元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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第六話

「先攻は譲るよ。君のターンだ」

「何だと……まあいい。俺のターン、ドロー!」

 

 カードを引いた少年は獰猛に笑う。恐らく、余程手札が良いのだろう。

 

「俺は魔法カード光の援軍を発動! デッキトップからカードを三枚墓地に送り、デッキからレベル4以下のライトロードと名の付いたモンスター一枚を手札に加える! 俺はデッキからスポーア、レベル・スティーラー、ローンファイア・ブロッサムの三枚を墓地に送り、デッキからライトロード・ハンター・ライコウを手札に加える!」

 

 墓地へと落ちたカードを見た昇は一人息を吐く。

 スポーアはレベル4のモンスターであると同時に決闘中一度だけ墓地の植物族モンスターを除外しそのレベルを上乗せして墓地から自己再生できるモンスター。これだけなら何もおかしくはないが、このモンスターには一つ特筆すべき点がある。

 

「チューナー……シンクロ召喚、か」

 

 このモンスターは、自己再生可能なチューナーであるということ。

 そして相手の墓地に落ちたカードは、最高とさえ呼べる部類の物だ。

 

「俺はジャンク・シンクロンを召喚! その効果で墓地のスポーアを特殊召喚! さらに手札のドッペル・ウォリアーの効果発動! このモンスターはモンスターが墓地から特殊召喚された時、手札から特殊召喚出来る! 俺は、レベル2のドッペル・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! リミッター解放、レベル5!レギュレーターオープン! スラスターウォームアップ、OK! アップリンク、オールクリアー! GO、シンクロ召喚! カモン、TG(テックジーナス) ハイパー・ライブラリアン!」

 

 光の中より現れたのは、白き服装に身を包んだ一体の司書。

 TG ハイパー・ライブラリアン。カタストルなどのレベル5のシンクロモンスターの中でも一際目を引くモンスター。攻撃力も2400とそれなりではあるが、やはり目を引くのはその効果だろう。

 シンクロ召喚に成功した時、デッキからカードを一枚ドローする、それがライブラリアンの効果。手札一枚が非常に重要視されるこのゲームにおいてこの効果は殆ど許され得ない代物だ。そしてシンクロ召喚に特化したデッキであればあるほど、このモンスターは真価を発揮する。

 

「ドッペル・ウォリアーの効果、このモンスターがシンクロ素材となった時、ドッペル・トークン二体を特殊召喚する! さらに俺はレベル1のドッペル・トークンにレベル1のスポーアをチューニング! 集いし願いが新たな速度の地平へ誘なう! 光さす道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナーフォーミュラ・シンクロン!」

 

 場に現れたのは、F1マシーンのような姿をしたモンスター。

 シンクロモンスターでありながらチューナーでもあるという奇妙なモンスターの一体。彼の効果はシンクロ召喚に成功した時デッキからカードを一枚ドローするという、ただそれだけの物。しかしシンクロ召喚に成功したことで、ライブラリアンの効果もまた発動する。

 

「フォーミュラ・シンクロンとライブラリアンの効果により、デッキからカードを二枚ドローする! さらに墓地のスポーアの効果、墓地に存在するローンファイア・ブロッサムを除外し、このモンスターを特殊召喚! この効果で特殊召喚されたスポーアの効果は4となる! 俺は場のレベル1のドッペル・トークンにレベル4のスポーアをチューニング! 闇より生まれし機械よ、魔鎌を振るう時、今ここに来たれり! シンクロ召喚、全てを刈り取れ、A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)カタストル!」

 

 これで彼の場にはレベル5のシンクロモンスターが二体、レベル一のシンクロチューナーが一体。

 

「来るか」

「シンクロ召喚に成功したのでカードを一枚ドロー! 俺は手札のボルト・ヘッジホッグを墓地に送り、クイック・シンクロンを特殊召喚! さらに墓地のレベル・スティーラーの効果、クイック・シンクロンのレベルを1下げてこのモンスターを特殊召喚! 俺はレベル1のレベル・スティーラーにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング! 集いし思いが、新たな星を産み落とす! 光指す道となれ! シンクロ召喚、新たな力、ジェット・ウォリアー!」

 

 光の中より現れたのは、黒き身体を持つ新たなるシンクロの可能性。

 ジェット・ウォリアー。攻撃力は2100と抑え目だが、二つの有能な効果を持つシンクロモンスター。まず一つの効果が、シンクロ召喚に成功した時発動出来る対象を取る相手の場のカード一枚のバウンス。

 そしてもう一つの効果を知っている以上、昇の表情は曇っていた。

 

「……これは、まさか」

 

 ジェット・ウォリアーの第二の効果は、場のレベル2以下のモンスターをリリースすることで、墓地から特殊召喚出来る効果だ。この効果で場から離れた時に除外こそされるが、レベル5のシンクロモンスターが自己再生するというのは決闘者にとっては寒気を覚える類の物である。

 この状況で、もし相手の手札にあのカードがあるならば。表情をなんとか崩さないように注意を払う昇を知ってか知らずか、少年は獰猛に笑って見せる。

 

「シンクロ召喚に成功したのでカードを一枚ドロー! さあ行くぜ! 俺はレベル5のA・O・Jカタストル、さらにレベル5のジェット・ウォリアーに、レベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! 集いし星が1つになるとき、新たな絆が未来を照らす! 光さす道となれ! リミットオーバー・アクセルシンクロ! 進化の光、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 少年の身体こそ黄金に光輝きはしなかったが、場に現れたのは純白の輝きを持つ、最強のシンクロモンスター。

 シューティング・クエーサー・ドラゴン。攻撃力、守備力共に4000、シンクロ召喚に使用したチューナー以外のモンスターの素材の分だけ攻撃出来る効果、一ターンに一度魔法、罠、モンスター効果を無効に出来る効果を持ち、場から離れた時にはシューティング・スター・ドラゴンをエクストラデッキより呼び出す効果を持つ。登場から幾年を経てなお多くの決闘者に敬意を持たれ続けるカードの一枚であることは疑いようがなく、それほどまでにこのモンスターは愛されている。

 

「シンクロ召喚に成功したのでカードを一枚ドロー! さらに魔法カード死者蘇生を発動!」

 

 そして、一時期は出たらゲームエンドとまで呼ばれたモンスターが二体も並んだらどうなるか。

 

「墓地のフォーミュラ・シンクロンを特殊召喚! 墓地のボルト・ヘッジホッグの効果、チューナーが場に存在する時、このモンスターを墓地から特殊召喚出来る! 甦れ、ボルト・ヘッジホッグ! 墓地のジェット・ウォリアーの効果、場のボルト・ヘッジホッグをリリースすることで、このモンスターを特殊召喚! 自己再生したボルト・ヘッジホッグは場から離れた時ゲームから除外される。俺はレベル5のジェット・ウォリアー、レベル5のTG ハイパー・ライブラリアンに、レベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! リミットオーバー・アクセルシンクロ! 我が場に並び立て、シューティング・クエーサー・ドラゴン! 俺はこれでターンエンドだ」

 

 場に並んだ二体のクエーサー。普通のデッキならばこれで殆ど詰みのようなものだ。

 一体でも対処に困るクエーサーが二体。あらゆる魔法、罠、モンスター効果が二回まで無効にされる。コンボデッキであれば始動を、キーカードが決まっているデッキであればそのキーカードを無効にされる。最悪とさえ称しても一切問題ない状況だ。

 最も今回昇が選んだデッキは、その最悪さえ対処し得るものであったが。

 

「僕のターン、ドロー。僕はカードガンナーを召喚。カードガンナーの効果、デッキトップからカードを三枚墓地に送り、攻撃力を1500ポイントアップする」

「クエーサーの効果。無効にして破壊だ」

「墓地に送る効果はコスト、よってカードを三枚墓地に送る」

 

 墓地に送られたカードは三枚。それを確認してから昇はこの状況を打破すべく動き出す。

 

「カードガンナーの効果、破壊されたのでデッキからカードを一枚ドロー。魔法カード手札抹殺を発動。互いに手札を全て捨て、その枚数分カードをドローする」

「クエーサーの効果、それも無効だ」

「構わないよ。これでクエーサーの効果は使い終わった、これからが本番だ」

 

 普段と全く変わらない、笑みを浮かべ、昇は手札の魔法を使う。

 その様は輪廻の目には、哀れな子羊を前にした悪魔のようにしか見えなかった。

 

「魔法カード名推理を発動。相手プレイヤーはレベルを宣言し、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキを捲り、レベルが合っていれば墓地に、異なっていれば特殊召喚できる。さあ、レベルを宣言するんだ」

「レベル……8だ」

 

 昇の手によりカードが捲られていく。インフェルノイド・ベルゼブル、インフェルノイド・アシュメダイ、インフェルノイド・アドレメレク、奇跡の発掘、インフェルノイド・ネヘモス、インフェルノイド・ルキフグス、インフェルノイド・アドラメレク、煉獄の死徒、モンスターゲート、インフェルノイド・ヴァエル、インフェルノイド・シャイターン、インフェルノイド・アスタロス、カードガンナー。

 僅か一枚の魔法カードで合計11枚のカードが墓地に送られたことに驚愕する少年であったが、まだ終わらない。

 

「カードガンナーの効果、デッキトップからカードを三枚墓地に送り、攻撃力を1500ポイントアップ。手札の焔征竜―ブラスターの効果、このカードと手札のインフェルノイド・ネヘモスを墓地に送り、シューティング・クエーサー・ドラゴンを破壊する」

「シューティング・クエーサー・ドラゴンの効果、このモンスターが場から離れた時、エクストラデッキからシューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 少年の場に現れる、星々の輝きを纏う竜。

 しかしここまでくれば、最早無意味な抵抗にすぎない。

 

「墓地のインフェルノイド・ネヘモスの効果。墓地のインフェルノイド・ベルゼブル、アスタロス、シャイターンを除外し、墓地より特殊召喚。ネヘモスの効果、このモンスターが特殊召喚に成功した時、このモンスター以外の場のモンスター全てを破壊する」

「シューティング・スター・ドラゴンの効果、破壊効果を無効にして、そのモンスターを破壊する!」

「無駄だよ、手札から速攻魔法煉獄の死徒発動。このターン、僕の場のインフェルノイドはカード効果を受けない」

「何だと!?」

 

 墓地より現れた悪魔が力を解放した瞬間、場の全てのモンスターが消し飛ぶ。カードガンナーはおろか、シューティング・スター・ドラゴンも、シューティング・クエーサー・ドラゴンも消え、残ったのは主の敵を嘲笑する一体の悪魔のみ。

 

「ぐっ……」

「カードガンナーの効果、カードを一枚ドロー。どうやら君のデッキにはシューティング・スター・ドラゴンは一枚しか入っていないようだね。手札から死者蘇生を発動、君の墓地のライブラリアンを蘇生。バトル、ライブラリアンとネヘモスでダイレクトアタック」

 

 伏せカードはなく、苦労して出したモンスターも消えた少年の場。

 手札誘発もなかった彼に、二体のモンスターの攻撃を受けきれる道理などあるはずもなく。

 

「ぐ……ぐわあああああ!」

 

少年

LP4000→-1400

 

 ここに、二人の転生者の戦いは終わりを告げた。

 

「ぐ……」

「大丈夫かい?」

「……変な奴だな、お前」

 

 差し出された昇の手を受け取り立ち上がった少年。彼の言葉に苦笑しながらも昇は言葉を返す。

 

「僕達としては君自身に対して悪い感情を抱いているわけではないからね。人として当然のことを行ったまでだよ」

「そして良い感情も抱いてないってか。全く、下手に憎まれてるよりたちが悪い」

 

 皮肉を言う少年に傍によってきた輪廻が睨むが、彼女を征して昇は告げる。

 

「僕達の理は覚えているよね?」

「ああ、分かってる。で、俺はどうすりゃいい?」

「まず一つ、君が原作に行った介入行動についての説明。次にこれ以上の原作に対する介入の禁止。それだけかな」

「……読めねえな。俺にはお前達が何を考えているのかさっぱりだ」

 

 昇を睨みつけ、少年は言葉を続ける。

 

「わざわざ俺と半ば強制的に決闘させておいて要求は原作に関連することのみ。そこまでして原作の流れを守りたい理由でもあるのか?」

「一番の問題は僕達の予定が狂うことでね。彼らには僕の敷いたレールの上で走って貰わないと困る」

「……目的は何だ」

「……元の世界に帰ること」

 

 輪廻が自分達の最終目的を言った瞬間、少年は堪え切れないとばかりに笑った。

 

「お前ら、本気でそんなこと言ってんのかよ? そうだとしたらお前ら、頭が沸いてるか気が狂ってるかのどっちかだぞ!?」

「生憎正気さ」

「ハハハハハハ……っと、久々にいいジョークを聞けたぜ」

「……ジョークなんかじゃない。私達は本気」

 

 少女の怒気を感じながらなお、少年は言う。

 

「お前らもこの世界に来たってことは、元の世界で碌な生き方をしてなかったんだろ?」

 

 少年から発せられた言葉が引金となり、そこまで平静を保ち続けていた二人の表情が明らかに崩れる。

 

「わざわざあんな世界に戻るより、この世界で楽しんだ方がいいじゃないか。生きる糧は簡単に手に入る、望めば富や名声でさえもな。ここが天国じゃなくて何が天国って言うんだ」

「……黙れ」

「あんな所に戻るのなんて俺はごめんだと思うけどな。お前らだって実は内心、同じことを――」

「黙れ!」

 

 基本的に感情を表に出さない輪廻が、感情を露わにして吠える。

 

「……私達は本気。今すぐその口を閉じろ。別に私達は貴方の命なんてどうとも思ってない。今すぐ死ねって命じたって私達は何一つ困らないのだけど?」

「はいはい、敗者に口なし、大人しく黙りますよ。しかしようやく、俺はお前達が見えたような気がするぜ」

 

 殺気を迷うことなく叩きつける少女に苦笑を漏らしつつ、少年は昇に一枚の名刺を差し出した。

 

「これが俺への連絡先だ、何か用があるなら呼んでくれ。一応便利屋稼業をやってるから、お前たちの期待にそう活躍は出来るはずだぜ」

「……要らない。私には貴方は不要」

「おうおう、連れないねえ。それじゃあ俺はこれで。縁があるのなら、また会おう」 

 

 挨拶のつもりなのか軽く手を掲げた瞬間、少年の姿は消えていた。

 残されたのは昇に渡された一枚の名刺。そこには連絡先と共に、彼の名前が書かれていた。

 

「渡、幸也か」

「……厄介な奴。全く持って気に食わない」

「確かにね。でもまあ、使えそうな人材だとは思うよ」

「……どうだか。私はとてもそうには見えないけれど」

 

 今後の予定について語りながら、二人は自宅へと歩き出す。

 今日一日で怒った変化の多さに、時たま溜息をこぼしながら。

 

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