元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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基本的に後書きは活動報告の方でやっているのでそちらも目を通して頂ければ幸いです。
また、基本的に感想、活動報告へのコメント、誤字、プレミなどは大歓迎ですのでぜひともよろしくお願いします。


第四話

『この道灌一人、時の流れに抗い続けよう……!』

 

 ゲームセンターに置かれた筐体の一つでそんな声がした直後、画面に映された騎馬一体の武力が上がる。

 

「……しまっ」

「もう遅いよ」

 

 降伏勧告をしつつ容赦なく突撃で敵部隊を蹂躙していく騎馬を前に、輪廻は思わず歯噛みする。他の部隊は既に全て撤退し、残ったのは既に大戦火発動済みの今川氏親のみ。

 そしてこうなった以上、逆転するのは非常に困難だ。

 

「……負けた」

「膨れないでよ、クレープ奢るから」

 

 ゲームセンター内で頬を膨らませた輪廻に苦笑しつつ、昇はそう提案する。

 

「……いいの?」

「勿論。どうせお金は余ってるし」

「……やった」

 

 先程のふくれっ面はどこえやらクレープにぱくつき満面の笑みを見せる少女を前に、昇もまた幸せそうに笑う。

 

「……昇、あーん」

「流石に、それは恥ずかしいよ」

「私も恥ずかしいけど、昇は買ってなかったし。ほら、あーん」

 

 にこやかに齧った後があるクレープを差し出す少女を前に、昇は一種の覚悟を決める。

 

「……じゃあ、遠慮なく」

「……よろしい」

 

 周囲の視線から全力で目を逸らし、輪廻が差し出したクレープに口をつける昇。味があるのかないのか分からない状態であったが、にこやかに微笑む輪廻は非常に可愛いと内心で一人頷き、

 

 周囲の時間が、停止する感覚。

 

「……そういえば今日は、あの日だった」

「そうだね」

 

 豪雨とも呼べるほどの雨が降り注ぎ、それでいて雨粒一つ一つが停止しているという奇妙な光景。これはゼアル序盤、九十九遊馬と天城カイトが初めて戦った時と全く同じ物だ。

 

 

「さて、見に行こうか」

「……うん」

 

物陰に隠れ、遊馬とカイトが決闘盤を構えた所まで五分。二人が彼らの姿を決闘を見る為に物陰に隠れたのを待っていたかのように決闘が始まった。

 

『いくぞ遊馬!』

「おう! 俺の先攻、ドロー! 俺は魔法カードオノマト連携(ペア)を発動! 手札を一枚墓地に送り、デッキからガガガ、ゴゴゴ、ドドド、ズババのモンスターを二枚まで一枚ずつ手札に加える! 俺は手札のゴゴゴゴーレムを墓地に送り、デッキからゴゴゴジャイアントとガガガマジシャンを手札に加える!」

 

 オノマト連携。遊馬のテーマデッキ専用サポートカードの一枚であり、非常に有用なサーチカード。手札を墓地に送るというコストも遊馬が使ったように布石にすることも出来る。痒い所に手こそ届かないものの、優秀なカードだと言えるだろう。

 しかし、それを見た二人の顔は微かに曇っていた。

 

「輪廻、あれは君の仕業かい?」

「……まさか。私達は彼らのデッキに干渉はしてない。それは昇が一番分かっているはず」

「だよね、となると――」

 

 あれは、原作で彼が使ったカードではない。

 

「さらに俺は、ゴゴゴジャイアントを召喚! 効果発動! このカードが召喚に成功した時、墓地からゴゴゴと名のついたモンスター一体を表側守備表示で特殊召喚出来る! 甦れ、ゴゴゴゴーレム! 俺は、レベル4のゴゴゴゴーレムとゴゴゴジャイアントでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、No.39、希望皇ホープ!」

 

 逆向きになった塔が変形し、純白の翼を持つ黄金の剣士に変形する。希望皇ホープ。九十九遊馬の相棒にして、何度も何度も蘇生され酷使された過労死同盟の一員。

 塔はタロットで絶望を意味する。それが逆向きにすることで希望をイメージ出来るようになっているのだろう。最も本家の塔は正位置だろうが逆位置だろうが碌なことが書かれていないのだが。

 

「現れたか、ナンバーズ!」

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド! さあ、次はお前のターンだぜ」

『遊馬、油断するべきではない。彼は強敵だ』

 

 アストラルが遊馬を咎めるのに内心で同意しつつ、二人は小声で言葉を交わす。

 

「……やっぱり、いるのね」

「ああ、間違いない」

 

 二人の表情が渋面に変わるのを知ることなく、カイトは己がターンを始めた。

 

「狩らせてもらうぞ、貴様のナンバーズを! 俺のターン、ドロー! 俺はフォトン・スラッシャーを特殊召喚! このモンスターは自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚出来る! さらに俺はフォトン・クラッシャーを召喚!」

『レベル4のモンスターが二体……来るぞ遊馬!」

「俺はフォトン・スラッシャーとフォトン・クラッシャーでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 現れるのは白き剣帝。ギャラクシーデッキの先鋒にして、竜の傍らに携わる騎士。

 

「現れろ、輝光帝ギャラクシオン!」

 

 攻撃力は2000、ランク4エクシーズモンスターの中では非常に謙虚な数値だ。

 

「大層な召喚しといて攻撃力2000かよ。そんなんじゃ俺のホープは倒せないぜ!」

 

 単純に数値だけを見れば、それは初心者でも分かる事実だ。未だ初心者の域を超えない遊馬ですらそれを分かっていることが発言からも察せられる。

 しかし逆を見ればそれは、そのことしか見えていないことの証拠でもある。

 

『気をつけろ遊馬。あのモンスター、何かがあるはずだ』

 

 アストラルの発言は遊馬への忠告と同時に自分への戒めでもある。彼は分かっているのだ。

 

「……エクシーズモンスターの本領は、その魂たるオーバーレイ・ユニットを使用した効果にこそある」

「ユートの真似かい?」

「……似てた?」

「輪廻がユートの真似しても可愛いだけだよ」

 

 カイトは遊馬の言動を鼻で笑ってから効果の発動を宣言した。

 

「輝光帝ギャラクシオンの効果発動! オーバーレイ・ユニットを二つ使い、デッキから銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)一体を特殊召喚する! 闇に輝く銀河よ、希望の光となりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨!」

 

 遊馬の「希望」と相対するのは、カイトの「希望」。

 

「現れろ、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!」

 

 銀河の眼を持つ竜は、場へと出た瞬間己が存在を誇示せんが如く咆哮する。

 それを目の当りにしたアストラルの表情が、一瞬だけ驚愕に染まった。

 

『なんだ、あのモンスターは……』

「攻撃力3000!? でもそれだけならホープの効果で」

『気をつけろ遊馬! あのモンスター、何かあるぞ』

 

 決闘の天才。そう呼ばれる彼は直観でそのモンスターの強さを理解したのだろう。アストラルの忠告を聞いて気を引き締めた遊馬に視線を向け、カイトは己が相棒に命を下した。

 

「いけ銀河眼(ギャラクシーアイズ)! 希望皇ホープに攻撃! 破滅のフォトン・ストリーム!」

「ホープの効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃を無効にする! ムーンバリア!」

銀河眼(ギャラクシーアイズ)の効果発動! このモンスターがバトルするとき、このモンスターと相手モンスターをゲームから除外する!」

「何だって!?」

 

 銀河眼とホープは共に除外され、場に残ったのはギャラクシオン一体のみ。

 当然ここで追撃を止めるほど、カイトは敵に甘くはない。

 

「いけ、ギャラクシオン! 奴にダイレクトアタック! フォトン・カット!」

『遊馬! トラップだ!』

「おう! 俺はトラップカード、攻撃の無敵化を発動! このターン、俺が受ける戦闘ダメージはゼロになる!」

 

 ギャラクシオンの攻撃を耐え、安堵の息を吐く遊馬。攻撃を止められたことでカイトの顔が微かに曇るが、それ以上何もすることなくバトルフェイズを終える。

 

「バトルフェイズ終了時、銀河眼の効果(ギャラクシーアイズ)の効果で除外されたお互いのモンスターは、互いの場へと特殊召喚される」

 

 この時お互いの場に現れた変化は二つ。

 まず一つ。一度除外されたことによりホープのオーバーレイ・ユニットが墓地へと送られていること。

 そして、もう一つは。

 

銀河眼(ギャラクシーアイズ)の効果、このモンスターが相手のモンスター・エクシーズと共に除外された場合、そのオーバーレイ・ユニットを吸収する!」

『オーバーレイ・ユニットを吸収だと!?』

 

 墓地に送られたオーバーレイ・ユニットを吸収したことで、銀河眼はさらなる光を得る。

 それは名の如く光子(フォトン)のよう。思わず目を奪われる煌めきに圧倒される遊馬には目もくれず、カイトは自らのターンを進めた。

 

「さらに銀河眼はこの効果で吸収したオーバーレイ・ユニット一つにつき500ポイント攻撃力をアップする。カードを三枚伏せてターンエンドだ」

 

 たかがカード一枚、たかだか一体のモンスター。それが僅か一ターンでフィールドを支配するのはこのゲームでは大して珍しいことではない。しかしそれはあくまで元の世界の話。この世界ではそんなことは滅多に怒らないのは、この世界の決闘のレベルを見ればよく分かる。

 

「さあ、お前のターンだ。それともどうした、サレンダーでもするつもりか?」

 

 この言葉は恐らくカイトなりの優しさだ。無理だと分かりきっているのに足掻くくらいなら、最初から諦めてしまえばいい。特に今のカイトのデッキは銀河眼を使い回す事に特化している。この世界の決闘者では対処するのが半ば絶望的と呼べるほどにだ。

 

「サレンダー?冗談じゃねえ、そんなに簡単に諦めてたまっかよ!いくぜ、俺のターン、ドロー!」

 

 それでも九十九遊馬は諦めない。例え半ば敗北が決まっていようと、最後の最後まで諦めず戦い抜く、その超人めいた精神力こそが彼の最大の武器だ。

 

『遊馬!』

「おう! 俺は魔法カードエクシーズ・トレジャーを発動! このカードは場のモンスター・エクシーズ一体につきデッキから一枚カードをドローする! 場には二体、よってデッキからカードを二枚ドロー!」

 

 恐らく今しがた引き当てたであろうカードを使い、遊馬は手札を補充する。

 

「……さて。今の遊馬の力、見せて貰おうか」

 

 自分の決闘が覗かれているなど露知らず、遊馬は引いたカードに視線を移す。

 

『……これで、勝利の方程式は整った!』

 

 そして発せられたのは、アストラルによる勝利宣言だった。

 

『いくぞ遊馬!』

「おう! 俺は魔法カードおろかな埋葬を発動! デッキからガガガガールを墓地に送る! さらに魔法カード死者蘇生を発動し、墓地に眠るガガガガールを蘇生する! 甦れ、ガガガガール!」

 

 遊馬が勝利への一手としたのは、ガガガの中でも一際目を引く外見と効果を備えた少女。

 ガガガガール。攻撃力は僅か1000、守備力に至っては僅か800しかないレベル3のモンスター。ステータスが貧弱な理由は極めて簡単、このモンスターは単体で戦闘することを目的としてデザインされていない。

 

「さらに永続魔法カードガガガミラーを発動! このカードは選択したガガガモンスターと同じレベルのエクシーズ素材に出来る! 俺はガガガガールを選択する!」

 

 鏡にガガガガールの姿が映し出され、同じレベルのモンスターとなってガールの横に並び立つ。これでレベル3のモンスターが二体。

 

「俺はガガガガールとガガガミラーでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、No.17リバイス・ドラゴン!」

 

 フィールドに蒼き竜が召喚され、それと同時にカイトの目が獰猛な輝きを帯びる。二体目のナンバーズを呼び出した。その事実はNo.を集めるカイトにとっては朗報でこそあれ悲報ではないからだ。

 

「なるほど、貴様もナンバーズを狩ったことがあるのか! だがそんな苦し紛れで出したモンスター一体でどうするつもりだ⁉︎」

「俺の狙いはそこじゃねえ! ガガガガールの効果発動! 相手モンスター・エクシーズ一体の攻撃力をゼロにする! ゼロゼロコール!」

 

 そしてこれが、ガガガガールの真骨頂。

 原作ではエクシーズモンスターの、現実では特殊召喚されたモンスターの攻撃力をゼロにする。単純に相手モンスターのステータスに作用するその効果が弱いはずがなく、これを利用したワンキルまであるほどだ。

 

「だがギャラクシオンの攻撃力をゼロにした程度では、俺を倒すことなど出来ん」

「まだだ! さらに俺はガガガマジシャンを召喚!魔法カード破天荒な風を発動! ガガガマジシャンの攻撃力を1000ポイントアップする! そしてリバイス・ドラゴンの効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ使い、攻撃力を500ポイントアップする!」

 

 遊馬の場に並んだのは攻撃力2500のモンスターが一体、そして攻撃力2000のモンスターが一体。それに対してカイトの場には攻撃力3500の銀河眼と攻撃力を0にされたギャラクシオン。

 

「……あ」

「輪廻も気づいたみたいだね」

「……うん。もし遊馬の手札にあのカードがあれば……」

「確かに、このターンで決着がつく」

 

 あるカードを同時に思い浮かべた二人は、遊馬の一挙手一投足に目を払う。

 そして遊馬が使ったカードは、確かに二人の思い描いたカードだった。

 

「魔法カードクロス・アタックを発動!このカードは攻撃力が同じモンスター二体を選択し、このターン片方の攻撃を放棄する代わりに片方は相手プレイヤーにダイレクトアタック出来る! 俺は、ガガガマジシャンの攻撃を放棄し、ホープにダイレクトアタックの権利を与える!」

 

 攻撃力2000のリバイス・ドラゴンでギャラクシオンを攻撃し、ホープでダイレクトアタックすればダメージは合計4500。

 ライフポイント4000のこの世界では、十二分に勝敗が決まる。

 

「……ほう」

「バトルだ! 行け、リバイス・ドラゴン!ギャラクシオンに攻撃だ! バイス・ストリーム!」

「ぐ……ギャラクシオン!」

 

カイト

LP4000→2000

 

『遊馬!』

「おう! 俺は希望皇ホープでダイレクトアタック! ホープ剣スラッシュ!」

 

 この攻撃が通れば遊馬の勝ち、という所まで追い詰められたカイト。

 しかし遊馬が攻撃を宣言した瞬間のカイトの表情は、明らかに悲観した物とは異なっていた。

 それはまるで。自らの勝利を確信したかのようなーー。

 

「リバースカードオープン! 反射光子流(フォトン・ライジング・ストリーム)!」

 

 勝利を確信した表情のまま、カイトは伏せたカードを使う。

 

「このカードは相手光属性モンスターが攻撃を宣言した時発動出来るカードだ。その効果は、相手モンスターの攻撃対象を自分フィールドの光属性・ドラゴン族モンスター一体に移し替え、さらにそのモンスターの攻撃力分攻撃対象となったモンスターの攻撃力を上げる! 奴のモンスターを仕留めろ銀河眼(ギャラクシーアイズ)、破滅のフォトン・ストリーム!」

「だがホープはナンバーズ、戦闘では破壊されない!」

「ああ、分かっている。そしてそれこそが、お前たちの敗因だ」

「何……!?」

 

 希望の剣士が光子の粒子に飲み込まれ、超過ダメージが容赦なく遊馬を襲う。

 

「これで終わりだ! 速攻魔法光子風(フォトン・ウインド)! このカードは相手モンスターを戦闘で破壊できなかった時発動出来る! 相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与え――」」

『カイト様!』

 

 唐突に空間に写し出されたのは、苦しむハルトの姿。

 

『ハルト様ノオ体ガ急に……!』

「くっ、この決闘は預ける! オービタル!」

「カ、カシコマリ!」

 

 カイトがオービタルと共に空から去ると同時に止まっていた時間が動き出し、小鳥が遊馬の元に駆け寄る。

 

「遊馬! ねえ、どうしたの……?」

「今の決闘、もしあいつが引かなければ、俺はやられていた……」

『……ああ。間違いない。我々は幸運に助けられた。もし彼が去らなければ、あの速攻魔法で我々はやられていた』

 

 冷静に勝負を分析するアストラルの声は小鳥には届かない。

 しかしそれは、実質的な敗者である遊馬の耳にはしっかり届いていた。

 

「……帰ろうか」

「……うん」

 

 遊馬の慟哭を聞き流し、昇と輪廻は一緒の傘に入って帰路につく。

 これからの予定の変更について、二人で語り合いながら。

 

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