元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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第十三話

 本日五人目の決闘者を倒してハートピースを手に入れた昇は、小さく溜息を吐いた。

 

「思ったより被るな、これ」

 

 その理由は、手に入れたハートピースその物にある。

 五人倒して五つのハートピースを入手した。ここまではいい。デッキも非常に良く回ってくれるし、相手も調整に極めて良い程度の強さでしかない。ここまでは全て想定通りであり、なんら問題はないようにさえ思える。

 問題は、手に入れたハートピースが既に所持している物全てと同じ形であったこと。

 そして同じ形のハートピースを幾ら持っていたとしても、WDCの本戦には出場出来ないことだ。

 

「道理で、原作での本戦出場者数が少ないわけだよ」

 

 あの出場者数と比べれば異常とさえ言える程本戦出場者が少ない理由も理解出来る。何人倒そうと、何個集めようとハートピースを完成させていない限り意味はなく、そうであるが故に決闘の腕とは異なる物が要求されるからだ。

 

 

 運、という自分ではどうしようもない物が。

 

「さて、これからどうしようか」

 

 歩き続けながら思案する。この辺りの決闘者と戦った所でまた同じ事になる可能性が非常に高い。とは言え別の場所で戦ったとしても同じことにならないという保証はどこにもない。

 困ったことになったな、などと内心で苦笑しつつ、とりあえず一度戦ってから決めようと結論付け、

 

「標的、発見」

 

 横から、声。

 

「……君は?」

「対象、相剋昇。これより、戦闘準備に入る」

 

 声の主である少女は抑揚のない声で決闘盤を構え、挑発するかのように視線を向ける。

 年は恐らく十に満たない程度。烏の濡れ羽色の髪を肩口で切り揃え小学校の制服らしきセーラー服に身を包んだその姿は、ある種の好事家からは絶大な支持を受けるだろう。

 最も、それらは全て推測でしかない。分かっているのはただ一つ、

 

「僕と決闘したい、ってことかな?」

「肯定。理解の早い人は嫌いじゃない」

 

 どうやら、彼女は自分を逃がす気はないらしい。

 

「戦う前に一つだけいいかい?」

「了承」

「君の名前を、教えてくれないかな?」

 

 昇が天馬と戦ったときと同じように名前を聞くと、少女は可愛らしく首を捻る。

 

「疑問。貴方の質問の意味が分からない。戦うのにどうして私の名前が必要?」

「別に意味なんてないよ。ただ、知りたいなと思っただけさ」

 

 訳が分からない、とでも言いたげに少女の表情は形作られていた。意味のないことを行う、それが彼女にはどうしても理解出来なかったのだろう。

 それでも自らの名前を口にしたのは、律儀と取るべきか――あるいは。

 

海路(うみじ)海路綾(うみじあや)

「……そうか、ありがとう。じゃあ、始めようか」

 

 名前を聞いた昇は頷いて、自身の決闘盤を構える。

 

「「決闘」」

 

 抑揚のない声と、感情を抑えた声。

 二人の声を合図として、一瞬前まで変哲のない道路だった場所が戦場へと姿を変える。

 

「……先攻、どうぞ」

「いや、レディーファーストだ。君が先攻を貰ってくれ」

 

 先攻の譲り合いという元の世界では考えられないことが起こるが、この世界では稀によくある程度には起こることだ。それでも先攻の有利さは相手も分かっているのか、譲られれば大人しく受け取ることが殆どだが。

 

「なら。私の番、ドロー」

 

 綾がカードを引いた瞬間、昇は内心で安堵の息を吐いた。

 これで自分はまだ、元の世界通りの決闘が出来る。

 

「私は手札の銀河戦士の効果発動。手札のサイバー・ドラゴン・コアを捨てて銀河戦士を特殊召喚。銀河戦士の効果、私はデッキから二枚目の銀河戦士を手札に。次いでサイバー・ドラゴン・ドライを召喚」

 

 綾の場に現れたのは、銀の鎧に身を包んだ戦士と機械の竜。

 そしてそのモンスターを見てデッキが分からないほど、昇は馬鹿ではない。

 

「サイバー、か」

「肯定。サイバー・ドラゴン・ドライの効果、場のサイバー・ドラゴンのレベルを5にする。サイバー・ドラゴン・ドライは場、墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱う。私は、レベル5となったサイバー・ドラゴン・ドライと銀河戦士でオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚」

 

 黒き鎧を纏ったその姿は、機械の竜が新たに得た進化の形だ。

 新たに冠した名前は超新星。それはまさしく、可能性の塊であるという証明でもある。

 

「制限解除、ランク5。動作安定、制御良好。実戦投入、開始。サイバー・ドラゴン・ノヴァ」

 

 サイバー・ドラゴン・ノヴァ。攻撃力2100、守備力1600。ステータスは元のサイバー・ドラゴンと同じだが、使い方が異なる三つの効果を持つ。

 一ターンに一度エクシーズ素材一つを使って墓地のサイバー・ドラゴン一体を特殊召喚する効果、一ターンに一度墓地のサイバー・ドラゴン一体を除外することで、このカードの攻撃力を2100ポイント上昇させる効果。そして相手の効果によって墓地に送られた場合、機械族融合モンスター一体をエクストラデッキから特殊召喚出来る効果。どれも強力と言える物だが、このカードを出した理由はその効果目当てではない。

 

「私は、サイバー・ドラゴン・ノヴァ一体でオーバーレイ・ネットワークを再構築。制限解除、ランクインフィニティ。制御成功、駆動解放。覇動掌握、サイバー・ドラゴン・インフィニティ」

 

 下敷き、という言葉がある。

 エクシーズモンスターの中には通常のエクシーズ召喚とは別にエクシーズモンスターに重ねて召喚することが出来る物がある。その素材として重宝されるモンスターのことだ。

 例えば、クリスタル・ゼロ・ランサーを召喚する為に、ランク5の水属性エクシーズの中で唯一素材縛りがないフリーザードンが使われるように。

 例えば、エクシーズ素材をなくしたホープがホープレイやホープONEになることで自壊を回避すると同時に新たなモンスターの召喚に使われるように。

 そして、サイバー・ドラゴン・ノヴァもまた、このモンスターの下敷きとして重宝されることとなった。

 サイバー・ドラゴン・インフィニティ。

 圧倒的とさえ言える制圧力を誇る、サイバーに与えられた新たな力だ。

 

「……カードを二枚伏せて終了」

「僕のターン、ドロー」

 

 サイバー・ドラゴン・インフィニティのスペックはサイバー・ドラゴンと同じ。それだけなら突破は容易であるが、その効果がそれを許さない。

 エクシーズ素材の数だけ攻撃力が上がる効果はこのモンスターの場持ちの良さを底上げし、召喚時には実質攻撃力は2700となる。2700を攻撃力で超えるのは並みのデッキでは困難であり他の方法で除去しようとするのが常だが、残る効果がそれを許さない。

 相手の効果が発動した時、エクシーズ素材を一つ使うことでその効果を無効にして破壊する効果。そして一ターンに一度場の表側表示モンスター一体を自身のエクシーズ素材へと変える効果。この二つの効果は互いが互いを補い合っており、除去しようとする効果を無効にし、素材を相手のモンスターを吸収することで補える。

 つまり、除去しない限り毎ターンこちらの手を妨害され、除去しようとする場合必ず二枚以上の使用を強いられる。

 厄介だ、というのが昇が抱いた正直な感想だ。

 

「僕は儀式魔法影霊衣の反魂術を発動」

「サイバー・ドラゴン・ノヴァの効果、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、反魂術を無効に」

 

 使った反魂術はエクシーズ素材を取り込んだインフィニティが放った赤銅のオーラによって無効化され、破壊される。従来の儀式であれば儀式魔法の発動さえ潰してしまえば止まる。それを見越しての判断だろう。

 しかしそれは、影霊衣にとっては無意味に等しい。

 

「僕はブリューナクの影霊衣の効果発動。このカードを手札から捨てることで、デッキから影霊衣と名の付いたモンスター一体を手札に加える。僕はユニコールの影霊衣を手札に。さらに墓地の影霊衣の反魂術の効果、このカードと影霊衣カード一枚を除外することで、デッキから影霊衣儀式魔法一枚を手札に加える。僕はブリューナクの影霊衣を除外して、デッキから影霊衣の万華鏡を手札に加える」

「……!? 対象の脅威認定を変更。墓地から回収効果を持つ儀式魔法……うそ、私が知らないなんて」

 

 驚愕に目を見開く少女とは対照的に昇は淡々と準備を進める。

 反魂術の効果によりこのターン反魂術は使えない。だがまだ、影霊衣には二種類の儀式魔法が存在する。

 

「僕は儀式魔法影霊衣の万華鏡を発動。この儀式魔法はエクストラデッキのカードを素材に儀式召喚出来る魔法カードだ。僕はエクストラデッキの虹光の宣告者をリリース。ユニコールの影霊衣を儀式召喚」

 

 白き天使を生贄に場に現れたのは、長槍を携えた精悍なる青年。

 ユニコールの影霊衣。あらゆるエクストラデッキのカードを殺す、ネクロスの儀式モンスターの一体だ。

 そして生贄となったのは虹光の宣告者。このモンスターは場に存在するこのカードをリリースすることでモンスター効果、魔法、罠の発動を無効にする効果を持つが、本命はもう一つの効果。

 

「リリースされた虹光の宣告者の効果、デッキから儀式モンスター、または儀式魔法一枚を手札に加える。僕が手札に加えるのは影霊衣の降魔鏡。さらに影霊衣の降魔鏡を発動。僕は手札のシュリットをリリースし、トリシューラの影霊衣を儀式召喚」

 

 剣と共に槍兵に並ぶのは、影霊衣儀式モンスターの中でも最強と言われるモンスター。

 トリシューラの影霊衣。古の破壊神が所持する神槍の力を纏ったその力は、場と手札、そして墓地と言う本来不干渉領域であるはずの場所すらも容易に撃ち抜く。

 

「トリシューラの影霊衣の効果、このモンスターの儀式召喚に成功した時、相手の場、墓地、そして手札のカードを一枚ずつ除外する」

「……拒否。罠カードブレイクスルー・スキル。トリシューラの影霊衣の効果を無効に」

 

 次元を超えて一時的に姿を現したエヴォルカイザー・ドルカの力により、トリシューラの力が無効になる。

 とはいえユニコールの影霊衣の効果でサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果は無効になっている。つまりインフィニティの攻撃力は2100、対してトリシューラの影霊衣の攻撃力は2700、ユニコールの影霊衣の攻撃力は2300。

 たった900攻撃力が下がるだけで、こうも簡単に戦闘破壊が起こるようになるのだ。

 

「リリースされたシュリットの効果、デッキから戦士族影霊衣儀式モンスター一体を手札に加える。僕が手札に加えるのはクラウソラスの影霊衣。そしてクラウソラスの影霊衣の効果、デッキから影霊衣と名の付いた儀式魔法一枚を手札に加える。僕は影霊衣の降魔鏡を手札に。バトル、トリシューラの影霊衣でサイバー・ドラゴン・インフィニティに攻撃」

 

 効果を無効化されたとはいえ攻撃力に変化はない。それを示すかのように疲労の色を濃くしながらも戦士の剣が機械の竜を両断する。

 

「……想定、内」

 

LP4000→3400

 

「ユニコールの影霊衣、ダイレクトアタック」

「不通。罠発動、パワー・ウォール。効果、私のデッキのカードを墓地に送り、一枚につき100ポイントダメージを軽減する。私は23枚のカードを墓地に送り、受けるダメージを0に」

 

 23枚、つまり2300ポイント分の防御力を得た障壁がユニコールの攻撃を受け切り、破壊と同時に昇の場へと戻る。

 

「防がれたか。なら僕はこれでターンエンド」

「承知。私のターン、ドロー」

 

 デッキからカードを引いた少女の様子を注視しつつ、昇は現在の状況を整理する。

 デッキから落ちたカードは23枚、墓地に存在するのは銀河戦士、サイバー・ドラゴン・ドライ、サイバー・ドラゴン・コア、サイバー・ドラゴン・ノヴァ、サイバー・ドラゴン・インフィニティ。

 そして、ブレイクスルー・スキル。

 そして思う。この状況は、十二分にワンターンキル圏内であると。

 

「墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動。ユニコールの影霊衣の効果を無効に」

 

 ユニコールの影霊衣の効果は無効化され、この一ターンに限りエクストラデッキの効果も無効化されなくなった。

 もしも初手であのカードが手札に呼び込まれていたら。昇の背中に一筋の汗が滴り落ちる中、綾は昇が予想した通りのカードを発動した。

 

「魔法カード、オーバーロード・フュージョン。このカードは、場、または墓地のカードを素材に融合召喚する魔法。この効果で私は、墓地のサイバー・ドラゴン二体、サイバー・ドラゴン・コア一体、サイバー・ドラゴン・ドライ三体、サイバー・エルタニン一体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ二体、銀河戦士一体、先史遺産ゴールデン・シャトル二体、先史遺産ネブラ・ディスク一体、サイバー・ドラゴン・ノヴァ一体、サイバー・ドラゴン・インフィニティをゲームから除外して融合。制限崩壊、レベルオーバー。暴走発生、制御不可能。殲滅開始、キメラテック・オーバー・ドラゴン」

 

 場に現れたのは、15の首を持つ機械のキメラ。ありとあらゆる技術を取り込み暴走した、技術と言う名の悪魔。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン。サイバー流の最終兵器にして、あらゆる物を破壊する技術の塊。

 その素の攻撃力は0だが、効果により絶大な力を得る。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの効果、このモンスターが融合召喚に成功した時、このカード以外の私の場の全てのカードを墓地に送る。私の場のカードはキメラテック一枚、よって墓地に送られるカードはない。さらにキメラテックの攻撃力は融合素材にしたモンスター一体につき800ポイントアップする。私が素材にしたモンスターは十五体、よって攻撃力は12000」

 

本来であればユニコールの影霊衣の効果で無効になっているはずの効果であるが、肝心のユニコールの効果が無効になっているが故に使えてしまっている。

 そしてその攻撃力は12000。素のモンスターにおいてこのモンスターを超えられる数値を持つモンスターは無限虚構神ヌメロニアス・ヌメロニアしか存在しないが、このカードを所持しているのはドン・サウザンドのみ。

 つまり。キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃が一度でも通ってしまえば、昇の敗北でこの決闘は終わる。

 

「戦闘。キメラテック・オーバー・ドラゴンでユニコールの影霊衣に攻撃。エヴォリューション・レザルト・バースト」

 

 駆動音と共に起動した機械竜が標的を見定め、十五の首が一斉に口を開く。

 轟音と共に発射される光線。

 放たれた白き極光は、ユニコールの影霊衣など吹き飛ばして余りある威力を誇る。

 

「手札のヴァルキュルスの影霊衣の効果発動」

 

 そしてそれを許すほど、昇は甘くはない。

 

「墓地のクラウソラスの影霊衣を除外し効果発動。攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる」

 

 壮年の青年が極光を受け流し、強制的にバトルフェイズを終了させる。

 

「そん、な。理解不能、あんな儀式モンスター、私知らない……!」

 

 機械のように無表情であった彼女の顔に綻びが現れる。

 それは自らが知らなかったカードに対する驚愕か、はたまた本来この世界に存在し得ないカードに対する恐怖か。

 少なくともそれを見ている昇には、彼女の真意は分からない。

 

「……私は手札のサイバー・ドラゴン・ツヴァイを墓地に送って銀河戦士を守備表示で特殊召喚。銀河戦士の効果、デッキから三枚目の銀河戦士を手札に。私はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 ターン終了と同時にブレイクスルー・スキルの効果が消え、それと時を同じくして復活したユニコールの効果によりキメラテック・オーバー・ドラゴンの効果が失われる。そしてキメラテック・オーバー・ドラゴン攻撃力はあくまで効果で得られた物。つまり、その効果が失われたとするならば。

 結論。キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は、元々の数値である0に戻る。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 まだ大丈夫、と思っているのかもしれない。あるいはあの伏せカードが聖なるバリア―ミラーフォース―、あるいは激流葬のような全体除去なのかもしれない。

 

「僕はマンジュ・ゴッドを召喚」

 

 どちらにせよこのターンで、この決闘を終わらせる。

 

「マンジュ・ゴッドの効果、デッキから儀式モンスターまたは儀式魔法一枚を手札に加える。僕が手札に加えるのはディサイシブの影霊衣。僕はユニコールの影霊衣とマンジュ・ゴッドでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚」

 

 現れるのは蒼き狼。己と引き換えに場のカードを破壊する、ランク4エクシーズの代表格。

 

「現れろ、恐牙狼ダイヤウルフ」

 

 召喚と同時に反応を確認する昇であったが、綾が罠を発動する気配はなかった。

 つまり、あの伏せカードは激流葬ではない。

 

「ダイヤウルフの効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、僕の場の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体とフィールド上のカード1枚を選択して破壊する。僕が破壊するのはその伏せカードとダイヤウルフだ」

 

 ダイヤウルフ。その効果は、偏に自爆で事足りる。

 素材指定なし、レベル4のモンスター二体と条件が軽く、効果で相手のカード一枚と獣族、獣戦士族、鳥獣族一体を破壊する。とは言え普通のデッキでそうそう条件となるモンスターが並ぶはずがなく、ダイヤウルフのステータスも攻撃力2000、守備力1200と物足りない物だ。故に他のモンスターを破壊するより、ダイヤウルフ自体を破壊してしまった方が都合がいい。

 そしてその特性故、召喚反応チェッカーには極めて都合がいい。

 

「……ッ!」

「ミラーフォース、か。ならこれで終わりだよ。バトル、トリシューラ、キメラテック・オーバー・ドラゴンを切り裂け」

「無理。トリシューラの影霊衣の攻撃力は2700、いくらキメラテックの攻撃力が0とは言え――」

「それは、どうだろうね」

 

 トリシューラの影霊衣が手にした剣を力をなくした機械の竜に向ける。

 剣が機械の核を切り裂く瞬間、昇は手札のモンスター効果の発動を宣言した。

 

「手札のディサイシブの影霊衣の効果、僕の場の影霊衣モンスターの攻撃力を1000ポイントアップする。トリシューラの影霊衣の攻撃力はこれで3700、十二分に君のライフを削りきれるよ」

「そん、な――」

 

 顔を青く染めるが既に遅し。

 ディサイシブのサポートを受けたトリシューラの剣が巨大化し、振るわれた剣は大地を抉る。

 そしてその威力は一切の攻撃力を持たない機械の集合体に耐えられる物ではなく、その余波もまた、残りライフ3400の綾に耐えきれるものではなかった。

 

LP3400→―300

 

「大丈夫、立てる?」

「……肯定」

 

 昇が差し出した手を受け取り、何とかといった形で起き上がる綾。そこから一つ息を吐いて、昇に自らが持つハートピースを差し出した。

 

「私の負け。ハートピースを持って行って」

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 彼女が持っていた二つの欠片の中から、昇はまだ持っていない物だけを貰っていく。

 

「……どういうつもり?」

「こっちの欠片は僕はもう既に持っていてね。同じ欠片を持っていても意味がないのは聡明な君なら分かるはずだろう?」

「……でも、ルールは」

「そこはまあ、可愛い女の子への特別措置ってことで」

「……食えない男」

 

 憮然としながらも頷いた少女に笑みを返してから、昇は彼女に軽く手を振って別れようとし、

 

「おい、待てよお前」

 

 今度の声は、背後でも横からでもなく正面から。

 

「綾に何かしてただろ」

「いや、僕はただ」

「問答無用! お前が綾からハートピースを奪ってたのを俺は見たんだよ! いいから構えろ、俺が綾のハートピースを取り返してやる!」

 

 決闘盤を構え、血気盛んに少年は吠える。

 年は恐らく綾と同じくらい。彼の言い方からすれば今さっき来て自分が綾からハートピースを貰っているのを奪っているのと勘違いして激昂した、とでも言った所だろうか。

 最も、昇にとっても次の獲物が自分から来てくれたという認識でしかないので、それはそれで大助かりであり、わざわざ誤解を解くようなこともしない。倒してハートピースを頂いた上で、ゆっくりと誤解を解くことにしよう。

 

「いいよ。君の挑戦、受けさせて貰うとしよう」

「いい心掛けだ……逃げなかったことだけは褒めてやるよ!」

 

 二人の少年が決闘盤を構える。

 

「「決闘!」」

 

 ここまで全てを見ていた少女は一人、呆れも露わに息を吐いた。

 

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