モグハウスで着替えているのは長い金の髪をポニーテールにした霧雨魔理沙だ。
いつもの着ているのはいつもの胴衣ではない。
純白で皺一つない、何かの祭典に出席するかのようなドレスだ。
袖の部分が肩で切れており、白い手袋は手先から肘の先まで覆われている。
戦いのための服ではない。今日のために借りてきたものだ。
これから向かう祝祭用の貸衣装。
普通に買えば云十万。汚す事はできない。
自らの姿を映す身長ほどもある鏡の前で、魔理沙はドレスを着た自分の姿に、変な所がないかを確認していた。
「アリスー。どうよ?似合ってるか?」
くるりと一回転。
膝より下まであるスカートがふわりと浮かぶ。
魔理沙と同じドレスを着たアリス・マーガトロイドは、長い白手袋を付けている最中だった。
「はいはい、よく似合ってるわよ」
「むぅ…アリスの反応が素っ気ないぜ…」
「魔理沙ー。アリスー。もうすぐ始まっちゃうから早く来いだってー」
モグハウスの扉が開き、入ってきたのはフリルの付いた可愛らしいドレスになったルーミアだ。
「げ、もうか。ならさっさと行かないとな」
魔理沙とアリスは、ルーミアと共に急いでモグハウスから出ると、そのままジュノ上層へと向かう。
薄暗い階段と通路を超え、入り組んだ道を超えて行く。
近道を知るミスラの少女から教えて貰った道を超え、ジュノ上層を目指していく。
海へと突き出た橋の上を出ると、深い呼吸を整え、歩いていく。
ここからなら歩いてもすぐだから間に合うだろう。
三人が歩くと女神聖堂が見えてくる。入り口は大きな両開きの扉だ。
そこにはすでに待っていた少女が三人いた。
「遅いわよ、魔理沙、アリス」
「わりぃわりぃ。こういった服を着るのが初めてなもんでさ」
「私はそれを着させるために遅れたんだけどね…」
博麗霊夢からの声に、だはははと応える魔理沙。
霊夢もドレスの姿になっている。違いは白の手袋は手首までしかない事ぐらいだ。
「早く中に入りましょう。時間を押してますよ」
「お、そうだな」
急かす射命丸文に少女達は、女神聖堂の中に入る。
両開きの扉を開けた途端に、隙間から漏れていた楽の根が体を包む。
鮮やかな緋色の絨毯が真っ直ぐと敷かれ、いつもの地味な模様の敷き布とは違う、典礼の時だけのものだ。
紅い布の道の左右には参列者が並び、幾重もの壁を作っている。
絨毯の先には五段ほどの雛壇があり、その向こうには祭壇がある。
奥の壁には大きな浮き彫りの板が飾ってある。描かれているのは翼のある女神。アルタナの姿だ。
その両脇には丈の長い蝋燭が燃えていた。
楽器の音は、左右に吊るされたカーテンの向こうからのようだ。
弦楽器と鍵盤楽器の音。
あまり大きな音ではない。ゆったりとしていて落ち着いた音色が、心を落ち着かせる。
「あ、キリサメじゃん。こっちこっち」
参列者の一人が、手を振っている。
スカートの丈が短いドレスを着ているのはミスラの女性だ。
シーフをやっている冒険者で、何度か依頼で組んだ事のある。
そして今回の祝祭に呼ばれた一人であり、霊夢達もそうだ。
「君達も呼ばれたんだね。あたしもこれ来た時は驚いたけども」
「だな。まさか結婚式に招待されるなんて思ってもみなかったぜ」
二日前の事だ。
モグハウスのポストに手紙が届き、中には結婚式の招待状が入っていた。
結婚するのは同じ冒険者であり、これまた依頼で共にした人物である。
エルヴァーンの女性で獣使い、もう片方はヒュームの男性で赤魔道士だったか。
港からの橋から渡れるソロムグ原野で建築された地下要塞。
魔法廃棄物を要塞にある魔法焼却場まで捨てに行く依頼で組んだ二人組の冒険者であった。
女神聖堂は、結婚式のための会場となっている。
呼ばれた参列者も、冒険者がほとんどだ。男はタキシード、女はドレス姿である。
結婚式なのに冒険者しかいないのは、旅から旅の暮らしになる冒険者にとっては故郷は遠く、こんな時に集まれるのは同じ冒険者仲間だけなのだ。
「ところでさ」
「ん?」
「あのバケツメットは何なんだ?」
魔理沙は、祭壇にいるほうに指す。
そこには全身が真っ赤な鎧を着込み派手な人物がいた。
とてもじゃないが結婚式という舞台には似合わない人物である。
頭の鎧部分は、まるでバケツを被っているようにも見えた。
「あー。もしかしてGМを見るのは初めて?なら知らなくて当然かな。あと今後バケツメットって言わない方がいいよ」
水晶大戦が終結し、その後にジュノ大公カムラナートの提唱したコンクェスト政策が実施されてからの時代。
一応は同盟関係を続けていた各国ではあるが、お互いに疑心暗鬼に陥り硬直していった状況を打破する為に、冒険者が使われていく様になった。
しかし、何でも屋に等しい冒険者といえでも、人間である事に代わりはない。
犯罪行為を手に染める者や魔物を怒らせ、別の冒険者に襲わせる事で致命的な致命傷を負わす者が現れたのだ。
そんな冒険者が増えれば冒険者の信用にも関わる。
まだ水晶大戦の傷が癒えきっていない国家にとって、報酬次第で自由に動かせる冒険者は必要不可欠であり、失うわけにはいかないのだ。
そして各国の政府は協力し、一つの機関を作り上げた。
冒険者を監視し、冒険者が犯罪行為やそれに準ずる事をしないように注意を呼び掛ける者。
水晶大戦において、勝利の要因となるべく囮として犠牲になったタブナジア侯国を称え、タブナジア語で「誓約の助言者」という名前が付けられた。
即ちジュラメント・メントレであり、略されてGМとも呼ばれる。
彼らは問題のある冒険者を監視する以外にも、何らかのトラブルに巻き込まれた冒険者が報告し、その問題を解決するケースもある。
もちろん、依頼やミッションの解決は彼らはしない。あくまで冒険稼業以外の事のトラブル解決を本義としているからだ。
そして問題があると判明した冒険者をモルディオン監獄に送り込む。監獄は、GМが事情聴取およびペナルティの宣告などをするために使用される。
何はともわれ、自由人である冒険者がヴァナ・ディールに住む者からの批判などが少ないのは、そうした者がちゃんといるからだと、ミスラは語った。
そして冒険者同士の結婚式では、祝福のためにGМがわざわざ出席するのだ。
とはいえ、結婚の指揮を執る司祭がいるため、あくまで出席するだけなのだが。
「あ、始まりますよ」
魂魄妖夢は、外の扉とはまた別の扉が開く所を見た。
ヒュームの新郎とエルヴァーンの新婦だ。
身長は長身であるエルヴァーンより、ヒュームの新朗のほうが高かった。
二人は司祭に呼ばれ、手前にゆっくりと歩いていく。
新婦のほうの衣装に目を奪われた。
主役の二人の内の一人。花嫁は白いドレスを着込んでいた。
乳白色の、淡い輝きのドレス。
いつのも、もこもことした獣使いの鎧ではない。
窓がなく、蝋燭の明かりだけの聖堂の中、まるで自ら光を放っているかのように白く輝いていた。
「綺麗なドレスですね」
「あれが結婚式、かぁ…」
妖夢と魔理沙は思わずため息が漏れた。
想像以上の変貌っぷりだった。
どちかというと彼女は姉御肌タイプだったのが今見れば、元々が端正な顔である事が相まって、何処かのお姫様のようにも見えた。
「何、欲しいの?」
「あんなおしゃれ装備を買うお金なんぞ、私らにはありませんよ」
同じように見ていた霊夢と文だが、出てきた言葉は何とも色気も糞もないものだった。
まぁ、確かにそうなのだ。
結婚式で使われるドレスは、レプリカであるが競売所などで購入する事は可能だ。
だがその値段は高い。一つの部位を買うのにミスリル製の剣が何十本も買えてしまうだろう。
一番安いコサージュでもおにぎりが何百個分…考えて魔理沙は虚しくなった。
「そうじゃなくってですね、なんていうか…なんでしょう、魔理沙さん」
「うん…なんていうか…うん」
二人の乙女心に「それは違う」と言いたかった。
値段だとか、装備だとか。そんなものじゃないのだ。
うまい言葉が思いつかない少女二人に、アリスは追い打ちをかける。
「まぁ、世の中にはあれ目的で結婚式あげる奴もいるらしいけどね」
ウェディングドレスは、女が幸せを掴むための象徴。
それを着るだけでも満足感に浸れる女性も少なくない。
そしてその言葉に魔理沙の乙女心に火が付く。
「そんな奴は乙女の風上にも置けないぜ!それじゃ意味無いだろ!」
思わず声が大きくなってしまった。
参列者の一人が振りかえり、女性が指を口許に当てて「しずかに」と合図していた。
魔理沙はこくこくと首を振る。
「そうなの?…まぁ、どうでもいいけど」
「…霊夢ってバカね」
特に興味が無さそうな霊夢に、アリスは聞こえない程度の声でぼそっと囁いた。
「でもきつそうな服だね~」
「あー、確かにな」
ドレス、といってもゆったりとした胴衣やスカートではないのだ。
ウェストのあたりがくびれ、お腹をしめつけるような服。所謂、貴婦人のような服と言えばいいだろうか?
生地が薄く、体の線が良くも悪くもそのまま出てしまう。
襟元が、透かし模様で縁取られていて、両の肩はふわりと膨らんでいる。長い白手袋が指先から腕までを覆っていて、
その端っこにも縁取り。脚も同じだ。つま先から膝まで覆う白いブーツの中の白い長靴下もまた端っこが透かし模様になっている。
(…私もいつかあんな……)
魔理沙は男勝りな性格ながらも、中身は何処にでもいる女の子だ。
いつの日か、心を共にする伴侶を得て、華やかな場で式を上げる…という夢は持っているし、憧れるものだ。
司祭の声は途切れ、二人はいつのまにか向かい合っている。
横顔になってはじめて、花婿の頭をリラコサージュに気づいた。ライラックの花で作った髪飾り。
白い花の髪飾りは、女を純潔を現しているかのようにも見える。
司祭が手にした指輪を二人が受け取り、互いの指にはめている。
指輪の交換は、どの国の結婚式でも重要な瞬間だ。
表情までは見えづらいため分からなかったが、花婿が指でそっと花嫁の目許をぬぐっていたから、恐らく涙がこぼれていたのだろう。
「では、誓いのキスを」
花婿が花嫁の顔にかかっているヴェールを掻きあげた。花婿がかすかに顔を上げ、そのまま目を閉じる。
二人の顔が近付いていく。男のほうがちょっとだけ頭を斜めにして、二人の唇が重なった。
(へぇー。女は見上げて、目を閉じればいいんだぁ…って何を考えてるのかしら)
思わず見入ってしまった。霊夢は、自分も女である事を自覚する。
聖堂に拍手が沸き上がった。
同時に参列者達の間から花びらや紙吹雪だのが舞い始める。
祝祭用の花火を撃つ者もいる。火を使わない"魔力"で点火する花火だ。
熱のない光だけの花火。薄暗いの聖堂の中に花火の光が躍る。
ヴェールを翻しているのは、誰かの唱えた癒しの風だろう。ちらちらと魔法の白い光が二人を取り巻き、輝いている。
守護の魔法は街中でも使う事を許されているため、魔道士はここぞとばかりに魔法を唱えていた。
中には"連続魔"を発動しつつ、スパイク魔法を唱え続けている。
これから夫婦となる二人は、仲間からの祝福で顔をほころばせていた。
新婦は、頭に付いたリラコサージュではない、別のコサージュを手に持っている。
ウェディングサポートを受けた二人は、結婚式前夜にタキシ-ド一式とドレス一式を手に入れたが、彼女だけは別のコサージュを持っていたらしい。
「お、ブーケストタイムだねぇ、こりゃ」
「ブーケストって…あれだよな。花を投げる奴」
「そそ。でも冒険者のブーケストは違うんだな、これが」
ヴァナ・ディールにおけるブーケトス。それはウエディングサポートで新しくコサージュをもらったときに、
いらなくなった古いリラコサージュを女性参加者間でダイスでロットインすることがある。
これでロット勝ちできた場合、そのコサージュを大事にしていれば結婚式があげられるとミスラは言う。
「へぇー、結婚ねぇ…」
言い伝えか何かのようなもんであろうか、と霊夢は思う。
少女達の脳裏にぽこじゃかと浮かんできた。
『あ、あのね…ブロントさん』
『何も言わなくていいんだが?』
『え?』
『イれウムが言わなくても俺には分かる。だから俺が先に言う。
俺は霊夢と一緒にいたいんだが…?今も、これからも…』
『ブロントさん…』
『魔理沙、大事な話があるんだが』
『お?いつもなく真剣だな。悪いがツケはまだ払えないぜ?』
『それなら心配いらないよ。だってこれから一緒になるのにツケなんていらないだろ?』
『へー、これから一緒にねぇ…て、えええええ?!何を言ってんだぜ!香霖、頭を打ったのか?!!』
『残念ながら僕の頭は正常だよ。さて、僕からのプロポーズは…』
『え、と…えと…わ、私は……』
『ブロントさん、どうかしら』
『素晴らしいドレスだすばらしい。アリsyの美しさに驚きが鬼になった』
『そ、そんなに褒めたって何もでないわよ、ブロントさ…』
『呼び捨てでいい』
『②<え?』
『これから一緒になるのでさん付けは不自然なんですわ?お?だからアリス、全力で呼び捨てにしていいぞ』
『ブ、ブロント……』
『ブロントさん!』
『ほう、着物姿だと感心するが何処もおかしくないな』
『う、すみません。幽々子様が男ならこれでイチコロなんて言ったものですから…』
『何を謝ってるんですかねぇ?俺は褒めているんだが?よんむの侍と着物姿両方そなわり最強に見える』
『そ、そうですか…?えへへ』
『ほむ、やはり妖夢は笑顔が似合うな』
『あやややや…まさか私が結婚するとはねぇ…しかもブロントさんと』
『俺だと不満ですか;;?』
『いやいや、不満じゃありませんよ。まぁ、退屈しない事は確定的に明らかですけどね』
『当然だな至高のナイトと共する事で充実した結婚生活を送る事が認可される』
『ふむ、まぁ、精々期待させて頂きますよ?だ・ん・な・様?』
『もう帰る時間になったぞレ-ミア』
『そうなのかー。今日は何のご飯かなー』
『今日も湯豆腐らしいぞ?』
『;;』
『だが、霊夢とルーミアがいるご飯は格別系の話があるらしいな』
『うん、そうだね!霊夢も待ってるから早く帰ろう!』
逞しい妄想は留まる事は知らない。
はっと気付くとすでに他の女性達はダイスを振っていた。
言葉で表すなら一喜一憂。
手にする事ができなかった女性は、恨めしそうな声を上げた。
「おっと、早く私達もやりに行こうぜ」
ブスケートのコサージュを手に入れるために、ダイスを借りる。
三つのダイスにそれぞれ一桁、二桁、三桁の目盛りがついており、1から9の数字が書かれている。
そして数字が高ければ、ロット勝ちになるのだ。
「へへーん、900台とかもう勝ちは決まったようなもんじゃん」
一番高かったのは、ミスラだった。
数字は914。中々の高数値だ。土壇場でこれを超えるダイス運を持つのは中々いない。
霊夢達もダイスを振るう。
「む…こんな時にいい値がでないわね…」
霊夢は589。
「ま、こんなものね…」
アリスは399。
「残念です…」
妖夢は681。
「運って不確定ですねぇ」
文は167。
「もう少しだったのにー」
ルーミアは883。
「じゃ、最後は私だな」
最後に残った魔理沙。
ダイスを振るい、ころころと転がる。
一桁が8。二桁が9。三桁が9。合計998だ。
「え?うそ!」
「げげげげ!まさかのビギナーズラックぅ?!そりゃないよぉ…」
「おーやるじゃねーか、嬢ちゃん」
「凄いねー」
勝ち誇っていたミスラの尻尾はしゅんと力無く倒れ、まさかの高々数値を出した事に驚く魔理沙。
周りは、その様子に驚いたようだ。
「じゃ、ブーケストはキリサメちゃんなわけだ。ほら、受け取りな」
花嫁からリラコサージュが投げ渡され、魔理沙は慌ててキャッチした。
わっと歓声があがった。
陽気な口笛と拍手が広がった。
古いといっても、職人の魂が込められたリラコサージュ。
その輝きは花嫁のつけているのと劣らない代物だ。白い花の髪飾りは魔理沙の手で淡く咲いているようにも見えた。
「こ、こんなカワイイの、私が付けてもいいのかな」
「絶対似合うってw」
「これはアルタナさまの祝福よね、絶対!」
「はやく付けてみてよwはやくwはやくwはやくw」
「むー。まぁ、仕方ないよね。キリサメなら似合うよ」
これを持っていればいずれ大事な人と結ばれるかもしれない。
そんな女の子として夢のような事が実現するかもしれないコサージュを手に入れた事に、魔理沙の顔はゆるんできた。
「あんたそんなの持ってて、使う予定あるの?」
「バカ!使うから大事にするとかそういう話じゃないんだよ!」
魔理沙はせっかくの感動に、水を差す霊夢の言葉に怒りそうになる。
「あ、そう。てっきり霖之……あー、なんでもないわ」
「おや。私はこう…まぁ、どっちでもいいですけどなw」
「な、なんだよお前ら揃いもそろってー!」
霊夢と文はとてもうざい顔をしていた。
それに顔を赤くする魔理沙。周りの冒険者も笑っていた。
「もう、知らない!お前らには絶対に見せてやらないからなッ!」
「あらま」
「おお、すねたすねた」
「バーカ!バーカ!あっかんべーだ!」
子供らしい反応をする魔理沙に、皆クスクスと笑っている。
その中で一人、ぼそっと声を零した。
「………………ブロント」
「さんをつけろよデコす……」
いつもならブロントを呼び捨てにすれば音速で決まって言う舎弟台詞だが、少しだけ思いとどまった。
それを見抜いてこそのなのか、呼び捨てにした張本人はニヤリとする。
(…野郎、とか言ったら、女の子らしくないかな…?)
コサージュを貰って乙女心が沸き出る魔理沙であるが、ここで言わなければ誰を言うのか?
しかし、思いとどまった魔理沙よりも早く、仲間達は叫んだ。
「さんを」
まず霊夢が先に言い、
「つけろよ」
妖夢が繋げ、
「デコスケ」
文が流れ的に言い、
「野郎!なのかー?」
最後はルーミアが占めた。
「すいまえんでした;;」
そしてアリスは、アワレにもブロントを呼び捨てにできずに骨になる。
見事な連携だと感心するが何処もおかしくないな。
花婿が花嫁を両腕で抱え、外に用意された騎乗用の大型鳥であるチョコボにまたがる。
あれに乗って門のところまで二人で歩くのが、門出を祝う儀式だった。
チョコボが歩きだし、何度も手を振り合った。
お幸せにーだとか、また冒険しようなーだとか、冒険者から様々な激励を受けながら二人の背中が小さくなっていく。
結婚式が終わり、一人、また一人と抜けていく。
ぼうっと辺りを見回すと、ミスラが近付いてきた。
「これから二次会に行くけど、どうする?うちのリーダーが奢ってくれるらしいけど」
どうやら式が終わったので、これから皆と飲みに行くらしい。
とても魅力的な相談だが、これから用事があるため、断らなくてはならなかった。
「悪い、今回は行けないわ。これから用事があるんでな」
「あらら。仕事熱心だねぇ。ま、がんばんなさいよ」
ミスラは、魔理沙と別れるとそのまま塔の方角へ走っていった。
体を伸ばし、骨を鳴らす。これからの一仕事に向かうために。
「よし!行こうぜ!」
「さて、地図はちゃんと手に入りますかねぇ」
文の言う、地図。
天晶堂の頭領であるアルドに依頼した非売品の地図の在り処。
それは、ル・ルデの庭のある人物が持っていると言う。
東方幻想鉄
第八話「君は何を想うのか?」
ドレスを返却し、今は冒険者の姿になっている。
モンクは拳法着を、戦士は鎧を、魔道士は胴衣を。
いつでも冒険できるように準備ができている姿であった。
ル・ルデの庭の北にある大公カムラナートの私邸。
カムラナートの留守中は一般に公開されており、そこには静けさをぶち破るかのような怪鳥の如き叫びが聞こえる。
鳥の声ではない、「きえぇぇえええい!」と空気を切り裂く雄叫びなのだ。
武術の達人である彼は、60を超える年齢ながらもその動きに身塵の衰えがない。
青色の人民服に青のキャップを被る彼は、今日も鍛錬を欠かさず鍛え続けているのだ。
そしてそんな人物を霊夢は知っている。
知らないはずがない。なぜなら幻想郷でも会った事があるからだ。
「…なんで村長がここにいるんですか?」
「はて?村長とは何の事じゃ?」
しらばっくれる爺さん。
「いや、あなたは村長でしょ?絶対そうでしょ?なんでここにいるんですか」
「ほっほっほ、若い頃は船長をやっていたが、村長と呼ばれるのは初めてじゃのう」
あくまでしらを通す気らしい。
ジュノ親衛隊の指南顧問をこなすほどの凄腕であるマート。
その実力は獣人一個師団をたった一人で叩きのめし、冒険者に事ある事に難題を与え、
冒険者からは「さっさとくたばれ糞爺」「なんで生きてるの?」「早く死んでくれ」などと大人気である。
「私達はここに来たのはあなたに用があってなのですよ」
「ほう?限界を超えに来た…というわけでもなさそうじゃの。お主らなら自力で限界の一つや二つぐらいは超えれるじゃろう」
「ええ。アルドさんから教えられましてね。氷河と遺跡の地図を良かったら譲ってくれませんか?」
文の言葉に、マートは目を細めた。
「ふむ…確かにわしはその地図を持っておるが…しかし、はいそうですかとおいそれ渡せるようなものではないのぅ」
「そこを何とか頼むぜ、爺さん」
「お願いー」
魔理沙とルーミアの頼みに、ふむ、と目を開けた。
「実はのう…わし、石碑の碑文の収集にはまっておるんじゃが…。
世界地図を描いたアイアンハート親子が残した碑文じゃ。まぁ、それは他の冒険者に取らせたからいいんじゃが…」
良くねーよ!世界中にある石碑を全部写すのがどんだけ大変か分かるか?! by 依頼された冒険者
「実は石碑にはアイアンハート親子が残した以外にも、古代の民であるジラートが残した石碑もあるらしいんじゃ(チラッ
それが欲しくてのぅ(チラッ
これから小童どもを鍛えなければならんし、ここから一番近くにあるベヒーモスの縄張りにある石碑を写してくれる者はおらんかのぅ(チラッ
まぁ、無理と言わんが、持ってくれば地図を報酬として渡してもいいんじゃが…(チラチラッ
ベヒーモスの縄張りには危険な魔物が多くてのう…。
いやならやめてもいいんじゃぞ?」
露骨にチラチラしてくる爺。しかも数々の冒険者の敵対心を集めた台詞を言い放つ。
幻想郷で村長をやっていたのとまるで変わりのにない行動に、霊夢は溜息を吐く。
「あーはいはい。よーするに、ベヒーモスの縄張り?にある石碑とやらを取ってくればいいんでしょ?」
「おお!さすが博麗のゲフンゲフン、冒険者か!うむうむ、物分かりのいい冒険者がおると安泰じゃな。
さて、石碑を見つけたらこの粘土で写しとればいい。待っておるぞ」
マートから粘土を渡される。
粘土にしては割と重く、ずっしりとしている。
ベヒーモスの縄張りは文字通り、陸上の魔獣という異名を持つ最強クラスの魔物が徘徊する縄張りだ。
とはいえ、その魔物がいる事が少なく、現れても一級廃人の手で即座に狩られるアワレとしか言いようのない状況になっているのだが。
縄張りに行くには港から階段に降り、ジュノから地下洞窟を潜ってクフィム島に向かわなくてはならない。
塔の階段を下りていく一同。
最上階から最下層まで行くと割と遠かった。
「しっかし、あの爺さんもなんで遠回しに言うかな」
「それが性分なんでしょ。人間、ストレートに生きていけないわよ」
「魔法使いがそれを言うか」
人間社会は複雑で、真っ直ぐ言うだけでは生きてはいけない。
マートの性格も、長く生きた者の結果であろうとアリスは言う。
「ところでさー、妖夢」
「はい?」
歩くたびにガチガチと鎧の音が鳴る妖夢。
新しく揃えた新しい鎧で、白い装甲と黄金の縁取りがまぶしい。
魔理沙は、それを着る妖夢に一種の疑問を抱いた。
「それって動きづらくないか?」
「…正直言うと結構動きにくいです。特に視界が…」
少女達は金策に金策を重ね、装備に関しては力量相応の代物になっている。
霊夢は黒を基調とした忍装束であるし、魔理沙はウィンダス連邦所属の冒険者でも手に入りづらいヘイトである連邦魔戦士制式外套を着ている。
ルーミアは白魔道士専用のプレートアーマーであるホーリーブレストだ。魔道士ながらも戦士と同等の鎧を誇る頑丈さを持っている。
そして文というと、市松模様が特徴的なダブレット型の防具ブリガンダインである。それ以外の部分はウール製の装備で身を固めている。
アリスのほうは、陸蟹の甲羅が作られたカラパスハーネスだ。頑丈な甲羅で作られているために、軽装ながらもそれなりに防御力を持っている。
最後に妖夢なのだが、全身のプレートメイルである鋼鉄銃士制式甲冑は、防御性能の高さと外観の美しさが相まって人気が高い。
しかしガッチガチの全身鎧であるために素早く動く事ができず、頭部の冑は、全体が守られる代わりに視界が狭くなってしまうのだ。
「私と同じで別のを買うべきだったかしら」
「んな金が今あるわけないでしょうが。最低でも石碑が終わるまでそれを付けてなさい」
「hai!」
赤魔道士であるアリスは自分と同じように鎧一式と頭の装備を別にして買うべきかと検討するが、装備を揃えたのはいいが今の手持ち金は底を尽きかけている。
鋼鉄銃士隊制式冑を売って別の装備を買うにしても、その売るのに時間がかかるため、霊夢達はそのまま石碑写しに向かう事にした。
念のために鞄の中のアイテムをチェックした後、ジュノ港の最下層にある洞窟を潜りぬけていく。
洞窟には蝙蝠が何匹が飛んでいるだけで、特に害はない。
念のために"スニーク"をかけて音を立てずに進む事にした。
起伏のある洞窟だが、壁には白い骨のようなものがあった。見た事のある壁だ。
ラテーヌや、タロンギで見た白の建造物と似たようなモノに見える。
二時間と少しを歩き続けると、洞窟を抜け、外に出た。
地面は雪で覆われていた。足を踏み込むとザクザクと跡が残る。
空を見上げると曇っているように見える。
まだ時刻で言えば昼をいくらか過ぎたばかりなのだが、曇った天候のせいで暗く見える。
「うへぇ、結構寒いぜ…」
「極寒の北海だからね…氷河だっけ?そこに行く時は厚着を用意しないとやばいかも」
寒さに身を震わせ、腕をさする魔理沙。雪が降る中でも腋を晒す霊夢でもさすが、ぶるっとしていていた。
ベヒーモスの縄張りはこのクフィム島の最北にある。
怒濤の絶海と淡雪に囲まれた不毛の地クフィム。
通路を歩けば広場が見える。遠くから見るだけでも巨人や蟹、ワームなどの魔物がいっぱいだ。
「無駄な戦いはしたくないよな…?」
「ま、練習相手にならないのに付きまとわれてもね」
視点の広いシーフの文の目には、範囲内の魔物の強さはほとんど練習相手にもならない事がわかる。
これでは鍛錬にもならないため、襲われないように"インビジ"と"スニーク"をかける事で先に進む事にした。
北を目指し、姿と音を消して向かい一行。
その過程でワームや巨人とすれ違うが、気づかない彼らはただ呆然と辺りを見回すだけだった。
「うわ、たっけぇ!」
北に向かう途中で天まで届けと言わんばかりの塔が見えた。
上を見上げれば首が痛くなるほどの塔である。
誰が作ったのか、そもそも人が作ったものなのか未だに分からないデルクフの塔。
塔には巨大な骨状の構造物と繋がっていた。
「そういや、この白い骨みたいなのってラテーヌでも見たよな。実はこの塔と繋がってるとか?」
「いやいや、どんだけ遠くまで繋がってるんですか。途中で海があるんですよ?そりゃ無茶な話ですよ」
魔理沙の見た白い骨とは、道の途中途中で見る事がある骨状の建造物の事である。
それに似たものと見たため、もしかしてそれと繋がっているのではないかと考えるが、文はそれを否定した。
クフィム島はジュノと洞窟で繋がってるが、基本的に一つの島であるため、もし骨状の建造物ががラテーヌやタロンギまで繋がっているとなると海を渡って繋げる必要があるのだ。
塔から離れ、北にある洞窟を向かう。
ここを潜れば、ベヒーモスの縄張りまで一直線だ。
一時間程歩き続け、エリアで言えばベヒーモスの縄張りに着いている。
とはいえ洞窟内だとわかりづらいので、来たばかりの冒険者はベヒーモスが現れる最奥の広場まで縄張りに着いたかどうかは少々分かりづらい。
石碑はその広場まで行く洞窟通路の途中にあるらしいために足を止めずに目的地まで向かった。
洞窟内をある程度進むと異変に気付く。
蝙蝠以外の魔物がいないのだ。
「おかしいですねぇ…」
「何がだぜ?」
「いや、聞いた話だとこの辺にはスケルトンとかの魔物がいるんですが…」
冒険者から集めた情報には、ベヒーモスの縄張りにはアンデッドの魔物が多くいるという。
それ以外にも悪霊が剣に憑依した魔物がいると聞いたのだが、一匹もいないのである。
気にしても仕方ないので、念のために"スニーク"をかけて先に進むとする。
起伏のある道を進み、安全に先を進んでいく。
通路が二つに分かれ、真っ直ぐ進めば広場に横に進めば白い石の塊があった。
横の道に進み、塊は石碑である事が分かる。
「お、こいつが石碑か。結構長かったぜ」
石碑を調べると、中心には淡い輝きをした紫色の宝石が埋められている。
取れないものかと霊夢が弄っていたが、ビクともしないので諦めた。
粘土に写そうと鞄から取り出し、文が気づいた。
「何かいますよ!気を付けて!!」
ゆらり、と石碑の後ろから何かが現れた。
細い手足と複数の目、子供の悪夢に登場するような風貌をしている。
手足のついた丸い顔には、大きな口と鋭利的な牙を持ち、頭上には怪しくゆらめく剣を浮かべている。
イビルウェポン…それも二体いる。
この怪物は、剣を操っているように見えて、剣が「本体」という悪霊の一種である。
敵が出た事で妖夢は武器である刀を抜く。
先端に小さな花をつけた黒塗りの鞘から抜かれた剣は長く、美しい銀色の刀身。
妖怪が鍛えしその刀は、幽霊を数十匹を殺傷する業物であり、使い手が達人中の達人であれば「切れないものは何もない」と言わせるほどである。
妖夢の祖父 魂魄妖忌はその言葉を実現した侍であり、妖夢でもまだ「切れないものはあんまりない」程度である。
力量が追い付き、ようやく楼観剣を振るえるようになった妖夢。
本来は侍でしか装備のできない両手刀に分類される武器であるが、「剣術を扱う程度の能力」によって問題なく振るえる。
とはいえ、両手武器なので左腕につけた盾を使いづらく、更にもう一本の白楼剣のほうは忍者の"二刀流"が無ければ同時に使えなかった。能力もそこまで万能では無かったのだ。
まずは"挑発"で相手を受け持たなければならない。
二体いるが、どちらかを狙いを定めようとし、刀と盾を鳴らそうとするが、それよりも早く、文がイビルウェポンの背中から不意打ちをした。
「一匹は私が受け持ちますから、残りのほうを頼みますよ!」
「おいおい!眠らせなくていいのかよ!」
「たぶん、こいつらの強さ的に眠りませんよ!それならマラソンでもしてたほうが確実です!」
そう言い残しながら文は霊夢達とは逆方向に撤退し、背中を切られたイビルウェポンは後を追いかけていく。
残ったイビルウェポンを妖夢が挑発し、魔理沙はその強さを感じ取ろうとして絶句する。
こいつは計り知れない強さだ。それも、胴衣の中でもかなり強力そうに見える。
(なるほどな…だから文はこいつを引き離したわけだ)
悪霊や魔法によって動く大型人形であるドールなどは魔法による睡眠が効きづらく、特に相手の実力が上であれば更に効きづらくなってしまう。
もし"スリプル"が効かなければイビルウェポンはそのまま魔理沙のもとまで向かってしまう。
魔理沙が文のやった事を理解している間にルーミアは"プロテアⅢ"を唱えた。
白魔道士が唱える守護の魔法。薄く体にまとわりつく白い輝きは、悪意ある怪物たちが与えてくる衝撃からささやかだが身を守ってくれる。
続けて"シェルラⅡ"をかけ、魔法の加護をかけた。
「ルーミア。私は妖夢をやるから、あなたは霊夢をお願い」
「おっけー」
赤と白の魔道士がまったく同じの詠唱を唱える。
詠唱を早く唱える事ができるアリスが少しばかり早く唱え終わり、ルーミアも遅れて魔法を唱える。
「「ヘイスト!」」
妖夢と霊夢に"ヘイスト"の風が包み込んだ。
体が軽くなり、攻撃速度を高める白魔法。
続けて"パライズ"などの弱体魔法をかけていくが、効き目が薄い。
もし"スリプル"を放っていれば、抵抗されていた可能性が高いだろう。
暗い洞窟の中、白刃がきらめく。
刀が振るわれる度にイビルウェポンの宙に浮く剣で受け止め、流し、逆に切りかかってくるのを防ぐ。
その間に霊夢は鉤爪のような刃がついた連邦軍師制式指揮棒を籠手として身に付け殴っているものの、本体ではない身体にさほどダメージを受けていない。
(く…見えづらい……!)
このイビルウェポンの振るう剣は意外に早い。
目で追えるが、身体が追い付かないのだ。それに加え、頭全体を覆う冑が、視界を遮って非常に見えづらかった。
「あうっ!」
左から横薙ぎする剣を盾で防ごうとするが、最初の軌道がほんの少しだけ見えなかったため、盾で防ぐのが遅れてしまった。
剣は胴体の鎧がガチリと受け止めるが、衝撃は防げず後ずさる。
それを逃さず、剣を無造作に振るうように妖夢を追い詰めていく。
「くっ、は、やい!」
洞窟で鋼と鋼がぶつかり合う音が鳴り響く。
押されているのは明らかに妖夢だ。冑で顔が見えないものの、動きに乱れができている。
勢いの止まらない剣劇。
イビルウェポンは、剣を一旦ひっこめ、剣を溜め始めた。
大きな一撃が来る事を予期し、盾を構える妖夢。
その一撃は見えなかった。
気づくと吹き飛ばれ、倒れそうになるのを必死に耐えながらも、左肩に激痛が走る。
妖夢が肩を見ると、そこには肩当ての部分が吹き飛ばされ、剣が貫かれた痕であった。
痛みとは気づかない、もしくはそれを視覚せずにいると反応しないケースがある。
無残な状態となった自分の肩を見て、更に激痛が走り、膝を着く。
盾で防いだはずなのに、肩に一撃を食らってしまった。盾を見れば線上に擦り減った跡が残っている。
"怒りの一撃"は盾を押しのけ、そのまま肩へと攻撃が向かって行ったのだ。
──げぎぎぎ!
好機と見たのか、吹き飛ばした妖夢に近付こうとするイビルウェポン。
"バインド"で足止めをかかるが、抵抗されてしまう。
このままではルーミアの"ケアル"が間に合う前に、イビルウェポンが辿りついてしまう。
そう判断したアリスは人形を起動させる。
「アクティベート!」
元々はからくり士がマトンを起動させるために言う言葉。
アリスの人形は別に言う必要はないのだが、パーティに置いて「自分は何をするのか」という合図のために叫ぶ必要があるのだ。
鞄から現れた人形は、金の長髪に青色のゴスロリを着る上海人形ではなく、着物を羽織る黒髪の人形…大江戸人形を操り、イビルウェポンに突っ込ませた。
しかしイビルウェポンは見向きもせずに人形を切り裂こうと剣を振るい、それをアリスは巧みな人形捌きで紙一重で回避、そのまま大江戸人形をぺたりと張り付いた。
「食らいなさい…アーティフルサクリファイス!」
極細の糸から"魔力"を流し込まれ、大江戸人形に備わった機能が発揮される。
その機能とは…自爆。大きな音と共に爆発をし、イビルウェポンはそれに耐えきれず、少しばかり吹き飛んだ。
アリスの人形はからくり士のマトンとは違い、一体ごとに出来る事が限られている。
上海人形であるなら攻撃の補助を、大江戸人形であるなら爆弾のように、倫敦人形ならば霧で相手の視界を奪う事も可能だ。
出来る事が限られているからこそ、戦況に応じて人形を使い分け、戦うのがアリスのやり方であった。
大江戸人形の殉職によって時間は稼がれ、"ケアル"を何度か貰い、傷が塞がり痛みも消えていく。
立ち上がり、刀を構える妖夢。
先ほどの攻撃ですら傷がついていない。だが、イビルウェポンの動きが少しだけ鈍って見える。
どうやら自爆ついでにセメント爆弾で鈍くしているようだ。抜け目がない。
動きが鈍っているなら、両手刀の武技を放っても当てられるだろう。
呼吸を正し、一足を踏み込んだ。
「壱之太刀…」
刀を構え、稲妻が駆け抜けるかの如く、侍の牙を走らせた。
相手の刀身が迫る中、その刀身を滑らせ相手の攻撃を逸らすと同時に、肩口へかけて袈裟懸けを逆方向に駆けると、その道をなぞるように手首を返して斬り付けた。
この二つの奮撃を一息にも満たない一掬の間にやってのける。
それはせせらぎに身を委ねて流れる川のように、微風に揺れる木の葉のように。連続の斬撃。一挙一動へまるで無駄がない。
流れるように。滑るみたいに。尚且つ力強く。典雅にして強靭。正にその様は剣舞と呼称するのに相応しいその技の名は…。
「燕飛!」
イビルウェポンの身体に二つの傷が引き裂かれた。
だが、浅い。深く切るはずだったのだが、切られる直前。更に言えば"怒りの一撃"をそらされた時点でイビルウェポンは回避行動に移っていたのだ。
霊夢は妖夢が"壱之太刀・燕飛"を放つのを見た時、それに合わせた武技の準備は終わっている。
地面を強く前に蹴り"タックル"を相手の身体目掛けてブチかます!
本体ではない、剣が操る肉体がその攻撃に飛ばされ、同時に"振動"が起こっているかのように肉体が震えている。
"連携"が起きた事を確認すると魔法を唱える。
魔理沙は平均より比べて少ない"魔力"を運用するために消費する量を低減する術を身に付けている。
これから唱える魔法は、範囲魔法とされるものだ。
効果は文字通り、範囲内に魔法の効果を与える。しかし、黒魔法に限っては範囲内にいる敵が少なければ少ないほど、効果が倍増される性質を持つ。
「ウォタガⅡ!!」
イビルウェポンに水の奔流が襲い掛かった。
"振動"の"連携"に下げられた耐性は水。
為すすべもなく水に飲みこまれ、水の元素がイビルウェポンの体内の元素を狂わせ、内側から壊していく。
パシャン、と水の塊が弾けると大気に変換し切れなかった水は地面とイビルウェポンを濡らしていた。
"ウォタガⅡ"は魔理沙と覚えている黒魔法の中で強力な代物だ。
並みの魔物であれば、魔法の連携によって下げられた耐性に食らえば一溜まりもない。
しかし、イビルウェポンの無数の目は死んでいない。否、更に殺気が強くなっている。
「マジかよ…あんまり効いてないぜ……」
これには魔理沙もショックだ。自慢の魔法が効いていないのだから。
良く見れば霊夢の"タックル"もダメージが無さそうに見える。
計り知れない強さとはいえ…まさかここまでとは。
「文は…平気なの?」
戦い始めて時間は少しばかり経っている。
たった一匹を五人で戦ってここまでの強さなのだ。
一人でもう一匹のイビルウェポンを相手にする文。果たして無事なのか…そう思わずにいられないアリスだった。
文は逃げている。
シーフの逃げ足をフルに使い、死神の魔の手から。
「はぁ…!はぁ…!はぁ!」
息が切れ切れだ。
ここまで疲れるのは何時ぶりであろうか。単純に走るだけなら息が切れる程度の柔な体力はしていない。
だが、その外形が傷だらけであった。
金属の板で頑丈に補強されたの革鎧は所々燃えたような焦げ目がついており、ウール製の小手は血で赤く染まっている。
歩くたびにぽたぽたと血が落ち、その凄惨具合が分かる。
「失敗…でしたね!まさかこいつが…!」
追う者は詠唱を唱える。
それは人間だけが使える奇跡ではない。
野生に生きる獣であっても。人とは違う獣人であっても。生きていない者でも扱う魔の術。
「ぐっ!」
空気の流れが乱れ、それを察した文は逃れるように横に跳ぶが、間に合わずに風の刃が文を襲う。
今度は足の太腿にスパッと切り裂いた。もし少しでも遅れたら足が丸々一本が持っていかれたかもしれない。
大量の血が噴出し、近くにある岩の壁に血の化粧が施される。
走るのをやめない。普通の人間であれば、もはや動けないであろうが、文は妖怪だ。
普通の人間に比べて頑丈であるし、例え五体がバラバラにされても完全な"死"を迎えるまで妖怪は死なない。
しかし、さすがに痛いものは痛いし、傷が深ければ動きにも支障がでる。
足をやられたのは痛かった。走るスピードが遅くなってしまう。
距離が離れているのに一方的に攻撃を加えてくる文を追うイビルウェポン。
「赤魔道士とは…やっかいな事で!」
文が受け持つイビルウェポンは赤魔道士だったのだ。
なぜ黒魔法を食らう文が、相手を赤魔道士と断定するか。
それはイビルウェポンが途中途中で魔法を唱える時、補助の魔法を自分自身にかけていたからだ。
霊夢達から引き離すのは成功したとはいえ、そろそろ文の身が危なかった。
肉体を回復させるハイポーションや、"リジェネ"の効果をもたらす梨味のミルクであるペア・オレで魔法を食らうたびに回復させていたが、あとハイポーションは一本しかない。
「これで最後…!」
ハイポーションの蓋を開け、鋭利的な刃物で切られたような太腿にぶっかけた。
裂かれた傷口に液体をかける痛みに歯を押さえ、無理矢理耐える。
血が止まらなかった傷は塞がっていき、完全には治っていないとはいえ、いくらか走るのが楽になる。
「せめて助けが呼べればいいんですけどねぇ!」
ベヒーモスの縄張りではベヒーモスが現れる時間帯になれば一級廃人が詰め寄ってくるが、それ以外の時は人っ子一人いないのだ。
そのため、助けは期待などできない。最悪の場合、呪符を使って倒される前に帰還するぐらいしかないだろう。仲間達を置いて。
そうなってこのイビルウェポンが元の場所に行くのが更に最悪なケースだ。
逃げているだけでも分かる相手の強さ。幻想郷にいた頃の強さならまだ戦えただろうが、ヴァナ・ディールの実力では歯が立たないと分かる。
そうならないようにも、遠くへ引き離す必要がある。
幸いにも、スケルトンやゴーストなどのアンデットはいない。このまま逃げ切れば行けるはず。
そう思っていた。
イビルウェポンはいい加減痺れを切らせていた。
どれだけ魔法を撃っても倒れない獲物に対して。
ならばと、やり方を変える。
魔法で倒れないと言うならば自らを武器にして直接殺せばいい。
しかし、今の距離からでは届かない。イビルウェポンは足が遅いのが難点だ。
だからイビルウェポンは獲物の足を止める魔法を唱えた。
それが攻撃魔法であればまだ耐えれたかもしれない。
それは攻撃ではなく、弱体に属する魔法であった。
「ま、ずぅ!」
足が止まった。一歩も動けない。
唱えた魔法は"バインド"。普通ならあまり使われない魔法であるが、今回ばかりは役に立ったようだ。
しかし、それは文にとっては死刑宣告に近い。
致命的な致命傷になりかねない魔法を直撃しないようにして逃げて、それでもズタズタにされたというのに、今無防備となった状態で攻撃を食らったらどうなってしまうのか?
イビルウェポンが近付いてくる。
文は理解した。魔法ではなく、直接、剣で攻撃しにかかるのだと。
早く解けろ、早く解けろと念じる。
"バインド"の効果時間はそこまで長くない。長くても30秒も続けばいいほうだろう。
足音が近付くにつれて焦りが芽生え、足が動くその瞬間、
振り返るとすでにイビルウェポンは剣を刺突する構えになっており、
文の目の前で鮮血が舞い、洞窟内にある白い雪が紅く染められた。
だが、それは文の血では無かった。
心臓を目掛けて刺突された剣は、文の前に立つ魔道士によって阻まれたからだ。
髪の毛は赤の混じった金髪だ。肩まで伸びている髪をポニーテールにして結んでいる。
魔道士だと分かるのは魔道士が好んで着込む胴衣、それも高位な代物だと分かったからだ。
身を挺してかばったその姿は、まるでナイトのようであった。
腕に刺さった剣はずるりと抜き取られ、血がとめどなく流れる。
血は白の袖を赤く染めるが、魔法を唱え、傷を回復させた。
剣を貫通した腕の傷は時間を巻き戻すかのように治っていく。
「大丈夫ですか?」
「え?あ、はい…って、そっちのほうが大丈夫なんですか?!」
「問題ありません。このぐらいなら慣れてますから。……今は」
イビルウェポンは剣についた血を払うよう振り、次の狙いを魔道士である少女を定めた。
「レジェンドウェポン…なぜここにいるのは分かりませんが…倒させてもらいます!」
「が、はぁ…」
「妖夢!ケアルⅢ!!」
乱暴とも取れる無造作な一撃に膝をつく妖夢。
甲冑の隙間から血が流れ、ルーミアの癒しがそれを治していく。
刀を杖に立ちあがり、再びイビルウェポンに切りかかっていく妖夢。
「…sYれにならないわね…この強さは」
「やばいぜ、この状況」
二人の魔道士は状況を冷静に見ながらも、自分達の不利は覆す事はできない。そう判断してしまった。
目の前のイビルウェポンは"強すぎる"のだ。
どれだけ攻撃を加えてもダメージにならない頑丈さ。逆に一発でも食らえば不利になる相手の火力。
この状況、昔にも体験した事がある。
「スコーピオンの時と同じかよ!無茶苦茶だぜ!こいつ!」
魔理沙は、まだ冒険者として少しばかり慣れ始めた頃を思い出す。
依頼でタロンギ大峡谷にあるシャクラミの地下迷宮で発掘した時に出会ったサソリの怪物。
あの時は実力が無く、まるで勝負にならなかった。状況そのものはあの時とまるで変わっていない。
拳を打てど傷にはならず、刀で切りつけば剣で受け流す。
魔法で攻撃しても抵抗で耐えきってしまうあるさま。
戦術の幅で言えば、スコーピオンの時と比べて大幅に増えている。
実力差があるのにも関わらず、ここまで戦えてるのはそのためなのだが、それだけではこのイビルウェポンには勝てない。決め手が欠けているのだ。
霊夢の拳では。妖夢の剣では。魔理沙の魔法では。
どれをとっても致命的な致命傷にはなりえない。
だが、致命的な致命傷を食らった妖夢の目には、大江戸人形の自爆でかすかだが顔を変えていたイビルウェポンの姿が見えた。
もしかしたらこいつの弱点は、と次の太刀を食らわせる。
「四之太刀…陽炎!!」
楼観剣に"気"が流し込まれ、燃え盛る火炎が刀を纏う。
胴を薙ぎ払うかのような一閃と共に、イビルウェポンに炎が舞う。
この一撃に碌に攻撃が通じなかったイビルウェポンの目が怯んだ。こいつの弱点は火なのだ。
「だったら狙わないわけないわよねぇ!全段余さず持っていきなさい!!!」
一撃、二、三、四、五――!
拳と蹴りを交えた五発の"乱撃"。確かな手応えを感じた霊夢。
火を衝撃で大きくした"気"は"連携"となってイビルウェポンを包みこむ。
この機を逃すわけにはいかない―!
「アリス!ルーミア!」
「分かってるわよ!」
「いいよー!!」
魔理沙の号令と共に、三人の魔道士はそれぞれ魔法を唱える。
黒魔道士は業火の魔法を。
赤魔道士は炎の魔法を連続で。
白魔道士は光の魔法を唱え上げる。
「ファイガⅡ!」
「ファイア!ファイア!ファイア!!」
「バニシュガⅡ!いっけー!」
炎に次ぐ炎。爆炎を洞窟に鳴り響かせてイビルウェポンを燃やしていく。
その熱風に巻き込まれないように離れた霊夢と妖夢ですら熱さが直に感じられる程だった。
追撃の光の乱舞で更にダメージは加速する。光の元素がイビルウェポンを付着すると弾けるように爆発しているようだった。
炎の中、イビルウェポンが初めて叫び声をあげる。
「やったの?!」
「霊夢!フラグを立てんな!!」
露骨なフラグ立てに声をあげる魔理沙。
炎が大気に還り、イビルウェポンの姿を現す。
身体中の細かい部分が黒炭のようになっており、目がいくつか潰れているよう見えた。
本体である剣も焼け焦げたような炭がついている。
まだこれだけの傷を負いながらも戦意が落ちておらず、歯ぎしりするようにギリギリと音が鳴る。
「へっ…さすがに無傷じゃねぇか」
倒せなかったとはいえ、それでも傷を与えれたという結果は大きい。
弱点も炎である事も判明した。そうと分かれば怖いものではない。もう一度連携をこなせば倒せるはず…そう考える魔理沙だが、イビルウェポンは剣をぐるぐると回転し始める。
「なんだ…?」
回転するスピードがだんだんと早くなり、それは無慈悲に荒れ狂う台風のように辺りを滅茶苦茶に切り付けまくった。
それは旋風だ。一撃を重視するのが"怒りの一撃"ならば、これは範囲を目的とした"怒りの旋風"。
「やべぇ!」
「あっ!!」
「あう!」
「がぁ!」
「きゃあ!」
頑丈な壁に裂け目を作るほどの旋風は霊夢達にも襲い掛かる。
剣が鎧と胴衣を切り裂き、柔肌を無残にもバラバラに引き裂いていった。
特に近くにいた妖夢と霊夢の被害が大きい。
前衛にいたためか、被害をもろに受けてしまい、鎧を着ても衝撃が貫通する威力を持つ旋風は、全身に鎧を着込む妖夢ですら致命的な致命傷を与える結果になった。
「ぐっ…おい、霊夢、生きてるか?」
「ギリギリよ…それより妖夢、が……」
膝をつき、荒い吐息を出しながらも仰向けに倒れる霊夢に近付く魔理沙。
傷はひどいが、霊夢の傷が少しだけだが塞がっている。
"チャクラ"だ。"気"の流れを全身に渡るようにし、肉体を少しだけ回復するモンクの特技。
鞄にあるありったけのハイポーションで相手は襲ってきてもいいように傷ついた体を回復させる。
アリスとルーミアも"ケアル"で治療をしているが、妖夢だけが立ちあがらない。
瀕死の状態で"ケアル"では回復は追いつかないのだ。
ルーミアは"ケアル"から賦活の魔法である"レイズ"に切り替えるが、"レイズ"は詠唱が長い上に、瀕死から回復してもしばらく衰弱して戦えるような状態ではない。
辺りをひゅんひゅん振り回した剣がイビルウェポンの頭の上に戻る。
すると足を動かし、霊夢達に目掛けて走る。
盾がいない以上、霊夢が押さえるしかない。
いつでも"カウンター"を取れるようにかまえた。
「ホーリー!」
光臨がイビルウェポンを捉え、光の爆発を引き起こした。
致命傷にはならなかったとはいえ、動きが止まるイビルウェポン。
声が聞こえた。メンバーにはいない、覚えのない声が。
"ホーリー"は聖属性の魔法であり、ある程度熟練した白魔道士とナイトなら使える魔法。
だが、ルーミアにはまだ使えない。
「良かった…間に合いましたね」
文だ。全身がズタズタのように見えるが、それは装備だけのようだ。血の匂いがするものの、彼女自身に傷はない。
なら"ホーリー"を唱えたのは?
「あとは私に任せてください…私が倒します!」
紅白の胴衣を着る少女が声をあげた。
白魔道士のアーティファクトを着る彼女は、腰にかけた黒い槌を構え、イビルウェポンに挑みかかる。
「シェイハッ!」
突然割り込んできた少女に、怯むイビルウェポン。
流れるような無駄のない動きだ。
まず上から下へと上段に振り下ろし、イビルウェポンはそれを剣で受け止めようとする。
しかし、それはフェイントだ。振り下ろした一撃を返し、真横の左からぶちかました。
──げげ?!
「シェイハシェイハッ!」
理想のテンポで次々と鈍器を叩きこむように当てて行く。
少女の姿が早いのもあるが、イビルウェポンの動きが目に見えて鈍いようにも見える。
"連携"が効いていたのだ。だから旋風のごとき大技を繰り出したのだろう。
「シェシェイッ!ハァーシェイッ!」
無茶苦茶なように鈍器を振り回すが、その全てがイビルウェポンの体を的確に当てていた。
攻撃が当たるたびに鈍い音が鳴り、イビルウェポンの顔が歪む。
頭上の剣の動きが止まり、溜める動作に入った。
「させませんよ!フラッシュ!!」
詠唱を破棄する勢いで唱えた魔法が辺りを強く照らし、霊夢はその光に思わず目を瞑る。
ほんの少しだけだが強制的に暗闇状態にする"フラッシュ"を受けたイビルウェポン。
目が見えぬ状態で放った"怒りの一撃"だが、見当違いの方向に撃ってしまう。
少女はその隙を逃さない。
「これでぇ!」
"気"が鈍器…ダークモールに注がれる。
撃つのは白魔道士の奥義。その白魔道士にあるまじき火力がイビルウェポンを襲う。
「ヘキサストライクッ!!」
霊夢の目には六回、イビルウェポンに叩きこまれるのが見えた。
だが、見えただけだ。もしあれが己に向かわれて撃たれたとしたら?
博麗の巫女として最大限の力で迎え撃たなくては回避も防御もおこがましい、それほどの一撃であった。
一撃目が小さな腕をぐしゃりと潰し、二撃目が返しにもう一つの腕を潰す。三撃目が無数ある目を破壊し、四撃目で下から上に撃ち上げるように顎を壊し、更に歯も粉々にしていく。
五撃目に入ると浮いたイビルウェポンの脳天から全力で振り下ろし、胴体である部分を潰した。
「終わりッ!」
最後の六撃目が体を動かしていた「本体」である剣を打ち砕く。
小さな小さな破片となり、地面にばらばらと落ちるイビルウェポンの剣。
すると、体のほうが消滅するように消えていった。悪霊の剣に操られていた体は、剣が無くなり、解放されたからだ。
「……つえぇ」
魔理沙は呟く。
あれだけ苦戦したイビルウェポンを一人で倒してしまったのだから驚きが鬼になったのだ。
いくらか弱まったとはいえ、彼女の実力は一級廃人レベルに到達している…そう分析した。
「うう…た、戦いは終わったんですか…?」
"レイズ"を受け、何とか起き上がる妖夢。
「おいおい、無理すんなって。ま、助けがあって生き残れたけどな」
「そ、そうですか。え、と…?」
妖夢が助けにきた少女を見て言葉を失う。
まさか自分たちを救援したのは、自分達よりも少しばかり年上(妖夢、文、アリスは除く)の少女なのだから。
だが、外形だけで冒険者の強さは判断できない。
何せ小山ほどの大きさを持つ巨羊を拳一つで浮かした少女がいるのだから。
「あ、名乗り遅れましたね…私はモワンヌ…昔の仲間からはモインと言われていました」
「モインさん…いえ、モワンヌさん。礼を言うわ。あなたがいなければやばかったかも」
「ふふ…モインでいいですよ。そっちのほうが慣れますから」
モインは愛称である事に気づき、すぐにモワンヌに切り替える霊夢であったが、モインは微笑みながらそのままでいいと言った。
「文もモインさんに助けられたのか?」
「ええ。ギリギリ間一髪。いや、本当に危なかったですよ。もうこんな危ない橋は渡りたくありませんねぇ…」
「びっくりしましたよ。ここには滅多に人が来ませんから、戦いの音に気になって来たんですけど…」
モインが話すには彼女は奥にある広場にいると、ベヒーモスと戦う以外に人が来る事が無い縄張りに戦いの音がするのが聞こえ、様子を見に来たらしい。
そしてイビルウェポンに追われていた文を助け、文の話を聞き、そのまま霊夢達の救援に急いだのだ。
「へぇ~。じゃあ、ベヒーモスって奴はもうすぐ出るのか?」
「いえ、出ませんよ?ベヒーモスが現れるなんて一カ月にあるかないかですから」
あれ?と魔理沙は思う。
モインほどの腕前であるなら、意味もなくベヒーモスの縄張りにいるだろうか?
鍛錬にしてもここの魔物であるなら練習相手にもならないだろう。
「そういえば…道中にアンデットがいませんでしたが、あれは?」
「ああ、それは私です。ここまで来るのに邪魔になるので襲い掛かる魔物は全て倒したのですが…まだ残っていたみたいですね」
つまりこのエリアにいる魔物はモインの手で全て葬られた…その事実に皆が驚く。
まぁ、その御蔭で大して襲われずに進めたし、文がイビルウェポンから逃げるのにも安全に行けたからいいのだが。
「んー。ベヒーモスでもないし、モインさんの腕ならこの辺の魔物なら勝負にならないよな?じゃあ、なんでだ?」
深くまで詮索する気はないが、やはり疑問である。
一級廃人はその性質上、効率主義になりやすい面も持っている。
もちろん、効率とはかけ離れたやり方をしながらも一級廃人に届く者がいるとはいえ、そんなのは稀だ。
「私がここにいる理由ですか…え、とですね…帰りを、待っているんです」
「帰り、ですか?」
「こんなところに帰ってくる人なんているのか?」
文と魔理沙の疑問は最もな事だ。
基本的に魔物の巣であるベヒーモスの縄張りに帰る人などいるのだろうか。
「別にここでなくてもいいんです。ここは私の好きな場所で、一番思い出のある場所だから。
だから私はここで、待っているんです。いつか帰ってきてくれた時、寂しくないように『おかえり』って言えるように」
モインがベヒーモスの縄張りにいる理由は、別離してしまった仲間達がいつの日か、帰ってきた仲間が一人でいないように待ち続ける事だった。
今はどうしているのだろう?
大きな体格に見合った力強さを持つガルカの戦士。
陽気ながらも仲間を思う気持ちは忘れないタルタルの黒魔道士。
兄弟と言われる程に仲の言いヒュームの黒と赤の魔道士。
一人だけ、様々な重圧に耐えてきたエルヴァーンの吟遊詩人。
それを支え、決して表に出す事のないガルカのナイト。
戦士から忍者へと移り、強さに拘ったヒュームの忍者。
その忍者と共に戦場を駆け抜け、時には呆れ、時には叱咤をしながらも忍者を支えたミスラのシーフ。
そして、謙虚のナイトと自称した……
「『おかえり』と言ってあげるまで、私はここで…唄い続けるの」
その時のモインの顔は、少女ではなく、仲間を待ち続ける冒険者であった。
★
移送の魔法の影響で視界が暗くなり、瞼を開ければそこはクフィム島からジュノ上層。
《シグネット》に記憶させた拠点に送還させる"デジョンⅡ"を貰い、帰還したのだ。
外はまだ明るい。薄暗い洞窟の中で長時間いたため、少しばかり目が眩しくて痛かった。
「くぅ~。今日も疲れたぜ…しかもデジョンに魔力の泉使って精神的にやばい…」
一番最後に拠点から移送されたのは"デジョンⅡ"を使った魔理沙だ。
"デジョンⅡ"の"魔力"の消費が、他人に移送の魔法をかけられるだけあって桁違いに大きい。
そのため、一時的に"魔力"を湯水のように使える"魔力の泉"で無理矢理仲間達を飛ばし続けたのだ。
「お疲れ様…私達は依頼を報告しに行くけどどうする?」
「私はパス。モグハウスで休んでるぜ」
「私も。体が重いので先に休みます」
「そっ。じゃあ、行ってくるからしっかり休んでおきなさいよ。帰りに食べ物買ってきてあげる」
塔まで一緒に行くと、妖夢と魔理沙を残し、霊夢達は上の階であるル・ルデの庭に行くために階段を昇っていった。
魔理沙は"魔力"の消費と"魔力の泉"の影響で、妖夢は衰弱した体を無理をしないために一足早くモグハウスに戻る事にした。
「よし、モグハウスに行くか…階段昇れるか?」
「そのぐらいなら平気ですよ」
階段を上がっていき、モグハウスに繋がる通路を歩いていく。
その通路では何人もの冒険者や、塔の中で住む住居民とすれ違っていく。
「モインさんの事だけどさ…」
「はい?」
「いつか、帰ってくれるといいな。仲間の人」
「そうです、ね…」
いったい彼女がどれだけの月日をクフィム島の最北で待ち続けているか分からない。
それはとてもつらいはずだ。寒いだとか、肉体的な意味ではない。
待ち続けるとはそれだけ精神に来るものなのだから。
あれだけ彼女が思う仲間とやらが彼女の元に帰ってくる事を、少女達の信頼する騎士との別れになる事も知らずに祈らずにいられなかった。
石碑を写した粘土を渡せばマートから氷河の地図が手に入る。
そしてそれは、最後の冒険になるはずだ。八雲紫からの依頼を果たしに行くために。
悔いに残らない冒険にする。
そうするために、魔理沙は体を休めるためにモグハウスの扉を開き、そのまま真っ直ぐとベッドに向かうとベッドに飛び移り、胴衣を着たまま眠りにつくのであった。
……To Be Continued?
Hakurei Reimu モンク/- Lv51/-
個別特性:主に空を飛ぶ程度の能力
状態異常を受け付けない。通常より成長は早い。
メイン:連邦軍師制式指揮棒 サブ:― レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:忍鉢金 首:ファングネックレス 左耳:― 右耳:―
胴:忍上衣 両手:忍手甲 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:茶帯 両脚:忍袴 両足:忍脚絆
Rumia 白魔道士/- Lv48/-
個別特性:闇を操る程度の能力
一瞬だけ相手を暗闇にする事が可能。耐性無視だが、近付かなければならない。通常より回復(HP)が早い。
メイン:チェスナットワンド サブ:オークシールド レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:― 首:正義バッジ 左耳:― 右耳:―
胴:ホーリーブレスト 両手:連邦魔戦士制式手袋 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:モブワサッシュ 両脚:連邦魔戦士制式下衣 両足:連邦魔戦士制式革靴
Kirisame Marisa 黒魔道士/- Lv48/-
個別特性:主に魔法を使う程度の能力
八卦炉サポートによる魔法詠唱を短縮化(ファストキャスト)&魔法攻撃力増加。魔力(MP)が平均より少ない。
メイン:ミリタリーポール サブ:― レンジウェポン:― 矢弾:八卦炉
頭:ウィッチハット 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:連邦魔戦士制式手袋 両手:連邦魔戦士制式手袋 左手の指:クリアリング 右手の指:クリアリング
背:― 腰:モブワサッシュ 両脚:連邦魔戦士制式下衣 両足:連邦魔戦士制式革靴
Konpaku Youmu 戦士/- Lv50/-
個別特性:剣術を扱う程度の能力
戦士には装備できない武器(刀)を装備可能。武器技術(スキル)の成長が早い。武器技術の限界(スキルキャップ)が普通より高め。
メイン:楼観剣 サブ:王国従士制式盾 レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:鋼鉄銃士隊制式冑 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:鋼鉄銃士隊制式胴鎧 両手:鋼鉄銃士隊制式篭手 左手の指:アンバーリング 右手の指:アンバーリング
背:― 腰:シルバーベルト 両脚:鋼鉄銃士隊制式股当 両足:鋼鉄銃士隊制式鉄靴
Syameimaru Aya シーフ/- Lv48/-
個別特性:風を操る程度の能力
DEX(器用さ)とAGI(敏捷性)に補正。技能(アビリティ)を通常より早く覚える。通常より回復(HP)が早い。
メイン:ボーンナイフ サブ:革の盾 レンジウェポン:パワークロスボウ 矢弾:アシッドボルト
頭:ウールキャップ 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:ブリガンダイン 両手:ウールブレーサー 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:傭兵隊長のベルト 両脚:ウールホーズ 両足:ウールソックス
Alice Margatroid 赤魔道士/からくり士 Lv48/Lv24
個別特性:人形を操る程度の能力
オートマトンの人形を操る。からくり士の職業(ジョブ)を取っていなくても使用可能。通常より回復(MP)が早い。
メイン:ホーリーデーゲン サブ:バックラー レンジウェポン:― 矢弾:―
頭:エレクトラム髪飾り 首:― 左耳:― 右耳:―
胴:カラパスハーネス 両手:カラパスミトン 左手の指:― 右手の指:―
背:― 腰:モブワサッシュ 両脚:カラパスサブリガ 両足:カラパスレギンス
楼観剣の性能をヴァナ風に表すとこんな感じ
楼観剣
Rare Ex
D70 隔430 STR+3
追加効果:アンデッドキラー
Lv50~ 妖夢専用