだらない心が許さなかった。

 

「ブロントの野郎が来る前に俺が倒してやる……」

 

マートの依頼によってブロントよりも先に妖怪の山に来た冒険者とは汚い忍者の事だったのだ。

初めは乗り気もしなかったが、報酬の良さに釣られてやったのが間違いだった。

報酬の良さと比較してもあまりにもきついアビセアンの大軍、そして目の前の敵との対峙。

効率厨の彼からすればあまりにも割が合わない。

割が合わなければ妖怪の山がどうなろうと知った事ではない。その場からさっさととんずらして逃げるのが彼のやり方だ。

しかし、目の前の巨人を含めて二体の最も悪名高い魔物ハイノートリアスモンスターの出現によって、更なる救援が求められた。

今の現状だと冒険者は人里に赴いても妖怪の山に来れる人材は少ないはずなのだが、幻想郷では随分と名の知れた謙虚な騎士が来るという情報に士気が上がる。

 

それが、汚い忍者にとって酷く癪に障った。

彼に取ってブロントという騎士は時代遅れのメイン盾と考えている。

しかしいつの時代を巡っても、人々はどんなピンチでも盾として駆け付けピンチから救うブロントを求めた。

盾としての性能が決して、忍者がナイトに劣っていたわけではない。

むしろリスクが高くても、敵によっては忍者の盾のほうがいい場合もあるだろう。

 

それでも称賛を受けるのは何時だってブロントだ。

汚い忍者が彼と仲間であった頃はまだ互いを認め合っていたのに。

ブロントの立場が、忍者という職業を超えるようにメイン盾として活躍するブロントの事が、何時から妬ましくなったのだ。

 

鉄巨人を前にして引かないのはその妬ましいという感情があるからこそ。

ブロントが呆れるほどに粘着を繰り返し、効率とは程遠い事をするのもただブロントを超えてメイン盾こそが自分であると証明するために。

 

「駄目だよ、ヒナヒナ!あいつ全然魔法が通じない!」

 

「妬ましいわね!手裏剣が通らないなんて有りなわけ?」

 

後方には汚い忍者、そして先程までの不破を支援していた少女達がいる。

彼女達の実力はお世辞にも男二人とはかけ離れているため、前線で戦おうにもお荷物が精々だ。

小さな少女の形を象った人形妖怪のメディスン・メランコリーは毒と水の魔法を、嫉妬という緑の瞳を宿す水橋パルスィは手裏剣を投げ続けるが鉄巨人にはまるで効果がない。

 

「んんんんんんん!はやくぅぅぅぅぅううううううううう!」

 

「わ、わかってますから騒がないでください!」

 

「んっ」

 

傷ついた不破を癒すのは厄神である鍵山雛であるのだが、癒しの魔法を使っても中々回復してくれない。

大声を張り上げて勘違いしそうになるが、たった一撃を喰らっただけで不破の肉体は壊されている。

これでは不破以上に肉体が脆い汚い忍者が攻撃を喰らってしまえば、どうなるか分かり切ってる事だ。

 

「忍者が一人、忍者が二人、ファイナル分身ッ!」

 

己の幻影を作り出す紙兵を手に取り、術を唱え上げていく。

単体の攻撃であるなら攻撃を完全に回避する幻術であり、鉄巨人のような動作の遅いタイプなら本来は圧勝のできる忍者の代名詞とも言うべき忍術。

 

「捕縄!呪縛!」

 

呪いの力を帯びた魔札が鉄巨人の甲冑に張り付き、動き止める効果のある特殊な縄が動きを抑えようとする。

しかし二つの弱体忍者は効果をまるで発揮せずに魔札が剥がれ、縄が千切れていく。

メディスンの魔法をことごとく無効化するほどに術に対する抵抗が高いのだ。

だが、まるで効果が無いというわけでもない。少なくとも相手の関心を汚い忍者に引き寄せる事に成功する。

 

「先手必勝!鬼哭ッ!」

 

『承知!』

 

右手に携えるのは伝説の武器である意志のある遺物。

ヴァナ・ディール最強の教導隊であるハイドラ戦隊が保有していたレリックの一つ。

鬼をも哭かせる切れ味を持ち、鬼哭の刀身から何処までも黒く染まる力が汚い忍者を覆うとする。

 

「汚忍流が最終奥義……生きとし生きる者は死に滅せよ!」

 

神話から語り継がれる武器には武技を繰り出す事によって、余波が生じる。

その余波は使い手の肉体を極限までに強化を施し、強化があるからこそ特別な武技の使用を許される。

 

「生者!」

 

繰り出す斬撃はわずか三回。

しかし三回で十分に過ぎる。三つの斬撃によって生まれた球体の闇が鉄巨人を食い破ろうとし、圧縮し始める。

その意味はただ一つ。消滅だ。

 

「必滅!!」

 

最後の一突きが闇を暴走させるかのように甲高い音が発生し、鉄巨人の甲冑を砕いた。

必滅の意味を込められた渾身の一撃だ。普通であればその時点で如何なる生命は活動を停止する。

しかし、砕けた部分は胴体の鎧であるほんの一部分に過ぎなかった。

 

「う、おぉぉぉ!?」

 

渾身の一撃、そのつもりで放った攻撃にも関わらず大したダメージにもなってない事に呆ける暇もない。

高い位置から振り下ろすのように鉄巨人の斬撃が反撃として襲い掛かる。

受け止めるのは無理だ。力はさほどあるとはいえない汚い忍者では簡単に叩き潰されて裏世界でひっそりと幕を閉じる事になる。

ならば回避。これが最善となる。動きは遅い。忍者でなくても容易に回避ができる。

だからこそ、後ろに下がった。

巨大な剣が地面を捲るような衝撃でもって叩きつけられるが汚い忍者には掠ってもいない。

 

「ぐ、おぉぉ!!」

 

「忍者ァ!」

 

空蝉をかけているにも関わらず、汚い忍者の肉体が切り刻まれた。まるで、巨大な剣になます切りされたように。

漆黒の忍者装束は赤い血によって染まり、パルスィは汚い忍者が一撃で瀕死となった姿に叫ぶ。

 

(ちくしょう……やっぱりこいつ、普通の攻撃が範囲になってやがる!)

 

理解のできるものであれば、相手の技を見るだけでコピーが可能な汚い忍者の眼ですら原理までは理解ができない。

それでも実際に食らってみて分かった。鉄巨人の攻撃はたった一回の攻撃に見えて、見えない位置からの多重の斬撃となっているのだ。

"空蝉の術"の弱点である、多段攻撃と範囲を織り交ぜた最悪の攻撃は、忍者の天敵としか言いようがない。

屈強な漢である不破ですら一撃で戦闘不能一歩手前まで追い込む攻撃に、汚い忍者は膝をつこうとする。

 

「おい……やめろ!何を――!」

 

鉄巨人の頭の部分が光った。

嫌な予感をした汚い忍者は叫ぶが、鉄巨人は行動をやめるはずがない。

頭から輝くような光線……ビームともレーザーとも取れる一撃が周囲を薙ぎ払った。

汚い忍者だけではなく、倒されたままの名も知らぬ妖怪や冒険者、そして後方に控えていた仲間達が消し飛ぶかのような攻撃に汚い忍者は宙を高く飛ばされてしまう。

 

「ばけ、ものが……」

 

強さだけなら陸の魔獣の中では王とも言うべきキングベヒーモスすら上回るかもしれない強さに悪態しか付けない。

正しい意味での怪物相手に汚い忍者の肉体は一発の斬撃とビームによって壊された。

動くことすら難しい身体を無理に動かし、薙ぎ倒された仲間を見る。

 

「うぉぉ、おおおお……」

 

「師範!師範!!」

 

馬鹿げた攻撃に対して不破の取った行動とは、己の肉体を盾にする事。

汚い忍者の最も嫌う、騎士と同じ行動を取った不破は、彼の背中にいた少女達を見事に護り通した。

だが、鍛え抜かれたはずの肉体は無残にも焼き焦げ、如何に凄い漢と言えども生死が関わるのは明白だ。

小さな少女が涙を浮かしながら不破を支えようとする。そんなものが無意味であると嘲笑うかのように。

なぜなら鉄巨人が彼らの目の前に立とうとしているからだ。剣を振り下ろそうとしているからだ。

嫉妬の少女が小さな刀を持つが意味は無い。厄神の少女が癒そうとも時間はない。

 

「また、俺は……!」

 

キングベヒーモスとの戦いと同じように、盾として護り切れずに終わるのか。

動かそうとしても身体が動かない。

目の前の無情な光景を打破できるのはたった一つしかない。

 

「俺の怒りが……」

 

普通ならきゅうきょ辿りつけない時に。

まるでヒーローのように駆け付けるように。

ピンチの時、誰もが望むようなメイン盾しか存在しない。

汚い忍者の嫌う、ご都合主義のようなふざけた騎士。

 

「有頂天になったッッ!!」

 

凄まじい轟音が鳴り響いた。

白い閃光と見間違えるほどの何かが巨大な鉄巨人を殴り飛ばしたのだ。

数mは軽く浮かせた鉄巨人は、そのまま地上に叩きつけられる暴風が襲い掛かる。

仰向けのまま地上に抑えられた甲冑の中心的にはくっきりと、拳の痕が残っていた。

 

「あややや……これはちょっと出遅れましたね」

 

「普通なら「来た!」「メイン盾来た!」と誰もが声を出して喜ぶところだろうがそのギャラリーすらいないとかちょとsYれにならんしょ……お前、ハイスラでぼこるわ……」

 

集落から休まずに妖怪の山へとやってきた文とブロントだった。

辺りを見回せば血塗れになって倒れる冒険者達、息をしているか怪しい妖怪達でいっぱいだ。

文の暴風を浴びながらもゆっくりと動こうとする鉄巨人に驚きを顔に染める。

 

「こいつ……!私の風を受けて動こうっての!?」

 

「あy!お前は負傷者を頼むんだが?俺はこの馬鹿をぼこる!」

 

「了解!無理をしないでくださいよ!」

 

これだけの人数を相手に一方的に蹂躙した鉄巨人に対して無理をするなという言葉は無意味だろうが、それでも文の激励の言葉にブロントは頷く。

そして文は鉄巨人が止まって見えるほどのスピードで動き周り、次々と負傷者をかき集める。

冒険者はともかく、妖怪ならこの程度の傷で死なない事は同じ妖怪である文がよく知っている。

 

「……あんたら、忍者の……そうか、先に行ってた冒険者ってあんたらの事だったのね」

 

「ぐす……しはぁん……」

 

念のためにと文は集落から大量の薬品を持ち歩いている。

中には薬品だけでは治療を追い付かない者もいるが、死なないよりはマシだろう。

パルスィは泣き続けるメディスンを抱き締め、落ち着かせる。

 

「くそ……ブロントの野郎……」

 

「忍者さん、無理に動いちゃ駄目ですよ!」

 

「そうよ、今は敵味方言ってられない状況なの。今のあんたは黙って見ておきなさい」

 

一番の重傷と言えるのは師範、そして汚い忍者であった。

文に回収されて雛に治療される一方で、鉄巨人を相手に真っ向から戦うブロントに尊敬と憎しみしか抱けない。

なんであいつがあそこまで戦えるのか。なんで俺は無様に倒れているのか。

ただ、それだけの考えが支配し、文の言葉すら耳に入らない。

 

「お前、俺のいない間に調子ぶっこきすぎたようだな。俺のようなナイトは謙虚で心優しいが恥知らずな行いには鬼の力が目覚めてお前の寿命はEXバーストでマッハになる」

 

暴食の魔剣であるグラットンソードを片手に、全てを守り通す誓いを込められた蒼き盾を左腕に、ナイトらしい格好をしながらもその戦い方はナイトではない。

怒りが有頂天となったブロントのやることはただ攻めるのみ。

"グラットンスフィウト"による斬撃が鉄甲冑である事を無視するように砕き、"メガトンパンチ"は不破が与えた以上の衝撃で持って巨体の鉄巨人を浮かし、間隔が長いので遠くまで届く突きが足の膝を砕いた。

反撃を許さない猛攻に鉄巨人は何もできず、全てのエネルギーを頭に集めようとする。汚い忍者達を薙ぎ払った閃光の一撃だ。

 

「たまに来る危ない攻撃もほう、と受け止める」

 

薙ぎ払うのではなく、一点集中によって集められたビームをブロントを狙うが、その攻撃を完全に受け止める。

魔術に対する耐性を得る"ランパード"、そして神の加護によって無敵になれる"インビンシブル"。

二つの防護壁によって護られたブロントは如何なる攻撃すら通用しない。

事実、ビームが放たれてから急に無防備になったブロントに巨大剣で斬りかかろうとしても、傷一つ与えられないのだ。

そしてブロントはただ棒立ちになっているわけでもない。

グラットンが汲み上げる。己の心の闇を一心に汲み上げる。

その力は闇となり、光のナイトでありながら闇の力をも使いこなすブロントの技の一つで代名詞とも言うべき力を解放する。

 

「ダァァァァァクッ!パワァァァァァア!!」

 

レリックである必滅の闇を生みだす鬼哭よりも更に深い闇。

幻想郷中に異変へと導いた事もある"ダークパワー"が鉄巨人をバラバラに打ち砕いた!

鉄屑の残骸となりながらも、ブロントの眼には敵を倒した事による安心感はまるでない。

 

「あっ!逃げる!?」

 

瀕死の状態から目を覚ました冒険者が指しながら叫んだ。

残骸となった鉄屑から、角の生えた頭が飛び上がったのだ。残骸となった身体を捨て、本体である頭だけでも逃げようとする算段なのだろう。

 

「逃がさねぇぜ」

 

それすらも、ブロントは読んでいた。

空中高く飛び上がろうとするよりも早く、更に高く跳んでいるのはブロントだった。

 

「上がるのではなく上がってしまうのがナイト」

 

グラットンの刃が、鉄巨人の頭を真っ二つに斬った。

ブロントが着地すると同時に鉄巨人の残骸は最初から無かったかのように消えていく。

アビセアンを倒した時と同じ現象によって、ようやくブロントは安堵の息を吐く。

倒したと思ったらアビセアンは肉体が消滅するまで油断はできない。だからこそ、彼は"ダークパワー"で鉄巨人を粉砕しても油断はしなかったのだ。

 

「助かりましたよ、ブロントさん。まさかお一人で倒してしまうとは」

 

「いあ、こいつは元から弱ってたみたいだな。最初に戦ってた奴がいなかったらもっと苦戦してたかもしれにぃ」

 

巨人の鉄甲冑は怒りが有頂天となったブロントでも崩すのは難しい。

砕きやすかったのも、ブロントが来る前に戦っていた者がある程度の劣化をしていたからだと言う。

その謙虚な言い方に文は謙虚だなー憧れちゃうなーとお約束な事を言いながらも、傷が完治した汚い忍者が起き上がる。

 

「おい、ブロント……てめぇ、人の獲物に何手を出してるんだよ……」

 

「は?お前もしかしても分かってる事だが馬鹿ですか?アワレにも忍者が盾の役目を果たせず転がってた奴が何を言っても犬の遠吠え状態」

 

「うるせぇ!お前が、お前がいなくても俺はやれたんだよ!」

 

「ちょっと、忍者!何を言ってるのよ!」

 

汚い忍者の突然の粘着ぶりにパルスイはさすがに止めようとするが、汚い忍者はそんな事は知った事ではない。

 

「お前はいつもいつも……時代遅れの肉盾の分際で!なんでだよ!忍者のほうが優れてるってのに!なんでお前は!」

 

「どうやらこの戦いで忍者の頭がより可哀想な不具合が発生しているらしい。医者を呼べ医者を。黄色い医者でいい」

 

ブロントからすれば汚い忍者の粘着はいつもの事であり、彼はその粘着に対してまるで相手をしない。

当然だ。

至高のナイトである彼からすれば、空蝉をいう汚い術以前に汚い輩に成り下がった者をいちいち相手にする暇なんてありはしない。

その事に汚い忍者は酷く腹が立ってしまう。

理屈ではない。効率でもない。

ただ汚い忍者という一人の男は、ブロントという一人の男に対してどうしようもない憎しみがあるだけなのだ。

 

「馬鹿にしやがって……もういい、ここで決着を付けてやる」

 

「状況を考えられない馬鹿はもういい黙ってろ馬鹿が移る。そんなに戦いなら戦ってろ夢の中でな」

 

ブロントは剣を抜き、汚い忍者は刀を抜く。

何処まで行っても話の並行性にしかならない二人の出来る事は、戦う意外に存在しない。

 

「ブロントさん!汚い忍者まで!こんな事してる暇なんてないのよ!?」

 

「と、止めないと!」

 

さすがに今の状況で戦うのは本当に無駄にしかならない。

文と雛は止めるように動くが、それを遮ったのは不破であった。

 

「待て」

 

「あんたは……!どきなさいよ!」

 

「ならん。ブロント殿はともかくとして、今の忍者は正気を失っている。頭を冷やすのであればこちらのほうが良い」

 

まだ傷が完全に癒し切っていないのにも関わらず、不破は文達を止めようとしている。

叫び声ばかりで煩い漢だと思われがちだが、その中身は状況をキチンを見極める事のできる大人のはずだ。

なぜ、ブロントと汚い忍者の戦いを真っ先止めるはずの漢が動かないのか。

 

「不器用な漢達よ。言葉を解する事もできるというに、分かり合う手段はたった一つ。己の力を誇示する事だけ。それは獣とどれほどの差があるだろうか。

だが、この場には負傷者も多くいる。もしも戦うのであれば山の外で戦え」

 

「……ちっ、場所を移すぞ、ブロント」

 

「お前に言われなくても分かっているんだが?謙虚なナイトは病院では騒がないからな」

 

まだ治療を受けて意識を取り戻さない者が多くいる中で戦われると迷惑だと言う不破に対し、汚い忍者とブロントは山の外を向かって行く。

心配そうに背中を見つめる雛、理解が追い付かないメディスン、納得のいかなさそうな顔をするパルスィと文。

普通の人であれば理解のできない男達を理解できたのは、凄い漢ただ一人だった。

 

「気に入らねぇ気に入らねぇと思ってたが今回ばかりはマジだぜ……絶対にてめぇを倒す!」

 

「雑魚が何を言おうとしても雑魚は雑魚。大人しく念仏でも唱えてクソして寝てろ(リアルファイト話」

 

幻想郷という舞台に移す前から、二人はいがみ合っていたばかりだった。

片方がナイトこそが最強だと証明し、もう片方は忍者こそが新しい盾であると証明する。

時代はどの盾も求めている。

仲間を護り通せるのであれば、ナイトであっても忍者であっても求められる。

 

「肉盾がッ!さっさと忍者をメイン盾に譲りやがれ!」

 

「譲るんじゃない譲ってしまうのがナイト。そして譲れないという事は忍者はメイン盾に相応しくないという事が証明されたな」

 

だが、彼らの仲間を選んだのはナイトであった。

別に、仲間達は汚い忍者そのものが見放したわけではない。

汚い忍者とて最初から汚かったわけではない。ブロントと共に数多の困難だって挑んできた。

しかし汚い忍者は護れなかったのだ。そしてアワレにも仲間を護れずに崩れる中、護り通したのはブロントであった。

 

「わけのわからねぇ事をほざきやがって!そぉら、どうしたウドの大木さんよぉ!ノロマにも程があるぜ!」

 

「汚いなさすが忍者きたない!空蝉も汚いがヒュンヒュン虫のように動くお前の存在自体が汚い!」

 

「汚いは……褒め言葉だ!」

 

汚い忍者自身も分かっている。

これは自己満足だ。自分勝手の、自慰にすらない我儘な行いなのだ。

護れない自分が憎かった。護れるブロントが羨ましかった。かつての仲間達の同情が苦しかった。ブロントを称賛する全てに嫉妬した。

それを分かっているからこそ、汚い事を進んでやるようになった。そうでもして、ブロントのようなメイン盾になりたかった。

 

「ハイスラァ!」

 

「迅!」

 

だからこそ、ブロントもまた汚い忍者を汚いと罵った。

空蝉は確かに大嫌いだが、それでも過去に仲間であった頃の汚い忍者は謙虚だったのを知っているから。

盾としての誇りを忘れ、ただメイン盾としての位置を求める馬鹿には、ブロントは呆れしかなかったのだ。

 

「メガトンパンチ!」

 

「ごふっ!」

 

何十と、何百と。

剣と剣との打ち合いの果て。

何十と、何百と。

魔法と忍術の打ち合いの果て。

大木に叩きつけられ、敗北をしたのは汚い忍者であった。

空蝉を切らした所に渾身の一撃を食らわせられ、ピクリとも動かない。

見下すのでもなく、勝利の余韻にも浸るわけでもなく。

ただ、悲しげな表情を少しばかり浮かべて、ブロントはアビセアンを狩るために妖怪の山へと向かった。

 

「目を覚ましたか、忍者よ」

 

「ぐっ……不、破か……」

 

何処にいたのか、気配でも隠していたのか。

不破は動かない汚い忍者に傷を癒すポーションをかける。

意識が途切れ途切れになりそうだながらも、汚い忍者は目を覚ます。

 

「……腹正しい事に、あいつの拳で目が覚めたよ、糞ったれ」

 

「このたわけが」

 

先程までの汚い忍者と違い、意気消沈としている。

憑き物が晴れたように声が少しばかり穏やかになっていた。

汚い忍者はブロントに対して相当な恨みを持っている。ただの逆恨みと思うなかれ。

そうした恨み妬みこそが汚い忍者という男を支える力でもあるのだ。

時折、こうした暴走をしないためにガス抜きに近い状態でブロントに事あるごとに粘着しないといけない。

しかしアビセアンが蔓延るようになってからそうしたガス抜きが無くなり、恨みが溜まって爆発したのだ。

 

「水橋達はどうした?」

 

「あやつらは山の避難所に戻った。拙が護ったとはいえ、忍具の消費、そして雛の消費もある」

 

不破と汚い忍者以外の仲間達は山の避難所に向かったらしい。

妖怪とはいえ、戦い続ける事はできやしない。休憩を挟まなければ何処かで倒れてしまうのは明白だ。

 

「そうかい……ちっ、今回ばかりはあの馬鹿のお蔭で分かった事があるだけでも収穫はあったか……」

 

「収穫だと?」

 

「こいつだよ」

 

因縁のある騎士に負けたのにも関わらず、汚い忍者は収穫はあったと言う。

それは、彼の愛用する片手刀……秋水だ。

美しい刃をしながらも、刃こぼれ一つとて存在しない名刀。

鬼哭と並んで幻想郷に来てから使い続けた汚い忍者の武器だ。

 

「ブロントの野郎と戦って分かった……もうこいつは俺の強さについていけねぇ……」

 

優れた忍者であっても愛用するほどの秋水は、それ以上の刀を探しても中々見つかるモノではない。

それでも汚い忍者がついていけないと言うのはごく単純な事。汚い忍者の実力が伸びた事で秋水では力不足になっているのだ。

 

「鬼哭ならまだいい。仮にもレリックだからな……だがこいつは……」

 

本来であれば今の実力に合った武器に替えるのが一番なのだが、秋水以上の武器を探しても簡単に見つかるはずがない。

仮にもハイドラと呼ばれる怪物、その顎の牙から研いだ名刀。

これ以上の武器を欲するのであれば、それこそ鬼哭に並ぶような刀を探さなければならない。

 

「……忍者、暫しの間待て。一刻ほどで戻る」

 

「あ?」

 

「んんんんんん!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

汚い忍者の答えを聞かずに不破は両腕を水平にしながらぐるぐると回りながら空に飛ぶ。

常識外の空中の飛び方によって不破は大声のエコーを残しながら空高く消えていった。まだ傷が深いにも関わらず、オトコプターで空を飛ぶ・・・・凄い漢だ。

一時間もやる事はほとんどなく、精々身体を休める程度である。アビセアンに襲われる事もなく時間は過ぎる。

 

そして約束通り、一時間ほどで大声を張り上げながら空中回転して戻る凄い漢。

着地をすると同時に大声が鳴り止み、右手には刀を納められた鞘を持っていた。

 

「忍者よ、この刀を貴公に貸してやろう」

 

「……ああ?」

 

なぜか渡された刀を受け取り、鞘を抜く。

その刀身を見て汚い忍者は絶句した。

波紋のある美しき刀身に、鋭い切れ味が容易に予測できる刃。

こまめに手入れをされているからこそ、このような光景を作り出す事のできる。

誰が打ったか分からない。素材も分かるはずがない。

だが、間違いなく言える事は秋水を超えるかもしれない業物という事。

 

「おま……いったい何処でこれを……本当にいいのか?こんなのくれてよ」

 

「このたわけが。貸すだけと言っただろう。事が終わり次第に拙に返して貰うぞ」

 

不破という漢は何かと謎が多い。

忍者という職にありながらもまるで自分を隠そうとしない姿に、忍術のにの字も使わない白兵戦重視。

そして彼が忍具を持っていても使う事もほとんど無かった。もっぱら己の拳と雄叫びだけである。

この刀もその一つなのだろう。不破が持っていた、使わずにいた道具の一つ。

見れば見る程に素晴らしい刀だ。しっくりと来る馴染み深さに汚い忍者の頬が上がってしまう。

 

「くくく、こいつはいい刀じゃねぇか。ありがたく貰っておくぜ、不破」

 

「わからんのか。そういえば残った秋水はどうする」

 

「ああ……水橋辺りに貸しておくか。そうなりゃ無駄にならねぇし、効率もいい」

 

ようやくいつもの汚い忍者に戻った事に、不破は気難しい顔をしながらも安堵の息を吐く。

ブロントの事が関わると効率を度外視にして危険な動きをするが、こうなれば極端な危険に首を突っ込む事もあるまい。

 

「ちっ、まだアビセアンがいるってことは爺の依頼は続いてるって事だよな……ブロントの野郎に負けてたまるか!行くぞ、不破ァ!」

 

「わかったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「だからいきなり大声出すんじゃねぇよ!!」

 

「んっ」

 

マートからの依頼はどれだけのアビセアンを倒せたかによる歩合制だ。

今頃ブロントは破竹の勢いでアビセアンを薙ぎ倒しているだろう。それに負けじと汚い忍者と不破も妖怪の山へと戻っていく。

未知なる敵であるアビセアンの脅威に晒された幻想郷は、ゆっくりと崩壊の道を辿っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方幻想鉄~プロマシアの幻影~

第⑨章「天地の終わり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古代ジラート人の作り上げたとされる空中都市。

それは真世界の扉を開き、真世界に行くために建造された古代人の持つ技術の結晶だ。

一万年の時が流れても都市は今も尚、空高くに浮かんでいる。

空島とも言われる都市の名はトゥー・リア。

かつて、世界の存続をかけて冒険者達と古代人の兄弟と決着を付けた場所だ。

 

その場所に向かうべく、十四の者達が深い森の中を歩いている。

ミンダルシア大陸の北東に位置するリ・テロア地方。

そこは荒廃した大地の多いミンダルシアの中で、例外として多くの木々が巨木として成長する場所だ。

全体的に針葉樹林として繁茂している。

その中でもヴァナ・ディールの人々が神域として信じられた針葉樹林が聖地ジ・タである。

深い森の先にあるとされる白亜の遺跡。古来から女神巡礼の総本山と伝えられるロ・メーヴへの巡礼者以外に立ち寄る事は少ない。

巡礼者以外で言うのなら、樹齢数万年とも説のあるボヤーダ樹に冒険しに行く冒険者ぐらいなものだろう。

 

そして彼らの行く先はロ・メーヴだ。

目的は空に浮かぶ島、トゥー・リアへと行くためである。

 

「しかし空に浮かぶ島か……にわかに信じがたいな」

 

フルフェイスの仮面を被るミスラの竜騎士マグは呟く。

古代人の技術を見ているとはいえ、それでも一万の時が流れているのも関わらず、何の支障も無しに動き続けるのは常識外れだ。

しかしこれまでにも多くの常識外れを見ているために、全ての全てが信じられないというわけでもないのだが。

 

「まー、事実は事実だ。ロ・メーヴの奥地……神々の間の先に行けば分かるはずだぜ」

 

その道を知る者であるジャルベリンは確かにそう答えた。

彼は過去、古代人との決着を付けた冒険者の一人だ。彼がそう言うのなら、それが真実なのだろう。

 

「でも……なんで紫の隙間が使えなかったのかしらね……」

 

一人だけ悩むように歩くのは博麗霊夢であり、一つの疑問が浮かんでいた。

紫の隙間移動は知っている場所にしか移動できないとはいえ、それでもロ・メーヴの場所までは掴んでいる。

それならわざわざ森林地帯であるジ・タから行く必要はないのだが、ロ・メーヴから何かに遮られたように行けないのだ。

何かが壁となって邪魔をしている。八雲紫はそう言った。

 

「空か……これはもしかすると、だな……」

 

「くぅー?」

 

まだ昼を幾らか過ぎた辺りだと言うのに、空を覆い隠すような木々の緑によって薄暗く感じる。

その空を睨むように見るナズーリン。

隣に浮いている飛竜クビラは疑問を浮かべるような顔をしていた。

 

「ところでおっさん!おっさんってブロントさんの仲間だったんだろ?なんか武勇伝とかないのか?」

 

「こんな暗い場所じゃ気分も落ち込んじまうからな!俺も頼むぜ!」

 

ジャルベインをおっさん呼ばわりする霧雨魔理沙とプリッシュは、場が重苦しい状況を一変させようと話を振る。

 

「プリッシュならブロントさんの事ぐらいよく知ってるだろうに。まぁいいぜ。ちょいとばかり昔話になっちまうがな」

 

ジ・タは広大な森林だけあってか、魔物も数多く生息する。

しかしながらも獣人や獰猛な獣を除いて基本的に大人しいものばかりだ。

こうした世間話をするぐらいの余裕はある。

 

「んで、船に乗ってはしゃいでたのも束の間よ!シーホラーに襲われちまって俺もブロントさんもリーダーも!みーんなボッコボコにされちまってな!死なないだけでも良かったけど清々しいぐらいに負けちまったぜ」

 

「……よく生きてたな」

 

まだ彼らが一級廃人ではなく、初心者冒険者と言われていた話だった。

当時は貴重であった銅製の装備に身を包み、時には大羊に追われながらも世界をただ楽しんで冒険をする日々。

冒険をする度にまた一人、また一人と仲間が増えていった。

ジャルベリンがブロントと組んだ時にはすでに何名かの者と組んでいたらしい。

 

「ピンチだったのはダボイだなぁ……何せオークどもに囲まれて全滅一歩手前まで行っちまったからな」

 

ブロントの祖国であるサンドリアからの依頼を受け、獣人オークの基地へと向かった時の話。

水晶大戦からの残党が多く残っている基地だけあってか、オークの強さは一体一体が歴戦の戦士だ。

任務の場所に向かう途中にオークに襲われてしまい、撃退したかと思えば何十の数に囲まれて返り討ちにあったのだ。

 

「へぇ、ブロントさんもそんな時があったんだな」

 

「当たり前だぜ、プリッシュ。人間なんて誰も最初から強くないんだ。あの頃の俺らは負ける時は負けるし、ノブオの奴も忍者じゃなかったしな」

 

この場にいる者は全て、ブロントの事を知っている。

その中でも過去の事を知っている者は極少数と言えるだろう。

ブロントという冒険者が世界に知られる前から知っているのはライオン、そしてアルドぐらいなものだ。

それ以外の者は皆、謙虚なナイトというブロントの事しか知らない。

いったいどれだけの時が流れただろうか。

ただ北の方角を歩いて行き目的の場所に行こうとするが、広大な森林であるジ・タから目的地までの距離は相当なものだ。

チョコボで行っても数日はかかるだろう距離に、徒歩で行くには更に時間がかかる。

 

「あとどのぐらいの時間が残されているかしらね……」

 

「さてな。だが、イブノイルが焦っているようにも見えた。霊獣の言葉も正しければ、もはや余裕はあるまい」

 

夜中になって休憩として寝静まる中、ライオンとアルドは火の番をしている。

ライオンがイブノイルという過去の人物になった事は覚えていないため、イブノイルという名前を言われてもピンと来ない。

しかし、紫から伝えられた霊獣の言葉。いったいどれだけの時間の猶予があるかは分からなかった。

 

そして休憩を終えて朝を迎えると出発する。

入り組んだ天然の迷路のようにも感じる聖地ジ・タ。案内役のジャルベインがいなければ間違いなく迷っていただろう。

数日の徒歩の末に、ようやく門らしきものを発見する。

緑ばかりで緑に慣れ過ぎた目で、久しぶりに見る事となる白色だった。

 

「お、おぉぉ……」

 

門を潜り、その先にある光景は白い壁に囲まれた神域だった。

まっすぐと北に延びる緩やかな階段の先に見える本殿。その塔の先端がかすかに見え隠れてしている。

この地を巡礼の総本山はよく分かる。

ひんがしの忍者であり、獣人であるゲッショーですらその白亜の美しさに見惚れている。

 

「……今日は……」

 

ジャルベインが空を見上げる。

すでに時刻は夜。暗い空から地上を照らすのは月と星達だ。

 

「満月じゃないか……遠回りになるな」

 

「満月だと何かあるの?」

 

今宵の月はほんの少しの三日月を作り出す程度。

満月とは程遠く、半月の時間は必要とするだろう。

 

「満月の時であれば目の前に見える階段の道が創られるんだがな。しかたねぇ、遠回りするからユカリさん、頼むぜ」

 

「分かりましたわ」

 

鈴仙の問いにジャルベルンは答える。

ロ・メーヴの門を超え、すぐ先にある階段は途中で大きな空洞が存在している。

普通では行く事のなき道なのだが、満月の日だけ。その階段に道が出来る。

逆に満月ではない日に行けば道はなく、遠回りに行く必要があるのだ。

紫はジャルベリンの言おうとしている事を理解し、彼らの境界を操作する。それによって足音が完全に消え、消音となった。

 

ロ・メーヴに生息する魔物のほとんどが、悪霊の宿った剣であるエビルウェポンや遺跡を守護するドールなどが大半だ。

それらは魔法による"魔力"、そして音によって反応する。

視認して襲い掛かる巨像もいるとはいえ、それは視覚に入らなければ問題無い。

暗い時間でありながらも、白い壁が月のように淡く光っているロ・メーヴは明るさに困らなかった。

 

入り組んだような道に見え、その実は単純な作りになっている。

東西から回り込むように行き、声を出さずにエビルウェポン、ドールの群れをかわしながら先に進んで行く。

声を出せば辺りにいるであろう全ての魔物から襲われるために息すら押し殺す。

静寂した、ドールがたまに動き出す事で稼働する音以外に響く事もない。

ナズーリンは飛竜を己の心の中に送還させ、飛竜の羽ばたきで音を出さないようにしている。

 

一時間ほど歩いただろうか。

横幅にすれば二十歩はあるだろう巨大な通路を北に向かって歩いて行くと長い階段が見えてきた。

一段一段、しっかりと歩いて行く。

緊張もあってかここまで休まずに歩いたために、体力が欠けている魔理沙は少しばかり息切れだ。

十分ほども階段を上り続け、足がパンパンになる。休みたいがそうも言ってられない。

素早く塔の内部に入る事で、ようやく一息付く事ができた。

 

「つ、疲れた……」

 

「少し休憩しましょう……やれやれ、年寄りにはきついものです」

 

塔の内部は安全である事を事前に聞いていたため、座りこんで足を揉んでゆく魔理沙。

ルーヴランスもまた、息は切れてはいないものの何処か疲れた表情を浮かべている。

少しばかりの休憩を得て塔の内部深くに入っていく。

天井から差し込む月光と星の光、それは列柱の間に延びる階段をやわらかく照らしていた。

短い階段を上り終え、クリスタルが埋め込まれている門を潜る。

そこから、空気が変わったようにも感じた。

一歩一歩、歩いて行き、広間に近付く。

そのまま広間を進んだ者達は、誰もが息を呑んだ。

 

「……神よ……」

 

「お……、お……」

 

エルヴァーンであるルーヴランス、そしてジャボスですらその光景には女神に祈らずにいられない。

王都の大聖堂にすら存在しないだろう、巨大な女神アルタナの像が迎えてくれるかのように両手と翼を広げていた。

なるほど、この地を最初に誰が見て伝えたのかは分からないが、それでもこの地が女神を信仰する場所であるなら巡礼の地としてこれ以上のものはあるまい。

女神とその地の威容に圧倒されながらも、先に進んで行く時、アルドはふと違和感を感じて後ろに振り返った。

 

「……馬鹿な!」

 

静寂した広間の中、アルドの声が高らかに響く。

何事かと振り返ると、ジャルベリンとライオンも驚いたような顔をした。

 

「……どうしたんだよ、アルド」

 

「……プロマシアの像がない」

 

プリッシュは神々の間に来るのは初めてだったために、アルドの声で美しい神の場をブチ壊れたと思ってアルドに問う。

神々の間には八つの名も無き神の像と女神アルタナ、そして対となる男神プロマシアの像があるはずだった。

アルタナの見つめる先にあるはずの、鎖と拘束具で自由を奪われた男神の像。

引き千切られたような鎖だけを残し、綺麗に像が消失していた。

 

「ナグモラーダか?」

 

「考えられるとしたら、それだけだろう」

 

ジャルベリンがすぐに思い浮かんだのは、今回の異変の黒幕。

アルドも肯定する。何に使うかは分からないが、プロマシアの像を持ちだすような事をするのはトゥー・リアに待ち構える者しかいない。

 

「行きましょう。……何か、嫌な予感がします」

 

霊夢の一声に皆が傾く。

祭壇を超え、閉ざされた門に辿りつく。

接合部分が見当たらず、どうやって開けばいいか見当もつかない。

しかし霊夢が門に近付いた瞬間、突如として胸元が光る。

 

「え、な、何!?」

 

それは七色の輝きを持ったクリスタルだった。

クリスタルの輝きに反応して閉ざされた門が消滅し、道が開かれる。

イブノイルの言っていた「道が開かれる」とはこういう事なのだろう。

更なる先へと進むと、巨大な魔法陣が構成された部屋へと辿りつく。

 

「移送の魔法陣だ……」

 

「そうだ、あれに乗ればトゥー・リアに行ける」

 

魔理沙が呟くと同時にアルドは魔法陣に乗り、移送される。

慌てて魔理沙も魔法陣に乗ると、強大な"魔力"が魔理沙を包み、移送した。

移送魔法特有の吐き気は不思議となかった。

気付けば、真っ白な壁と、下を見ればガラスのような透明な床がある部屋にいた。

 

「どわぁ!?」

 

初めは分からなかったが、気付いて魔理沙は飛び上がるように箒に跨って空を飛んだ。

床の先には白いもやのようなものがあり、それは青い空を彩るはずの雲であった。

そう、床の下は高い高い空。

今いる場所こそ、古代人の空中都市なのだ。

 

「はっはっは!びびってんじゃねぇぞ!これからだ、これから!」

 

ジャルベリンが透明な床を踏みこむと水の波紋にように床が紋様として浮かびあがり、煌めく。

キラキラと輝く光景に目を奪われそうになるが、先に進もうとしているため箒に跨りながら後を着いて行く。

長い廊下状の道を抜け、外へと出る。

 

「うおおおおおおおおおおおお!なんじゃこりゃああああああああああ!!」

 

プリッシュが叫ぶのも無理はない。

眼前に広がるのは広大な空。

空に浮かぶ空中都市トゥー・リアが生み出す光景に、プリッシュは興奮する事をやめない。

 

「プリッシュ、少しは落ち着きなさい!」

 

「これが落ち着いていられるかよ、ウルミア!すっげー!いったいどうすればこんなもんが作れるんだ!?」

 

ウルミアに叱られながらも、プリッシュは落ち着く事はない。

魔理沙もまた、その光景に言葉を失う。

白亜の遺跡という意味ではロ・メーヴ、そしてクフィム島にそびえ立つデルクフの塔が存在する。

それと同等の素材で作られているであろう、空中都市にはロ・メーヴにはなかったはずの植物が生い茂り、遠くを見れば鳥などの生態系が出来ているのが確認できる。

 

「くーっ!惜しい、惜しいぜ!異変でもなければピクニックにでも良いと思う場所なんだがなぁ!」

 

「確かに、ね……」

 

プリッシュの言葉には霊夢も賛成する。

空に浮かぶ遺跡は一万年の時を経っても稼働し続けている。

今が夜であるのが残念なぐらいだ。朝になればぽかぽかとした陽気で気分もいいだろう。

 

「だが、楽しんでいる暇は無いぞ、プリッシュ」

 

「ああ、分かってるさ!行くぜ!俺に続け!」

 

道など知らないはずなのに突っ走るプリッシュに、慌てて他の者もついて行こうとする。

少しばかり会わない内に少しは成長しているかと思ったら、中身は子供のままであったとマグは仮面の中で苦笑した。

慌てて道を知っているアルド達がプリッシュを落ち着かせると、ナグモラーダがいるだろう場所へと向かう事にする。

もしもトゥー・リアで拠点をするのならばただ一つ。

人工の巨大クリスタルが鎮座されている宿星の座。

理由などない。ただ、長年の冒険者としての勘がそこであるとジャルベリンを告げていた。

 

トゥー・リアはその運用上、大量のドールが配備されている。

今でも動き続ける古代都市でも言える事だが、ほぼノーメンテナンスで一万年も稼働し続ける人形はいったいどのような技術で作られているのか見当もつかない。

過去に見てきたドールとは違い、この地のドールは侵入者が近くにいると勝手に襲い掛かってくる。

幸い、ドールは壁に埋まった場所から動く事もないため、刺激をしなければ危険もない。

好奇心に駆られて近付こうとするプリッシュがいたが、全力でアルドとジャルベリンが止めた。

 

トゥー・リア内の構造はこれまた迷宮のように入り組んでいる。

仮にも真世界に行くための都市とはいえ、侵入者対策にしても造った本人ですら迷いかねないだろう構造に霊夢の頭はパンクしそうになる。

道を知るジャルベリンやアルドですら時折立ち止まり、ここで合っているか、間違っているかを確認するほどだ。

道中にはロ・メーヴにもいた悪霊が蠢いている。真世界に行く事のできなかった古代人の成れの果てなのか。今となっては知る事はできない。

遺跡に残された転移装置を駆使しながらも確かに奥へと進んで行く。

そして、ようやく大きな通路へと出る事が出来た。

 

「この先だ。この先に、きっと奴はいる」

 

「そうか……決着、付けに行こうぜ」

 

アルドの示す方向には巨大な門があった。

あの先こそトゥー・リアの核でもある巨大なクリスタルが眠る場所。

もしもナグモラーダがいるとすればそこにいる。

プリッシュは拳を鳴らしながら門へと近づいて行く。

巨大門の先へと先に進んで行き、暫く長い通路が続いて行く。

そして、通路を終えた先は巨大な広間へと繋がった。

その奥にあるのはジラート文明によって作られた、母なるクリスタルを模した巨大な人工クリスタル。

各地に存在する砕けた母なるクリスタルからクリスタルラインを通ってエネルギーを吸収するための装置。

 

そのクリスタルの前に、プリッシュのよく知る男が立っていた。

ジュノのアルタマー機関が着る黒衣の服装に身を包み、金色の髪を前から後ろに整えた髪型をしている。

プリッシュ達を来たのを察するかのように振り返る。

何も、変わっていない。プリッシュ達が最後の戦いで倒した時と、まったく変わらない男がいた。

 

「……お前達か」

 

「よぉ、ナグモラーダ。久しぶりじゃねぇか」

 

まるで古い知り合いに出会ったように挨拶をするプリッシュであるが、ナグモラーダの反応は薄い。

まるで、最初から興味などないように。

 

「聞かせて貰うぜ。今回の異変……虚ろの原因はお前だな」

 

「そうだ」

 

「や、やけに素直じゃねぇか」

 

ナグモラーダの性格を熟知している彼女にとって、すぐに返答を来るとは思いもしなかったようだ。

古代人の生き残りでありながら、クリューという心の読めない劣等種族に近い烙印を押されながら生きてきた彼はコンプレックスの塊だ。

つまり、一言で言えば素直ではないのだ。何かを質問してすぐに答えるような人物ではない。

 

「別に構わんさ……ふっ、どうやら私を生かした幻想郷の住民もいらっしゃるようだ」

 

「お前が何を考えてるのかわからねぇよ……でもな、こんな異変を起こしやがった!お前も知ったはずだ!男神の真実を触れたなら、男神を復活させようなんて思わねーはずだ!」

 

「男神を蘇らすだと?馬鹿を言え……私は男神を蘇らすつもりなどない」

 

ナグモラーダとて、過去に男神と融合してしまったために男神の真実を触れている。

それはヴァナ・ディールの人間全てがプロマシアを分けた器であり、このヴァナ・ディールという世界そのものが神の世界、真世界であった事を。

それを知りながら男神を蘇らすだか力を得るだか知らないが、その危険を孕んだ事をしようとしている彼の思惑に辿りつけない。

 

「じゃあ、あんたはプロマシアの力を手にしたいのか?」

 

「それも違うな、幻想郷のお嬢さん。私が欲しいのは男神の力ではない。男神の器だ」

 

魔理沙の問いにナグモラーダは意外な答えとした。

器……つまり、彼が欲するのはプロマシアを復活させる器。

「世界の終わりに来たる者」なのか。

 

「御託は良いわよ。私はあんたが何を考えて何をしようとしてるなんてまるで興味はないわ。ここは幻想郷じゃないけど、幻想郷に関わる異変なら博麗の巫女である私と……」

 

「幻想郷に危機を呼ぼうとしている者には遠慮はいりませんわね。同じく幻想郷の管理者、八雲紫があなたの幻想ごと消し去って見せましょう」

 

ナグモラーダが何を考えているのかは分からないが、この二人にはどうでもいいことだ。

特に紫は殺意を込めた視線をナグモラーダに叩きつける。

気の弱い者であればこの殺気だけで果ててしまうだろう。

 

「……幻想か。なら、お前達は私が生み出す幻想を相手にするがいい。もうまもなく、必要な『虚ろ』が集め終わる」

 

煌めく光がナグモラーダの右手に集い、それはだんだんと形が造られていく。

光は塔のようなオブジェを構成していき、それを見たナズーリンは驚いた。

 

「それは……!宝塔だと!?いったい何処で!」

 

「感謝しているぞ、幻想郷には。私を生かすだけではなく、このようなものを授けてくれたのだからな」

 

宝塔の輝きが増していき、それに呼応するように人工クリスタルが沸騰するかのような現象が起きる。

そして、人工クリスタルから五つの闇色のクリスタルが生まれる。

それぞれが人間と同じ程度の大きさを持ち、ナグモラーダの前に降り立つ。

 

「さぁ、今一度目覚めるがいい。この世が終わりを迎えた時にこそ現れる、伝説の勇者達!」

 

声が聞こえた。

感情も無く、造られただけの声が聞こえた。

不気味な声でありながらも、力が存在する声であり、何よりも異常なのは、ヴァナ・ディールの住民の魂そのものに呼びかける声。

 

「クリスタルの戦士よ!!」

 

――内なる「無知」が、おまえたちをうつろにする……

 

一つ目のクリスタルが砕け、砕けた破片が無知を象徴するかのようなヒュームの形を作りだす。

 

――内なる「怯懦」が、おまえたちを押しつぶす……

 

二つ目のクリスタルが砕け、砕けた破片が怯懦を象徴するかのようなタルタルの形を作りだす。

 

――内なる「驕慢」が、おまえたちを腐らせる……

 

三つ目のクリスタルが砕け、砕けた破片が驕慢を象徴するかのようなエルヴァーンの形を作り出す。

 

――内なる「嫉妬」が、おまえたちをかじりとる……

 

四つ目のクリスタルが砕け、砕けた破片が嫉妬を象徴するかのようなミスラの形を作り出す。

 

――内なる「憎悪」が、おまえたちを焼きこがす……

 

五つ目のクリスタルが砕け、砕けた破片が憎悪を象徴するかのようなガルカの形を作り出す。

 

ヴァナ・ディールの五つの種族をそのまま象ったような存在でありながら、それは人間の持ち得るような気配をしていない。

真っ白な肌と真っ白な髪、漆黒に色塗られた武具と赤い瞳。

それはジラートの民が作り上げた最強の生物兵器。

五つの母なるクリスタルを媒体にして造り上げ、神の如き力を宿すクリスタルの落とし子。

ヴァナ・ディールの住民を象っているのも当然だ。

なぜなら五種族こそが、この者達……アークエンジェルを元にしているのだから。

 

「クリスタルの五戦士だと!?馬鹿な!それは俺達が破壊したはずだ!」

 

「言っただろう?幻想を、生み出すと!これは私の記憶を元にして創った、私だけのクリスタルの戦士だ!」

 

ジャルベリンはその光景を見て嘘としか思えなかった。

ブロントと始めとするジャルベリンの仲間達が、古代人の兄弟である兄の居場所である道を開くためにアークエンジェルと戦っている。

それにも関わらず、ナグモラーダは呼び寄せてしまった。

 

「行け、クリスタルの戦士よ!その力で持って目の前の奴らを黙らせろ!」

 

「来るぞ!あいつらの強さは計り知れない!油断するなッ!」

 

アークエンジェル達はそれぞれの武器を構え、一斉に襲い掛かってくる。

戦った事のあるジャルベリンだからこそ分かる相手の強さ。

神と同等とも言われる兵器の襲来に誰もが行動が一歩ほど遅れそうになる。

 

「灼熱の拳よ!」

 

そんな中、遅れずに行動するのは召喚士として目覚めた紫である。

杖を振ると同時に魔法陣が生まれ、その魔法陣から現れるのは半身を出した炎の王イフリート。

灼熱の炎を宿した拳を振り上げ、アークエンジェル達はその攻撃を分散するように回避する。

 

「分散して戦いなさい!あれは一斉に相手をすると分が悪すぎる!」

 

一目見れば分かる。

この中では相当な実力を持つはずの大妖怪ですらアークエンジェルの一体一体の強さは見抜けない。

母なるクリスタルから生み出した落とし子は伊達ではないのか、まともに戦おうとすれば不利なのは数が勝るはずのこちら側だ。

 

「なら手を貸すわ、ユカリさん」

 

「こいつにはリベンジの機会すら無かったからな……一気に払わせて貰う!」

 

「ふん、神か……どれほどのものか味あわせて貰おうか」

 

紫と敵対するのは驕慢の闇を宿すエルヴァーン。

身体付きを見れば女性である事が分かるものの、女性としての愛らしさもなければ可愛げもありはしない。

人間には持つ事すらできないだろう巨大な盾に、大剣を見間違えるほどの片手剣。

紫、アルド、ライオン、マグは驕慢の闇へと挑もうとする。

 

「……宝塔を奪い返したかったが、どうやら先に進ませてくれないみたいだね」

 

こっそりとナグモラーダの場所に向かおうとしたナズーリンの前に立つのは嫉妬の闇を宿すミスラ。

漆黒の鎧から垣間見える肉体は女性らしさを作り上げながらも、生気のない肌が妖艶さよりも不気味さを引き立てる。

片手に持つのは斬る事も叩き潰す事も主軸に置かれた斧。あれで裂かれたら絶命するのはたやすいだろう。

 

「手を……、貸す……」

 

「ふん、これは楽な戦いにならなさそうだな」

 

後ろに背負う両手剣と両手斧を構え、ナズーリンの横に立つのは二人の男。

事情こそ理解はまだ把握し切れていないとはいえ、それでも話の流れからしてナグモラーダの手に持つオブジェがこの事態を引き起こしてるのを察していた。

ナズーリン、ジャボス、ルーヴランスは嫉妬の闇に挑もうとする。

 

「こいつはまた……きつそうな戦いになりそうね」

 

「レイムさん、無理をしないで!」

 

「ウルミアさんも前に出過ぎないようにしてくださいよ!」

 

じりじりと霊夢とウルミアの二人に近付くのは憎悪の闇を宿すガルカ。

頑丈そうな全身鎧に加え、ガルカの身長よりも大きな太刀を携えている。

目の前の敵は手加減などは無縁の存在。果たして何処まで立ち向かえる事ができるか。

拳を構え、ウルミアは支援のための歌を奏でながらも憎悪の闇に挑もうとする。

 

「嬢ちゃんは後ろに下がっていろ!ゲッショー、久しぶりに組む事になるが行けるか!?」

 

「無論!しかし、おぞましいまでに深い闇を感じるでござるな……」

 

「……うっ……」

 

長年の愛用してきた両手斧を構え、ゲッショーもまた刀を抜き取り忍術の構えに入る。

迫りくる脅威は無知の闇を宿すヒューム。

黒刃の剣を両手に持ち、その顔からは知能らしきものが見えてこない。

あるとすれば、深い闇。

相手の気配を感じ取れるゲッショー、そして波長を見る事のできる鈴仙はアークエンジェルの闇を見てしまった。

あまりのも深すぎる闇に飲み込まれそうになる。あれは、人ではないのだとすぐに分かってしまう。

鈴仙、ジャルベリン、ゲッショーは無知の闇に挑もうとする。

 

「空の奇襲を喰らいやがれ!マスタァァァァァスパァァァァァク!!」

 

漆黒のヒュームに向けられて放った閃光が全てを蒸発する勢いで放った。

完全な不意打ち、それも空中から放たれた一撃だ。

レーザーはヒュームを飲み込む寸前、両手の剣をクロスしながら高速で振るった。

 

「……は?うおおおおおおおおお!?」

 

あろうことが閃光の"マスタースパーク"をクロス状に引き裂くだけではなく、遠く離れた位置にいる魔理沙に向かって斬撃が届いたのだ。

あわてて回避行動を取ることで難を逃れたとはいえ、後ろにある白亜の壁に大きく×印の傷が刻まれる。

まさかの反撃に冷や汗をかくと、魔理沙はすぐ近くに何かが迫っている事を感じ取り、振り返る。

 

「……お前が私の相手をしてくれるのか?」

 

魔理沙が箒に跨りながら浮いているのに対し、それは自らの力で浮いている怯懦の闇を宿すタルタル。

感情の無い笑顔をする小人に悪寒を感じながら、八卦炉を構えそれを向ける。

両手に持つはずの大きな鎌を片手に持ち、魔理沙を超える"魔力"を漲らせる。

魔理沙はたった一人で怯懦の闇に挑もうとする。

 

「スターダストレヴァリエ!」

 

様子見兼先手必勝とばかりに空一面に星屑の弾幕を降り注がせる。

星の一つ一つは大した威力ではないとはいえ、それが星屑を為せる量となれば馬鹿にならない。

タルタル一体だけに大判振る舞いとなるこの弾幕に対し、取った行動は単純な事だった。

鎌を一回振るう。

それだけで全ての星屑が薙ぎ払われ、さすがの魔理沙も唖然とせずにいられない。

 

「いや……魔法を使えよ」

 

小さい見た目に惑わされるが、接近戦なんてした暁にはミンチよりも酷い事にされるのは明白だ。

接近をさせず、かつ自分よりも"魔力"のある相手に対して遠距離で勝つ。

きついにも程があるが、その程度のきつさなら幻想郷でいくらでも味わっている。

 

「アクティベート!コロンビーヌ!」

 

「アイアイ……テェ、空飛ンデルー!?」

 

「こいつはお前が持ってろ!そしてしっかり掴まれよ!」

 

「エ?エ?イギャアアアアアアアア!!」

 

後ろに乗せる形にオートマトンを起動させ、目覚めた瞬間になぜか空を飛んでる事にびっくりをしている。

そんなコロンビーヌに魔理沙は八卦炉を預けると箒に"魔力"を高めて加速する。

それを見てタルタルも加速をしながら魔理沙に追い付こうとしている。

 

「コロンビーヌ、魔法戦形態!」

 

魔理沙の声と共に、コロンビーヌの仕組みが変わっていく。

オートマトンとはそれぞれに適した形態を持っており、接近戦を主とした白兵戦、射撃を主とした射撃戦、魔法を主とした魔法戦、それぞれの中間能力である汎用の四つに別れる。

しかし改造を施して自由に使い分けれるのは限られている。魔理沙がコロンビーヌに施したのは魔法戦と汎用の二つだ。

汎用形態から、魔法を主軸とする魔法形態に切り変わり、オートマトンの内部にある魔力発生装置によって魔法を唱えるための力が生まれる。

 

「まずは私と共に合わせろ!」

 

「イエッサー!」

 

八卦炉を渡したのは魔力を補填させるためだ。

魔理沙のオートマトンの操作は決して高いとは言えない。魔法を唱えながらオートマトンの操作は不可能だ。

だからこそ、八卦炉に補完させる事である程度のオート化をさせるつもりなのだ。

 

「高鳴るは雷雲!荒れるは風の嘆き!」

 

「生マレルハ破壊ノ音!奏デルハ終ワリノ鐘!」

 

「天空を満たす光は、暗雲を貫く救いとなれ!」「天空ヲ満タス光ハ、暗雲ヲ貫ク救イトナレ!」

 

雷の元素が集い、更に集う。

魔理沙一人ではまだ無理な魔法であっても、オートマトンとの合体魔法とも言うべきこれなら使用はできる。

二人の"魔力"と詠唱は密接に重なり合い、古代魔法を更に超える黒魔法の極地が注がれる。

 

「「バーストⅡ!!」」

 

タルタルの周囲に生まれるのは何十を超えるプラズマの球体であった。

球体の檻から回避しようとするが、タルタルに追いつくようにプラズマも動く。

タルタルの周囲に存在する雷の元素を媒体にしてるのだから当然だ。この魔法は、絶対に回避が不可能の魔法なのだ。

プラズマ同士が紐を結ぶように繋がっていき、タルタルを完全に雷撃の塊が覆い尽くす。

甲高い雷の炸裂音が響く。爆発が連鎖的に重ねていき、この魔法を食らってしまえば塵すら残らない。

 

「……マスター!マダ!」

 

「なに!?」

 

コロンビーヌが気付いたように声を張り上げ、遅れて魔理沙も気付く。

全方位に魔理沙を魔法によって包みこんでいるのだ。

火、雷、水、風、土、氷……基本となる六属性の魔法が、ゆっくりと魔理沙に襲い掛かる。

 

「やべぇ!?どうする!どうするよ!?」

 

「マ、マスター!あそこ!」

 

コロンビーヌが片手を魔理沙の腹で掴みながら、もう片方の手を向ける。

向けた先には"バーストⅡ"を与えてやったはずのタルタルが無傷のまま鎌を振り下ろそうとする。

 

「チッ!だったら!ブレイジングスタァァァァァ!!」

 

箒に"魔力"を充電されると同時にタルタルは鎌を振り下ろし、ゆっくりと押し潰そうした速度が速くなる。

それよりも早く星屑の弾幕を纏いながら目の前に迫る魔法に突撃し、包みこもうとした魔法の檻から抜け出す。

しかし一瞬で纏っていた弾幕は剥がれてしまい、六元素によって魔理沙の肉体はボロボロになってしまった。

火が服を焼きこがそうとし、雷が乙女の皮膚を引き裂き、風がお気に入りの帽子をバラバラにし、水が血液をより抜き取っていき、土によって肉体が打ちのめされ、氷によって身体がガチガチだ。

 

「ぐっ……冗談、きついぜまったく……」

 

「マス、タ……」

 

魔理沙だけではなく、後ろにいるコロンビーヌにも被害は渡っている。

もう数度も攻撃を食らってしまえば、魔理沙共々破壊されてしまうだろう。

 

「どうやって、今の攻撃を……!」

 

消えた。

注意深く見ていたはずなのに、タルタルが消失する。

 

「危ナイ、マスター!」

 

「コロンビーヌ!」

 

押し出すようにコロンビーヌが魔理沙を跳ね除け、空中に取り残される。

そこに空間を超えて現れるタルタルの鎌によってコロンビーヌの胴体は真っ二つに引き裂かれてしまった。

 

「て、めぇ!」

 

コロンビーヌに持たせていたのが八卦炉ではない。

二枚目となる八卦炉を構えて溜め無しの"マスタースパーク"を放つがタルタルは容易に回避をする。

しかし魔理沙はそのタルタルに目もくれず、空中で四散しようとするコロンビーヌの上半身から上部分を回収した。

さすがに全部の部位を回収する余裕はないが、それでも胴体と頭部分が残っていれば修理は可能だ。

 

「マ…………タ……」

 

「喋るんじゃないぜ、今は鞄の中で眠ってろ」

 

起動を停止させ、鞄の中に仕舞う。

ご丁寧に待っていてくれたタルタルに魔理沙の頭がカチンと来た。

 

「転移を使うなんてどいつもこいつもチートばかり使いやがって……心優しい私もさすがにぶち切れたぜ!」

 

自分よりも遥かに超える魔法の使い手に魔理沙は吼える。

勝ち目の見えない戦いであっても、普通の魔法使いに諦めるようなやわな心を持っていなかったのだ。

 

「女であるのは見た目だけですか!これはまた……!」

 

「……!」

 

膂力の優れたエルヴァーンとガルカ。

この種族であるなら両手で扱うような武器でも自在に振るう事ができる。

並みの敵であれば武具ごと叩き潰す事もできるであろう、ルーヴランスの蒼き大剣とジャボスの斧。

しかしどれだけ力を込めて振るっても目の前のミスラの片手の斧によって容易く弾かれてしまう。

 

「ふぅん!」

 

"気"の力を込められた大剣を一回転をしながら切り裂こうとをする。

しかし渾身とも言えるルーヴランスの一撃を特に力を込めた印象すら与えずにただ力任せに防いだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

寡黙な印象を受けやすいジャボスの斧がその隙を狙おうとする。

しかしジャボスの攻撃はあまりにも遅すぎて、ミスラの隙になり得なかった。

地響きすら与えれそうなかち割る斧の攻撃を、あろうことか素手で防いだのだ。

刃の部分すら掌で押さえ、どれだけ力を与えようとしてもビクともしない。

 

「な……」

 

「貰う!!」

 

空中から飛び掛かったのはナズーリン。

ジャンプによって高く跳び、死角から狙う槍の一撃。

防げるはずがない。普通ならば。

ナズーリンの一撃は、届く事は無かった。斧を持ったままの腕を、ジャボスごと持ちあげたのだ。

 

「な、にぃ!?」

 

このままではミスラではなく、ジャボスに槍の一撃を食らわせしまう。

すぐさま"霊力"によって肉体を浮遊させる事によって"ジャンプ"の行動をキャンセルするが、あろうことかジャボスごと斧を浮かんでいるナズーリンへと投げ飛ばした!

 

「うお……おぉぉぉぉ!?」

 

「げふっ!」

 

もうすぐ槍の当たる場所で緊急的に止まったために、投げ飛ばしを回避し切れずにジャボスの質量をそのまま味わってしまう。

 

「貴様ァァァァ!」

 

連撃に次ぐ連撃。

如何にエルヴァーンといえども、ルーヴランスの攻撃速度は両手剣では破格の速度。

次々と急所を捉えているはずの斬撃は、ことごとく防がれている。

 

「……化け物め!」

 

もう一度、ルーヴランスは回転を加えた"スピンクラッシュ"の構えに入り、ミスラもまた斧を携えながら"気"を高める。

同時に放たれた互いの必殺技。

旋風とも表現するべき二人の回転が勝っていたのは、ミスラのほうであった。

 

「うがぁぁぁぁぁ!」

 

両手剣を手放さなかったのはせめての意地か。

完全に力も、技すらも追い抜かれている一撃によってルーヴランスが遠くへと飛ばされる。

大剣が大半のダメージを防いでくれたか定かにしても、それでも鎖帷子の鎧すら引き裂き、胴体から血が流れている。

 

「るぅー!るぅぅぅぅ!!」

 

「う……飛竜、か……」

 

「クビラ、よくやった……もう一度下がれ」

 

ナズーリンの指示を受けてクビラは後方へと下がっていく。

飛竜の癒しのブレスによって、ルーヴランスの傷は全快とも行かずにしても回復していく。

ジャボスとナズーリンもまた、クビラのブレスによって回復したのだ。

 

「恐ろしい相手だね……相手の強さの底が知れないよ」

 

「気のせい……、か……奴の力……増している……」

 

ヴァナ・ディールに来てからとんでもない実力者を多く見てきたナズーリンとはいえ、その中でもアークエンジェルは別格だ。

勝てる勝てないの話ではなく、勝負にならないのだ。

まるで子供が大人に勝負を挑むように、話にならないと言ってもいい。

 

「いや、気のせいではないだろう……あれを放っておいたら大変な事になるぞ」

 

敬語ではなく、少しばかり荒れた口調となる。

これこそがルーヴランスとしてではなく、本来の口調ではあるのだが、こうした口調をし始めるのは二つある。

一つは変装をして敬語で話をする必要ではない事。

もう一つは、敬語をする余裕がないほどにピンチである事。

今の状況がどちらかなど、分かり切っている事だった。

 

「でぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

霊夢を知る者であれば珍しいと感じ知るほどまでに気合いを乗せながらの攻撃。

漆黒のナックルを身に付け、数多の妖怪を殺してきた黄金の鉄の塊で出来た拳がガルカの肉体を打とうとする。

一撃二撃、十撃程度では終わらせない。

百の乱撃でもって叩き潰す勢いのある鋭い拳が襲い掛かっている。

それにも関わらず、ガルカはまるで微動だにしない。

 

――強さを誇示せよ、真の猛者こそが世界の覇者!

――飽くなき強さの探求、追い求める者こそ手に掴める!

 

ウルミアからの"猛者のメヌエット"、それも最高峰となる歌になれば人間の奥底に眠る力の全てを引き出してくれる。

その歌の支援があるのにも関わらず、霊夢の拳はガルカに通じていない。

呆れたほどの頑丈さ、いやむしろ頑丈すぎるほどの鎧にこそ称賛するべきか。

 

「!私が一人、私が二人!ファイナル分身!!」

 

棒立ちであったガルカが動こうとした。

後ろにバックステッポをしながら紙兵を加えて忍術を唱える。

幻影を作り出す"空蝉の術"が何処まで目の前の怪物としか言えない相手に通じるか分からないが、それでも保険としては心強い。

片手持ちをしたままの刀を構えすら見せずに霊夢へと切りかかった。

かろうじて回避に成功したものの、そこから更に残心として霊夢を捉える。

長い刀は胴体を引き裂き、少女の血飛沫を撒き散らす事はない。幻影となって身代わりに消える空蝉、霊夢はすでにガルカの懐に入っている。

 

「ひっらめけぇ!!!」

 

霊夢の攻撃の一つ一つは、決してそこらのモンクタイプ……それこそ一級廃人でも劣るものではない。

しかし目の前の敵には決め手として欠ける。スペルカードを使うにしても相手の肉体を貫くほどの力を込めるのに時間がかかる。

考えた。現状の自分の力でガルカの肉体を貫けるのは何かと。

そしてすぐに浮かんだ。

自分とほぼ対して変わらない見た目の少女ながらも、同じ拳を放ちながらも、威力も重みも違う、少女の技を。

瞬間的に込められた"気"と"霊力"が爆発するかのように混ざり合い、右手に集って放ったのはアッパーカット。

鎧を含めて何百キロとあるガルカの肉体が浮かんだ。

プリッシュの得意とする"羅刹七星拳"を見よう見まねで再現したのだ。

天賦の才だから故に為せる事。普通であれば見よう見まねで出来るほどにプリッシュの技は安くない。

しかし、霊夢の放った一撃は鎧を凹ませるほどの衝撃を伝えた。

 

「……それでも、凹むだけなんて有り?」

 

先程の一撃によって右拳が砕けた。

割と本気を出した攻撃だというのに、それすらダメージとも言えない状態に霊夢もショックであった。

そして傷を癒すよりも早く、ガルカの太刀は襲いかかる。

雪のようなちらちらを輝きを乗せる太刀は幻想を思わせ、ガルカそのものの動きは早くは無いというのに太刀の速度は霊夢の反応を超えている。

あっさりと二枚目の幻影を切り裂かれ、残った左拳でせめての反撃と言わんばかりに打っていく。

しかし両腕で放っても無傷とも言えるガルカに左拳だけが通じるだろうか。

霊夢の攻撃を無視しながら、今度は連続として花を散らす勢いで刀を振るう。

"気"によって生み出される美しき花が霊夢を捉え、一刀両断。

 

「うっ、ちょっとは自重しなさいよ!」

 

最後の幻影が剥がされ、再度、忍術を唱えようとする。

ガルカはそれを許そうとしない。

竜騎士のように跳び上がり、刀を地面に突き付けて大地へと奥深くに差し込んだ。

"気"が込められた刀は大地を動かし、白亜の床が、白の槍となって霊夢を襲った。

 

「うぅわぁぁ!?」

 

腹に目掛けて一撃を紙一重に回避し、槍の切っ先が横っ腹が槍を掠める。

わずかな切れ口から血が滲み、急いでガルカから離れようとした。

 

「が、ふ……」

 

「ウルミアさん!?」

 

霊夢は回避はできても、歌う事に集中するウルミアは回避できなかった。

槍によって腹に風穴が空き、大量の血液が噴出する。

急いでウルミアの元に駆け寄り、傷を見る。

止めどなく溢れ出る血を見て、普通の癒しの術では効果はないと判断する。

 

「蘇符「金楚」!」

 

効力は蘇活の魔法である"レイズ"と同じ、癒しの術では治し切れない怪我を急速に塞ぐ事だ。

しかしこれを使った後は肉体的に衰弱し、ウルミアが目を覚ましても暫くは戦えないだろう。

 

「……その間に、私が一人で戦う事になるってわけね」

 

砕けた右拳を癒し、構える。

闇に染まったガルカの刀が再び霊夢を切り裂こうと迫っていた。

 

「カァァァァァ!」

 

「うおりゃああああああああ!」

 

ゲッショーの疾風の如き攻撃、そしてジャルベリンの重さを十二分に乗せた一撃。

それぞれが数を、一撃と役割分担された攻めはヒュームを追い詰めようとしている。

 

「おおっと!させはしないぜ!」

 

左手の剣に"気"を込め、武技を放とうとするヒュームに、両手斧の一撃がそれを抑えた。

そして抑えられた左側からゲッショーが飛び出る。

左手が抑えられている中で、ヒュームは右手の突きで迎撃をしようとした。

漆黒の刃がヤグードの胸を貫き、背中から突き出る刃は血に濡れる。

 

「如何に石の子でも我が術を見切れぬか」

 

心臓を貫かれたはずのゲッショーが刀を振るう。

首を狙う一撃はヒュームが身体ごと動かす事によって無理矢理回避し、そのまま剣を引き抜いて体勢を整える。

 

「貰った!」

 

その体勢を整えるところを狙われた。

銃声が響くと同時に銃弾がヒュームを当てていく。

何発かは剣で斬り払われたとはいえ、もう何発かは当たった……はずだった。

 

「空蝉の術……あやつも張れるでござるか」

 

「あーめんどくせぇ奴だなこいつは……」

 

鈴仙の放つ弾丸は確かに鎧のない額など、急所を当てたはずだった。

しかし弾丸は当たる事もなく、ヒュームは無傷のままである。

 

「……まずはあれを剥がさないと意味はないな」

 

「骨が折れそうね」

 

鈴仙の赤い目であるなら幻術の類は見抜けるし、それを解除する事も可能だ。

しかしそれはあくまで、自分よりも弱ければという言葉も付く。

見抜く事を集中すれば空蝉に惑わされずに本体を狙い打てるだろうが、そうなれば銃弾の狙いがお粗末になって剣によって迎撃されるのがオチだ。

せめて、コルセアの早撃ちさえ出来れば苦労はしないのだが。

 

「次は拙者が前に出るでござる。じゃるべりん殿は後ろに備え、鈴仙殿は引き続き支援を頼むでござる」

 

「分かったわ、ブリッツァロール!」

 

ゲッショーの傷ついた姿が靄のように消えていき、傷一つのない姿になっていく。

再び彼が忍術を唱え上げ、自分と同じ存在を生みだす忍術によってゲッショーは三人に増えた。

鈴仙もまたダイスを掲げ、〈9〉の数字を提示する。

効果としては〈11〉に届かないにしても、それでもそれなりに高い数値を望める。

ロールの効果は攻撃速度を高める力。ダイスによって三人分のゲッショーの速度は達人であっても見切れる代物ではない。

 

「いざ参る!」

 

「覚悟なされよ」

 

「その首貰い受ける!!」

 

正面、右、左。

どちらが本物であるかは見分けが付かぬとはいえ、ヒュームは至って冷静に……感情すらあるか分からない顔をしながら剣を構える。

この顔が不気味であるのだ。例えポーカーフェイスであっても人に感情があれば内面は読めるもの。

しかし、これらアークエンジェルにそんなものは存在しない。

人間のように動きながら、人間のように戦いながら、何処までも機械的な存在に相手の動きが読めないのだ。

武人というのはそういった相手を特に苦手にしている。ゲッショーからしてみれば、アークエンジェルとは天敵の相手であるのだ。

 

「迅!」

 

「天!」

 

「空!」

 

左のゲッショーは三つの力強き斬撃を繰り出し、

真正面のゲッショーは空高く飛び上がるような斬撃を繰り出し、

右のゲッショーは梵字を描きながら連続した太刀を繰り出す。

回避も防御も不可能な三撃に、ヒュームは突然と姿を消した。

 

「なに!?」

 

「えっ!」

 

隙を伺うように見ていたジャルベリンと鈴仙は信じられない顔をしながら驚く。

一番の驚きはゲッショーだった。目の前にいたはずのヒュームの姿が断ち切る瞬間に忽然と姿を消したのだ。

 

「何処に!?」

 

辺りを見回し、いた。

すぐ近くに、剣を持ちながらいた。

だが、なぜ黒白のヒュームの数が五人もいる?

 

「おいおい……ふざけるのもいい加減にしてくれよ……俺はこんなもん知らねぇぞ?」

 

実は兄弟がいたのか?という冗談すら言えない。

ジャルベリンはアークエンジェルと戦った事もある。そしてヒュームが冒険者の職業ジョブで言えば戦士と忍者に該当するという事も知っている。

だからこそ、分からなかった。

忍術を使うヒュームではあるが、自分自身を分身する技など使わなかったはずだ。

 

「あれは……!」

 

隙を見て銃を撃つ事を止め、鈴仙はヒューム達を赤い目で探る。

全てが同一の存在ながらも、幻影と本体は存在する。

そしてそれは見たことがある。三人に分身をしたゲッショーと同じ忍術。

 

「まさかでござるが……拙者の忍術を模倣したでござるか?それも、わずか一合で持って」

 

五人のヒュームが一斉に構え、ゲッショー達を狙う。

その構えは魔理沙の"マスタースパーク"ごと切り捨てようとしたヒュームの必殺剣。

ゲッショーはすぐさま回避の行動に移り、ジャルベリンは鈴仙の頭を手で抑えながら自分も身体全体を下げる。

五人同時で放たれたヒュームの一撃によって、見れば戦う気力すら失わせるほどの馬鹿げた威力が彼らに襲いかかったのだった。

 

「このぉぉぉぉ!」

 

ライオンのしなやかな足から放たれる蹴りがエルヴァーンを狙った。

巨大な盾に相応しく、ライオンの蹴り程度ではビクともしない。

 

「ライオン、下がれ!」

 

ライオンが下がると同時に手裏剣が降り注ぐ。

これもまた巨大な盾の前には無意味そのものであり、一つたりともエルヴァーンに届く事もなかった。

 

「その二人に気を取られたな!」

 

盾のない、エルヴァーンの右側からフルアーマーのミスラの竜騎士が槍を持って襲いかかる。

見ずにして盾だけを構えてアルド達の攻撃を防ぎつつ、右手に持つ巨大な剣でマグを切りかかった。

 

「ふん!」

 

槍と剣がぶつかり合う。

常識外れの膂力を持つアークエンジェルからしてみればミスラの槍の一撃程度など簡単に跳ね除けられるはずである。

しかし、槍と剣同時が互いに拮抗していた。

それどころかマグの槍の方が押している。

 

「……これならまだティアマットの爪が重かったな!」

 

押し勝ったのは、マグの方であった。

エルヴァーンは予想外なマグの力に体勢を崩してしまい、その隙を狙うとばかりに槍の一撃がエルヴァーンの胴体へと突き立てた。

ドガン、などと鋭い刃を持つ槍が人間に似た何かに当てて鳴る音ではなかった。

その証拠に槍の先端にある刃が少しばかり潰れていた。

 

「……どうやら、硬さに関しては龍以上のようだな」

 

マグがまだ罪狩りミスラであった頃、真龍バハムートを狩る任務を与えられた事があった。

そのバハムートを狩るためにも力試しと言わんばかりに、三龍と恐れられるティアマットとたった一人で戦ったのだ。

真龍の一族と恐れられる存在をたった一人で狩ろうとするその実力。ゆえに罪狩りミスラの名を与えられたのだが、目の前のエルヴァーンには力で勝っていても硬さに置いてはどうしようもない差があった。

 

「でしたらこの攻撃はどうですの?」

 

突如としてエルヴァーンの背後から空間に亀裂が入り、そこから美女の姿が現れる。

エルヴァーンが剣を振るうよりも早く、紫は杖を振るっている。

現れるのは雷の神獣にして隠者ラムウ。

杖を振るう紫に合わせるようにラムウもまた雷を震わせる杖を振るう。

 

「雷電の衝撃を!」

 

雷の雨、"サンダースパーク"がエルヴァーンを包みこむ。

ラムウが杖を振るう度に雨もまた激しくなり、ラムウを召喚しながら更に別の神獣を呼び寄せる。

 

「凍りつかせなさい!!」

 

召喚士の奥の手であるはずの"アストラルフロウ"を即座に開放して呼びだされたのは氷の女王シヴァ。

雷撃に晒されているエルヴァーンを"ダイヤモンドダスト"に完全に凍結させる。

そこから杖を空中へと回し続けながら召喚陣を描き、紫の下に半身を出すのは紫色の毛皮を持つ霊獣。

 

「全てを滅ぼしなさい、フェンリル!!」

 

滅びの咆哮が一直線に続いた。

フェンリルの"ハウリングムーン"は凍結しているエルヴァーンへと情け容赦無く粉々にする勢いで放たれたのだ。

駄目押しと言わんばかりに天罰の裁きであるラムウの"ジャッジボルド"も炸裂し、あまりの破壊力に大爆発が引き起こった。

 

「すっごぉ……もうこれで決着ついたんじゃないの?」

 

紫一人がいればアークエンジェルなど片が付くのではないか。

圧倒的な力を見せつける紫を見ながらライオンは呟く。

これにはアルドも、そしてマグですら同意するしかない。歴代の召喚士を見ても召喚獣を複数同時に、しかも"アストラルフロウ"の連発など聞いた事もない。

妖怪という人間とはかけ離れた力を見せつけながらも、紫の顔は優れていなかった。

 

「……なるほど、神に迫るというその力。伊達ではないようね」

 

あれだけの猛攻を浴びれば、生物であるなら消滅をしてもおかしくない。

しかしエルヴァーンは無傷であった。ラムウの雷撃、シヴァの氷結、フェンリルの咆哮。

全てを全力に乗せた一撃でもっても、傷一つ付いていない。

 

「馬鹿な……いくらなんでもおかしすぎるぞ」

 

アルドはその光景を見てさすがに異常だと分かった。

目の前のアークエンジェルは、アルドの知るアークエンジェルとは違った存在だと言う事に。

 

「どういうことなのよ、アルド」

 

「分からないのか、ライオン。あいつらは過去にブロントさん達に倒されているはずなんだ。なら、なんであいつは傷一つも付かないんだ?ユカリ殿の攻撃は控えめに言っても冒険者の攻撃など遥かに超えている」

 

アルドの疑問によって、ライオンも気付いた。

アークエンジェルとは確かに強大な力を持っているが、それでも過去に倒されている……つまり、傷が付く存在なのは確かなのだ。

それだと言うのに紫の一撃を持っても傷一つ付かない状態にはさすがに異常だと感じてしまう。

 

アークエンジェル達が戦っている中、ナグモラーダだけは傍観をするかのように戦いを見つめていた。

何も感じる事もなく、何の意味もないだろうと思いつつ。

 

「気付いた奴がいるようだな……」

 

アークエンジェルと戦った者がこの場にいる事をナグモラーダは知っている。

そしてようやく気付いたようだった。彼らの戦うアークエンジェルが、彼らの知っているのと明らかに強さが違うという事を。

それは当たり前なのだ。

古代ジラート人が母なるクリスタルを元にして作り上げた人造兵器。

それは心の闇……即ち、虚ろなる闇を色濃く現した外形となったのだ。

今の五種族の抱える闇を持ち、それに合わした能力を特化されているアークエンジェルであるが、もう一つ面白い機能を持っている。

プロマシアと融合し、真実を知ったナグモラーダには分かる。

アークエンジェルとはプロマシアの力を最も色濃く残しているのだ。

その理由とはアークエンジェルが世界中に存在する虚ろなる闇に感応して力を無限大に強める作用がある事。

これはプロマシアの持つ、心の闇に干渉しようとする力に似ていないだろうか?

アークエンジェルとは虚ろなる闇があればあるほど……それこそ目の前に戦う人間がいるだけでパワーアップを果たす。

それだけならさほど力を高めないにせよ、ナグモラーダには二つの世界からかき集めた膨大な量の『虚ろ』がある。

それこそプロマシアを復活させかねないほどの量がこの場にあるのだから、アークエンジェルが強化されていて当たり前なのだ。

 

そして誰もが戦っている場の中、一人だけナグモラーダに突っ走る少女がいた。

アークエンジェルにも目もくれず、拳を固めて一直線。

 

「ナグラモォォォォダァァァァァァ!!」

 

たった一人だけ、アークエンジェルと戦わずにいたプリッシュがいた。

確かにアークエンジェルは倒すのは難しくても操り手を倒せば片が付く。

五戦士達はプリッシュの邪魔をしようするが、それらと戦う者が許そうとしない。

見事、無防備となったナグモラーダの前まで辿りつき、拳を振り上げてナグモラーダの顔面へと当てようとする。

 

「……無駄だ」

 

一言だけ呟いた。

何が無駄なのかを理解せず止まらずにプリッシュの拳はナグモラーダに突き刺さろうとし、プリッシュの横っ腹に強い衝撃を感じた。

あと一歩のところで、拳が届かなかった。

 

「が、はっ……!」

 

丸い、球体の何かがめり込むようにプリッシュのアバラ骨を砕いた。

息ができない痛みの中、間髪いれずに光線がプリッシュを包みこむ。

ガードすらできずにまともに食らってしまい、光線に飲み込まれたプリッシュは遠くへと吹き飛ばされてしまった。

 

「プリッシュ!」

 

アークエンジェル達はそれを見て戦う事をやめて、一足のジャンプでナグモラーダの元に集う。

瀕死から目覚め、ウルミアが身体を引きづりながら急いでプリッシュに駆け寄る。

腹の一撃によって手で傷を抑えているが、腹以外にも全身を大火傷したかのような傷を負っていた。

 

「今の……マスタースパーク、なのか……?」

 

プリッシュを飲み込んだ光線は見覚えがありすぎた。

それは魔理沙が得意とする十八番の魔法、"マスタースパーク"。

ぶくぶくと再び人工クリスタルが沸きだしてくる。何かが、現れようとしている。

 

「幻想として構築できたのはヴァナ・ディールのものだけではない……異世界の『虚ろ』をも汲み取り続けたのだ。このようなものも、当然できるようになった」

 

クリスタルが浮かびあがる。

アークエンジェルを出現された闇のクリスタルと同等のものが二つ。

そしてそれは感情のない声となって響き渡る。

 

――内なる「自由」が、おまえたちを狂わせる……

 

――内なる「羨望」が、おまえたちをおとしいれる……

 

クリスタルが、砕けた!

砕けた結晶は人の形を作り出し、それはアークエンジェル達と同じように、白と黒だけで構成された肉体をしている。

病的なまでに白い肌、感情のない赤い瞳、最初から白く生えていると見間違える髪の毛。

しかし、それを見て絶句する。

なんで、あんなモノが現れるのかと……。

 

――ア、ハハハハ。コンニチハ、ワタシ……ワタシノナマエハ「ハクレイレイム」。ヨロシクネ?

 

――ウ、ウフフフ。コンニチハ、ワタシ……ワタシノナマエハ「キリサメマリサ」。ヨロシク~

 

「な、私ィ!?」

 

「……何でだぜ……あれを見てると気分が悪くなってきた……」

 

そう、それはあまりにも博麗霊夢と霧雨魔理沙に酷似していた。

幾らか感情のありそうな攻撃的な笑顔をしながら、声は機械的で何も宿す事はない。

 

ハクレイレイムと名乗ったそれは、霊夢と違って至って普通の腋の空いてない巫女服を着ている。

しかしながらも、その上から身に付けているのは間違いなく、戦士などが着るようなプレートメイルの鎧。

そして手に持つのは、巫女が持つはずの大幣を剣のようにしたものだった。

無骨とも取れる叩き潰す事を目的とした漆黒の剣。断じて巫女が持つような代物ではない。

そしてハクレイレイムの傍に浮かぶ白と黒の陰陽玉。あれでプリッシュの攻撃を迎撃したのだ。

もしも霊夢と隣にいれば、腋の空いてない事、そしてハクレイレイムは髪を下ろしている事。この二つが無ければ見分けが付かないだろう。

 

そしてキリサメマリサを名乗ったほうは、魔理沙と同じようにエプロンこそ付けていないが黒色のドレス姿をしている。

姿も顔もほとんど一緒なために、霊夢とハクレイレイム以上に見分けが付きにくい。

見分ける手段はただ一つ、箒に座るように浮きながらも、彼女の傍には八つの杖が浮かんでいる事。

魔法使いである魔理沙には分かる。一つ一つの杖、それは間違いなく両手杖という武器のカテゴリーでは最高峰の位置する代物だと。

元素ごとに特化された強化された杖は、方向性という意味合いではトップクラスの作りになっている。

キリサメマリサがヴァナ・ディールの魔法が使えるのなら、あの杖で強化された状態で放つ魔法の威力はどれほどのものか想像が付かない。

 

 

 

「馬鹿な……霊夢と魔理沙……いや、違う!あれは並行世界の……!」

 

「気付いたか……だが気付いた所で何も意味はあるまい」

 

紫は新たなアークエンジェルに気付いたように声を張り上げる。

いったいなぜあれを具現化する事ができたのか。紫の頭が高速で動きながらも状況は確実に変化を起こそうとした。

トゥー・リアを揺るがすほどの地響きが発生したのだ。

空中に浮かんでいる都市でありながら地響きというもおかしな話だが、立っていらないほどに揺れている。

 

「う……ぐ……い、いったい何が……」

 

傷を負いながらも目を覚ますプリッシュ。

ウルミアに支えられる形となりながらもナグモラーダが何をしようとしているのかを見ているだけしかない。

 

「ふ、はははははは!!集まった!集まったぞ!必要な『虚ろ』がようやく規定値に達した!これで、ようやく作れる!」

 

「何を作る気だ!?」

 

「ふん!何をだと?お前達も見た事のある……真世界だッ!」

 

人工クリスタルを核に膨大な『虚ろ』が集められようとしている。

少しずつ、霊獣ですら行動を遅れさせるほどに気付かない範囲で『虚ろ』をかき集めた。

ナグモラーダの作り出そうとしている真世界という言葉にアルドは絶句した。

 

「馬鹿な!何のために!」

 

「今更言った所で私の願いは理解できまい!さぁ、変質しろ!我が記憶を元にして!!」

 

ナグモラーダの手に持つ宝塔が光輝き、それに呼応するかのように人工クリスタルもまた唸りを上げる。

――その瞬間、ヴァナ・ディールという世界は変質を始めた。

 

大地が変化を遂げる。

海中が変化を遂げる。

空中が変化を遂げる。

空気も、

窒素も、

炭素も、

二酸化炭素も、

水素も、

あらゆる元素も変化を遂げる。

人間の常識が及ばぬ世界に変化を遂げる。

あらゆる倫理と法則がねじ曲がり、人間の知る世界が壊れていく/直っていく/戻っていく。

空間が壊れて元へと戻る。

時間が壊れて元へと戻る。

世界が壊れて元へと戻る。

 

トゥー・リアを媒体にして、ヴァナ・ディールに顕現する。

神の世界の一部分、神の世界に転移した古代都市、最後の母なるクリスタルが眠る都市。

――アル・タユ。

 

その都市の最深部にして、母なるクリスタルの眠る空間。

宇宙という闇の空間が辺り一面に見え、下を見下ろせばヴァナ・ディールの大地が見えている。

空間の広間に浮かびあがる巨大にして、温かみすらも感じる始まりの石……母なるクリスタル。

 

「懐かしいだろう、プリッシュ……この地で貴様はプロマシアと戦い、そして私とも戦った場なのだから」

 

「お前……いったい、何を考えて……!」

 

「願い、願いだ。そうだ、私はジラートの民になるよりも、あの方の願いを叶える事こそ一番の夢だったのだ」

 

いったい何のために真世界なんてものをナグモラーダは作り上げてしまったのか。

プリッシュの知るナグモラーダは心の読めないクリューである事にコンプレックスを持ち、ジラートの民になる事を望んでいた。

その願いすら超える何かを、ナグモラーダは実行しようとしている。

 

「そのような真似、させると思って?今すぐあなたを滅せればこの偽りの世界は消え去るのみ……」

 

「偽りだと?忘れられた者がよく言う……それに、滅するのはお前達のほうだ」

 

紫が何かを言うよりも早く、ナグモラーダとアークエンジェル以外の全ての者が闇に囚われた。

全てを包みこまんとする、貪欲な闇。『虚ろ』だ。

抵抗空しく次々と『虚ろ』に呑まれていき、一人、また一人と消えていってしまう。

最後に残ったのはプリッシュだけだ。

 

「な、なんでこんな時にッ!」

 

「くくく、はははははは!!如何に私の記憶を元にした幻影の真世界と言えども、クリスタルラインには大きな影響も出る。

ならば当然として虚ろも現れるだろうよ。まぁ、お前達は運が無かったみたいだがな」

 

「ちく、しょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

腕を引き延ばしてナグモラーダを掴もうとしても無駄な努力だ。

闇がプリッシュを呑みこみ続け、抵抗しようにも出来ない。そして、現れた闇が全ての者を包みこむと消滅する。

これで、アル・タユの最下層にはナグモラーダとアークエンジェルだけを残した。

霊夢達は非常に運が無かったのだ。

『虚ろ』の出現はランダムとは言え、それでもピンポイントに彼女達を纏めて包みこんだ。

まるで、ナグモラーダの勝利を約束するかのように。

 

「……イブノイル様、見ていてください。必ずやこの欺瞞と偽りに満ちた幻影の世界を打ち壊し、貴女が見た理想の世界を私が作って見せましょう……」

 

その勝利に浮かれる事もなく、ただナグモラーダは一つの願いを叶えるためだけに行動をする。

だが、ナグモラーダの抱く願いそのものが、彼の敬愛するイブノイルの望まぬ方向へと進んでいる事に彼は気付いていなかった。

 

 

 

 

……To Be Continued?

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