元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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第十五話

「戦う前に一ついいかい?」

「……別にいいけど、何か用かな?」

「この決闘盤、正式にはD・パッドというのだったかな。これは本当に素晴らしい技術の結晶だ。決闘盤というのは機能の一つにすぎず、通信機器を始めとした様々な機能を備えた万能携帯端末と言える」

「それが、どうかしたのかい?」

 

 溢れんばかりの殺意を叩きつける少年に苦笑し、咲夜は次の言葉を放つ。

 

「君は、何故これのことを決闘盤と言い続けている?」

「それを君に言う必要はないだろう?」

「なら、私からその答えを言ってあげよう。君はこれを決闘盤だと思っている――いや、決闘盤だと思い込もうとしている、そうだろ?」

 

 昇は言葉を返さない。しかし返答の代わりとばかりに向けられる殺意が増加したことがなによりの答えだ。

 

「図星、か。まあそうだろうな。君があの三人から全てのハートピースを奪わなかった理由も分かっているよ。君が行動を本格的に起こす前に出来うる限りこの世界への変化を多くしたくなかった。君が本格的な行動を起こせば即座にこの世界から目をつけられるだろうからね。それを防ぐためだ、そうだろう?」

「……それを仮に認めたとして、君になんの得があるというんだい?」

「さあ、ね。君の言葉を流用するのなら、『それを君に言う必要があるのかい?』とでも言うのだろうか。とは言え時間の浪費は私としても望む所ではない。さあ、始めよう。私と君、二度目の戦いを」

「君には話して貰うことが多くある。決闘中に必ず話して貰うよ」

「構わないさ――私も、君に聞きたいことがある」

 

 敵意を全力で叩きつける者と、それを真っ向から受け止める者が二人。

 共に仲良く肩を組むという選択肢は、今の二人には存在しない。

 

「「決闘」」

 

「先攻は私が貰おう。私のターン、ドロー。私はRR(レイド・ラプターズ)―バニシング・レイニアスを召喚」

 

 場に現れたのは、仲間を呼ぶ力を持つ一匹の百舌。

 バニシング・レイニアス。ステータスは平凡ながら召喚したターン一度だけレベル4以下のRRモンスターを特殊召喚出来る力を持つ。RRの先鋒と呼ぶに相応しい力を持ったモンスターだ。

 最も昇が反応を示したのは、そのモンスターその物に関してではない。

 

「……RR(レイド・ラプターズ)

「その通り。折角だから感想のほどを聞かせて貰いたいのだけれど」

「非常に最悪な気分だよ。ああ、最悪だ。よりにもよってRRなんて、君はどこまでタチが悪いんだ」

 

 RR。そのカテゴリーの主は、別の世界で融合に敵対しているエクシーズのレジスタンス。つまり融合という現体制を打倒する為に動いている反逆者に当たる。

 そしてその立場は、昇に極めて酷似する物だ。

 元の世界に戻る為にこの世界への反逆を目論む昇と、元の世界を奪い返す為に現体制への反逆を目論む隼の主。動機はどうあれ反逆という行為に関してこの二人が行おうとしていることは同じである。

 それら全てを分かっていながら、咲夜はこのデッキを使っている。

 

「ふふ、私は性格が悪いからね。バニシング・レイニアスの効果発動、このモンスターが召喚に成功したターン一度だけ、手札のRRモンスターを特殊召喚出来る。私は手札のRR-トリビュート・レイニアスを特殊召喚。トリビュート・レイニアスの効果発動。一ターンに一度、デッキからRRカード一枚を墓地に送る。私が墓地に送るのはRR-ミミクリー・レイニアス。さらにミミクリー・レイニアスの効果発動。このカードが墓地に送られたターンこのカードをゲームから除外することで、デッキからRRカード一枚を手札に加える。私が手札に加えるのはRR-ネスト。永続魔法RR-ネストを発動」

 

 青き百舌が白銀の百舌を墓地へと送り、送られた白銀の百舌が巣を作る。モンスターの種類が未だ少ないRRだが、だからと言って戦えないわけではない。少数精鋭。各々が各自の役割を担い、共同で勝利をもぎ取る為に戦う。

 構成員の数が必然的に限られるレジスタンスというのを表現するには、これ以上ないカテゴリーだ。

 

「場に二体RRモンスターが存在する時、デッキまたは墓地からRRモンスター一枚を手札に加える……だったか」

「その通り。私はデッキからRR-バニシング・レイニアスを手札に加える。そして私は場のバニシング・レイニアスとトリビュート・レイニアスの二体でオーバーレイ・ネットワークを構築。冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ。エクシーズ召喚。飛来せよ、RR-フォース・ストリクス」

 

 その姿は一見機械仕掛けの梟に見えるが、種族はれっきとした鳥獣族。翼を大きく広げたその梟は、主の命を聞こうとする従者のように咲夜の元に佇む。

 RR-フォース・ストリクス。攻撃力は100、守備力は2000とステータス的には貧弱その物だが、その正体はRRにとっての核、最重要モンスターの一体だ。

 

「フォース・ストリクスの効果を発動させて貰うよ。一ターンに一度オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことでデッキから鳥獣族・闇属性・レベル4のモンスター一体を手札に加える。私が手札に加えるのはRR-インペイル・レイニアス。カードを二枚伏せて、これで私はターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」

 

 咲夜の場にはフォース・ストリクスが一体。それだけなら突破は簡単だが、問題点として伏せカードが二枚もある。

 性格の悪い咲夜のこと、あの伏せカードがブラフである可能性はおそらく皆無だ。問題はあれが何なのか。虚無空間である可能性は非常に少ないとは言え、何かしらの罠が仕掛けられていることを前提に動くべきだ。

 カードを引いてから思案する少年に対し、咲夜は臆面なく言葉を放つ。

 

「何故君はこの世界の存在であることを拒む?」

「僕がこの世界の存在ではないからさ。僕達転生者はこの世界にとって異物でしかない。それは君も分かっているはずだろう?」

「勿論、それを私が分かっていないはずがないさ。私達転生者はこの世界に温情をもって生かされているだけにすぎないこともね。でも、君のこの世界との付き合い方は異常だ。D-パッドを決闘盤としてしかみなしていないのもそう、戦った三人をわざわざ特権まで使ってまでハートピースを全て奪わなかったのもそう。何故そこまでこの世界を拒む? そこまでこの世界を拒む理由が、本当に君にあるのかい?」

「僕はマンジュ・ゴッドを召喚。効果発動、デッキから儀式モンスター一体または儀式魔法一枚を手札に加える」

 

 咲夜が放った言葉に返答を返さず、昇は己が僕を召喚する。

 万の腕持つ魔神に一瞥を返し、咲夜は内心で小さく息を吐く。仕掛けたジャブは十分に効果を発揮した。此方の言葉を強引に無視したことは、自分の仮説は概ね正しいことの裏付けになってくれた。

 さて、彼は気づいているのか、それとも気づいた上でそれを見ないフリをしているのか。あるいは――気づいた上で、先に進もうとしているのか。

 

「僕が手札に加えるのはユニコールの影霊衣。さらに儀式魔法影霊衣の万華鏡を発動。エクストラデッキの虹光の宣告者をリリース。来い、ユニコールの影霊衣。墓地に送られた虹光の宣告者の効果発動、デッキからブリューナクの影霊衣を手札に加える。僕はマンジュ・ゴッドとユニコールでオーバーレイ。エクシーズ召喚、来いラヴァルバル・チェイン」

「サーチは許すが、それ以上のことは許せないな。罠カード、奈落の落とし穴発動。ラヴァルバル・チェインを破壊しゲームから除外する」

「ブリューナクの影霊衣の効果発動、このカードを手札から捨ててデッキからトリシューラの影霊衣を手札に加える。墓地の影霊衣の万華鏡の効果発動。このカードとブリューナクの影霊衣をゲームから除外して、デッキから影霊衣の降魔鏡を手札に加える。儀式魔法影霊衣の降魔鏡発動、手札の影霊衣の術士シュリットをリリースし、トリシューラの影霊衣を儀式召喚」

 

 氷剣を携え、青年は主の敵に切先を向ける。

 それを向けられているはずの咲夜からは、何故か余裕気な雰囲気が失われてはいない。

 

「シュリット、そしてトリシューラの影霊衣の効果発動。このカードがリリース素材になった時、デッキから戦士族影霊衣儀式モンスター一体を手札に加える。僕が手札に加えるのはブリューナクの影霊衣。さらにトリシューラの影霊衣の効果発動」

「エフェクト・ヴェーラー。その効果は無効化させて貰う」

 

 効果を無効化された瞬間微かに彼の顔に陰りが走ったのを咲夜は見逃さない。やはり昇は決着を焦っている。トリシューラで一気に勝負をかけにきたのがその証拠だ。

 焦りは雑念を生み、雑念は失策を生む。そしてその失策は新たな雑念を生んでいく。負のスパイラルに一度陥ればそうそう抜け出すことは適わない。影霊衣との相性差が致命的なほど悪いRRとは言え、そうなってしまえば付け入る隙は十分にある。

 最も、自分の目的はそこにあるわけではないのだが。

 

「バトル、トリシューラの影霊衣で攻撃」

「リバースカードオープン、RR-レディネス。このターン、私のRRモンスターは戦闘では破壊されない」

 

 渓谷に守られたフォース・ストリクスにトリシューラの剣が届くことはなく、悔しそうに青年は主の元へと引き返していく。

 

「防がれた、か。僕はこれでターンエンド」

「私のターン、ドロー。フォース・ストリクスの効果発動、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除きデッキからRR―ファジー・レイニアスを手札に加える。魔法カード闇の誘惑。カードを二枚ドローし、手札から闇属性モンスターを一枚ゲームから除外する。私は手札のファジー・レイニアスをゲームから除外する」

 

 一通り手札を整えてから、咲夜は新たな話を切り出した。

 

「君が私に聞きたいのは恐らくこうだ。『何故私が嘘の情報を言ったのか』。確かにこの世界のルールは絶対だ、私は君に敗北し、君とあの少女、六道輪廻が元に戻る為の情報を話したよ。だけどね、このルールには欠陥がある」

「欠陥? 馬鹿な、この世界のルールは絶対だ。特に僕達転生者に対しては過剰なまでの制約が――まさか」

「そう。その制約は絶対だが、抜け道がないわけではないんだ。例えば、転生者同士の決闘での強制命令執行権。あれで君は私に情報を話せと命令した。けれどあれは、真実さえ語っていれば語る部分を省略しても良いし、含みを入れてもいい。確かに私は君と彼女が元の世界に戻る為に必要なだけの情報を語ったよ。でもね、君と彼女が一緒の世界に帰る方法なんて(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)私は語った覚えはどこにもない(・・・・・・・・・・・・・・)

「……ッ」

「それを知った今、君が無理に元の世界に戻る必要なんてあるのかい?」

 

 優しい、しかしそうであるが故に不気味な声が昇の思考をかき乱す。

 目的を心の内に伏せたまま、麗人は己がターンを進めていく。

 

「私はRR-バニシング・レイニアスを召喚。場のRR-ネストの効果発動、デッキからRR-ミミクリー・レイニアスを手札に加え、バニシング・レイニアスの効果でミミクリー・レイニアスを特殊召喚。ミミクリー・レイニアスの効果、場のRRモンスター全てのレベルを一つ上げる。私はレベル5となったバニシング・レイニアスとミミクリー・レイニアスでオーバーレイ。エクシーズ召喚、現れろ、零鳥姫リオート・ハルピュイア」

 

 極氷の世界の零姫は、己に敵対する者を許さない。

 リオート・ハルピュイア。鳥獣族レベル5以上という厳しい縛りこそあるが、その効果、そしてその属性故に一度出れば極めて有用なモンスターの一体。

 その理由は、偏にある一枚のカードが存在しているということ。

 

「リオート・ハルピュイアの効果、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、相手モンスター一体の攻撃力を0にする。私はトリシューラの影霊衣の攻撃力を0にする。さらに私はリオート・ハルピュイア一体でオーバーレイ・ネットワークを再構築、エクシーズ・チェンジ。現れろ、FA-クリスタル・ゼロ・ランサー」

 

 水属性ランク5エクシーズモンスター。ただそれだけで価値があるとされる理由がこのモンスターだ。

 FA-クリスタル・ゼロ・ランサー。

 素の攻撃力は220と乏しいがエクシーズ素材の数だけ攻撃力を500ポイント上昇させる効果とエクシーズ素材を一つ取り除けば破壊を免れる効果、そしてエクシーズ素材を一つ使い相手の場のモンスター効果全てを無効にする効果を持つ。一度場に出た時の制圧力たるや並みのデッキでは抵抗することさえ難しく、初動から今に至るまで同じパックに収録されている激安神とは比べ物にならないほどの高価格をつけられた代物だ。

 

「墓地のミミクリー・レイニアスの効果、このカードを除外してデッキからRRカード一枚を手札に加える。私はデッキのRR-バニシング・レイニアスを手札に加える。バトル、FA-クリスタル・ゼロ・ランサー、トリシューラの影霊衣に攻撃」

 

 槍が青年の身体を貫き、氷像となった直後中心から崩壊していく。

 

「くっ……」

 

LP4000→800

 

「私はカードを二枚伏せてターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」

「なあ、私には君がそこまでこの世界から出ていこうとする理由が分からないんだ。この世界は私達転生者の生存を許してくれているし、元の世界よりも生活しやすい。私なら到底、今ある全てをかなぐり捨ててまであの世界に戻ろうなんて思えないけどね」

「……君はこの世界に違和感を感じないのかい?」

「誰だって少しは感じるさ。私だって多少慣れたとは言っても、多少の違和感は拭えない。だが、逆に聞かせて貰うよ、その違和感と元の世界で受けた苦しみ、天秤にかけてどちらを選ぶか、ここにいる君ならそんな物は明白なんじゃないのかな?」

 

 ぐ、と口を噤む昇。

 苦しげに唸るその表情からは、咲夜の問いに明確な回答を持っていないことが見て取れた。

 何がなんでも元の世界に戻るという、その理由が。

 

「僕は手札のブリューナクの影霊衣の効果発動、デッキから影霊衣の術士シュリットを手札に加える。さらに墓地の影霊衣の降魔鏡の効果発動、このカードと墓地のブリューナクの影霊衣を除外し、デッキから影霊衣の反魂術を手札に加える。儀式魔法影霊衣の反魂術発動、手札の影霊衣の術士シュリットをリリース。墓地より蘇えれ、トリシューラの影霊衣。墓地のシュリット、そしてトリシューラの影霊衣の効果発動」

「罠カードブレイクスルー・スキル。トリシューラの影霊衣の効果だけは無効にさせて貰うよ」

 

 白銀の恐竜が次元の壁を突き破り、トリシューラの力を奪っていく。

 影霊衣というのは直接的なアドバンテージを奪う力が乏しいデッキだ。それを補って余りある程のリカバリー能力はあるが、それ以外の長所はエクストラメタという特徴以外存在しない。

 彼らが強かったのはあくまでも儀式が弱かった時に存在したアドバンテージの塊と、トリシューラという絶対にして唯一の槍が存在したから。

 そしてその長所の半分は今、完膚なきまでに封じられている。

 

「私が何の策もなくトリシューラを破壊しないわけがないだろう。トリシューラは効果こそ強力だが、一度場に出てしまえば完全な置物だ。それを予測していないなんて、余程焦っているようだね」

「……僕はシュリットの効果でクラウソラスの影霊衣を手札に。クラウソラスの影霊衣の効果、デッキから影霊衣の万華鏡を手札に加える。儀式魔法影霊衣の万華鏡を発動、エクストラデッキの虹光の宣告者をリリース。来い、ユニコールの影霊衣」

 

 外界からの来訪者を許さない槍使い。如何に強力な制圧力を誇るクリスタル・ゼロ・ランサーと言えど、その制圧力はあくまで効果によるもの。

 そしえその効果を無効化されてしまえば、それは物言わぬ木偶人形となんら変わりはない。

 

「墓地に送られた虹光の宣告者の効果、デッキからヴァルキュルスの影霊衣を手札に。バトル、いけ、ユニコール、トリシューラ。クリスタル・ゼロ・ランサーとフォース・ストリクスを破壊しろ」

 

 槍と剣、異なる二種の獲物が、麗人の僕を破壊する。

 

「くうう……」

 

咲夜

LP4000→3500

 

「僕はこれでターンエンド」

「なら私のターン、ドロー。私はRR-バニシング・レイニアスを召喚、効果発動。手札のRR-インペイル・レイニアスを特殊召喚。インペイル・レイニアスの効果、場のモンスター一体を表側守備表示に変更する。私はユニコールの影霊衣を守備表示に変更。バトル、いけインペイル・レイニアス。ユニコールの影霊衣を破壊しろ」

 

 ユニコールの影霊衣の攻撃力は2300。しかし守備力は僅か1000しかない。

 下級モンスターの攻撃さえ凌げないそのステータスでは、インペイル・レイニアスの攻撃を受け止めることは出来ない。

 

「ぐ……ユニコール……」

「メインフェイズ2に移行するよ。私はインペイル・レイニアスの効果発動。このモンスターが攻撃を行ったことにより、墓地のRR-トリビュート・レイニアスを特殊召喚。トリビュート・レイニアスの効果、デッキから最後のミミクリー・レイニアスを墓地に。ミミクリー・レイニアスの効果、このカードを除外しデッキからRR-ネストを手札に加える。ネスト発動、効果でデッキのトリビュート・レイニアスを回収する。さらにバニシング・レイニアスとトリビュート・レイニアスでオーバーレイ。来い、ガガガガンマン」

 

 場に現れたのは相手のライフを削り取る銃士。残りライフが僅かの時に守備表示出てきたこの戦士は、相手に絶望を与えるに相応しい効果を持つ。

 

「ガガガガンマンの効果発動、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える。さようなら、相剋昇。この戦い楽しかったよ」

 

 静寂の中響く銃声。

 残りライフが800丁度である昇の心臓へと弾丸は空気を引き裂き一直線に向かう。

 

「エフェクト・ヴェーラー。その効果は無効にさせて貰うよ」

 

 彼の心臓に届いたと思った瞬間、弾丸は姿を消していた。

 一つ息を吐く咲夜であったが、その瞳に悲観はない。ここまで来れば止められた所でどうにでもなる。昇の目からは勝利を半ば確信しているかのように写ったし、事実この状況を見れば誰でも同じ思いを抱く。

 本当は、全く違う理由から来るものであるのだが。

 

「まあいいさ、私はこれでターンエンド」

「僕の、ターン」

「さあ、私に教えてくれ。君が元の世界に帰ろうとする理由を。全てをかなぐり捨ててでも成し遂げようとする、君の願いの原動力を」

「……僕は」

「言えないというのなら私が代わりに言わせて貰おう。君が元の世界に帰ろうとする理由、それは――」

 

 一つ、小さく咲夜は息を吸う。

 次に放つ一言がどれ程の影響を及ぼすのかをを知りながら、咲夜は躊躇いなく口を開いた。

 

「ない《・・》。君には元の世界に帰りたい理由など、ありはしない」

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