東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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最終章「東方陰陽鉄」:前

神々の時代が終わりを迎え、人の時代が世界を支配する時であった。

世界を支配する人々は類まれなまでの知性と技術を持ち、尚且つ他人の心を読む事が出来た。

心を読み、互いの思惑を知る事で人は争う事なく繁栄を極めた。

 

しかし、全ての人が心を読めたわけではない。

人には闇が存在する。

人には理解できぬ、心を読む事を出来なくさせる闇。

その闇を宿した人は心を読む事を、そして読まれる事が出来なかった。

全体的な数は少ないとはいえ、普通に心を読む読まれるが当たり前であった人にとって、それは奇異の的であった。

時には差別され、時には病気としての扱いを受ける。

 

繁栄を極めたはずの人の歴史から外され、劣等種としての扱いを受ける羽目になってしまったのだ。

一人の少年はそれを恨んだ。

なぜ自分がこのような目に合わなければならないのか。

なぜ心が読めないだけで同情めいた目をされなければならないのか。

 

完全から不完全に堕ちた少年は世界にとっての当たり前が出来ず、当たり前である事を成せる者を妬んだ。

自分と同じような境遇がいながらも、彼らはそれを受け入れる事に我慢ならなかった。

何時からか、劣等に塗れた種族ではなく、完全なる民と信ずる者に成り上がるという野心を持ち始めるようになった。

 

その時だった。

少年にとって、敬愛するほどの者と出会ったのは。

 

完全なる民の王女でありながらも、暁の女神に仕える者。

彼女は全てに慈悲深かった。

己の民を、己の弟を、己の国を……そして、不完全に堕ちた少年すらも。

女神の生まれ変わりという、本来であれば戯言だと切り捨てるような評価も、彼女にこそ相応しい。

あのお方の前であれば、自分は不完全であるという事すら忘れられる。

それほどまでに、少年は彼女の事を敬愛していたのだ。

 

明星の巫女には、一つの理想があった。

人も獣も神々すらも、誰もが優しく暮らしていける世界を見たいと。

少年から青年となった今だからこそ分かる、叶う事もないだろう理想。

だからこそ、彼はそれを成し遂げようとする。

 

彼にとって真に望む事は不完全のクリューから完全であるジラートになる事ではなかった。

敬愛するイブノイルに、全てが平等で優しい世界を作り上げる事を思い出した。

だからこそ止まらない。

二つの世界を消滅させ、理想を現実とするべく彼は「世界の終わり」を迎えさせる。

ナグモラーダの目論見は、刻一刻と迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間を捻じ曲げ、世界を超えた先にあるモノ。

それはかつて神々の世界である真世界であり、人間が住まう世界とは法則が違う異界と化している。

空を見上げれば青空ではない。淡い色の光によって包まれており、雲のように見える何かも雲の形を作る光の集合体だった。

大地も建造物らしきモノも色素を失っているような、桜色に乳白色を混ぜたパステルカラーで彩られている。

水に沈んでいるような建造物がありながらも、その水らしきモノが全てクリスタルであると知るのはどれほどいるだろうか。

 

ジラートの民が作り上げた王国は真世界に転移する事により、真世界の法則によって作り変えられた。

繁栄の象徴でもあったはずの古代都市アル・タユ。

一万年の時から外された、人の存在しない都市である。

 

「ここが、真世界……?」

 

幻想郷から真世界へと転移し、霧雨魔理沙はその世界に圧倒される。

今まで見てきた世界とは全てがかけ離れている。

幻想的な、という言葉以外に表現する事ができず、人間が今まで暮らしていた世界とは違う世界なのだと分かってしまう。

 

「……まるで幻想郷、ね」

 

白魔導士のアーティファクトに身を包む博麗霊夢はそう呟く。

大きな法則の違いはあれど、真世界は幻想郷と世界の作りが酷似していた。

それは神すらも住まう幻想郷の管理者をしているからこそ分かる事なのかもしれない。

 

「うはwwwwwwwwwwwwwこの石綺麗wwwwwwwwお土産に持っていこうwwwwwwwwwwwww」

 

「勝手な行動してるんじゃねーよ内藤wwwwwwwwwwwwwww」

 

「そうよ内藤^^^^^^^♪♪♪あとその石は私に献上ね^^^^^^^^♪♪♪♪」

 

幻想的な世界でありながらも騒がしいのは相変わらずだった。

水晶のように輝く石を何処から持ってくると、糞樽はそれに咎めながらも臼姫は目に見えぬ速度で鈍器で内藤の頭をめり込ませ、倒れる拍子に石をキャッチした。

まだ戦闘にすら入っていないのにさっそくの重傷者が出てしまい、誰もが頭を痛めてしまう。

 

「……(´_ゝ`)」

 

「エルドしゃん?(´・ω・`)」

 

真世界に入ってから一言も喋らないエルドナーシュに獣様は心配そうにする。

元々真世界に行く事で進化するのを望んだエルドナーシュにとって、ナグモラーダの生み出した偽りの世界と言えども、ジラートの民が長年待ち望む世界でもあるのだ。

獣様もエルドナーシュと付き合いもそれなりに長いからこそ知っている。彼はまだ、ジラートの望みである人間より上の存在になるという夢は忘れては無い事を。

 

「なんでもないさ、ご主人(´_ゝ`)」

 

思っていた真世界とはやや違う。

彼の思った事はそれだけだった。

真なるクリスタルに触れる事に神々の世界を垣間見た事で、彼は一万年前に真世界に行く事を決意した。

多少の細部に違いがあれど、それは転移したアル・タユの影響だろうと判断を下す。

所詮は偽りの世界だ。

エルドナーシュが望む、優れた種族への進化を行える真世界ではない。

特別な感情が生まれるわけでもなく、至って冷静な面持ちをしていたのだった。

 

「もう時間は残ってねぇ!一気に最深部まで突っ走ってナグモラーダをぶん殴る!」

 

「任せろ思考のナイトはとんずらを使う事で普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦する事が可能

南雲ラーダは「どうしてもう来ているんだ・・」と絶望が鬼になって「中ボスなのにラスボスの地位にしがみついた結果がこれ一足先に計画を進めるべきだったな?お前調子ぶっこきすぎた結果だよ?」

この事にナイトの偉大さは鰻登りとなっていくが追撃の生半可なソル使いには真似出来ないハイスラによってバラバラに引き裂かれる雑魚がいた」

 

「だからなげぇよ、馬鹿!何時まで続くんだよ!」

 

「お前台詞がまだ途中なのに馬鹿と言われて切り捨てられる悲しさが分かりますか?

汚い忍者は心が狭いから台詞も小さく説得力も欠けるそれでナイトに意見をしようなんて浅はかさが愚かしいな」

 

「……殺してぇ、今すぐこいつをぶっ殺してぇ……」

 

プリッシュが扇動するかのように一人で古代都市の内部に入っていく。

それに遅れないように何十人もの冒険者、そして妖怪も走ってついていく。

謙虚なナイトであるブロントは相変わらずの長い台詞に汚い忍者が突っ込み、器用に走りながらいがみ合っている。

プリッシュに黒歴史を掴まされ、嫌々ながらも協力している汚い忍者であるが、もしも異変と関係なければ即座にブロントに斬りかかっているだろう。

 

「喧嘩はやめろって。今はそんな事してる場合じゃねぇだろ?」

 

「おいィ、この馬鹿が粘着してるだけで俺は喧嘩をしたいわけじゃないんですがねぇ」

 

「うるせぇ!俺だってこの馬鹿がいなければそんな不効率な事はしねぇよ!」

 

仲が良いやら悪いのやら。

ブロントと汚い忍者の仲間であったジャルベリンは二人の不仲にやや呆れ顔だ。

この二人の絆が壊れてから約一年、関係の修復は絶望的にも見える。

お互いが自分こそ最強であると言い張るために、どっちも妥協という言葉を知らないのだ。

 

一万年の時が流れているのにも関わらず、古代都市の内部は朽ち果てる事なく稼動し続けている。

走り続けると閉まった扉があるが、近づけばその扉は最初から存在しなかったように消失してしまう。

プリッシュの迷いのなどないような進みっぷりに、ルーヴランスは声をかける。

 

「途中の敵はどうします!?」

 

「無視だ!いちいち相手なんかしてられねぇ!」

 

アル・タユの内部には不可思議な存在が跋扈している。

それは巨大な壷であったり、幾つかの六角形のパネルが球体のように形を作っていたり、花のつぼみを象っていたりと、生命体とはかけ離れた真世界の住民。

ルミニアンと呼ばれる者に共通する事は表面から光の微粒子を放ち、アル・タユに進入した者を撃退する事にある。

目的地まで走る中、それらを無視し続ける事によって後続から次々とルミニアンが追いかけてくる。

走れば走るほどルミニアンの数は増していき、後ろを振り返れば50を超えかねない数がいる。

 

「止まるな!止まったら一気に時間を取られる!」

 

「だがよ、プリッシュ!このままだと追いつかれるぜ!」

 

何十人といるパーティの中、足の速い遅いがはっきりとしている。

プリッシュは当然とし、ブロントや汚い忍者、竜騎士であるリューサン、空を飛べる幻想郷の少女は問題ない。

しかし、体力の乏しい魔道士や、ガルカの戦士であるジャルベリンの足が遅い部類だ。

このまま走り続けてもルミニアンに追いつかれる。そうなればルミニアンを相手をしなければならない。

 

「……悪い、ブロントさん。先に行ってくれ!」

 

「おいィ!?」

 

ブロントが走る方向とは逆方向にジャルベリンは行こうとする。

背中に背負う両手斧を携えた彼を見て、ブロントはたった一人でルミニアンに迎え撃とうとしているのを察した。

 

「お前馬鹿すぐる!戦士の超パワーはナイトのヘイト稼ぎがあるからこそ発揮される!ナイトのいない戦士は周囲からボコボコにされて真世界でひっそり幕を閉じる羽目になるぞ!」

 

「そうは言っても誰かが足止めしなくちゃいけないぜ?俺達はあいつらと戦う事じゃない、先にいる奴を倒さなくちゃいけないだからよ」

 

ブロントとてジャルベリンの実力を知らないわけではない。

むしろ初心者であった頃から組んでいるのだから、ジャルベリンの癖までも把握している。

だからこそ、戦士としての弱点も熟知している。

ガルカの持つ圧倒的な力から生み出される両手斧の破壊力は随一であるが、反面防御のほうが疎かになりがちだ。

如何にタフネスを誇る戦士で一級廃人とも言えども、何十匹も同時に相手に出来るわけでもないため、ルミニアンをたった一人で足止めするのは無理がある。

 

「何ぐだってるんだ、ブロント!こいつが足止めしてるなら好きにさせろ!」

 

「汚いなさすが忍者きたない!ここで一歩引いてジャンベリンと足止めするのが大人の醍醐味。雑魚の忍者は足手まといになるので【いりません】むしろ【かえれ】」

 

「んだと、ブロントォ!!」

 

「ブロントさんも汚い忍者も何やってるんだぜ!?今はそんな事をしてる暇は……!」

 

魔理沙が喧嘩を始めようとする二人を止めようとするが、意外にも止めたのは霊夢だった。

静かに待ってろ。

そう言わんばかりに指を立てながら口を押さえる。

 

「肉盾が偉そうな事をほざくんじゃねぇ!てめぇが足止めに加わっても即座に落ちるのが目に見えてらぁ!」

 

「まただよ(笑)盾役もこなせないアワレな忍者が何を言ってもナイトの前には意味は無いキングベヒんもス相手に囮もこなせかった忍者は帰っていいぞ?無理をしないべきそうすべき経験値ロストが痛いならな」

 

ブロントの言葉に、汚い忍者の何かが切れた。

 

「上等だブロントォォォォォ!!だったらてめぇの代わりに俺があいつらをぶちのめしてやるよ!それで忍者がナイトより最強なのを分からせてやる!」

 

「ま、がんばんな。無理だと思うがな」

 

軽い挑発に乗せられた汚い忍者を尻目にブロントはカカッっとプリッシュ達の元に急ぐ。

コントのような喧嘩に誰もが呆れているようだった。内藤と痛風と糞樽だけは草を生やしながら笑っていたが。

 

「ブロントさん、狙ったのか?」

 

「汚い忍者がナイトに舌戦で勝とうなんて百年早いジャルベロンの実力は疑いの無い一級廃人だがライトパワーを宿すリミニナン相手には些か重いからな汚い忍者も囮ぐらいに役に立つだろう」

 

ジャルベリンが一人で足止めをしようとした時はブロントもそれを手助けしようとしたが、汚い忍者が代わりに残るという事でブロントは先に進む事にした。

魔理沙は汚い忍者の実力は過小評価はしていない。

確かに汚くてヒキョウな真似ばかりをし、小物臭い部分もある。

しかしレリックを振るえるほどの一級廃人であり、ヴァナ・ディールの冒険者では上位に位置するほどだ。何せ一級天狗である射命丸文を下せるほどに実力は高い。

ブロントもそれを知ってか、メイン盾の譲り合いならともかく、強さに関しては渋々ながらも認めている。

自分の代わりに汚い忍者をジャルベリンと共に戦わせる。そう仕向けたのだ。

 

「相変わらず素直になれない性格だな、ブロントさん」

 

「何いきなりツンデレ認定してるわけ?これは汚い忍者が勝手に勘違いした事であって俺は無関係」

 

久しぶりの再会とはいえ、最後に別れてから代わりの無い謙虚な騎士の姿に元罪狩りミスラであったマグは笑う。

本音を隠そうとしないブロントであるが、いざ隠そうとすればそれはとても下手糞なものだ。

本当にブロントが汚い忍者を過小評価しているのであれば、汚い忍者がここに残っていてもブロントも残ろうとするだろう。

ブロントにもまだ、心に光を宿している事がマグも理解できる。

 

「……お前、やっぱ馬鹿だろノブオ」

 

「うるせぇ!あとノブオって言うんじゃねぇよ!俺は汚い忍者だ!!」

 

「お前、いつからばっちく……」

 

「またそれかよ!」

 

簡単に乗せられて足止めをする羽目になった汚い忍者にジャルベリンはやれやれと言った感じだ。

忍者である事のプライドが高く、更に効率を拘るようになっているのもジャルベリンは知っている。

残って一緒に戦ってくれるのは非常に有難く、同時に心強い。

ゆえに、まだ序盤の序盤に過ぎない中で戦わせるわけにも行かない。

 

「別に無理して残らなくていいんだぜ?こいつらの相手なら俺一人でもやれるしな」

 

「そうしたほうが効率的なんだろうがな……ここで引いたらあの馬鹿に何を言われるかわからねぇ。それが一番むかつく」

 

効率厨でありながら効率を度外視に汚い忍者は二刀を手に取り、構える。

ブロントが関わらなければ汚い忍者は効率としてジャルベリンを足止めに放っておいただろう。

しかしブロントの挑発に乗せられ、のこのこと戻ればブロントの何百文字にもなる煽りが返ってくる。

それが汚い忍者にとって我慢できない。想像するだけで腸が煮え返り、想像の中で汚い忍者はブロントを十回程度ぶちのめした。

忍者が最強である事を示す。

ならば、足止めだけではなく、ルミニアン全てを殲滅してすぐに追いつく。

 

「おい、ジャルベリン。暫く見てない内に腕鈍らせてねぇよな?」

 

「馬鹿を言え、ノブオ!俺は冒険者だぜ?お前が知っていた俺よりも腕は上げてる!」

 

迫り来るルミニアンの群れ。

一体一体の強さは二人から見てさほどではないとは言え、それが何十もいれば十分な強敵となりえる。

数の暴力を足止めし、尚且つ倒す。

汚い忍者とジャルベリンの二人が、宮殿内部での戦いを繰り広げる事となった。

 

ルミニアンの群れを二人に託していき、更に奥へ奥へと進んでいく。

まるで迷宮のように入り組んだ宮殿ながらも、プリッシュの走る道に迷いはない。

 

「なぁ、この世界ってナグモラーダって奴が生み出したんだよな?だとしたら、あの変な奴らも、か?」

 

「可能性としてはありえるね。とはいえ、今考えていても意味のない事だが」

 

魔法使いであるため、箒に跨りながら空中に浮遊する事で走るより早く移動できる。

ナズーリンもまた同様だ。体格以上の槍を背負いながらも空中に浮かんでいる。

今いるアル・タユの世界はナグモラーダが記憶を元に作り出している。

ならばその住民もナグモラーダが生んだ幻影の敵なのだ。

 

「となると、あれも幻影って事?」

 

「おいおいwwwwwwwwwwなんでここにあれがいるんだよwwwwwwwwwwww」

 

「んなもん知るかwwwwwwwwwあれも幻影って事じゃねーのwwwwwwwww

・えちょ いくら妄想でもロボまでねーよロボはwwwwwwwwwミスwwwwwwwwwwwwwラの癒しがほしいwwwwwwwwwwww」

 

霊夢は知らない。

幻想郷で、そしてヴァナ・ディールでも見たことの無い機動兵器の存在など。

そして痛風と糞樽は知っている。

それは深遠の底、遥か地下に眠る怪物であり、脅威であり、守護者であり、数多の冒険者を震え上がらせた存在だと言う事を。

 

黒い卵に似た球体らしき胴体を持ち、鋼の如き四本足がそれを支えている。

目のような部分から輝かせるは赤い瞳であり、まるで蜘蛛のように見えながらも決して虫では収まりきらないほどの気配を感じ取ってしまう。

一歩ずつ歩くたびにアル・タユが揺れるかのような地響きが鳴り響こうとする。

 

「プロトオメガか……よくまぁ僕の玩具を引っ張り出したもんだな(´_ゝ`)」

 

ジラート人の技術の粋を集めた兵器の一つであり、原初の名が許された存在。

それはエルドナーシュの知識があってこそ作られた兵器でもあり、彼からすれば自分の玩具を勝手に使われたような気がしてならなかった。

 

オメガの強さは下手な最も悪名高い魔物ハイノートリアスモンスターを超えている。

だが、あれが目の前に立ち塞がるのなら避けては通れない。

オメガの目がこちらを捕らえると、全身から蒸気を上げながら戦闘態勢に入ろうとしている。

 

「伝www説wwwwの突きワザwwwwwwwwwパワースラッシュwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

最も早く行動を開始したのは内藤だった。

お決まりの台詞と共に大剣を手に取り、最速の速度でもってオメガの肉体に突き入れる。

頑健な鋼の肉体には傷一つ付かなかったものの、それもオメガの注意は内藤へと向かった。

 

「うはwwwwwwwwwwwwここは俺様に任せろ(キリwwwwwwwwwwwwここでオメガ倒したら間違いなく俺様は霊夢ちゃんに惚れられるねwwwwwwwwwwwwwww」

 

「たくっwwwwwwww勝手に戦いに行くんじゃねーよwwwwwwwwwwww」

 

「フォローを考えやがれよ糞wwwwwwwwwwww

・えちょ オメガ倒したぐらいで腋巫女が内藤に惚れるとかないわーwwwwwwwwwwwwwwwミスwwwwwwじゃないねwwwwwwwwwwwww」

 

「しょうがない奴らね♪♪♪♪♪^^^^^^^^^^^^そういうわけだからこっちは任せておきなさい♪♪♪^^^^^^^^^^^^」

 

もはや決定事項と言わんばかりに内藤達は戦いの構えに入っている。

痛風は愛用である二本の短剣を、糞樽は草を生やしながら詠唱に入っている。

 

「痛風ちんが残るならうちも残るにゃ!旦那様を支えるのも妻の役目にゃ!」

 

「いきなり何抜かしてるんだこのネカマはwwwwwwwwwwwwwwwwwwww冗談はネカマだけにしとけwwwwwwwwwwww」

 

「ネカマじゃないにゃ~!もう、照れなくてもいいのににゃ(チラ」

 

「きめぇwwwwwwwwwwwwwwきめぇwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

ミスラの狩人である猫狩も弓矢を携えて残る事を決意する。

残る理由に痛風も草笑いにしか出せない。

 

「ご主人も残るだろうしペットも僕も残るかな。怪我しないように後ろに下がってね(´_ゝ`)」

 

「後ろに下がるだけじゃ駄目でしゅ!キャシーしゃん!クロロしゃん!出るでしゅ!(`・ω・´)」

 

獣様は冒険者の鞄から壷を取り出すと、その壷から甲羅に背負い物を打ち込んだ亀と、巨大な黄色芋虫が現れる。

獣様の唯一無二の友達にして、獣使いの使い魔であるキャシーとクロロである。

ただの魔物と思うなかれ、長年に獣様と歩んできた二つの魔物の強さは一級廃人である獣様に迫る強さを持つ。

そしてエルドナーシュは空中に浮かびながら子供の身には収まりきらぬほどの魔力を開放する。

 

「くだらない事をしてくれるね。僕の玩具を自分のように使うなんて気に入らないよ」

 

目の前に立ち塞がる機械兵器。

それは幻想の存在とはいえども、エルドナーシュが生み出したモノに変わりはない。

自分の玩具は自分だけに許される。

唯我独尊を地で行くエルドナーシュにとって、目の前のオメガは気に入らないの一言だった。

 

「ならここは任せるんだが?お前もナイトなら精々頑張るべき」

 

「おkkwwwwwwwwwwwwwwwwwwww霊夢ちゃんも俺の活躍に惚れ直してねwwwwwwwwwwwwww」

 

「それはないから安心して死んで逝きなさい」

 

「オウフwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

そもそもこれから別れるのにどうやって内藤の活躍を見れるのか。

オメガは内藤達を完全に敵と認識し、先に進もうとするブロント達は視界に入っていない。

巨大な体躯に似合わぬ速度でもって襲い掛かろうとした。

 

「ルミニアン、オメガ……となると次は……」

 

「あれ……だろう、な……」

 

オメガの相手を内藤達に託し、もしもこの先にまだ敵がいるとなるとアルドは考える。

ジャボスも察したようで、もう薄々感づいている。

狭く入り組んだ道を越えていき、少し広めの通路へと躍り出る。

この先を更に進んだ先に行けばアル・タユの最深部である、母なるクリスタルが眠る場所へと辿り着ける。

 

その広場の中央に、五人の人影が待ち構えるように立っている。

真っ白な肌、対となる真っ黒な武具、感情を宿さない赤い瞳に生気を感じさせぬ白髪。

クリスタルの五戦士である、アークエンジェル。

 

「ここは俺達が引き受けよう。お前達は先に行け」

 

「ぶろんと殿、先は任せたでござる」

 

「俺も戦うぞ。来い、mikanたん!」

 

避けるという文字はない。どの道戦わなければいけないモノなのだ。

ザイドは暗黒騎士に違わぬ漆黒の大剣を背中から抜き取り、ゲッショーもまた刀を構える。

孤高の竜騎士もまた、己の相棒である飛竜を呼び出し、愛用の長槍を手に取る。

残るのはザイドとゲッショーとリューサンだけではない。

ルーヴランス、マグ、アルドもまた、アークエンジェルの相手をする気なのだ。

しかし相手は計り知れない強さを持つクリスタルの五戦士。

いくら『虚ろ』によって強化されたトゥー・リアでの戦いより弱体化してるだろうアークエンジェルとはいえ、この人数ではまだ心もとない。

 

「プリッシュ……」

 

「……わかった、あいつらの力になってくれ」

 

「さすがに五人もいるんだ。私達も手を貸そう」

 

「……ま、どの道加減しても倒せる相手じゃなさそうだし」

 

歌姫であるウルミア、竜騎士であるナズーリン、そしてコルセアである鈴仙・優曇華院・イナバ。

この三人もまたアークエンジェルの恐ろしさを理解したばかりであり、だからこそ手を貸さなければアルド達が負けてしまう可能性があるのを分かっている。

 

「おいィ……お前ら……」

 

「行け、ブロントさん!プリッシュ!私達に構うな!」

 

マグもまた飛竜を呼び出し、上空からの攻撃にアークエンジェルへと狙いを定める。

バレバレの攻撃に難なく回避し、たった一人で敵陣へと舞い降りたマグへとアークエンジェル達はマグに向けて一斉に武器を振りかざす。

 

「させん!」

 

「ぐぅ!重いな!」

 

マグが切り裂かれる前に飛び出していたのはザイドとリューサン。

ザイドがガルカの大太刀とタルタルの鎌を両手剣で防ぎきり、リューサンはヒュームの二刀剣とミスラの片手斧を防ぎきる。互いの武器が重なり合うとその衝撃は通路全体を揺らす。

そして残ったエルヴァーンの刃はマグに届くことなく、持っている両手槍によって剣を持つ腕を貫かれていた。

 

「行ける!攻撃が通るぞ!」

 

『虚ろ』があればあるほど無限の力を手にするアークエンジェルであるが、逆に言えば『虚ろ』を消費していれば強いだけの人型兵器でしかない。

強くても傷つけられないのと、強くて傷つけられるのでは大きな違いがある。

少なくとも、クリスタルの五戦士に勝てる可能性はあるという可能性を示した。

 

「行こうぜ、ブロントさん!」

 

「……おう!」

 

本来であれば、ブロントも戦いたかった。

騎士である彼は守る事こそナイトの仕事であり、アークエンジェルと戦おうとする者達も守らなければならないのだ。

しかしできない。

ブロントは先に進まなくてはならない。

この先にいるナグモラーダを倒すために。

魔理沙の声にブロントはするべき事を再確認し、アークエンジェルとザイド達の戦いを切り抜けて更に更に奥へと進んでいく。

 

「この先の移送陣だ!」

 

厳重な警備があるわけでもなく、円陣が描かれた部屋へと辿り着く。

この移送の転移をする事で、ようやく最下層へと辿り着けるのだ。

 

「数、一気に少なくなっちゃったわね」

 

「まあな」

 

何十人もいたはずなのに、それぞれがブロント達を先に進ませるために足止めとなった。

今いるのはブロント、プリッシュ、霊夢、魔理沙の四人だけだ。

移送の先を超え、目に付くのは代わり映えのしない乳白色の部屋だけ。

部屋に出れば長い長い通路だ。この先にナグモラーダがいる。

 

「あいつは!」

 

「あれはなんですかねぇ?俺のログには何も無い……いれ夢と丸さに似てる?」

 

通路の塞ぐ様にいるのは、アークエンジェルと酷似した人型だった。

しかしアークエンジェルのようにアルタナの五種族ではない。ブロントのよく知る巫女と魔法使いをそのまま象ったような何かがいる。

感情の無い赤い瞳がこちらを見てくると、敵意の無さが逆に不気味に覚えた。

 

「ブロントさん、プリッシュ。どうやらあいつらの相手は私達がするみたい」

 

「行ってくれ。すぐに追いつくからよ。アクティベート!!」

 

箒に跨りながらオートマトンを起動させ、霊夢もまた自分にそっくりなアークエンジェルを睨み付ける。

正体の分からぬ謎の敵にブロントは答えが出せぬが、先に動いたのはアークエンジェルであった。

 

「おいやめろ、馬鹿!」

 

ブロントですら動きを捉えきれぬ速度でもって、霊夢と魔理沙を何処かへと連れ去ってしまったのだ。

いや、あれは動きなどではなく、どちかというと転移にも近い。

つまり霊夢達はアル・タユの何処かへと転移されたのだ。

 

「……ここは?」

 

霊夢が気付くと、巨大な広間にいる事に気付く。

弾幕ごっこぐらいなら行えそうなぐらいに広い。

ここに連れてきたアークエンジェル……自称ハクレイレイムは感情の無い笑みを浮かべながら大幣にも似た巨大な剣を手に取り、こちらへと刃を向けている。

魔理沙もまた、同じように自分にそっくりなアークエンジェルと戦おうとしているのだろうか。

 

――サァ、遊ビマショウ?

 

「……上等じゃない。今から泣いて謝っても遅いわよ、私!」

 

目の前のハクレイレイムが博麗霊夢であると嫌でも理解してしまう。

細部に違いが存在しても、鏡合わせのように感じてしまう敵。

気持ち悪さがありながらも、膨大な霊力を練り上げて目の前の敵を叩き潰す事だけに集中する。

加減をしてどうにかなる相手ではない。

自分自身だからこそ分かる、本気を出さなくては勝てない真なる敵が霊夢に襲いかかろうとしていた。

 

残されたブロントとプリッシュ。

もはやたった二人で奥地に進まなくてはならない。

心配もある。だが、心配ばかりもしていられない。

それに霊夢と魔理沙を知っているからこそ、例え謎の敵に出くわしても負ける事などないはずだと信じられる程度の信頼関係は築いている。

わずかな不安を抱えながらも、ようやくアル・タユの最深部へと辿り着いた。

 

「……ほう、ようやく来たか」

 

「ああ、ようやく来てやったぜ!」

 

最深部は不可思議な光景だった。

上を見上げれば暗黒の空間に数多の星々が照らし続け、下を見下ろすと地上らしき風景が見える。

そして中央に輝くのは命の輪廻を司る母なるクリスタル。

あれもナグモラーダが生み出した幻影だと分かっていても、母なる温かみを感じさせるのはとても偽者だと思えない。

 

その母なるクリスタルの前に、一人の男がいる。

此度の異変の黒幕であり、ヴァナ・ディールでは死したはずの古代人の生き残り。

幻想郷の持つ、幻想となったモノが流れ着く特性によって生き延びたナグモラーダ。

虚ろなる闇に呑まれて消えたはずのプリッシュ、そしていないはずのブロントが来た事に対しても、まるで来ると分かっていたと言わんばかりに落ち着いている。

 

「そうだ!セルテウスは!?」

 

ナグモラーダと同じ時代を生きた古代人の生き残りにして、不死鳥の力を宿すセルテウス。

彼は一足早く、少しでも世界の消滅を邪魔するためにナラグモーダの元へと向かったはずだ。

道中の道で出会う事が無かったのでもう先についているのか。

そう思ったプリッシュはあたりを見回す。

そして見つけた。

人間よりも大きなクリスタルに、数多の剣と槍によって串刺しにされるセルテウスの姿を。

 

「セルテウス!」

 

「これちょとsYれにならんしょ……!」

 

人間であるなら致命的な致命傷を通り越してすでに死を迎えているはずだ。

心臓、腹、両腕、更に不死鳥の羽にも縫いつけられる形で突き刺さっている。

急いで駆け寄るプリッシュとブロントの手によって剣を抜き取ろうとするが、ブロントはある事に気づく。

 

(……?この剣、何処かで見た事があるんですがねぇ?)

 

しかし考えるのは後だ。

剣を抜き取れば血が噴出するが、それは一瞬で塞がっていく。

不死を司る霊獣フェニックスの力を宿すセルテウスにとって、人間にとっての死は致命傷にはなりえないのだ。

 

「ごふ、っがは……!プリッシュ、に……ブロントさんか……」

 

「セルテウス!なんでお前がこんな!」

 

「気をつけろ!奴は、ナグモラーダの力はもはや以前の奴ではない!」

 

「e?貧弱一般古代人の雑魚がセロリウスを圧倒するのは考えにくいんだが……」

 

セルテウスとて不死鳥の力を宿しているとはいえ、その強さはプリッシュに迫るほどだ。

そしてナグモラーダの強さはお世辞に言っても、そこらの冒険者にも劣る程度でしかない。

元々戦うための訓練をしたわけでもなく、現代に置いても主に実務や政治などの仕事をしていたのだから当然だ。

ナグモラーダの真価はあくまでもその古代人としての優れた知恵であって、ここまでセルテウスを痛めつけるほどの力は手にしていない。

 

「ナグモラーダ……!お前、いったい何が目的なんだよ!?なんで二つの世界を消そうとしやがる!」

 

「……プリッシュ、お前は平和の意味を考えた事があるか?」

 

「あぁ??」

 

質問に質問で返され、プリッシュは困惑する。

そもそもプリッシュの知るナグモラーダは平和などと言うような男ではないのだから尚更だった。

 

「誰もが優しく、誰もが慈しみ、種族の差を分け目無く暮らしていける世界……」

 

「お前、何を言ってるんだよ?」

 

「私はそれを目指そうとするのだよ、この偽りの世界を消す事によってな」

 

プリッシュには分からなかった。ナグモラーダの言っている事が。

平和の世界を目指す。それは結構な事だ。

ヴァナ・ディールの世界は数十年の昔に争い続けていた。決して、冒険者が気軽に世界を行き来できるような世界ではなかった。

水晶大戦を得てから各国は協調を果たしたとはいえ、それでも近年になっていざこざは絶えない。

平和である世界を享受できる時代になりながらも、再び戦乱の時代は迫るつつある。それがヴァナ・ディールの現実だった。

 

「お前マジでふざけんなよ?平和平和と言いながらそれを盾に世界を消滅させられる怒りを知らないのかよ。

世界にナメタ事を仕出かすお前のやり方に俺の結構ウデの血管が血走ってやばいダークパワーもオーラとなって出そうになる」

 

「ふん、そのダークパワーとやらも、真の歴史から手に入れた力の癖によく言う……いや、お前には忘れている事か」

 

「だいたいなんで平和とやらが世界の消滅に繋がるか理解不能状態なんですわ?お?」

 

ブロントの言い分は最もだった。

平和を望むというのならそれ相応のやり方を示せればいいのだ。

ナグモラーダとて無能ではない。むしろ古代人としての優れた才能を生かして政治的な能力に発揮すれば、間違いなく理想に届けるはずだ。

 

「私は見たぞ……母なるクリスタルに還り、その果てに歴史を見たのだ。世界の歴史、神々の時代から人間が紡ぎ上げてきた歴史の数々を……」

 

ナグモラーダは一度、母なるクリスタルへと還った。

プロマシアの肉体である、アル・タユに封印されていた「世界の終わりに来たる者」を開放し、取り込まれた。

そして復活したプロマシアはブロント達によって倒され、ナグモラーダの魂は母なるクリスタルへと還元され、新たなる命になるはずだった。

 

「戦乱の歴史、留まる事を知らぬ人間の欲望、嘘と偽りに塗り固められた世界、そして世界そのものが、女神の箱庭である事も知ってしまった!!」

 

「ナグモラーダ、お前は……」

 

「この世界は駄目なのだ!どれだけ理想を唱えてもその世界に生きる者達が壊そうとする!

そして女神の作り上げてしまった箱庭である以上、それは現実になり得ない!所詮は、嘘でしかない!理想は理想のままで終わってしまう!」

 

プリッシュはほんの少しだけ思っていた。

プロマシアの決戦の後、ナグモラーダの魂にも女神の愛は届いていたはずだと。

もしかしたら、戦わずに終わらせる事が出来るかもしれないと。

それは戦う前から叶う事はないと知ってしまう。

ナグモラーダの目に、止まる事は決してないという強い意志が感じ取られる。

 

「そうだ、だからこそ私は決めた!母なるクリスタル、そして大地の記憶である『虚ろ』!この全てを吸収する事によって、私自らが「母なるクリスタル」になる事を!」

 

「はぁ!?」

 

「おいィ!」

 

とんでもない事を言い出すナグモラーダに、プリッシュもブロントも驚きの声を上げてしまう。

神になる、というレベルではない。

母なるクリスタルは世界を生み出し、神々を生み出し、その光は世界の全てを照らした正に創造主の如き存在だ。

神を超えた原初たる存在になる。それこそがナグモラーダの目的だったのだ。

 

「そんな事できるわけねぇだろ!」

 

「できる!二つの世界をぶつけ、真なる歴史と偽りの歴史ごと消滅させれば膨大なエネルギーが生まれる。

そのエネルギーはこの世に存在するあらゆる世界を消し飛ばし、後は私そのものをコアにすることで新たなる母なるクリスタル、そして世界の誕生となる!」

 

「そのための器が、プロマシアというわけか……!」

 

如何に傷そのものが治っても、失った体力と血までもが戻るわけではない。

まだ顔が青いセルテウスは一種の確信を持った言葉に、ナグモラーダは肯定するかのように頷く。

 

「その通りだ。神であるプロマシアの肉体を私の肉体にすれば、ただの人間に成り下がった私でも母なるクリスタルのコアを勤められる。

そして、そのときこそ私の……イブノイル様の理想を私が叶えるのだ」

 

「イブノイル様はそんな事、望んではいないっ!!」

 

セルテウスとてイブノイルの理想は知っている。

彼も明星の巫女を敬愛する元クリューの民の一人。イブノイルの理想は尊いものだと分かっている。

だからこそ、ナグモラーダの凶行を止めなくてならない。

たとえ彼の言うとおりに世界が平和になるやり方だと仮定しても、二つの世界を消滅させる事がイブノイルが望むものだと思えない。

 

「何かお前は鬼の首取ったように平和平和と粘着してようだが時代は進んでいる俺達がこうして立っている事で生まれた新たな絆すらも否定する気かよ」

 

「ブロント……!再び私の前に立ち塞がる気か!」

 

「一級廃人の俺にナメタ口を叩く貧弱一般古代人のお前はもう命が危険で危ない覚悟しろよ?このグラットンで多くの馬鹿をバラバラに殺してきた」

 

暴食の魔剣であるグラットンソードを抜き取り、戦いの構えに入る。

もはや戦わないという選択肢はない。ナグモラーダを倒さない限り、世界の消滅は止められないのだ。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

足に力を込めて爆音を響かせながらナグモラーダとの距離を詰める。

手加減も情けも無用。

一撃で持って仕留める勢いで上段から勢い良く切りかかる。

貧弱一般古代人であればこの一撃で持って片がつく。そのはずなのに、セルテウスは叫ぶ。

 

「駄目だ、ブロントさん!奴は――!」

 

「無駄だ、以前の私だと思うなァ!!」

 

無防備であったナグモラーダの周囲に展開される四角形のパネル。

それは幾重にも重なりながら一枚の盾となり、剣と盾がぶつかりあって轟音を響かせる。

剣の衝撃がブロントの腕全体に伝わりながらも、盾には罅すらも入っていない。

 

「そるは!?」

 

「呆けてる暇はないぞ、ブロントォ!!」

 

光の粒子が集い、ナグモラーダの左手には一つの剣が生まれる。

両刃の長剣でありながらも美しき名剣だ。だが、ナグモラーダが剣を使うところなどブロントは見た事がない。

 

「砕けるがいい!光輪剣!」

 

剣に集うのは膨大な光。

ダークパワーすらも飲み込みかねないほどの光が集められ、輝きを増した剣をブロント目掛けて振るう。

光の刃と化したそれにブロントは盾を前面に出しながらの完全防御の構え。そうしなければ防ぎきれない技だと知っているから。

接触の瞬間に光の大爆発が発生し、圧倒的な破壊力で持ってブロントを吹き飛ばす。盾で致命的な致命傷は防いだとはいえ、立ち上がる拍子に血反吐を数度吐く。

完全には防ぎきれなかった。内蔵の何処かを傷めてしまったらしい。

 

「ブロントさん!ケアルⅢ!」

 

「ぐっ……その技は……」

 

プリッシュからの癒しの風によって傷は回復するも、ありえないような目でナグモラーダを見る。

一枚の盾となったパネルは何十何百に分裂し、ナグモラーダを守るように展開されている。

そして黄金の鉄の塊であるブロントを吹き飛ばした先ほどの一撃。あれは、ジラート王家の王子が使っていた技ではないか。

 

「気づいたか……当然だな。貴様はジラート王子と戦った事があるのだ。ならば、この技も当然知っているだろう!」

 

光の次に纏うのは旋風。

斜めから構え、そのまま横薙ぎで振りぬくと暴風の刃となってプリッシュとブロントに襲い掛かった。

プリッシュの盾になるようにブロントが前に出ると盾を構えて防ぎきるが、風の刃が鎧の隙間を引き裂いて血飛沫を出させる。

白銀の鎧に染まるのは鮮血。それでもナイトとしての意地なのか、攻撃を食らった程度では少しも怯んではいない。

 

「王子の技までも使うのか!?」

 

ナグモラーダの使っている技は、ジラートの王子であるカムラナートだからこそ可能なる王家の技だ。

セルテウスとてカムラナートの強さは知っている。兄であるエルドナーシュに劣るとはいえ、接近戦に限れば神々に迫るアークエンジェルを上回る強さを持っているのだ。

そして彼を守っているパネルもまた、エルドナーシュが好んで使っていた己を守らせる兵器の一つ。エルドナーシュの持つ膨大な魔力だからこそ稼動ができる代物だ。現にブロントの本気の一撃を防ぎ切っている。

それは戦う力を持っていないはずのナグモラーダが使えるモノではない。

 

「言っただろう、私は大地の記憶を吸収していると。大地の記憶とは、この世界に生きてきた者の歴史であり、力であり、生きた証明なのだ。ゆえに……」

 

ナグモラーダの右手に集う光は剣となる。

それはセルテウスを縫い付けた剣の一つであり、何者にも犯せぬ白銀の刃と澄み切った青い刀身を持つ聖剣。

古代から語り継がれるレリックの一つ。聖剣エクスカリバーであることに、ブロントはようやく思い出した。

 

「反則すぐる!チートは犯罪だぞ紀伊店のか!」

 

「臆したか、ブロント!そうだ!今の私は神々の時代からの歴史を味方に付けている!もはや私に勝てる術などない事を知れ!!」

 

魔剣と聖剣がぶつかり合う。

両者の力はまったくの互角。いや、むしろブロントの方が押されているほどだった。

世界の歴史を吸収する、という事は、世界に生きた人々の力をそのまま手に入れているのと同義だった。

互いの剣をぶつけ合い、力で押せぬというのなら剣術による腕前はどうか。

幼少の頃から騎士としての鍛錬を重ね、更に長年の冒険者家業によって鍛え上げたブロントの剣術は達人の域に到達済みだ。

しかしその剣術にしても段々とブロントが押され始めていく。

剣の速度が、剣の重みが、剣を握った事がないはずのナグモラーダに負けている。

 

「一人だけ相手にしてるつもりかよ!」

 

「ぬっ!」

 

ナグモラーダの敵はブロントだけではない。

プリッシュが拳を固めて殴りかかろうとしている。

数多のパネルがプリッシュを押し潰そうとするが、それを拳と蹴りで持って次々と粉砕していく。

重ねられたパネルの強固さはブロントの一撃を防ぐようだが、一枚一枚はさほどの硬さではない。

バラバラになっていくパネルを乗り越え、もうすぐ辿り着こうとする時だった。

 

「甘いな、砕いた程度で!」

 

「げぇ!?」

 

砕かれたパネルは再構成を果たしたのだ。

再構成されたパネルはプリッシュの身体に固定されるようになり、身動きが取れない。

残ったパネルを全てブロントに押し付けて、聖剣の輝きが増す。

レリックの持つ力が余波となってナグモラーダの肉体が強化され、それは奇跡の一撃となってプリッシュに襲い掛かる。

 

「ナイツオブラウンドッッ!!」

 

「ぐおぉぉ!」

 

「ブロントさん!?」

 

十一の光が一つとなって、闇を引き裂いて未来を導くはずの聖剣の一撃は身動きの取れないプリッシュではなく、かばうようにきょうきょ駆けつけたブロントが肩代わりをした。

盾で防ぐ事が間に合わず、己の肉体を盾にしてまで防いだが、聖剣の一撃は如何にブロントと言えども軽くは済まされない。

鎖帷子となっている白い鎧は容易に引き裂かれ、胴体からは多量の血が噴出する。

聖剣はブロントの血によって赤く染まり、そのままトドメを指すべくナグモラーダは剣を突きたてようとする。

 

「させん!フェニックス!!」

 

ようやく肉体の再生を終えたセルテウスの炎がナグモラーダ目掛けて放たれた。

不死鳥の炎は全てを癒す一方で、破壊の力を込めれば全てを焼き焦がす炎にもなり得る。

それを知ってか、トドメを指そうとしたナグモラーダはバックステッポをしながら回避をしてブロントから離れる。

そのまま炎はブロントとプリッシュまで燃え上がろうとする。

心配は無用。

ナグモラーダには魂すらも燃やす破壊の力であっても、ブロントには癒しの炎でしかない。

プリッシュを束縛していたパネルは炎によって消滅していき、ブロントの傷もふさがっていく。

 

「油断をするな、二人とも。ナグモラーダの力を侮れば我らの敗北は必至だぞ」

 

「ちっ、確かに焦って戦えば今のあいつには勝てねぇな……」

 

「汚いなさすがナグモラーダきたない!これで俺も古代人は嫌いになったなあいつ絶対忍者だろ……」

 

ナグモラーダはすでにブロント達の知る貧弱一般古代人ではないのだ。

剣術に関しては一級廃人であるブロントを凌駕し、更にレリックすらも使いこなしている。

恐らくそのレリックすらもナグモラーダの記憶……正確に言えば大地の記憶から生み出した幻影なのだろうが、それでも破壊力に関しては本物と同等だとブロントの身体で実感した。

 

「どうした、来ないならこちらから行くぞ!」

 

「!」

 

聖剣に集うのは光ではなく、光すらも飲み込もうとする闇だった。

剣の形は変わっていき、刀身がギザギザとした漆黒の長剣へと変貌していく。

それは暴食の名を冠する禍々しき魔剣。ブロントの魔剣と酷似しているその名は、グラットンソード。

 

「ダァァァァク、パワァァァァ!!」

 

「ダァァァァクパワァァァァァ!!!」

 

古代人と騎士から闇が放出された。

本来は光の力を持つナイト以外が持てば頭がおかしくなってしまい、ブロント以外には使いこなせない闇の力。

ナグモラーダの放つダークパワーとブロントの放つダークパワーは拮抗し合い、闇色の爆発が起こる。

 

「ええい、さすがに使い慣れているあちらの方がまだ上か!」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

なぜ相手もダークパワーが使えるのか、そんな考えを無視してブロントはそのままナグモラーダへと切りかかる。

魔剣と魔剣、大気を揺さぶるほどの衝撃をしながらぶつかり合う。

ナグモラーダの持つグラットンソードは間違いなく、ブロントの持つ魔剣と同様だった。

 

「こっちが礼儀正しい大人の対応してればつけ上がりやがって!窃盗は犯罪でFA!」

 

「ならばどうする!?」

 

「こうすんだよ!くっだけろぉ!!」

 

魔剣同士の鍔迫り合い最中に空中からプリッシュの蹴りが襲い掛かる。

リアルでモンクタイプであるプリッシュの蹴りは凶器であり、まともに食らえば如何にナグモラーダでも戦闘不能は必須。

しかしナグモラーダを守ろうとするパネルが幾重にも重なり合い、一枚の盾となって防ぎきる。

ばらけた状態でのパネルでは防げないと判断してこそだろうが、プリッシュの攻撃は届かない。

 

「ギガトン……」

 

「しまっ……!」

 

一瞬の隙を作るには十分に過ぎた。

ブロントの右手は魔剣で持つ事に塞がれているが、左手は開いている。

バチバチと雷撃を奏でる音が左腕に纏まり付き、雷撃の左拳をそのままナグモラーダへとお見舞いした。

 

「パンチッッ!!」

 

「ぐふっ!」

 

「追撃のォォォォ!グランドヴァイパァァァ!!」

 

左手に持つカムラナートの剣で防ごうとするが遅い。

雷撃によって反応速度が上昇した左拳のギガトンパンチはそれよりも早く左脇腹へと突き刺さった。

気持ちのいいまでの拳のインパクトにナグモラーダの顔が歪み、そのまま更に魔剣を弾いた拍子に己の剣を腰に収め、神速の拳を顎へとヒットさせた。

神速の勢いで放たれた右拳は異常な摩擦熱によって炎を纏う事により、ダメージは更に加速する事になる。

 

「その身に刻め!リヴァレーション!」

 

「くっ、守れ!イージスよ!!」

 

冒険者であるブロントの一撃を食らいながら、ナグモラーダの顎は砕けていない。

むしろ傷一つ付いていない事にセルテウスは驚嘆しながらも、フェニックスの力を借りる事で四本の聖槍を生み出し射出する。

だがその槍は届くことは無い。

プリッシュの攻撃を防いだパネルではその槍は貫通するだろうと判断したナグモラーダはパネルを変質させる。

王の如き顔が彫られ、古の時代から語り継がれる黄金の盾となり、セルテウスの聖槍を防いだのだ。

 

「……やるな、まさかここまで手こずるとは……」

 

「もう謝っても遅いお前は至高のナイトを敵に回す事で三度の死を迎える事になる大人しく三度の河に渡れ」

 

「へっ、てめぇ一人が幾ら強くても俺らを何処まで相手にできるよ!」

 

確かにナグモラーダは強い。

大地の記憶を吸収したナグモラーダはブロントやプリッシュを凌駕する力を手にしていると過言ではないだろう。

しかしブロントとて自分より強い相手は腐るほど戦っている。

プリッシュも、そしてセルテウスも同様だ。

超えられぬはずの男神の呪縛すらも乗り越えた彼らにとって、ナグモラーダのようにただ強いだけの個人に諦めてしまうようなやわな心は持っていない。

 

「絶望をくれてやる」

 

「一人で駄目なら三人はどうだ?」

 

「これでも尚、お前達は抗うか」

 

ナグモラーダが増えた。

プリッシュですらぽかんと口を開けて呆けてしまう。

いったい、どうやったらそんな反則をできてしまうのだ。

虚ろなる闇が集い、それは人型になるとナグモラーダと瓜二つの幻影が二体現れる。

本物を含めてナグモラーダが三人となってしまったのだ。

 

「ま、まじかよ……」

 

「塵芥も残さん。我が真世界から等しく去ね」

 

「おいィィィィ!?それは紫の!?」

 

三人のナグモラーダが腕を上げると、何十何百何千の空間の亀裂が生じる。

その亀裂は、まるで隙間のように広がっていく。

隙間から見えるのは怖気の走る瞳の群れ。間違いない。ブロントの記憶通りなら、それは幻想郷の賢者だけが扱える隙間を操る力。

 

「唯一むにの盾ッッ!!」

 

その隙間から放たれる弾幕も知っている。

一発一発が致命的な致命傷を与える弾丸でありながら、何千という数すら生温い弾幕結界によって敵を葬り去る八雲紫のラストスペル。

 

「「「紫奥義「弾幕結界」」」」

 

防げるのはもはや自分しかいない。

プリッシュもセルテウスも押しのけて己の身を盾にする。

女神に祈り、受け取るは盾として無敵になれる祝福の加護。

そして、轟音と共に弾幕の群れがブロント達に襲い掛かる。

 

ヴァナ・ディールだけの虚ろだけではない。

幻想郷の虚ろすら集め、吸収したのだから……当然のように、ナグモラーダは幻想郷の能力すらも会得していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

汚い忍者は己を鍛える事には妥協はしなかった。

最大の効率という言葉が前提が入るが、宿敵である騎士を妥当するのに力は必要である。

いや、騎士を倒すだけではない。

メイン盾として活躍するためにも己の実力が低ければ盾をこなす事は不可能なのだ。

ヒキョウな手段も使う。

汚い事だって進んでやる。

だが、最後の最後で役に立つのは自分の力だ。

だからこそ、こうした真正面からの戦いだって汚い忍者からすれば問題は無い。

むしろ冒険者としてはこれが忍者という職であっても普通なのだ。

 

「迅!」

 

力を込め、非力な忍者でありながらも渾身の一撃となる技を繰り出す。

三つの斬撃が花にも似たルミニアンを引き裂き、次なる標的を目線越しから見つめる。

 

「ほぉらよっと!」

 

背後から迫ろうとする鳥人間にグレネードを投げつける。

爆発音が響きながらも鳥人間の白い身体には傷一つ付いていない。所詮は火薬を用いただけの玩具だ。

生物相手にならともかく、生物ですらないルミニアンには効果は望めない。

しかしほんの少しだけ怯ませる事ぐらいはできる。

 

「天元ッ!」

 

そのほんの少しだけでも態勢を整える事ができる。

鳥人間は汚い忍者を改めて視覚に収め、拳を振り上げようとするのに一瞬。

その一瞬の隙を突いた。

 

「突破ァァァ!」

 

足をバネのようにしながら飛び出ると回転を加えながらの斬撃で鳥人間を切り捨てる。

先ほどの花もそうだが、幻想郷で戦ったアビセアンと同じように光の粒子となって消えていく。

 

「さぁて、次は……!」

 

絶好調だった。

一級廃人としての力は伊達ではない。もはや真世界に蔓延る魔物でも数で来ても問題ないぐらいに戦える。

忍者こそが最強である。その事を十分に感じ取りながらも、勝手に足止めをしようとしたガルカの戦士の戦い方にその考えは吹き飛ばされた。

 

「おらおらおらおらぁぁぁぁ!!」

 

両手斧を振るう度に暴風染みた風が汚い忍者までに届く。

そこまでの力が込められた斬撃ともなれば、ルミニアンは何も抵抗無く引き裂かれていくだけだ。

巨大な壷も真っ二つに叩き割れ、パネルのようなルミニアンも一枚も残さない勢いで叩き潰される。

 

「ちぃ!きかねぇ!きかねぇぞ!!」

 

しかしジャルベリンは生粋の戦士だ。

汚い忍者と違って身軽なタイプではなく、どうしても攻撃は食らってしまう。

エイに似たルミニアンから魔法を食らって火傷を被い、イカのようなルミニアンから触手で身体を貫かれ、咲き開いた花が回転しながら全てを切り裂く刃となってジャルベリンの肉体を断とうとする。

しかし屈しない。しかし倒れない。しかし戦意は少しも衰える事はない。

ガルカの強固な肉体、そして戦士としてのタフネスぶり。

それが遺憾なく発揮されている。

 

「纏めて潰すッ!スチールサイクロン!!」

 

汚い忍者が"迅"を使う時以上の"気"が両手斧に注ぎ込まれ、地面を叩き割る勢いで押し潰すと両手斧を主軸に竜巻が発生する。

サイクロンの名に恥じぬ竜巻に次々とジャルベリンの周囲にいたルミニアンは巻き込まれていき、切り刻まれ、押し潰され、塵一つ残らず消滅していく。

終わってみれば圧勝のいい所だ。

スマートにかつ消耗をせずにいた汚い忍者と違い、敵の攻撃を受け続けたジャルベリンは血塗れになっている。

それでもごり押しにも等しい戦いによってルミニアンを倒した量はジャルベリンが上回っていた。

 

「がっはっはっは!やっぱり俺らの敵じゃねぇな、ノブオ!」

 

「いてぇよ、馬鹿!馬鹿力で叩くんじゃねぇ!」

 

バシバシと力強く背中を叩いてくるジャルベリンに嫌な顔をしながらも、背中の忍装束にべっとりと付くのは血だった。

平気な顔をしながらもジャルベリンの傷は深い。鋼鉄の篭手から滲み出るほどに血が流れているのだ。

ジャルベリンの強さは、汚い忍者が最後に見た時よりも廃人装備も無しに遥かに強くなっている。

それでも戦士としての弱点でもある、鈍足に近いまでの遅さは改善し切れなかったようだ。

 

「ちっ、めんどくせぇな……汚符「汚いマジックフルーツ」」

 

「ん?うおお!?」

 

汚い忍者の持つ、幻想郷で得た新たなる力。

それは自分の理解できるものであれば他人の能力を見るだけでコピーする事ができる。

甘そうなフルーツが汚い忍者から飛び出ると、それはジャルベリンの身体に吸収される。するとジャルベリンの傷が塞がっていくのだ。

 

「なんだ、お前。青魔道士にでもなったのかよ?」

 

「あ?馬鹿言え。俺が、んな薄気味悪いのになるかよ」

 

先程の力は妖怪の住まう妖怪の山、戦神を祭る守谷神社の巫女からコピーしたものだ。

ヴァナ・ディールの冒険者からすればそれは青魔道士の使う癒しの青魔法、"マジックフルーツ"だと思うだろう。

しかし青魔道士の使う青魔法は魔物の技であり、魔物の技を使うという事は自らの肉体に魔物を移植させる青魔道士にならなければいけない。

ジャルベリンが誤解するのも無理はないが、汚い忍者は青魔道士になるつもりは毛頭ない。

彼にとってあくまで忍者である事が大事であり、なによりも魔物の肉体を受け入れるのも抵抗はある。

冒険者でありながら魔物の肉体を己に宿す青魔道士は少ない。控えめに言っても、そうした冒険者というのは同じ冒険者から見てもまともではないのが多いのだ。

 

「ま、どんな力か知らんが礼は言うぜ」

 

「けっ!俺がキッチリ活躍したのをブロントの野郎に説明すんのにお前が倒れちゃ世話ねぇんだよ!」

 

もしもジャルベリンを放っておいて汚い忍者だけがブロントに追いついたとしよう。

しかし汚い忍者だけがやってきても、ジャルベリンが不在であれば汚い忍者がルミニアン相手に戦った事を証言できるのはいない。

汚い忍者を知る者がいれば悪名高い事が真っ先に上げられる。仮に汚い忍者だけがルミニアンを倒した事を言っても信じてもらえるだろうか?

信じてもらえるはずがない。汚い事が褒め言葉である彼の評価を考えれば、元仲間を見捨てて一人でやってきたと思われてもおかしくないだろう。

そうした理由もあって、渋々ながらもジャルベリンの傷を回復させたのだ。コピー能力が無ければ回復させる事すらできなかっただろう。

 

「まぁ、いい。用も済んだし、とっとと……!」

 

「なんだ!?」

 

ルミニアンを倒し終え、先に進んでいるはずのブロント達の元へと行こうと矢先だ。

汚い忍者の持つレリック、鬼哭が甲高い音を鳴らしながら揺れている。

 

『主、来る!来るぞ!グラットンと対を成す存在!闇の反対を司る光の守護者だ!』

 

「ああ!?」

 

鬼哭から直接頭に鳴り響く警告の声。

ジャルベリンの目がそれを見た。見えてしまった。

それはルミニアンだ。まだ遠いが、確かにこちらに向かってルミニアンが迫ってくる。

だが身体が震える。まだ遠く離れた位置にいるというのに、それは計り知れない存在だと身を持って感じ取ってしまう。

先程までに戦っていたルミニアンとは桁が違う。

 

『七罪とは反対に位置する七つの徳を司る天使……!』

 

「七元徳かよ!?」

 

「おいおい、まじかよ……」

 

七罪とはブロントの持つグラットンソードを入れた、人間の持つ七つの罪を象徴する武器である。

貪欲のグリードシミター、暴食のグラットンソード、憤怒のラスタバール、色欲のラストダガー、傲慢のプライドスタッフ、嫉妬のエンヴィースピア。怠惰のスロスワンド。

それぞれの武器としての格は決して高くは無いとはいえ、ブロントのように闇であるダークパワーを引き出す事で馬鹿げた力を発揮できる。

しかしそうした事ができるのは稀の稀だ。

ブロントがダークパワーに触れると頭がおかしくなって死ぬと言うように、ブロントのようにダークパワーを使いこなせるのはほとんどいない。

 

そしてその七罪と対を成す存在がある。

人間の持つ七つの徳を司り、ダークパワーとは反対のライトパワーを持ち合わせる真世界の守護者。

節制を司る壷、剛毅を司るパネル体、信仰を司る花、希望を司るエイ、正義と司るイカ、思慮を司る金魚、そして最後に慈愛を司る巨大クラゲ。

その全ての七元徳が少しずつ迫りつつある。

たった二人で相手を仕切れるような存在ではない。

一体一体が一級廃人を容易に屈服させる事ができる真世界の猛者なのだ。

 

一番の選択肢は逃げる事。これが確実だと誰もが思うだろう。

汚い忍者であれば絶対に逃げる。勝てない戦いをするほど馬鹿な男ではない。

だが、逃げられない。

巨大クラゲである慈愛には視覚した敵対者を問答無用に引き寄せる力を持っている。

例え汚い忍者とジャルベリンと逃げようとしても慈愛が認識をしたらアウトだ。一気に引き寄せられて強制的に戦う羽目になる。

七つの徳を司る守護者を、たったの二人で。

 

「……冗談きついぜ」

 

ジャルベリンの口から少しばかりの諦めに近い言葉が漏れる。

せめて一体ずつであれば何とかなったかもしれない。実力的に考えれば、汚い忍者と協力すれば勝てない事はないはずだ。

しかしやってきたのは七柱同時だ。どう足掻いても人手も足りない。

何もできずに嬲り殺しに合う。それが確実だ。

汚い忍者はどう考えているのか。ジャルベリンが汚い忍者に顔を向けると、手に持っている鬼哭から深い闇が漏れ出している。

 

「……もっとだ。それじゃ足りねぇ」

 

『しかし主、これ以上は主の身体が……』

 

「うるせぇ!俺の言うとおりにしてろ!」

 

『承知……』

 

ジャルベリンには見覚えがある。

汚い忍者は鬼哭から己の肉体を強化するための余波アフターマスを引き出しているのだ。

しかし闇が汚い忍者が纏わり付く度に汚い忍者の顔が苦痛で歪んでいる。

明らかに汚い忍者の肉体を超えての強化だ。自分の安全を無視した強化は苦痛しか問わない。それを知らない汚い忍者ではない。

しかしこうしなければ目の前に迫る七元徳と戦えない。

汚い忍者は最初から七元徳と戦うつもりであった。逃げる事が叶わないのなら最初から戦う事を決める。

そうした切り替えの早さもあるだろうが、最大の理由には程遠い。

 

もしも、もしも汚い忍者が残らなければ自分が残ろうとした騎士ならどうする?

愚問だ。

自分に立ち塞がるモノがいるのならば、そこに守るべきモノがあるのならば。

如何なる存在でも戦い抜く騎士を汚い忍者は知っている。

 

本当に忌々しい。

その騎士を少しでも思い出してしまい、その騎士がどうするかを考えただけでこれだ。

馬鹿な対抗心が沸いてしまった。今度こそ忍者がナイト以上に最強であると証明するために七元徳と戦うとする。

あの馬鹿なナイトに出来る事が、最強の忍者にもやれるはずだと。

一年前、メイン盾を抜きにしてキングベヒーモスと戦ったあの時と何も変わっていない。

膨大な闇は汚い忍者の身体を極限まで強化をし尽くし、動く度に激痛に襲われる。限界を超えた余波アフターマス。これなら七元徳相手にも戦えるはずだと確信する。

 

「……行く、ぞ……」

 

「相変わらず馬鹿やってんだね、この馬鹿忍者」

 

ドスンと頭を殴られたような衝撃を伝わった。

空蝉をかけていなかったためにまともに当たってしまい、突然の一撃に余波アフターマスが解け掛けてしまう。

いったいなんだ。どこから攻撃を受けた。そして、あの何処かで聞いた声は何処から……

 

「こっちこっち」

 

「……あ?へぶぅ!?」

 

振り向いた拍子に右ストレート。

鼻を潰される勢いで殴られてしまい、思わず殴られた鼻を押さえてしまう。

そして汚い忍者を殴ったのは、ミスラの冒険者だった。

金髪を真ん中に分け、後ろ髪を二つに分けている。ミスラの例に漏れずに額にはペイントを施されている。

軽装である紫色のハーネス鎧に短剣を装備をしている事からシーフだと分かる。

そして、その顔を見て思い出す。嫌でも思い出してしまう。なんで、お前がここにいるのかと声を出したくても出せない。

 

「おお!隙間の先には見覚えのある所に来たぞ、弟よ!」

 

「まったくだな、兄者!んん!?そこにいるのは……」

 

ミスラの次はヒュームの二人だった。

よく似た顔立ちをしており、兄と呼ばれた者は黒魔道士としてのアーティファクトを、弟と呼ばれた者は赤魔道士としてのアーティファクトを着ている。

 

「こえー!マジこえー!なぁんだよ、あれ!お、ジャルベリンに……ノブオまでいるじゃねぇか!こいつはラッキーだな!」

 

こちらに嬉しさ半分驚き半分で近づいてくるのは黒魔道士姿のタルタルだ。

ヒュームの兄のほうに比べて膨大な魔力があると感じ取れるのはタルタルであるがゆえだろう。

汚い忍者の本名を知りながら近づいてくるタルタルに対して、汚い忍者の頭の処理が追いつかない。

 

「ジャルベリンさん、忍者さん!大丈夫ですか!?」

 

「おお、モイン!久しぶりだなぁ。それにお前達も!」

 

「まったくだぜ!たくっ、こんな時に再会するなんて人生わかんねぇもんだよなぁ!」

 

最後にやってきたのはヒュームの娘だ。

やや赤みのかかった金の髪をポニーテールにし、白と赤を基調に置かれた白魔道士のアーティファクトを着込む者。

ああ、間違いない。汚い忍者の中で結論が付いた。

プリッシュにだが少しだけ話を聞いた。

幻想郷の管理者である八雲紫、そして海賊の頭領の娘ライオンがヴァナ・ディールにいる実力のある冒険者を呼びに行ったと。

それがこれだ。

ブロントと汚い忍者が、ヴァナ・ディールで共に冒険をしていた時の仲間達。

数々の異変を潜り抜けていたヴァナ・ディールでは屈指の実力者としておかしくない者。

 

「久しぶりだね、忍者。似合わない目線なんて付けて何してるのさ?」

 

「うるせぇよ、猫……てめぇこそなんでここに」

 

「そんなの一つしかないじゃん。いつまでも馬鹿やってる忍者とブロントさんに会いに来た、ついでに異変解決にも手を貸す。何かおかしい事でもある?」

 

そりゃ一つじゃなくて二つに増えてるだろ。

心の中で突っ込みを入れながら、かつての仲間達の再会にそれすらどうでもよく思えてしまう。

そして汚い忍者がそう考えている一方で、タルタルのほうは間近に迫る七元徳を見て騒ぎ出している。

 

「おいおい、あれって七元徳じゃねーか!?」

 

「こんな狭い場所にまで来るクラゲには驚きだな!」

 

「丁度いい、ウォーミングアップの相手には最適だ、兄者!」

 

七元徳の姿を見るや否やすぐさま戦闘の構えに入っている。

巨大クラゲの姿を見てから逃げられないと即座に判断したのだろうが、それでもまったく無駄のない切り替えの早さは冒険者としての勘を失っていない証明だ。

かつて、彼らとブロントと汚い忍者が別れて一年も経過していながらも、平和ボケなどはしてない。むしろジャルベリンと同じように実力を高めていたのだ。

 

「みんな、ブロントさんはこの先にいる!だからとっとと七元徳を倒しておくぞ!」

 

「分かりました!女神アルタナよ!我等に祝福の加護を!」

 

「ほんじゃま、久しぶりの再会に忍者の影に隠れますか。腕鈍らせてないでしょうね?」

 

「ふざけろ!誰が腕を鈍らせるかよ!それとブロントの場所に行くみたいな言い方はやめろ!何かむかつく!」

 

ジャルベリンの身体に力が普段以上に漲る。

それはかつての仲間との再会に心を震わせたからか?今こうして、異変解決のためとはいえ、別れた仲間が集おうとしているのだ。

仲間を纏め上げていたリーダーがいない事に悲しさを覚えるが、それでも仲間がいる事に負ける気がしない。

 

癒しの使い手であり、女神に仕えるモワンヌ。

 

忍者の元相棒にして、手癖の悪い盗賊であるフゥ・ソイ。

 

互いを『ブラザー』と呼び合い、兄役であり黒魔道士ヴァイツ・シュリーズ、弟役であり赤魔道士ロート・ベルグ。

 

小さな身体でありながら、何度も得意の魔法によって危機を救ったヴァリバリンバ。

 

かつて、ヴァナ・ディールでは世界を脅かす数々の異変が発生した。

古代人の兄弟が行う神の扉計画。

男神復活による人類の滅亡。

機械神と冥府の騎士によるラグナロク。

それをことごとく解決までに導いた立役者にして、英雄無き時代の英雄とも言われた冒険者が集結した瞬間だった。

 

 

 

「ぎゃわーwwwwwwwwwwww無理wwwwwwwwwwサポシwwwwwwwwwwwww」

 

「無理wwwwwwwwwwwwwメインシwwwwwwwwwwwwww勝てるわけねぇwwwwwwwwwwwww」

 

内藤と痛風が無様に逃げ続ける。

後ろから迫ってくるのは四本足の兵器であるオメガ。

逃げる理由なんてただ一つ。勝てる見込みがないからだ。

オメガの上部装甲が開くと穴だらけの部分から何十何百のミサイルが発射させる。

ガンデットミサイルは誘導式なのか逃げる内藤目掛けて飛んでいき、爆発音と共に爆風で吹き飛ばされてしまう。

そんな状況でも草を生やしながら笑い続けるのはさすがと言うべきか。

 

「さすがに硬すぎるwwwwwwwwwwwwwww掠り傷も与えられねぇwwwwwwwwwww」

 

「うはwwwwwwww俺様のラグナロクとどっちが硬いかなwwwwwwwwwwwwww」

 

「/sh えちょ 内藤のオニオンがどれだけ硬くなってもオニオンはオニオンですしおすしーwwwwwwwwwwwwwミスwwwwwwwwwwwドのふんわりリング美味いよねwwwwwwwwww」

 

逃げ続けるだけはない。

ミサイルを撃ち終わった隙を狙っての急接近。

シーフである痛風、サポシである内藤はわずかな隙を逃さずに俊足を持って近づいて己の武器で切りかかる。

しかし通じない。

力を込めて切りつけてもオメガの持つ鋼の肉体には掠り傷すら負う事は無い。

赤い目が内藤を視覚に入れるとピカリと光る。光った直後にレーザーが内藤のいる場所を薙ぎ払った。

全身武装の兵器は伊達ではない。如何なる距離であっても最適の攻撃をするオメガに隙と言えるのは存在しなかった。

レーザー攻撃を紙一重で回避して再び逃げ続ける。これでは文字通り切りがない。

 

「つかよwwwwwwwwwwwwお前、前に持ってた大剣何処にやったしwwwwwwwwwwwwwwそれクレイモアじゃねーか?wwwwwwwwwww」

 

「それには深い訳があるのだよワトソン君wwwwwwwwwwwww実は俺様が子馬間で門番してた時にwwwwwwwwwwブロントの奴と戦ってねwwwwwwwwwwww

魔理沙たんに俺様の近衛ちゃんサポシされちゃったのwwwwwwwwwwwwwwwwうはwwwwwwwww魔理沙たんは大変なものを盗んでいきましたwwwwwwww俺様の武器ですwwwwwwwwwwww

でも魔理沙たん可愛いから許しちゃうwwwwwwww俺様マジイケメンだねwwwwwwww」

 

「あwwwwwほwwwwwwwwかwwwwwwwwそれでももうちょいいい武器買っとけよwwwwwwwwww」

 

「無理wwwwwwwwwwwwwwwサポシwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

「サポシ関係ないだろ馬鹿wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

内藤が元々愛用をしていた武器は波打った蒼い刀身を持つ近衛騎士制式大剣と呼ばれる両手剣である。

しかし今使っているのはクレイモアという真っ直ぐとした刃の何の変哲もない大剣であり、両手武器というカテゴリーでは最弱に位置する代物だ。

ふざけた駄目ナイトとしての側面が強い内藤であるが、これでも腐っても一級廃人に近い実力はあったりする。

そんな力を出し切れないのは、愛用していた武器ではないのも大きな原因となっていた。

 

「くそったれwwwwwww魔法の通りが悪いぞwwwwwwww漂白時代に逆戻りとか簡便してくれwwwwwwwwww」

 

「矢の通りが全然だにゃ!いくらなんでも硬すぎるにゃ!」

 

内藤達がオメガを引き付けている間に、後衛からは注意を引かない程度に攻撃を加えている。

しかしながらその攻撃はオメガの装甲を貫くに至らない。猫狩の矢は当然として、一級廃人の墨魔道士である糞樽の魔法すら通じない。

これは異常だった。糞樽の知るオメガの装甲は確かに頑丈ではあるが、糞樽の魔法を無効化するほどでもない。

 

「いったいどういう事なのよ♪♪♪^^^^^^^^^あれ作ったのあんたなんだから知ってるでしょ?^^^^^^^^」

 

「さてね。少なくとも"僕の作った"オメガはあそこまで魔法耐性は備え付けていない。あれほどの耐性はアルテマぐらいだ」

 

糞樽の精霊魔法、臼姫の馬鹿げた破壊力のホーリー、更にエルドナーシュの古代魔法。

普通であれば欠片も残さない魔法でも効かないのは、オメガの装甲に施された魔法を無効化する膜が原因だ。

魔法を当てる度に鋼の装甲が緑色のように輝くそれによって、魔法をことどとく霧散化させている。

心当たりはエルドナーシュにはある。

オメガとの兄弟機にして、究極の名を冠する兵器。

アルテマの保有する魔法無効化機能であるマナスクリーンだ。

しかしオメガにはその機能は搭載されていない。オメガは通常兵器で持って敵対者を葬り去るために魔法による機能は最低限しか存在しないはずなのだ。

 

「となるとナグモラーダって奴が改造した感じかwwwwwwwwwwwwwwwこれじゃジリ貧だぜwwwwwwwwwwwww」

 

「うぅ、せっかく残ったのに活躍できないにゃ……」

 

存在しない機能を持っているのだとしたら、古代人であるナグモラーダが改造でも施したのが妥当だと糞樽は考える。

糞樽は直接ナグモラーダと会った事がないためナグモラーダがクリューであるのを知らないが、エルドナーシュと同じ古代人であるなら優れた知恵と技術ぐらいは持っているのは容易に想像できる。

 

「ちょwwwww無理wwwwwwwwwwww」

 

「内藤しゃん!今助けるでしゅ!(`・ω・´)」

 

逃げ続ける内藤であったが、次第にそれも追い詰められていく。

ミサイルの群れが回避不可能な弾道で持って狙いを定める。

危機を救ったのは巨大な蟹だった。内藤の前にすぐさま駆けつけると身を固めるように前爪を盾にする。

ガンデッドミサイルが容赦なく降り注ぐ中、瞬間的に硬化させる蟹の持つ防御術メタルボディによって青色の殻が少しばかり煤で汚れた程度しかない。

内藤よりもナイトらしいキャリーはミサイルの群れから守り通したのだ。

 

「サンキューwwwwwwwww獣様wwwwwwwwwwwあとで俺様の霊夢たん腋写真プロマイドあげちゃうwwwwwwwwwwwww」

 

「い、いらいないでしゅよ(´・ω・`;)」

 

巨大芋虫であるクロロに乗りながらキャリーに指示を下すのは獣様だ。

獣使いの操る魔物は、獣使いの指示によって軽やかな動きを可能にしている。

キャリーの頑丈さは随一であり、防御だけに固めておけばオメガの攻撃は大概は防ぎ切れる。

獣様の役目はクロロに乗りながら場を見極め、キャリーを指示して仲間を守り通す事だ。

攻撃力で言えば武器が貧弱になっている内藤にすら劣るため、後衛に飛んでいく流れ弾のミサイルから守らなければならない。

 

しかし内藤達はオメガ相手に負けなくても決め手が欠けている。

前衛の刃ではオメガの装甲を貫く事ができず、かといって魔法による攻撃も無効化されるので意味はない。

こうなれば必然的に不利になるのは人間である内藤達だ。

機械であるオメガに疲労は存在しなくても、人間である内藤には確実に疲れが生じてしまう。

 

このままでは埒が明かない。このままでは侵入者を倒すのに時間がかかる。

機械的に判断したオメガは後ろ足で立ち上がるように機能を変形させていく。二足歩行のモードとなり、前足は人間の足のようになった。

 

「げぇwwwwwwww変形しやがったぞwwwwwwwwwwwww」

 

痛風が恐れるように声を上げる。

四足に比べて二足のモードに変形すると足の速さが遅くなってしまう。

そうなればサポシの前衛二人が逃げ切るのは容易になるのだが、そうはならない。

むしろオメガの武装が増える事に繋がるのだ。

 

「ちょwwwwwwこっち後ろだからやべぇwwwwwwwwwwww退避退避wwwwwwwwwwww」

 

「にゃぁぁぁぁぁ!!?」

 

後ろを向けたはずのオメガ。その背中からレーザー攻撃が糞樽目掛けて発射された。

身長の低い身体で助かった。とっさに頭を下げてギリギリ帽子が掠める程度であり、掠ったトンガリ帽子が石化していく。

放っておけば自分ごと石化しかねないために、すぐさま帽子を投げ捨てた。投げ捨てた帽子は一瞬で石の帽子になってしまう。

普段は滅多に見る事がない後ろ髪を纏めている金髪が露になるが、そんな事はどうでもいい。

猫狩、臼姫、エルドナーシュですらオメガの背中にいないように移動を始める。

歩行モードとなったオメガは使用できる武装が更に増え、その一つが背中から照射される石化のレーザーだ。

殺傷性が十分なのに加えて掠るだけでも全身石化がされるため、当たってしまえば即座にアウトである。

 

「月光でござるwwwwwwwwwwwなんちゃっウボボボボボボァアアアアwwwwwwwwwwwwwww」

 

「何やってるんだよ、内藤wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

振り上げるような豪快な太刀によって細い月を描く斬撃がオメガの細い足を叩き切ろうとするが、剣と装甲が接触した瞬間に内藤の身体が雷撃に打たれるように痺れた。

オメガには己の肉体に雷撃を纏わせる事で、直接攻撃を仕掛けると雷の反撃を食らわせる機能がある。

痛風はそれを知ってか、歩行モードになってから攻撃を仕掛けていないのに内藤は馬鹿正直に突っ込んだのだ。

そして痺れている内藤に次なる攻撃を食らわせるために、纏った雷撃の鎧を瞬間的に開放した。

周囲一体に雷撃の空間を展開し、押し潰していくスタンキャノンによって内藤と離れていたはずの痛風ですら雷撃に押し潰され、雷が皮膚を容易に引き裂いて焼き焦がして命を奪おうしている。

 

「仕方ない奴らね^^^^^^^^^あとで内藤は200万ギル、痛風は100万ギルよ♪♪♪♪^^^^^^」

 

「ちょwwwwwwwww姫wwwwwwwなんで俺だけ倍なのよwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

前衛が倒れてしまってはsYれにならないのは臼姫だって知っている。

倒されそうになる二人に癒しの魔法をかけ、雷撃による怪我はすぐさま無くなっていく。

倒れそうになりながらも草笑いで叫ぶ力のある内藤に笑い顔を隠せない臼姫。それほど元気ならまだまだ頑張ってくれるだろう。

 

――30………………20…………

 

オメガから何らかのカウントダウンが流れ出ると、オメガの赤い目から過剰までに光が漏れ出そうとしている。

不審に思いながらも糞樽はすぐにそれが何なのか思いつく。

それは撃たせてはならない究極兵器の必殺技の一つではないか。

 

「待てwwwwwwwwなんでこいつがアルテマのシタデルバスター持ちなんだよwwwwwwwwwwwww」

 

「……いや、好都合だね」

 

城塞を一撃で持って粉砕する破壊力を放てば幾ら内藤と痛風でも耐えれる代物ではない。

オメガが持ち合わせていないはずの兵装カウントダウンが始まる一方で、エルドナーシュはようやく運気が回ってきたのを確信する。

 

「あれがアルテマのシタデルバスターと同様なら放つ一瞬、発射口を中心にマナスクリーンの効力が消えるはずだ。

そこに魔法を撃てば幾らオメガでも発射しようとしたシタデルバスターのエネルギーを自分で食らってお陀仏さ」

 

「……その一瞬はどんぐらいだよ?wwwwwwwwwwww」

 

「コンマにも満たない。実行するのが馬鹿げてる。それに失敗すればシタデルバスターと魔法が拡散して僕はともかく、お前達人間は終わりだね」

 

エルドナーシュの提案は自殺行為と同様だ。

シタデルバスターが放たれる一瞬に魔法を放ち、相手を自滅させるという行為。

それが実行可能な魔道士はどれほどいるだろうか?刹那を見極めて魔法を撃たなければならず、失敗をすれば暴走したシタデルバスターの拡散によってオメガの周囲は消滅してもおかしくない。

そんな危険極まりない方法は誰がやるだろうか。

 

「おkkwwwwwwwwwwwwwwまwかwせwなwさwいwwwwwwwwwwwwww囮なら任せろー(バリバリwwwwwwwwwwwww」

 

「内藤wwwwwwwまずはこいつの視線をあいつらに向けるぞwwwwwwwwwwwwwwww」

 

「クロロしゃん、キャリーしゃん!オメガしゃんの足を狙って少しでも態勢を崩しておくでしゅ!(`・ω・´)」

 

「狙い撃ちなら任せろだにゃ!狩人の意地を見せてやるにゃ!!」

 

「ホーリー狙い撃ちでいいの?^^^^^^^^^^^^^^^^なんだったらバニシュガⅢで潰してやるわよ^^^^^^^^^^^」

 

「・えちょ それができるなら最初からやれよゴリラ姫wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwミスwwwwwwwwwwwwwちょww今は簡便wwwwギャースwwwwwwwwww」

 

そんな危険を進んでやるのが彼らであった。

別に危険な事が好きなわけではない。ただそれが勝てる最善の手段であるなら、彼らは決して危険を恐れてやらないという事はない。

無謀と言えるような事をこなしていき、世界を自分勝手に謳歌する冒険者としてある意味の理想の姿。

それが彼ら、内藤達であるのだ。

 

――……10………5………

 

「来るぞwwwwwwwwwしっかり合わせやがれよwwwwwwwwwwwwww」

 

カンウトダウンの秒数は残り僅かとなり、糞樽と臼姫は魔法の詠唱を、猫狩は"気"を矢に込め始める。

エルドナーシュの魔法は詠唱を必要としない。元々神童として崇められたジラートの王子である彼にとって、魔法とは呼吸をするのと同じように出来るからだ。

 

――4…3…3…2…1……

 

「砕けろwwwwwwwwバーストⅡ!!」

 

「消えなさい^^^^^^^^バニシュガⅢ♪♪♪♪^^^^^^^^^^^」

 

「一撃必中狙い撃ち!リフルジェントアローにゃ!!」

 

「壊れちゃえ、フレアⅡ!」

 

目から光の光線が発射される瞬間に、魔法と弓術が放たれる。

雷撃と火球と光、そしてその三つを引き裂くように放たれる一本の矢。

それは等しくオメガの赤い目へと集中し、魔法を防ぐはずの膜が剥がれている状態で食らってしまう。

雷撃が機械内部を強制ショートさせ、光の爆塵が装甲を消滅させ、核熱の如き炎が足を溶かしていき、光り輝く矢がオメガの露になろうとする中枢部を貫いた。

そして行き場のないシタデルバスターのエネルギーが内部暴走を始め、ピカリと光り輝く。

 

「伏せろ!wwwwwwwwwwww」

 

糞樽の声と共に皆が身を守るように身体を下げる。

一瞬の光と共にオメガが爆発をし、爆風が離れているはずの糞樽達まで届く。

近くにいた内藤と痛風、ついでにキャリーは吹っ飛ばされ、何度か地面を転がりながら仲間達の下に辿り着く。

 

「うはwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwやっぱり俺様達最強すぎwwwwwwwwwwww修正されないねwwwwwwwwwwww」

 

「やれやれ、手こずらせてくれたもんだよ。こんな事なら囮用に愚弟の一人や二人連れてくるべきだったか(´_ゝ`)」

 

大爆発を起こしたオメガはバラバラになっていた。

装甲は臼姫とエルドナーシュの魔法によってほとんどが消滅し、内部爆発によって内部機関は壊れている。

機械であるオメガを動かすための中枢部も猫狩の矢によって貫かれているため、間違いなく機能は停止している。

そう、間違いなく機能は停止しているはずなのに……なぜ、動こうとするのだ?

 

「おいwwww今度はこいつかよwwwwwwwwww」

 

空中から飛来するのは生物でもない、ルミニアンでもない。

オメガと同じ鋼の肉体を持つ機械であった。

脊髄のようなゆらりとした下半身を持ち、盛り上がった肩が特徴的な胴体を持っている。

胴体の先にあるのは頭だ。竜を人間にしたような、機械らしくない頭。

糞樽は簡便してくれと言った感じに引きつった笑みを浮かべてしまう。

 

深遠の守護者がオメガというのなら、この機獣は天上を守護せし究極の名を冠するモノ。

オメガが完全なる武装による兵器だとしたら、この機獣は生物のように敵を葬り去る存在。

――アルテマ。

オメガと対を成す兵器の襲来に身を引き締めるが、アルテマが来ると同時に倒されたオメガに変化が生じる。

 

バラバラになり、機械として残骸でしかないオメガが急速に修復されていくのだ。

いや、その速度はもはや修復ではなく、時間を巻き戻すかのように元に戻ろうとしている。

時間にして、わずか5秒も立たない。

たったそれだけで、残骸となっていたはずのオメガが新品同然のように装甲を輝かせながら復活を果たした。

それを見たエルドナーシュは普段は見る事のない、不審に思うような目をする。

 

「相互変換修復……」

 

「なんだよそれwwwwwwwwwwww」

 

「……昔、オメガとアルテマの同時運用をする際に僕が考えた機能の一つさ。互いのダメージを補完し合いながら完全修復をさせるんだけど、付ける前に神の扉計画でオジャンになったけどね」

 

糞樽の脳裏に浮かぶのはどうやって倒すかだ。

エルドナーシュの話を聞いてすぐさま対応策を考えようとするのも歴戦の冒険者ならではである。

そしてすぐに結論が出る。

勝てない。

どう足掻いても勝てない。

 

ふざけた機能と言わずにして何と言うのか。

エルドナーシュの話が正しければ、オメガとアルテマは互いが傷付けば互いを修復をするのだ。

そして修復速度は先程見た通り。バラバラの残骸から10秒も立たせない。

つまりアルテマとオメガを両方同時に倒す必要があり、それを成すために戦力が足らないのだ。

エルドナーシュが真世界のビジョンを見たとされる、眼帯に隠された左目に宿る母なるクリスタルの御身を使えば一体程度ならすぐに倒させるだろうが、すぐさま二体目を処理するのはさすがに無理だ。

 

糞樽が思考をしている間に二体の機獣が次なる行動を開始する。

四足のままのオメガの背中が割れるように開き、そのままアルテマは脊髄のような部分をドッキングさせたのだ。

まさかの合体にエルドナーシュですら目を見開く。さすがに予想外極まりない出来事だったようだ。

 

「さしずめ、究極の兵器アルテマウェポンって感じか?wwwwww笑えねぇwwwww」

 

草を生やしながら糞樽の顔にもはや笑いはない。

究極と原初が一つの存在となり、アルテマウェポンとなった新たな機獣は、機械でありながら猛き咆哮を上げる。

そしてアルテマ部分の胴体と、オメガ部分の赤い目に見覚えのある光が集おうとしている。

 

「ちょっと待てwwwwwwwダブルでシタデルとかやべぇぞ!?wwwwwwwwwwwwwww」

 

「無理wwwwwwwwwこれ無理wwwwwwwwwwwwwwww」

 

痛風はその攻撃は避け切れない一撃だと分かってしまう。

絶望の一撃を前にして内藤ですら本当に無理だと頭の中で分かってしまう。

合体をした影響なのか、カウントダウンを省略をした城塞を粉砕する二門の砲撃が放たれようとする。

 

「ブゥゥゥゥゥゥゥゥメランッッwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

放たれようとした瞬間に、何かがアルテマウェポンへと向かっていく。

くるくると回転する何かは、大きな質量で叩きつけるような音をしながらその巨体を崩す。

突然の強襲によってシタデルバスターの光は消えうせる。どうやら、カウントダウンを廃する代わりに邪魔をされると撃てない弱点があったようだ。

 

くるくると回り続ける何かは内藤達の後ろへと飛んでいく。

振り返れば、木の棒が曲がったような投擲武器であるブーメランをキャッチする若い男がいる。腹筋を出し、赤い鎧が特徴的だ。

いや、赤い鎧の男だけではない。

糞樽と同じような黒魔道士のアーティファクトを着込むミスラ、白魔道士のアーティファクトと白銀のサーコートであるナイトであると分かる二人のタルタル少女、赤魔道士のアーティファクトを装備した少女と老人のエルヴァーン。

 

「ふぉふぉふぉwwwwwwwwwwwwどうやら間に合ったようじゃのwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

「ちょwwwwwwwwお前らwwwwwwwwwどうやってここにwwwwwwwwwwwwリーダーに爺さんまでwwwwwww白樽ちゃんもキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!」

 

「こんな楽しそうな祭りに参加しないのはありえねーだろwwwwwwwwwwww飛子の活躍を世界に知らしめる時が来た(キリwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

内藤達の所属するLS「Boomerang」のリーダーである戦死は何処から見ても普通のブーメランにしか見えない飛子をかざす。

アルテマウェポンからの危機を救ったのは戦死の持つ類まれなまでの投擲捌きと飛子から繰り出した一撃のお陰なのだ。

 

「おっと、どうやらもう動きそうじゃのwwwwwwwwwwww」

 

「……」

 

赤爺が戦死のブーメランの一撃を食らいながら稼動を始めようとするアルテマウェポンを見つめる。

まだ話すべき事があるため、手をかざすと隣にいた赤魔子は頷きながら魔法の詠唱を始める。

唱えるべき魔法は相手の行動を抑制するスタンだ。ばちりとした音と共にアルテマウェポンの動きは一瞬だけ止まるが、スタンの効力は一瞬でしかない。

しかし、本来は何十秒の再詠唱時間を要するスタンを、何度も何度も連続して唱え続けていく。

これこそが赤魔道士の奥義、集中力と魔力が続く限りに詠唱時間と再詠唱時間を無視して魔法を連続して唱える連続魔。

ばちりばちりと音を立てながらアルテマウェポンは赤魔子の連続魔スタンによって身動き一つ取れていない。

 

「な、な、なぁ!?なんてエルドがここにいるのさ!?幽霊じゃないよね!?」

 

「あ?なんだよ、ちんくしゃも来たのか。相変わらずどっちがお腹でどっちが背中が判別付かないな。

こんなキューティクルな僕を幽霊扱いするなんて頭の中身も相変わらずなようだ(´,_ゝ`)プッ」

 

「~~!!?」

 

「樽ナしゃん落ち着くでしゅ!気持ちはわかりましゅが!((((゜Д゜;))))」

 

樽ナとエルドナーシュ、二人の関係はヴァナ・ディールでは犬猿の仲で知られている。

獣様の事を忠誠に誓う一方で、獣様と仲の良い樽ナをエルドナーシュはおちょくりながら嫌っている。

そして樽ナの方も一方的につっかかってくるエルドナーシュにはあまりいい顔はしていない。

会えば『ちんくしゃ』『ニート』と罵り合い、その関係はエルドナーシュが神の扉計画を行い、命を落とすまでに続いた。

だからこそ、樽ナはエルドナーシュの予想もしない再会に驚いた。一年ぶりとなる獣様達の再会が吹っ飛んでしまうぐらいに。

 

「い、い、生きてなら連絡しなさいよ!心の準備ができないじゃないか!」

 

「なんでちんくしゃ如きに連絡しないといけないんだよ。だいたい獣様と二人っきりになれるのにわざわざちんくしゃを呼ぶわけないだろ(´_ゝ`)」

 

「ムキー!!」

 

そもそも幻想郷からヴァナ・ディールへと連絡できる手段はないのだが、それを教えるエルドナーシュではない。

むしろ教えずにおちょくりまくりのがエルドナーシュの真髄である。

 

「この糞兄貴!いったい何時までほっつき歩いてたんだよ!こっちはこっちで大変だったって言うのに!

・えちょ 兄貴いないせいで白樽ちゃん抑えるのマジ大変だったにゃーwwwwwwwwwwwwwミスwwwwwwwwwwwラの乳歯は貴重品wwwwwwwwwwwww」

 

「うっせぇwwwwwwwwwこっちだって連絡できなかったんだよwwwwwwwwwwwwwww

・えちょ そもそも姫が道知ってた臭いし置いていかれてぎゃわーwwwwwwwww白wwwwwwwwwwww樽ちゃん久しぶりだねwwwwwwwwwwwwwww」

 

「く、糞猫さん!?いったい何を言ってるんですか!」

 

タルタルとミスラという種族の違いがありながら、糞樽と糞猫は兄妹である。

種族が違うというのに主に誤爆方面でよく似ている。

そして糞樽の心のオアシスにしてマイハニーである白樽は糞猫の誤爆に慌てている。

 

「マジでwwwwwwwwwwwwwwそんなに俺を心配してくれるなんてどこぞのネカマ姫と違うねwwwwwwwwwwこれミスじゃないよwwwwwwwwwwww」

 

「あら♪♪♪♪^^^^^^^^^^^^潔いじゃない♪♪♪♪^^^^^^^^^^」

 

「く、糞樽くん~!?」

 

誤爆ではなく本音をポロリを零してしまい、数秒後に金髪の雑魚が倒されていた。

赤魔子が必死にアルテマウェポンを足止めしている最中だと言うのに随分と余裕のあるコントに見える。

 

「内藤wwwwwwwwwwwお前さんに渡したいもんがあるんじゃwwwwwwwwwwww」

 

「マジでwwwwwwwwwうはwwwwwwwwwここで斉京装備になってwwww俺様名実共に主人公タイプになっちゃうんですかーwwwwwwwwwwやったーwwwwwwwwwww」

 

「それはないから安心せいwwwwwwwwwwwwwほれwwwwwwwwwwwww」

 

赤魔道士である赤爺が持つにはやや大きめの荷物であった。

太い棒のようなものにグルグルと布が巻かれている。それを受け取ると布を引きちぎるように中身を取り出す。

内藤の目に映るのは、青い刀身の大剣であった。

波を打つように湾曲された不思議な刀身を持ち、柄のほうを見れば汚い字で「内藤」の名前が彫られている。

 

「これwwwwwwwwwwwwwww俺様のじゃんwwwwwwwwwwwwwww」

 

「ジュノのバザーで二束三文で売られてたんじゃwwwwwwwwwwwwwwwwwお前さん達を探し出す手掛かりになると思って買っておいたんじゃよwwwwwwwwwwwwww」

 

「なんで幻想郷からヴァナに戻ってるんだよwwwwwwwwwwwwwwww」

 

痛風の突っ込みも最もであった。

幻想入りをした内藤であるが、武器だけがヴァナ・ディールに一人で帰っているのだから。

何はともわれ内藤の愛用した剣が戻り、これで内藤は全力で持って戦える。

 

「駄目にゃ、スタン耐性が!」

 

「!」

 

猫狩の叫ぶような声が上がり、誰もがアルテマウェポンへと顔を向ける。

赤魔子の連続魔スタンによって行動を縫い付けていたが、ついにスタンによる耐性を得たのか身体の自由が効き始めてきた。

確かにスタンが高い効力を出すが、その反面に傷つける能力を持たないために何度も打ち込むと耐性が出来てしまうのだ。

だが、動こうとした瞬間に、アルテマウェポンの片足と片腕が切断されるかのように吹き飛ぶ。

動こうとした矢先に再び行動を崩されてしまい、アルテマとオメガの相互変換修復が始まる。

 

「あ……(´・ω・`)」

 

「ちょwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

糞樽は驚いているようだが、獣様には見えていた。

姿も影も見えず、誰からも認識されない悲しき暗黒騎士。

彼もまた、この戦いに気づかれずに参戦していたのだ。

 

内藤の草笑いが最高潮に高まっていく。

愛用の武器が戻った。

最高の仲間達が集った。

これで負ける要素は何処にある?何処にもない。あるはずがない。

だからこそ、高らかに真世界中に響けと言わんばかりに叫ぶ。

 

「/sh うはwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 /sh よく聞け具民度もwwwwwwwwwwwwwwwwwwww斉京でwwwwwwwww九曲のwwwwwwwwwwwwwパーフェクトナイト様がwwwwwwwwwwww

 /sh いwまwこwこwにwwwwww大復活だぜえええええええええええええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 /sh 世界全国のハニーちゃんwwwwwwwwwwwwwww惚れてもいいんだぜ(キリwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

「/sh ・えちょ うるせぇええええええええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwちったぁ黙りやがれよ糞内藤wwwwwwwwwwwwwwww耳がいてぇwwwwwwwwwwww」

 

「/sh 惚れてもいいんだぜ(キリwwwwwwwwwwwwwwwねーよwwwwwwwwwwwwお前に惚れる女なんて姫ぐらいしかいねーよwwwwwwwwwwwwwww」

 

「三馬鹿ども、あんたら少し黙りなさい♪♪♪♪^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^」

 

「「「ウボァーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」」」

 

ヴァナ・ディール全土に響きかせるのは主に悪名と悪名と悪名。

それほどまでの集団でありながら何処か憎めないのは、彼らほど世界を楽しんで謳歌する者もいないからである。

ようやくアルテマウェポンは修復を終えたようだが、内藤はもはや欠片ほど負ける気などない。

仲間と共にいる。

それこそが、内藤に大きな力を与える大きな理由となりえるのだから。

 

 

 

古代ジラート王国が作り上げた最強の兵器。

それは母なるクリスタルのエネルギーを主軸にして、虚ろなる闇を肉体として構成された存在。

クリスタルの落とし子にして、伝説に語られるクリスタルの戦士の名が許された強さは計り知れない。

それこそ虚ろなる闇があればあるほどに力が増していき、神に迫る力を手にする。

 

「おおおお!」

 

しかし神がなんだ。

所詮は人が作ったものでしかない。

今の時代を生きる者からすれば、例えクリスタルの戦士の名を持っていようが関係ない。

立ち塞がり、敵として現れるのならば神すらも斬る。

暗黒騎士であるザイドの大剣が自分と同じガルカの姿を象ったアークエンジェルを断ち切ろうする。

長い、漆黒に染まった両手刀との打ち合いが始まる。

鋼がぶつかり合う耳障りな音をかき鳴らしながらザイドは業を背負いし剣を、ガルカは何も宿す事のない瞳をしながら機械的に切ろうとする。

 

「ふんっ!」

 

片手で振るっていた刀を両手に持ち替えてから頭から股まで一刀両断をする勢いに放つ斬撃を受け流し、そのまま受け流しつつ斬撃を振るう。

ガルカの右腕が宙を舞う。

しかし兵器であるアークエンジェルには例え腕が飛ぼうが足が飛ぼうが意味は無い。

その肉体が完全に崩壊を帰すまで戦い続ける兵器なのだ。

 

憎悪の闇によって生み出されたアークエンジェルであるガルカは飛び上がる。

その巨体に見合わぬ飛ぶ力の前には普通の人間では追いつけないだろう。

左手に持ち替えた刀を地にして急降下。その刀でザイドを串刺しにするつもりなのだろう。

 

「飛びなさい!」

 

「ああ!」

 

片手斧を振るいながら暴れるミスラを相手にしていたルーヴランスが相手を引き離すように大きな横薙ぎを繰り出してミスラを遠ざける。

声をかけたのはナズーリン、人一人は乗れるだろう両手剣を足場にし、ルーヴランスは空高く飛び上がったガルカに向けてナズーリンを投げ出した。

エルヴァーンの膂力によって加速をし、ナズーリンはそのままガルカの上空へと飛び上がる。

それに気づいたガルカは地に向けていた刀をナズーリンに向けて薙ぎ払う様に斬ろうとする。

 

「貰った!」

 

「ryu-san in the sky!」

 

ガルカの失敗はナズーリンに気を取られた事だった。

地上から空中へとガルカは二本の槍によって貫かれる。

一本の槍はヴァナ・ディールを駆ける一陣の風、孤高の竜騎士であるリューサン。

一本の槍は元罪狩りミスラであり、真龍の系譜を相手に互角に戦えるマグ。

胴体と左腕に槍が突き刺さり、その流れのままナズーリンの槍がガルカの脳天を貫いた。

武神である毘沙門天から毘沙門天代理である寅丸星に託され、ナズーリンの手に渡った槍は頑丈であるはずのアークエンジェルの肉体を容易に裂く。

リューサンとマグが槍を引き抜いて退避をし、そのまま槍を突き刺したままガルカを地面に叩き付けた。

 

「クビラ!」

 

「るぅぅぅぅ!!」

 

人間であるなら脳天を貫かれた時点で死ぬというのに、アークエンジェルであるガルカはその程度では壊れない。

頭を貫いてまだ動こうとするため、己の飛竜を呼び出す。

クビラがナズーリンの周りを飛び続けると、だんだんとクビラの身体が光の粒子となっていく。

粒子となった光はナズーリンの肉体に集い、それは竜騎士の奥義である竜剣にへと繋がるのだ。

竜人一体としての奥義である竜剣は飛竜の持つ戦闘能力をそのまま竜騎士である主人に受け継がれる。

アークエンジェルは少しぐらいの損傷では壊れない。ならば壊れる程度の損傷を一気に与える!

 

「ペンタ……」

 

槍を引き抜き、ナズーリンを輝かせる粒子が槍へと集う。

 

「スラストォ!!」

 

地面に倒れ付したままのガルカに向けて、目にも止まらぬ五回の突きを放った。

地面ごと叩き割る勢いで放たれたペンタスラストはガルカの肉体に五個分の風穴を開け、竜剣によって強化された槍は少しぐらい暴れた程度では壊れないアル・タユの床ごと粉砕し、粉塵が舞い上がる。

さすがのガルカもこの一撃を食らってしまえばもはや終わりだろう。そのまま槍を地面から引き抜こうとするが、まだ生きていたガルカがナズーリンの足を掴みながら立ち上がる。

 

「こいつ!?まだ……!」

 

ガルカらしい大きな胴体にマグの分が開けられた六つの風穴がありながら、まだ動こうとするガルカに逆さづりになりながらも驚嘆する。

 

「ふん!」

 

しかし、それだけだった。

背後からの一刀両断の斬撃を浴びられ、ゆっくりと真っ二つになる。

ザイドの最後の一撃によってガルカの肉体が維持できなかったのか、肉体に罅が入るとバラバラに砕け散った。

後に残るのはアークエンジェルを構成していただろう、虚ろなる闇の結晶であり、それも光となって消えていく。

 

「やれやれ……助けるならもう少し優しく頼みたいね」

 

「ふっ。あれと戦い、その口が叩けるならいらぬ世話だろう」

 

足を掴まれた状態でいたのだからガルカが倒されればそのまま地面に激突してしまう。

なんとか受身は取ったものの、軽口を叩ける程度にはまだ気力は残っている。

槍に集っていた竜剣の光がナズーリンから離れると、粒子が集まる事で飛竜として再構成される。

 

「るぅぅ……」

 

「疲れたか。まぁいい、暫く私の中に戻れ」

 

竜剣の効果は絶大ではあるものの、その分飛竜の負担が大きいのが玉に瑕だ。

飛竜の生命力そのものを武器として使うため、竜剣は維持をすればするほど、その分飛竜の体力を消耗させてしまう。

無理はできない。マグ、そしてリューサンの飛竜も決め手として竜剣を使っているために送還済みだ。

ナズーリンも疲労のあるクビラを己の心の中に送還させ、立ち上がる。

 

先程のガルカでようやく三体目のアークエンジェルを倒した。

タルタルはゲッショーとジャボスを相手にし、ヒュームはリューサン、マグが戦った。

残るミスラはルーヴランス、エルヴァーンは鈴仙とウルミアとアルドが相手をし、途中でミスラの方にはゲッショーが、エルヴァーンにはジャボスが参戦をしていた。

ならばこちらもあと二つのアークエンジェルとの戦いに参戦をしなければならないため、まず戦況がどうなっているのかを見始める。

 

「今度は負けませんよ、レディ!!」

 

片手斧と両手剣。

どちらが重量を乗せやすく、破壊力を生み出せるかは子供でも分かる。

しかし互いが振るわれる度に衝撃が腕を痺れさせ、まったくの互角の打ち合いが続いていく。

力は互角、振るう速度も互角。これでは勝負が付かないのだが、背後から存在しないはずの大型の黒虎が剣のように鋭い牙を持つ口を広げながら襲い掛かろうとする。

打ち合いによって弾かれたまま、剣を豪快に振り切る。

その剣はルーヴランスの首を噛み千切ろうとした黒虎の首を一撃で持って跳ね飛ばしたのだ。

 

「小細工が俺にッ!」

 

ぐるりと回転を加えての横薙ぎの一撃。

スピンクラッシュは黒虎が襲ったのと同時に片手斧で裂こうとしたミスラの胴体を引き裂いた。

しかし引き裂かれても青白い肌からは血の一滴も流れない。

攻撃をされたというのにそのまま無防備となったルーヴランスに斧を振り切ろうとするが、その前に斧を持つ腕が黒い影に断ち切られる。

 

「ミスタ、もう終わりましたか」

 

「笑止、獣に我が相手は務まらぬゆえ」

 

クリスタルの五戦士にはそれぞれ職業のようなものが振り分けられている。

ヒュームであるなら戦士と忍者を、タルタルであるなら暗黒騎士と黒魔道士を、そしてガルカであるなら侍と竜騎士だ。

そしてミスラは獣使いとシーフを兼業している。

先程ルーヴランスに襲い掛かった黒虎もミスラが無限に呼び出す獣の一つだ。

強さはアークエンジェルに大きく劣るとはいえ、それでも無限に呼び出されるとやっかい極まりない。

しかしヤグードの忍びであるゲッショーには物足りない。ルーヴランスはミスラを、ゲッショーは呼び出される獣を倒し続けた。

切断された右手から左手に斧を持ち変えるが、もはや虚ろによる強化を失ってしまったミスラは彼らの敵ではなかった。

 

「硬すぎるわよ!ダイスと歌で強化されてるってのに!」

 

エルヴァーンに向けて放たれるのはヘキサガンの銃弾。

鈴仙が何十発と撃っているというのに、その弾丸は一発もエルヴァーンの肉体を貫くに至らない。

 

「足止めすら長く持たないか……!」

 

エルヴァーンの身体は細い鎖のようなもので固定されていた。

それを支えるのはアルドだ。忍具の一つである鉄製の分銅鎖だ。

それも忍術の一つであり、相手の動きを抑制させるための符を織り込んだ特別製なのだが、エルヴァーンが動こうとするたびにアルドが引きずられ、鎖も千切れそうな音が手に伝わってくる。

 

「……!」

 

険しい顔をしながら斧を振るい続けるジャボスだが、盾すらも構えないエルヴァーンの肉体はあまりにも頑健すぎた。

斧が首を断ち切ろうにも肌が少しばかり食い込むだけで切断までに至らない。

 

――強さを誇示せよ、真の猛者こそが世界の覇者!

――飽くなき強さの探求、追い求める者こそ手に掴める!

 

「単純に力を込めた程度じゃ無駄って事ね……ローグスロール!」

 

プリッシュと共に行くのではなく、アークエンジェルとの対決を優先させたウルミアは歌を歌い続ける。

込められた歌の意味は猛る力を呼び起こし、アルドがアークエンジェルであるエルヴァーンを押さえ続けられるのもそのお陰だ。

しかし力だけではエルヴァーンの肉体を貫くのには至らない。

鈴仙がダイスを掲げ、引き出すのは急所を狙いやすくするための力。

ダイスよって生まれた魔札を撃つ事で〈1〉〈1〉〈3〉と小さ目の数字が連続で発生し、ローグスロールのラッキーナンバーである〈5〉を引き当てる。

魔札を提示し、鈴仙から力が引き出されるとそれはジャボスの肉体に宿っていく。

 

首を狙う一撃はめり込む程度であったのが、今度は首の三分の一程度まで裂く事に成功する。

もう一度狙えば首の切断は可能になるだろうが、力を引き出していたダイスの加護を失ったアルドはエルヴァーンを抑える事ができなくなってしまった。

 

「い、いかん!」

 

「その前、に……!」

 

鎖が引きちぎられ、ようやく自由の身となろうとする。

ジャボスの実力はこの場では高いとはいえない。如何に虚ろを失ったアークエンジェルと言えども、武器の打ち合いになればジャボスでは勝てない。

それを知ってたか鎖を千切ろうとする前にもう一度首に目掛けて斧を振るうが、届かない。

巨大な盾が斧を防ぎ、反撃とばかりに手に持つ長剣でもって三度の斬撃がジャボスを襲う。

 

「ぐっ……!」

 

耐えた。頑健なガルカだからこそ耐えられたが、古ぼけた胴衣が血で染まってしまい、膝を付いてしまった。

横から鈴仙の銃弾が脳天を狙い、急所であるために額に弾丸の跡が残り貫通はする。

しかし如何に急所と言えども壊れるほどの損傷ではないために倒れない。鈴仙からの攻撃を無視し続け、ジャボスにトドメを刺そうとする。

 

「貴様の相手は俺だ!こちらを向け!」

 

ドスリ、とアルドの持つ宝剣がエルヴァーンの背中から突き刺した。

背中から胸へと貫通した剣に気を止める事も無く、ゆっくりとアルドの方に注意を向ける。

見れば見るほど不気味な奴だ。

アルドは感情のないエルヴァーンの顔を見てそう思わずしかいられない。

どう攻撃が来るか。

物理攻撃であるなら回避可能である空蝉をかけながら何時でも攻撃に反応できるように相手を観察する。

しかしエルヴァーンの攻撃はこない。ただ口を少しばかり開けているだけであり、だからこそ反応が遅れた。

盾の持つ腕を掲げると、空高くから光の粒子がアルドに目掛けて付着した。

付着した粒子はアルドの肉体を蝕むだけではなく、かけていたはずの空蝉の全てが剥がされる。

 

「まずい!」

 

ナイトと白魔道士の両方を担うエルヴァーンは、光の粒子を付着させて相手の肉体を弱体化させる効果のある範囲魔法ディアガは当然のように使える。

空蝉を剥がされてしまい、後に残るのはアルドの本体のみだ。

光の元素がかき集められ、大きな球体となったそれはアルドの頭の上に掲げられる。

それを避けようとしても球体はアルドについていき、エルヴァーンは相手の右下から左肩へと球体ごと両断した。

アルドごと断たれた球体は爆発を起こし、剣で切られながら光の爆発がアルドの肉体を焼き焦がしていく。

 

「……かかった」

 

鈴仙の輝く赤い目が通常の目に戻る。

その瞬間にエルヴァーンが断ち切ったはずのアルドが消失し、同時に背中から胸に貫いていたはずの宝剣も消えていく。

 

「俺はここだ!」

 

エルヴァーンが気づいた時にはもう遅かった。

アルドが宝剣を振るい、ジャボスが切断しかけた首を更に押し込むように力を加える。

エルヴァーンの見ていたのは鈴仙の見せた幻覚だったのだ。霊力で作り出した精巧な人形であり、本物のアルドは赤い目の波長によって隠していた。

首を切断されながら剣でアルドを斬ろうとするが、その前にエルヴァーンの首が刎ねられた。

さすがのアークエンジェルと言えども、首を無くしては正常には動けないのか、ふらふらと歩き出すと動かなくなり、両膝を付くと肉体と離れていた首はバラバラに砕け散る。

ミスラの方もルーヴランスのトドメの一撃が決まり、嫉妬の闇は傲慢の闇と共に砕け散った。

 

「ようやく終わったか……なんとかなるものだな」

 

「いつまでも人間の闇に負け続けるのは癪だからな。これでアークエンジェルどもには借りが返せたってもんだ」

 

計り知れない強さを持つアークエンジェルであったが、無事に勝利を収められた事にザイドは一息を付く。

アークエンジェルには大量の貸しがあったアルドからすれば清々する気持ちだ。なにせアークエンジェルと戦ってまともに勝てた事などはなく、過去の異変でアークエンジェルを倒したのはアルドでもザイドでもライオンでもなく、冒険者であったブロント達なのだから。

 

「ブロントさん達が心配だ。まだmikanたんは復帰できてはいないが、何か悪い予感がする」

 

竜騎士の三人の飛竜は竜剣の影響でまだ復帰できていない。

戦いの傷は薬師である鈴仙、傷を癒す歌を歌えるウルミアのお陰で治ったが、さすがに飛竜になるとその癒しは届かない。

だがリューサンは飛竜の癒しを待たずにして先に進むべきだと提案し、皆は傾いた。

そもそも時間がもうどれほど残っているか分からないのだ。悠長に待っていれば世界の消滅がやってきてしまう。

 

だからこそ、その襲撃者に誰もが驚愕をせざる得ない。

事情を知らぬ者は幻想郷の住民である鈴仙とナズーリン、そして戦争を知ってもその戦争を引き起こした魔王の姿を知らぬウルミアだけであった。

 

「馬鹿な……なぜ、奴がここに……!」

 

「そうか!そういう事か!!」

 

ガルカであるザイドの三倍はあろうかという巨体であり、背中からは何本の棘のようなのが生えている。

その肉体は闇だ。何処までも深い、虚ろのような闇を持っている。

魔人の姿をしたそれは、二十年前の水晶大戦を引き起こし、今でもヴァナ・ディールで恐怖を抱かれる災厄。

 

「アークエンジェルがナグモラーダの記憶を元にして作られたというのなら、当然……奴"ら"も作れるという事か……!」

 

そして、その魔王の背後にいるのは十数名の人影だった。

なぜ魔王の近くにアルタナの民がいるのか。それもまた、この魔王と同じように作られた幻影だとわかる。

だが、掲げられる旗を見よ。

多頭龍であるハイドラをシンボルとするそれは、ヴァナ・ディール全土を探しても思い当たる部隊など一つしか存在しない。

アルタナ連合軍最強の教導部隊であるハイドラ戦隊。

本来は人間の味方である部隊が敵に回るという事は何の悪夢だ?

そしてその部隊を結成せざる得なかったほどの魔王である、闇の王と共にいるのはどういう冗談だ?

 

アルドは驚愕するしかない一方で、ザイドはそのありえぬ光景に歯軋りをする。

ハイドラ戦隊の旗を掲げるアルタナの民は、よく見ればレリックを武器にした隊長クラスではないと分かる。

しかし、そんな事はどうでもよいのだ。

闇の王を含めて彼らは戦いの中で散って行った戦死者だ。

それなのにこうして彼らを戦わせるのは死者の冒涜でしかない。

闇の王の真実を知り、だからこそ古代人の手足となって戦おうする彼らに悲しみと憤りしか感じない。

 

「ちょっとまずいわよ……さすがに人数差が……」

 

「……さっきの敵よりもきつそうだね、これは」

 

強さは一体一体だけなら隊長クラスではないハイドラ戦隊よりもアークエンジェルのほうが上だ。

だが、さすがに数の差というのもあってそれで押し切られる可能性が十分に高い。

特に闇の王が危険だ。虚ろなる肉体から闇を引き出し、単純な強さだけならアークエンジェルすらも超えかねないと鈴仙は素人目ながらも分かってしまう。

ナズーリンも軽口を叩きながらも、余裕のない事ぐらいは自分でも分かる。

アークエンジェルとの戦いで消耗し、竜騎士としての切り札を失っている自分が何処まで戦えるか?それを冷静に確認しながらも頬から汗が一滴流れる。

 

「おー!面白そうなのを戦っているな!」

 

「ならやっちゃう?やっちゃうよー!」

 

「みんな纏めて吹き飛べー!!」

 

子供の声が聞こえた。緊張感がまるでない声にアルドは身体を崩しそうになるが、声がしたところを向ける。

タルタルだった。

顔立ちがよく似た三人の少年少女であり、それぞれ赤いトンガリ頭に赤い革鎧、緑のぼさぼさ頭に茶色の肩当鎧、水色のツインテールに青色の胴衣と色分けがされている。

 

「め~」

 

「て~」

 

「にょ~!?」

 

タルタルというのは見た目の年齢が分かりづらいが、それでも詠唱しているというのに落ち着きの無い動作をしている事から子供だと分かる。

だが、唱える魔法は断じて子供が使えるような魔法ではない隕石を振り落とすメテオを唱えたのだ。

しかし最後の青色の少女が舌を噛んでしまい、魔方陣が空間を越えて呼び出された隕石は闇の王ではなく、なぜかアルドの方へと飛んできた。

 

「天つ水影流・月朧!」

 

「うおおお!?」

 

失敗したためか小型の隕石になってしまったが、隕石は隕石。

当たってしまえばただでは済まされないのだが、その隕石は一人の侍によって砕かれる。

飛び上がるように左下から月を描いて断ち切る剣術によって、アルドは隕石の危機から救われたのだ。

 

「ぬぅ!お主は、テンゼンか!」

 

「月照殿!如何にも、エシャンタール殿、そして八雲紫殿から伝えられた世界の危機に我輩の力を使う時が来たでござる」

 

赤い武者鎧にマゲ頭、手に持つ刀は霊獣フェニックスの力が宿りし鳳凰丸。

ひんがしの侍にして、プリッシュの仲間の一人であるテンゼンが駆けつけたのだ。

同じくひんがしに仕える忍びであるゲッショーは当然テンゼンも知っているが、ひんがしからこの場に駆けつけた事に驚いたようだ。

 

「どうやら足止めを食らっているようですわね。時間がありません、彼らには早々と去ってもらいましょう」

 

「……これは、男神の気配が……?ナグモラーダ、あなたは何を……」

 

「ミルドリオン様まで!?」

 

そして遅れた形で現れる二人の女性。

枢機卿であった頃の名前を言いながらエシャンタールがいるのをウルミアは驚きの声を出すが、世界の危機に彼女が来る事もありえるのだと考えを改める。

そして幻想郷の管理者であり、大妖怪である八雲紫もまた、戦いの場に参戦する。

闇の王とハイドラ戦隊を見てから、時間がない事を考慮してたかすぐさま倒す事を考えに入れながら頭の中でシュミレーションを開始する。

 

「ほら、アルド。何呆けてるのよ」

 

「……ライオンか。誰だって隕石を突然落とされれば驚くだろう」

 

バシリと背中を叩かれ、アルドはライオンの姿に気づく。

こうして彼女がここにいるという事は、ヴァナ・ディールの実力者を集めてきたのだろう。

テンゼン、そしてアルドに間違えて隕石を落としたチェブキー兄妹達のような者を。

 

「他のは別の場所で戦ってるのに送っておいたわ。そいつらに追い抜かれる前に、とっととこいつら倒して先に進むわよ」

 

「ふん、言われるまでもないな」

 

何はともわれ、異変を解決するための役者は揃った。

あとはその異変を起こしている黒幕の場所へと辿り着き、ナグモラーダを倒す。

もしかしたらブロントがもう倒しているかもしれないが、古代人がそう簡単に倒されるとも思えない。

闇の王が巨大な剣を構えながら、ハイドラ戦隊と共に襲い掛かってくる。

来るなら来てみろ。悪いがお前達とは長く遊んでいられない。

そうした決意を胸にアルドは宝剣を構え、次なる戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

博麗霊夢には努力という事をする必要は存在しなかった。

できない事があればできるようにする努力はするかもしれない。しかし、できる事をより鍛えるという努力は一切しない。

なぜなら天才である霊夢にそのような事は不要だからだ。

 

持ち前の才能で持って圧倒し、幻想郷であれば本気になった博麗霊夢、博麗の巫女を打倒するのは如何なる者であっても不可能だ。

だからこそ、彼女が本気を出す事など数える程度でしかない。

なぜなら本気を出さなくても物事が解決するから。弾幕ごっこにしても遊びだからこそ勝てるから。

 

ならば敵対するのが自分自身であればどうだろう?

弾幕ごっこのような遊びではない、殺す気で持って襲い掛かればどのように戦うのだろう。

ヴァナ・ディールと融合する前の霊夢であれば、本気は出さなかったかもしれない。

人間であろうと妖怪であろうと神であろうと自分自身であろうとも、彼女は相手がどんな思いを持っていようと本気は出さない。

出さなくても勝てるから。負けても死んだとして彼女にとって痛くも痒くも無いから。

空に浮く雲のように、誰にも囚われる事のない空虚な存在。

それが博麗の巫女であるはずだった。

 

「夢想!」

 

『封印!』

 

しかし霊夢は変わった。変わってしまった。

何事も変わる事のない、手が届かぬ場所にいるはずの博麗の巫女が、一人の少女のように変わってしまった。

理由は明白だ。

ヴァナ・ディールからの来訪者、ブロント達が築き上げた絆という輪に入ってしまったから。

それは良い事なのか。悪い事なのか。

誰にも分からない。調停者という立場であるはずの少女が、誰かと一緒にいるのが楽しいと思えてしまえばその時点で博麗の巫女としての考えではないはずなのに。

 

『遅イワヨ』

 

「そっちがね」

 

幻想郷は全てを受け入れる。

それが、答えなのだろう。

箱庭であるはずの幻想郷には、常に立ち止まり続けるしか存在をする手段を持たない。

それなのに歩き続ける者達の来訪によって、長い時を閉鎖された者達に、絆という繋がりの大事さを思い出させてくれた。

だからこそ、霊夢は本気となって戦っている。

目の前で縦横無尽に大剣を振るい続け、自分と同じ技を繰り出す自分自身のアークエンジェルを相手にして。

 

「ハッ……これじゃ、勝負がつかないわね……」

 

素手と剣という武器の違いがあるが、実力に関してはまったくの互角であった。

どちらが攻撃をしようにも天才であるがゆえの天賦の勘が先読みをし続けてしまい、詰め将棋をするかのように千日手となってしまう。

霊夢の得意とする術に置いても瓜二つと言わんばかりの技で持って返してくる。

十八番の夢想封印で持ってしても、七つと七つの虹色の弾幕と弾幕がぶつかり合い、相殺しあう。

 

『……ナゼ、貴女ハ……』

 

「さぁ、行くわよ!」

 

ハクレイレイムが何かを言いかけたようだが霊夢には関係のない事。

さっさと倒して先に進まなくてはならないのだ。

相手がなんであろうとも、遮るのならぶっ飛ばして進んでいく。

ハクレイレイムが巨大な剣を片手で振るい、それを霊夢は限界まで近づけて回避をする。

振るわれた剣先が頬を掠め、剣風が白色の帽子を揺らす。常人であれば恐怖で縮こまるだろうに、霊夢は気にせずに更に一歩懐に入り込む。

 

「でぇぇい!」

 

右拳によるボディブローだ。剣を振るってしまったために懐に飛び込めば無防備な腹が見えてくる。

黒鎧ごと貫く勢いで足から腰の回転まで入れ込んだ渾身の一撃を食らわせる。

ガツンと黒鉄製のナックルと黒鎧がぶつかり合う事で少しだけ弾かれてしまうが、ハクレイレイムの顔が少しばかり歪んで見えてた。

やはり、と霊夢は違和感の正体に気づく。

アークエンジェルとほぼ瓜二つの外形をしていながらも、他のアークエンジェルに比べてハクレイレイムは表情が豊かなのだ。

少なくとも、霊夢が戦ったアークエンジェルは笑いもしないし、攻撃を食らって苦痛の顔も浮かべない。

しかし目の前のアークエンジェルは違う。

感情のない顔という意味では同じだが、笑ったり、苦痛で顔を歪めたりするのは他のアークエンジェルにはない事。

罠かと思えるが、現状では何も分からない事なので油断をしないようにするしか行える事はない。

 

『フ、フフ……』

 

「何が!」

 

『オカシイノッテ?……封魔陣』

 

殴ってから離れるというモンクタイプらしいスタイルを持つ霊夢は、ハクレイレイムに腹の一撃を食らわせてバックステッポするつもりだった。

だが、動かない。動けない。

まるで足に何かを刺されたかのように感じ、霊夢を中心にして四つの針が床に刺さっている。

 

『次ハ、私ノ番ネ』

 

「ちょ、タンマ!?」

 

知らぬ間に結界で動きを束縛されていたのか。

慌てる霊夢を無視してハクレイレイムは大剣を構える。

込められる力は生きている証である"気"ではなく、虚ろなる闇が剣に集中する。

霊夢が結界を解除をするよりも早く、音速を超えた武技を霊夢に放った。

 

『割レテ砕ケテ無クナリナサイ。トアクリーパー』

 

軽く一足だけ飛び上がると、剣の重量に身を任せたような斬撃を繰り出した。

岩山を割るという名前の技を繰り出し、左肩から右太股まで両断されるほどの斬撃をまともに受けてしまい、大量の血が切傷から噴出する。

そのまま地面へと叩きつけられた剣は白い床すらも砕いてゆく。

白衣のアーティファクトは即座に血に染まってしまい、霊夢の足元から血の水溜りが出来てしまう。

 

『……?』

 

ハクレイレイムはどうも納得の行かない顔をする。

手ごたえは十分、致命傷と言える傷を与えながらも納得がいないのは当然だ。

先程の一撃で持ってすれば、例え騎士であっても一刀両断するほどの一撃だと言うのに霊夢は切断されずに生き残っている。

 

「ぐぁ、あ、はぁ!」

 

何よりも霊夢の目は死んでいない。

そして、結界で束縛されているはずなのに動き出す。

理解した。ハクレイレイムの一撃を食らう瞬間に結界を解除し、少しでも身を逸らして死ぬほどのダメージを回避したのだ。

これほどまでの傷を負った所での攻撃なんてたかが知れている。冷静に相手からの攻撃を防ぎ、反撃を少しばかりするだけで命を落とすだろう。

霊夢が得意の蹴りをしようとし、ハクレイレイムは大剣を盾のように構えて防ごうとする。

 

「神、技ィ!!」

 

霊力を右足に注ぎ込み、自らの肉体が受ける負担を無視した一撃を大剣ごと砕かんと言わんばかりに放とうとする。

 

「天覇ァ!風神脚!!」

 

瀕死の人間が出すような技ではない、疾風の速度で成り立つ蹴りが炸裂した。

蹴り上げる一撃で持って放つ一撃により、治療すらしていない傷口から更に血が吹き出てしまう。

天に放り出されるハクレイレイムであるが、蹴りの一撃を食らってもダメージはない。数多の妖怪を殺してきた蹴りですら、大剣には罅の一つも入っていないのだ。

 

『コレデ……』

 

最後の一撃によって霊夢は虫の息。

ダメージのないハクレイレイムはそのまま床に降り立つと、ゆっくりと近づいて両膝を付く霊夢に剣を首に近づける。

 

「……終わりね」

 

『エエ。サヨウナラ、私』

 

「ええ、さようなら。あんたがね」

 

凍らせられた。

剣を持つ腕、両足、動こうにも動けないほどに凍らせられている。

 

『!?……ナゼ、私ニハコンナ術ハ使エナイハズ……』

 

「そうね。まぁ、あんたが私でも……」

 

ゆっくりと立ち上がる。

全ての現象から外れる博麗霊夢の持つ最大の力、あらゆる拘束から解き放たれた一撃は幻想も現実も人間も妖怪も神すらも関係は無い。

等しく無に帰して必殺で持って葬り去るラストスペル。

 

「ブロントさんと出会ってヴァナにも行かなかったら、こんな術は使わなかったでしょうね」

 

『……ソウ』

 

ハクレイレイムの身体に貼り付けられた何枚の札。

それは巫女の術を行うものではなく、忍術というヴァナ・ディールの術だ。

博麗霊夢であるならば、ハクレイレイムであるならば、博麗の技以外を使う事はありえない。

なぜなら必要ではないからだ。そのような技を使わなくても、博麗の技こそが最善であり、最強になり得るのだから。

両手を広げながら目を瞑り、霊夢の身から現れるのは色の無い七つの球体。

それは霊夢の身体を中心に高速回転をしながら、だんだんと七つの球体は一つに重なるようになっていく。

ハクレイレイムもまた、その技は回避も防御もできないのを知ってか、割ろうと思えば割れる氷をそのままにして目を閉じる。

 

「夢想……天生」

 

音が無い。当たったという手ごたえもない。

ただ、必殺の一撃がハクレイレイムの鎧を砕き、肉体を抉り、地べたに屈服させたという結果のみが残る。

心臓のある部分が消し飛ばされたような風穴が開きながらも、ハクレイレイムは感情の無い瞳で自分を倒した自分を見つめ続ける。

 

『負ケチャッタナァ……私ナノニ強イワネ』

 

「そりゃそうよ、私だもの……ねぇ、教えて」

 

『ナァニ?』

 

「あんたは、本当に私なの?私だと分かるのに、何処か違う……ああ、もう!良い言葉が思いつかないわね!」

 

夢想転生の効果によって傷という現象すらも外れたために、すでに致命的な致命傷となるダメージが存在しない。

ハクレイレイムに何か問い質したいのにどうすれば聞けるのか上手い言葉が思いつかず、ついさっきまで重症を負っていたにも関わらず、髪の毛をがりがりとしながらイラついていた。

 

『私ハ、貴女トハ違ウ歴史ノハクレイレイム。ダカラコソ、私ハ彼ニ呼バレタ。楽園ヲ失ッタ私ニ、世界ノ消滅ハ待チ望ンデイルモノダカラ……』

 

「……?楽園を失った?何を……」

 

ハクレイレイムの身体に罅が入る。

アークエンジェルとしての肉体の損傷が激しくなった証拠だ。

もはやハクレイレイムの目に霊夢は映っていない。

 

『羨ましいな……貴女達の世界は優しく包まれている……だからこそ、貴女は私よりも強いのかもしれない。貴女達の世界なら、あいつも……』

 

その言葉を最後にして、ハクレイレイムは虚ろなる闇の結晶へと砕け散った。

いったい何を言い残したかったのか、彼女はいったい何者だったのか。

それすらも分からずに時間は過ぎようとしている。

 

霊夢は、その答えを知らぬままブロントの元に行こうとする。

積極的に関わろうとしなかった少女が、初めて守りたいと思えた世界の日常。

それを失わないために、霊夢は真世界の奥地へと向かっていった。

 

 

 

霧雨魔理沙という少女は、博麗霊夢とは対極に位置する存在だ。

生まれは普通、特別な力を宿していない人間、宿命なんてモノも持っていない人生、才能というモノに恵まれも無かった。

本来であれば彼女はただの人間として生きるはずだったのだ。

人里で暮らし、妖怪に脅え、弾幕ごっこの煌びやかさに目を輝かせる程度の人生で終わっていただろう。

 

しかし、彼女は出会ってしまった。

星々の輝きをその手に取り、星々の輝きを照らす魔法という力に。

 

ただの人間に過ぎない魔理沙に魔法の力は使えない。

努力をしたところで、魔法使いの持ち合わせる魔力など魔理沙には持っていない。

だからこそ、研究と更なる努力を重ねた。

 

媒体を使う事で魔法と同じ現象を作り上げ、それを魔理沙だけの魔法として構築させる。

ただ魔法を使うだけではない。幻想郷で勝負の主流である弾幕ごっこにも対応できるようにそうした努力も欠かせない。

空を飛び、星の輝きに似た弾幕を降らせ、普通の人間でありながら普通の魔法使いと呼ばれるほどに成長を遂げた。

 

だが、何事にも壁という存在がある。

魔理沙は魔法使いでありながら、やはりただの人間というハンデがとてつもなく大きい。

妖怪のポテンシャルにはどう足掻いても勝てない。同じ魔法使いの魔法の打ち合いになれば確実に負けてしまう。

どれだけ研究と努力を重ねた霧雨魔理沙の最高の魔法であっても、強い妖怪が本気になれば一蹴されてしまうものばかりだった。

その中でも彼女の友人である博麗霊夢は反則の一言。

同じ人間でありながら肌で感じ取れるほどの才能の差。

魔理沙がどれだけ努力をしても埋まる事はありえない実力の差。

 

普通の人間であるという差が、ここまであるのだと思い知らされる存在ばかりであった。

 

だけど霧雨魔理沙は腐らない。

力が足りないのなら研究を、速さが足りないのならば努力を、勝てないというのなら何処までも足掻き続けるという泥臭い精神が魔理沙を支える。

本気の勝負であれば魔理沙は万が一も勝てる可能性は幻想郷ではないかもしれない。

だが、弾幕ごっこという誰もが勝てる可能性のあるルールによって、魔理沙はただの人間の身でありながら、妖怪も、魔法使いも、吸血鬼も、神すらも倒せるほどの逸材へとなった。

 

魔法という奇跡が普通の人間にも使えるという信念が魔理沙を支え、強くする。

そして何よりも魔理沙を更に成長させたのは、異世界からの来訪者であった。

 

彼は誰よりも強かった。

自分には決して耐えられぬであろう数々の攻撃を己の身で持って受け止め、仲間を守り通した。

その強さは霊夢とはまた違う存在であり、同時に憧れもした。

強さとして憧れもある。だが、それ以上なのは冒険者としての憧れだ。

未知なる世界へと自らの足で旅をしていき、未知なる発見を胸に秘めた冒険者は、魔法使いを目指そうとしていた幼い魔理沙の夢でもあった。

 

そして魔理沙はヴァナ・ディールで旅をしていき、未知なるモノを見続けていく。

魔理沙は幻想郷で魔法使いになっていくうちに、知らず知らずに力を求めすぎた所があった。

ただの人間であるというハンデにコンプレックスを抱きながらも、そこで知った事は、必ずしも冒険者に必要以上の力は必要はないという事。

力が足りないのならば、仲間を借りていけばいい。

星々の光を照らす奇跡は、すでに持っている。

その事から魔理沙のコンプレックスは抱えていながらも何処から吹っ切れたようになる。

吹っ切れた女は強い。恐れを跳ね除けて己の道を突き進む魔理沙は、自分と同じ外形をするアークエンジェルとの空中戦を繰り広げていた。

 

「光撃「シュート・ザ・ムーン」!」

 

「終ワリノナイ恵ミハ滅ビト同義ト知レ!ウォータⅣ!」

 

箒に跨りながら魔法使いの少女と人形が同時に魔法を唱える。

魔理沙が腕をかざせば四つの魔方陣が出現し、放たれるのは百を超える弾幕。

月をも落とす。その名を込められた弾幕と、オートマトンであるコロンビーヌが胴体に設置された八卦炉で内部魔力をブーストさせ、高位魔法を可能にする事で大質量の水が弾丸のように飛び散っていく。

放たれた魔法に対し、箒に座るようにして飛ぶキリサメマリサは、右腕を振るうと回りに飛んでいる八本の杖の内、緑色の輝きをする杖を前面に出す。

 

『ウフフ……エアロジャ』

 

笑いながら緑色の杖から現れるのは巨大な魔方陣であり、放たれた魔法は暴風であった。

古代魔法であるトルネドが可愛く見えるほどの強烈な暴風が魔理沙の魔法とコロンビーヌの魔法をかき消すように巻き込んでいき、そのまま魔理沙ごと引きずり込もうとする。

 

「ぬわぁぁぁぁ!?」

 

もはや暴風というレベルではない。これでは一種の災害、台風の域に達している。

なんとか台風の範囲外に逃れたものの、キリサメマリサの顔は余裕綽々であり、その事に魔理沙はカチンと来る。

 

「ちっくしょう!何なんだよ。あの化け物染みた魔法は……」

 

「アノ魔法杖デ強化シテルミタイダケド……」

 

魔法の打ち合いでは勝負にならない。

これまで何度か魔法によるドッグファイトを試みたが、はっきり言って勝ち目が見えなかった。

固定砲台として箒にくくり付けたコロンビーヌは八卦炉で強化された魔力路によって高位魔法が使う事ができ、魔理沙も黒魔道士のアーティファクトにかけられた魔法の効力によって漲るほどに力を感じる。

それなのにキリサメマリサの魔法は全てを薙ぎ払う。

火の魔法を放てば太陽の如き熱を、水の魔法を放てば大洪水と言わんばかりの水量を、土の魔法を放てばアル・タユの内部を粉砕しかねないほどの地割れを。

魔力の差、というのはほとんどないはずだ。不思議と目の前のアークエンジェル本体からはさほど強い魔力は感じられない。

しかし魔法の威力というのには歴然たる差が生じていた。その原因は恐らく、キリサメマリサの周囲に展開された八本の杖。

それぞれの元素に対応した色がぼんやりと輝くたびに魔理沙の背筋が凍りそうになる。

あの杖一本で、いったいどれだけの魔法使いの魔力を蓄えられる?

十人?そんなものでは届かない。百人の魔法使いを集めてようやく一本の魔力に届くぐらいだ。

魔理沙とそう変わらない魔力でありながら、天変地異を引き起こす魔法を軽々と行えるのは八本の杖のお陰なのだろう。

 

ならばお得意のサポシで盗んでやるか?

気軽にそう考えるが、はっきり言って無理だ。

魔法の詠唱すらも行わないキリサメマリサに接近戦など自殺行為の一言。

せめて謙虚なナイトのような盾役が注意を引き付けてくれたらその限りではないかもしれないが、現状では盗むという行為は不可能に近い。

まさしく万事休す。急いで先に行かなくてはならないのに、目の前の敵があまりにも大きな壁となって立ち塞がる。

 

「悪いがお前に手間取ってる暇はないんだ!とっとと私に倒されろ!」

 

『ヤァダ、モット遊ビマショウヨ』

 

自分と瓜二つでありながら少女口調のキリサメマリサに鳥肌が立つ。

いくら自分が乙女だと自覚しても、あんな露骨な口調は無理だと常々思っているからだ。

 

「どいてくれないなら撃つだけだぜ!どかなくても撃つけどな!」

 

自前の八卦炉を構え、向けるのは自分以上の強さを持つ自分。

超えるべき壁が高ければ高いほど、それが自分であるならやりがいもある。

そうした不適な笑みを浮かべ、キリサメマリサもまた、感情のない笑みを浮かべる。

 

「恋符!」

 

『マスター……』

 

八卦炉に特性魔力増量茸粉で燃料となる魔力を急激増加させ、キリサメマリサは八本の杖を円形状になるように展開する。

両者が放つのは幻想郷で魔砲として恐れられ、霧雨魔理沙という少女を表した代表的なスペルカード。

 

「スパァァァァァァァク!!」

 

『スパーク』

 

人一人では収まりきらない、小さな山なら焼け野原にしてしまうだろう光線が発射された。

互いのマスタースパークがぶつかりあい、己こそが勝つと言わんばかりに更に魔力を上乗せしていく。

上乗せされる度に光線の密度がより厚くなっていく。

しかし押され始めていくのは魔理沙であった。

どれだけ魔力を込め、八卦炉を持つ腕の負担を無視してもそんなものは無意味だと言わんばかりにキリサメマリサの光線が押していく。

八卦炉によって魔力が増大していても、基本となる威力は魔理沙の魔力に左右される。しかしキリサメマリサは八本の杖の魔力によってブーストされ、マスタースパークに注ぎ込める魔力は無制限に等しい。

押され負ける。だからこそ、魔理沙はぼそりと呟いた。

 

「後で回収するからちゃんとやれよ」

 

「マ、マス…!?」

 

属性杖の魔力が上乗せされ、小さな山を飲み込む程度の光線は、ついには大きな山すらも飲み込むほどの大きさとなって魔理沙のマスタースパークを飲み込んだ。

 

「う、おおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

箒に魔力を充電してから急速離脱。己の肉体負担を限りなく無視しての急加速によってキリサメマリサのマスタースパークをギリギリ回避に成功する。

だが、流れ弾となったマスタースパークはアル・タユの壁を粉砕し続け、ついには外の真世界にすら光線が飛んでいく。

とんでもない威力だ。当たっていたら、掠るだけでも消し飛んでいた。

 

「マスタァァァァ!」

 

『馬鹿ノ一ツ覚エネ。今度ハ外サナイワ』

 

上空からのマスタースパークであってもキリサメマリサは慌てない。

あれほどまでの砲撃を撃ち終えたばかりだと言うのに八本の杖はすぐさま魔理沙の方へと向けられる。

 

「スパァァァァァク!!」

 

先程よりも更に大きな光線がキリサメマリサに向けられて発射する。

後の事など考えない、己の魔力の全てを使わんと言わんばかりの砲撃がキリサメマリサに向かう。

しかし現実は残酷だった。

魔理沙が十数年歩んできた魔法使いとして、鍛え続けた全ての魔力。

その全てを使うほどのマスタースパークで持っても、キリサメマリサが遅れて放つマスタースパークには遠く及ばない。

 

「へっ!馬鹿かどうかは!」

 

右手には八卦炉を、左手にはオートマトンを操るストリンガーを。

 

「こいつを食らってからだ!ダブル!」

 

『後ロ!?』

 

「八卦炉光線形態切替完了。マスタースパーク!!」

 

キリサメマリサの背後に落ちようとするのはコロンビーヌ。

胴体からキラリと輝く八卦炉は、魔力路から膨大な魔力を汲み取っていく。

ストリンガーからの指示は形態変更、それは魔理沙の得意とする魔砲を使うための指示だ。

前後から挟まれる形にマスタースパークを放たれてしまい、魔理沙のマスタースパークは自分の魔砲で防いでも、背後からのマスタースパークは防げない。

 

『スーリヤ!ヤマ!』

 

八本の杖で展開していた中、光と闇の輝きを持つ二本の杖で背後を守らせた。

二本の杖が背後に展開されると魔力の壁を展開し、オートマトンからの砲撃を守らせる。

 

「魔力の泉、開放!このまま押し込んでやる!!」

 

『!?』

 

黒魔道士の奥義である、次元の穴から無限の魔力を引き出す力を解放する。

無限という言葉に偽りは無く、魔理沙のマスタースパークの密度が際限無く膨れ上がっていく。

このままではまずいと分かったのか、キリサメマリサも魔力を注ぎ込もうとするが、背後からのマスタースパークを守らせるのに二本の杖にも魔力を注ぎ込み続けなければならないため、うかつな行動ができない。

下手にマスタースパークの威力を上げれば魔力の壁が破壊され、魔力の壁を維持し続ければ魔理沙のマスタースパークがキリサメマリサを飲み込もうとする。

このままでは八方塞がりだ。キリサメマリサはやぶれかぶれにマスタースパークの威力を上げようとするが、それよりも早く魔理沙の光線がうねりを上げる。

 

「霧雨魔理沙様を……!」

 

うねりを上げたマスタースパークがキリサメマリサの光線を飲み込み、あまりの魔力負荷に耐え切れなかった八卦炉が砕け散る。

だが、それもキリサメマリサの杖も同じこと。飲まれた光線によって魔力が逆流してしまったのが、次々と光を失いながら杖が砕け散っていく。それは背後を守らせた杖も同様であり、ついにコロンビーヌからのマスタースパークも襲い掛かる。

 

「舐めるんじゃないんだぜぇぇぇぇ!!」

 

『……ウフフ…………ヤルジャナイ………』

 

魔理沙とコロンビーヌの前後からのマスタースパークがキリサメマリサを飲み込んだ。

二つのマスタースパークがキリサメマリサを中心に大規模な爆発が発生し、上空にいた魔理沙ですら爆風でふらふらと安定がしない。

一種のキノコ雲のような、凄まじい威力の奔流によって生まれた粉塵にキリサメマリサの姿は確認できない。ついでにコロンビーヌも。

 

「……やっべぇ!?いったい何処にいった!?」

 

必死に探そうとするが粉塵が酷すぎて全然見えないのだ。

これでは見つけ出すのは不可能に近い。

 

『マッタク……私ハモウ少シ後先ヲ考エナサイナ』

 

声が聞こえたと同時に、粉塵を吹き飛ばす風が舞い上がった。

突如として晴れる光景に呆けてしまうが、ようやく目に見えるようになった事でコロンビーヌを発見する。

 

「ウゥ……酷イデス……」

 

「あははは……悪いな」

 

回収するとは言ったがどうやって回収するまでは考えていなかった。

傷らしい傷はハリボテである腕ぐらいだ。地面に激突した際の衝撃に貰ったものだろう。

 

『マサカ私ガ私ニ負ケルナンテ思イモシナカッタワ』

 

「お前も、生きてたのか」

 

コロンビーヌが倒れていたすぐに近くに、キリサメマリサはいた。

上半身と首を除いて、ほとんどが失っている状態だ。

自分と似ているがために、ほんの少しだけ気分が悪くなる。

 

「ナゼ、ソンナニ困難ニ挑モウトスルノ?私ニハ才能ナンテモノハナイ。困難ニ挑ンデモ誰カラモ認メラレナイ。所詮、遊ビダカラコソ私ハ幻想郷デ認メラレタ」

 

「……そうだな、でもそれがどうしたよ?」

 

自分が才能がないなんて事は、百も承知だ。

困難を挑んでも、才能がない自分が活躍できる事なんてたかが知れている。

遊びであり、本気にはならないという幻想郷という箱庭だからこそ霧雨魔理沙は活躍できた。

もしも遊びのない、本気を出すしかない世界であれば、霧雨魔理沙は何もできなかったかもしれない。

 

「困難なんてそんなの当たり前だろ。夢だとか、叶えたい事だとか、そんなもんは簡単に成し遂げられるもんじゃない。

私には私の進みたい道がある。誰かに認められようなんて思ってない。そんなもん、私の夢には関係ないからな!」

 

『……ソッカァ。ダカラ私ハ私ニ勝テナカッタノネ……』

 

それなりに納得のいく答えだったのか、キリサメマリサはゆっくりと目を閉じる。

消滅していた部分から罅が入っていき、ぼそりと最後の言葉を呟いた。

 

『私にもそんな強さがあれば、あいつの力になれたのかな……』

 

その言葉の意味を、魔理沙は理解する事はなかった。

紫は言っていた。ハクレイレイムとキリサメマリサは、霊夢と魔理沙の平行世界の住民だと。

ならば自分であって、自分じゃない考えを持っているのだろうが、今の魔理沙にはどうでもよいことだった。

 

「よし、ブロントさんの所に全速先進だぜ!しっかり捕まってろよ!」

 

「アアアアアアン!モットユックリィィィッィ!!」

 

自分の道をしっかりと自分の力で歩んでいく。

その事に偽りも無く、そしてその道を歩むための世界を壊そうとする者をとめるべく、普通の魔法使いは全力で箒のスピードを加速させながら最下層へと急いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

叫ぶ。ブロントが猛るように叫ぶ。

振り続ける魔剣、振るわなければ目の前の脅威を払いのけられない。

メイン盾でありながら剣を振るうしかないのは、目の前の脅威がそれほどの存在だからに他ならない。

 

「ふん……次はこれだ。新難題「金閣寺の一枚天井」」

 

ナグモラーダが空間を歪ませて取り出したのは巨大な一枚板、家の天井をそのまま引っこ抜いたそれは普通の人間が持てる大きさではない。

しかしナグモラーダは軽々と振りかざすと、ブロントに目掛けて全力投球をする。

当たれば痛いで済まされない、あれほどの質量を投げ飛ばすとはどれだけの腕力をしているのか。

 

「ハイスラァ!!」

 

その巨大な天井板を、ブロントはグラットンソードによって真っ二つに切断する。

ナグモラーダは次から次へと幻想郷のスペルカードを模倣をした技で持って攻めてくる。

その大半が弾幕であり、盾で防ぎ切れないモノが幾つも存在する。

そうした密度の濃い弾幕や、先程の物理攻撃に該当する弾幕は剣で打ち落とし続けている。

しかし切りがない。これでは相手の方にも近づけず、消耗し続けるのはブロントだけだ。

 

「生半可なナイトには真似できない――」

 

「霊符――」

 

「ホォォォォリィィィィィ!!」

 

「夢想封印」

 

眩しいほどの光の爆発と、七色の球体の攻撃が互いにぶつかり合う。

博麗霊夢の技ですら使えてしまうナグモラーダにブロントの怒りが溜まってしまう。

汚い忍者も模倣として霊夢の技をコピーしていたが、所詮は模倣は模倣。オリジナルの効果には届かない。

しかしナグモラーダの技はオリジナルと同じであり、ホーリーで相殺出来たのはわずか三つであり、残りの四つの球体がブロントに襲う。

 

「ぬぅ!げ、下段ガードで固めた俺に隙は無かった」

 

盾で完全に防ごうとするが、手加減の欠片もない霊夢の技はナイトの防御力を貫通しての破壊力がある。

早く倒さなくはならないのだ。ナグモラーダはブロントが戦っているのだけではない。他にもプリッシュとセルテウスもまた、三人に増えたナグモラーダの内の二人を相手にしているのだから。

 

「弾けろォ!」

 

「無駄だ!」

 

ナグモラーダにプリッシュの拳が突き刺さる直前に、幾つものパネルがそれを邪魔してしまう。

歯軋りをしながら有効なダメージを与えられない中、幻影のナグモラーダは着実に追い詰めようとする。

 

「ふん、拳とはこう使うものだぞ?ファイナルヘヴン!!」

 

ナグモラーダの拳に集まるのは格闘術を行う上で、最高の武器として名高いナックルでありレリックの一つ、スファライが構成される。

膨大な光が集いて正拳突きの型から生み出される技は空鳴拳という武技に近い。

だがレリックから生み出される破壊力は普通の武技を軽く凌駕する。

紙一重で避けたというのに、突き出した拳から生まれる衝撃波は大気の乱れをも作る威力となり、回避行動に移っていたはずのプリッシュの腹がその衝撃だけで内臓を痛めつける。

 

「ぐっ、あぁ!?」

 

弾き飛ばされ、すぐに起き上がろうとするが内臓の傷によって血を吐き出してしまう。

ファイナルヘヴンの一撃によって直撃を回避しても、立ち上がる事ができないほどの傷を負ってしまう。

 

「いかん、プリッシュ!」

 

「貴様の相手は私だ、セルテウス!!」

 

「くっ、邪魔をするな!」

 

それを見たセルテウスはすぐさま救援に向かおうとするが、邪魔に入るのが三人目のナグモラーダだ。

手に持つのは古代から語り継がれる伝説の武器達。この武器によって、セルテウスはクリスタルに縫い付けられる形にされたのだ。

 

「炎の光よ!フレアⅡ!」

 

「そのような小細工!」

 

フェニックスの力によってブーストされたセルテウスの魔法は人一人を燃やし尽くすのに十分過ぎる。

しかしナグモラーダを守るように前面に出る黄金の盾は核熱の炎すら防ぎ切る。イージスは神の攻撃すらも防ぐ盾の王なのだ。

 

「再び這い蹲るがいい!グングニル!」

 

呼び出された伝説の武器は黒き神であるオーディンが所有していたとされる青き魔槍。

雷の化身という別名もあり、力を流せばバチバチと雷撃の音が鳴り響く。

その槍を投擲の構えに入り、セルテウスに投げつけたのだ。

本来、槍を投げるというのは槍を得意とする竜騎士にとって異端の技だ。

己の手足のように使う武器を投げるというのは常識では考えられない。だからこそ、その常識を逆手に取るのがアンゴンと呼ばれる技でもある。

しかし、アンゴンは投擲用の槍を持って使うのだ。それをナグモラーダはグングニルというレリックの武器で投げつけた。

 

「守れッ!」

 

避ける事はできない。グングニルは何者にも目標を外さずに命中するという魔法の効果がかけられている。

それは投擲でも同じ事。逃げようとしてもグングニルが何処までも追い詰めてセルテウスの身体を貫くだろう。

フェニックスの翼を身を守るように防ごうとするが、無意味である。

神に対しても有効となり得るレリックは、フェニックスの翼を貫き、セルテウスの胴体を貫通した。

 

「……がはっ……」

 

「終わりだ。セルテウス」

 

グングニルはセルテウスの心臓を貫き、膝を付いてしまう。

不死鳥であるフェニックスの力を宿しているために死なないセルテウスにトドメを指すべく、ナグモラーダは神殺しの大剣であるラグナロクを構える。

黄金の輝きを持つ魔剣の一撃を食らってしまえば、確かに中にいるフェニックスごと殺しきれるかもしれない。

 

「スカー……」

 

「やらせん!アンゴン!!」

 

トドメを指す直前にナグモラーダへと迫る一本の短槍。

それは正確な狙いかつナグモラーダが反応をするよりも早くラグナロクを持つ腕へと貫く。

竜騎士が扱う両手槍に比べると半分ほどの大きさの槍を投げたのは、紫色の鎧が所々割れ欠けているリューサンであった。

 

「き、さま……!」

 

「余所見をしている暇は与えんぞ!」

 

「断ッ!」

 

腕に刺さる腕を引き抜くよりも早く、ザイドの両手剣がラグナロクを持つ腕ごと斬り飛ばし、テンゼンの素早い太刀がナグモラーダの胴体を裂いていく。

致命的な致命傷を一瞬で負ったためか、幻影である分身のナグモラーダは消失をしていく。

 

「どうやらまだメインは残ってるみたいね!」

 

「ブロントさん、無事か!?」

 

露出のある肌からまだ癒え切っていない痛々しい傷を残しながら、ライオンがまだ戦闘中であるのを確認する。

そして豪華な衣装をボロボロにしながらアルドもまた、まだ戦っているブロントの無事を見た。

アークエンジェルとの戦いによって別れ、続けて闇の王とハイドラ戦隊との戦いを切り抜けた者がようやくブロントの元に追いついたのだ。

そして、追いついたのは彼らだけではない。

 

「霊符、夢想封印!」

 

「ぐぅ!?」

 

不規則に空中機動をしながら七つの球はナグモラーダを守るパネルを潜り抜けて弾幕の味を直に味あわせる。

プリッシュのトドメを邪魔をしたのは、白い法衣を血に染めた博麗霊夢である。

 

「斉京最速のwwwwwwwwwwwホォォォリィィィィィィwwwwwwwwwwwwwww」

 

「ごぉ!?」

 

霊夢を睨み付けるよりも早く、草笑いをした内藤の横槍が入った。

最速というのは伊達ではないホーリーがナグモラーダを爆発させ、軽く吹き飛ばしてしまう。

 

「プリッシュ、まだ生きてるわね?」

 

「うっ……レイ、ムか……?」

 

霊夢は動けないプリッシュにすぐさま癒しの術をかけ、内臓の傷が治していく。

その間に内藤だけだったのが、次々と見慣れた者、見慣れない者が湧き出てくる。

どうやら最深部に辿り付けたのが信じられないような痛風は確認するために辺りを見回している。

 

「適当に走ってたら目的地に着いちまったみてーだなwwwwwwwwwwww」

 

「内藤の馬鹿がさっさと走るから迷う一歩寸前だったけどなwwwwwwwwwwwwww

・えちょ 馬鹿が本能で目的地に着くとかどんな野生児だよwwwwwwwwwwwミスwwwwwwwwwwwちーの前で焼き鳥食いたいwwwwwwwwwwwww」

 

内藤の顔はいつも通りの草笑いではあるが、身に付けている白銀の鎧は至る所が砕かれている。

特に右肩の鎧が吹き飛んでおり、肩を露出している状態になっている。

そして内藤だけではない。遅れてやってきた者達も一部を除いて技術の象徴であるアーティファクトが修復が必要な程に壊されている。

糞樽に至っては帽子を無くしているため、どれほどの激戦を潜り抜けてきたか分かるだろう。

 

「纏めて消え去るがいい!ファイ……!?」

 

好き放題にされるほど、ナグモラーダは間抜けではない。

手に呼ぶのは終焉を告げる災厄の枝。

とある吸血鬼の妹が好んで使う武器であり、そしてヴァナ・ディールでのオリジナルとも言うべき神器。

ミシック・レーヴァテインを構成させ、大規模の魔法で焼き払おうとするが、呪文を詠唱するための声が出せない。

 

「ふぇふぇふぇwwwwどんなもんだよ、やられっぱなしになるってのはよ?空!」

 

ナグモラーダの影からぬるりと汚い忍者が現れると、汚らしい笑いをしながら飛び上がるような一撃を背後から食らわせる。

それにたたら踏みながらも耐えながらも、汚い忍者の影から更に人影が現れる。

 

「しつこい男と中ボスは嫌われるよ?シャーク、バイトォ!」

 

サメの一撃を象るように、一突きの短剣がナグモラーダの心臓を抉り、そのまま切り上げるようにして上半身を引き裂いた。

汚い忍者とフゥの武技が互いに交じり合い、連携となったそれによって、ナグモラーダの肉体が分解されて消えていく。

 

「はっはっは!相変わらず綺麗なところだな、弟よ!」

 

「そうだな、兄者!しかし悠長な事は言っていられないぞ!」

 

「はぁ、はぁ……な、なんで皆さんそんなに元気なんですか?」

 

「おいおい、モイン。お前体力落ちてないか?タルタルの俺でも息切れしてないのに」

 

「ま、ブランクがあるなら仕方ないだろ?とりあえず今は……」

 

そして、ブロントのかつての仲間達も揃った。

ブロントは振り向かない。目の前の敵がいるのもあるが、それ以上に今振りかえればどう話せばいいか分からない。

今の状況に、そんな迷いは不要だ。

そして、彼らもそれを知っている。彼らが知りたかったのは、ただいなくなってしまったブロントと汚い忍者の無事と、ブロントがメイン盾として続けているか否かという事。

 

「ブロントさん……」

 

「モイン、話は後でな?」

 

「わ、分かってますよ、ジャルベリンさん」

 

背中を見れば分かる。ブロントは何も変わってはいない。

変わらないメイン盾がそこにあり続ける事に、モインは少しばかりの安心と寂しさを覚えた。

 

「ブロント……!まだ、抵抗を続けるか!」

 

「抵抗をしないのとするのを選ぶとすたら最初からする事が来るのが100%だった!」

 

押しているはずだった。

数々の弾幕を模倣し、数々の伝説の武器で襲い、数々の英雄の技を吸収したナグモラーダはブロントを追い詰めていたはずだった。

だが、剣がぶつかり合えばブロントの剣が押していき、魔法を打ち合えばブロントの魔法が一歩前を抜き、伝説の武器を使っても決して倒れないメイン盾。

仲間がいればいるほど、その力が限りなく増していく。

 

「さんを付けろよ……!!」

 

音を超える勢いで持って、最後の一人が駆けつける。

尊敬する一人の騎士を呼び捨てにした時、如何なる場所からでもやってくる。

それは例え真世界でも決して変わる事がない舎弟根性。

 

「デコスケェェェェェェェェ!!スパァァァァァク!!」

 

空中から突如して光り輝く光線。

それを察したブロントは華麗なバックステッポで回避をし、残されたナグモラーダは霧雨魔理沙の撃った魔砲によって包まれる。

自分との戦いで八卦炉を失い、マトンを八卦炉のようにして構えて放つマスタースパークは、魔理沙の魔力とコロンビーヌの魔力の相乗効果によって威力は上がっている。

それでもオリジナルのナグモラーダは耐え凌ぐ。しかしながらもオールバックにしていた金髪が崩れ、荒い息をしているために、無傷ではなかった。

 

「この度は二度目の出会いになりますわね?初のお会いには碌にお話もできませんでしたが、幻想郷によって生き長らえながらもその幻想郷を消そうとする愚かな振る舞い。

もはや何も言い残させはしませんわ。愚かしく残酷にこの世界から往ね」

 

いつもの飄々とした賢者の姿ではない。

殺気と怒りを目に宿した紫はナグモラーダを許すという気はさらさらない。

一片の猶予は無し、己の力の全てをかけてもナグモラーダという存在を欠片も残さずに消滅をさせてしまう。それほどの妖力がオーラとなって滲み出ている。

 

「……くっくっく……ははははは……」

 

ナグモラーダの勝ち目は見えない。

ブロントを初めとして、二十人を軽く超えるオーバーアライアンス規模の数をして、勝てる道理など見つからない。

それなのに、ナグモラーダは嘲笑う。蔑むように、哀れむように。

 

「何が可笑しいのです、ナグモラーダ」

 

「……エシャンタールか……なんて事はない、全ては私の計画通りだ。お前達は予測通りに、困難を乗り越えてしまったのだから」

 

右手に集わせるのは宝塔。

ナグモラーダに力を与え、ナグモラーダの計画の要となるモノ。そしてナズーリンが取り返さなくてはならない神器でもある。

 

「困難の前にした人間は諦める。だが、稀にそれを乗り越える者がいる。如何なる困難を乗り越えていき、運命を捻じ曲げる存在がな……」

 

宝塔の輝きは増していく。

増した光に呼応するかのように、母なるクリスタルが鼓動を開始した。

心臓のような音であり、何かが生まれようとする感触が分かってしまう。

 

「そうした者には光が生まれるのだ。心の闇を持ちながらも、闇に囚われずに光の道を進もうとする者が現れる……そう、お前達のようにな」

 

母なるクリスタルから、何かが吐き出すように現れる。

それは石像だ。巨大な石像が現れる。

全身を鎖で束縛され、自ら動く事を禁じたような石像。

 

「だが、光が生まれるという事は、同時に闇も生まれるのだ。イブノイル様の祈りを受けたとしても、クリスタルの輝きを持たぬお前達の光は闇を生み続けるしかない」

 

「ナグモラーダ!てめぇ、何を!?」

 

「さぁ、生まれるがいい!人間の本当の姿にして、母なるクリスタルから生まれし神の一柱!!」

 

石像に罅が入る。

プリッシュが止める暇も無く、石像から何かが見えてくる。

まるで、卵から雛が孵るように。

 

「――プロマシアよ!!」

 

石像の外殻がポロポロと外れていく。

そして、それはブロント達の前に現した。

 

3mはあろうかという巨大な神だった。

白に輝く人型の肉体を持ち、背中から展開されるのは六枚の翼。

しかし人間に似ていながらも、顔が存在しない。

塗り立てられたような青い顔無しがあるだけで、表情というものが伺えなかった。

 

セルテウスの身体が震える。かつての男神が、蘇ってしまった事を。

プリッシュは唇を噛む。災厄の象徴が、再び自分たちの前に表した事を。

 

「そんな、石の記憶も無しにプロマシアを!?」

 

「ははははは!それだけでは、ない!」

 

ウルミアは知っている。プロマシアの降臨には大きく二つが必要とされる。

一つはプロマシアの肉体の器となりえるほどの膨大な『虚ろ』だ。

これはヴァナ・ディールと幻想郷の『虚ろ』を集めた分を石像を器にして作り上げたのだろう。

そしてもう一つが神を降臨させる『石の記憶』だった。

『石の記憶』を知り、歌える者は今となっては極少数。ウルミアとエシャンタール、そしてナグモラーダだけであるが、ナグモラーダはその『石の記憶』を無しにプロマシアを降臨させたのだ。

宝塔の持つ「開放」させるという力が、眠るはずのプロマシアの意識を呼び覚ましてしまったのだ。

 

そして輝く宝塔がナグモラーダを包み込むと、光の球となってプロマシアへと近づき、吸収される。

本来であれば吸収された瞬間にヴァナ・ディールの住民はプロマシアの記憶が蘇り、発狂をしながらも肉体の器の一つとなる。

 

――く、はははは!もはや、そのような真実に惑わされぬぞ!さぁ、宝塔よ!プロマシアを、我が肉体にしろ!

 

ナグモラーダはそのような事にならなかった。

宝塔の力によって守られたナグモラーダはプロマシアと一体化をしながらも、ナグモラーダの意識が独立している。

それに現れるかのように、プロマシアの肉体に変異が起きた。

純白を表すかのような肉体は虚ろなる闇を思い出せるような漆黒に染まり、青い輝きの顔無しは血のような赤い輝きへと変貌する。

ナグモラーダの意識がプロマシアの肉体を乗っ取り、神の肉体は決まった姿を持たないためにナグモラーダの意識に強く影響されたのだ。

 

 

――のぞめ、のぞめよ、のぞまん、滅びと再生。死の苦しみも、生きる愚かしさも、全てはこの私が救済をしよう

 

 

ブロント達が真世界に突入し、ナグラモーダと交戦してから四十二分と七秒。

 

 

――世界に、新たなるクリスタルの加護あれ

 

 

四十二分と七秒によって、決着を終えた悲劇。

人間も、妖怪も、動物も、獣人も、神々も、世界すらも。

絶対に避けられない「世界の終わり」という悲劇を迎える事となった。

 

 

 




伝説は、こうはじまる。
すべての起こりは「石」だったのだ、と。

遠い遠いむかし、
おおきな美しき生ける石は
七色の輝きにて闇をはらい、

世界を生命でみたし、
偉大なる神々を生んだ。

光に包まれた幸福な時代がつづき、
やがて神々は眠りについた……。

世界の名は、ヴァナ・ディール。



ああ、しかしいつしか
おおいなる災いが満ちる、
祝福されしヴァナ・ディールの地に。

何万年の長きにわたり
暗黒を退けていた古の封印がやぶられ、
終わりなき悪夢たちが、いま目覚める。

闇に覆われた悲劇の時代が幕を開けた。
しかし神々の眠りは醒めない……。

世界の名は、ヴァナ・ディール。
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