東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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ジュノに冒険者が集い冒険者が依頼をこなして「やはり冒険者がいないとだめかーすごいなーあこがれちゃうなー」と世に広めることで三国よりも充実したジュノ生活が認可される

「温泉に行こうぜ!」

 

「何だ急に温泉話持ちかけてきた>>黒魔」

 

誇り高き戦士の一族であるエルヴァーンが治める王都、サンドリア。

その王都にある冒険者が借りる宿、レンタルハウスに黒魔道士の少女である霧雨魔理沙は、仲間に温泉に誘ってきた。

博麗霊夢はここの近くに温泉があると言う事は知らない。むしろ聞いた事がない。

 

「温泉って、この辺に沸いてるんですか?」

 

魂魄妖夢は刀を手入れしながら、魔理沙に聞く。

幻想郷では普通に使っていた楼観剣と白楼剣だが、ヴァナ・ディールに来てから貧弱一般人になってしまい、使えなくなってしまっている。

力量の問題でまだ使う事ができないとはいえ、長年愛用していた刀だ。

いつでも使えるように、ヴァナ・ディールに来てからも手入れは欠かしていない。

 

「ああ!実はよ…」

 

魔理沙の回想が始まった…。

 

 

 

王都の噴水広場を歩くのは美少女魔法使い、霧雨魔理沙。

今日も素敵な出会いがある事を信じて、お散歩中。

 

「あら、そこのあなた」

 

そんな魔理沙に話しかけたのは、女騎士であった。

まさかのナンパ?

モテるのはつらいぜ。

 

「あなた、腕の立つ冒険者みたいね。よかったら話を聞いてくれないかしら?」

 

まぁ、そうですよね。はい。

 

「いいぜ。この魔理沙様が何だって聞くぜ」

 

女騎士はウフフと笑っている。

エルヴァーンであるようだが、自信家と同時に驕慢でもある事が多いエルヴァーンでは珍しい、温和の人物のようだ。

名はクリルラ・V・メクリュと名乗った。

左目の部分を、布で隠すようにしている。

 

「依頼はユグホトの岩屋の奥地にあるホルレーの岩峰。そこに湧き出る温泉水をくんできてほしいの。

騎士団の連中に頼んでもいいんだけど。ちょっと訳ありでね、部外者にお願いしたいのよ。」

 

クリルラは、自分は神殿騎士団の団長である事を明かす。

神殿騎士団と言えば、サンドリア王国軍の中核を為す一つだ。

つまり彼女は、この国では大物であるということ。

騎士団の一角を預かる彼女は私用の事で軍を動かす事ができない。だから冒険者に依頼をするのだ。

 

「ユグホトの岩屋はオークが沢山いるけど…今ではホルレーの岩峰まで見つからずに行ける道のりがあるわ。

それを教えるから引き受けてくれないかしら?

それに、人とオークも来ないから温泉に入れるわよ?」

 

ホルレーの岩峰は、獣人であるオークの前線基地であるゲルスバ野営陣にある。

ミッションで先日、行った事のある場所だ。

呆れるぐらいにオークがいる。

報酬もよさそうだったので、引き受ける事にした。

それに聞く限り、温泉からの外の眺めは絶景のようだ。

 

「じゃあ、頼んだわ。

これにホルレーの岩峰の奥に湧き出る温泉水をくんできてくれる?」

 

クリルラからビンを受け取る。これに温泉を入れれくればいいみたいだ。

 

回想終了。

 

 

 

「というわけなんだぜ」

 

「まぁ、色々突っ込みどころがあるけど、それは置いといて…」

 

頭に手をやりながらアリス・マーガトロイドは回想での冒頭を突っ込みを言うのを耐えた。

 

「温泉かー。いいんじゃないの?」

 

「ま、たまには息抜きも必要って事で」

 

ルーミアと射命丸文は乗り気のようだ。

モグハウスにも風呂があるとはいえ、同じ湯に浸かる事でも風呂と温泉は別物だ。

気分的な問題とも言える。

幻想郷にも温泉があるが、いつもの風呂とは違った安息感がある。

 

「でも行きはともかく帰りが遠いじゃない?体が冷めるわよ?」

 

「それも問題ないぜ!」

 

魔理沙は、鞄から符を取りだす。

魔法の文字で書かれたそれは呪符だ。

霊夢の怪訝を無問題にする魔法の道具。

 

「これを使えば、魔法使いでなくても魔法が使えるんだ。で、これに書かれた魔法はデジョンで、すぐに帰れるわけだぜ」

 

移送の魔法である"デジョン"は、冒険者の証である宝石《シグネット》に登録してある拠点ホームポイントに飛ばす事ができる。

本来は黒魔道士の魔法であり、他人を飛ばす事のできる"デジョンⅡ"はまだ魔理沙には使えない。

しかし、魔理沙の持つ呪符デジョンは、貧弱一般人であっても読むだけで魔法の効果を発揮する。

競売所に出回らない品であり、冒険者を支援するガードから魔物を討伐したりする事で獲得できる"戦績"の交換で得られる。

 

呪符デジョンの数は六枚。

温泉が終わった後に使えば、《シグネット》に記録されているサンドリア王国に即座に帰還できるだろう。

 

「準備は万全ってなわけね…ヴァナの温泉って奴に行ってみますか」

 

温泉を行くために準備を始める。

目的の場所まで魔物が出る可能性があるため、装備は忘れない。

たかが温泉に行くためとはいえ、ヴァナ・ディールは安全とは言い難い。

特に温泉のある場所は、人間の敵である獣人オークの住処なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンドリアの北西にあるゲルスバ野営陣は、オークが作り上げたサンドリア攻略の前線基地だ。

徒歩で数時間。かなり近いため、サンドリアの周辺にはオークがよく生息している。

野営陣前には見張りのオークがいるのだが、霊夢達が来たときには誰もいなかった。

ミッションでゲルスバの奥に進むために、文字通り殲滅しながら進んだため、戦力が激減し、見張りを立てられるオークがいないのだ。

 

野営陣に入り、クリルラに教えられた道を進んでいく。

洞窟の中に入り、途中で大型の蝙蝠がいたが、音を頼りに相手を感知する蝙蝠はルーミアとアリスの唱えた"スニーク"の御蔭でこそこそせずに真横から通り抜けて行く。

服のこすれる音。足音。そして口から零れる吐息すらも。

"スニーク"はかけられた者の"音"を完全に消失させる。

しかし、隠蔽の魔法はちょっとした事でも効果が切れる精細な魔法だ。

そのため効果を切らさないように慎重に行動する必要がある。

 

野営陣を超え、温泉のあるホルレーの岩峰を目指していく。

オークの姿が見えない。当然だ。見つからない秘密の道を進んでいるのだから。

オークが奴隷に掘らせた洞窟である、ユグホトの岩屋を超える。

 

「おぉー!こりゃいい眺めだぜー!」

 

洞窟を抜け、青い空が見えた。

太陽は傾きかけている。もう昼は少しばかり過ぎているようだ。

そして少し先には湯気が出ている泉がある。

湯の色が少し濁っている所が温泉らしい。

その先にある光景は絶景の一言。

高原から下界の眺めを一挙に眺める事ができるのだ。

サンドリアから遠かったとはいえ、温泉に浸かりながらこの光景は充分に元手が取れる。

 

「よし!一番風呂は貰ったぜ!」

 

「あ、ずるい!」

 

魔理沙は、すぐさま胴衣ローブを脱ぎ捨てるように着脱し、温泉へと向かっていく。

ルーミアも同じように行動するが、遅れてしまう。

 

「いやっほー!」

 

温泉に目掛けてダイブした。

水しぶきが上がり、温泉に浸かっていく。

 

「~!くぁー!いい湯加減してるぜぇ!」

 

一糸纏わぬ、生まれたままの姿で、湯を堪能する。

どうやら冬の季節に関わらず、温泉の湯加減は丁度いいようだ。

 

「たく、子供か。魔理沙は」

 

カチャ、カチャと音を立てながら鎧を外していくアリス。

妖夢と文もだが、魔道士の胴衣ローブに比べて鎧は外しづらい。

鎧を外しても、下にも服と下着もあるのでそれも脱いでいく。

 

「遅いわよー。しっかし、ここは隠れスポットね…幻想郷でもこんなにいい所ないわよ?」

 

「モンクのあなたがそれを言いますか。まぁ、それについては同意ですね」

 

すでに霊夢も温泉に浸かっていた。

トレードマークとも言うべき赤いリボンを外し、ポニーテールにしていた黒い髪は首まで伸びている。

モンクである彼女は拳法着と呼ばれる装束を防具として身に付ける。

冒険者の防具とはいえ、布で作られたそれは、魔道士の胴衣ローブとあまり変わりない程度の代物だ。

前に出て戦う前衛でありながら、あえて防御が薄くても身軽にするためにモンクは拳法着を好んで着込む。

拳法着は巻いた帯さえ外せば簡単に脱ぐ事ができる。その下も下着だけだから実際はこの面子の中で一番早く脱ぐ事が可能だ。

 

今ゲルスバの奥地にあるホルレーの岩峰にある温泉に、六人の少女が生まれたままの姿で湯に浸かっている。

アリスと文、妖夢に霊夢は、タオルで前面の体を隠しているとはいえ、湯を吸収したタオルは、あまり意味を果たしていない。

むしろ隠しているのに、隠しきれなくなったそれが扇情さを生み出している。ただでさえ少女達は美の付く程の容姿なのだから、尚更だった。

 

「でもさぁ、こんないい光景なのに、なんで誰も来ないだろうね」

 

「そりゃ、サンドリアから遠いからじゃないか?」

 

「それが答えでしょうねぇ。いくら絶景の光景と温泉があるとはいえ、

だからといって獣人のいる奥地に行こうとするなんてそんなにいないでしょう。

我々冒険者ならともかく、貧弱一般人だと野営陣に行く事すら困難ですよ」

 

ルーミアの疑問に魔理沙と文が答えるが、答えとしては満点に近かった。

まずホルレーの岩峰まで遠い点があげられる。

最短でサンドリアから黄色の騎乗鳥であるチョコボで飛ばし、ここまでたどり着くのに一時間以上はかかる。

今回はオークの数が少なかったが、いつも通りの数であれば更にかかるだろう。

また、それは冒険者であればの話。

貧弱一般人だと温泉に辿りつく前にオークにズタズタにされるだろう。

 

知覚を遮断する魔法"インビジ"と"スニーク"。その効果を得られる道具を使えば別なのだが、そうした道具は使い捨てながらも高価だ。

わざわざ遠くて魔物もいる、更にいくら絶景の景色があるとはいえ、温泉に浸かるだけでここまで危険を挑むのは貧弱一般人にいないだろう。

そうした無謀とも言える事を実行し、成功する者が"冒険者"になるのだから。

 

魔理沙はある部分をじぃと見つめている。

具体的に言うと自分以外の胸の部分を三回連続で見つめている。

 

(この面子の中だとやっぱ文とアリスのツートップだな…)

 

ルーミアは、見た目相応、言うに及ばず。

霊夢は、少しばかり、ほんの少しばかり魔理沙より大きいぐらい。いや、そんなに変わりないかな。うん、そうだ、絶対そうだ。

妖夢は、膨らみかけと言った所か。全体的に鍛え抜かれてながらも、しなやかにできているため、今後スレンダー系とやらに成長するのだろうか。まぁ、まだ結論は付けられない。

そしてアリスと文…。

 

(…これが格差社会って奴か)

 

大きさ的には小さくもないが、大きくもない。

所謂、通常サイズなのだが、アリスの胸はなだらかに形が整えられており、見るだけで張りがあると分かる。

左右の丘も離れて無く、正に美乳の名に相応しい。

対して文は、形が崩れていないのはもちろんの事、夢の詰まった二つの丘は、自己主張するかのように悠然と聳え立つ。

女性が生きる上で最も怪訝する"垂れる"という概念を置き忘れ、女性の夢を主張するかのような体現がそこにあった。

 

魔理沙はすぅーとアリスの背後に回る。

手をわきわきとし、背後からその胸をつかんだ。

 

「なぁ?!」

 

「ちくしょー!これが格差社会なのか!羨ましいぜ!妬ましいぜ!」

 

バシャバシャと水しぶきが舞う。

身麗しい少女が乳を揉みしだき、その様子は控え目に言ってもareだった。

アリスは抵抗しようとするが、魔理沙はしつこく迫ってくる。

 

「やめ、なさぃぃ!」

 

「魔法使いは不老のはずだろー?!それなのにこんなに育ちやがって!けしからん!いやらしい!」

 

霊夢はルーミアの視界を手で押さえ、妖夢は顔を真っ赤にしながらガン見している。

文は喉奥から笑い声が漏れていた。

アリスの口から艶やかな吐息がでてくる。

これ以上はまずいと思ったアリスは、拳に"魔力"を纏わせる。

"気"と違い、武技ウェポンスキルを放てる代物ではないが少しだけ肉体を強化する事が可能だ。

 

「やめろ馬鹿!!」

 

その拳で魔理沙の脳天にヒットさせた。

ゴン、などといった音ではない。ズドン!と鳴ってはいけない音が温泉に響く。

ぷかぁと温泉に浮く魔理沙。

 

「ま、まりさー?!」

 

目隠しを外されたルーミアが駆け寄り、回復魔法を唱える。

"ケアル"をかけられ、何とか回復する魔理沙。

 

「おま…今のはマジでsyれにならん威力だったぞ…」

 

「当然よ!少しは反省しなさい!」

 

胸を手で押さえ、息切れをしているアリス。

頬もほんのりと赤い。それは湯に浸かった時に生じる上気しただけではないものだろう。

 

「つぅ~。あ、そうだ!」

 

殴られた頭を押さえ、魔理沙は湯からあがり、鞄へと向かっていく。

タオルなどで何も隠していない。

もしも人がやってくれば、魔理沙の大事な所が丸見えになってしまうだろう。

 

鞄を開き、色々を取りだす。

冒険者が必ず持ち歩く鞄だが、見た目に反して物を詰め込める代物だ。

後で知る事になるが、ヴァナ・ディール全土に渡って広く棲息している獣人であるゴブリンが作り上げたモノらしい。

彼らは人間にも劣らぬ技術力と多芸さを持ち合わせており、同じ獣人以外にも人間とも取引する。

世界中を渡り歩くのに、生活用品だけでなく商売道具も入れるのに大容量の鞄が必要になるのだ。

ただゴブリンからしてみれば、冒険者の使う鞄は「不完全」だと言う。

 

鞄から取り出したのは捌かれた魚が丁寧に置かれた皿と、酒の入った瓶。

それぞれをお盆に乗せて、温泉に戻る。

 

「やっぱ、温泉に来たらこれがないとなー!」

 

「準備いいじゃない!」

 

「おやおや。これは風情のある事で」

 

これには霊夢と文も大好評。

温泉に浸かり、広大な景色を見ながらの酒盛りが始まった。

 

バストアブリームと呼ばれる鯛や巨大イカのギガントスキッド、高級魚であり別名にマグロの名を持つググリュートゥーナ。

様々な海鮮物が、綺麗に捌かれている。

これを生のまま頂くのが、"刺身"という料理だ。

東方から伝えられた調理法であり、同じく東方から伝えられた調味料である醤油、ワサビを付けて食べるといいらしい。

 

箸で、すっと一枚の刺身を挟み、小皿に注がれた醤油を付けて口に運ぶ。

鮮度の高い食材をそのまま生かした料理だ。

刺身が口の中で溶けるように無くなっていく。

醤油の濃い味は、生のままのはずの魚肉を引き立てていく。

噛む、という行為をしなくても刺身は消えてしまった。

それでいて上手い。

酒を小さな御猪口に注ぎ、ぐぃっと飲み干す。

喉に熱い液体が通る。

 

「まさに極楽とはこの事ね…」

 

霊夢の口から漏れだす言葉が、皆の心を現しているものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒盛りが終わり、温泉からあがる。

湯に濡れた体をタオルで丁寧に拭い、下着を付けて、服を着ていく。

鎧は身に付けずに、鞄の中に収納してある。もう冒険はしないだろうし、すぐに帰れる手段があるからだ。

依頼も忘れていない。ビンに湯を入れてある。クリルラに渡せば依頼完了だ。

 

少女達の手には呪符を持っている。

その呪符に書かれた文字を読み上げ、魔法の効果が発揮される。

黒い空間に閉じ込まれるように、少女の体が包まれ、消えていく。

後に残ったのは、何も変わりない湯気のある泉だけであった。

 

 

 

目の前が真っ暗になり、瞬きをするとすでにサンドリア王都内であった。

石造りの堅牢な城塞都市。

呪符デジョンとはかなり便利のようだ。

普通に帰るなら数時間はかかるだろうが、移送の魔法は距離を無視して目的地まで一瞬で辿りつく。

太陽は地に傾き、青い空は赤く染まっている。

 

冒険者共通の寄宿であるモグハウスに向かう。

霊夢達はウィンダスの冒険者のため、他国ではレンタルハウスと呼ばれる別の寄宿に泊まる事になる。

違いはモグハウスだと栽培や家具の設置を自由に行えるが、レンタルハウスではそれができない事か。

普通に暮らす分には不都合はない。

 

南にあるサンドリア王都はすでに夕方だが、賑やかだ。

冒険者が自ら取引するバザーや物を出品する競売所に、特産品を売る様々な露天が並んでいる。

向かう場所は北のレンタルハウスだ。

中央にある分かれ道から、大きな門の先にある北サンドリアに向かう必要がある。

 

その途中で花屋を見つけた。

小さな露天であるが、煌びやかな色をした花は見ていて心が和む。

それを売っている店主は、よく知る人物であった。

 

「あ、クラエアさんだー」

 

「あら?ルーミアちゃんに…みなさんも」

 

ルーミアは花屋に近付く。

店主であるクラエア・K・テザーは業務用スマイルを浮かべる。

魔理沙は疑問に思った。

三つ編みにしていた銀髪も、ウェーブのかかったポニーテールにしている。

 

「あれ?なんで花屋なんてやってるんだ?」

 

クラエアの両親はサンドリア王国の騎士団の一つ、王立騎士団に所属している。

騎士団に所属しているのはほとんどが貴族などの裕福層。つまり彼女はお嬢様に当たる。

そのため羨ましい事だが、このように働かなくても生きていけるはずだ。

彼女の弟がオークに攫われてしまい、先日にミッションで救出した礼で、一泊させて貰った。

クラエアと冒険者の霊夢達が知り合いなのはそのためだ。

 

「道楽…のようなものかしら。趣味で育てた花をこうして他人に見て貰いたいからこうして売ってるのよ。

良かったら買う?」

 

色とりどりの花には値段が付けられている。一輪で1G。とてもお安い。

 

「じゃ、私はせっかくだからこの赤い花を選ぶぜ!」

 

魔理沙が選んだのはカーネーションだ。

真っ赤に咲いた花を受け取り、1Gを取りだして払う。

素人目だが、丁寧に作られているようだ。

 

「ああ、そういえば…」

 

クラエアは気づいたように話す。

 

「ウィンダス領事館のカラササさんが朝に尋ねてきてね。

あなた達に用があるみたいなのよ…」

 

「なんでだぜ?」

 

「詳細は聞いてないので…。たぶん、依頼か何かじゃないかしら?」

 

一国の領事を務める者が冒険者の所在を確かめるのはだいたいは決まっている事だ。

それは依頼。

何でも屋である冒険者に、仕事を頼みこむ事だ。

 

「とりあえず向かってみますか…。ありがとうね」

 

「それほどでもないわ。頑張ってくださいね」

 

霊夢達はクラエアと別れ、北にある領事館に向かっていく。

少女の後ろ姿が見えなくなる頃、金髪の少年が走ってきた。

 

「姉さん!」

 

カイ・K・テザーだ。クラエアの弟であり、騎士団の一員である父親の後を継ぐために鍛錬を積んでいる。

 

「もうすぐ父さん達が帰ってくるから準備しないと」

 

「あら。早かったわね…」

 

王立騎士団は活発化したオークを抑えるために、ここから徒歩で四日近くはかかるジャグナー森林で獣人の征伐を行っている。

移動自体は、実際そこまで時間はかからない。

移送の魔法を使えば一瞬であるし、チョコボなら半日もあればいけるだろう。

帰るまでに二週間はかかると言われたが、五日ほどしか経っていない。

 

「店を畳むの手伝って」

 

「また?父さんに内緒でやるの、そろそろやめたら?」

 

露天を仕舞い、帰る仕度を始める。

カイが言うにはクラエアは親に内緒で花売りをしているみたいだ。

 

「やめられないわよ。こうした花でみんなが笑顔になるならね」

 

心に安らぎを与える花。

変装、という程でもないがバレないように、いつもとは違う格好でその花を売っていた。

 

「リアも私の花が好きだったからね」

 

「兄さんも?」

 

それはカイも初耳だ。

あの兄が花好きだったとは。

ちなみにリアとは、ブロント…ブリリアント・アンルリー・レーザー・オブ・ノーブル・テザーのブリリアントからリアを抜き取ったクラエアのブロントに対する愛称だ。

 

「リアもいつになったら帰ってくるんだが…」

 

「そうだね…」

 

ブロントが行方不明になって一年近く経っている。

当然、大騒ぎになった。騎士団の道を蹴り、冒険者となったとはいえ、上流階級の息子が消えたのだから。

国の記録では死亡扱いにはなっていない。あくまで行方不明だ。

もし冒険者が何らかの事故で死亡した場合、個人の持つ《シグネット》の輝きは消え、冒険者を支援する国家にそれが伝わる。

 

しかもそれはブロントだけでなく、多くの冒険者が相次いで行方不明となっているのだ。

中には国家に貢献し、"英雄無き時代に生まれた英雄"とも言われた冒険者も突然消えてしまっている。

これを異常事態と感じた国家は、冒険者にミッションとして詳細を探るように依頼するが、何も進展しないのが現状だ。

 

「ま、リアの事だから死にはしないでしょう。なんだかんだで頑丈に育てられてるからね。

案外、行方不明先で女でも作ってるかも?」

 

「兄さんが?それはないんじゃないかなぁ」

 

ムフフとニヤケ笑いを浮かべるが、カイはそれを否定する。

兄は、ああ見えて意外と純情だ。

異性と愛情を育むのは、それこそ困難を極めるだろう。

子供の面倒を見るならまだ大丈夫なんだろうが。近所では子供好きと言われていたぐらいだ。

 

二人の姉弟は、何処かに消えてしまった兄弟を思い浮かべ、真っ直ぐと家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました。レイムさん」

 

北の王都にある大きな噴水を中心に、各国の領事館が存在する。

今、少女達がいるのは、ウィンダスの領事館。

その領事でもあるカラササに出会いに来たのだ。

 

「あなた方に用があったのは私個人の依頼です」

 

「何となく予想は付いてたけど…内容は?」

 

わざわざ領事からの依頼。

恐らく困難なものになると、霊夢は予測した。

 

「はい。内容はサンドリア王国から東にあるジュノ大公国。ウィンダス大使館へ赴き、ヘイミジカイネジ大使に情勢を知らせる紙を渡してほしいのです」

 

カラササは、印を押された封筒を取りだす。印はウィンダス連邦を主張する星の大樹に似たマークだ。

ウィンダスの国旗によく似ている。

 

「それは…ミッションにならないので?」

 

「ええ。これは私個人の依頼ですから。本国とは何も関わりはありません。

報酬は前金で1000G。大使に届け、依頼が完了したら大使館で3000G。

合計4000Gを六人分となります。引き受けてくれますか?」

 

封筒の中身には国の情勢が書かれているはずだ。

本来、そうした国の関わるのはミッションとして依頼される。

個人からの依頼はあまりないものだ。

 

「報酬がいいし、受けてもいいんじゃないか?」

 

魔理沙は、報酬の高さに引き受けてもいいかなと思っている。

高額な報酬であるし、他国に行くことになるがそれを差し引いても充分と言えるだろう。

国からのミッションとは違い、依頼は個人よってに左右されるため、報酬はまちまちになりやすいのだ。

依頼内容によっては報酬の割に合わないものだってある。

 

「ジュノ、と言えば世界中の冒険者が集まる都市ですからねぇ。今後の活動拠点としてはいいかもしれませんな」

 

「世界ですか…凄いですね」

 

ジュノの周辺にあるエリアの魔物の強さは、サンドリアやウィンダスの周辺にいる魔物とは比較にならないぐらい強暴だ。

そのため、三国で物足りないと感じる冒険者はジュノへ目指し、更に腕を上げたり、困難な依頼を果たしていく。

三国をまとめ上げ、世界の中心にある大公国は腕に覚えがある数多の冒険者が集う都市でもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

東方幻想鉄

第五話「ジュノに冒険者が集い冒険者が依頼をこなして「やはり冒険者がいないとだめかーすごいなーあこがれちゃうなー」と世に広めることで三国よりも充実したジュノ生活が認可される」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラササからの依頼は受ける事にした。

ジュノ大公国に行くにはロンフォール地方を超え、ラテーヌ高原から東にあるジャグナー森林に向かい、長い森の先に無数の塚山があるバタリア丘陵と、長い道のりになる。

ロンフォールからラテーヌ高原まではそこまで時間はかからないだろうが、問題はジャグナー森林だ。

別名「死の森」とも言われ、森を東西に抜ける街道が作られているにも関わらず、森の横断は困難と言われる。

その原因は、オークの根拠地であるダボイが近いため、獣人が跋扈する事と、街道があっても迷いかねない程の広大な広さにある。

昔は商人や旅人が頻繁に往来していた森も、今では冒険者ぐらいしか通る事のない危険な場所と化している。

一度、迷えば冒険者であっても獣の餌になってしまうだろう。

 

そうした危険な冒険を行うのには、準備を万全にしなくてはならない。

現在、妖夢がいるのは南サンドリアにあるローゼン防具屋だ。

やや値は張るが、戦士の装備は充実している。

その質も王族がお忍びで訪れるぐらいは高い。

 

メイン盾である妖夢は、できるだけいい装備をしなくてはならない。

先日のミッション報酬に加えて、サンドリアに来てから色々と依頼をこなしたため、金なら特に問題はない。

問題があるとすれば魔道士である魔理沙とルーミア。あと赤魔道士のアリスだろう。

騎士の国、戦士の国とも言われるサンドリア王国は、魔法に関しては遅れている所がある。

 

「お嬢ちゃんならこれがいいじゃろうな。セット装備で8000Gで売ってやろう」

 

店主である老エルヴァーン ローゼンが持ってきたのは青色の鎖帷子だ。

頭から足の装備まで8000G。高いように見えるが、個別で買うと10000を軽く超えてしまう。

鉄の鎖で作られたアイアンチェーンメイルは、この店の中でトップクラスの品だ。

それだけ性能が良く、ジュノに行く頃の戦士なら誰もが身に付けている。

 

「あ、はい。それを買います」

 

袋から8000Gを支払い、試着室で着替える。

もう外は真っ暗だ。星々が大地を照らし、王都内は角灯の明かりでいっぱいだった。

今日からは出発しない。

明日の出発の準備をし、これは装備は自分の体に合うかの試着だ。

 

「…うん、ぴったりだ」

 

鎖帷子に青色のなめし革と鉄の板を装飾されている。

鎧らしい鎧と言える。

なんだか強くなったような気分であった。

 

私服に着替え、鞄に装備を詰め込むと店を出る。

次は武器だ。

妖夢の足は、防具屋の隣にある武器屋に歩いて行った。

 

 

 

「競売所に装備はあったけど、結構ぼったくられたなぁ…」

 

競売所の脇にある階段に座りながら、ギルが少なくなった袋の中身を見つめ、溜息を吐く魔理沙。

身に付けているのは胴衣ローブではない。

木綿布で作られたコットンダブレットであり、薄手の胴衣ローブやチュニックに比べると、もこもことした厚手の服に見える。

 

「装備ならともかく、魔法がかさばるのが痛いわね…赤魔道士ってこんなに苦労するものなのね」

 

「そーなのかー」

 

赤魔道士は、戦士の装備をある程度なら身に付ける事ができる。

妖夢の装備していたリザードレザーアーマーを着る事で無駄な出費を抑えるつもりだが、魔法はそうはいかない。

魔法を覚えるための書物は使い捨てだ。

一回使って覚えるごとに、中に書かれた文字が消えてしまうからだ。

赤魔道士は、黒魔道士の使う黒魔法と白魔道士の使う白魔法の両方が使える。

それに加えて、赤魔道士専用の元素の力を武器に宿す"エンファイア"なども扱う事が可能だ。

とはいえ、そっちの魔法は後回している。前衛で戦う事はあまりないのに加えて、優先するべき魔法が他にもあるからだ。

 

ルーミアの装備も魔理沙と同じ、コットンダブレットだ。

お揃いだが、違いがあるとすれば魔理沙は魔女のような帽子を被り、ルーミアは"魔力"を底上げする髪飾りを付けている事か。

 

サンドリアはウィンダスと違い、競売所であっても魔道士の装備や魔法が置かれる事が少ない。

そのため、魔道士組だけでもかなりの出費となってしまった。

あれだけ稼いだ金が、すぐに無くなるのはちょっぴり悲しかった。

霊夢が聞けば泣くかもしれない。

何せ湯豆腐が三カ月分ぐらいは買えるお金が、一回の買い物で消えたのだから。

 

「何かあったら遅いかもしれないからな…ガードの所に行って、呪符デジョンを貰いに行かないと」

 

立ち上がり、北の領事館にいるウィンダスのガードに会いに行こうとする魔理沙。

もしも辿り付けずに迷った時に備えて、いつでも帰れるよう呪符デジョンを手に入れるためだ。

"戦績"ならまだ余裕がある。

救出のミッションでゲルスバのオークをかなり倒したため、それが評価されていたのが幸いだった。

三人の魔道士は夜中だと言うのに賑やかな競売所を後にし、領事館に向かっていった。

 

 

 

霊夢と文がいるのは南サンドリアにあるレンブロワ食料品店だ。

穀物や野菜、果物から調味料まで、魚肉以外の様々な食材を扱っている。

といっても、王都の一般家庭の食卓を潤すことが店主レンブロワの望みでもあるため、品揃えはエルヴァーンの庶民が普段口にしている国産食材が中心だ。

 

これから長い旅になる。

途中で補給できない事を考慮すると、一週間近くの携帯食料が必要だ。

保存が容易なミスリルコーン(トウモロコシ)などの野菜や、味付けの岩塩、香料や紅茶などに使うハーブやスパイスなどを購入していく。

食物そのものだと高くつくが、食材であるなら安く揃える事ができる。

飲み水である蒸留水も買い忘れない。例え食べる物が無くなっても、野生の獣を狩ってその肉を食えば凌げるが、飲み水はそう簡単に手に入るものではない。

 

「【ウィンダスティー】【どこですか?】」

 

「すまんなぁ。うちには茶葉は置いていないんだ」

 

皺のある壮年のエルヴァーン。店主であるレンブロワに霊夢は、ウィンダスティーがあるかどうか聞いているようだが、どうやら置いていないようだ。

元々ウィンダス茶葉はその名の通り、ウィンダス周辺のサルタバルタ地方の特産品だ。

サンドリアに出回る事は滅多になく、競売所にもなかった。

霊夢はずーんと落ち込んでいる。

サンドリアに来てから、日課である緑茶を飲む事ができないのだ。

世界中の冒険者が集い、世界中の物が流通するジュノまで我慢になるだろう。

 

「こうなりゃ、酒よ!酒!茶がないなら酒を飲む!」

 

「ちょ!明日はジュノに行くんですから!」

 

「何よ!私の酒の強さ知ってるでしょ!少しばかり飲んでも呑まれないわよ、早苗じゃあるまいし!」

 

余った金で、酒を買い占める霊夢に、文は止めようとする。

確かに霊夢は酒に強い。というより、幻想郷に名を馳せる者はだいたい酒が強い。

それこそ、酒樽を一樽飲んでも酔わないぐらいに。

文も酒豪の一人。幻想郷で行われる宴会で酔った事など、それこそ数えるぐらいだ。

例外なのは東風谷早苗ぐらい。

彼女は奇跡を起こす能力を持ち、現人神でありながら酒を苦手とする。

嫌がる早苗に無理矢理呑ましたら、わずかコップ一杯でダウンするほどだった。

あの時は、保護者の神が珍しく怒り、リアルバリスタになってしまった。

 

大量の酒を購入していく霊夢を見て、文は溜息をついた。

 

(この世界に来てから、妙に苦労してるのは気のせいですかねぇ…?)

 

根が真面目の文にとって、脳筋の多い博麗パーティでは苦労が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンフォールの早朝は霧がでている事が多い。

綺麗な水源が豊富なロンフォールでは、空気には水蒸気が多く含まれている。

季節は冬。晴れた日に地表面から熱が放射され地面が冷え、大地に接する綺麗な空気が霧を起こすのだ。

 

霧の濃いロンフォールを歩いて行くのは六人の少女。

即ち、霊夢、魔理沙、ルーミア、妖夢、文、アリスだ。

サンドリア王国から朝早くから出発し、依頼を果たすためにジュノに向かわねばならない。

 

広い森林であるロンフォールの光景は、心を安らげてくれる。

緑の色は、精神を落ち着かせる。

そこに生きる野生の獣。魔物ですら穏やかに生きている。

とはいえ、巨大な昆虫であったり、二m近い大きさの羊など、普通の生き物とは桁が違う大きさを持っているのだが。

 

ここを含めてラテーヌ高原で襲い掛かってくるのは獣人であるオークとゴブリン、夜中に出現するスケルトンぐらいか。

しかしその三つは、すでに練習相手にもならない。

魔道士であるルーミアと魔理沙でも一人で倒せるぐらいだ。

そのため、不意をつかれる事を注意するだけで道中に危険は無かった。

 

ラテーヌ高原まで普通なら二日までかかるが、街道ではなく南に真っ直ぐと進む事で時間を短縮した。

ゴブリンは多かったが、不思議とオークの数は少なかった。

高原まで繋がる道で一旦休憩をした。すでに日は沈んでいたし、まだ先は長い。無理をするのを避けてべきだ。

近くには獣人の動きを見張るガードもいるため、安全に体を休めていた。

 

 

 

高原は晴れていた。

この緑豊かな高原は、雨の多いことで有名な土地だった。

ところどころナイフで切り裂いたような深い裂け目がある。

裂け目を避けるように、街道は北から南へと走り、南のほうでふたつに分かれている。

一方は、そのまま南に向かえば、冬でも熱砂に覆われたバルクルム砂丘。

もう一方では、東に向かえばジャグナーへと続いていく。

 

旅は平穏に続いた。

時折、オークが姿を見せる事になるが、苦々しい顔をしながら去っていく。

王立騎士団とオークとの戦いの影響で、オークの戦力は落ちている。

そのため、実力差を顧みずに襲い掛かってきたオークだが今では襲い掛かる事が減っていた。

 

太陽が沈みかけ、青い空が赤く染まっている。

そのころには高原の先に白い、大きなモノが見えてきた。

それを目指して歩いていくとだんだんとそれは大きくなってくる。

 

近くで見れば小さな山のように大きい。

先端が尖ったような形をしている。

独特な形をしているそれは、ホラの岩だ。

近くにはチョコボ厩舎から派遣されたチョコガールと、チョコボがいる。

 

「あ、少しばかり寄りたい所が」

 

このまま進めば明日の昼頃にはジャグナーには着くだろう。

文の言葉に、霊夢が文に向く。

 

「寄りたい所って、何処よ?」

 

「ちょと着いてきてください」

 

ホラの岩にある階段を昇っていく。

その先には、魔法陣があった。

紋様が紫に輝いて、足元から立ち上るように淡い光を広げている。

その中央には、巨大なクリスタルが浮いていた。

ガードから冒険者に支給されるクリスタルとは比較にならない大きさ。

もしこれを売ったらいくらかしら、と霊夢は俗物的に考えてしまう。

 

文はクリスタルに近付き、首にかけられた《シグネット》を近付ける。

淡い光が《シグネット》を包み込んだ。

 

「??何してるんだぜ?」

 

「ふふん!聞いて驚きなさい!これをするとですね…」

 

「この魔法陣は移送の術式ね…それに関係する事かしら」

 

魔理沙の疑問に、文が胸を張って答えようとした時にアリスは先にバラした。

器用さに優れた魔法使いだったアリスに魔法陣にどんな術式をかけられているが容易いものだ。

浮いているクリスタルに込められた尋常ではない"魔力"に驚いた。

一体、誰が作ったものなのか…アリスにはこれが自然で作られたものではないと睨んでいる。

一方で文は、やるせない顔をしてアリスを三回連続で見つめていた。

 

「…な、なに?」

 

「いえ、なんでもないです。そうです、これをすれば移送ができるんですよっと」

 

少しいじけてしまった。

すぐに立ち直った文が言うのは、このクリスタルに《シグネット》をかざすと、《シグネット》にホラの岩が記録される。

拠点ホームポイントとは違い、記録さえしていれば優れた白魔道士が使える"テレポホラ"でいつでもホラの岩まで一瞬で跳ぶ事ができる。

将来的にはルーミアがテレポを使えるようになれば、即座にラテーヌ高原に行けるだろう。

 

皆の《シグネット》にクリスタルに近づけ、記録していく。

階段を下り、ホラの岩を後にしていく。

夕暮れの風が、頬を冷たくしていた。

 

 

 

森は静けさに包まれていた。

同じ森でも、こうも違うのか。

魔理沙は不思議に思ってしまう。

 

ロンフォールは穏やかな森だった。美しい木々と、野生の獣が共存している。

だが、ジャグナーの森林は違う。

昼であっても薄暗く感じる。

静かすぎる森は、街道の砂利を踏み潰す音しか聞こえない。

目の前に広がるのは、立ち並ぶ木々と葉だけ。

道へと張りだした枝からしだれる葉で、視界はふさがれている。

街道はさらに左右にうねっている。先がどうなっているかのかさっぱりわからない。

これで敵に襲われると不意を突かれやすいだろう。

 

戦士である妖夢を先頭に、殿はモンクである霊夢だ。

森の中にうがたれた溝にある道を歩いていく。

干上がった川の底に似ている。広々とした道ではないが、狭いという程でもない。

 

だが、その道の脇には鳥肌の立つような魔物がいた。

思わず腕を押さえてしまう魔理沙。

 

「うぇ…きもちわりぃ…」

 

すぐにそれから眼を逸らしてしまう。

巨大なピンクの塊であった。

うねうね蠢いている。

文はそれを見て、集めた情報を頭の中から探り出す。

 

「森ヒルですかね…」

 

「…ヒルってあんなに大きいの?」

 

ルーミアはヒルを見るのは初めてだが、あんな大きいなものなのかと感心する。

その魔物の正体はリーチであった。

丸っこい小さな体をしているが、その性質は極めて狂暴。

血を吸うヒルをそのまま大きくしたような魔物であるが、血以外にも"魔力"も吸い取る。

そのため"魔力"を持つ魔道士からは嫌われている。

見た目もおぞましい姿のため、あまり好かれるような魔物ではない。

 

森ヒルはその場を跳ねたりと、霊夢達に見向きもしていない。

どうやら刺激さえしなければ襲い掛かる事はないようだ。

無駄に相手をする必要はない。さっさと道のりに進んでいった。

 

道としては順調に進んでいった。

視界の悪いが、それでも回りに気を配り、先に進んでいく。

 

 

それを黒い獣は、じっと見ていた。

久しぶりの獲物だ。少しでも隙を晒すのを待つ。

待つのは慣れている。野生に生きる彼に、待つという行為は得意だ。

なぜなら彼はこの森のハンターなのだ。

じっと待ち続ける。気配を殺し、後を着いていく。

 

隙を晒した。それはほんのちょっと息を整えただけ。

だが、獣である彼には充分すぎた。

しなやかな体を動かし、獲物に襲い掛かった。

 

 

別に油断していたわけではない。

ただ、この森では野生に生きた獣が有利であった。それだけの事だ。

 

横から突然、黒い影が襲い掛かった。

皆は反応が遅れる。

黒い影に押し倒されるように襲われたのはアリスだった。

 

「ぐっ!」

 

辛うじて反応をし、盾を構え、獣の牙と爪を避ける。

だが、重い。

目の前の数百キロはするであろう体重に、アリスの体に負担がかかる。

 

「こっちにきなさい!」

 

かちゃりと腰の留め金を外し、剣を取りだす。

同じ鉄製ながらもアイアンソードより重量と頑丈さのあるグラディウスだ。

剣の重みが腕全体にかかる。

剣と盾を鳴らし、"挑発"する。

 

黒い毛並みに覆われたそれは剣虎だ。

鋭い牙と爪を武器に強靭で、しなやかな肉体を持つ。

ジャグナー森林では、中々の強さを持っている。

 

アリスから離れ、妖夢に向かっていく。

早い。七歩近くはあった距離は即座に詰まれ、その前足を振り下ろした。

 

「う!」

 

盾でそれを防ぐ。

しかし剣虎の全体重が乗せられた攻撃に、膝をつきそうになった。

前足が乗せられた盾を払い、剣で反撃するが柔軟性のある足でステップし、素早く回避する。

 

「よけんな!」

 

3本の爪が飛び出したリンクスバグナウを拳に身に付けた霊夢の攻撃が剣虎の胴体を切り裂いた。

しかし、切り傷は浅い。

軽く舌打ちし、"気"を溜め直す。

剣虎のように動きの素早いのは、連続に攻撃してもかわされやすい。

一撃を高め、"気"を溜めておくのだ。

 

ルーミアは"プロテア"、それと呪術的な効果を低減する"シェルラ"をかけ、仲間達に守護の魔法をかける。

魔理沙とアリスはその間に弱体魔法を唱える。

 

動きの素早い剣虎に赤魔道士であるアリスは"グラビデ"をかける。

大地には常に上にあるものを引っ張っている。

"グラビデ"は、その大地の力を増強する魔法なのだ。

 

加えて"ポイズン"、"スロウ"と連続で弱体を掛け、剣虎の素早い動きが目に見えて鈍くなってくる。

文の不意打ちと霊夢の拳をまともに叩きこまれ、肉を裂き、血が飛び散る。

しかし、剣虎はそれを気にしない。強靭な肉体が多少の傷を耐える事を可能としている。

 

剣虎が吠えた。

静かな森に響く獣の叫び。

妖夢の動きが止まってしまった。

 

(動けない…?!)

 

体が自由に動けない。

体を操ろうとしても、全身が痺れているようにぴりぴりと小さな震えが走る。

指一本動かせない。

霊夢は動いているが、文も同じように動きが止まっていた。

 

(麻痺か…!!)

 

剣虎の咆哮には麻痺の力が込められていたのだ。

霊夢が麻痺にかからないのは能力である「空を飛ぶ程度の能力」の御蔭だ。

この能力は名前通りではない。

何者の束縛を受けない意味であり、状態異常を受け付けないのだ。

 

大きい体を縮ませるようにし、その状態から剣虎は両足を振り切った。

その攻撃は真空の刃となって妖夢に襲い掛かる。

 

「パラナ!」

 

ルーミアの白魔法が降り注ぐ。

光の粒が妖夢の体に染み込むと、痺れが取れてくる。

盾で防ぐよりも前に、剣虎に向かうようにして真空の刃をかわした。

刃は後ろの木に当たり、スッパリと綺麗に両断する。

ゾクリと背筋が凍った。

あんなのが当たれば、syれにならない。

 

大技を連発した剣虎は隙を晒している。霊夢は"気"を溜めている。これを見逃すはずがない。

"気"を体中からかき集める。

別の言い方では闘気だとか、気合だとかと言われるそれだ。

集めた"気"を剣に集め、剣は淡い輝きを放つ。

 

「レッドロータス!」

 

剣が燃え盛る火炎を纏い、剣虎に斬り付けた!

肉を斬ると同時に焼き、剣虎はその痛みに声を上げる。

だが、それだけで終わらない。

〆を決める霊夢の体中に満ち溢れる程の"気"を溜めこんでいる。

一撃、二撃、三撃と、ズッシリと叩きこむように連撃を加えた。

二つの武技ウェポンスキルは混じり合い、爆発する!

 

"連携"が決まり、追撃に魔法を叩きかけようとする魔理沙。

が、麻痺から回復した文の顔が青くなった。

 

「あぁ!ストップ!魔法ストップ!」

 

文は魔理沙に魔法をやめさせようとするが、止まらない。

魔理沙が魔法を唱えるときは少ない"魔力"の消費を抑えるために、半催眠状態になっている。

それだけ集中している事なのだろうが、いきなりは止まれない。

 

魔法が発動し、火の元素が剣虎を焼き尽くした。

"連携"中には魔法の効果を伝えやすくする。

"ファイア"によって焼かれた剣虎。

魔法の残滓が大気に残った。

 

 

青いシャボン玉のように見えた。

大きさはルーミアより少し小さい。

これは魔理沙の放った魔法の"魔力"を感知したのだ。

武技ウェポンスキルを放ったばかりの霊夢は、再度"気"を溜め直す。

目の前の得体の知れない敵にいつでも対応できるようにだ。

 

「何こいつ?!」

 

「似たような奴なら幻想郷でも戦った事があるでしょう!

エレメンタルですよ!」

 

世界を構成する八つの元素。

元素の力が濃く集まり、それは結晶化するとクリスタルとなり…純粋に元素だけが集まった現象は精霊となる。

分かりやすく言えば、エレメンタルは幻想郷で言う妖精だ。

自然の産物であり、それには妖精と違い、意志も人格も存在しない。

あくまで現象でしかない目の前の精霊は、水を司るウォーターエレメンタルであった。

透き通った大きな水滴はふくらんだり、縮んだりを繰り返しながらゆっくりと、ゆっくりと近寄ってくる。

 

不思議だった。

色々の敵と戦った事があるが、こいつには感情が感じ取れない。

殺気がない。敵意がない。

ただ機械的に霊夢達と戦おうとしている。

 

「ふっ!」

 

先手必勝。足を踏みしめ、全力で殴りかかる。

確かに似たようなものと戦った事がある。

あのときは氷の精霊である、アイスエレメンタルであった。

攻撃をしても硬い、というより手応えがないのだ。

自然の現象に過ぎないエレメンタルに通常の攻撃は効きづらい。

 

真横から拳を叩きこむ。

拳が沈んだ。

水を殴ったように手応えが鈍い。

 

鉤爪のついた拳を引き抜き、すかさず逆の拳を叩きこむ。

これも手応えが感じない。一旦、体を後ろに引いた。

 

霊夢以外にも、文と妖夢も攻撃に加わっているが碌にダメージらしいダメージを与えられない。

不思議とウォーターエレメンタルは攻撃してこない。

その間に魔道士組は弱体魔法を入れているが、中々効果が宜しくない。

大半が抵抗レジストされてしまうのだ。

 

ウォーターエレメンタルの体がぶくぶくと沸騰するように蠢く。

不審に思う霊夢だが、魔道士である魔理沙とアリスは気付いた。

 

「逃げろ!そいつ、魔法を唱えてる!!」

 

魔理沙の声が遅かった。

ウォーターエレメンタルを中心に、水の質量が広範囲に散弾のように飛び散る。

"ウォタガ"をまともに食らい、吹き飛ばされる。

"シェルラ"をかけていたのが幸いだった。かけていなかったら、大怪我を負っていただろう。

 

「いったいわねぇ!今のは効いたわよ!」

 

少し涙目になりながらも復帰し、霊夢は更に拳を叩きこんでいく。

やはり普通の攻撃では通らない。

更に近付く。ここまで密着しては大した攻撃にはなりはしない。

だが、この技はここまで近付いて使用できる。

"気"を右拳に集中させ、真っ直ぐと突き出した。

直接相手の体に"気"を流し込み、内部からズタズタにする"短勁"であった。

 

ウォーターエレメンタルの体がぼこぼこと煮えたぎる。

これは効いたようだ。

魔法を通りやすくなるために"精霊の印"を発動し、魔理沙は魔法を唱える。

 

「霊夢!離れろ!」

 

カカッっとバックステッポし、その瞬間に光が走った。

稲妻がウォーターエレメンタルをバチバチと響かせているのだ。

電気のバチバチとした音が鳴り終わると、後に残ったのは大地に水だけが残っていた。

 

「あー。きつかったぜ…」

 

思わず座りそうになるが、ぐっとこらえる。

ルーミアは"ケアルガ"を唱え、仲間全員を癒している。

"魔力"の消費は大きいが一斉に回復できるのが強みだ。

暖かな風が、流れてくる。

 

「さすがに二連戦はきついですねぇ。天候も曇ってきましたし」

 

文は空を見上げている。

薄暗かった空は雲によって更に薄暗くさせている。

このままでは一雨が来るかもしれない。

だから、エレメンタルが出現したのだろう。

 

「もうじき日が暮れますから急いだほうがいいかもしれませんね」

 

剣を腰にある留め金に付ける妖夢は、先頭に立つ。

まだ森林の出口まで遠かった。

 

 

 

剣虎とエレメンタルを倒し、休みも無しに歩き続けた。

その間にも、ゴブリンとオークにも襲われたが特に問題になる強さでは無かった。

雨も降っていたが数時間もすれば晴れたし、数多の木々が天然の雨宿りとなっていた。

すでに時刻は夜。虫が煩いぐらいに鳴り響いている。

静かだった森が嘘のようだ。

 

明かりが見える。

人が作ったであろう、木造の建築だ。

 

「ここにもアウトポストがあったんだな」

 

サンドリアの国旗が掲げられたのは、アウトポスト。

国の支配領域となった領土では、国からガードが派遣され、獣人などに奪われないように見張っている。

ここがウィンダスの領土であれば、《シグネット》の更新ができただろうが、ジャグナー森林の支配領域なのはサンドリアのようだ。

 

しかしアウトポストは国家に関係なく、冒険者であるなら泊まる事は可能だ。

商人もいるので軽い買い物と補給もできるため、一泊泊まる事にした。

建物の中は簡単なハンモックぐらいで、家具の類はあまり置かれていない。

一応、暖炉があるので暖かかった。

 

鞄から食料を取り出し、寝る前に夜食の準備だ。

火のクリスタルを使う事で火を簡単に起こす。

鍋に水と野菜を入れ、スパイスを加える事で簡単なスープを作っていく。

ついでに、倒した剣虎の肉も入れてみた。

 

「…虎の肉って食べれるの?」

 

妖夢の素朴な疑問。

虎の肉というのは食べた事がないため、どんな味がして、どんな食感がするのか分からなかった。

 

「知らないぜ。でも食えるだろ。肉だし」

 

「知らないわよ。でもお肉だから食べれるでしょ」

 

「お肉お肉~」

 

こいつらは…といった具合に頭を痛めるアリス。

魔理沙も霊夢もルーミアも基本的に雑食だ。食えるものは何でも食う。という性格のため、初めての虎肉を容赦なく鍋につぎ込んだ。

ぐつぐつと煮えてきた。

灰汁を取り、各自の皿に野菜と肉を添えて行く。

飲み物が入ったコップには、紅茶が入っている。なぜか霊夢だけ酒であった。

 

「いただきまーす」

 

手を合わせ、行儀良く食べて行く。

野菜はほくほくにできている。キャベツや、ニンジンなどが体を芯まで暖かくしてくれる。

肉のほうを齧ってみる。

硬い。筋まで硬い。噛み切るのに、結構な力が必要だ。

 

「これ、硬いぜ」

 

「歯ごたえがあるわねぇ。味は悪くないからまだいいけど」

 

虎の肉はしなりと柔軟性があるため、噛み切るのに力がいる。

スープと野菜を並行して食べて行く。

夜食を食べ終えると、少しばかりゆっくりとする。

旅の間は、あまりゆっくりとできなったぶんを堪能するように。

 

「この調子でいけば明日にはバタリアに辿り付けますね。そこからジュノまでそう遠くないみたいです」

 

ジャグナー森林にあるアウトポストは中間地点にある。

朝早くから出発すれば、遅くても夕方にはバタリア丘陵に抜ける。

そこから半日ちょっとかければジュノに辿りつける。

 

「ただ、あくまで順調に行けたら…ですけどね。ここにはやっかいな魔物がいるみたいですし」

 

険しい顔をしながら、文は地図を仕舞いこんでいる。

 

「やっかい?スコーピオンみたいな奴でもいるのか?」

 

「それならまだマシでしょうね。今の我々ならもう倒せるでしょうし」

 

スコーピオンとは蠍をそのまま巨大化したような魔物だ。

まだ未熟だった頃にシャクラミの地下迷宮で出会い、苦戦を強いられた。

あの時は逃げ出すしかなかったが、今の強さなら充分倒す事は可能だ。

 

「問題なのはモルボルと呼ばれる魔物です。強さだけなら倒せない事はないんですが…やっかいなのはその息なんですよ」

 

魔物はただ個体の強い弱いだけでは強弱を測れない。

自然の脅威から生き延びるために、剣虎なら麻痺の咆哮を使うように様々な能力を持っている。

その中でモルボルは冒険者からすれば最悪の一言だ。

最悪と呼ばれる原因は"息"にある。

生ゴミをドロドロになるまで腐らせ、更に濃厚圧縮したかのような、気が狂いかねない"臭い息"を発する。

これを食らって、2~3日は動けなくなる冒険者もいる。

 

「あまり数はいないので、そうそう簡単に会うとは思えないのですが…念のためですね」

 

「そんな事言ってるとフラグが立てられるぜ。前のスコーピオンもそうだったしな」

 

魔理沙と文はHAHAHAHAと笑い合う。

出会ったら出会ったらでその時だ。

その時は冒険者らしく倒してやろう。

そう考えを纏め、少女達は体を休めるために寝る事にした。

 

 

 

乳白色の霧が流れている。

霧の濃さから、朝焼けは見えない。立ち込める霧が深すぎて、すぐ先にある木々ですら見えないほどだった。

これでは出発できない。

日が上がり、少しでも明るくなって霧が薄くなるのを待つしかなかった。

 

数時間も経つと霧は薄れ、まわりの風景がくっきりと見えてくる。

アウトポストから出発した。時間をロスしているので、少しばかり急ぎ足になっていた。

いくら歩いても風景に変わりはない。

覆い隠すように葉が四方に生え、まるで緑の迷宮のように見える。

街道がなければ間違いなく迷ってしまう。

 

「あれは…」

 

途中で、文は木の幹を見ている。

太い木には、大きな傷跡があった。まるで擦られたような。

 

「どうしたんだぜ?」

 

「んん…」

 

みょんに顔つきが厳しくなった文。

他の木々を観察し、幹を見てみる。

そこにも同じような傷があった。まるでこの木々の間に何かが通り過ぎたような…。

 

「ルーミア。アリス。今すぐスニークを」

 

「え?ええ、わかったわ」

 

文の予想が正しければ、ここの近くに何かがいる。

音を打ち消す"スニーク"をかけられていく。

先に進んで行き、音が聞こえてきた。

ずるずると何かを引きずっていく音。重たい体を無理矢理引きずるような。

近付く音に振り返り、思わず声を出しそうになった。

 

(これがモルボルですか…予想以上ですね…)

 

木々から現れたのは最悪の怪物であった。

何本の足が、まるで蛇のように蠢いている。うぞうぞとうねりながら、体を持ち上げてゆっくりと進んでくる。

緑色で先の部分が茶色。根っこのように見えた。もっと近くで見れば大きな切り株にも見える。

足の上にある丸い体から、中途で切り落としたような枝がいくつも飛び出ている。

体の真ん中には横一文字に大きく切り込みがある。

口なのだ。尖った歯がいくつも生えている。

 

これを醜悪と言わずに何と言うのか。

たぶん、戦えば倒せない事はない、はず。

だが、目の前の怪物は本能的に「戦ってはいけない」と思わせる凄みがあった。

 

文が指をちょいちょいと動かし、別のルートに示す。

隠蔽の魔法中は、喋る事はできない。精細な魔法であるため、ちょっとした事で簡単に解けてしまうからだ。

モルボルは気付いていない。目のように見える枝は、実際見えてはいない。

音によって感知する魔物のため、"スニーク"さえかかっていれば襲われる事はない。

このままこっそりと、見つからないうちに逃げ出すのだ。

 

だが、知覚を遮断する魔法はとても切れやすい。

ルーミアの足から音がした。

ガサリ、と小さな音。

モルボルが振り向き、気づいた。ルーミアという小さな存在に。

 

グォォォォオ!!

 

吠えた。植物の分際で。

口を、めいっぱい上下に開き、尖った歯が上下綺麗に並んでいる。

あれに齧られたら、間違いなく噛み切られるだろう。

 

すでに怪物の右側には妖夢がいた。

剣を抜き取り、振り下ろす!

緑色の体液を飛び散る。

続けて"挑発"する事で注意を引き付ける。

 

「ごめん!」

 

「ま!ある程度はこういうを予測してたけどな!」

 

魔法を唱え、弱体をかけていく。

ルーミアは守護の魔法をかけ、続けて妖夢に"リジェネ"をかけていく。

肉体の回復力をあげ、傷を負っても自動的に回復する"リジェネ"は"ケアル"と違い、即効性こそないが地味ながらも役に立つ魔法だ。

死んでいなければ勝手に治っていくため、白魔道士の負担を軽くできる。

 

ボルトを装填し、撃っていた文だが巨体のモルボルに効果が薄いと感じたのか、短剣を抜き、近接で戦っている。

霊夢の影に隠れながら不意をつく姿はシーフではなく、アサシンのように見えた。

 

モルボルの傷は着実に増えていった。

体格こそ大きいがそこまで強くはない、と思った時だ。

モルボルが口を閉じた。気づいたのは後方にいた魔道士達だ。

ぶるぶるとモルボルの体が震える。

 

「なにを…!」

 

口を開き、息を吐いた。

目の前が黄色に染まった。空気が濁る。鼻が壊れるような臭いがする。

緑は枯れている。恐るべき悪臭だ。

離れていた三人の魔道士ですら、何もかも腐らせ、圧縮させたかのような、とてつもない臭いに眩暈がする。

手で口と鼻を抑えるが、そんなものでは防げない。

目が痛い。鼻も痛い。

何とか目を開け、怪物の姿を探すルーミア。

仲間が一人残らず倒れていた。隣にいた魔理沙とアリスですらピクリとも動かない。

状態異常が通用しないはずの霊夢ですら、あまりの悪臭を至近距離で食らったため、動けなくなっていた。

 

「え?…あ」

 

今動けるのはルーミアだけだ。

そして、状態異常を癒せるのは白魔道士のルーミアだけしかいない。

的確に癒さなければ、全滅するかもしれない。

心臓が煩いぐらいに鼓動が鳴る。

考えろ。今の状況を打破できるやり方を。

 

モルボルが今動けるルーミアを狙って近付いてくる。

下手に動けない。魔法は動いてしまっては使えない。呪文を唱えるのは集中する必要があるのだ。

一番近いのは魔理沙とアリス。

音律を整え、呪文を唱え始める。麻痺を取り除く"パラナ"。

魔法をかける相手をきっちりと定めてから"魔力"を解放する。

 

杖を振るい、解き放たれた魔法は、妖夢へと降りかかる。

目の前にモルボルが迫る。大きい。小柄なルーミアからしてみれば、小さな山のようにも見えた。

妖夢が立ちあがるのが見える。

太い触手が鞭のようにしなって、ルーミアに落ちてくる。

それをマホガニー製の木製盾で全力で防御しようとする。

空気が切り裂く音がして、気づけば自分の体が浮いているのに気づく。

背中に強い衝撃。空気が追い出されて、息が止まりそうになる。

背後にある木に叩きつけられたのだ。

 

鋼を鳴らす音が聞こえた。

モルボルが遠ざかる事が分かり、立ちあがろうとする。

大きな咳をした。

口元を押さえた手には咳と共に血を吐き出し、真っ赤に染まっていた。

口の中では血の味が充満している。

 

"パラナ"を全員にかけ、態勢を立て直す。

更に女神に祈り、印を込める事で"ケアルガ"を唱えた。

"女神の印"が込められた癒しの魔法は、通常より高い効果となって仲間を癒す。

癒しの魔法は敵の関心を引きやすい。モルボルが一瞬、ルーミアに向く。だが、妖夢が再び注意を逸らした。

 

危険であったが、何とか態勢を整えた。

霊夢も立ち上がり、戦闘に加わっている。

 

文は不意をつくと同時に、短剣から風が舞い、襲い掛かった刃はモルボルをズタズタに切り裂いた。

短剣の武技ウェポンスキルである"ガストスラッシュ"だ。

いつのまに"気"が使えるようになったのだろう。

ニヤリとすると姿を隠し、敵への関心を引き寄せないようにする。

 

モルボルは丈夫であったが、戦っているうちに手の内が見えてきた。

動きがでかいため、さほど素早くない。

"グラビデ"と動きを鈍くする"スロウ"をかけていれば、滅多に攻撃は当たらない。

数の多い触手を切り落とすたびに、優勢になりつつあった。

 

再びモルボルが口を閉じ、臭い息を放とうとする。

 

「させません!」

 

片手剣を叩きつける。

閉じていた口が開き、息を吐く事ができなかった。

一定確率だが、相手の動きを止める"フラットブレード"が成功したのだ。

 

それが勝負の行方を決めたのだ。

 

戦士の剣とモンクのバグナウが怪物を切り裂き、その切り口に黒魔道士と赤魔道士の炎の魔法が叩きこまれる。

長い尾を引く悲鳴が森に響いた。

ジャグナー森林に静寂が戻り、荒い息を整えながらもそれぞれの武器を掲げ、歓声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い森を抜け、目の前に丘陵地が広がっている。

ジャグナー森林を超え、今いるのはバタリア丘陵だ。

小高い丘がいくつも連なっている土地だった。

その丘にはあちこちに墳墓が造られていて、四角い石組みの入り口が見える。

コヴェフ墳墓群だ。相当古い墓である。

入り口から降りると、広大な地下墓地となっている。

これらは古エルヴァーン族が少しでも女神アルタナに近づこうと築いたものだ。

その上にいくつも立てられた墓標は、二十年前の大戦争の戦没者を偲んだものとなっている。

いったい、この地では何百何千の死者が眠っているか。想像もできない。

 

丘を越え、夕日が西に落ちようとしている。

バタリアにある枯れた木々、墓標、淋しい大地。全てが紅く染まっている。

その光景はあまりにも淋しかった。

 

冬の夜は訪れが早い。

真っ直ぐと東に進み、ジュノへと目指していたが、さすがに夜のまま突っ切るのは危険であった。

魔物の強さも、桁違いに上がっている。

コヴェフ墳墓群の中に入り、キャンプする事にした。

中に入ってみると何もない。アンデッドがいると思ったら別にそんな事はなかった。

 

「ここまで来たらあと少しってとこだな」

 

長い旅だったぜ!と寝転がる魔理沙。

 

「ジュノか…どんな所なんだろうな」

 

入り口から空が見える。

綺麗な星空だ。

 

ウィンダス、サンドリアと異世界の二国を見てきた。

そのどれもが魔理沙の心を刺激してきた。

三国を同盟させ、世界中の冒険者が集うジュノとはどんな国なのか。

押さえきれない好奇心。早く明日になってほしい。

 

(へへ。疲れてるのに、眠れないぜ!)

 

色あせていない冒険の日々。

ジュノはどんなドキドキを届けてくれるのか?

魔理沙はただ、明日が楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

 

……To Be Continued?





Hakurei Reimu モンク/- Lv29/-
個別特性:主に空を飛ぶ程度の能力
状態異常を受け付けない。通常より成長は早い。

メイン:リンクスバグナウ サブ:―         レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:傭兵の鉢巻      首:ファングネックレス  左耳:―          右耳:―
胴:傭兵の衣       両手:傭兵の手甲     左手の指:―        右手の指:―
背:―          腰:兵児帯        両脚:傭兵の下ばき     両足:傭兵の脚絆


Rumia 白魔道士/- Lv24/-
個別特性:闇を操る程度の能力
一瞬だけ相手を暗闇にする事が可能。耐性無視だが、近付かなければならない。通常より回復(HP)が早い。

メイン:ハーミットワンド サブ:マホガニーシールド レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:銀の髪飾り      首:正義バッジ      左耳:―          右耳:―
胴:コットンダブレット  両手:コットングローブ  左手の指:―        右手の指:―
背:―          腰:―          両脚:コットンブレー   両足:コットンゲートル


Kirisame Marisa 黒魔道士/- Lv26/-
個別特性:主に魔法を使う程度の能力
八卦炉サポートによる魔法詠唱を短縮化(ファストキャスト)&魔法攻撃力増加。魔力(MP)が平均より少ない。

メイン:義勇兵の戦杖   サブ:―         レンジウェポン:―      矢弾:八卦炉
頭:ウィッチハット    首:―          左耳:―           右耳:―
胴:コットンダブレット  両手:コットングローブ  左手の指:クリアリング   右手の指:クリアリング
背:―          腰:―          両脚:コットンブレー     両足:コットンゲートル


Konpaku Youmu 戦士/- Lv27/-
個別特性:剣術を扱う程度の能力
戦士には装備できない武器(刀)を装備可能。武器技術(スキル)の成長が早い。武器技術の限界(スキルキャップ)が普通より高め。

メイン:グラディウス サブ:タートルシールド  レンジウェポン:―      矢弾:―
頭:アイアンマスク   首:―          左耳:―           右耳:―
胴:チェーンメイル   両手:チェーンミトン   左手の指:アンバーリング   右手の指:アンバーリング
背:―          腰:戦士のベルト     両脚:チェーンホーズ     両足:グリーヴ


Syameimaru Aya シーフ/- Lv25/-
個別特性:風を操る程度の能力
DEX(器用さ)とAGI(敏捷性)に補正。技能(アビリティ)を通常より早く覚える。通常より回復(HP)が早い。

メイン:バゼラード    サブ:マホガニーシールド レンジウェポン:クロスボウ  矢弾:アシッドボルト
頭:ビートルマスク    首:―          左耳:―           右耳:―
胴:ビートルハーネス   両手:ビートルミトン   左手の指:―         右手の指:―
背:―          腰:―          両脚:ビートルサブリガ    両足:ビートルレギンス


Alice Margatroid 赤魔道士/からくり士 Lv22/Lv11
個別特性:人形を操る程度の能力
オートマトンの人形を操る。からくり士の職業(ジョブ)を取っていなくても使用可能。通常より回復(MP)が早い。

メイン:アイアンソード  サブ:マホガニーシールド レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:銀の髪飾り    首:―          左耳:―          右耳:―
胴:リザードジャーキン  両手:リザードグローブ  左手の指:―        右手の指:―
背:―          腰:―          両脚:リザードトラウザ   両足:リザードレデルセン
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