探索をほとんどせず配信ばかりしているS級ダンジョン探索者 作:シナイー
流石に十年以上ダンジョン探索をしていると、どうしても飽きというものはやってくるもので。
特に俺の場合、青春時代のほとんどを探索に捧げたから、必然的に燃え尽きというやつは発生してしまう。
で、そんな折にダンジョン配信なんてものが流行りだしたわけだ。
俺としては、そっちに興味が移ってしまうのも無理はないという話。
なんというか、久しく忘れていた視点ってやつを俺に与えてくれたのだ。
一応、俺はこの国でも数少ないS級探索者の一人――要するに、探索者の中でも頂点に位置する立場にある。
だから、どうしたって探索をするってなるとかなり”ガチ”になるし、危険が伴う。
しかし最近のダンジョン探索は、コンプラ意識の発展からかなりの安全対策が為されており、素人でもリスクを避けて探索を行うことができる。
これがまた、俺には本当に新鮮だったんだ。
――結果、自分自身もまた配信を始め、俺はこれにドハマリした。
ただ、最初のうちはあんまり人がつかなくて大変だったな。
幸いなことに、S級の配信者は珍しいからか最初のうちは人がついた。
しかしS級の戦闘なんて、素人に見せても目で追えない、何やってるかもわからないってことで人が離れていったのだ。
ただ、そこから残った人相手に色々と試行錯誤を続けた結果、なんとかリスナーの数を増やせるようになった。
どうやったかっていうと、まぁ、単純。
■
「よーし、今日はクリムゾンドラゴン……俺達の間だと赤ドラって呼ばれてるドラゴンの肉を調理していくぞ」
:キター
:マジで調理するのか……ツイート見たときは何かの冗談だと思ったのに……
:すげぇ、クリムゾンドラゴンの頭が後ろに置いてある……
現在俺は、料理配信のためにスタジオを借りて、配信を行っていた。
いや、普通に料理するだけなら自宅でもいいんだが、せっかく赤ドラ使うなら赤ドラの顔をバックに見せたいと思ってな。
その場合は、どうしてもスペースが必要になってしまう。
顔だけで俺より余裕でデカイんだぞ?
全長が数十メートルあるからな、こんなん自宅におけるわけない。
「ドラゴン肉って、一般的には硬いイメージがあるよな。輸入の牛肉ステーキみたいな、ギシギシした感じ。でもアレって、基本出回ってるドラゴンがレッサードラゴンだからなんだよ」
:もう名前からして普通のドラゴンより劣ってそう。
:レサドラパイセン! 素人が初心者脱出のために戦う相手の定番であるレサドラパイセンじゃないか!
:配信が流行り始めた初期に、当時の有名配信者とかがレサドラ討伐とかやって、バズってたよな。
:今じゃ料理のためだけに赤ドラ狩ってくるバケモンがいるんですけどそれは……
:そのバケモン全然仕事しねぇじゃねぇか。
わいわいと、なんだかんだ配信は賑わっている。
俺の配信の特徴は、何と言っても俺の話にリスナーがついてこれること。
こちとらS級探索者なんだから、多少なりともダンジョンに対する知識は豊富だ。
それを雑談やらなんやらで話していたら、リスナーもそれについてこれるようになったのである。
「その点、赤ドラは最高の素材だ。強い魔物の肉は美味い、これダンジョン探索者の常識な」
:そんな常識持ってるのトップクラスの探索者だけなんだよ。
:一般人が相手するのはゴブリンとかその辺りの、食べるって選択肢が浮かんでこない奴らばっかじゃねぇか。
なんて言いながら、まな板の上の肉にすっすっと包丁を差し込んでいく。
既にブロックの塊となっていた肉が、一枚のステーキとして姿を表すのだ。
赤々と艶のある肉は、如何にもうまそうで食欲をそそる。
「んじゃ、こいつを豪快に焼いていくぞ」
:料理配信とはいうけど、あまりにも参考になる部分がなさすぎる。
:でも豪快な男飯、お嫌いですか?
:……大好きです。チャーハン、作りてぇ……
:言えたじゃねぇか……
:聞けてよかった。
なんか勝手に盛り上がってるチャット欄はともかく、言っている内容はご尤も。
普段ならもう少し色々と工程のある料理をするんだが、今回は本当にただ肉をステーキとして焼くだけだ。
こんなんで料理配信として成り立つのか、と思うかも知れない。
ぶっちゃけ料理配信としては成り立ってないけど、こういう配信は普通にアリだろ。
「ところで、赤ドラを始めとしたレッサーじゃないドラゴンの肉がどうして高いか知ってるか?」
:数が少ないからだろ。
:通常のドラゴンですら、ほとんどみたことないぞ。
「まぁそれもあるんだが、理由は単純でな――硬すぎて食えない」
:あぁー。
:まぁ……レッサーですら硬いのに、それより強いってことは防御も硬いってことだもんなぁ。
単純な話しだが、魔物は強くなればなるほど防御力が高い。
それを食べるとなると、一般人じゃどうしても無理だ。
だからこそ、ドラゴン肉にはある処理が施される。
「そこで大事になってくるのが、
:はえー。
:やり方が脳筋すぎる。
「つまり、防御デバフが必要ないくらい強くなれば、ドラゴン肉はもっと安くなるわけだ。そこで今回、俺は自分が食べる分のステーキにはデバフをかけない。これでだいぶ費用が浮くぞ」
:草
:草
:費用浮かせる必要ねーだろてめー!
というわけで、じゅうじゅうといい匂いをさせながら肉が焼き上がって参りました。
この匂いはリスナーには届かないものの、もう肉の焼き上がる雰囲気だけで伝わっているのだろう。
コメントは「美味そう」などで埋め尽くされ始めた。
俺としても、実にワクワクする光景だ。
赤ドラの肉とか、前に食べたの一年前くらいだったかな。
なかなか出現しない上に、出現しても他のS級がこぞって討伐に乗り出して出遅れること多々。
今回はたまたま、俺に機会が回ってきて肉を手に入れることができた。
ずっと食べたかったんだよ、これ。
「というわけで出来たぞ、赤ドラステーキだ」
:もう少し高級感のある名前で呼べよ!
:これじゃほんとに男の一人飯じゃねぇか。
:素材がつりあってねぇ。
「酷いこと言うなよ。んじゃ、いただきまーす……うん、死ぬほど硬い」
流石に、魔力で身体強化をせずに食べれるほど俺の顎は頑丈じゃない。
たっぷり染み込ませたステーキソースの味だけがする。
というわけで、早速魔力をごっと解放させた。
映像越しでも鍛えている人間なら、俺が放出した魔力量がそこそこ尋常でないことには気付くだろう。
:うお、魔力すっご。
:S級の本気やば。
:絵面がひどすぎる。
:めちゃくちゃ漫画のクライマックスみたいに肉食ってる。
「うっっっっま! 噛めるようになると、歯ごたえがヤバい。あくまで防御力が高いから硬いのであって、それを貫通できるようになると逆に柔らかい。溶ける。いい肉は溶けるんだよ、やばいよな」
:あああ美味そう。
:くそ、俺もちょっといいステーキ買うか。
:ドラゴン肉は……いや高すぎだろ、これ配信で食うとか正気か。
:しかも自分で取ってきたやつ!
やいのやいの。
視聴者は各々にコメントをしてくる。
同接は四桁を突破、俺の配信としては結構な数値だ。
まぁ、ここが配信のクライマックスみたいなところあるからな、人が集まってきたのだろう。
「いやぁ、美味かった。白飯合いすぎだろ。ごちそうさまでした」
:乙
:相変わらずいい食いっぷり。
「んじゃ、後はこれに防御デバフをかけてスタッフさんにも振る舞わないとな。どうせ大量に余ってるし」
:俺等にもくれよ。
:マジ美味そう。
「今度プレゼント企画でもやるかね。まぁそこら辺はリナに頼むとして……あっ」
:あっ?
:あっ……
:嫌な予感。
んで、俺は満足げに食器を片付けつつ、格納スキルの中に突っ込んであるはずのあるものを取り出そうとする。
が、しかし。
「……防御デバフの魔道具の在庫がない」
:草
:草
――なかった。
他人に食わせるとなると、必須となる防御デバフアイテム。
以前使った後、補充を忘れていたようだ。
「しょうがねぇ、取りに行くか……」
:あ、じゃあ俺ちょっと失礼するから……
:夕飯があるから……
:ステーキ買ってくるわ……
――で、その後。
防御デバフアイテムを取りに行く配信もやったが、そっちの同接は二桁だった。
コメントには「何やってるかわからん」「酔う」「やばい」とだけ残されていた――
■
高田トキヒト、今から十年ほど前に史上最年少でS級探索者となった天才。
その実力は本物で、S級の中でも彼を評価する者は多い。
しかし、そんな彼は非常に気まぐれかつ、適当だった。
今では承認欲求に突き動かされ、探索しないダンジョン配信者と化している。
とはいえ、その実力は今も衰えてはいない。
何より――彼の戦い方は
結果としてそれは、一部の人の脳を焼きつつ――今日もトキヒトは、探索をしない配信にドはまりしていた。