東方幻想鉄   作:AmanatuTaruTaru

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変な空気になったので私はミステリーを残す為依頼完了になったと同時に酒場に行ったが多分ジュノで伝説になってる

体が冷える。

それは季節が冬であると同時に、天候も影響していた。

ぶ厚い雲に覆われた空から、ちらちらと細かな白いものが舞っている。

吹き荒れる風が少女達をさらしていく。

空から落ちた氷の欠片は宙を舞い、風によって踊っているかのように飛ばされていく。

それでも、空から落ちたものはいつか地面に辿りつく。

大地にはうっすらと雪の化粧が施されていた。

白く染まった大地に足跡がついている。雪が剥げ、草が枯れた大地が覗かせる。

 

「寒いな…」

 

厚着の防具を身に付ける霧雨魔理沙でも思わずそう言ってしまう。

魔理沙はまだマシなほうだろう。

薄い拳法着を着た博麗霊夢は、寒さを直に浴びている。

だが、平気そうにも見えた。

彼女は腋を晒した巫女服で真冬を過ごし、異変も解決した事がある。

寒いのに強いのか。それともやせ我慢しているのかは魔理沙には分からなかった。

同じように冬でも霊夢の巫女服に似たのを着る緑の巫女もいるので、巫女とはそんな職業なのかと誤解してしまいそうである。

 

数多の墓地が眠るバタリア丘陵には、冬の時だけ雪が降る。

枯れた大地であるが、その時だけは煌びやかにも見えた。

 

 

バタリア丘陵は、ヴァナ・ディールの歴史に置いて、重要な局面を迎えた大地だ。

世界全土を巻き込んだ水晶大戦。

天晶暦862年から864年にかけて、人間種族と、闇の王率いる獣人連合軍との間で繰り広げられた戦争。

 

バラバラに戦っていた人間諸軍が、ジュノ大公カムラナートの提唱するアルタナ連合軍を結成して獣人連合軍に対し反撃を行い、初めて勝利した戦い。

即ちジュノ攻防戦は、水晶大戦クリスタルウォーでアルタナの民が一気に反撃に転じた始まりの地である。

人間であるヒューム、エルヴァーン、タルタル、ミスラ、ガルカ。

国家であるサンドリア王国、バストゥーク共和国、ウィンダス連邦。

同じ人間同士でありながら何百年も争い続け、共通の敵がでることで力を合わせる事で対抗した。

 

その戦いはまさに地獄であった。

大地を埋め尽くす獣人軍。それを見れば誰もが恐怖した。

倒されても、倒されても、まるで死体の山を築くこと自体が目的のように押し寄せてくる亀のような獣人であるクゥダフ兵。

力と体格がガルカ以上の巨人によって雨霰と降り注がれる巨岩や砲弾。

三方から城砦都市ジュノを重囲していた獣人連合軍は、やがて脆弱と見たバタリア方面に攻撃を集中。

4重の防壁のうち3つを突破し、まさしくジュノを陥落寸前まで追い込んだ。

しかし、アルタナ連合軍は何とかこの苦難を乗り越え、反撃への大きな足がかりを得ることに成功するのだった。

 

10万を超える獣人兵と、それに対抗する人間達。

燃える森。焼け落ちた村。大地を抉り黒い穴を残す魔法と火薬。局地戦の戦場となった街中では悲鳴と怒号が鳴り響き、弱い者から死んでいく。

死んだ母を呼ぶ子供が狙われ、それを守ろうとした騎士は無残にも殺されていく。

失った者の仇を取ろうとした女戦士は、獣人軍に突っ込み、肉片すら残されずに魔法で消滅した。

魔法で敵を焼き、"魔力"が切れた所を狙われ、嬲り殺しにされていく魔道士。

狩人の放つ矢が脳天を貫く。しかし数万を超える軍勢には焼け石の水であり、矢が尽きた頃には狩人は逆に狩られていた。

 

『諦めるなぁ!ここで負けてしまえば我々に未来はないぞ!』

 

獣人軍に押され、それでも諦めずに剣を振るい続け、指示を出す隊長。

 

『ちくしょう!ちくしょう!あいつ、ガルカだったけどいい奴だったのに!殺してる!獣人どもめ!』

 

涙を流すヒュームの青年は気を良くした友人を失い、心の闇は憎悪で溢れた。

 

『武器は折れ、仲間もいない。はは、年貢の納め時って奴か…』

 

仲間を失い、手にあるのは折れた剣。そして周りにいるのは殺気に溢れた獣人達。男は目前に迫る"死"を覚悟した。

 

『巨人の砲弾が来るぞ!あ、あいつはウラノス家のロイコスだぁ!!誰でもいいから止めろぉ!!!』

 

斬っても斬っても減らない獣人軍。神の血を引くとされる巨人の投石がジュノの主塔を直撃した。

 

『腕が、腕がぁ!死、死んじまう!』

 

戦争に駆り出された男は、平凡な戦士に過ぎなかった。死んでしまうかもしれない戦争にただ怯えていた。

 

『いやぁぁぁぁ!お願い!目を開けてよぉ!』

 

女は叫ぶ。想い人を失った悲しみを吐き出すように。獣人はその女に狙いを定め、剣を振り下ろした。

 

 

これを阿鼻叫喚の地獄絵図と言わずに何と言うのか。

戦火によって黒き煙が上がり、血は舞い、それは地面を赤く染めて行く。大地が吸いきれないぐらいに。

人が死んだ。沢山死んだ。

獣人も死んだ。沢山死んだ。

幻想郷ではありえない、理不尽しかない絶望。

 

数多の英雄が生まれ、数多の英雄が命を散らした。

大戦から二十年経っている。だが、世界を巻き込んだ戦争からたった二十年しか経っていないのだ。

傷は深く、世界中にその傷を残し続けている。

バタリア丘陵も例外ではない。

人間も、獣人も。生きる者全てが戦った古戦場。

数多の命を散らし、傷を残し続ける大地。

 

その大地に降る雪は、未だに眠る怨念が安らげるように…と空からの贈り物のようにも見えた光景だった。

 

 

 

少女達の視線には石造りの防壁があった。

ここまで来る頃には時刻は真昼になっていた。

左右の大地は山となってせり上がり、街道が谷の底を走る細い道に変わっている。

道を塞ぐように、谷を跨ぐように、石造りの門があった。

荒野の魔物や獣人を防ぐための。

 

あの先を潜れば荒野は終わる。人の住む街がある。

門をくぐり、しばらく歩く。谷の終わりに藍色の海が見えた。

その先には、海へと突き出ている巨大な橋がある。橋の先の先には、海を割り、天高く聳える塔が見えた。

あの塔は海の底から建てられているのだ。それなのに、あそこまで高く。先には城のような建物が辛うじて見えた。

 

あれを、人が建てた!

 

今まで色々な物を見てきたが、これには誰もが開いた口が塞がらない。

長い時を生きた鴉天狗の妖怪 射命丸文ですらそうなのだ。

 

それぞれ違う高さに三本の橋が塔から海を越えて架かっている。

そのうちの一本が、今いる所と先にある都市まで結んでいる。

 

この都市こそ、クォン大陸とミンダルシア大陸を結ぶ東西交通の要衝ヘヴンズブリッジの上に形成された新興の都市国家。

かつて、細々と漁業を営む程度の寒村だったが、その漁村ができたのがわずか80年程前と言われる。

二つの大陸を繋ぐ場所であることから商人が集まり始め、少しずつその規模を大きくしていった。

三国をまとめ上げ、アルタナ連合軍結成の立役者。

世界の中心とも言われるジュノ大公国が目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方幻想鉄

第六話「変な空気になったので私はミステリーを残す為依頼完了になったと同時に酒場に行ったが多分ジュノで伝説になってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左右に街燈の立ち並ぶ橋を延々と歩いていく。

息を吐くたびに白いのがでてくる。風が吹きっ晒しで凍えそうだ。

だが、そんな事を気にせず橋を渡っていく。

ウィンダスやサンドリアの大通りを見てきたが、この橋はそれ以上に広い!

無意識に、歩く足が早くなっていた。数十分と歩き続け、目の前に巨大な門が現れた。

 

「うわ、橋の上に門があんのかよ!しかもでけぇ!」

 

まだ中央塔まで先はあるというのに、途中で門がある。

しかも橋の大きさ相応の巨大な門だ。

左右には背筋を伸ばした強面の門番が立っている。

首にかけられた冒険者の認印である《シグネット》を取り出し、門番に見せた。

特殊な加工で作られた冒険者である証明であり、他国の行き来するのにフリーパスにもなる宝石だ。

 

「冒険者か。通れ」

 

門番にも許可を貰ったので、門をくぐる。

これが通行手形などの冒険者ではない入り方だったら、役人との堅苦しいやりとりが待っている。

 

「おぉ…これは…凄い」

 

文は思わず感嘆の声をあげてしまう。

門の先にある橋は倍以上に幅が広がっていた。

左右には様々な建物が建っており、その建物の向こうにも更に大きい建物が建っている。

橋の上に人の住む街があるのだ。

 

門の近くに拠点ホームポイントである。

あれは移送の魔法である"デジョン"のゲートだ。

あらゆる移送の魔法には共通のルートがあり、唱える場所は任意でも跳ばされる先は固定なのだ。

 

《シグネット》の貴石によく似た巨大なクリスタルに近付き、拠点を登録する。

これで何処に向かっても、"デジョン"さえ貰えばジュノに帰れる。

 

ジュノに来たのは今後の活動拠点にするのに加え、サンドリア王国の領事であるカラササの依頼で、ジュノ大使に渡すものがあるからだ。

とはいえここに来たばかりであり、大使館の場所は分からない。

それに時刻は昼だ。酒場あたりで飯を食べつつ、情報を仕入れるのもいいだろう。

 

ジュノ上層と呼ばれる橋の街を歩き、一つの建物を見つける。

両開きの扉の上には灯火の意匠が刻まれている。酒場だ。

意匠が刻まれた看板とは別に壁に立てられた木の板があり、それには文字が書かれていた。

 

〈本日はヒューム族の日〉

 

この酒場はヒューム限定だと言うのだろうか?

文とルーミアは妖怪ではあるが、見た目は人間とほぼ変わりない。

扉にかけた手を引いた。

店内は典型的な酒場であった。右手にはカウンターがあって、その奥は厨房となっている。

目の前にはテーブルがいくつか並んでいた。

丁度昼だからか、客が数人いた。皆がヒュームであり、冒険者であった。

 

裾の長い黒のワンピースとフリルの付いた白い前掛けを身に付けたウェイトレスに案内され、テーブル席に座る。

初めての客だと思われたのか、この店の説明をしてもらった。

 

マーブルブリッジ。またの名を日替わり酒場。

日替わり酒場は、日によって今日は「戦士の日」、明日は「ミスラの日」というように、入れる者を限定している酒場だ。

どうしてそのような事をしているかは店長しか知らない。

今日は「ヒュームの日」であり、だから霊夢達は入れたのだ。客もヒュームばかりなのはそのためである。

ヒュームであれば冒険者であろうと、王族であろうと、老人であろうと、子供であっても入れる。

しかし、冒険者の国であるジュノに来る客の大半が冒険者だった。この酒場は流れものである冒険者に優しい酒場なのだ。

 

調理の注文をしてほどなくすると、ウェイトレスが食事の置かれた皿を持ってくる。

分厚い肉の盛られた皿を目の前で置かれる。マトンローストだ。

香ばしい匂いがにんにくと香草の香りと入れ混じり、鼻孔の奥まで刺激する。

マトンとは成長した羊の肉の事を指す。マトンには独特の臭みがあるため、香草で風味付けをするのが一般的な調理法となっている。

 

お腹がぐぅと鳴ってしまう。

ナイフで切り分け、フォークで突き刺すと肉汁が溢れてくる。

それを口に運ぶと舌の上で肉の味が躍るかのように広がった。

肉質も柔らかい。ここまで来る途中の旅で食べた虎の肉とは比べ物にならない柔らかさだ。

 

その間にもサラダや飲み物もやってくる。

ジュースと名が付くが、実際はワインと同じグレープジュースなども注文してある。

ウィンダスティーは無かったため、霊夢は少し残念そうに見えた。

 

基本的に冒険者が旅の間に食べれるのは保存食やクリスタル合成した食べ物だけだ。

こうしたちゃんとした料理を食べる機会があまりないため、黙々と食べて行く。

 

腹がいっぱいになり、食べ終えると店主にいくつか質問をし、情報を手に入れた。

恰幅な体型をしたヒュームであるが人のよさそうな顔であり、色々とジュノの事を聞かせて貰った。

 

ジュノは中心の塔を母体とし、ここは、アーティシャン・ブリッジと呼ばれ、女神の大聖堂や巨大な時計台がある。

また、チョコボが乗れるための許可書である、チョコボ乗り免許証を取る事ができるチョコボ厩舎がある。

依頼が終わり次第、行ってみようと思う。

 

そしてアーティシャンブリッジの下にあるのがマーケット・ブリッジであり、その名の通り、様々な市場と冒険者のバザーが立ち並ぶ。

その更に下。海のすれすれを渡してある橋がハーバー・ブリッジとなる。ミンダルシア大陸まで繋がる橋は、世界を繋げる空飛ぶ船の港なのだ。

そして大使館があるのはジュノの最上階。政治の中心である空中楽園ル・ルデの庭である。

 

必要な事を聞き、店を出る。

空からは天からの贈り物である雪がまだ降り続けている。

ジュノにある木々は白い化粧を施されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塔の内部に更に塔があり、内部の塔を包むようにして螺旋の階段が巻きついていた。

そこまで考えて文は、自分の考えを否定する。

螺旋階段と内側の塔は接してないのだから「巻きつく」という表現は正しくない。

螺旋の階段と塔の間は吹き抜けになっている。上から見ると、円形の塔のまわりに隙間のあるゆるい輪をかぶせたような形に見える。

ゆるい輪が螺旋階段の収まってるところである。

塔と螺旋階段とは、吹き抜けに渡した小さな橋で行き来するようだ。

どうしてそんな特異な構造になっているのかは分からないが、もしも戦で攻められた時の用心なのかもしれない。

 

こうして見るとジュノは想像以上に複雑な構造をしている。

この構造を他人に語って聞かせるのは難しいだろう。うまく話を纏めるのが下手な八雲紫では無理かもしれない。

 

大使館のある所に行くのに、上に行く螺旋階段を昇っていく。

大きな街だけあって、よく人とすれ違う。

すれ違う者には、頑丈な鎧を着る者、魔道士の胴衣ローブを着る者、中には侍のアーティファクトである甲冑を身に付けた者もいる。

近年、冒険者は近東のアトルガン皇国を拠点にする者が多く、ジュノの冒険者の数は少なくなってる。

それでも元が多かったため、こうして歩くだけでも冒険者とよくすれ違うのだ。

 

先走りの中央塔は、てっぺんだけが平らのようになっている。

屋上庭園であるル・ルデの庭だ。

だが、そこは庭という言葉で言い表せるような代物ではない。

サンドリア、バストゥーク、ウィンダスの三国大使館に、物を取引する競売所、更に大公宮殿という大きな建物が五つもある。

まず、それほどにも広いのだ。しかも、ただ平たい屋上として存在するのではなく、立体的な橋の組み合わせとして造られている。

塔のてっぺんは雲の高さを超え、日替わり酒場があった上層で降っていた雪が、この庭では降っていない。

海原を見下ろせば眩暈がしそうな光景が広がっている。吸いこまれそうで足が震えてくる。

絶対に一人や二人、落ちかけた者はいる。

 

「たっけー…こんな所から落ちたらやばいな…」

 

「私もこんな高いの初めてだよ…」

 

魔理沙とルーミアは、思わず道の中心に行ってしまう。

幻想郷では少しでも力が持つ者なら空を飛べるのが普通である。

しかし、さすがに雲より上の上までそうそう飛ぶ事はない。更にヴァナ・ディールの世界では飛ぶ事はできないのだ。もし落ちたらsyれにならない事が待っているだろう。

 

「単純に高いだけなら天人てんにんの住む天界がありますけど…これは人間が一から作り上げて、ですからな。

いやはや、ヴァナの技術力は世界一ィィ!って奴ですかね」

 

文の脳裏に浮かぶのは天界の一つ。非想非非想天。

そこに住まう某不良天人が引き起こした異変で、幻想郷壊滅の危機が起き、腕のある者はその異変の解決と首謀者を懲らしめた。

文もその一人である。

その時に向かった天界は空に浮かんだ超巨大な要石を地面に、天人が住めるように建物が建てられている。

雲より高く浮かんだ要石は、元々は地震を抑えるために大地に刺さっていた。

元からあったものであり、天人自身が一から作ったわけではない。

 

だがジュノは違う。

かつては寂れた漁師の村でしかなく、海の底から天高く建てられたこの都市は人間が一から作り上げたのだ。

 

大使館の場所は中央の広場にある。

最初の分かれ道から右の道に進み、少し先に歩けば階段がある。

そこを下れば、冒険者が借り受ける宿であるモグハウスがあり、右に向かえば各国の大使館だ。

 

それぞれの大使館には、赤と青と緑の国旗が掲げられている。

ウィンダスは緑の国旗。星の大樹をマークにしている。

 

大使館の木製の扉を開き、中に入る。

内装はサンドリアにあった領事と対して変わりないように見えた。

窓口には受付嬢であろう、赤髪のミスラがいる。左右非対称のデザインが特徴のガンビスンを身に付けていた。

 

「ようこそ、ウィンダス大使館に。何かお困りでも…」

 

受付嬢は、扉から入ってきた霊夢達を客か何かだと思い、胸にかけられた《シグネット》を見て改める。

 

「冒険者か。うん?君たちがカラササ領事の言っていた者達かな」

 

「ええ。これ渡しに来たんだけど」

 

霊夢は冒険者の所有する鞄から、封筒を取り出す。

ウィンダスの刻印がつけられている封筒を渡し、受付嬢はそれが偽物でないか調べ始めた。

仮にもウィンダスの印をつけられたそれが偽物であれば、大問題であるからだ。

 

「本物のようね。大使は左の扉に入った部屋にいらっしゃるわ。粗相のないようにね」

 

渡した封筒を返され、左にある扉を開く。

部屋の中は大きな机が置かれ、本棚が一つとシンプルだ。

 

「待っていたよ。このジュノまで来るまで大変だっただろう?」

 

その机の椅子に座っていたのはタルタルだ。

赤みのかかったボサボサの茶髪で、リザードの皮の作られた鎧を身に付けている。

ウィンダス大使館の大使を務めるヘイミジカイネジは穏やかな笑みを浮かべながら少女達を受け入れた。

 

「さて、カラササ領事からの依頼でわざわざ来てくれたわけだが、封筒を渡してくれ」

 

サンドリア王国の情勢が書かれた封筒を渡し、ヘイミジカイネジは印を外し、中身の紙を取り出す。

 

「……なるほど。彼の国も苦労しているようだ。ありがとう、冒険者諸君。

さほど重要となる情報が書かれているわけではないが、こうした小さい事でも情報は情報だ。

これを届けてくれた君たちに感謝を。

報酬は受付の者に渡すように言っておくので、少しばかりゆっくりと…」

 

「大変です!大使!!」

 

突然、扉が強く開かれた。

扉から入ってきたのは受付嬢だ。

 

「どうした」

 

「そ、それが…!」

 

受付嬢から紙を渡され、それを読み上げて行く。

ヘイミジカイネジの顔が青くなっていく。

 

「こ、これは本当か?」

 

「本当です!先ほど、ジュノ政府から各国の冒険者を集め、対処に当たれと連絡がありました」

 

「なんてことだ…またあの連中は…」

 

胃が締め付けられる思いだった。

これではまた各国に愚痴愚痴と言われるではないか。

大使であるヘイミジカイネジの心は重かった。

 

「あの、いったいどうしたんですか?」

 

完全に蚊帳の外。

魂魄妖夢は、大使に聞いた。

 

「…逃げ出したんだ。トゥイクル・トレントがね…」

 

大使は見るからに疲れたような顔をしながら、小さく告げた。

 

…ぴかぴかの樹が逃げ出した?

 

霊夢達の頭は、木から足が生え、勝手に動きながら逃げる姿を思い浮かべる。

 

「樹人を知っているか?まぁ、木の姿をした魔物と思い浮かべれば結構だ。

もうそろそろ星芒祭が近いから、本国の鼻の院が各国に特殊な樹人…つまりトゥイクル・トレントを彩として送ったのだ」

 

「え?じゃあ、街の途中にあった木って…」

 

「そうだ。それがトゥイクル・トレントだ。…ああ、一年前以上前に暴走させて、またやらかすなんて…胃が痛い…」

 

ルーミアが見た煌びやかに装飾された樹。あれは魔物だったのだ。

すでにヴァナ・ディールでは12月であり、お祭りである星芒祭が近い。

その日はスマイルブリンガーが現れ、子供達にプレゼントを振りまき、幸せを運ぶことを喜びの糧とする。

どんな家庭でも御馳走を食べ、大人達はいつもより高級のワインが入ったグラスを交し合い、子供達は菓子やプレゼントを楽しみにする。

 

そしてその時期になると、ウィンダス五院の一つ、鼻の院から冬至の祭に、綺麗に飾り立てられた樹を世界各国に贈られた。

ガルカ二人分。いや、三人分に匹敵する高さの大樹だ。

冬だと言うのに、緑の葉が豊かに茂っていた。枝には鼻の院の技術によって、夜には煌びやかに輝く魔法の明かりが取り付けられている。

贈り物と分かり、各国の広場に置かれるようになった。

設置された一角はとても華やかな雰囲気になったそうだ。

 

「それで終われば良かったんだけどね…トゥイクル・トレントはまだ生きている・・・・・んだ。

起きないように、鼻の院の仕掛けた魔法が正常に掛かっていれば終わるまで起きないはずなんだが…」

 

だが、樹は眠りから覚め、逃げ出した。

 

「鼻の院の専門は、主に植物の研究となる。君達がウィンダスの冒険者であるなら夜光草を見た事があるだろう?

あれも鼻の院の研究成果なんだ。魔法で原種を改良しているとか」

 

鼻の院には成果で一般的に知られるものに、ウィンダス各地の建物によく見かける照明用の光る花がある。これは辺境であるエルシモ地方原産の夜になると花が光る魔光草を品種改良したものだ。

トゥイクル・トレントも同じだ。魔法で品種改良を施し、同じように夜には光るように作られている。

 

「何というか…それって批判とかでないのか?前にも逃げ出したみたいだし」

 

魔理沙の疑問は尤もな事だ。

事実、初めてトゥイクル・トレントが逃げ出した時には、各国からウィンダスを非難する声があがっている。

 

「無駄よ。本国の中で特に変人の多いのが集まるのが鼻の院なのよ?

前に非難された時なんて『そうかい、それはすまなかったね。でも僕達の作った奴って凄いだろ?!ピカピカになって動くんだぜ!!』よ?

反省の色って奴が見えないのよ…前院長がヨランオラン様の時はまだそうではなかったんでけどね」

 

その疑問に答えたのは受付嬢だ。

鼻の院に所属する研究員は、のほほんとした外形の裏腹に方向性と思考が右斜め上に行っている。

つまり何をしでかすか分からないのだ。

確かに彼らの研究によって作られた成果は冒険者に役に立ってるのも多いが、それと同等かそれ以上に世界に迷惑を振りまくのだ。

 

「…いきなりで申し訳ないが、ミッションとして依頼をする」

 

ヘイミジカイネジの言葉が部屋に響く。

 

「任務内容はもう分かっていると思うが、暴走したトゥイクル・トレントの排除だ。ジュノにいる各国の冒険者と協力し、速やかな任務の達成を頼む。

それとこれは世界中の共通ミッションとなる。ランクは上がらないが、そのぶん報酬に色を付けよう。

どうする?」

 

冒険者に問いかける。

任務を受けるか、受けないかを。

そんなもの、冒険者なら最初から決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い雪が積もっているが、雪自体はすでに止んでいるようだった。

ジュノに繋がるバタリアの門に、数多くの冒険者が集まっていた。

職業ジョブで言えば、それこそ色々といる。

両手斧を持つ典型的な戦士、胴衣ローブを身に包む魔道士、軽装な姿をした霊夢と同じモンク。

それ以外にも、ひらひらとした服を着る吟遊詩人や踊り子などもいる。

到底戦闘ができなさそうな彼らだが、冒険者としての職業ジョブである詩人は、荒野の魔物相手に歌で戦う事が可能だ。

同盟を超える数の討伐隊オーバーアライアンスが組まれ、各地では逃げ出した樹人と激戦を繰り広げられている。

 

「樹人自体を倒すのは難しい事じゃない。問題は荒野にいる魔物どもだ。

樹人を相手にしながら魔物に襲われたらsyれにならん」

 

ベテランらしき革の鎧を着た男が、作戦の確認をしている。

任務内容は、暴走したトゥイクル・トレントの排除だ。荒野にいる木々が人々の被害が出る前に倒さなくてはならない。

だが、荒野にいる樹人を相手にしていると別の魔物が襲い掛かってくる可能性もあるのだ。

そのため、足の速いシーフと忍者がトゥイクル・トレントを見つけ、ここまで引っ張っていく算段であった。

 

「危ないと思ったらすぐに呪符を使ってね―!」

 

小さなタルタルの少女が叫んでいる。両手棍を持った白魔道士だ。

彼女の言う呪符とは、呪符デジョンと呪符リレイズだ。

本来は"戦績"と引き換えに支給される代物だが、トゥイクル・トレント排除のミッションに政府からタダで支給された。

符に書かれた文字を読み上げる事で、貧弱一般人であっても魔法を扱う事ができる。

"リレイズ"の魔法が刻まれた呪符リレイズを使えば一度だけだが、死んだ状態からの蘇生、もしくは最長で一日の仮死状態を維持できる。

その仮死状態を利用する事で敵から狙われずに、安全な場所に運ばれてからの蘇生が可能となる。

 

「ご飯ができましたよ」

 

「数は沢山あるから腹いっぱいになるまで食うんだぜ!」

 

魔理沙と、魔道士の姿をした少年だ。

クリスタル合成された料理は、ただの料理ではない。

戦いの前にたっぷりの食事なんて動きが鈍くなりそうだが、クリスタルの元素の力を込められた料理は冒険者に欠かす事はできない。

甘い果実で作られたパンは"魔力"を引き上げ、肉を食えば力が増加される。

この二人は調理ギルドに所属しているため、クリスタル合成の調理を作っていたのだ。

 

時刻は羊の刻(14時)。

一時間後、トゥイクル・トレントが見つかったと報告が入ってきた。

 

 

 

何か巨大なモノがこちらに走ってくるのが見えた。土煙が立っている。

妖夢は、腰の留め金から剣を外す。他の冒険者も武器を手に取り、戦闘の準備を始めている。

風に乗って、きな臭い匂いが漂ってきた。

遠くから見えたそれは、土煙をあげながらこちらに向かって走ってくる。

木が。

見上げてしまう程の大きな木が。

地響きをあげながら走ってくる。

 

あれが樹人なのだ。歩きまわる木。

幹には顔のようなものが浮かんでいる。

 

もう数分もすれば、こちらに来るであろうトゥイクル・トレントの前には、ここまで樹人を釣ってきたシーフの文と、忍者らしき黒い東方装束を着るガルカが走っている。

身を守るための守護の魔法が仲間にかけられる。

巨木との距離があと少しという所でガルカの忍者が叫んだ。

 

「すまん!他の奴らが余計についてきてしまった!」

 

トレントの後ろの煙をよく見てみる。何か、いた。

 

「うげ!サーベルトゥースタイガーじゃん!めんどくさー…」

 

ミスラのシーフは嫌そうな顔をした。

このバタリアでは、かなりの強さを持つ剣虎だからだ。

それに加えて、麻痺の咆哮などやっかいな能力を持っている。

 

「ちびっこいのもいるね。僕はあいつらをやろうかなー」

 

タルタルの詩人が見ているのは、球根のような魔物だ。

樹人の子供とも言われる若木はトゥイクル・トレントの後をせっせと追い付くこうと跳ねている。

それは一匹二匹ではない。下手したら十匹近くいるかもしれない。

 

「鳥も混じってるな。よくまぁ、あんなに連れてくるもんだ。獣人がいないだけ御の字か?」

 

エルヴァーンの男の視線には、死鳥である桃色の鳥が映っている。

男はバストゥークで開発された小さな鉄の砲。銃と呼ばれる武器に、弾丸を込め、構えた。

 

霊夢達がジュノに来てからの初の戦いが始まる。

二十人を超える冒険者と、数多の敵を引きつれた暴走する巨木の乱戦が始まった。

 

 

 

妖夢は、樹人と戦うのは初めてではない。

彼女が庭師として働く白玉楼では、ヴァナ・ディールと世界が融合した時に、ヴァナ・ディールの魔物が跳梁跋扈するようになった。

当然、そんな魔物を白玉楼を好き勝手にやらせるわけにもいかないため、妖夢は魔物を次々と狩っていく。その中には、樹人も混じっていた。

だからこそ分かるが、あれは強敵だ。

並みの弾幕では止まらないパワーと耐久を持ち、一度暴れれば対象を潰すまでに暴走する。

あのときは未熟と言えども、一級廃人には迫れる実力があったから何とかなれた。

しかし、今は違う。実力も、武器も、全てが幻想郷にいた頃より下だ。

 

樹人を見上げる。

見かけは単なる木だが、太く、高い。

白玉楼で現れた樹人とは違い、枝や葉には煌びやかに装飾されている。

幹は何人もの手を繋いで束にしても収まりきらない太さだ。

焦げ茶色の木肌はごつごつとコブを作り、ところどころが落ち窪んでいる。それは顔のようにも見えた。

 

幹に浮かぶ顔は、めきめきと音を立てながらうごめき、表情を変えていった。

固いはずの木肌が波打つ様は、鳥肌が立ちそうになる。

文を追いかけていた樹人の足が止まる。

数の多い冒険者を警戒しているのだ。

目玉にしか見えない二つのコブの下、横に裂かれた切れ込みが上下に開く。

ジャグナー森林で戦ったモルボルと同じような口だった。内側には尖った歯らしきものが並んでいる。

 

「はぁ!!」

 

掛け声と共に、根らしき部分に剣と切りつける。

更に剣と盾を鳴らし、"挑発"することでトゥイクル・トレントを引き寄せるのだ。

そこから、右回りに移動しながら相手の右側に回り込む。

樹人の顔が、妖夢の姿を追うようにまわる。

足となる根が触手のように動き、妖夢の姿を追い始めた。

 

敵の関心を自分に引き付けるのが戦士の役目だ。

無論、この場にいる冒険者の中には妖夢以上の実力者はいるが、どれもが鎧の薄いものばかりだった。

戦士もいない事もないが、妖夢と違って盾をつけていない。

単体攻撃に対してほぼ回避可能となる"空蝉の術"が扱えるガルカの忍者は、樹人ではなく、途中で参戦リンクした剣虎を数匹同時に相手をしている。

 

今、トゥイクル・トレントを相手にしているのは妖夢とひたすら殴りまくっている霊夢、不意をつきながらも決して、自らの敵対心ヘイトを稼がない文。

更に鋭い切れ味を持つ両手刀を武器に戦うヒュームの侍も参戦し、戦闘の激しさを増していく。

いくら盾を持つとはいえ、トゥイクル・トレントの頭上の枝をしならせた攻撃は侮れないものだ。まともに食らえば致命的な致命傷に避けられない。

剣と拳、刀が交互に樹人に叩きつけられ、そのたびにうっとしそうな顔をしている。

巨木は完全に妖夢達にしか頭にない。最初に追いかけていた文と忍者のことさえ忘れているようだった。

この調子なら後衛にターゲットに向かう心配はないだろう。

 

だが、トゥイクル・トレント以外の魔物も忘れてはいない。

戦いながらも横目でうかがうと、若木と呼ばれる魔物と戦う仲間や、冒険者の姿が見える。

 

「そら!凍りやがれ!」

 

氷の元素が集まり、頭の上にある葉が凍った。魔理沙が唱えたのは氷雪の魔法である"ブリザド"だ。

凍った葉は黄色に枯れ、双葉は力無くふらふらとしている。

 

「はいはーい!とどめは頂きっと!」

 

ミスラのシーフがその隙に不意を狙った。

短剣で袈裟に斬られ、若木はそのまま動かなくなる。

二人は息の取れた連携に手と手を鳴らした。

 

まだ若木とそれ以外の魔物は大量にいるが、それでも相手にできるのは詩人の歌う呪歌の御蔭だ。

歌に魔法の力を込め、歌声の響く範囲までに効果を授ける事ができる。

しかし若木には歌が効きづらいのが、何匹か取りこぼしができてしまう。

 

そのぶんは、アリス・マーガトロイドがバインドによって動きを止めている。

魔法を唱えながら人形も同時に動かし、最低でも二匹の相手を引き付けている。

若木の強さが大した事がないのも関係している。赤魔道士のアリスならもう一匹、相手にする事は可能だ。

そう分析した彼女は剣を抜き、若木に斬りかかる。

剣先が閃くと同時に、頭上の葉がすっぱりと切り飛ばされた。

 

妖夢は思わず一瞬とはいえ、見入ってしまった。

アリスの剣の腕前だが、この世界に来てから随分と上がっている。

すでに型式だけなら"フラットブレード"を使えてもおかしくない力量のはずだ。

 

(負けられないな…)

 

アリスは魔法以外にも剣も扱える魔法剣士である赤魔道士を選択した。

しかし、剣も魔法もできるがために力量を上げるのに時間がかかるのが欠点だ。

そんな器用貧乏になりかねない赤魔道士で、あそこまで剣の腕を高めつつ魔法を修得しているのだ。

 

「妖夢!よそ見しない!」

 

霊夢の声に、はっとする。

視線を戻した先には、トゥイクル・トレントが枝を鞭のようにしならせ、振り下ろしてくる。

それを左腕の盾で防ぐが衝撃が腕まで伝わってしまう。

何とか一撃を回避し、態勢を整える。

 

「駆け抜けるは燕の如し…」

 

侍の放つ剣技が、二度、高速で切り裂いた。

木肌に十字傷が付けられ、ざわりと枝が揺れる。

傷口から樹液を噴き出し、大地に散った。

 

樹人が甲高い声で鳴いた。

これは効いたらしい。

口があるだけあって、悲鳴もでるようだ。

 

更に空気を震わせる音が鳴り響き、トゥイクル・トレントの目の部分を打ち砕いた。

音のする先には煙がでる銃を構える男の姿がいる。

 

「ちっ。鳥どもは一撃だって言うのにさすがに硬いな」

 

男の周りには死鳥の死体が無造作に置かれていた。

そのどれもが風穴が開いている。あの銃で全ての死鳥を撃ち抜いたのだ。

 

戦いは冒険者が有利になりつつあった。

トゥイクル・トレント以外の敵はすでに若木を数匹残すのみとなり、10人以上の冒険者は、トゥイクル・トレントを攻撃している。

盾は戦士の妖夢から剣虎を倒し終えた忍者に変わり、空蝉で攻撃を受け流していく。

 

勝負の行方は決まったようなものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュノに滞在して三日目が経とうとしていた。

世界中に散らばったトゥイクル・トレントの全ては冒険者が倒し、トゥイクル・トレント騒動は何とか収まった。

その時、ジュノにいた各国の冒険者は大使直々から報酬を受け取ったが、ウィンダスの大使だけ、やけに空気が重かった。どことなく目が虚ろなのは気のせいなのだろうか。

 

そして少女六人だが、ミッションを終えてから依頼と冒険はしていない。

なぜなら別の要件があるからだ。

今いる場所はジュノ上層のチョコボ厩舎だ。

黄色の巨大な鳥で、飛ぶ事はできないが、強靭な脚力を持つ。そのチョコボを乗るために、チョコボ乗り免許証を取りに来たのだ。

 

「今度こそ乗って見せるぜ!」

 

魔理沙は意気込みを見せながら、チョコボが飼育されている舎に入る。

チョコボ厩舎の主であるブルートゥスはこう言った。

 

チョコボ乗り免許証を発行してほしかったら、まずチョコボと触れ合い、懐かれろと。

 

『チョコボってのは相手の心が理解できる生き物だ。軽い気持ちで乗れるほど甘いもんじゃねぇ。

だと言うのに、最近の若いのはすぐに乗り捨ててやがる!だからチョコボ乗り免許証が作られたんだがな。

欲しかったら、まずチョコボに懐かれる事から始めろ!チョコボがどんな生き物なのかを、自分自身で感じ取れよ!』

 

そんなこんなでチョコボとの触れ合いが始まっている。

霊夢達が懐くように選ばれたチョコボは、ルーミアよりもやや上ぐらいの大きさだ。

まだ子供のチョコボだと言う。

小さいながらも、長い脚と硬く鋭い嘴を特徴は大人と何も変わりない。

 

クェクェェ

 

「おっとと、そんなに鳴かなくても私は逃げませんから、安心なさいな」

 

一番懐かれているのは文だった。

文の手がやわかな羽毛を撫でる。

 

「文に一番懐いてるわよね。やっぱ鳥仲間だから?」

 

「いきなり失礼な事を言いますね、この腋モンクは。この子には分かってるんですよ。清く正しい私の心がね」

 

「清く正しい(笑)」

 

「何笑ってるんですか殺しますよ」

 

霊夢と文は一連のお約束をこなしつつ、他の者はチョコボに餌をやっていた。

 

「ほら。ギサールの野菜だよ」

 

妖夢の手にあるのは、チョコボの好物であるギサールの野菜だ。

苦味のある葉野菜の一品種で、チョコボ厩舎では一つ60G程度で売られている。

初めのうちはチョコボは食べようとなかったが、三日間の触れ合いである程度懐かれ、妖夢の持つギサールの野菜を嘴で加え、口に運んでいく。

 

「わ!食べましたよ!」

 

「おー。これって結構懐かれてるってことだよな?」

 

背中の部分を撫でながら、その感触を楽しむ魔理沙。

もし魔理沙に懐きもしなかったら、このように触らせる事もさせないだろう。

 

「でも、この野菜って苦いんだよねー。果実を一緒に食べればもっと仲良くなれるんじゃないかな(チラッ」

 

「チョコボの餌を食うとか聞いた事ないんで抜けるぜ^^;」

 

ルーミアはなぜか餌用のギサールの野菜を食べていた。

バリボリと野菜を噛み砕く音が聞こえる。

一応、料理の素材にも使えるがそれでも生で食べられる代物ではない。妖怪であるルーミアは大丈夫そうであるが。

 

「そんな余分なお金が使えるわけないでしょう。ただでさえこれからの装備が高くなってるんだから…」

 

「ちぇー。いっぱいお金を貰ったはずなのにもう少ないよねー」

 

カラササからの依頼とミッションでの報酬で多額の金を受け取っているのだが、それでも無駄に使うわけにいかなくなってきた。

力量が上がれば、相応の装備が必要にある。

その装備も高価になっていく。

防具の一式、武器、更に魔法の加護が込められた指輪などのアクセサリーを揃えれば、たった一人でも大層な額になってしまう。

魔道士組がもうすぐ装備できる胴衣ロ-ブがあるので、それに備えて無くてはならない。

霊夢も大地の衣という新しい拳法着を装備している。その名の通り、土色をした地味な色合いをしている。

 

「ほう。やるじゃないか。たった三日でチョコボが心を開くとはな」

 

後ろから声が聞こえた。

この厩舎の主だ。

髭をもじゃもじゃと生やしており、少し腹のでている体をしている。

ブル-トゥスだ。

 

「お前たちなら免許証を渡しても問題ないだろうな」

 

「本当か?!よっし!さっそくチョコボに乗れるな!」

 

「勘違いしてるようだが、まだ乗れんぞ」

 

【えっ!?】と魔理沙は呆ける。

 

「あのな…チョコボに一度も乗った事がない奴にいきなり免許証は渡せんだろうが。

最低でも数時間の実習は受けて貰うぞ」

 

ついてこい、とブルートゥスは厩舎の中に入っていく。

中には騎乗用の手綱と鞍を付けられたチョコボと、貸し借りの受け付けをするチョコガールがいた。

実習用の部屋は、奥にある部屋だ。

 

 

 

数時間の実習が終わり、厩舎から少女達が出てくる。

 

「うあ~。ケツが痛いぜ…」

 

初めてチョコボを乗り、尻を痛めた魔理沙。

何せ、飛べない翼がバランサーとエアブレーキの役目を果たしているとはいえ、それでも乗ってみると結構揺れる。

足も棒のように疲れている。

ブルートゥス曰く、乗り慣れていない者にはよくある事らしい。

逆に慣れてしまえば、このような事は起きないそうだ。

 

「ま、免許証は割と早く貰えたからいいんだけどね」

 

一枚のカードが霊夢の二本の指に挟まっている。

チョコボ乗り免許証だ。これさえあれば、チョコボに乗る事ができる。

カードには魔文字で「死ぬまで有効」と書かれている。

 

時間的にもうすぐで昼を行くぐらいだろうか。

一度、モグハウスに戻って一日ゆっくりと過ごすか、それともジュノ下層にある酒場で飯でも食いに行くか。

そう考えている途中で子供の泣き声が聞こえた。

 

「??どっからだ?」

 

辺りを見回す。

近くには防具屋である不朽の盾がある。

その店の小路は建物が数軒ほどで行き止まりとなっている。その先は海しかない。

行き止まりには、子供がいた。

小さな小人のような種族であるタルタルと、白い肌に尻尾を生やしたガルカ。

二人とも子供だ。泣いてるのはタルタルの子供のようだ。

そしてヒュームの女性も見えた。長い長髪をしており、整えられた顔立ちは困っているように見える。

 

「何かありましたかな?」

 

聞いたのは文だ。

 

「は、花が枯れちゃいそうなんだ…フィックの花が。うわぁぁぁん」

 

再び泣きだすタルタルの少年パヤサビャ。

パヤサビャの後ろにあるのは建物が陰になって、日が当たっていない花壇だ。

花壇には咲いていた。

何輪もの花が咲いている。

だが、その花には力強さが感じ取れなかった。

 

「肥料も水もやってるけど、急に枯れかけてるんだ…このままじゃオレたちが育てた花が全部駄目になっちまうよ!」

 

尻尾が力無く垂れているギーベは、心底悔しそうな顔をしていた。

 

「確かに元気が無さそうだね…」

 

「でも、花は花でしょう?新しいのを育てるのは駄目なわけ?」

 

ルーミアは緑の葉の端が黄色になり掛けているのを見た。

このままでは全て枯れるのは時間の問題だろう。

一方で、霊夢はなぜ花にそこまで本気になれるのかが分からなかった。

確かにまた一から育てるのは時間がかかるだろうが、それでも枯れかけている花をそのまま育てるより新しく育てたほうが楽でいいだろう。

 

「駄目、なんです」

 

長髪の女性であるフェレーナは話を続ける。

 

「この花は、フィックから託された大事な花なんです…獣人と人間が仲良くできるよう、そんな思いが込められた…大事な花なんです」

 

唇を噛み、目は涙で滲みかけていた。

それだけ花壇に生えた花が大事だと言う。

そして、話の途中で出てくるフィックとはゴブリンの名前らしい。

パヤサビャが言うには花壇の花の種を植えたのはフィックだという。

 

「獣人と人間が仲良く、か…」

 

魔理沙の頭に浮かぶのは、幻想郷とヴァナ・ディールで出会った獣人達。

どれもが、こちらの姿を見れば襲いかかってきた。

話し合いの余地すらない。なぜあそこまで獣人が、人間に対して敵意を出すのかは魔理沙には分からない。

 

「私たちさ、色々な所を冒険してきて、沢山驚いた事があるんだけど…」

 

フェレーナの目が魔理沙に向かう。大きな瞳で見つめられて、少しばかりうろたえる。

同じ女から見ても魅力的とも言える女性だ。美しい、というより儚げと言った言葉が似合う気はした。

言葉を続ける。

 

「ジュノのデカさに驚いた。人間はこんなすげーのが作れるんだって。

雲より高い塔とか、でかい橋の上に街を作ったりとか…こんなの私達の生きていた所じゃありえない光景だったんだ。

でも、驚いたのはもう一つある。

ゴブリン達がここで住んでて、人間と一緒に共存している事なんだ」

 

ゴブリンは、獣人の中でもっともアルタナの民で馴染みのある種族だ。

彼らはヴァナ・ディールの何処にでもいる。幻想郷でも普通にいた。

彼らの商売魂はすさまじく、本来は敵である人間相手にも商売をしてのける。

商売の取引をするのに都にもやってる事もあるわけで、ゴブリンたちはあまり都の外にでない国民にも馴染みのあるというわけだ。

だが、獣人である事に変わりない。

街の外で出会えば戦いになる相手なのだ。

しかし、このジュノでは沢山のゴブリンが住んでいる。

さらに店まで開いてる。

今いる橋の下にある、ジュノ下層ではそのゴブリンが開いた雑貨店があり、そこそこだが繁盛している。

魔理沙とアリスも、一度覗いて見て興味深い品が色々とあった。

 

獣人たちとの戦いは、冒険者にとって日常茶飯事だ。

だが、このジュノではゴブリンたちは住み続けて住人たちも受け入れている。

更にそのゴブリン達の技術は冒険者にも役に立っている。

必要な物を渡せば、冒険者が物を入れる鞄の拡張をしてくれるのだ。

 

「確かに獣人と人間が仲良くするのは難しいでしょうねぇ。でも、不可能ではないですよ」

 

魔理沙の次に喋ったのは文だ。

 

「大戦が起きるよりもずっと昔。サンドリア王国の初代国王が獣人のクゥダフと協定を結んでいた時代があったそうですから。

難しいと思って最初からやらないより、我武者羅に行動したほうが私としては好ましいですし、いいと思いますよ」

 

サンドリア王国の初代国王、鉄血王とも呼ばれたランファル・R・ドラギーユ。

彼は、王国の基礎を作り上げただけでなく、クゥダフの王"不老の"ドゥ・ダと親交が深かったと言われる。

ランファルの葬儀には、ドゥ・ダも参列し、当時の国民を驚かせたようだ。

 

「フェレーナ!」

 

男の声がした。

若い声だ。

 

「あ、兄さん!」

 

「アルド兄ちゃん!」

 

フェレーナとパヤサビャの視線の先にいるのは、豪華な格好をした青年だった。

肩覆いのあるゆったりとした服を着ていて、赤の布で腰を絞っている。

腰の右には、豪華な飾り剣を下げていた。一見、観賞用のように見えるが剣を見る目のある妖夢には実践でも使用できる剣と分かる。

鞘と柄には、意匠を凝らした飾り付き。おまけに色は金だ。売ればいくらになるか見当もつかない。

頭には赤い布をくるりと巻きつけている。まるで何処かの民族のようだ。

 

年齢は20代の後半か、それより下に見える。

それだと言うのに、目の前の青年はでかく見えた。

金のかかった身なりがそうさせるのか?違う。そんな小さなものではない。

彼自身が生みだす"自身"と"誇り"がそう見させているのだ。

 

彼こそジュノを拠点に、世界と取引を行う裏ギルド天晶堂のボス。

世界の貿易を一手に引き受ける天晶堂の政治的な扱いは一国にも劣らない。

 

「いったいどうしたんだ?いきなり呼び出して」

 

アルドはフェレーナに呼ばれて来たようだ。

彼は天晶堂の先代頭領の養子であるため、先代の娘であるフェレーナは義理の妹になる。

 

「兄さん、フィックの花が枯れかけているの…」

 

花壇の花を見つめる。

 

「む…だが、この花はまだ咲き始めてそう経っていないはずだが…」

 

「オレたちだってわかんないんだ。アルド兄ちゃん、どうにかできないのか?」

 

「さすがの俺も花に関してはそんなに詳しくない。新しい種に植え変えるのは…駄目だろうな」

 

アルドに期待していたギーベだが、あまり花には詳しくないようだった。

これがただの花であれば、変える事を推奨しただろうが、花壇に植えられた花は特別な代物なのだ。

 

「せめて幽香がいればなー」

 

幻想郷にいる大妖怪。四季のフラワーマスターと言われる風見幽香がいれば、枯れかけた花を復活させるなど容易いはずだ。

とはいえ、無いものねだりをしてもしょうがないと魔理沙は考えを改める。

 

「おや。こんな沢山集まってどうしたのかしら」

 

あれこれを考えていると、エルヴァーンの老婆がやってきた。

狭い場所で十人近い人がいるのだから気になったのだろう。

 

「イルミダ婆ちゃん?」

 

「ほれほれ。男の子が女の子の前でべそかいてちゃみっともないよ。それで、何かあったのかしら」

 

綺麗な布を取り出すと、パヤサビャの涙でぬれた頬と鼻水を拭っていく。

フェレーナは上層の民家で暮らすイルミダに、これまでの事情を説明した。

 

「なるほど…花が枯れそうなわけね。それで、色々を手は試したのかしら?」

 

「うん。アルド兄ちゃんから質のいい肥料とか、腐葉土を貰ったんだけど…」

 

ようやく泣き止み、落ち着いてきたパヤサビャ。

花が枯れかけてから、枯らさないように色々と試してきたが一向に収まる気配が感じなかった。

 

「これだけやっても治らないのは、重い病気ぐらいしかないわね。

雄羊の角を粉状になるまですり潰して、他の肥料と一緒に混ぜて作った薬なら…何とかなるかもしれないわね」

 

イルミダの言う雄羊とは、ラテーヌ高原とバストゥーク共和国の北方にあたる草原地帯であるコンシュタット高地に生息する魔物だ。

見た目は、でかい羊に大きなねじれた角が生えている。

大きさは普通の大羊とは比較にならない。個体によっては、モルボルや樹人以上の体格を持つ怪物なのだ。

 

その角があれば、花の枯れる状態を何とかできるみたいだ。

 

「雄羊の角か…すぐに手配しよう」

 

「お待ちなさい。競売所に出回っているような角では作れないのよ。

もっと大きくて上質な…悪名高い魔物ノートリアスモンスターぐらいのね…」

 

「何?…さすがに悪名高い魔物ノートリアスモンスターの角をすぐに手配するのは難しいな…」

 

「だからこの薬は廃れたのよ。作り方を知っているのは私のようなお婆ちゃんぐらいなものだしね」

 

アルドはすぐに競売所に向かおうとするが、そこにある角では薬は作れないという。

雄羊の悪名高い魔物ノートリアスモンスターは、ラテーヌでは文句無しの最強クラスの化け物だ。

同じ悪名高い魔物ノートリアスモンスターでも二種類がいるが、特にブラッドディアーバルドルフはクォン大陸でも屈指の強さを誇る。

下手すれば、機船で出会ったタコのような怪物シーホラーと同等かそれ以上に危険と言える怪物中の怪物だ。

 

「んー。じゃあ、私達が取ってこようか?今なら腕のいい冒険者が揃っているぜ」

 

「ちょっと、魔理沙!いきなり何を言ってるのよ!」

 

突然、角取りの依頼を受けようとしている魔理沙を咎めるアリス。

 

「そうか。お前達は冒険者だったか。…しかし」

 

アルドの目が、少女達の実力を測るように見つめていく。

 

「ジュノに問題無く来れるぐらいの実力があるようだが、雄羊は強敵だ。お前達だけでは安心できないな」

 

そう、冷静に判断した。

通常の雄羊なら問題はないだろう。でかいだけでそこまで強いわけではない。

だが、悪名高い魔物ノートリアスモンスターになれば桁外れに強くなる。

ランベリングランバードなら五分五分。ブラッドディアーバルドルフだとほぼ負けてしまうだろう。

 

「なんだよ。私達じゃ頼りないってか?」

 

「リスクが高すぎると言っているんだ。…とはいえ、俺がすぐに動かせる冒険者は一人しかいないからな…」

 

アルドは少しばかり考え、踵を返した。

 

「少しばかり待っていろ。俺が雇った冒険者を連れてくる。そいつと共に悪名高い魔物ノートリアスモンスターを倒しに行け。

報酬は俺が払おう」

 

アルドは塔の中心に向かっていき、姿を見せなくなる。

そして、20分ぐらい経っただろうか。

アルドが戻ってきた。

その横には、魔理沙や霊夢とそう変わらない年頃の少女が歩いていた。

耳の長さと褐色の肌からエルヴァーンだと分かる。腰まで長くした髪の色は淡い藤色で、後ろの髪を赤い紐か何かで縛っているようだ。

冒険者の資格である《シグネット》を胸にかけていた。

黒を基調としたガウンのようなものを赤いリボンで押さえている。リボンには《シグネット》とは別に、青い色をしたブローチを付けていた。

袖は髪の色と同じだ。

冒険者が着るようなものとは違う服装をしている。

 

「紹介しよう。彼女は…」

 

「おう!俺がお前達と組むプリッシュだ!よろしく頼むぜ!!」

 

見た目とは裏腹に荒々しい言葉が出た少女は、太陽のような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンドリア王国の西方、ザフムルグ海に面した半島には、ある国家が存在していた。

その名はタブナジア侯国。

天晶暦413年、サンドリアとウィンダス両国間に締結された不可侵条約成立のため、それを保証する第三国の存在が必要となった。

タブナジア侯家の支配領を独立国家として成立させたのが国の始まりである。

侯爵家はサンドリア王室と繋がりがあり、第三国とはいえ半ばサンドリアの属領のような形で存在していた。

 

サンドリアの国旗に似た、赤地に海獅子を置いた国旗を持ち、海獅子が掲げているのはサンドリアのグリフィンが掲げる槍に対し、盾。

興国の背景を鑑みるに、両国の不可侵条約を見守り、また有事の際にはサンドリアの盾となることを象徴しているものなのだ。

 

「ザフムルグの真珠」と謳われるほどに美しい景観、そのザフムルグ海からもたらされる海の幸を用いての貿易など、国家を取り巻く環境は安寧を極め、「一攫千金の夢も立身出世の夢も、すべての夢を受け入れてもなお余りあるほどに、輝かしき隆盛を誇った都」とさえ当時の国民に云わしめるほどのものであった。

 

だが、その国は簡単に崩れ去り、歴史から消す事になる。

 

水晶戦争中の天晶暦863年4月、最大の激戦と今でも逸話の残るザルカバード会戦の直前に獣人軍による集中攻撃を受ける。

サンドリア、バストゥーク、ウィンダス。

来るべき決戦に備えて、各国から集められた選りすぐりの戦士達が集った連合軍は必死に抵抗するも、突如世界が閃光に包まれた。

それは、獣人軍の秘密兵器とも、タブナジアに眠る神器とも言われるが真実を知る者は少ない。

その閃光の影響は凄まじく、地形が変化し、数多くいた獣人の大半と人間の連合軍を塵一つ残さず消滅させてしまったのだ。

 

かろうじて侯都から逃げ延びた首長である侯爵アルテドール・I・タブナジアは、救援を求めるためにジュノに向かうも執拗な獣人軍の追撃には耐え切れず、後少しという所で果てる。

タブナジアの国旗は折れ、街の壊滅した。

陸路の分断、首長の死亡。様々な不幸が重なり、その結果タブナジア侯国は国としての機能を失い、歴史から消滅したのである。

そして、"もしも"アルテドールがジュノに救援が間に合ったとしても、それは無視されていただろう。

タブナジアは、手薄となった闇の王を討つために、大量の獣人軍を引き付けるための囮にされていたのだから。

 

 

 

だが、生き残りはいたのだ。

それはタブナジア侯国の生き残りが、逃げ込んだ地下施設を拡張して築いた集落。

廃墟と化した地上の都市は今も獣人軍残党が占領している為、この地下壕では何事も生残を第一に考えられている。

 

また、様々な冒険者がこの場所に辿りつき、その情報が世界に伝わると、タブナジア地下壕とジュノ大公国との交流が始まり、以前と比べて格段に生活の質が上がっている。

ゆっくりとだが、順調に復興しつつあるタブナジアで一人の女性がうろたえていた。

 

「ああああああ。どうしましょう、どうしましょう」

 

エルヴァーンのようだ。鮮やかな橙色をした、肩までかかる長髪。

清楚な顔立ちをしている彼女は、美女と呼ぶにふさわしいのだが、今はそうも見えなかった。

彼女がうろたえるのは手に持つ紙。それに書かれた内容が原因であった。

 

 

『拝啓。ウルミア様へ。

 

いきなりですまねぇけど、俺、冒険者になってくるわ。

タブナジアも復興してるし、俺がいなくても特に問題は無いだろ。

あ、冒険者になるツテはあるから安心しろよ?

じゃ、だいたい世界が見終わったら帰ってくるのでそのつもりで。

 

追伸。

馬鹿兄妹が騒いだら殴っていいぞ。そうすれば止まる。

 

追伸その二。

俺の棚にある饅頭は、期限が切れてるから捨ててもいいし、食ってもいい』

 

 

字は意外と達筆だった。裏には、個性的な落書きが書かれていたが。

馬鹿兄妹、というのはこの地下壕で暮らす悪ガキ三兄妹、チェブキー兄妹の事だろう。良くも悪くもトラブルメーカーのタルタル達だ。

ウルミアは、名前こそ書かれていないが、この置手紙を書いたのは知っている。

これを書いたのは一人しかいない。

 

「プリッシュ…あなたはいったい何処にいるの…?」

 

親友である少女を思い浮かべ、彼女がどうなっているのかを地下壕の皆に知らせるために扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしょん!!んん?誰か俺の事を噂してんのか?」

 

豪快のクシャミをするプリッシュ。

今、彼女を含め、霊夢達がいるのは数多の樹が茂るジャグナー森林だ。

アルドからの依頼を受け、悪名高い魔物ノートリアスモンスターの角を狙いにラテーヌ高原を向かっている。

 

ジュノから徒歩で行けば最低でも二日以上はかかるだろう。

だが、今は違う。

ザクザクと足音を響かせ、地面を引っかく音がする。

チョコボを乗っているのだ。黄色の鳥であり、人を乗せて走る事ができる乗り物だ。

足の早いチョコボを飛ばせば、半日もすればラテーヌ高原に辿りつける。

 

道先は順調だ。

一度通った事のある道であるし、魔物が襲い掛かる心配もない。

人間には分からない、魔物には嫌な匂いをチョコボは発してる。

チョコボが冒険者に馴染み深くなっていた頃、チョコボに乗りながらも魔物に襲われる事例がいくつか起きた。

これはチョコボの魔物からすれば鼻が曲がりそうなほどの悪臭が原因なのだ。その匂いを頼りに、魔物は地の果てまで追いかけてくる

並みの魔物であればチョコボに追いつく事はできなかったが、魔法を使ったり、チョコボの早さに匹敵する魔物などには弱く、鼻の院はチョコボの寝藁の品種改良する事で、匂いを吸収するようにしたのだ。

 

これの御蔭で、無用な戦闘を抑えられる。

魔物に気にせず、走らせ街道を駆け抜けて行く。

途中途中でオークに見つかるが、こちらの姿を見かけても追いかけようとしなかった。

 

ルーミアはまだあまり慣れていないチョコボを走らせながらも、一度通った事のある道を不思議に思っていた。

前に来たより視界がいいのだ。

広い範囲で全体を見通す事ができる。

まるで風景が違って見えるように感じ、そこまで考えてから気づく。

 

(そっか。チョコボに乗ってるからだ)

 

一度歩いている土地なのに、初めて見るかのような錯覚を覚えるのは、チョコボに乗ってるぶんの高さが加わってるからだ。

今のルーミアはチョコボのぶんと+されて、2m近い高さになっている。

一般のエルヴァーンやガルカと同じぐらいの高さだ。

徒歩の時は、森林をじっくりと見ている暇は無かった。魔物を警戒し、後をついてゆくのが精一杯だったからだ。

 

ラテーヌを目指して、チョコボは走る走る。

数時間も走らせると、慣れてきた。

 

「てってててれれてってって~と言った感じですかね」

 

「何それ?」

 

「チョコボのテーマです。今考えました」

 

アホな発言をする文に霊夢は、変なものを見たかのような目をしていた。

 

「も、もうすぐ、アウトポストだし、さ!休憩しようぜ!休憩!」

 

息が切れ切れなのは魔理沙だった。

確かに乗る事は慣れているが、それでも歩くのとは違った疲れが溜まっている。

 

森林の中央には、冒険者を支援するガードが警備している。

そこには、アウトポストと呼ばれる木造の建物があり、そこで冒険者は体を休める事ができる。

 

さすがにチョコボを入れる事はできないので、近くに止める。

中には誰もいなかった。元々ジャグナーは冒険者でも、そんなに通る事のない道だ。

人がいる事自体が珍しい。

魔理沙は絨毯が敷かれている地面にごろごろと転がり出し、足を押さえていた。

 

「足がいてぇー。ルーミア、【ケアル】【くれませんか?】」

 

「【せっかくだけど遠慮します。】さすがに疲労までは回復できないよ…」

 

回復魔法である"ケアル"は万能ではない。

あくまで自然治癒を引き上げ、傷を回復させるため、傷ではない疲労などといったものは意味はないのだ。

筋肉痛ならば効果があるかもしれないが、そのようなもので女神の慈悲を使われる女神の心境は如何なものだろうか。

 

「鍛え方が足りないんじゃないか?なんだったら、俺が直々に鍛えてもいいぜ!」

 

プリッシュだ。

しゅっしゅっと拳を殴りかかるようにシャドーしている。

アルドから紹介された冒険者であり、西にあるタブナジア地下壕と呼ばれる住民らしい。

見た目は可憐だが、中身は誰よりも「男児」らしかった。

職業ジョブはモンクと白魔道士であるみたいだが、モンクの腕は我流ながらも一級廃人を凌駕し、白魔道士も回復と攻撃に限定されるがこれも一級廃人に匹敵する腕前だと言う。

見た目ほど当てにならない、という言葉を体現したかのような少女だった。

 

「ありがたいけど、魔道士に必要なのは知識と魔力だから遠慮しておくぜ」

 

「弾幕はパワーなのに?」

 

「それを出すのが二つって事」

 

魔理沙の口癖である「弾幕はパワー」。ルーミアはそれをいつも聞いた事がある。

彼女のスペルカードの一つ、"マスタースパーク"はそれを現してるかのようだった。

 

「それにしても何もねーよなー。こーゆー暇な時は飯でも食うのが一番だぜ!」

 

アウトポスト内は必要最低限、人が住める程度の設備しかない。

プリッシュは自分の鞄を開き、次々と料理を取り出していく。

干したブドウが入ったレーズンブレッドに、一握りされた米に魚の肉が置かれた寿司。

更に多種多様のパンもある。果実が使われたパンに、カレーと呼ばれるシチュー入りのパンもある。

まさか、あれを全部一人で食う気か?

 

「ハムッハフハフ、ハフッ!!」

 

次々と料理を食べて行くプリッシュ。

寿司を食い終われば、パンを食べ、飲みこんだらジュースをぐびぐびと飲んでいく。緑色をしている事からメロンジュースだろう。

凄まじい食いっぷりだ。霊夢、魔理沙、ルーミアと勝るとも劣らない食いっぷりだろう。

美味しそうな食べ物に、ルーミアは思わず三回連続でプリッシュを見つめていた。

 

「ふぁんだ?おぼべらもぐいがいぼが?いいぞ」

 

「許しがでたか!」

 

「きた!メイン料理きた!」

 

「これで勝つる!ゴチになるぜ!」

 

四人は食べ物を食べ、親睦を深めた。

偉い人は言っていた。美味しい料理があれば、みんなマブダチになれる。

会って数時間の他人に過ぎないプリッシュと仲を深めるのにそんなに時間はいらなかった。

 

 

 

「よく食べるわね…」

 

「だって美味いし。ガイアが私にもっと食べろと囁いているんだぜ」

 

アリスは、満腹となっている魔理沙を見ながら、溜息をついた。

 

「あんたねぇ…これからまたチョコボに乗るのよ?こんな状態で走ったら、絶対吐くわよ?」

 

「■<魔法でその問題は解決した。てのは冗談で、もうちっと休憩して落ち着けば何とかなるだろ」

 

何かに乗って揺れるのは幻想郷ではあまり縁のないこととはいえ、それでも日常的に空を飛んできた。

特に魔理沙は空を飛ぶのに常に箒に乗り続けていた。

そのため、平衡感覚が普通の人より比べて鍛えられている。

多少揺られたぐらいでは吐く事はないのだ。

 

「しっかしよく食うわねぇ。まさか私に匹敵する食欲を持つのがいたのは驚きよ」

 

「それは俺もだ。俺も結構食べるほうだと思ってたけど、中々やるじゃねぇか!」

 

霊夢とプリッシュは色んな意味で友情を育んでいた。

 

「昔からそんなに食べてたわけ?」

 

「いんにゃ?これでも俺は女神様に仕えていた修道士だったからな。そん時は慎ましい毎日だったぜ」

 

プリッシュは、過去を思い出すかのようにふけていた。

あの時は一つの硬いパンと豆のスープが一日三食であった。

今では考えれない食事の少なさと味の無さがした。

 

「色々あってよ、冒険者の食いもんを食った事があるんだ。

あんときは忘れられない感動もんだったぜ!こんなうめーのを今まで知らなかったのか、てな!」

 

タブナジア地下壕での食事はできるだけ保存の効く食べ物を優先されて作られている。

ジュノとの交流が始まる前は、さほど美味しい食べ物を食べる機会がないのだ。

 

「確かに…私もダルメルステーキの美味しさは忘れられないわ」

 

「ダルメルの肉か!あれは俺も好きだぜ!依頼が終わったらアルドの奴に奢らせてもらうか!」

 

「それはいいわね。私からも頼むわ!」

 

「任せろ!」

 

勝手に話が進んでいく少女達。

ジュノで待つアルドは、背筋が凍ったように感じた。

 

休憩を済ますと外で待っていたチョコボに跨り、駆け抜けて行く。

もうそろそろ夜になろうとしている。夜中になる前にホラの岩までには着きたい所である。

太陽が傾き、星が見えてくる。

高原までは、あと少しという所までだった。

 

 

 

ラテーヌ高原に着くころには夜になっていた。

魔物の動きが活発化し、アンデッドが沸きだす頃だ。

プリッシュはもとより、ラテーヌの獣なら練習相手にもならないとはいえ、雄羊は別格の強さとなる。

ホラの岩で一旦、一夜を明ける事にした。チョコボは足として残している。

 

そして日が昇る前に出発する。

雄羊がいる場所はアルドに教えられている。チョコボを走らせ、雄羊がいるであろう場所に急いだ。

 

雄羊が縄張りにしているのは二種類ある。

街道の両側が地溝帯となっている場所が二個あり、そこを縄張りとしているのだ。

一つ目は普通の雄羊しかいなかった。

普通と言っても、初めて見た雄羊の巨大さは格が違った。

身体中が白い毛で覆われており、二本のねじれた角が頭から生えている。

頭から背中にかけては、黒い毛並みをしていた。

いったい何を食えばここまで食えばでかくなれるのか。羊であるなら草食だろうが、草だけ食べても樹人に匹敵するでかさに成長できるのか。

しかも悪名高い魔物ノートリアスモンスターはこれ以上にでかいのだ。

ヴァナ・ディールの魔物は、常識では測れないもの揃いである。

 

しかし今回の依頼では普通の雄羊には用がない。

二つ目の縄張りに向かう。

チョコボが走るたびに寒さの残る空気が目に当たり、涙がでそうになる。

 

二つ目の縄張りにも、雄羊がいる。

簡単に見つかった。何せ、一つ目で見つかった雄羊と比べて二回り以上に大きいのだ。

離れていても分かる、その体格。

目の回りは赤く染まっている。それはまるで血涙のようであった。

ねじれた角も、そこらに生えている木よりも太く、大きい。

ラテーヌ最強の怪物が、そこにいた。

 

 

チョコボから降り、背中を叩くとチョコボは自分で厩舎に戻っていく。

ルーミアは加護の魔法を唱える。

最近使えるようになった"プロテアⅡ"は、"プロテア"に比べて強い加護をもたらす。

プリッシュを含め、力強く輝く白い加護が肉体に付加された。

続けて"シェルラ"、前衛に"リジュネ"と唱えていく。

失った"魔力"は、エーテルを飲む事ですぐに回復させた。

魔法の加護は、そこまで長く持続しない。

 

戦闘の準備を整え、作戦の確認をする。

盾は戦士の妖夢ではなく、プリッシュが務める事にした。

妖夢の実力では、数発も攻撃を受けてしまえばあっさりと裏世界でひっそりと幕を閉じるハメになりかねない。

そのため、この中で最も強く、更に多少の攻撃は自分で回復できるプリッシュが最適なのだ。

 

武器を構え、視界にバルドルフが映る。

30歩以上は離れているにも関わらず、かなりの巨体に見えた。

強さも当然、計り知れない。

 

「行きます!」

 

妖夢、プリッシュ、文が走る。

まず妖夢が"挑発"し、ターゲットを引き寄せた後に、文が不意打ちをする事でプリッシュに敵対心ヘイトをなすりつけるのだ。

シーフには、敵対心ヘイトを他人になすりつける事ができる技能アビリティを持つ。

剣と盾を鳴らし、バルドルフは妖夢達に気づいた。

 

その時、一瞬で景色が変わった。

気づいたころには後ろで離れていた後衛と、"気"を溜めていた霊夢。

更に妖夢と文、プリッシュですら、バルドルフの目の前にいた。

 

まるで移送の魔法を受けたように、眩暈と耳鳴りがする。

それを無理矢理、頭を振って吹き飛ばす。

 

エェェェエェェェェェ!!

 

バルドルフが雷鳴のように吠えた。

ドスンドスンと、木より太い足を踏み鳴らし、近くにいた者達は必死に避け、後に引こうとする。

 

「な、何が起きたんだ!気づいたらあいつの目の前にいたぞ?!」

 

「知らないわよ!たぶん、引き寄せか何かでしょ?!」

 

「わわわ、潰されちゃう」

 

足に踏まれないように、気を付け、後ろに引く。

アリスの言っている事は正しかった。

ヴァナ・ディールの魔物の一部には空間を刈り取る事ができる。

バルドルフもそれの使い手であり、文字通り少女達を引き寄せた・・・・・のだ。

 

いきなりそんな技を使うバルドルフには驚きが隠せない。

冷静だったのは意外にもプリッシュだった。

もしかしたら"引き寄せ"を使う魔物と戦った経験があるのかもしれない。

 

態勢を即座に整え、文がプリッシュに敵対心ヘイトをなすりつけるまでに妖夢は、目の前の怪物の攻撃を耐えなくてはいけない。

虎のようなしなやかさがなく、鈍重な印象がある太めの怪物だが、その動きは早かった。

今から回避しても間に合わない。

盾を前に、足を踏みしめる。一撃だけでも凌げばいい。

 

雄羊の巨大な頭部と盾がぶつかりあい、鋼の鈍い音が聞こえた。

妖夢の体が大きく吹き飛ばされ、宙に浮いた。

雄羊の体格よりも大きく飛んでゆき、近くにあった石の壁に叩きつけられた。

 

「がっ…は……?!」

 

声がでない。息が吸えない。体が動かない。

盾が完全に砕かれていた。腕も青く染まっている。盾が砕かれた御蔭で、腕自体の傷は少なく済んだのだ。

だが、腕の骨は折れているのか、まったく動かない。

 

ルーミアからの"ケアル"を貰うが、中々全開までに回復しない。

たった一発で瀕死に近い状態まで食らったのだ。

 

バルドルフは妖夢を吹き飛ばし、追撃をしかけようとするが、文の"不意打ち"が決まった。

切りつけた後に、プリッシュの背中に隠れた。ああする事で文ではなく、プリッシュに関心が向くようにしているのだ。

バルドルフは、プリッシュに向いた。体を180度回転する様は圧巻だ。後ろ脚には小さな切り傷ができている。

 

「なんて硬さ…まさか武器が壊れるとは」

 

渾身の一撃に加えて脆そうな所を狙ったのに関わらず、文の持つ短剣が綺麗に割れていた。

 

「これでは満足に戦えませんね…あとは任せますよ」

 

後ろに下がり、クロスボウを構える。前衛で戦うための武器がないのだから当然だろう。

シーフの彼女は、前に出て戦い続けるのは向いていない。

憤怒の状態になっているバルドルフの先には、一人の少女。

モンクでありながら、籠手を装備していない。素手だ。

 

「どでけぇ羊!このプリッシュ様が相手になってやがるから有りがたく思えよ!!」

 

バルドルフの前足に素手の拳を叩きこむ。

プリッシュ目掛けて突っ込もうとしたバルドルフの動きが止まった。

妖夢を吹き飛ばした一撃を、たった一発の拳で止めたのだ。

 

エエェェェエエエエエエエ!!!

 

その痛みに足を踏み鳴らし、プリッシュは下がろうとせずに、殴る殴る殴る殴る!!

 

「そらそらそらそら!!攻撃してこねーと俺は倒せないぜ!!!」

 

何と危なっかしい戦い方だろう。

防御もせずに、ただ攻めるのみ。そして相手からの攻撃が当たっていない。

あの足に踏み潰されてしまえば、ペシャンコになってしまうだろう。

ドスンドスンと音が響き、離れている後衛でも地響きが伝わる。

 

妖夢も復活し、"気"を溜め終えた霊夢も攻撃に参戦する。

敵対心ヘイトは完全にプリッシュに向いている。

アリスと魔理沙は弱体魔法を唱え続けるが、ほとんどが抵抗レジストされている。

効いたのは、魔法を無力化できるほどの抵抗率を持っていないと確実に効く"ディア"ぐらいであった。

光の元素によって肉体の構成を少しだけ崩しやすくし、攻撃を与えやすくなる。

 

「硬い!」

 

"気"を込められた拳で無防備となっているバルドルフの腹を殴っていくが、あまりの硬さに顔をしかめる。

妖夢の同じであった。鋼のように硬い剛毛が、並みの攻撃では通らないようにしてあるのだ。

毛を散らし、皮膚も切り裂く。切り裂いた傷口から血が吹くが、巨大な怪物に、その程度の傷は掠り傷でしかない。

 

「頼りになるのはプリッシュだけか…!」

 

相手の攻撃を回避し、攻撃を次々と加えて行くプリッシュ。

霊夢の攻撃ではまるで気を止めないバルドルフであるが、プリッシュの攻撃には顔をしかめ、動きを止める事がある。

今の霊夢達の実力では完全においてきぼりであった。

 

それでも、私の出番無さそうなので抜けますね^^;

と言えるわけがない。元々、この依頼を受けたのは自分達(正確には魔理沙)が受けたもの。

プリッシュだけに任せるわけにもいかないのだ。

 

妖夢の剣が赤く燃えている。

"気"を剣に流し込み、武技ウェポンスキルを放つ気のようだ。

炎が吹き荒れる剣を切りつけ、バルドルフの肉体から肉の焦げる臭いがする。

それに合わせて霊夢も、両腕での連撃から蹴りで締める"コンボ"を放った。

"気"と"気"が混じり合い、バルドルフが爆発したかのような現象が起きる。

"連携"によって起きた核熱はまったく効いていないように見えた。

魔理沙は魔法の連携マジックバーストの隙を逃さず、魔法を唱えた。

 

「だったらこれでどうだ!ファイガ!!」

 

炎の元素が魔法によって、急速に集められる。

バルドルフの上に集められた火種は爆発したかのように広がり、"連携"によって抵抗レジストが落ちたバルドルフを容赦なく燃やしていく。

毛が燃えて灰になっていく。

ゆらめく業火に燃えながらも、怪物はまだ生きていた。

咆哮が鳴り響いた。ラテーヌ全土に広がれと言わんばかりの咆哮が。

 

その咆哮は自分の体を燃やす炎を散らした。

目は充血したかのように赤く染まっている。彼は本気で怒っているのだ。

 

「うっるせー!!耳がガンガンするじゃねぇか!!」

 

その咆哮を至近距離で浴びたプリッシュは、耳鳴りのする耳を叩きながら、執拗に攻撃してくるバルドルフから初めて引いた。

これがいけなかった。

距離を取ったプリッシュを見るや、いきなり走り出したのだ。

助走無しでトップスピードに至った頭突きをプリッシュに回避する手段は無かった。

 

「っぐぅ!」

 

致命的な致命傷を避けるために両腕を前に防御した。

跳ね飛ばされたかのように、プリッシュは宙に浮く。

妖夢との違いは、自分の足で着地している事だ。

 

「やるじゃねぇか、でか羊!そうでなきゃ面白くねぇ!!」

 

女神に祈る。祝福を授かるために。

女神に仕えし者は、祈る時、奇跡を授かれる。

ナイトであるなら鉄壁の守りを。

白魔道士であるなら致命的な致命傷ですら完全に治す祝福を。

 

祝福がプリッシュに舞い降りた。

暖かな光と風がプリッシュを中心に、癒しの風となって全てを癒していく。

両腕の痺れが取れた。拳を握りしめ、ガニ股になりながら右拳を腰より下に、独特の構えでバルドルフを待ち受ける。

 

エエェエェエエエェェェェエエエェェェエエエエェェェェェェェェェェ!!!

 

"女神の祝福"は、通常の回復以上に倍する怒りを駆り立てる。

バルドルフが目の前の不愉快な少女を確実に潰すために突っ込んでくる。

プリッシュはニヤリとした。

 

「今の俺に不用意に突っ込むのは得策じゃないぜ!

ひっらめけぇえ!!」

 

霊夢達は信じられない光景を見た。

頭突きをしようとするバルドルフに対して、右拳を振り上げ、カウンターで合わせたかのように顎を撃ち抜いた。

その一撃は小山ほどの大きさであるバルドルフを浮かした・・・・

ふわりと浮き、そのまま地響きを立てながら、ラテーヌ最強の怪物は地に落ちた。

 

動かないバルドルフ。

プリッシュは左手を広げ、握った右手を押しあて、パシンと音が鳴り渡る。

 

「ごちそうさまだ!次はもっと強くなってこいよ!」

 

如何なる相手であっても強ければプリッシュなりにだが礼は尽くす。

それがプリッシュという人物を現しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハムッハフハフ、ハフッ!!」

 

「またか。またこの光景なのか」

 

「おい!あまり食いすぎるな!これを払うのは俺なんだぞ!!」

 

陽気な吟遊詩人の酒場。

ジュノ下層にある競売所の少し先にそれある。

店内はやや薄暗く、奥には吟遊詩人が唄うための小さな舞台がある。

アリスは、ジャグナーのアウトポストで食べていた以上に、次々と飯を食べて行く霊夢と魔理沙とルーミア、そしてプリッシュに少しばかり呆れていた。

アルドのほうは、見た目は少女だと言うのに明らかにおかしい量を食べて行く少女達に頭を痛くしていた。

 

「ケチケチすんなよ、アルド。レイムは金はいらないから、報酬は腹いっぱい飯をおごる事。それを了承したのはお前だぜ?」

 

プリッシュは本日で三杯目のシチューを飲み終え、次はブドウであるサンドリア産のクレープに手をつけている。

 

「くっ…確かにそうだが…明らかに食べる量がおかしいだろう!?」

 

バルドルフを倒し、その角をジュノまで持ち帰った。

さすがに全部となると大きすぎて持ちきれないため、破片だけを持ち帰る事にした。

イルミダに破片を渡し、花の病気を治すために薬を作らせてもらった。

薬を花壇に撒き、枯れるかどうかはこれから経過を見なければいけないだろう。

 

依頼を完了し、アルドからの報酬を飯をおごる事に変えた。

プリッシュも参戦しており、すでに金で渡す分の報酬額を超えていた。

 

「アルド兄ちゃん、次これ食いたい!」

 

「オレはこれ!」

 

「こ、こら。あまり兄さんを困らせない」

 

パヤサビャとギーベ、フェレーナも同じように食事をしていた。

育ち盛りの子供はおかわりを要求し、フェレーナはそれを咎めていた。

 

「ああ!分かった分かった!好きに食え!……俺の財布持つかな…」

 

天晶堂のボスとはいえ、今持っている所持金は報酬で渡すはずの金と少ししか無かった。

思念を飛ばす事で離れている場所でも会話のできるリンクパールを取り出し、天晶堂にいる部下に金を持ってくるように伝えた。

 

舞台に女性が立ち、歌を唄い始める。

柔らかな声は心を落ち着かせ、まるで数多の冒険者を受け入れるジュノという国を現したかのような曲であった。

 

──ボクは夜に迷う子羊…

──怖くて、一人で、隠れる場所もない。

──すべての希望は途絶えて、誇りだけが残った。

──嵐にもまれた船のよう、痛みだけが残った。

──ただ彷徨うばかりの人生だった…

──あの光を見るまでは…

──この光を見つけるまでは…

──暁の女神アルタナよ、生命の母よ。

──僕らの過ちを赦すために、あなたは安らぎの詩を歌われる。

──ボクらにすべてを伝えるために、あなたは大地に涙を落とされた。

──あなたの愛は輝いて、ボクらに光を見せる…。

──今、あなたはボクに光を見せた…。

 

歌は酒場に響き、楽器がそれに合わせて音楽を奏でる。

外では再び雪が降っている。

穏やかに時間が過ぎていく。

酒場では少女たちの笑い声と、食べ物を食べる音が絶えず聞こえていた。

 

 

 

……To Be Continued?




作中使用曲の歌詞
ジュノ大公国BGMの公式アレンジ曲「Blessed in Her Glorious Light」から

Hakurei Reimu モンク/- Lv30/-
個別特性:主に空を飛ぶ程度の能力
状態異常を受け付けない。通常より成長は早い。

メイン:リンクスバグナウ サブ:―         レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:大地の鉢巻      首:ファングネックレス  左耳:―          右耳:―
胴:大地の衣    両手:大地の手甲    左手の指:―        右手の指:―
背:―          腰:紫帯         両脚:大地の下ばき    両足:大地の脚絆


Rumia 白魔道士/- Lv26/-
個別特性:闇を操る程度の能力
一瞬だけ相手を暗闇にする事が可能。耐性無視だが、近付かなければならない。通常より回復(HP)が早い。

メイン:ハーミットワンド サブ:マホガニーシールド レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:銀の髪飾り      首:正義バッジ      左耳:―          右耳:―
胴:コットンダブレット  両手:コットングローブ  左手の指:―        右手の指:―
背:―          腰:―          両脚:コットンブレー   両足:コットンゲートル


Kirisame Marisa 黒魔道士/- Lv28/-
個別特性:主に魔法を使う程度の能力
八卦炉サポートによる魔法詠唱を短縮化(ファストキャスト)&魔法攻撃力増加。魔力(MP)が平均より少ない。

メイン:義勇兵の戦杖   サブ:―         レンジウェポン:―      矢弾:八卦炉
頭:ウィッチハット    首:―          左耳:―           右耳:―
胴:コットンダブレット  両手:コットングローブ  左手の指:クリアリング   右手の指:クリアリング
背:―          腰:―          両脚:コットンブレー     両足:コットンゲートル


Konpaku Youmu 戦士/- Lv29/-
個別特性:剣術を扱う程度の能力
戦士には装備できない武器(刀)を装備可能。武器技術(スキル)の成長が早い。武器技術の限界(スキルキャップ)が普通より高め。

メイン:グラディウス サブ:タートルシールド  レンジウェポン:―      矢弾:―
頭:アイアンマスク   首:―          左耳:―           右耳:―
胴:チェーンメイル   両手:チェーンミトン   左手の指:アンバーリング   右手の指:アンバーリング
背:―          腰:戦士のベルト     両脚:チェーンホーズ     両足:グリーヴ


Syameimaru Aya シーフ/- Lv28/-
個別特性:風を操る程度の能力
DEX(器用さ)とAGI(敏捷性)に補正。技能(アビリティ)を通常より早く覚える。通常より回復(HP)が早い。

メイン:バゼラード    サブ:マホガニーシールド レンジウェポン:クロスボウ  矢弾:アシッドボルト
頭:ビートルマスク    首:―          左耳:―           右耳:―
胴:ビートルハーネス   両手:ビートルミトン   左手の指:―         右手の指:―
背:―          腰:―          両脚:ビートルサブリガ    両足:ビートルレギンス


Alice Margatroid 赤魔道士/からくり士 Lv25/Lv12
個別特性:人形を操る程度の能力
オートマトンの人形を操る。からくり士の職業(ジョブ)を取っていなくても使用可能。通常より回復(MP)が早い。

メイン:アイアンソード  サブ:マホガニーシールド レンジウェポン:―     矢弾:―
頭:銀の髪飾り    首:―          左耳:―          右耳:―
胴:リザードジャーキン  両手:リザードグローブ  左手の指:―        右手の指:―
背:―          腰:―          両脚:リザードトラウザ   両足:リザードレデルセン
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