元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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第九話

「――とまあ、こんな感じかな。何か質問はあるかい、Dr.フェイカー?」

「大いにある、と言っておこうか、相剋昇よ」

 

 ハートランドシティの中心、Dr.フェイカーの居城。そこへと輪廻と共に赴いていた昇は、雇い主が怒気を抑えて吐いた言葉に思わず苦笑を浮かべた。

 

「……何がおかしい?」

「いや、貴方の発言があまりに予想通りすぎてね。一応君との契約は果たしているつもりなのだけれど」

「……それが、ナンバーズ・ハンターとして全く働いていない理由か?」

 

 百年に一人の天才、とまで言われた男が昇を睨む。町一つを支配する独裁者の眼光は伊達ではなく、並みの人間であれば蛇に睨まれた蛙の如く固まるだろう。

 それほどの眼光を受けてなお、少年はたたえた微笑みを崩さない。

 

「小僧、あまり人を舐めるなよ」

「老害、あまり人を馬鹿にするなよ」

 

 平行線。互いの立場が明確である以上、こうなるのは自明の理だ。

 Dr.フェイカーは昇にナンバーズを狩ってきて欲しい。ナンバーズが喉から手が出るほど欲しい彼にとって、他を隔絶する実力を持つ昇を遊ばせておくにはいかないのであろう。裏を返せばそれは、昇を高く評価している証明であり、彼をナンバーズ・ハンターとして雇う理由でもある。

 一方昇はあまり原作に影響を与えたくはない。ショック・ルーラーと輪廻が持つ一枚こそ手元にあるとはいえ、下手に手を出せば原作に多大な影響を及ぼしかねない。微かな変化が回りまわって多大な影響を引き起こすことになると分かっているからだ。かと言って元の世界に戻りたい二人にとってフェイカーが持つ技術はまさしく背に腹は代えられない物であり、それこそが昇と輪廻がナンバーズ・ハンターとして飼われるようになった理由だ。

 協力者、と一口に言ってもその関係はピンキリだ。昇と輪廻のように簡単には言い表せないような深い関係であるのもいれば、このように徹底的なギブアンドテイクで成り立っている関係もある。

 そしてこうなった以上、どちらかが譲歩せねば話が進まないのもまた事実。

 

「なぜ貴様達はナンバーズを狩ろうとしない? ナンバーズを狩ればお前達の目標に近づくであろう。それを知っていていながら何故目的に逆らうような行動をとるのか、私には理解不能だ」

「理解されなくていいよ、此方にも事情はあるからね。そんなことより百年に一度の天才科学者とまで謳われた貴方が何故異世界のカードであるナンバーズを求める? そんなオカルトじみた物に縋らなければならない事情でも抱えているのかい?」

 

 互いが互いの弱点を全力で殴り、相手の出方を探り合う。フェイカーにも、そして昇にもどうしても引けない部分がある。それを分かっていながら突くのは相手に譲歩を引き出させたいからだ。この場面においては、引いた方が要求を呑むことになってしまう。両者ともにそれだけは避けたいというのは一致していた。

 そこまで黙っていた輪廻は、付き合いきれないとばかりに溜息を吐く。

 

「……Dr.フェイカー。提案がある」

「ほう、言ってみろ小娘」

「……決闘で決着をつけましょう。貴方と私、勝者の意見を通す」

「……ほう。貴様が、か。確かに貴様にはカイトを自力で倒すだけの実力があるのだろう。だが私の実力はカイトなどとは比べ物にならん。貴様程度で」

「……私は、相剋昇に勝利した唯一の人間。これで十分?」

 

 少女に向けられていた視線が微かに敵意を帯びた物へと変わる。

 

「……私が勝てば貴方に私が持っているナンバーズをあげる。そして貴方の指示通り動いてあげてもいい。ただし私達が勝ったら貴方には今後一切私達への命令を禁止する。これでいい?」

「だがそれなら貴様らがナンバーズ・ハンターを止めればよいだけの話ではないか」

「……私達にも事情がある。で、これから貴方は依頼という形で私達に指示を出せばいい。で、それを受けるかどうかは私達が決める。決定権を私達に移す、と言った形になるってこと。オールオアナッシング、いい案だと思うけど?」

「ふむ……」

 

 リターンとリスクを考えるフリをしているのだろうが、頭の中では既に受けることなどお見通しだ。なにせ彼方はリターンとリスクがまるで釣り合っていない。得る物の多さに比べれば失う物など非常に微々たる物だ。

 一方それを分かっている昇は頭を抱えつつも何も言わない。申し訳ないという意思を込めて横目を向ければ、気にしなくていいよとばかりに笑みを向けてきた。あれは自分の行動に頭を痛めながらも、身勝手極まりない行動を認めてくれたということだ。

 ならば。私が行うべきはただ一つ、完膚なきまでに叩き潰すこと。

 

「……一つ、いい?」

「どうした、急に」

「……貴方は、シンクロ召喚というのをご存知?」

 

 唐突に、しかし出来得る限り自然に感じるように輪廻は話を向ける。

 

「知っておるぞ。確か、チューナーと名の付くモンスターとチューナー以外のモンスターを墓地に送ることでエクストラデッキからモンスターを特殊召喚する召喚方法だったな。昇と渡幸也の決闘を分析させて貰ったことで知ることが出来た」

「それは他の……例えば、カイトは知ってる?」

「知らん。私だけがその情報を握っている」

「……そう。なら……昇」

「どうしたの、輪廻?」

 

 輪廻は昇に近寄り、一言二言何かを言い合う。最終的に溜息を吐いて何かを渡した昇は明らかに達観した目をしており、輪廻はそれを見ないふりをしつつフェイカーに殺気を放った。

 

「……さあ、始めましょう」

「そんな顔も出来るのか……よい、気に入ったぞ小娘!」

 

 互いに決闘盤を構え、視線を重ねる。

 

「「決闘!」」

 

「……先攻は私が貰う。私のターン、ドロー。魔法カード暗黒界の取引を発動。互いにカードを一枚ドローし、その後一枚捨てる。私は手札のカーボネドンを捨てる。さらに魔法カード成金ゴブリンを発動。デッキからカードを一枚ドローする代わりに、貴方に1000ポイントライフをあげる」

「ほう、手札事故とは災難だな」

 

Dr.フェイカー

LP4000→5000

 

 フェイカーの言葉を軽く聞き流し、輪廻は己がターンを続ける。

 今はまだ準備段階。あのカードさえ来れば彼は必ず度肝をぬぐことになる。

 

「……魔法カード暗黒界の取引を発動。互いにカードを一枚ドローし、その後一枚捨てる。私は手札の妖刀竹光を捨てる。妖刀竹光の効果、このカードが墓地に送られたことで、デッキから妖刀竹光以外の竹光と名のついた魔法カード一枚を手札に加える。黄金色の竹光を手札に。墓地のカーボネドンの効果、このカードを墓地より除外して、手札またはデッキからレベル7以下のドラゴン族・通常モンスター一体を特殊召喚する。私はデッキのギャラクシー・サーペントを特殊召喚」

 

 輪廻の場に現れたのは、至って貧弱極まりないモンスター。

 ギャラクシー・サーペント。レベル2のチューナーモンスターであるが、攻撃力は僅か1000、守備力に至っては0という極めて貧相なステータスのモンスターだ。唯一の評価点はドラゴン族であるという点だが、ドラゴン族通常モンスターチューナーでもレベル1でこれより遥かに扱いやすいガード・オブ・フレムベルがいる時点で真っ当なデッキからはお呼びがかからないであろう。

 最も、真っ当なデッキであれば、の話だが。

 

「……ギャラクシー・サーペントに折れ竹光を装備。手札の黄金色の竹光を二枚発動し、デッキからカードを4枚ドロー……来た。私はシンクロ・フュージョニストを召喚。私はレベル2のシンクロ・フュージョニストにレベル2のギャラクシー・サーペントをチューニング。古き神々よ。古の封印より解き放れた証明として、己が存在たる炎を見せよ。シンクロ召喚、招来せよ、古神クトグア」

 

 少女の場に現れたのは、炎の身体を持つ極めて形容しがたき怪物。

 古神クトグア。攻撃力2200、守備力200のレベル4シンクロモンスターの一体。低レベルのシンクロモンスターというだけでも極めて珍しい存在だが、その効果は他のシンクロモンスターからすれば考えられないと言っていいほどに独自性の塊だ。

 まず一つ、シンクロ召喚の成功時にランク4エクシーズモンスターを全てエクストラデッキにモンスターを戻すことを可能にする効果。続いて第二、第三の効果は、エクシーズモンスターの素材となった際、もしくは融合素材となった際デッキからカードをドロー出来るという物。つまりこのモンスターはシンクロモンスターでありながら、効果その物は融合、エクシーズに絡んだ物しか持っていないのだ。

 そしてシンクロ素材となったシンクロ・フュージョニスト。このモンスターはシンクロ素材となった場合、デッキから融合と名の付いたカード一枚を手札に加えられる効果を持つ。輪廻のデッキには簡易融合が一枚、再融合が三枚、そして超融合が一枚。

 

「……シンクロ・フュージョニストの効果、デッキから簡易融合を手札に。簡易融合を発動、ライフを1000ポイント支払うことでデッキから旧神ノーデンを融合召喚扱いとして特殊召喚」

 

 古き神の後には旧き神。炎の怪物に並び立ったのは、貝殻を模した戦車を操る白髪白髭の老人。

 旧神ノーデン。元の世界では簡易融合を制限へと追いやった張本人と目され一時期は環境をワンキルデッキで荒らしまわり、先行発売された某国では遊戯王をカップ麺早食い大会にしてしまった張本人であるレベル4の融合モンスター。

 その効果と融合素材は、元の世界の多くの決闘者を驚愕させた。

 まずその効果は、特殊召喚に成功した時自分の墓地のレベル4以下のモンスターを効果を無効にした上で特殊召喚すると言う物。レベル4以下という指定とノーデンが場から離れた時蘇生したモンスターが除外されるという制約こそあるが実質生ける死者蘇生扱いだった。特殊召喚した時、と条件も緩く、墓地から特殊召喚された時でも当然のように効果を発動し、出た当初は簡易融合が無制限であるのも相まってあらゆる方法でひたすらモンスターを蘇生させ続けた。

 融合素材もシンクロモンスターまたはエクシーズモンスター二体と非常に緩く、相手の場に条件のモンスターが二体揃っていれば超融合一枚で簡単に除去しつつ出せた。例えクエーサー二体だろうと超融合の前には無力であり、一説では超融合制限化の張本人とも言われている。

 そしてこの二体が揃ってしまった以上、神々の宴を止める手段は存在しない。

 

「……ノーデンの効果、墓地のシンクロ・フュージョニストを蘇生。ノーデンとクトゥグアでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、ダイガスタ・エメラルをエクシーズ召喚。クトグアの効果、このモンスターがエクシーズ素材または融合素材になった時、私はカードを一枚ドローする。エメラルの効果、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、墓地の通常モンスター一体を蘇生する。ギャラクシー・サーペントを蘇生。レベル2のシンクロ・フュージョニストにレベル2のギャラクシー・サーペントをチューニング。シンクロ召喚、再び招来せよ、古神クトグア。シンクロ・フュージョニストの効果、デッキから再融合を手札に。さらにクトゥグアの効果、場のランク4エクシーズモンスターを全てデッキに戻す。私はエメラルをデッキに戻す」

「……!? まさか――」

「……再融合を発動、ライフを800支払って墓地のノーデンを蘇生。ノーデンの効果、シンクロ・フュージョニストを蘇生。ノーデンとクトゥグアでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。再び現れよ、ダイガスタ・エメラル。クトグアの効果、カードを一枚ドロー。エメラルの効果、オーバーレイ・ユニットを一つ使い墓地のギャラクシー・サーペントを蘇生。レベル2のシンクロ・フュージョニストにレベル2のギャラクシー・サーペントをチューニング。三度我が場に招来せよ、古神クトグア。墓地のシンクロ・フュージョニストの効果、デッキから再融合を手札に。さらにクトグアの効果、場のランク4エクシーズモンスターを全てデッキに戻す。エメラルをエクストラデッキに」

 

輪廻

LP4000→3000→2200

 

 長い長いループが終わってみれば、輪廻の手札は9枚まで増え、場にはクトグアが一体、墓地にはクトグアが二体、ノーデンが一体。ここまで好き勝手出来れば満足してしまうのも無理はない。が、今は様々な物を賭けた決闘の最中。満足したくなる気分を抑え、輪廻は更なる一手を打つ。

 

「……魔法カード再融合発動。ライフを800支払って墓地のノーデンを蘇生。ノーデンの効果、墓地のクトグアを蘇生。速攻魔法超融合発動。私の場の二体のクトグアを素材に融合。我が場に並び立て、旧神ノーデン。ノーデンの効果、墓地のクトグアを蘇生。さらに融合素材となったクトグア二体の効果、デッキからカードを二枚ドロー。……Dr.フェイカー、待たせた代わりに見せてあげる。私はレベル4のノーデン二体とクトグアでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ユニットを構築。エクシーズ召喚」

 

 見せてやる、と言った輪廻の発言に呼応するかのように、エクストラデッキから件のモンスターが現れる。

 機械のような天使族。以前昇がカイトをおびき出す為に使った、全てを封殺する法の番人。

 

「現れなさいNo.16、色の支配者ショック・ルーラー」

「……それが、貴様のナンバーズか」

「……私達の、ナンバーズ。まずエクシーズ素材となったクトグアの効果、カードを一枚ドロー。ショック・ルーラーの効果、オーバーレイ・ユニットを墓地に送りカードの種類を一つ宣言。その宣言されたカードの効果を貴方は二ターンの間使えない。私はモンスターカードを宣言」

「何だと!?」

「……カードを三枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ、手札が六枚になるように墓地に送る」

 

輪廻

LP2200→1400

 

 手札に余程モンスターが溜まっているのか、あるいは使えるモンスターがあったのか、あるいはその両方か。真偽はDr.フェイカーにしか分からないが憎々しげに睨んでいるところを見ると、余程苦しい状況なのだろう。

 

「私のターン、ドロー……私はカードを二枚伏せてターンエンド」

「……私のターン、ドロー。ショック・ルーラーの効果、オーバーレイ・ユニットを二つ使い罠カードを宣言。これで貴方は二ターンの間、罠を封じられた」

 

 手札誘発も、起死回生の罠も。全てを封じられた老人に、最早抵抗の術はなく。

 彼が最後に許されたのはただ一つ、下る審判の時を待ち続けることだけだ。

 

「……魔法カード死者蘇生を発動、墓地のノーデンを蘇生。ノーデンの効果、墓地のクトグアを蘇生。ノーデンとクトグアでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ユニットを構築、エクシーズ召喚。顕現しなさい、千の貌を持つ無貌の神。最高神の代行者たる混沌、外神ナイアルラ」

 

 現れたのは、千の無貌と呼ばれる混沌の神。

 外神ナイアルラ。攻撃力こそ0だが2600もの守備力を誇り、エクシーズ召喚時手札を好きなだけ捨ててその枚数分だけ自身のランクを上げる効果と、一ターンに一度オーバーレイ・ユニットを一つ使って墓地のモンスター一帯を自身のオーバーレイ・ユニットとする効果を持つ。自身のランクだけでなくエクシーズ素材という本来関与出来ない部分まで操作するその能力は、まさしく千の無貌と呼ぶに相応しい物だ。

 そして、このモンスターの最大の特徴は。

 

「……クトグアの効果、カードを一枚ドロー。私はナイアルラ一体でオーバーレイ・ネットワークを再構築。全宇宙の王たる盲目にして白痴の神よ。眷属たる無貌の求めに応じてその姿を見せよ。万物を生み出した最高神、外神アザトート」

 

 このモンスターを簡単に呼び出せるようになる、それがナイアルラが誇る最大のセールスポイントだ。

 外神アザトート。攻撃力は2400、守備力は0。エクシーズ素材となれない制約を持つためアザトートにアザトートを重ねてエクシーズ召喚することは出来ないが、それもその効果の為。

 

「……外神アザトートの効果はオーバーレイ・ユニットがシンクロ、融合、エクシーズの三つが揃っている時のみオーバーレイ・ユニットを一つ取り除いて発動出来る。その効果は、相手フィールドのカード全ての破壊」

「何だと!?」

 

 エクシーズ素材を消費した瞬間、まるで全ては夢であったかのようにフェイカーの場から消えていた。

 宇宙の創生はアザトートが発端であり、即ち全てはアザトートが見る夢にすぎない。アザトートの持つ効果は、その力を見事に現していると言えよう。

 

「……だが、私のライフは5000。攻撃力2300のショック・ルーラーと2400のアザトートでは私のライフは削り切れまい」

「……そんな物分かってる。魔法カード真炎の爆発。墓地に存在する守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。私は墓地に眠る三体のクトグアを蘇生」

「馬鹿な……」

 

 現実が信じられない、といった顔でフェイカーは輪廻を見る。ナンバーズと最高神、そして古神三体を従えた少女は、茫然自失とした老人を見下しながら己が僕に命を下す。

 

「バトル、ショック・ルーラー、アザトート、クトグア三体でダイレクトアタック」

「ぐ……ぐわああああああ!」

 

フェイカー

LP5000→2700→300→-1900→-4100→-6300

 

「ぐおお、お……」

「……私達の勝ち。約束は守って貰う……どうしたの昇、そんな形容し難い物を見たような表情をして」

「シンクロについて知っているかって聞いた時から嫌な予感はしてたけど……流石にそのデッキを使うとは予想外だったよ」

「……偶には私が暴れても文句はないでしょ?」

「それは勿論、文句なんてあるはずもないけどさ」

 

 満足しきった表情をする輪廻に何も言えず、昇は小さく息を吐く。近寄ってきた彼を見て恥ずかしそうにもじもじする輪廻の頭をいつものように優しく撫でると、彼女は安心しきった表情で笑顔を浮かべた。

 

「……一つ、聞きたいことがある」

「何かな、Dr?」

「貴様らはそれほどの力を持っておきながら何故ナンバーズ・ハンターとして働こうとしない? それほどの実力があればナンバーズなど思いのままに集められるはずだ。そしてそれを盾にして私と交渉することも可能だったはず」

「そうだね、貴方の言う通りだ。だけれどもこうも言ったはずだよ、僕達にも事情がある、とね」

「む、う……」

「WDC、ワールド・デュエル・カーニバルだったかな? 貴方がナンバーズを集める為に開こうとしている大会は。そこでなら僕達も貴方の期待にそう活躍をすると約束しよう。だから、それまではお目溢しを頂けないかな?」

 

 お願いという形に身を変えた、実質的な命令。

 今のフェイカーはそれは出来ないと言えるような立場ではなく、苦虫を噛み潰したような表情で頷いた。 

 

「私は敗者だからな……よかろう、WDCの開催までは好きにするがいい。ただしWDC開催後はきっちり働いて貰うぞ」

「それについては安心していいよ。じゃあ今日はこの辺で。良ければ息子達にもよろしく言っておいて欲しいな」

 

 二人が帰ったのを確認してから、フェイカーは椅子に背を預ける。

 恐らく現在自分が持つ最高の決闘者、それがあの二人だ。それが働けないというのは非常に深刻であり、カイトにさらにナンバーズ・ハンターとして働いて貰わざるを得なくなる。

 しかしここで無理に命令を聞かせた所で反逆されればこれまで行ってきた全てが水泡に帰す。彼ら二人は文字通りの切札(ジョーカー)だが、切れすぎるのも考え物だ。頼りすぎたあげく此方の寝首を掻かれたなんて自体は絶対に避けなければならない。

 せめて、もう少し使いやすければ良いのだが。

 

「――ままならんものだ」

 

 呟きを最後に、フェイカーは少し休むべく目を瞑る。

 今日起こった全てが夢であればと、叶うはずのない願望(ユメ)を抱きながら。

 

 

 

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