東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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最終章「東方陰陽鉄」:後

世界が緩やかに、確実に終わりを迎えようとする。

避けられはしない。いかなる定めでも。

止められはしない。いかなる力でも。

 

世界が終わった時、いったいどうなってしまうのだろう?

自分を育ててくれた両親も消えてしまう。

自分と友になった者も消えてしまう。

自分の見知らぬ赤の他人すらも消えてしまう。

自分が愛した者も、世界も、全てが消えてしまう。消えてしまうのだ。

 

少女は祈る。

己の力を、己の存在を、全てを失ってもいい。

ただ祈り続ける。

この思いが届くようにと、世界中の生きとし生ける者に伝わって欲しいと。

 

赤い空を見上げれば分かるはずだ。

もはや目に見えるほどに広大に映る大地、その中心に現れた古代都市の姿が。

戦っている。世界と生きる者全ての存亡をかけて戦っている。

涙を流し、血を流し、骨を砕かれ、精神を打ちのめされ、絶望に陵辱されようとも戦っている者がいる。

 

少女は祈る。

そんな戦っている者達に、ほんの少しでも助けになるようにと。

終わらぬ戦いに終止符を打ち、世界の終わりを終わらせるために。

だから、助けて欲しい。助けてください。

この世界を終わらせないために、この世界を愛する者として。

 

祈りは、まだ彼らの元に届かない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――く、ははは……これが、これが勝利というものか……。

 

ナグラモーダは笑みを隠せずにいた。

世界の終わりは目前となり、終わりを迎える事で新たなるクリスタルの誕生となる。

己の魂と器である神竜をベースにし、母なるクリスタルとなったナグラモーダは偽りの無い世界を誕生させるだろう。

そしてそれを邪魔する者はもういない。

ピクリとせず、元の世界では英雄とも評された者はあっけなくナグラモーダによって、等しく倒されていた。

 

――ようやくだ……!あの兄弟にも、神にすら成し遂げられない偉業を我が手に!!

 

神竜の、プロマシアとしての目にはヴァナ・ディールと地球がぶつかろうとしている瞬間が見えている。

真世界を開こうとした古代の兄弟にも、超越者である神でも不可能な偉業を、ただの人間に過ぎないナグラモーダが成し遂げようとする。

思えばナグラモーダの人生に勝利という言葉は存在しなかった。

生まれながらの不完全者であり、完全になろうとしてもその先に敬愛すべき者と世界は失い、真実を知った代償として神に取り込まれた。

一万年に続く敗北者。

それがナグラモーダであり、一万年の時を掛けてたった一つの勝利を得る。

勝利の代償はこの世に存在する欺瞞と幻影に満ちた世界であり、勝利の先には真なる世界とナグラモーダの思い描く平等たる明日が待っている。

神も、ヒト、獣も。

あらゆるモノが争うことなく平和に生きられる世界。

現実として、叶おうとしていた。

 

「………ま…………」

 

動かないはずの少女の手が、ほんの少しだけ動いた。

魂すら消し去ったはずなのに、ゆっくりと、ゆっくりと身体を動かそうとする。

 

――まだ動こうとするか……!

 

神竜の波動を受けてしまっては人間の魂など消滅するのは当たり前のこと。

次元の違う攻撃を受けてしまっては耐えられぬ通理などない。

それなのに、ナグラモーダの成そうとする事を幾度無く遮り続けたプリッシュは立ち上がろうとする。

 

「ま……だ、負けちゃ、いない……」

 

立ち上がろうとして倒れる。頭から倒れて、いっその事そのまま動かなければ楽だろうに。

しかしナグモラーダは知っている。

彼女は、彼女達は決して諦めるという文字を持たない。

生きる事から逃げ出さず、死ぬという恐怖を振り切って、運命すらも乗り越えたのだから。

だからこそ、ナグモラーダの怒りに触れる。もはや、どうしようもない状況であっても魂に光を灯し続けるプリッシュに。

 

「へ、へへ……勝利の宣言は、まだ早いぜ!ナグモラーダ!!」

 

震える足であっても身体を支え、傷口が開いて血が流れる腹を右手で押さえ、血と傷で染められた左拳をナグモラーダに突き出す。

いつもの不遜としたニヤリ顔は、絶望的な状況であっても勝利を諦めない事の意思表示であった。

 

――ならば、死ね!!!

 

神竜の目から発射される光の矢。

魔力によって構成されたそれを食らえばプリッシュの身体を容易に貫き、風前の灯火に近いプリッシュの命を奪うだろう。

如何にプリッシュでもかろうじて立ち上がった今の状態では回避する事も防御する事もできない。

 

「う、おおおおおおおおおおおいいいいいいィィィィィィィ!!」

 

その危機を救うように一本の剣がプリッシュを救う。

光の矢がプリッシュを狙う一瞬の間をすり抜けるように漆黒の剣が身代わりとなったのだ。

暴食の意味を持つグラットンソードは見当違いの場所へと飛んでいき、投げつけた騎士は膝を付きながらも立ち上がろうとしていた。

 

――ブロント!!貴様までも!

 

「メイン盾が、ここで倒れてたら……物語がここで終わってしまうんだが?英語で言うとバッドエンド……ここから本番だと思った(リアル話)」

 

剣は手元にない。

盾は無残にも砕けた。

白銀の鎧は原型すら留めておらず。

ナイトとしての全てを失いながらも、ブロントもまた立ち上がっていた。

一歩、また一歩と確かに踏みしめながら、高慢にも自分がいなければ全てが終わると言いながら。

されど、確かな希望を持ってナグモラーダと向かい合う。

 

「別に……」

 

次々と、次々と立ち上がる。

己の武器を手に取って、己の身体に鞭を打ち、己の心を奮い立たせて。

 

「もしも、明日に世界が終わっても……」

 

ナグモラーダは、怒りと共に恐怖を知る。

なぜ、なぜ彼らは諦めないのか。なぜ彼らは、立ち上がれるのか。

それが分からない。神となったナグラモーダでも分からない。

 

「私は……別に、どうでもいいことなのかもしれない……」

 

心が読めるはずなのに理解できない。

闇を持つ人間の魂に光り続ける意味を理解できない。

 

「でも、あんたに世界をともかく言う筋合いもない……!」

 

未来のない存在もまた、立ち上がる。

幻想と言われても、過去の存在であったとしても。

未来に生き続けようとした者と出会った事で、変われた者達もいるのだから。

 

「ああ、そうだぜ……!私は、私達はこの世界で生きてるんだ!辛くても、悲しくても、それ以上に楽しくて、喜びがあるのも知っているから!!」

 

「何も感じなくても、何も見れなくても、それ以上に感じられるものがあった!少しだけ、世界を見ようと思える事もあった!」

 

ヴァナ・ディールと融合する前の彼女達であれば、諦めたかもしれない。

その絶対的な力の差に、抗いようの無い運命に。

立ち向かう事すら、しなかったかもしれない。

 

「怖い……今でも、闇を見つめられないぐらいに怖い……でも、私の知る全てが無くなるのが、それ以上に怖い!!」

 

「幻影だからと勝手に消されるのもいい迷惑ですわ……ヒトが、本当の意味で私達を必要としないのならね……」

 

「まったくだ……必要じゃないから壊すなんて子供じゃあるまいし……ご主人でも、そんな馬鹿な事はしないさ」

 

もはや人間であっても、妖怪であっても。

生きるために必要な闇を失った彼らに戦う手段など持ち合わせていない。

 

「身体wwwwww動かないwwwwwwww姫wwwwwwww熱いチッスでwwwwwww俺様に入魂よろwwwwwwwww」

 

「あらあら^^^^^^^^^そんな戯言言えるならまだ大丈夫そうね^^^^^^^^^^^」

 

「ちょwwwwwww内藤の頭がザクロになりやがったぞwwwwwwwwww

・えちょ ハンマー振り回してる余裕があるならお前が前衛になれよ臼ゴリラwwwwwwwwwwwwwミスwwwwwwwwwwトロールwwwwwwww」

 

「♪♪♪♪♪^^^^^^^^^^^^^^^^^^」

 

「それ間接に姫もトロール扱いって、なんで俺までwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

世界を守ろうとする意思に、特別な思いがあるわけではない。

英雄になろうとするわけでもない。

高潔な志があるわけでもない。

 

「クッソ……今のは効いたぜ……おい、ノブオ!生きてるか!」

 

「あ、たま、振るんじゃねぇよ!ぐえ……」

 

「つぅ……ここまでピンチなのは前のプロマシアか、アレキサンダー以来じゃねぇか……?」

 

「どうする兄者、もはや魔力も体力も足らんぞ」

 

「何、弟よ。魔道士で大切なのは魔力ではなく、頭だ。もう一発分の魔力をどうにしかして奴の顔面にぶつけなくては……」

 

「それも結局脳筋じゃない!あーもう、モイン、早く治してよ!声は出せても身体がまったく動かないし!」

 

「ま、待ってください!回復が中々進まなくて……」

 

どうしようもない理不尽があるかもしれない。

 

「アルド……息は、してるみたいね……」

 

「……どうにか、な……だが、もう戦えん」

 

「少しでも、強ければ……すまん、モブリン達よ……」

 

それは決して優しくない。

 

「ぐぅおお……鳳凰丸、お前が我輩の命を守ったでござるか……」

 

「くっ、かろうじてだが死にぞこなったか……まだ行けるな、スカリーZ……」

 

「さて、な。槍を持つのも一苦労だ。貴様も遅れを取るなよ、ルーヴランス」

 

ただ、彼らは世界が好きなのだ。

どれだけの理不尽と戦う事になっても、守るのに値する世界がある。

だからこそ、彼らは立ち上がる事ができる。絶望的な今が迫ってきても戦える。

そんな事は、彼らにとっていつも通りの事なのだから。

 

――なぜだ……!なぜ貴様らは!?

 

「もう、分かっているでしょう。ナグラモーダ……あなたの目には、彼らの魂には闇ではなく、本当の光が輝いている事を」

 

立ち上がれなくても、喋る事ができるエシャンタールの言葉に気づく。

ナグラモーダの、プロマシアの目にはしかと映っている。

虚ろを吸収し尽したはずのブロント達の魂には女神が流した涙とも言うべき、光がある事を。

 

ヒュームが持つ虚ろの名は『無知』

痛みに気づかず、先を見通す事のできない闇は全てを壊す。

されど、知恵を学ぶ事で叡智へと至れば、それは未来を見据える『希望』となり、その輝きは欺瞞に満ちた世界を照らす。

 

エルヴァーンの持つ虚ろの名は『驕慢』

自分以外を信じられず、自分以外を見下す事しかできない闇は全てを失う。

されど、他者を見下す事なく謙虚な心で互いを認め合えれば、それは手を取り合う『信頼』となり、その輝きは絆無き世界を照らす。

 

タルタルの持つ虚ろの名は『怯懦』

恐れるが故に動かず、動けば傷つけようとする闇は全てに怯える。

されど、恐れを抱く自らを奮い立たせ、一歩を踏み出せる力は『勇気』となり、その輝きは心無き世界を照らす。

 

ミスラの持つ虚ろの名は『嫉妬』

羨み、妬み、手に入れたいとする闇は全てを傷つける。

されど、手に入れようとする羨みを平和への気持ちに向ければ『正義』を行う礎となり、その輝きは闇のある世界を照らす。

 

ガルカの持つ虚ろの名は『憎悪』

憎しみの炎は決して消え去る事はなく、永遠と続く連鎖の闇は全てを終わらせる。

されど、憎しみから理解をしようとする気持ちが芽生えた時、相手を許し、愛そうとする心は『慈悲』となり、その輝きは等しく全てを照らす。

 

男神が自らの虚ろであり、世界の闇である『無知』『驕慢』『怯懦』『嫉妬』『憎悪』が存在するように、女神の愛と母なるクリスタルが生み出す光もまた、大地に生きる全ての者に照らし続けた。

 

――認められるものか……。

 

眩しいほどの光。これほどの光があれば、世界を照らすのには十分と言えるほどの光。

 

――認められるものか!所詮は、偽りの光に過ぎん!!

 

ナグラモーダはその光を認めようとしない。

人から生まれる希望の光では駄目なのだ。クリスタルの輝きでなければ人々は延々と変わらない事を繰り返す。

ナグラモーダの心は変わらない。どれだけの光を感じ取っても、自分の考えこそが正しいという強固な意志が跳ね除ける。

 

――魂が消えないというのなら!光を輝き続けるというのなら!貴様の器を、破壊し尽してくれる!!

 

神竜の雄叫びと共に突風が吹き荒れる。

魔力が篭もった風の暴風だ。当たれば即死は免れず、人としての原型を留めずにバラバラになるだろう。

対抗する手段はない。虚ろを失って戦う手段を無くし、回復すら受け付けていないのだ。

 

「認めようが、認めまいが!んな事はどうでもいいのよ!!」

 

切り札を切る。

博麗霊夢の持つ最大の秘儀で持って戦う手段を取り戻す。

例え絶望的であろうとも戦う意思を失わないのなら、今ここで使わずに何処で使うのか。

 

「行くわよ……これが本当の……夢想天生!!」

 

一枚のカードを唱え、世界の存亡を掛けた戦いに新たなが幕を上げる事となる。

 

「ブロントさん、受け取れ!」

 

「>>リューサン感謝!」

 

ブロントのグラットンソードはリューサンの近くに落ちていた。

霊夢のラストワードである夢想天生が発動したと同時にリューサンは自らの身体が本調子に戻った事に戸惑うと同時にすぐさま武器を主に元へと投げた。

グラットンソードに含まれたダークパワーのほとんどは神竜に吸収されているため、リューサンが持っても頭がおかしくなるという事はない。

 

「グラットンスフィフトでバラバラに引き裂いてやろうか!」

 

「そらぁぁぁぁぁ!フェルクリーヴ!!」

 

ブロントはグラットンソードを受け取ると同時にジャルベリンと共に迫り来る暴風へと走った。

盾を失い、腕を守る小手も失っている。満身創痍に見てもおかしくないはずだが、ブロントには傷一つない。

これが霊夢の持つ夢想天生の本当の力だ。

敵を打ち倒すのが技の本質ではない。

本来は「ありとあらゆる拘束から開放され、一切の干渉を受け付けなくする」のが正しい使い方なのだ。

人として必要の虚ろを失っても、人としての本質は失われてはいない。

だからこそ、霊夢の奥底にあり続ける「誰にも縛られない」本質が力となっている。

夢想天生によって傷ついた身体をリセットし、法則外となった肉体は本来の力を何十倍にも引き上げる。

霊夢が幻想郷で本気を出せば無敵であるという言葉に偽りのない、真の力。

 

グラットンソードを力任せに、両手斧を己ごと回転するするように振るわれる。

虚ろを失う前ですら対抗をできなかっただろう神竜の暴風が散らされる。

反撃が始まろうとした。

 

「霊夢タンの愛の力wwwwwwwwwwwwwぜwんwしwんwに漲るぜえええwwwwwwwwwwww」

 

暴風を散らされてもそれは神竜からすればほんのそよ風に過ぎない。

次なる攻撃の手をする瞬間、内藤はすでに神竜の懐に飛び込んでいた。

 

――邪魔だ!

 

巨大な竜の腕が振り払うように内藤を狙う。

愛用の両手剣を盾にするように防ぐだろう攻撃に対し、内藤はあろうことか逆に斬りかかったのだ。

その衝撃はさすがに内藤を吹き飛ばし、両腕に多大に負担をかけてしまう。

 

――馬鹿なっ

 

巨大な神竜となったナグモラーダからすれば掠り傷に過ぎない傷。

それでも神である神竜には攻撃の一切を通じないはずなのに、腕には両手剣で裂かれた一本の傷があった。

 

「はあああああああああ!」

 

――ぐっ、エルドナーシュゥ!

 

その傷を抉るように数多の槍が襲い掛かる。

エルドナーシュは目に宿るクリスタルの力を解放し、幻想の槍は神竜を突き刺そうとしていた。

しかし神竜とてただで食らうはずも無い。古代魔法であるトルネドを無詠唱で唱え、自らの壁として作り上げたのだ。

結果、エルドナーシュの攻撃は竜巻によって遮れ、一本も届く事はない。

 

「通じる、いけるわ!」

 

初めての自発的の防御という手段を取ったナグラモーダの姿に、賭けに近いがそれは正解だと霊夢は確信する。

虚ろを吸収され、戦闘力の大半を持って行かれたのは実のところ大した問題ではない。

一番の懸念は戦える力を持っていても神竜になる以前のプロマシアから生半可な攻撃が通じない事だった。

高次元の存在である神に傷付けられるのは同じく高次元の存在になるしかない。

ブロントが過去の異変で打ち倒したプロマシアはあくまで器に過ぎず、幻想郷の神々も外の世界の信仰を失っているために高位の妖怪や妖精と変わらない存在なのだ。

復活し、ナグモラーダが取り込んだプロマシアは神として完全体であり、霊夢達に勝ち目などなかった。

しかし、法則外の存在となる夢想天生なら別だ。

誰にも縛られないからこそ神すらも傷つけ、打ち倒す事のできる。

 

「コロンビーヌ、合わせろ!」

 

「了解、マスター!」

 

神竜の上空を箒で飛びながらも、再起動をしたオートマトンと共に魔理沙は詠唱を始める。

 

「できるか、わからねぇけど……」

 

脳裏に浮かぶのは闇のクリスタルから生まれた自分自身。

属性の力が込められた八本の杖を操り、天変地異と疑うべき魔法を操ったアークエンジェル。

魔理沙は自分の魔法に自信がないわけではないが、目の前の神竜に自分の魔法がそう簡単に通じると思えない。

ならば脳裏に浮かぶのは自分以上の魔法を操る自分自身の魔法。

自分に似た奴にできて、私自身ができない通理はない。

根拠のない自身を胸に秘め、霊夢から受け取った夢想天生を身を任せる。

 

「地に閉ざされし、内蔵にたぎる火よ!」

 

「地ニ閉ザサレシ、内臓ニタギル火よ!」

 

膨大な魔力が魔理沙の体を駆け巡る。

無限の魔力を開放させる魔力の泉以上に感じる力をただ一心に一つの魔法に注ぎ込む。

魔力を集中させるのは左手。赤く染まり、熱い炎を感じさせる魔力は魔理沙の身体から左腕に集まっていく。

 

「人の罪を問え!」

 

「人ノ罪ヲ問エ!」

 

言霊に合わせるように魔力が空間を揺らし、それは一つの魔法を完成の意味をする。

 

「「ファイジャ!!!」」

 

左手を振り下ろし、強烈な爆音が響いた。

神竜の頭部を中心にして空間が極限まで圧縮し、小さな火種が灯ると同時に巨大な身体を包み込むほどの炎が神竜を襲ったのだ。

あまりの熱量は上空に離れていた魔理沙すらも燃焼によって燃やされた酸素が無くなり、息を吸えなくなるほど。

 

「づぅ……!」

 

いくら夢想天生によって潜在能力を含めた力が覚醒しているとはいえ、力量自体が上がっているわけではない。

力量以上の魔法を使用した結果、魔力を集中させるために左腕が焼け焦げた。

炭に近い状態に左腕は、もはや治癒の魔法を使ったとしても治らない。下手すれば幻想郷自慢の薬師でも切り落とすしかないだろう。

だが、夢想天生の効果は傷ついてからも発揮する。

黒焦げになった左腕がビクンと震えると真っ白な元の腕に戻っていくのだ。

グッと握り締めれば手に力が入る事を確認する。これなら夢想天生がある限り、どれだけの無茶をしても問題はない。

 

――ええい、舐めるではないわぁ!!

 

「あれでも効かねぇのかよ!?」

 

神竜の身体を震わせる事で包み込んだ炎を散らしたのだ。

神であっても塵すら残さないと確信できる魔法を食らいながらもほとんど無傷に抑える神竜に魔理沙は驚愕するしかない。

 

「まだまだぁ!天と地の精霊達の怒りの全てを!」

 

――カトンボが!落ちろ!!

 

続けて魔法を詠唱する魔理沙に対して神竜とて何もしないはずがない。

空間を刈り取る事で離れたいたはずの魔理沙を目の前に引き寄せ、巨大な尾を魔理沙目掛けて振り落とす。

夢想天生とて万能ではない。即死にならなければ戦う力を取り戻してくれるが、この尾を食らえば魔理沙の身体なぞ欠片すらも残るまい。

 

「させないわよ!タイタン!!」

 

魔理沙を守るように現れた土の巨人。

紫によって召喚されたタイタンが尾の一撃を両腕で防ぐようにして止めたのだ。

本来なら一撃で叩き潰されただろう。しかし召喚獣とは召喚士の力量によって力を変える。

法則外の力を得た今の紫であれば、神としての力を保持した召喚獣を召喚できるのだ。

 

――消え去れ、過去の獣がっ!!

 

翼を広げると神竜は数多の光線がタイタンの肉体を貫く。

崩れかけたタイタンを再び尾で潰し、土の破片となったタイタンは静かにアストラル界に戻っていく。

 

「――まだ!ガルーダ!シヴァ!」

 

続けて二体同時に召喚する。

風と氷の神獣が現れ、ガルーダは大気で押し潰す突風を、シヴァは魂すら凍てつく吹雪を発動させる。

召喚獣の力を引き出すアストラルフロウによって神竜の肉体を吹雪によって凍らせ、追撃とばかりに突風が砕こうとする。

 

――マイティガード!

 

神竜の身体が闇色に輝く。

ガルーダのエリアルブラストが凍らせた部分を砕くが、神竜自身には傷などない。

防御術かと紫は舌打ちをするが、自分の中心から影が出来ている事を気づく。

 

――コメット!

 

「おおっと、管理人こっちだ!」

 

紫の手を引っ張りながら飛び上がるようにして隕石の射程外から離れる。

竜騎士の動きによって紫を救ったのはナズーリンだ。

 

「助かりましたわ。後で博麗神社の芋をファックしてもいいですわよ」

 

「……前から疑問に思ったんだが芋って何のことだい?」

 

ナズーリンの言葉をスルーしながら紫の顔は浮かないものだ。

夢想天生によって力を取り戻し、次々と神竜に攻撃を加えようとする者達。

だが、効果は薄い。

ナグモラーダは世界に存在するあらゆる虚ろを吸収したのだ。

幾ら法則外の存在となり、攻撃が通じると言っても、それは広大な海に砂糖の一欠けらを注ぐようなもの。

打倒するために、力が足りない。

もっと、神竜に宿る虚ろを超えた別の力がいるのだ。

 

「これ、やばいよね」

 

「やばやばだね」

 

「逃げたほうがいいよね」

 

意識を取り戻して戦況を静かに見つめるのはチェブキー三兄妹。

有利な状況になれば仲間になり、状況が悪ければ躊躇い無く裏切る彼らにしてみれば今の状況が自分達にとって不利はとてもとても分かることだ。

だからと言ってプリッシュ達を裏切ってナグラモーダに味方に付こうとも、ナグラモーダが自分達を保護するとは思えない。

ならば、逃げるしかない。

来た道を戻るようにして、そろりそろりと足音を立てないにして、一回だけ振り向いて冒険者達が神竜と戦っているのを再確認して、全速力で逃げた。

 

――鬱陶しい!その希望は無駄と知れ!来たれ、我が虚ろを糧にして!!

 

天に掲げるようにして両腕に膨大な虚ろが集う。

見れば正気を失いかねないほどの闇は四つにわかれ、それは四足の龍へと変貌する。

真龍に属するものでありながら、最も名と力が世界に知れ渡る存在。

 

炎龍ティアマット

氷龍ヨムルンガンド

闇龍ヴリトラ

土龍オウリュウ

 

それぞれが宿る属性を表した赤、青、黒、黄の色の鱗を持つ真龍を己の虚ろで作り上げたのだ。

目の前にヴリトラが降臨し、腰を抜かしてしまうチェブキー三兄妹。

殺気以外に込められていない眼光を浴びてしまい、急いでプリッシュ達の元に逃げ帰ってしまう。

 

「食われる~!」

 

「食べられちゃう~!」

 

「美味しくない!美味しくないよ~!!」

 

ガタガタと震えるタルタル達であるが、状況は更に悪くなっていく。

四龍を四方に生み出しただけでなく、残り続ける虚ろが次々と魔物を生み出していくのだ。

霊夢も見た事が無い。

まるで脳髄をそのまま抉り取ったような、虫に骨があるなら骨だけのような、虚ろとしか言いようの無い怪物が次々と生まれる。

 

「ただでさえ、神竜を相手にしなくちゃいけないのに!」

 

「ライオン、俺らは奴らを相手にするぞ。どのみち、今の俺らであいつと戦えない」

 

「俺も、協力する……」

 

力が増していても神竜と戦って相手にならないのも百も承知。

見ているだけしかできないのなら、アルドはせめて無限に生まれ続けようとする虚ろなる怪物と戦うとする。

今も神竜と戦っている冒険者の邪魔はできない。邪魔をさせるわけにもいかないのだ。

ライオンとてブロントと共に戦いたい。しかし、迫り来る虚ろなる真龍を放っておけるものではない。

 

「ふぉふぉふぉwwwwwwwロートルのワシもそうさせてもらおうとするかのwwwwwww」

 

「どの道、あんな怪物を相手にできるのはあいつらぐらいだ。パママを出せない以上、私はせめて邪魔をさせないようにするしかないな」

 

「ぶろんと殿、ぷりっしゅ殿、世界の行く末は託すでござる。では、いざ参らん!」

 

神竜と戦っていた者はいた。

だが、現れる新たな障害を相手にするべく、神竜の相手は冒険者と幻想なる者達に託された。

 

「マイザーロール!」

 

赤い目で見れば神竜の闇に恐怖を抱き、押し潰されそうになる。

だけど、恐怖の先になる全ての滅びを受け入れる鈴仙ではない。

怖くてもそれを跳ね除ける意思表示としてダイスを弾き、幻影の魔札を発生させる。

己の身に回り続ける六枚の魔札、狙うように手を銃のように構えて撃つ。

一枚、二枚、三枚と次々と狙い打たれる度に数字が浮き出る。

合計として〈10〉、コルセアのダイスは高ければ高いほどの効果を望めるのだから〈10〉でも十分だ。

 

「まだ、ダブルアップ!」

 

鈴仙は更なる倍賭けの宣言をする。

以前の鈴仙ならしないだろう、〈10〉からの倍賭け。

いくらヴァナ・ディールに来てから精神が鍛えられたとはいえ、リスクの高い事などしない。

しかし、コルセアのダイスは内なる覚悟の見せる儀式なのだ。

目の前に広がる暗黒の闇、その恐怖を跳ね除けるために〈10〉という結果で満足してはいけない。

 

「来い!」

 

最後の一枚が打ち抜かれ、魔札は静かに〈1〉の数字を浮かびながら消えていく。

何処かファンファーレにも似た音が鳴り響き、鈴仙の身体から膨大な"何か"の力が発生し、それは等しく抗う者達に注がれる。

 

「しゃあああああああああああああ!!!」

 

ダイスによって注がれた力を確かに感じ取りながら、プリッシュは駆ける。

マイザーロールによってそれこそ次から次へと技を叩き込んでも余裕がありそうな高揚感に身を任せ、神竜の胸に強烈な拳を飛び上がりながら叩き込んだ。

手応えは十分に有り。今までの鬱憤を晴らすように己の持つ技の全てをぶつようとする。

 

「双竜脚!」

 

二度の蹴りが鱗ごと粉砕する威力で放たれる。

 

「無双阿修羅拳!」

 

合計八発の阿修羅の如き見えない拳が襲う。

 

「空鳴拳!」

 

追撃とばかりに大きく振り被った右拳は風圧を乗せて肉体の奥底に響き渡る一撃を与える。

 

「ひっらめけええええええ!!!」

 

無防備の姿を見せず、空いた左拳をアッパーカットのように振り上げる。

 

――くだらん真似をっ!!

 

一撃一撃がプリッシュからしてみれば最高峰の一撃だと自負する。

それなのに通じない。確かな傷を与えられても、倒すのには程遠い。

固められた拳によって瞬間的に身を固めたプリッシュを殴り飛ばす。

弾き飛ばされるように宙に吹き飛ぶが、受け止められる。

神竜からの一撃で意識が遠のきそうになるが、振り返れば不死鳥の翼によって飛ぶセルテウスだった。

 

「わりぃ、セルテウス」

 

「ああ」

 

ブロントの刃も、霊夢の術も、魔理沙の魔法も、プリッシュの拳も。

倒せない。どれだけの、例え幾万の攻撃を与えても無い神竜は倒されない。

与えた傷から治っているらしく、プロマシアの持っていた治癒力は健在のようだった。

 

「まだ滅ぼそうとするのかよ!分かってんだろ!俺達の中には女神様の涙が流れているって!」

 

――笑止!もはや止められぬのだ!一万年の昔から私が抱き続けた思いは!イブノイル様が見たかった理想の世界は!

 

「その理想に、イブノイル様が生きた世界すら犠牲にするか、ナグモラーダ!!」

 

――そうだ!貴様らの持つ光で持っても、輝き続けるわけではない!人は弱い、人は闇に抗えない!!

 

神竜から闇色のブレスが吐かれる。

少しでも触れれば虚ろに囚われ、腐り落ちていくだろうブレスをセルテウスは不死鳥の炎で持って遮る。

 

――ジラートの民であっても、母なるクリスタルの記憶でもあっても!世界に闇がある限り、人が闇を持つ限り、救済は訪れんのだ!!

 

「勝手な事ばかり言うんじゃねぇ!!」

 

闇のブレスを飛び越え、目の前の分からず屋を黙らすための拳を固める。

同じように神竜も拳を固め、人と竜の拳がぶつかり合った。

間は一瞬もなく、右拳が砕け、そのまま腕ごと折れ曲がっていく音を間近で聞きながらプリッシュが押し負けた。

傷の治りが遅い。左手で抑えるように痛みに耐えるが、魔理沙が大魔法によって腕を焦がした時のように、治癒力が発生しない。

夢想天生の効果が切れようとしているのだ。

 

「まずい……」

 

夢想天生の効果を無くしては神竜に対抗する手段は存在しない。

紫の目には夢想天生を維持したまま戦っている霊夢が映るが、どう見ても余裕がなさ過ぎる。

当たり前の事だ。

幾ら無条件で無敵になれる秘術とは言え、霊夢自身に負担がないわけではない。

そもそも夢想天生を発動すれば一瞬に勝負の片が付くはずなのだ。それなのに倒すのに至れない神竜はそれほどまでの規定外なのである。

 

「……」

 

どうすれば倒せる?どうすればあれほどの力を持つ存在を屈服させられる?

紫の頭の中はぐるぐると考えが回り、膨大な虚ろを溜め込んだ神竜を屈服させるのに足りる力を思い描く。

手に持つのは大陸を焼き尽くせるだろうメテオと神竜の波動によって罅割れた、バハムートから託された杖。

呼べるか、呼べないか。

己の力量を考えて不可能と言わざる得ない超存在の召喚。

それも単なる力を借りる召喚獣ではなく、完全なる召喚によって神を呼び起こす手段。

 

「やりましょう。私なら、できるわ」

 

不可能など、ついこないだに乗り越えたばかりではないか。

神々の試練をたった一人で乗り越えたばかりではないか。

答えなど、最初から決まっているようなものだった。

 

「ゆえに我は命ず、命ずるは我なり……」

 

ただ召喚しようとも答えてはくれないだろう。

だからこそ、紫は土台をまず作り上げる。全ての霊獣の頂点に立ち、真龍の王を呼ぶのに相応しい土台を。

 

「きたれ疾く、疾くきたれ、アストラルの地より、我が腕の元に……!」

 

紫を中心から現れ、周りに分散するのは己と契約した十一の神々の召喚陣。

火、水、風、土、雷、氷、光、闇、夢、未来、虹。

暴走をしてもおかしくないほどの魔力を陣に注ぎ込み、更なる詠唱を続ける。

 

「そは創生の火に、そは青き牙を、そは風を知り、そは大地を統べ、そは森羅万象の翁と、そは静寂の中に!」

 

六つの陣が割れると同時に、球体となった召喚獣はバハムートスタッフの黒水晶へと吸収される。

 

「そは光を受ける、そは闇を感じ取る、そは夢を見る、そは未来を受け入れ、そは虹とならん!!」

 

五つの陣が割れ、現れる球体は先程の六つの召喚獣と同じように黒水晶へと吸収された。

十一の神々を同時に使役し、そのエネルギーを持って神そのものを召喚する。

しかしそれだけでは足りない。それだけでは代償が軽すぎる。

ならば、己自身を憑り代にすることで現世にバハムートを完全召喚するのだ。

 

「今ここに世界を守護せし神との契約を果たすために、我が求めに応じよ!!

夜闇に翼の竜よ!怒れしば我と共に、胸中に眠る星の火を!!バハムート!!!!」

 

魔力の増大に耐え切れずにバハムートスタッフが砕け、紫を糧に巨大な魔法陣を形成され、ついにそれは姿を現す。

完全召喚によって召喚されたバハムートは、召喚士が呼び出す紛い物ではない。

神竜に匹敵する巨体を持ち、人型の竜でありながらも本質は獣にして神。

 

――単なる者よ。その強さ、感服した。然らば我も契約に応じ、力を貸さん!!

 

真龍の王バハムートが、威厳と誇りを胸にして男神の力を取り組んだ元クリューの民を向かい合う。

大きさは互角、されど今も虚ろを吸収し続ける神竜はいずれバハムートの大きさすら超えるかもしれない。

 

「その前に……バハムート!!」

 

――任せよ!!

 

夢想天生があるからこそ召喚できたバハムートだが、その効果が切れる前に決着を付けなくてはいけない。

バハムートの左肩に下半身が融合した形となっている紫は素早く指示を出し、融合しているためにバハムートを素早く指示を受け取る。

 

――真龍の王!貴様が手を貸すだと!?

 

――嘆かわしいぞ、クリューの民よ!!世界の守護せし契約をしながらも人の子だけでなく、世界を滅ぼそうとするその行い!もはや許せるものではない!!

 

神竜の肩を掴みながらそのまま頭突きを食らわせる。

間髪いれずに暴風の力を込められた尾の一撃が神竜の胴体に直撃するが、堪えた様子も無く、今度は神竜の長い尾がバハムートの身体を巻きつく。

払い除けようとするがバハムートの力で持ってしても強力な力によって締め付けは更に強くなる。

 

「ぐっ……!」

 

――おのれ!ここまでの力を付けているか!

 

バハムートの完全召喚として紫は己自身を媒体にしている。

すなわち、バハムートのダメージはそのまま紫に伝わってしまうのだ。

神竜は翼を広げる事で尾で締め付けながら空へと飛ぶ。動けないままのバハムートにそのまま拳で持って殴り続けるのだ。

棒立ちに近い状態だからこそ、そのままの威力が伝わってしまう。

 

――堕ちるがいい、時代遅れの産物が!

 

尾を緩めると同時に地表へと落下させるように叩き落す。

仮にも真龍の王なのだから自由になればそのまま落ちるような事はない。神竜と同じように翼を広げる事で空を飛ぶが、四方からの衝撃を紫は味わってしまう。

 

――ぐお……まさか、真龍の系譜か!?

 

徹底的にバハムートを追い詰めるためなのか、両足と両翼に噛み付き、四龍の相手をしていたマグ達に目も暮れず、動きを止めようとする四龍の姿があった。

バハムートの強靭なはずの鱗は龍の牙によって砕かれ、肉に食い込んでいく。

 

――哀れな……誇りある龍が人の子の手に操られるなどと!!

 

されど、バハムートは怯まない。

無理矢理身体を大きく震わせながら噛み付く四龍を引き剥がし、その手は翼を噛み付いていた闇龍と火龍の頭を掴み取る。

あろうことか、力任せに二つの頭同士を押し潰したのだ。

残る二龍も襲いかかろうとするが遅すぎる。虚ろなる闇に還る真龍の成れの果てを捨て、土龍には拳を、氷龍には蹴りでもって首の骨を逆側にさせるほどの威力でもって黙らせる。

 

――母なるクリスタルになるだと!?その願いが世界への冒涜と知れ!!

 

世界と世界の融合を少しでも食い止めるためにバハムート達はせめて世界の壁になろうとしていた。

そして紫と契約していたカーバンクルから伝わったナグモラーダの望みを知り、バハムートは憤怒に染まる。

母なるクリスタルが世界を照らしていた、神々の時代をナグモラーダは再現しようとするのだ。それも、ヴァナ・ディールを含めたすべての世界を犠牲にして。

それはヴァナ・ディールの守護者として見過ごせるものではない。

もはや、神々の時代は終わったのだ。誰もが幸せに暮らしていける世界などありえないのだ。

そのありえない事を夢を見て、世界を終わらす事など断じて許しておけるものではない。

 

――貴様がどう言おうとも我が望みは変わらん!私が世界の冒涜と言うのなら、新たなる世界のためにその汚名すら被ってやろう!

 

――ならばその身を砕かれ、望みごと光へと散れ!!

 

「日輪の輝きを今ここに!!放て!!!」

 

上空にいる神竜と地表にいるバハムートの口に集うのは超超高密度の力が集おうとしている。

互いに放つのは真龍の王が持つ最大にして必滅の輝き。

 

――ギガフレア!!

 

――「ギガフレア!!」

 

光の放流が互いに襲い掛かる。

着弾も同時であり、凄まじい爆風は離れた位置で虚ろなる怪物と戦っていた者達すら立っていられないほどに巻き上がる。

そして、バハムートはゆっくりと体勢を崩しながら地に落ちる。

神竜のギガフレアを直撃した結果、左翼と右腕を丸ごと失ってしまう。媒体となった紫も同様であり、右腕と左肩が抉り取られたような傷となって浮き出てしまう。

そして神竜とて無傷ではなかった。

捨て身に近いバハムートの渾身のギガフレアは神竜の両翼を吹き飛ばし、顔の半分を消滅させるほどの威力を見せた。

バハムートが地表に叩きつけられ、立ち上がろうとするが紫の身体にまったくと言っていいほどの力が入らなかった。

 

「ぐ、が……ま、さか……」

 

しっかりとした実体を持っていたはずのバハムートの身体が所々透けるようになったのだ。

失った右腕が再生しない事に、ついに霊夢の秘術の効果が切れてきたのだと実感する。

 

――見事……見事だ……ここまで耐え凌いだ事に、賞賛の言葉しか浮かばんよ……。

 

ナグモラーダはまだ生きている。

失ったはずの両翼がすぐに再生し、傷ついた部分は綺麗に治っていく。

バハムートが与えたはずの傷はすでに存在などしていなかった。

 

――夢想天生、と言ったか。使わせてもらったぞ

 

「嘘、でしょ……冗談きついわよ……」

 

自分の持つ自分だけの秘術すら使ってしまう神竜に、霊夢は初めての絶望を感じ取ってしまう。

倒されて虚ろなる闇に還ったはずの四龍は再び再構成を果たし、虚ろなる怪物は次々と生まれ、仲間達を蹂躙しようとする。

そして、目の前には追い詰める事すらできず、より強大になり続ける神竜の姿。

 

――所詮、貴様らに勝ち目などなかった。世界は終わりを告げる。貴様らの行いは無駄となり、世界は新生するのだ。

 

その言葉を最後に夢想天生の効果を失ってしまう。

急激に重くなる身体、力の入らない肉体、抗う事すらできない現実。

もう、終わりだった。

 

 

 

『無駄ではありません』

 

 

 

声が聞こえた。

脳裏に響く、少女の声。

何処か聞いた事のある、幼い少女の声だった。

 

 

 

『あなた達は戦った。戦って、戦って、戦い続けて、決して諦めずに戦い続けた。そうして、ようやく届いた』

 

 

 

ヴァナ・ディールの住民にとって、それは聞き覚えの無い声。

幻想郷の住民と幻想入りした冒険者にとって、それは聞いた事のある声。

 

 

 

『私達はその場で戦えない。私達は今の世界にいるのが精一杯。だけど、せめてこの想いを届かせたい』

 

 

 

幻想郷は壊滅状態に陥っていた。

正体不明のアビセアンの襲来に加えて、レミリアが命名した謎の人形であるカトゥラエ。

幻想郷の猛者を掻き集めても対抗は難しいだろう怪物達との決戦の末に、ようやく打倒を終えたのだ。

カトゥラエを討伐したと同時に沸き続けていたアビセアンの侵略は止まり、ようやく一時の急速を得る事ができた。

もはや館であった外形がわからず、天井も壁も無くなって当主の椅子に優雅に座るのはレミリア・スカーレット。

しかしながらもドレスはボロボロで愛用の帽子すらも無くしてしまい、彼女を知る者ならどうしたと声をかけてしまうような姿。

とはいえ、今の幻想郷の住民なら誰もがこんな姿だ。気に留める者など一人もいない。

 

「聞こえるかしら、霊夢、ブロントさん、ついでに魔理沙とその他諸君。こっちは色々あって少しだけだけど、能力を取り戻してそっちに話しかけている」

 

カトゥラエを倒した時、能力の大半を失ってしまった幻想郷の住民は少しだけだが能力を取り戻せた。

世界の歪みであるカトゥラエが能力の消失に影響されたと誰かが言っていたが、レミリアにはどうでもいいことだ。

どの道カトゥラエを倒すために力の大半を使い切っている。

妖怪であるレミリアならともかくとしても、人間であるファイナルタツヤに至っては立ち上がれないほどに消耗しているほどだからだ。

 

「時間かかっちゃったけど、ようやくそっちに力を貸せそうよ。と言っても、私達がそこに行くわけじゃないわ。私達ができるのは、届け物よ」

 

レミリアの視界にいるのはとても一同に集結する者達でなかった。

神である八坂神奈子と洩矢諏訪子、覚妖怪の古明地さとりと元覚の古明地こいし、そして天人である比那名居天子もいる。

そしてさとりは祈るように手を合わせ、手に肩を乗せているのは神奈子と諏訪子だ。

 

「まったく、こんな方法を思いついちゃった自分を信じられないわ。まだ自分が、世界が好きだって言えるようなものだもの。ちょっと意外だけど……これも霊夢達の影響かもね」

 

レミリアは思い描いた考えを脳裏に浮かべる。

今、ブロント達が戦っているのは虚ろなる闇を操ろうする存在だ。

自分自身がダークパワーに汚染され、更に闇の王に支配されかけていたからこそ分かる。

虚ろなる闇の力は強大だ。すべてを塗り潰そうとするダークパワーはレミリアだけではない、幻想郷の実力者の頭をおかしくさせるほどなのだ。

そして能力を取り戻しても見通せない、先のない未来。

これを打破するために、人の気質を集める事のできる緋想の剣を持つ天子が必要だった。

 

しかし天子だけでは足りない。緋想の剣をフルに使ったとしても、それは地球のいる者の力しか集められないだろう。

だからこそ、覚妖怪の力が必要なのだ。

神である神奈子達によって能力を極限まで強化させ、繋がりかけている別世界の住民の心に触れ、気質を生み出し、集める必要がある。

できるかどうかは分からないが、それはレリミアの能力の真骨頂だ。

「できない」という運命を捻じ曲げ、「できる」ようにする程度はしないとヴラド公の末裔の名が泣く。

無茶な能力の使用は能力の損失に繋がるかもしれないリスクがあるが、それでも彼女達は迷わずレミリアの案を呑んだのだ。

 

 

 

そして、さとりは語りかける。

世界中の、地球とヴァナ・ディールの生きとし生ける者達に。

 

 

 

『聞こえますか、私の声が……』

 

 

 

『世界は壊れようとしています。世界が終わろうとしています』

 

 

 

『それは止められないかもしれない。それは避けられないのかもしれない』

 

 

 

『だけど、戦っている人がいます。生きようとする想いがあります』

 

 

 

『世界は汚れているかもしれない。だけど、それ以上に輝くものを知っているはずです』

 

 

 

『世界は苦しいかもしれない。だけど、共に生きようとする仲間もいるはずです』

 

 

 

『一人一人の力が足りなくても、みんなの力を合わせれば生きていける』

 

 

 

『誰かを愛する事も、誰かと道を違える事も、生きているからできる』

 

 

 

『そうした命の輝きが明日という未来を等しく創り続けていく』

 

 

 

『だから、お願いします。あなた達の生きようとする想いを貸してください』

 

 

 

声は、確かにヴァナ・ディールへと届いていく。

 

 

 

「……まぁ、ギャンブルできない世界ってのも面白みがないしな。いいぜ、俺の力で良ければいくらでも貸してやる!」

 

 

 

「お父さん」

 

「む、どうした……」

 

「また、お父さんと釣りができるかな?」

 

「……大丈夫だ、父さんに任せなさい」

 

「なら、僕の思いを届けるよ。お父さんと釣りができない世界は嫌だもん」

 

 

 

「……ふっ、目の輝きを失っても見える光か……今の私にそれがあるかはわからないが、幾らでも持っていけ」

 

 

 

「あらあらぁん、世界が無くなっちゃうなんて大げさねぇ……まぁ、よくわからないけど代わりに戦ってくれるみたいだし、利子無しで貸してあげるわぁ」

 

 

 

「……ザイド、お前はまた何処かで戦っているのか?やれやれ、もう少しバストゥークに気をかけてもいいじゃないか……いいさ、ウェライの分の力も貸してやるよ!」

 

 

 

「私の、力が必要なのかな……ううん、迷う事なんてない。いいわ、私の想いでよかったら!」

 

 

 

「これは、声?誰かが助けを?今更、私の力なんて……」

 

 

 

「……ア、ルド……?」

 

「母さん、どうしたの?」

 

「……なぜかしら。私の……弟が、戦っている……?いえ、私に弟なんて……」

 

 

 

「おい、トゥー!どうしたんだよ!」

 

「キコエマセンカ。ダレカガ、チカラヲカシテホシイソウデス」

 

「だれかってだれだよ?」

 

「ワカリマセン。しかし、ワタシハソレニカシタイトオモイマス」

 

「な、だめだぞ、だめ!トゥーはボクから離れちゃいけないんだよ!」

 

「ナラ、イノリマショウ。パンタノブジモ、タスケガヒツヨウナカタニモ」

 

 

 

「世界は辛い、か……バスィーマ、君がいなくなってからの世界は空虚でしかないよ……でも、僕は生きるよ。君と歩めなかった分を一生懸命生きる。そう決めたから……」

 

 

 

そして、もう一つの世界もまた……。

 

 

 

「隊長……声が聞こえたんですけど……」

 

「ああ?声ぇ!?今は民間人の救助を最優先しろ!」

 

「なんだったのかな……助け、みたいなのを求めてたような……」

 

 

 

「……?メリー、聞こえる……?誰か、誰かが戦ってるみたい。あの赤い空に、誰かがいる……?」

 

 

 

「あーあー。気づいたら怪物が消えちゃってるし、魔力も感じ取れないし……骨折り損のくたびれ儲けじゃない!」

 

「まー確かにあんだけいた怪物が消えちゃったしなー。でもご主人、油断は禁物だぜ?」

 

「そんな事は分かってるわよ!ほら、次が来た用に準備済ませなさい!」

 

 

 

「ようやく咲いた花がほとんど失っちゃったわ……まったく、これも全部霊夢がさっさと異変を解決しないからね」

 

 

 

「ね、ねぇ。お姉ちゃん。私達にできる事って、他にもないのかな?」

 

「あら、こうやって暖かいご飯を作るのも豊穣神らしくていいじゃない」

 

「ええと、もっとこうさぁ……」

 

「そうね……なら、祈りましょう。人が神様に祈るように、神様も世界の無事を祈りましょう。信仰って、そういうものでしょう?」

 

 

 

「ま、まだ彼女ができていないんだ!巫女様たのむよー!彼女できる前に死にたくないし、人生を謳歌したいんだー!」

 

 

 

「鈴仙……?お姉様、先程の声は……」

 

「地球の観測ができなくったけど……ふふ、大丈夫よ。あの子なら問題ないわ」

 

「なぜです?」

 

「今日も桃が美味しいわ。だから、心配するだけ無駄なのよ」

 

「それ、理由になってませんよ!?」

 

 

 

「……そう。まだ世界の命運は尽きていない。黒も白でもない無の世界ではなく、人の意思がそれを決める余地が残っている。いいでしょう、これから先の行く末はあなた達に任せましょう」

 

 

 

一つ一つの光は儚いものかもしれない。

しかし、それは何十、何百、何千、何万、何億と大きく積み重なっていく。

さとりの声によって生み出された気質は光となって、幻想郷にある緋想の剣へと集まっていく。

ヴァナ・ディールの住民だけではない、地球の住民の気質が一つに集まろうとしていた。

 

「うふふ、みーんなみーんな、一人なのは寂しいものね。だから誰かと一緒に居続けたい、そのために誰かを傷ついてしまうかもしれない」

 

こいしはさとりの元から離れ、人知れぬ場所でくるくると回りながら踊っていた。

楽しげに、悲しげに、希望を持ちながら、絶望に屈しないように。

 

「それでも私達は生きたいと願っている。例え幻想に消え去っても生きたいと思う妖怪がいるように、例え目の前に死が迫ってもそれを跳ね除ける人間がいるように」

 

空と大地から集まろうとする光の気質に、こいしは眩しげな顔をしながら見つめていた。

そのまま無意識のままに何処かに消えていく。もう、これから先の心配なんてする必要もないのだから。

 

 

「ちょっとちょっと!?凄いぐらいに気質が集まってるんですけど!!?」

 

「おーおー、こりゃ凄いね……全盛期の信仰……いや、それ以上はあるか」

 

「というか、質にしても比べられないね。「生きたい」ってのは最も単純な願いだからさ」

 

神奈子は驚きながらも、諏訪子は当然の顔をしていた。

天に掲げるように持つ緋想の剣に二つの世界の気質が集まろうとしているのだ。

絶望だからこそ輝き続ける温かな光は、世界中の気質を集めても壊れないはずの緋想の剣に大きな負担をかけるほどである。

ここまでの気質を集めた事のない天子からすれば剣を支えるのが精一杯だ。気を抜けば手を離して剣を落としてしまいかねないほどである。

 

「さぁ、届けるわよ。受け取りなさい!そして、絶対に勝ちなさいよ!」

 

大きく振りかぶって、赤い空に向けて天子は剣を振るう。

集められた気質は一つ残らず二つの世界に顕現したアル・タユへと向かった。

レリミアの運命操作によって気質は真っ直ぐと、ブロント達の元へと集っていく。

祈りを捧げるようにしていたさとりは目を開き、向かっていく光を遠く見つめる。

その光を届けるように、暖かい何かがいる事を察しながら。

 

 

「……暖かい……」

 

光が、虚ろを失ったはずの者達を包み込んだ。

霊夢は、その温かさを身を委ねた。

一生懸命に生きたいと願うその想いは、世界が違っていても同じ事なのだ。

まだ終わっていない。終わっているはずがない。

助けてという声もある。頑張ってくれという声もある。共に戦おうという勇ましい声もある。

こんな暖かで純粋な心を、光を持っていてなぜ滅びを受け入れなくてはならない。

 

「汚い新龍の圧倒的な超パワーの前に「なんでラスボスがこんな攻撃力を持っているんだ」と絶望になるところだが生きるか死ぬかを選ぶとすると生きるのが100%に来る信頼度の違いにああ自殺者も激減して未来派閥に飲みこまれたかと社会の今後に大きく希望を持った」

 

「へへ……あったけぇな……そうだよ、みんな……生きたいんだ。どんなに苦しくても、終わりを望む奴がいても、それでも明日を迎えたいんだ」

 

終わりを望もうとする虚ろなる闇ではない。

明日という未来をゆっくりでもいいから進もうとする確かな光であった。

 

――馬鹿な……なぜ、なぜそこまでの光を……!?

 

絶望を乗り越えた先に光が生まれるのも知っている。

だが、ナグモラーダはその光が新たな闇を生み出そうとも、純粋な光を照らす事まで知らない。

何処までも温かな光は虚ろなる闇すらも消し去る。

それは、母なるクリスタルが照らそうとする温かさと同じだった。

 

「もう、完璧だ」

 

プリッシュは確信する。

負ける事などありえないと言う事を。

 

「来い、ナグラモーダ。決着、付けようぜ」

 

神竜は理解のできぬ光に激怒し、咆哮をあげる。

されどその怒りすらも、恐怖は無かった。

自分達は一人ではない。

生きようとする全ての想いが重なった今、虚ろなる闇があっても乗り越えられる。

 

「謳いましょう……この想いを、形作るために!」

 

支援の歌を徹底していたウルミアは集まった気質を形作るために魂の返歌ソウルボイスを開放する。

今も輝き続ける光はブロント達に吸収され、夢想天生以上の力を感じ取れる。

ウルミアの歌によって人々の想いを、共に戦う力としてブロント達に与えようとしていた。

 

――祷るように 瞳を閉じた――

 

駆ける。グラットンソードに込められたのは虚ろなる闇を圧縮させたダークパワーではない。

人々の想いが光となって生まれた力。

それは闇を切り払い、未来へと繋げるだろう誰もが持つ力。

ブロントの脳裏に声が響く。それはブロントに力を貸そうと願った者達の願い。

 

『リアァァァァ!あんた、姉ちゃんに一年も顔見せないで何処行ったんだい!?無事なら無事って言えばいいだろう!!』

 

『兄さん。父さんも母さんも、姉ちゃんも心配してる。でも僕はしないよ。だって兄さんは不良で無敵なんだろ?』

 

『ブロント!サンドリアは未曾有の危機に立とうとしている!だが、心配するな!このトリオンがサンドリアの全てを守り通して見せよう!ならば、お前は、お前の成すべき事を!!』

 

それは故郷からブロントの無事を願う祈り。

 

『鬼の一撃を耐えたあんたの事だ!ブロントさん、喧嘩の再戦する前にくたばるような事はしないでおくれよ!』

 

『ブロントさん、ご近所番町なんて不名誉な称号を付けられたのはまだ許しては無いわよ?』

 

『思えばグラットン異変で最初に倒されたのは私か……妹のお世話もあるの、負けるなんて許されないわよ』

 

それは新たなる地で戦った者達の願う考え。

 

『また無茶をしてるんでしょうけど、ブロントさん、霊夢、魔理沙……絶対に勝ちなさいよ』

 

『まだまだ取材は終わってませんからねぇ~!霊夢さんも魔理沙さんも無事に帰ってくれないと困りますよ!』

 

『ブロントさん、まだまだ私は未熟です……それでも、あなたを超えたいと思っています!』

 

『宴会の準備を始めるからさ!お酒もたっぷり用意しておくよ!下戸でも無理矢理飲ましたる!』

 

『死神が心配するってのもおかしな話だけどさ……勝ってくれなきゃ困るよ?あたいの寝覚めが悪くなるからね』

 

『ほら、物語って主人公が最後に勝つものなんでしょ?なら、心配するだけ無駄だね~♪リューサンも頑張ってね!』

 

『あなたには様々な事を教えられました。そのお礼はまだ終わっていません』

 

それは新たなる地で築いた、新たなる絆の証。

 

『ブロントさん……霊夢……みんな……』

 

それは……

 

 

『頑張れ!!』

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

紡ぎ上げた絆が!守るべき光が!出会いによって生まれた繋がりが!

困難を打ち砕き、未来への道を切り開く『豪腕』と化す!!

振り下ろされる神竜の手刀と迎え撃つグラットンソード、強引に振り抜かれた剣の一撃は容易に神竜の腕を弾き返した。

 

そのままで終わらない。

すでに懐に飛び込んでいた汚い忍者もまた、隙を晒した神竜に一撃を与えようとする。

 

――この想いが届くようにと――

 

鬼哭に伝わる温かな光。

慣れない、慣れる事のない力に顔を少しばかり歪めながらも、振り払う事なく身を委ねる。

 

『おーい、ノブオ!あんたがいないとつまらないんだから早く帰ってきなさいよ!』

 

『妬ましい……こんなに生きたいと願うのが多くて妬ましい……』

 

『それでも私達は生きたいと思っている……忍者さん、この力をあなたにも……』

 

『んんんんんんんんんんん!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

汚名を被る事になっても共に協力する者達。

限られていてもそれは絆の一つに変わりなく、汚い忍者の無事を祈る光となる!

静かなる日を夢見て、新たなる明日に向かう『紫苑』と化す!!

 

「秘ッ!!」

 

地から天に飛び上がるように濃密な"気"が鬼哭に集い、それは上空へと上がっていく黄金龍を作り出す。

ブロントを打ち倒すために様々な技を摸索しながらも今の自分には不可能だと思っていた技、しかし幻想の地で微かに築き上げていた絆の力は、汚い忍者に不可能を可能にする力を与えていた。

 

――何のために 弱さを隠して――

 

黄金龍の一撃は非力である忍者でありながら神竜の胴体を抉り取るほどの威力を見せる。

しかし身体の半分を吹き飛んでも生き長らえる神に致命傷とは言えない。

反撃とばかりに数多の高密度の光が汚い忍者を狙う。

 

「おおぉぉぉ!?」

 

「て、めぇ!俺を守ってんじゃねぇよ!!糞ナイト!」

 

「俺は汚い忍者を守ったのではなくナイトだから前に出ただけ勘違いとかマジ引くわー」

 

「この野郎!!?」

 

しかしレーザーとなって汚い忍者を貫くはずだった攻撃はブロントが己の身を盾にする事で防ぐ。

無傷とは言えず、肉を焼き焦がしながら貫通するそれは一発でも致命傷になりえる。

 

「喧嘩しないでください!ケアルⅥ!!」

 

しかし怪我が痛みをして感知する前にモインの癒しがブロントを包み込む。

最高峰の癒しは更なる回復量を増している。致命傷のはずの傷が一瞬にして治されたのだ。

 

「はっははー!なんだか前に戻った気分じゃん!」

 

ヴァリバリンバはケタケタと笑う。

ああ、そうだ。

例え困難な状況にあろうとも、自分達はいつもこうしていていたと思い出す。

ブロントと汚い忍者が罵り合いながら、それなのに不思議と互いが邪魔し合うようで息も合っていて、それにモインが諫めて、ガルカの戦士と他の魔道士と汚い忍者の相棒だったシーフは笑っていた。

そんな中、呆れた顔をしながらも纏めていたリーダーがいた事を思い出して、その場にいないのを感じ取る。

 

「大丈夫だ」

 

ぼすんと大きな手でヴァリバリンバを頭を叩かれた。

こんな大きな手は種族は五つあれど、ただ一つ。ガルカの手だ。

 

「リーダーも……いる。なんだかんだで、あの人もお人よしだったんだよ」

 

見上げればジャルベリンが何もかも分かったような、笑った顔でいた。

何年もヴァナ・ディールで冒険して、何百何千もの人と出会ってきた。生きようとする想いが光となって、戦う力を与えてくれる。

その光の中に、このパーティにいなくてはならない者の声もある。

 

「兄者!この高揚感!今ならあの魔法もできるかもしれん!」

 

「おお!できるぞ!できるとも!やってやろうではないか!!」

 

「う、わ。あいつらが騒いだら碌な事にならなさそうなのに」

 

最初から今に至るまで騒がしい兄弟はそれに気にせず何かの魔法の話に没頭している。

恐らく、あの神竜にも通じるような魔法でも考えていたのだろう。特に兄であるヴァイツは破壊力に長けた黒魔法を好んで覚え続けていた。

まったく、補助の魔法も欠かさず覚えていた自分を見習って欲しいところだが、それでも同じ魔道士としてもどんな魔法なのか気になるところだ。

フゥもそれなりに長い付き合いである兄弟が暴走すれば大きな騒ぎになるのも熟知していた。

 

「せっかくだ!確か他の黒魔道士もいたから協力させよう!」

 

「いい考えだ、弟よ!なにせこれは一人でやればオーバーロードで自爆しかねないからな!ヴァリバ、お前も付き合え!」

 

待て、いったいどんな魔法を考えたんだ。

しかしながらヴァリバリンバに抵抗感は無かった。

今ならどんな奇跡だって成せる。そう、確信できるから。

 

――誰のために 涙隠すの――

 

神竜と戦える力があっても、神竜の他にもやっかいな存在はいる。

バハムートによって蹴散らされたはずの四龍は蘇り、虚ろの怪物は生まれている。

だが、鈴仙の目は見抜く。

バハムートに倒される前に比べて、再構成された四龍の大きさが違うのだ。

己の能力が強化された今、赤い目は微細な変化に気づいている。

 

「……なるほど、今までのは無駄ではないのは確かだな。宝塔の気配が強まった」

 

鈴仙の隣にいるナズーリンは静かに呟いているのに聞き取り、彼女も気づいているのだ。

神竜は世界の許容を遥かに超える虚ろなる闇で構成されている肉体を持ち、彼が生み出した四龍もまた同様だ。

傷をつけても即座に再構成を果たし、どれだけ攻撃を加えても無意味に思わせる。

それが罠なのだ。決して無意味ではない。

現にバハムートの与えた捨て身の攻撃、そしてパワーアップを果たしたブロント達の猛攻によって神竜の虚ろは着実に削られていく。

虚ろが削られる度にナズーリンは宝塔の気配が強くなるのを感じ取っているのだ。

 

――愛しさは哀しい詩――

 

膨大とも取れる虚ろなる闇。

それを削り切れば勝利の道は切り開ける。

神竜の虚ろによって生み出した四龍もまた、倒せば倒すほどに相手の力を削ぐ事になるだろう。

ならば、鈴仙のする事は決まっている。

銃を手に取り、狙い打つは向かってくる四龍達。たかが一発二発の銃弾程度で倒せるような代物ではない。

だが、集められた想いが形を成して鈴仙に力を与えようとする。

 

『鈴仙、あなたには薬師として教えてないのは腐るほどあるの。無事に帰ってこないと駄目よ』

 

『やれやれ。初めて会った時に比べて成長したもんだね。あんたがいないと永遠亭もちょっぴりつまらないからそこんとこ理解してよね』

 

『せっかく面白くなってきた因幡を手放すのは癪だわ。あんまり姫を待たせないでね?』

 

『レイセン!コルセアの流儀を忘れちゃないだろうな!忘れてなきゃ、お前の勝ちは決まってる!』

 

『おねえちゃん……やっちゃえ……!』

 

己を想われる優しさ、新たなる地で紡ぎ上げた一つの道!

弱さを振り切り、己の強さを信じる者に未来を与える『凶角』と化す!!

 

トリガーを引くのはただ一つ、されど放たれた銃弾の数は六発。

六連銃であるヘキサガンが抜き放たれたと同時に撃ち抜いた射撃は、近くにいたナズーリンには動作が完全に見えなかった。

銃声は一発だけでありながら六発の銃弾は等しく貫いて火龍の脳天を吹き飛ばし、闇へと還していく。

続けて高速にリロードをこなしながら計四発の銃声が響く頃には四龍は一瞬の内にコルセアの銃弾によって頭を失う事になる。

これだけでは倒せるのには至らないだろう。バハムートの時と同じように、すぐに再構成を果たすはずだ。

コルセアの奥義である神速の抜き打ちクイックドローに目覚めた鈴仙は更なる手を打つ。

 

――あなたを想う誓い――

 

願い、求め、己の運命を探し出して掴み取る。

それこそがコルセアであり、コルセアの真の力はそこに隠されている。

自分の正しいと思える道を知り、知った先で得た力は鈴仙の身に宿る。

宿った力は運命を切り裂いていく。それはコルセアとしての覚悟となり、一つの『運』となって形を作る。

抜き取ったのは一枚のカード。何も描かれていないただの紙切れ。

しかし鈴仙からカードに、カードから仲間に伝わる力はあらゆる可能性を生み出してくれる。

 

「万能の魔札ワイルドカード!!」

 

現れ続ける虚ろなる怪物はもはやアルドの力量からしても敵ではなかった。

宝剣を振るい、骨のような爪は抵抗無く切断される。

感じた事の無い温かさが際限無くアルドに力を与え、虚ろなる怪物はもはや数だけいる雑魚でしかない。

 

――そのはかない調べが――

 

幾つもの札を同時に投げつけて詠唱を唱えれば業火が怪物を焼き尽くす。

熟練した忍者であっても不可能であろう、アルドの火遁の術は黒魔法に勝るとも劣らない威力となっている。

しかし油断もできない。

幾ら怪物が敵ではないとは言え、倒されたはずの四龍が再構成されて襲い掛かってくる。

 

「アルド!」

 

「ライオン、右だ!」

 

自分と同じように怪物の相手をしていたライオンに指示を出しながらも四龍の一つ、ヴリトラと向き合う。

鈴仙の万能の魔札ワイルドカードから伝わった意思、それは相手を倒せば倒すほど相手の力を削ぐ事になり、勝利に近づく真実。

その意思を受け取った者達は勝利の道を見つけた事に力を入れながらも、さすがに真龍の一角を相手にするのは骨が折れる。

 

――私を揺らしてく――

 

アルドには不思議と恐怖は感じなかった。

ヴリトラと言えば、かのランペール王の墓を守護する龍であり、冒険者でもない人間が太刀打ちできるような代物ではない。

殺意に塗れた眼光を受ければアルドでも背筋を凍らせ、身体の震えを止まらなくさせる。

だけど、アルドにも守るべきものがある。

守らなくてはならないものがある。

ヴァナ・ディールは彼が生まれ落ちた世界であり、様々な苦難があれど守るのに値する世界だと確信している。

アルドに力を与えようとする想いが証明となる。

 

「負けないさ。もう逃げないって決めているんだ……なぁ、フェレーナ。姉さん……!」

 

拭いきれない恐怖は、誰もが迎える明日があるから乗り越えられる。

消えぬ過去の先、輝く未来へと導く『金爪』と化す!!

手に持つ剣は装飾が施されているだけの名剣ではない。困難があっても切り裂いていく、確かな力としてそれは存在する。

 

「こんのぉぉぉぉ!」

 

ヴリトラの目はアルドに向いているが、死角からライオンの拳が翼へと突き刺さる。

皮膜を突き破るほどの威力となってヴリトラは吼えるが、肝心の本人もそこまでの威力になるとは思ってもなかったようだ。

 

――切なさより深く――

 

ライオンの攻撃によってヴリトラの関心はアルドからライオンへと切り替わる。

翼を足場にしているのだからヴリトラからの攻撃は届かないが、魔法の詠唱は可能だ。

闇に属性に働きかけて睡魔を呼び起こすスリプガⅡを無詠唱で引き起こし、ライオンは皮膜から拳を引き抜くと同時に強制的に夢に落ちてしまう。

 

「ちっ、ライオン!」

 

地面に落ちる直前に間一髪で抱き止めるアルドだが、手が塞がっている状態でヴリトラの前に立つのは自殺行為に等しい。

巨大な前爪がアルドの視界を埋めるように切り裂こうとする。

ライオンを守るように身を盾にしようとするが、引き裂かれる爪を遮る黒い何かが現れた。

 

「ぬぐぅ……!これしきの事で!」

 

愛用の両手剣で持って爪を弾いたのはザイドだ。

 

「行くぞ……黄昏に消えるがいい!レゾルーション!!」

 

そのまま防御など捨てたように両手剣を縦横無尽に振るい続ける。

両手で持つはずの剣を片手で横薙ぎにし、右前脚を両断。続けて切り上げから二回転の斬撃が胴体に深い傷を与える。

トドメとばかりに大きく振り被った縦斬りによって肩を深く切り裂いていく。

それでも倒れぬのは偽りとはいえ真龍としての意地なのか。

 

「だが、これで!」

 

瀕死に近い真龍であればアルドにも手はある。

ライオンを置いてから宝剣を携えてヴリトラの左前脚を足場にしてそのまま首筋まで飛び上がる。

獲物が首に乗っかっているのを察したヴリトラは払うように暴れるが、アルドは決して離れまいとしがみつき、剣を構える。

斬って見れば酷くあっけないものだった。

本来ならば鱗に弾かれてしまうだろう宝剣にも関わらず、アルドから伝わる力を"気"の要領で流してみればザックリと真龍の首が落ちる。

 

――痛みより焦がれていく――

 

倒された真龍が虚ろとなって消える瞬間にアルドは地面に降り立っている。

ライオンも魔法の効力が消えて目を覚ましたようだ。

 

「ふっ、懐かしいのが揃ったものだな」

 

「まったくだ……できるなら、俺としてはこれっきりにしてほしいものだがな」

 

「あら、アルドはもう歳かしら」

 

「世界の命運をかけた戦いなんて俺には荷が重過ぎるって事さ……さぁ、まだまだ来るみたいだぜ」

 

思えばヴァナ・ディールの命運をかけた最初の戦いで集まってから、こうして三人が集った事などなかった。

ザイドは柄にも無く過去を思い出しながらも、次なる敵を見据える。

ヴリトラが倒されても再び次の真龍として構成される。

無限に思える戦いの中、それでも勝利は決して幻想ではないと生きる者の想いを受け取りながら戦場に身を乗り出していく。

 

――溢れ出す願いを――

 

戦える力を取り戻した霊夢は、気づけば真っ先に神竜の前線へと戻っていた。

何がそうさせるのかは分かっている。

今なら分かる気がする。

霊夢がなぜブロント達と出会っていき、どう変わっていけたのかを。

 

生きたいのだ。

 

純粋に、とても純粋で、単純な想い。

生きながらに空虚で、掴みどころのない、あやふやな博麗の巫女としてではない。

博麗霊夢として、精一杯生きたいと霊夢は願っている。

だから戦える。

後押しされた暖かい力を委ねられる。

 

――この胸に捧げるの――

 

自分の全てをぶつけるように、自分の想いを乗せるように。

霊夢は、本当の意味で人として戦えるようになれた。

 

「ブロントさん!」

 

「おおおおお!!」

 

使うは暴食の力ではなく、光の力。

 

――深紅の空 燃え立つように――

 

先手を取ったのは霊夢。

巨大な神竜を囲い込むように陣を形成させ、霊気を込める。

 

「神技「八方鬼縛陣」!!」

 

囲い込む結界が壁となり、灼熱の霊気が神竜を包み込んだ。

並みの魔物であれば数千数万を葬ってもお釣りは来るほどの霊気の熱を浴びながらも神竜は堪えない。

追撃としてブロントの刃が襲い掛かる。

陣が解かれたと同時にカカッっと懐に飛び込めば、汚い忍者の攻撃によって抉られたはずの胴体はすでに癒えているのが分かる。

 

「汚い忍者が小細工をやったところでナイトとSTRに優れたエルヴァーンの攻撃に敵う事はにい!!」

 

上段から縦斬りを行い、流れるように切り上げながらくるりと回転し、切り払い、返し刀に更に傷を深くする。

重装備であるナイトらしくない、踊り子のように舞い踊る攻撃に跳び上がる。

 

「レクイエスカット!」

 

刻まれた連撃が数分の狂いも無く一箇所に集中し、最後の一撃が決まると同時に煌く光が発生する。

闇を打ち消さんとばかりの光がブロントの身体からグラットンソードに、そして霊夢にも伝わっていく。

 

――信じる強さを 求めてゆく――

 

生きたいと願う力を霊夢とブロントは同時に使う。

変わっていく想いは間違いではないと証明するために『神鳴』と化す!!

 

「ライトパワー!ライトパワー!!」

 

「追撃の!」

 

「「ライトパワー!!」」

 

光の放流は神竜を飲み込み、次々と鱗が剥がれ落ちて虚ろなる闇は浄化されるように消えていく。

すぐに剥がれ落ちた分は再生し、膨大な虚ろなる闇は絶望を呼び起こそうとする。

それでも屈しない。

どれだけ虚無を感じさせる闇であっても、霊夢はもう、二度と空虚な存在にはならない。

それが博麗霊夢が、ヴァナ・ディールと融合した時に得られた変化なのだから。

 

――二つの鼓動 溶け合うように――

 

しかし神竜とてやられっぱなしではない。

幾ら全ての生命の光を味方につけようとも、ナグラモーダが持つのは世界そのものの闇なのだ。

次なる絶望を呼び起こすために上空に多重の魔力陣を形成させる。

億万の隕石を振り落とすための術式だ。それもバラけるように降り注ぐのではなく、一人一人丁寧に落ちるように調整されている。

さすがに何万もの隕石をピンポイントに落とされては欠片すらも残らない。残さない気なのだ。

 

――再び神の力の前に消え去れ!!

 

「させるかよぉぉぉぉおおおおお!!!!」

 

急加速しながら魔理沙は上空へと上がっていく。

上へ、更に上へ。

上へ、上へ、上へ、上へ、上へ、上へ!!

数多の魔法陣が構成された上空に飛行し、下を向けば小さくなった神竜と戦っている者達、そしてヴァナ・ディールの大地が見える。

メテオが落とされる前に魔理沙は魔法陣を破壊するつもりなのだ。

しかし、幾ら魔理沙の魔法でも神竜が構成した術式を破壊する事はできない。

魔理沙だけの、魔法であれば。

 

――生きる意味が そっと変わる――

 

「コロンビーヌ、ちょっと無理をさせるぜ!」

 

「マスターガ無理ヲサセナイコトナンテナカッタジャナイ!」

 

憎まれ口を叩かれながらもマトンとの魔力をリンクさせる。

八卦炉を露出させてマスタースパークを何時でも撃てる形態にさせながら、手持ちの魔力増大茸粉を全て使い切る勢いで振っていく。

魔理沙とコロンビーヌ、二つの魔力を同時に使いながら更に魔力粉によって八卦炉から魔力のうねりを感じられる。

 

(やべぇな……すまん、香霖。八卦炉二つとも駄目になるわ)

 

愛用と予備である八卦路が全て駄目になるのを知り合いの道具屋に心の中で謝りながらも、そういえば霖之助と真世界に行く前に会っていなかったのを気づく。

だから、会いに行こう。

霖之助だけではない。

戦いが終わったら、魔理沙が関わった全ての人に会いに行こう。

幻想郷の人妖にも、ヴァナ・ディールの人々にも。

自分がここまで来れたのも、出会いがあったからこそだ。

霖之助と出会わなければ、冒険者なんて夢を見なかったかもしれない。

魔法の師と出会わなければ、魔法なんて習わなかったかもしれない。

霊夢と出会わなければ、人妖の一面なんて知らないままだったかもしれない。

ブロントと出会わなければ、ヴァナ・ディールを知らなかったかもしれない。

 

――この世界が終わりを告げようとも――

 

みんながいるから霧雨魔理沙はここにいる。

みんながいなければ霧雨魔理沙はここにいない。

だから勝つために、魔理沙は星を作り出す。

世界を滅ぼすような破滅の星ではない。みんなが生きようと願い続ける星々の光をここに。

 

『心配は、する必要はないね。魔理沙、今度はどんなヴァナの話を聞かせてくれるんだい?』

 

『マトンの中身!あれ、他のじゃ見ないものだったからさ!今度じっくり分解させてくれよ!』

 

『紅魔館の地下って何も無いからさ。……壊れない星の光って綺麗だったよ』

 

『星の魔法を教えたのは私だけど、あんたの魔法はあんただけの魔法さ。自信を持って、魔法を撃ちな!』

 

『お姉ちゃん……フィックの花を助けてくれた冒険者さん?』

 

『ぬおおおおおおお!タブナジア騎士団は無事であるぞぉぉぉおおおおお!!進めぃ!民草を守るために我らも力を貸すのだぁぁぁぁ!!!』

 

『マリサ?大丈夫、アトルガンは負けないよ!だから、アトルガンの力も戦っている者達に!!』

 

幻想郷の、ヴァナ・ディールの、二つの出会いが一つになる!

今のいる自分が、更に強くなれる道を摸索し続ける『破邪』と化す!!

 

「いっけぇぇぇええええええええ!!ファイナル、マスタァァァァスパァァァァァァァァク!!!」

 

マトンを支えながら八卦炉から極大の光線が発射される。

魔理沙だけの力ではない、全ての人々の想いを乗せた星の光は魔法陣の中心を狙い、せめぎ合う。

魔法陣に罅が入るたびに八卦炉も負担に耐え切れずに罅が入っていく。

 

「まだぁぁぁぁあああああ!!」

 

後押しと言わんばかりに鈴仙の万能の魔札ワイルドカードによって再び使えるようになった魔力の泉を開放し、無限の魔力を八卦路に注ぎ込む。

蜘蛛の巣のように罅が広がり、ついにメテオを降らすための魔法陣が割れた。

同時にコロンビーヌに付けていた八卦炉が砕け散り、魔力の余波がコロンビーヌのハリボテであった手足が消滅する。

メテオの危機を救い、魔理沙はコロンビーヌが落ちないように抱えながらすぐに神竜の元へと向かう。

戦いはまだ終わっていない。たとえ八卦炉が無くなっても、前を切り開くための力は残っているのだから。

 

――あなたの声 私に未来を燈すから――

 

メテオを呼び起こすための魔法陣が砕かれようとも神竜の攻撃手段はそれだけではない。

嵐のように放たれるのは古代魔法の無詠唱だ。

核熱の炎が撃たれたと思えば次に暴風の刃が襲い掛かる。

加えて神竜自身の攻撃が加われば人間に耐えられるはずがない。

 

「アーッwwwwwwwwwwwwww無理wwwwwwwwwサポシwwwwwwwwwwwww」

 

巨大な岩石が内藤を滅多打ちにし、雷撃の雨が降り注ぐ。

サーコートとしての意味をなさなくなり、鎖帷子が剥がれ落ち、軽く上半身の肌を晒しているような状態だ。

そんな状態で雷撃が降り注げば肌が裂け、火傷が生温く感じるように炭化していく。

 

「まったくさっきから攻撃食らい過ぎよ^^^^^^^^^^^^♪♪♪♪」

 

「内藤さん、せめて回避できるものは回避してください!ケアルV!!」

 

それでも内藤が死なないのは従来のしぶとさに加えて彼の仲間である白魔道士のお陰だ。

臼姫と白樽の二人が前衛で攻撃を食らいながらも戦い続ける者達を癒し続けているのだ。

魔力の後先考えずにただ癒し続けながらも臼姫の脳裏には誰に回復して幾ら回復して一回にどれだけの料金を請求するかすらも計算していた。

 

「おいwwwwwww内藤wwwwwwwwwwwwこれ以上回復させると後々やばい事になりそうなんだがwwwwwwww」

 

「マイハニーの回復wwwwwwwwwwww受け放題でチャンスじゃないですかwwwwwwwwwやったーwwwwwwwwwwww」

 

「駄目だこいつwwwwwwwwwwww俺はこんな危機を回避するzウボァァァwwwwwwwwwwwwww」

 

「つ、痛風ちーん!」

 

「はい、痛風は14回目ね^^^^^^^^^^^^^^♪♪♪♪♪」

 

臼姫がこんな時に何を考えているかを読み取った痛風は、これ以上のダメージを避けるために神竜から離れようとするが、引き寄せによって神竜の手前まで来てしまったのだ。

そのまま尾による薙ぎ払いを食らってしまって余計な傷を負ってしまう。

猫狩が心配そうに近寄るが、痛風には傷がない。

暴力を振るい続ける臼魔道士と見られる臼姫であるが、白魔道士としての力量も一流である証拠なのだ。

 

――貴様らぁぁぁぁ!まだ歯向かうかぁ!ならば直接の死を刻め!!

 

神竜を中心とした大爆発が起き、群がる冒険者達を一蹴する。

意識が飛ぶような威力でも死ななければ安い。すぐに戦線に復帰しようとした内藤は、自分の頭上に赤い何かが浮かび上がろうとする。

 

「まずいwwww死の宣告だwwwwwwww」

 

痛風がすぐに察したのは優れた冒険者なら知らぬ者はいない最悪の状態異常。

死の概念を魂に刻み込むタウルスが好んで使う死の宣告は食らってしまえば魂が消滅するまでのカウントダウンが始まってしまう。

古代文字の一種であり、痛風には読めない赤い何かが次々と形を変えていく。

数字として『0』を迎えた時、先程の攻撃を食らった者は等しく死んでしまう。

 

「まったく、しょうがないわね^^^^^^^^♪♪♪♪♪」

 

「大丈夫、女神様の癒しなら!」

 

「私も協力します!」

 

白魔道士である臼姫、白樽、モインであるなら死の刻印を呪いとして祓う事ができる。

女神に祈り、祝福とは違うもう一つの奇跡を授かる。

唱えるは呪いを祓い清める癒しの術。しかし本来は単体でしか効果を発揮できない魔法を範囲として広げたのだ。

 

「「「カーズナ!」」」

 

呪いとして特に強力であり、清めた聖水やカーズナであっても祓えない時もある。

しかし優れた白魔道士が三人同時に呪いを祓おうとすれば可能性も当然高まっていく。

呪いが祓われたと同時に戦死は投擲の準備を終えている。

ナグラモーダとの戦いから常に調子が出なかったが、今では今まで以上の投擲が可能だ。

 

「いwくwぜwwwwwwww超wwwwwクレセントォォォォwwwwwwwカッタァァァァwwwwwwwwwww」

 

投擲の瞬間が見えないほどの高速投擲から放たれるブーメランはまっすぐと神竜へと向かっていく。

冒険者ごと薙ぎ払おうと闇色のブレスを吐くが、あろうことか戦死愛用のブーメランである飛子はブレスを避けるように軌道を変える。

 

「アポカリの力見せてやるぜwwwwwww見られないけどなorzwwwwwwwカタストロフィwwwwwwww」

 

戦死と同じくして黄金鎌に"気"を込めてレリックであるアポカリプスの力を解放しているのは餡刻だ。

いつもは自分を視認されない事が長く続きすぎた結果、虚ろなる闇を失っているために他人から視認されている状態にも関わらず気づいていない。

しかし餡刻は見られていない事が故にいつか誰かの力になれるのを夢を見て鍛え上げた力は臼姫すらも凌駕している。

 

一直線に向かいながらも決して妨害に当たらず、飛子は神竜の右目を切り裂いて奪う。

それだけで終わらず、持ち主に戻らないブーメランは追撃とばかりに神竜の身体中を抉るように切り裂き続けていくのだ。

小さい傷ではあるが、それでも何度も何度も、しつこいぐらいに再生する以上の速度で持って傷を増やしていき、トドメとばかりに餡刻のカタストロフィが神竜の左腕を両断する勢いで放たれる。

プロトオメガとプロトアルテマが合体したアルテマウェポンの手足すらも武技を使わずに両断した餡刻に掛かれば、レリックの力を解放した技になれば神に迫る存在すらも屠れる一撃となる。

高められた餡刻の力を吸収し、上段から一刀両断。

身を守るように盾にした左腕を切断するほどの威力を見せ、肉体から離れた左腕は虚ろなって消えていく。

 

しかし腕の一つを失っても数秒もせずに元通りだ。

治った左腕で貫くように餡刻に攻撃するが、その一撃は外れてしまう。

アポカリプスを盾にして攻撃に備えた餡刻であるが、急に誰かに引っ張られた感触がした。

正体は、黒い斑点に黄色の毛皮を持つ豹のような魔物、クァールだった。後ろ首の鎧を口で挟んで引っ張ったのだ。

その背に乗るのは獣様だった。餡刻の優れた目は、少しだけ目が腫れているのを見逃さなかった。

 

「wwwwwwwww大丈夫wwwwwwwww今度は守るからさwwwwwwwwww」

 

「それほどでもないでしゅ。餡刻しゃんは、餡刻しゃんの戦いをしてくだしゃい(`・ω・´)」

 

暗黒騎士は捨て身による攻撃に特化している。

プロマシアとなったナグモラーダの猛攻によって、餡刻は獣様は大切なペットを守れなかった。

多くの魔物を操り、多くの魔物を犠牲にしてきて成り立つ獣使いである獣様の事だ。こうなる事は予測できているし、沢山の経験もしてきた。

ヴァナ・ディールから幻想郷まで共にしたキャリーを失う苦しみは長年の付き合いである餡刻にも理解できる。

それでも獣様は負けなかった。

幻想郷の地で新たな友となった狡猾の二つ名を持つクリヴォー、そしてまだ主人のために働こうとする芋虫のクロロもいる。

そして、古代人の少年もまた戦っている。

 

「終わりだな、ナグモラーダ!お前に世界を渡せるほど安くは無いんだよ!」

 

――図に乗るなぁ!!

 

空を飛べる幻想郷の住民と違い、地面に立って戦わなくてはならないヴァナ・ディールの住民で唯一空を自由に飛べるのがエルドナーシュだった。

三次元戦闘を可能にしたエルドナーシュの戦い方は神竜でも捕らえ切れない。

巨体を生かした攻撃をするりと回避し、爆撃と言わんばかりに魔法の嵐を降り注がせる。

無詠唱でありながら人間の身を遥かに超える魔力を込めた魔法の一つ一つが古代魔法であり、神竜の肉体を着実に響かせる。

 

「確かに僕も人間には嫌悪も出すし、世界は汚い……!」

 

クリスタルの力を解放しながら、生まれるのは数多の光の渦。

それを一斉に神竜に向けて放った。

 

「だけど、お前ほど全てに絶望してないさ!」

 

光の渦はやがて虹色へと弾け、急速に神竜を包み込みながら消滅していく。

本来なら相手ごと消滅させるクリスタルの力を用いたエルドナーシュの秘儀であるが、精々鱗の大部分を剥ぎ取る程度だ。

 

――出会いは奇跡――

 

神竜がエルドナーシュに気を取られている間に内藤はすでに神竜の背後に回ってそのまま背中に目掛けて走っていた。

立ち止まらずに一直線に跳び上がり、そのまま頭のほうに目掛けて全速力。

しかし神竜も戦っているのだから足場は最悪だ。振り落とされそうになりながらも首のところまで走り終える。

 

『内藤ー!アタイとの決着付けずに帰るなんて許さないからねー!』

 

『お前達に心配するだけ無駄だろう……寺小屋の皆も、懐いている。無事に帰って来いよ』

 

『えーと……まぁ前に助けてもらったし?主に師範と先生だけどさ。助けた恩を忘れちゃ妖精が廃るってわけよ!』

 

『なぁ、帰って来るだろ?ボンクラでも、あんたらは笑って誘ってくれたから……また冒険してくれよ』

 

幻想の地であっても変わらずいる冒険者達。

変わらないからこそ、変われる絆を紡ぎ上げ続けてきた。

苦境であっても諦めずにいる、故に確かな未来を掴み取れる『蒼天』と化す!!

 

「/sh ぐらぁぁぁぁぁうんどぉぉぉwwwwwwwwwwwwww」

 

首の付け根から更に跳び上がった。

目指す場所は神竜の脳天、両手剣を大きく振りかぶりながら一閃。

 

「/sh すとらいぃぃぃぃくwwwwwwwwwwwwwwwwwうはwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwww」

 

渾身の力を込めて、尚且つ不意打ち気味に放つ斬撃は後ろから右半分の顔を両断される。

しかし着地の事を考えていなかったのか、そのまま地面に顔からダイブして臼姫から余計な癒しを貰う事になっていた。

 

――握るその手に――

 

顔の半分を失いながらも戦闘力に何も支障はないのか、最上位範囲魔法であるサンダガⅢを超えるブリザガVを唱える。

薙ぎ払うように氷結の乱舞が舞い散り、避け切れなかった多くの者が身体を傷つけられ、足場を凍らせられる。

無防備に近い状態を見てから神竜の腕が襲い掛かるが、その前に立ったのがリューサンだった。

 

――邪魔だ!

 

騎士の名を持ちながらも竜騎士は前衛と中では特に脆いとされている。

侮ったわけでもなく、ただナグラモーダが知識として知っているだけの事。

だから目の前に立つ男が己の攻撃を槍で持って防いだ事に戸惑ってしまう。

刺突のように腕を貫いた攻撃に、同じように槍で持って刺突をして力任せに防いだのだ。

 

ならばと神竜の次の、更に次の攻撃がリューサンにやってくる。

一つ一つを力任せに防ぎながらも神竜の攻撃速度は見えないほどに加速していき、やがて百烈拳へと至らせた。

 

「ぐ、ぬぅ……!」

 

だが、リューサンもその猛攻と渡り歩いている。

見えぬほどの嵐のような攻撃に、同じような速度で持って迎撃し返してくれる。

相棒である飛竜と共に戦っているわけではない。まだ飛竜は戦える身ではない。

分かっている。延々とソロをこなしている身であれど、リューサンもまた一人ではないのだ。

 

『ハッピーな気持ちを忘れちゃ駄目だよ、リューサン!だってリューサンは一人じゃないんだから!』

 

『わ、私が力になれるか分からないけど……扱い悪くても姉さん達と一緒にいたいの!みんな頑張ってくれないと許さないよ!』

 

『……うん、リューサンなら大丈夫。とても強くて、へこたれても立てる人だから』

 

『あなたの足は天界へと届いた。ならば、困難にあろうとも決して負けないはずです』

 

『神に立ち向かおうとした白銀の騎士と竜の騎士。数多の試練をものともしない戦士達よ。戦神から言うのはただ一言。"勝て"、だ』

 

一人であろうとも繋がりがあるから強くなれる。

孤独であっても深い繋がりを持ち続ける絆は己の闇を照らす『灰燼』と化す!!

 

「負けん、さ!何に絶望しているかは分からん!だが絶望の一つや二つで消されたら世界なんてとっくの昔に無くなってしまうだろう!」

 

――絶望の権化がそれを言うかっ!!

 

溢れる力に身を任せてひたすら迎撃をし続ける。

耳障りにも聞こえる神竜の腕と槍のぶつかり合い。

やがて百烈拳の最後の攻撃と槍が攻撃し合った瞬間、リューサンの槍は無残にも砕け散る。

あまりの猛攻に槍のほうが耐え切れなかったのだ。

 

――ささやく風――

 

勝機と見た更なる一撃をリューサンに叩き込む瞬間、痛風と猫狩は動けるようになっている。

急速に駆け抜けてのリューサンに飛び蹴りを食らわして危機を回避させるが、変わりに痛風に攻撃が当たってしまう。

 

「ッ!」

 

腕が痛風を貫こうとする瞬間に氷のオブジェと言わんばかりに氷結した。

やや得意気な顔をした赤魔子だ。

ニヤリと痛風は顔を変えると猫狩を目を合わせて互いが動く。

 

「合わせろwwwwwwwwwww新必殺技の時間だwwwwwwwww」

 

「愛のラブラブ攻撃にゃ!」

 

「俺一人でやるぞネカマwwwwwwwwwwwwwww」

 

氷結されたはずの腕を強引に氷を砕いて自由になるが、自由になった瞬間に再び氷結させられる。

赤魔子が絶妙なダイミングで動きを妨害し続ける間に両脇にそれぞれ立つ。

 

「食らえwwwwwwwww守れなかったWSwwwwwwwwエクゼンテレター!!」

 

「纏めて撃ち抜く!エイペクスアローにゃ!!」

 

痛風が標的としたのは右腕。

無駄に思えるほどの大きく右から左に動きながら一閃し、ステップを踏みながら反動でもう一閃。

「/」「\」の軌道を残したまま更に綺麗な横の一閃を叩き込む。

最後はエルヴァーンでありながら巨大な神竜の肩まで飛び上がりながら頭上から短剣を突き付ける。

描いた三つの傷はそのまま白鳥が羽ばたくように翼を広げて傷を深くしていき、短剣という決め手のない武器でありながら右腕を切断するまでの威力となる。

 

続けて猫狩が標的にするのは左腕。

限界まで弓を引き絞りながら光の円が出現する。

定めた標的を狙い、一本ではなく四本同時の矢を撃ち抜いた。

撃ち抜かれた四本の矢は円を超えて巨大な矢となって左腕の付け根となる肩に突き刺さる。

突き刺さったように見えたのは一瞬だ。そのまま大きく貫通しながら今度は左腕を突き破る。

反動によって後ずさりながらくるりと前に一回転しながら痛風と目が合い、互いに頷く。

 

幻想入りした多くの冒険者は、新たなる地であっても鍛錬は続けている。

幻想郷に紛れ込んで一年。

短いようで、確かな長さを持つ時間によって培われた技術の進歩があり、それが痛風達の使う技であった。

 

――時間を止めた――

 

斬る。更に斬る。

数えるのも愚かしいと感じるほどに斬って斬って斬り続ける。

ゲッショーは不可思議にも感じる力を十二分に使いこなし、次々と真龍の一角である火龍ティアマットを斬っている。

ティアマットとてゲッショーを焼き殺そうとブレスを吐き、突風を巻き上げ、爆炎の魔法を唱えている。

しかしゲッショーは制限などないと言わんばかりに己自身の分身を生み出し続けて、分身が倒れる度に新たな分身を生み続けている。

 

「これがヒトの持つ光でござるか。……なるほど、勝てぬ訳か……」

 

ひんがしの国だけではない。

その光はひんがしと敵対するアトルガン皇国の住民もある。

己の故郷が敵対する国家の意思に負けているとは思わない。だが、皇国にもまた力強い信念もある。生きたいと願う想いもある。

分かっていたつもりだった。皇国にスパイとして紛れ込んだ事もあるゲッショーからすれば当然の知識として入っていた。

だが、ゲッショーは超人でもなければ英雄でもない。あくまでただのヤグードの一人にすぎない。

心の底から願い続ける本当の想いなど誰であっても分かりようがない。

皇国もまた様々な想いを持ち続ける者がひんがしに負けず劣らずといるのだ。

強大な武力を持つはずのひんがしが皇国を攻め落とせなかった理由の一つが、分かったような気がした。

 

「これぞ我が奥義の一つと知れ!瞬ッ!」

 

一介の忍びに過ぎないゲッショーには過ぎた想いを背負いながらも、ゲッショーは課せされた任務を全うするのみ。

それはプリッシュの手を貸し続けるというひんがしの姫の命令だ。

だが、同時に国を守るという使命もある。

目の前の災厄を許してしまえば世界も、そして彼が愛する故郷すらも失ってしまうのだから。

 

数多に分身されたゲッショーが一斉に片手刀を構えながら高速に動き出す。

何十もの斬撃を加えながらも分身が本体へと戻っていき、最後に宙返りしながらの一撃が胴体を大きく斬り付ける。

巨大な真龍がただ一人の忍者によって地に伏せながらも、虚ろなる闇に還らないという事はまだ死んではいないという事。

技を放った直後に硬直する瞬間を狙って首だけでも動いてゲッショーを食らおうとするが、食らう前にピタリと止まる。

 

「お、おぉぉお!!」

 

首を切断するとまで行かないが、両手斧によって首を深い所まで斬ったジャボスだった。

斧を引き抜けばティアマットが闇となって崩れていく。だが、すぐに再構成されていくだろう。

 

――明日という暗闇――

 

休む暇もありはしない。

倒せど倒せど蘇り続ける四龍にはさすがのゲッショーもうんざりしてしまう。

だが、不思議とジャボスの顔に疲労はあれど諦めた顔はしていない。

ゲッショーとて熟練の戦士。ジャボスは決して戦いが得意な男ではないと察している。

だからこそ、こういう状況になれば一番に心が折れる者のはずだと思っていた。

 

「……知った……、からな……」

 

希望に満ちた笑みだった。

どれだけ絶望が迫っていても、それを跳ね除けようとする意思を感じられる。

ジャボスから伝わる光は何もヒトだけではないのだ。

生きようと願い続ける想いは動物、そして獣人にも備わっているという事。

それがジャボスにとって嬉しかった。

獣人であるモブリンと共に生き続け、ヒトと共存できるはずだと説得し続けていた。

だが、モブリンだけではない。

オークも、ヤグードも、クゥダフも。

ゴブリンも、モブリンも、巨人も。

優しくない世界であっても生きたいと願う気持ちが同じならば、いずれ争いのない世界もまた訪れる。

そうした希望を確かに感じ、ジャボスに力を与えてくれる。

 

「じゃぼす殿。知り合えたのはほんの数日。されど拙者の背を任せれると判断したでござる。共に参ろうぞ!」

 

「……ああ!」

 

ゲッショーもまた、ジャボスが信頼に値する者だと判断するのに時間はいらなかった。

強さが、ではない。

心が強いのだ。

目的を果たそうとするなら如何なる窮地をも潜り抜ける。そうした強さをジャボスから感じ取った。

そして、そんな強さを持つ者をゲッショーが痛い程に知っている。

今も神竜と戦う冒険者達に心の底で激励を送り、ゲッショーは蘇るティアマットへと刀を向けた。

 

――進んでいく光は――

 

アルド達がヴリトラを、ゲッショー達がティアマットを相手にしている一方。

残る氷龍ヨムルンガンドと地龍オウリュウは一箇所に固まっていた。

ただでさえ強力な真龍が二匹同時であれば苦戦は免れない。

片方を相手にすればもう片方が攻撃が苛烈となり、倒してもすぐに再構成されるのだから常に二匹と戦う状況になるからだ。

 

「うお~!いっちば~ん!ファ!」

 

「にっば~ん!イ!」

 

「さんばーん!ガ!!」

 

調子を取り戻し、尚且つ後方にいて余裕の出てきたチェブキー三兄妹はさっそく魔法を唱えている。

順番に魔法の詠唱を唱えるという器用な真似をしながら一つの魔法で三人分の魔道士の魔力を三乗化させるという、世の魔道士が聞けば卒倒しかねない事をやっているのだ。

元々メテオを三人掛かりで唱えるので不思議ではないのだが、異なる人物の魔道士が魔力を同調させながら魔法を完成させるのは難しい事だ。

それを片手間でやり遂げるのは血の繋がった三つ子であるがためか。

三乗ファイガとして唱えられた爆炎はオウリュウとヨムルンガンドを纏めて焼き払うとする。それと戦っていた者ごとに。

 

「ぐぅぅううう!?くっ、またあいつらか!?おい、赤爺と言ったな!ちゃんとそいつらを見張っておけ!敵より味方からの被害が大きいぞ!?」

 

「なんじゃなんじゃwwwwwwww罪狩りミスラが泣かせるのうwwwwwwwwわしらの中じゃふれんどりーふぁいあなんぞ珍しくなかったぞwwwwwwwww」

 

「こ、これは貧乏くじを引きましたね……まさかこうも違う意味で苦戦してしまうのは予想外ですよ」

 

「これもまた久々でござる!敵だけでなく、味方にも細心の注意を払わなくていけないとは……」

 

主に被害が出ているのは前線で戦うマグとルーヴランス、テンゼンだった。

ファイガの巻き添えによって余計な傷が増えてしまい、内藤達と違ってマグ達の支援に回った赤爺がケアルによって治している。

しかしマグからすれば支援をするよりも余計な行動の多いタルタル三兄妹を見張って欲しいのだ。

先程から範囲魔法をひたすら連発し、なぜかマグ達に被害が行ってしまう。

赤爺も止める様子すらもなく、いくら冒険者を取り締まるGMと言っても伊達に内藤の所属するLSの一員ではないのだ。

味方同士の攻撃すらも日常的であったため、むしろ敵を倒せているのだから無問題と考えているのである。

 

(私が罪狩りミスラだと知って……?食えない爺さんだな……)

 

三乗ファイガに包まれても真龍がそう簡単にくたばらないのはマグが一番よく分かっている。

並外れた生命力があるのは虚ろで構成された偽りの龍とて同じ事。

急所を突くか、もしくは首を落とさなくては闇に還せない。

オウリュウに目を向けて身体を前に傾けながら一歩を踏み抜いてから大きく槍を一突き。

関心が少しだけマグと槍に向いた瞬間を狙ってからのジャンプ、オウリュウが獲物は上にいると知覚するよりも早く両手槍が背中から心臓がある場所へと的確に突き破る。

まるで流星のように仕留めるマグに口笛を吹くルーヴランスであるが、すでにヨムルンガンドへと意識を向けていた。

 

――あなたという真実――

 

炎が全身を焼いているというのにヨムルンガンドがルーヴランスを標的と見た瞬間に次々と氷の魔法が襲い掛かる。

突き刺す事に特化された数々の氷柱を飛ばしてくる。

それを真龍に向かって走りながら自慢の両手剣で持って片っ端から斬り砕いていく。

ブレスの射程内まで近づいてようやくブレスを吐こうとするがもう遅い。素早く右前脚を自身を回転させることによって遠心を付けたスピンクラッシュの斬撃によって両断する。

 

脚を失い、怯んだ隙をテンゼンも見逃さない。

不死鳥としての力を失った鳳凰丸に国宝と謳われた力は残っていない。

鳳凰丸が力を得るのに生きた命が必要になる。しかし、生きようと願う想いは鳳凰丸に鼓動を取り戻す。

刀身に炎を纏わせながら、居合いの太刀から一閃。

祖乃太刀と伝えられる渾身の一撃は龍の命を刈り取るのに十分な威力となり、ヨムルンガンドの胸に一文字を描いた深い傷を与えた。

 

「よぉぉぉい!トドメ!」

 

「ドドメ?」

 

「色じゃな~い!」

 

背筋に悪寒が走って緊急離脱したルーヴランスとテンゼンは間違っていなかった。

次の魔法の詠唱を唱え終えた長男マッキーがエアロガⅢで切り刻み、次男クッキーがサンダガⅢで欠片も残すまいと雷の雨を振り落とし、最後に長女チェルキキがホーリーⅡによって綺麗さっぱり浄化させたのだ。

一歩でも戻るのが遅れれば仲間ごと巻き添えを食らわせかねない状況に、再び再構成され始める真龍を見ながらルーヴランスは深い溜息をつかざる得なかった。

 

――すぐそばに 感じるから――

 

黒魔道士としての道を進んでいるのは五人いる。

ブロントの元仲間の一人であるヴァイツ、ヴァリバリンバ。

内藤の仲間である糞樽と妹である糞猫。

そして幻想郷の住民である霧雨魔理沙であるが、彼女は前線で戦っているからこの場にいない。

つまり四人の黒魔道士と赤魔道士であるロードの五人が一斉に魔法を唱えている状態なのだ。

 

「こんなアホみたいな魔法考えるお前最高wwwwwwwwwwwwwww今度スクロールにしてくれよwwwwwwwwwww」

 

「おお!俺の魔法に理解を示すのがいるとは驚きだ!弟よ!世界は広いとまた感じたぞ!」

 

「兄者よ!俺も嬉しいぞ!まさかこの魔法が使える機会が来ようとはな!!」

 

それぞれが五虻星になるように立ち、それぞれが異なる属性ごとの魔力を魔力の泉を開放した上で放っている。

ヴァイツが考案した魔法。

それは魔法国家であるウィンダス連邦が禁呪として封印したはずの魔法であり、あろうことかヴァイツはそれを復活させてしまったのだ。

しかしあまりにも強力すぎるがために一個人の魔道士が使うのは不可能とされているため、ヴァイツ自身が使う事はなかった。

 

「だからってアホだろ。六属性を開放した状態で一つの魔法を完成させるとかさぁ!?」

 

「ば、馬鹿兄貴がノリノリになってる……!私がここにいるのって場違いに感じるんだけど!!」

 

異なる属性を合わせる事すら現状の魔法理論では不可能というのに、それを最大の魔力で同調させるのは不可能を通り越して馬鹿のやる事だ。

墨魔道士の糞樽からすればそんなリスクを背負ってこそ高威力の魔法を撃てる事に大歓迎だが、力量の劣る糞猫からすれば気が気でない。

なにせ少しでも同調がズレれるとその瞬間に魔力が自分に跳ね返って自爆するような状態なのだ。

五人のため、糞猫以外の魔道士が足りない属性を補填しながらやっているため、余計に不安定なのだ。

 

「内藤じゃねぇけど久々にみなぎってきたwwwwwwwwwwwwwwwwいくぜてめぇらwwwwwwwwwww」

 

火、風、水、土、雷、氷の属性をそれぞれ同調させ、一つの魔法を作り出す。

これこそが禁呪中の禁呪、使いこなせる者など誰一人として存在しないだろうと言わしめる災厄の魔法。

だが、一人ではない。

彼らは一人ではないし、五人でもない。

全ての人の想いを受け取った彼らに不可能という壁を壊して可能にするぐらいは朝飯前だ。

 

「虚栄の闇を払い!」

 

先手を切るのは魔法考案者であるヴァイツ。

 

「真実なる姿現せ!」

 

そして弟であるロード。

 

「渦なす生命の色!」

 

ヴァリンリンバも送れずに唱えていき。

 

「七つの扉を開きwwwwwwwww」

 

例え詠唱であっても草も忘れない糞樽が続き。

 

「力の塔の天に到らん!」

 

最後に糞猫が詠唱を終えると共に魔力の活性は最大限に高まる。

一人で不可能であっても、誰かがいるから一歩を踏み出せる『虚空』と化す!!

 

「「「「「アルテマ!!!」」」」」

 

神竜を中心として突如として現れる小さな小さな粒子。

それが一点に集中すると突如として緑色のドーム上を作り出す。

敵対する者に完全なる消滅を約束する禁呪アルテマ。

膨大な魔力を同調させて始めて唱える事のできる真の究極魔法は神竜の半身を消滅させる事に成功した。

 

――深紅の空 目覚める空――

 

それでも倒れない。戦意は少しも落ちる気配もない。

どれだけの攻撃を食らおうとも神竜の肉体は元通りとなり、倒せるのに至らない。

分かっている。

プリッシュにはもう分かっている事だ。

ナグモラーダは決して諦めない。

自分達が勝利を諦めないように、ナグモラーダも諦めるという文字はないのだ。

 

だから勝たなくてはならない。

プリッシュは拳を固めて、幾多の猛攻にも堪えない神竜へと走る。

神竜も気づいた。先手とばかりに竜巻のように身体全体を使って暴れ、プリッシュ以外の全ての者を弾き飛ばす。

 

――何処までも……何処までもやっかいな存在だ!

 

プリッシュに向けて放たれるのは数々の弾幕。

色とりどりで美しいと思える一方で、一つ一つが命を奪うに足りる殺傷を秘めている。

プリッシュは避けようとしない。構える事もしない。

ただ一直線に走り続けるだけであり、弾幕が触れる度に肌が裂ける。打ちのめされる。意識が飛びそうになる。

 

――私がここにいるシルシ――

 

耐える。どれだけの猛攻を浴びても耐え続ける。

魔法を食らおうとも倒れない。決して走る足は止まりもしない。

 

「人は、確かにお前に言うように強くはないかもしれねぇ……!だがな、お前の考えてるよりかは弱くもねぇんだよ!」

 

姿が掻き消えるほどの速度で持って一直線に跳び上がり、拳を固めて神竜の顔を思いっきり殴った。

小さな拳でありながら拳を跡を残すほどの威力となり、思わず怯みそうになってしまう。

 

――だが、その暖かさが、人の輝きが人を殺す!闇を産み出す光となる!私は断ずる。この先にあるのは破滅でしかないという事を!!

 

お返しとばかりに神竜の尾がプリッシュを叩きのめし、吹き飛ばした。

質量の違う一撃はプリッシュの身体を確実に壊し、自らの身体に罅が入る事を察する。

 

――あなたに今 刻むように――

 

それでも倒れない。

全身の骨折は確実だろう身体を無視し、再び神竜に走り出す。

 

「だったら、だったらなんで俺はここにいるんだ!俺だって知らない奴に助けて貰ったからここにいる!

これだけの命が喜んで、悲しんで、愛して、憎んで、息づいている!それは可能性があるからだ!

絶望の中であっても立ち上がれる想いがあるから生きていける!それを……光を忘れたお前が言えることじゃねぇ!」

 

自分の気持ちを伝えて、理解される事の喜び。

話し合って、違う誰かと向き合って、理解できる事もあれば、理解されない事もある。

信じようとして、信じられる者も、信じられない者いる。

自分の心を想う事、想われる事。生きる者が生きていくために必要な愛していくという意味。

 

――無垢な花になって歌う――

 

プリッシュは知っている。

知らないはずがない。

 

――光は母なるクリスタルが照らせばいい!この世界は終わらせる!そして新たなる世界を築き上げる!それこそが世界の救済となるのだから!!

 

心が読めるからこそヒトでなくなり、心が読めなくなったからこそヒトでいられた。

誰かと共に喜び、悲しみ、愛して、時には争う事もあっても、そうした感情のぶつかり合いがあるから命は輝くものなのだと。

 

「ふざけるな!!今を生きようとする、その積み重ねが本当の光なんだよ!生きている俺達の光は消させねぇ!」

 

生きようと願う力に不可能などありはしない。

世界に光を照らすそれは生命を繋げていく『救世』と化す!!

 

――私が望むは平等たる闇の無き未来あす!

 

「俺達が望むは今を生きる光ある明日あすだ!」

 

互いの拳がぶつかり合う。

一度目は勝負にならなかった。

二度目は拳同士で負けてしまった。

三度目になり、ついにプリッシュの拳が神竜の拳を砕いた!

 

――確かなもの何も見えなくても――

 

次なる行動は早かった。

大きく隙を晒す事になった神竜に更に接近し、己の拳が駄目になる勢いで殴って殴って殴り続ける。

神竜の胴体に拳の跡が残り続け、再生させる暇すら与えない。

 

「おらおらおらぁぁ!!」

 

瞬間的に開放したのはプリッシュに力を与えていた光。

それを神竜の周りに五つの輝きとして存在する。

プリッシュが輝きを手にすると光の槍となり、投げつけ、更に別の輝きに高速移動して槍にして投げる。

それぞれが『希望』『信頼』『勇気』『正義』『慈悲』を司る輝きが神竜を束縛する。

束縛されてから神竜の前に跳び上がり、多くの光がプリッシュの元に集う。

膨大な光は一本の槍となり、虚ろなる闇の集合体である神竜を討つのに相応しい武器へと変貌する。

 

「ぐっ!?」

 

しかし膨大すぎる光に手が焼けるように熱い。

プリッシュですら制御し切れず、まともに投げる事すら出来ないだろう強大な力だが、フッと軽くなる。

 

「セルテウス、ミルドリオン様……」

 

右手側はプリッシュが、左手側にセルテウスとエシャンタールが持つ。

彼らは何も言わない。

ただ、プリッシュのやりたい事に頷くだけであった。

 

「人間の思いは!!」

 

「「留まりはしない!!」」

 

神をも超える力は、命の持つ想いから生まれる。

その力の銘はただ一つ。

奇跡を生み、超越した可能性を生み出す『天神地祇』と化す!!!

 

――ぬくもりが あなたの言葉つむぐから――

 

投げられた光の槍。

対抗すべく神竜は拳を再生させながらも、四龍と生まれ出る虚ろなる怪物を全て己の元に引き寄せる。

虚ろなる闇に戻し、光の槍に匹敵するだろう闇は形を作り出し、実体無き闇の槍と化す。

それを間髪入れずに投げた。

 

ぶつかり合う光と闇の槍。

まったくの互角かと思えた槍だったが、決着は数秒とかからない。

光の槍がクリスタルの輝きを帯びながら闇の槍を砕き、消滅させていく。

 

速度を更に増した光の槍を避ける事すら出来ずに胸から背中まで突き破って神竜の動きを完全に拘束した。

セルテウスが投げる時、クリスタルの力を込めての一撃。

『虚ろ』に構成された神竜の肉体では暫くの間、動く事すらできないだろう。

 

――深紅の空 燃え立つように――

 

腕を失いながらも、紫は不思議と落ち着いていた。

久しく思えるのだ。こうも、温かな心に触れるという事が。

千年以上の時を生きてきて、生きたいと願う想いが心地よく感じる。

人が記憶し続ける限り、悠久の時を生きる事になる妖怪であっても生きたいと願う心が紫に力を与える時、幻想郷を創って良かったと思える。

 

――信じる強さ 求めてく――

 

完全召喚は不完全の状態で終わってしまった。

バハムートは還ってしまい、召喚のための媒体であるバハムートスタッフも失ってしまう。

だが、もう必要はない。

元より召喚士に媒体など必要などない。

契約した者と契約した神に繋がりがある限り、召喚士と召喚獣は一つなのだから。

 

――二つの鼓動 溶け合うとき――

 

呼び出すのは契約した十一の神。

一斉に呼び出すために召喚術を唱えるが、当然負担も大きい。

負担が大きいが、できない事もない。

そして紫は、奇跡を実現させる。

 

「我が呼びかけに答えよ!カーバンクル!」

 

――さすがだよ、紫。まさかここまでやれるとはね。さぁ、最後の大仕事だ!

 

「イフリート!リヴァイアサン!ガルーダ!タイタン!ラムウ!シヴァ!!」

 

次々と召喚され続ける召喚獣達。

その全てが完全召喚に近い状態で呼び続けられているのだ。

 

「ぐ……フェ、ンリル!ディアボロス!オーディン!アレキサンダー!!」

 

負担の多さが目から血涙を流させ、血反吐を吐きかける。

それすらも耐えて十一の神々を召喚しての一斉攻撃。

アストラルフロウも開放済みだ。遠慮など最初から無用。

 

カーバンクルのシアリングライトが浄化し、

イフリートのインフェルノが焼き尽くし、

リヴァイアサンのタイダルウェイブが包み込み、

ガルーダのエリアルブラストが叩き潰し、

タイタンのアースフューリーが押し潰し、

ラムウのジャッジメントが壊し続け、

シヴァのダイヤモンドダストが氷結させ、

フェンリルのハウリングムーンが粉砕し、

ディアボロスのルイオスオーメンが破滅させ、

オーディンの斬鉄剣が一刀両断し、

アレキサンダーの聖なる審判が欠片も残さずに消滅させる。

 

――生きる意味がそっと変わる――

 

あまりの猛攻に、もはや神竜の姿すら見えないが、紫は手を緩めない。

神々の真なる力を引き出しながらも、ナグラモーダがまだ生き残っているのを確信しての事。

次なる神を呼ぶために更なる詠唱を始め、あまりの負担に意識が朦朧とし始める。

立っていられるのも怪しくなり、そんな時に、声が聞こえた。

 

『……頑張って……』

 

『……負けないで……』

 

それは外の世界の住民の声。

紫がよく知っている、だけどその二人は紫を知らない。

 

(ええ、頑張るわ……)

 

再び紫は神である真龍の王を呼び出す。

しかしバハムートスタッフのない紫にバハムートの全てを呼び起こす事はできない。

脳裏に浮かぶのは詠唱を破棄する代わりに一瞬だけ、召喚獣の力を借りる紫の戦闘術。

 

「来たれ!我が命の螺旋、瞳に満ちる光よ!究極の魂を世界に示し、轟かせよ!バハムート!!」

 

巨大な魔法陣から現れたのは上半身のみ、完全召喚されたバハムートの姿であった。

しかしそれで十分。

消滅を導くバハムート究極の必殺の光が口元に集い、それが一直線に神竜へと放たれる。

 

「テラフレア!!!」

 

光の密度だけで紫が呼んだ十一の神々の猛攻をも超えると分かる。

回避しようのない。防御もできるはずがない。

まともに当たれば神竜であっても仕留められると確信する紫とバハムートの渾身の必殺。

神竜を砕く。神竜が砕かれる。

 

――ま、だ……

 

それでも、尚。

 

――まだ、終わってなどおらぬわぁ!!

 

プリッシュの光の槍も、紫の召喚術であっても。

神竜は、ナグモラーダは健在であった。

再構成されていく竜の肉体、絶えぬ事のないナグモラーダの戦意。

 

――無駄だ!どれだけやろうとも、この私には!

 

倒せるはずが無い。

その言葉を紡ぐ事はできなかった。

なぜなら、バハムートの攻撃すらも倒せなかった瞬間。

四人の冒険者が素早く駆けていったのだから。

 

――深紅の空 目覚める空――

 

ブロントの身体にはこれまで以上の光が集おうとしていた。

もはや、何であっても負ける気がしないと思えるほどに。

目の前の災厄は譲れないものがあるから、決して倒れない。

だから倒す。何が何でも倒す。

譲れないものがあるのはこちらも同じなのだ。ナイトとして、冒険者として、そしてブロントがこれまで通り、ブロントであり続けるために。

光はブロントから剣に伝わり、煌く刃となって輝き続ける。

放つ技はサンドリアの王家から伝わりし、最強の剣技。

歴史があるからこそ紡ぎ上げてきたものがあるという事を示すために、ブロントは神竜に向けて飛び上がる。

その背に、純白の翼を広げながら。

 

――私がここにいるシルシ――

 

汚い忍者がこれまでブロントが倒すために鍛錬をしていた。

その過程で得たのは他人の技をコピーし、己の技にするという事。

さすがに理解のできない技ができないが、魔法などで応用の利くものなら幅広く使えた。

だから、今の状態であれば複数のコピーした技を同時に使う事も容易いと踏む。

毒を生み出す力が鬼哭に纏わりつく。

厄を引き寄せる力がもう一本の刀に纏わりつく。

溢れんばかりの闘気で爆発的に身体能力を強化させ、

嫉妬深い緑色の目をしたもう一人の汚い忍者を生み出し、二人同時で技を叩き込むつもりなのだ。

身体中がギシギシと悲鳴を上げる負担を無視し、汚い忍者は神竜に向けて最高の技を叩き込む。

これこそが忍者が、最強であるという証明のために。

 

――あなたに今 刻むように――

 

駆ける。人生の中で、一番に駆け続ける。

リューサンの手元には武器などない。だが、武器となりえるのは存在する。

呼び出すのは自分の心に送ったはずの飛竜であるmikanだが、竜剣を行う事によってリューサンとmikanは一つとなる。

武器の無いリューサンを見て悟ったmikanは形の無い槍を象っていき、リューサンの駆ける速度は更に上昇する。

あまりに早すぎるそれは竜剣を行った影響からか。

一陣の風すら置き去りにする地上を駆け抜ける蒼き竜にしか見えなかった。

 

――無垢な花になって歌う――

 

彼が神竜に向かって走る理由など一つしかない。

それは自分が勇者だからだ。

子供が聞けば笑い、大人が聞けば失笑するような事を大真面目に言ってしまうのが内藤である。

如何なる危機的状況であっても笑いを絶やさず、自慢の両手剣で持って障害を潜り抜けてしまうのが彼のやり方。

だから今まで通りだ。

潜った修羅場と伝説がもう一つ追加される。それだけの話。

途切れる事のない笑みを浮かべたまま、困難を乗り越えていくために。

 

――この世界が――

 

「ウリエルブレード!!」

 

――闇に包まれても――

 

「「生者必滅!!」」

 

――あなたの声――

 

「雲蒸竜変!!」

 

――私の未来を紡ぐから――

 

「最強の俺様のTP10000300%%wwwwwwww伝説の突き技wwwwwwwパワーwwwwスラッシュゥゥゥwwww」

 

光に包まれた刃が、必滅に刃が、孤高を貫く刃が、希望を失わない刃が。

等しく神竜の肉体を貫き、ついに力無く倒れかける所まで追い詰める。

鈴仙の赤い目は見抜いた。もはや宝塔の気配が最大限まで高まりつつある事を。

 

――ぐぉあがぁ……!?い、かん!!

 

初めて神竜がもがき苦しむ様を取り、頭から光る何かが浮き出てくる。

円筒の塔身に方形の屋根を被せ、さらに相輪を載せた宝塔だ。

あれこそがナグモラーダに力を与え、一連の騒ぎを引き起こした神器でもある。

段々と神竜から離れるようになっているのは、虚ろを失いすぎた神竜の制御から外れつつあるのだ。

取り戻すように腕を伸ばそうとするが、神竜の目の前から宝塔の姿が消える。

 

「悪いがこれは返してもらうよ。…やれやれ。ようやく手元に戻ったよ」

 

――き、さまぁぁぁ!!

 

チャンスと見たナズーリンの行動は誰よりも早かった。

あえて戦いに参加する事無く、ただこの時を待ち続けていたナズーリンは宝塔をすぐさま奪い返した。

宝塔の力を失ったナグモラーダに怒りに駆られるが、それ以上にただの人間に過ぎないナグモラーダは虚ろなる闇に飲まれようとする。

幾ら失いすぎたと言っても、量だけならプロマシアの器となれるほどなのだ。人間の魂に耐えれるものではない。

 

勝利は掴んだはずだった。

ほんの一瞬だけ気を緩めてしまい、瞬間に世界が震えてた。

立っていられないほどの振動に誰もが倒れてしまい、気づけば大地に見える世界と空に見える大地が衝突が止まらずに近づこうとしていた。

 

――は、ははははははは!!

 

「な、にがおかしい!ナグモラーダ!」

 

――私の勝ちだ、プリッシュ!お前達の頑張りすぎだ!!世界は、終焉を迎えるのだ!

 

ナグモラーダを倒せば世界の終焉は止められるはずだった。

しかし、宝塔の力を失ったはずの神竜はその存在を虚ろなる闇に戻ろうとしながらも、世界と世界の融合が止まろうとしない。

 

「……遅すぎたっ!」

 

唇を噛み締めながら、紫の脳裏に浮かんだのは融合による世界の終わりだ。

 

「どうにか、どうにかならないのかよ!?」

 

魔理沙は考える。この状況をどうにかする手段を。

自分でも分かっている。もうどうにもならないところまで行ってしまっているのを。

それでも諦めきれずに考えて考えてひたすら考えようとする。

 

世界の融合はもはや数分も無かった。

誰もが目を閉じ、終焉を迎えようとした瞬間。

何も、おきなかった。

 

――なっ……

 

それどころか、融合しつつあったはずの世界と世界が離れようとしているのだ。

目を開けながら誰もが理解のできない状況に陥りながらも、一人だけ理解していたのは神竜の中にいるナグモラーダだった。

 

――な、ぜだぁ!なぜ、お前が私の邪魔をする!プロマシアァァァァァアアアア!!!

 

闇の中にいるナグモラーダを捕らえるように、貌無しの男神はナグモラーダの行動を封じていた。

尚且つ、世界との融合させずに、神の力で持って再び別の世界になるように分離しているのだ。

 

『……光を……アルタナの子らに……未来を……』

 

プロマシアの望みはただ一つ。

決して救われぬ虚ろなる闇を宿す自分自身の死。

つまり、世界が終わる事こそがプロマシアの望むべきものであり、なぜプロマシアがこのような手段に出たのかナグモラーダは理解できなかった。

 

そして、男神の器であった『虚ろ』は崩れ、拡散していく。

生きる者が誰もが持つ『虚ろ』はあるべき者達に戻っていく。

例え闇を背負って生きていく事になっても、それこそが光を生んで未来に繋げていく事にもある。

プロマシアは、女神の愛と冒険者の生き方からそう学び、"選択"したのだ。

自分達の子らに、未来を託さんと。

 

(私は……間違ってたのか……否……私は、私は……)

 

虚ろの残滓となって消えていくナグモラーダの意識は薄れていく。

ヴァナ・ディールで消滅し、幻想となった存在で消えてなくなれば二度と蘇る事などできない。

自分のした事に間違いはない。間違いではないのに、プロマシアは自分の思う想定外の事を選択した。

 

『いいえ、ナグモラーダ……間違いとは誰もがあるものなのです』

 

(イ、ブノイル様!?)

 

『あなたはとても優しく、純粋な子……だからこそ、ジラートの幻影とクリューの呪縛に囚われ続けていた』

 

ナグモラーダの前に現れたのはイブノイルだった。

それは幻かもしれないのに、まるで親が子を安心させるように抱きしめる。

 

『還りましょう。大丈夫……あなたのした事は無駄ではない。平等ではなくても、優しくなれる心を知ったあなたならもう間違えない……』

 

(あ、ああ……イブノイル様……)

 

意識すらも消滅する中、イブノイルは消えていくナグモラーダと共に母なるクリスタルに還っていく。

何時の日か、闇があっても負ける事のない光を魂が知った者が世界に生れ落ちるのを信じて。

 

「……あいつは、ずっと孤独だったんだ。そして、救いもありはしなかった」

 

大の字になりながら、遠くなっていく地球の大地を見ながらプリッシュは呟く。

 

「でも大丈夫だ。もう心配いらない。ナグモラーダも思い知っただろうよ。俺達の信じた、心の強さって奴をな」

 

起き上がりながらニヤリとする。

目の前にいるのはボロボロになり、到底立ち上がれない者達ばかり。

勝利者とは思えない。それでも未来を掴んだ者達なのだ。

 

しかし安心したのも束の間だった。

空の地球が見えなくなった瞬間に、真世界が罅を割れてから崩れ始める。

すぐに察したのはセルテウスだ。

 

「しまった、ここはナグモラーダが創った真世界だ!当然、ナグモラーダがいなくなれば世界が消滅する!」

 

「んな、マジかよ!?」

 

逃げようにも誰もが満身創痍だった。

紫の隙間による移動も全員分だと時間がかかってしまう。

時間がない事にセルテウスがフェニックスの翼を広げながら傷ついた者達を包み込む。

 

「聞け!これから私がお前達を世界に送るが、自分が帰りたいと願う世界を明確に頭の中で浮かべるんだ!悪いが一人一人丁寧に送っている時間はない!」

 

光の粒子に包まれながらも移送の魔法に似た何かで無理矢理送ろうとしているのだと魔理沙はわかった。

だから、送られる前にプリッシュに向かい合う。

 

「ありがとう!」

 

「ああ!?なんだよいきなり!」

 

「へへっ、とりあえずこう言っておこうと思ってな。なんだかんだで世話になりっぱなしだったしな」

 

「別にこれがずっとの別れじゃないだろ……また、会おうぜ」

 

「ああ!」

 

互いの住む場所が違うのだ。

帰るべき場所が浮かぶのも、また違う。

ヴァナ・ディールと幻想郷は再び重なった程度に戻るだろう。

自由に行き来できないのだから、また出会えるのは何時になるかも分からない。

だけど、二人はもう一度出会を約束をする。

冒険者なのだから、同じ世界でまた。

 

「お前wwwwwwwwwたまにで良いから戻って来いよwwwwwwwwwww巴姫とかいつまでも抑えきれないんだよwwwwww」

 

「うはwwwwwwww俺様モテすぎwwwwwwwwwww修正されないねwwwwwwwwww」

 

「あwwwwwwwwwwww今気づいたけどwwwwwwwww餡刻の姿が見えなくねwwwwwwwwwww

・えちょ 今更存在に気づかれるとかwwwwwwしかもまた姿見えなくなってやがんのwwwwwwwwミスwwwwwwじゃないねwwwwwwwwwww」

 

戦いが終わっても元気なのは草が枯れない連中だった。

リーダーである戦死としては内藤だけでも早く帰ってきてほしいのだ。

仲間の一人である女性侍は内藤に惚れ気味なのだが、さすがに一年も会っていないと情緒不安定気味で戦死ですら抑えが効かなくなっている。

とはいえ、戦死でも内藤がどの世界を選ぶかは分かっている。

本当に帰る気でいるのなら、何でもありとも思えるこいつらならとっくの昔にヴァナ・ディールに帰還しているはずだという信頼もあった。

 

「エルド……」

 

「……僕はあっちの世界じゃ死んでいる身なんだ。だから帰ろうとも思わないよ(´_ゝ`)」

 

犬猿の仲とはいえ、それでも樽ナからすれば死んだはずの知り合いが手を伸ばした先にいる。

だけど、一緒に帰る事はできない。

エルドナーシュは幻想郷に、樽ナはヴァナ・ディールが帰るべき場所なのだ。

 

「その時は、樽ナしゃんが幻想郷に来るでしゅ(=´▽`=) 」

 

「えっ」

 

まるで名案だと言わんばかりに獣様は言った。

エルドナーシュがヴァナ・ディールに行けないのなら、樽ナが幻想郷に来ればいいのだと。

 

「……うん、そうだね。簡単な事じゃないか。待ってろよ、エルド!絶対にゲンソーキョウってとこに行くから!」

 

「いや来るなよ。せっかく獣様と一緒の幸せ空間作ってるんだから(;´_ゝ`)」

 

いつになるかは分からない。

それでも、いつかの再会の約束を誓う。

また騒がしい日々が戻れる事を祈って。

 

「あの、ブロントさん……」

 

「ほう見事な治療だ素晴らしい頑丈なVITを誇るナイトとはいえHPの減りは隠せなかったしなこれで何時でも「はやくきて~」「はやくきて~」と助けの呼ぶ声にカカッっと行けるのは確定的に明らか」

 

「そ、それほどでもないです!えっと、ノブ……忍者さんのほうも治療しましたが負担が相当に大きいです。戻ってから適切な治療をしないと……」

 

モインは傷ついた者の治療をしながらも、汚い忍者だけは現状の治療では不可能と感じた。

最後の一撃で無茶をしすぎたのか、異なる技を同時にかけ過ぎた影響で肉体が回復を受け付けてくれないのだ。

そのため、意識を失っている状態なので渋々ながらも、ついでにとても嫌そうな顔をしながら汚い忍者をブロントが背負った。

 

「忍者はナイトに比べてVITもHPも劣るあるさま自分の身体弁えない雑魚は雑魚として死ぬ」

 

「そう言いつつも自分で運ぶ気なんだな、ブロントさんは」

 

傷が治っても一歩も動けなさそうなジャルベリンだが、ブロントに何かを言おうとしてやめた。

みんな、察している。

ヴァナ・ディールに戻ってくる気はないかと聞いて、この二人が素直に戻ってくるとも思えないからだ。

 

「ま、ブロントさん。忍者のことよろしくね?この馬鹿、すぐに無茶アホ馬鹿な事するからさ」

 

「俺は汚い忍者の保護者じゃないんですけどねぇ?」

 

「はっはっは!まぁいいさ!ブロントさん、たまにでいい。ヴァナに戻ってきたら、また一緒に冒険でもしようぜ」

 

フゥも汚い忍者が無茶をしないようにライバルのブロントにお願いしつつ、ジャルベリンはいつかの再会を約束する。

どれだけの時間がかかってもいい。

ブロントがまたヴァナ・ディールに戻ってこれる日を期待して、ヴァナ・ディールで待っていよう。

あまり遅すぎれば幻想郷に自分達でやってきて冒険するのもいいかなとジャルベリンは考える。

 

「いいんですか、ブロントさん?せっかく、ヴァナに帰れるチャンスなのに」

 

「お前馬鹿すぐる。涙目の巫女が「残ってください;;」と迫真の顔で言ったのにそれをノーカンにするのは雑魚のやる事。

真の主人公は二つの世界を舞台に行き来するのはちょろいこと安心していいぞ」

 

「ああ、はい。心配するだけ馬鹿でしたね」

 

「おいィ!?」

 

あまり思い出したくないのか、やや頬を赤くした事から照れ隠しみたいなものだ。

しかしブロントには気づいていなかったようだった。

 

崩れ、本当の意味で幻想として消え去ろうとする偽りの真世界。

各自が帰りたいと願う場所を浮かべ、粒子に包まれたと共に真世界から生きた者全てが消え去る。

同時に真世界もまた、消滅していく。

 

こうして幻想郷とヴァナ・ディールの融合は幕を閉じる事となる。

一万年に続く幻影と呪縛は本当の意味で終わりを迎える。

 

今の時代に生きる者達が、終わりを選択しなかったという結果を残して。

 

 

 




伝説は、こう終わる。
すべての起こりは石だったのだ、と。

遠い遠いむかし、女神アルタナは、
神の死を拒み、クリスタルの生命の輝きを
神に与えた。

クリスタルは砕け散り、
神は無数の「人」として生をつないだ。

世界の中心から光は失われて、
神の楽園は人の世界へと姿を変えた。

世界の名は、ヴァナ・ディール。
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