「私のターン、ドロー。私は魔法カード増援を発動。デッキからゴブリンドバーグを手札に加える。さらに魔法カードE-エマージェンシーコールを発動。デッキからE・HEROシャドーミストを手札に加える。ゴブリンドバーグを召喚、効果でこのモンスターを守備表示にすることで、手札のシャドーミストを特殊召喚」
空飛ぶゴブリンが落とした貨物から現れたのは、影を纏う闇の英雄。
E-HEROシャドーミスト。攻撃力は僅か1000、守備力は1500。レベル4モンスターのアタッカーラインと呼ばれる1900には遠く及ばないステータスしか持たないが、これを見たカイトの表情が警戒を露わにする。
今の輪廻の場にはレベル4のモンスターが二体。エクシーズ召喚を基本とするこの世界において警戒するのは当たり前のことだ。特にランク4はあらゆる戦術を可能に出来る程の極めて高い汎用性を持つ。いくらカイトのエースがエクシーズ絶対滅ぼすマンの銀河眼と言えども多少なりとも恐れは抱いていることが表情から見て取れる。
しかし生きた世界が違うのならば、「常識」が違うのもまた道理。
「シャドーミストの効果、このモンスターが特殊召喚に成功したので、デッキからマスク・チェンジを手札に加える。カードを四枚伏せて、ターンエンド」
「何……ッ⁉︎」
輪廻がエクシーズ召喚をしなかったのが余程予想外だったのか、眼を見張ったカイトの声が昇の耳にも届く。満足そうに眼を細めた輪廻は、ただただ催促するように手を伸ばしてその声に応じた。
「……貴様、俺を舐めているのか?」
「舐めているかどうかはすぐにわかる。……ほら、貴方のターン。それとも臆したの?難ならサレンダーしても私は一向に構わないのだけど」
にこやかに、それでいて棘のある挑発が、カイトの怒りに油を注ぐ。
「……面白い。俺のターン、ドロー! 俺は魔法カードフォトン・ベールを発動!」
「……速攻魔法、マスク・チェンジを発動。場のシャドーミストを墓地に送り、闇属性のM・HERO一体をエクストラデッキから変身召喚する」
「変身、召喚……だと……?」
初めて聞いたであろう召喚方法に戸惑いつつある対戦相手を無視し、少女は召喚口上を紡いだ。
「……現れなさい、英雄の世界の影、闇の法典。己が正義をここに示せ、M・HEROダークロウ」
黒き極光が晴れた後元々いたはずの影の英雄は姿を消し、代わりにそこにいたのは異形の存在だった。
英雄の名を冠しながら被った仮面は怪物のよう。闇の力を纏うその姿は到底正義の存在とは思えない。それもそうか、と昇は思う。アレは英雄を縛る法典、つまりは英雄に仇なす英雄だ。故にあの仮面が怪物のソレに見えようと、決して間違いではない。
「……前のターン、貴様がエクシーズ召喚をしなかったのは、それが狙いだったのか」
「その通り。そんなことより早くフォトン・ベールの効果を処理しなさい。説明は不要。手札の光属性モンスターを三枚までデッキに戻し、その数までデッキのレベル4以下の同名光属性モンスターを手札に加えなさい」
「……どうやらそのようだな。俺は手札のフォトン・クラッシャー、ライト・サーペントをデッキに戻し、デッキのディブレイカー二枚を手札に加える!」
「……ダークロウの効果。一ターンに一度、相手が通常ドロー以外でデッキからカードを手札に加えた時、相手の手札をランダムで一枚除外する。やりなさい、インヴァイトヘル」
突如としてカイトの決闘盤に現れた黒いドリルがカイトの手札一枚を貫き、異次元へと吸い込んだ。手札一枚を奪われたことで怒りを露わにしたカイトは対戦相手を睨むが、当の本人はあっけらかんと効果の説明を続けた。
「……ダークロウのもう一つの効果、ブレイク・ザ・ロウ。このモンスターが場に存在する限り、相手の墓地に行くカードは全てゲームから除外される。ディブレイカーを回収したということは、貴方の手札にあったのは恐らくフォトン・リード。単純に計算しても五分の四で貴方の戦略は瓦解した。最も、その顔を見ればどういう結果だったかは容易に想像できるけどね」
呆然としたカイトの顔は、何を奪われたのかを雄弁に示していた。
サーチ潰しと相手のみの全除外。これこそが英雄でありながら英雄殺したる所以だ。前者は増援、エマージェンシーコール、エアーマンなど多種多様なサーチカード全てに対応し、後者はミラクル・フュージョンだけでなくネオスビートの肝である蘇生カードを封殺する。そのくせこのモンスター自体はシャドーミスト経由で簡単にエクストラデッキから召喚可能。二人の元の世界で影霊衣やシャドール、クリフォートに混じってHEROが存在していた原因そのものがこいつであり、同時に多くの決闘者からヘイトを集めていたカードでもある。
それにしてもこの決闘盤、ノリノリである。
「そしてシャドー・ミストの効果。デッキからE・HEROエアーマンを手札に加える。さあ、どうする?」
余裕げな笑みを隠すことなく挑発する輪廻であったが、眼の前で冷静になったカイトの姿を見て笑みを消した。間違いなく地雷を踏んだことを悟ったが既に手遅れ。昇が溜息を零す中、カイトは一枚の魔法カードを使う。
「魔法カードフォトン・リードを発動。手札のディブレイカーを特殊召喚。さらにディブレイカーの効果でこのモンスターを特殊召喚する!」
「レベル4のモンスターが二体……来る?」
「さらに魔法カードフォトン・ブースターを発動! 俺の場のディブレイカー全ての攻撃力を2000にする! 俺は攻撃力2000となったディブレイカーをリリース! 闇に輝く銀河よ! 希望の光となりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、銀河眼の光子竜!」
カイトの全ての手札と引き換えにフィールドに現出したのは、彼の象徴と呼べるモンスターであり、ナンバーズ・ハンターと自称すしている理由そのものであると同時に、彼が最も信頼しているモンスター。
攻撃力3000、守備力2500。かの青眼の白龍と全く同じという極めて高いステータスを誇る光の竜は、己が存在を知らしめんとするかの如く咆哮する。
「……これは、流石に予想してなかったかな」
「バトルだ! 俺は銀河眼の光子竜でダークロウに攻撃! 破滅のフォトン・ストリーム!」
「……ぐっ」
輪廻
LP4000→3400
「俺はこれでターンエンド。俺の銀河眼の力、味わったか」
精悍な顔をしたカイトとは対照的に輪廻の顔は微かに歪んでいた。恐らく彼女の伏せカードは禁じられた聖槍か聖杯、攻撃反応系の罠、それかブラフか。エクシーズ召喚自体は読んでいたのかもしれないがギャラクシオンなら止められると踏んで一枚は聖杯、そして他三枚だろう。
銀河眼の光子竜は場か墓地にさえいれば非常に厄介なモンスターだ。事実上の戦闘破壊耐性に加え他のカードとは一線を画するほどのサポートカードの多さ。そして3000の攻撃力。レベル8であることから神竜騎士フェルグラントを始めとする優秀なランク8エクシーズモンスターにも繋げられる。そして彼女の組んだHEROに一度出た銀河眼を真っ当に処理できるカードはほぼないと言っていい以上、輪廻は苦難に立たされていると言える。
最もそれは、カイトも全く同じ。
伏せカードはゼロ、手札もゼロ。場には銀河眼のみ。いくら優秀なモンスターといえども破壊耐性を持っていないこのカード一枚では非常に心もとない状況である。次のターン銀河眼を上手く処理されたならば。彼を待ち受けているのは敗北をもって他にない。
故に、ここが勝負の分水嶺。
「……私のターン、ドロー」
デッキトップのカードを捲り、輪廻はごくりと唾を飲む。一瞬の静寂、その後に彼女が見せたのは、これ以上ないほどの安堵の笑顔だった。
「伏せてあった魔法カード、禁じられた聖杯を発動。銀河眼の攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効に。E・HEROエアーマンを召喚。エアーマンの効果、このモンスターが召喚に成功した時、デッキからHEROカード一枚を手札に加える。私はバブルマンをサーチ。場のゴブリンドバーグとエアーマンでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚、鳥銃士カステル。効果発動、オーバーレイ・ユニット二つを使うことで相手フィールドのモンスター一体をデッキに戻す。主の元に帰りなさい、銀河の瞳を持つ竜」
オーバーレイ・ユニット二つを愛銃へと装填したカステルは銀河眼へと狙いを定め、引き金を引く。放たれた弾丸はカイトの場の銀河眼に直撃し、主人のデッキへと封じ込めた。
「カードを一枚伏せ、手札のE・HEROバブルマンを特殊召喚。手札ゼロの時このモンスターは特殊召喚出来る。さらに伏せカードのE-エマージェンシーコールを発動。デッキからバブルマンを手札に。バブルマンを特殊召喚。二体のバブルマンでオーバーレイ・ネットワークを構築。H-Cエクスカリバーをエクシーズ召喚」
ゲームセット。昇が一つ頷くと同時に、輪廻は僕に命を下した。
「……バトル。エクスカリバーとカステルでダイレクトアタック」
「ぐ……ああああああっ!」
カイト
LP4000→0
「さて、これで僕達には君のナンバーズを奪う権利が出来たわけだけど」
にこやかに笑みを浮かべ、昇はカイトに語り掛ける。
「僕達と取引をしないかい、天城カイト」
「……どういうつもりだ」
「何、簡単だよ。僕達はナンバーズに興味なんかない。だけども君にとっては大切な代物のはずだ。お互いに得を取り合う、僕としてはそうしたいだけだよ」
「どうだかな。で、取引とはなんだ」
「さっきも言った通り、僕は君からナンバーズを奪う権利を放棄しよう。その代わり――」
隣で取引を持ち掛ける昇を見る際に輪廻は、いつも決まって同じ感想を抱く。
「――君の父、Dr.フェイカーの元に連れて行ってくれるかな?」
今の昇は、悪魔のようにしか見えないと。