元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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第八話

「二人とも、こんな時間に呼び出してすまないね。出来る限りのもてなしはするから、ゆっくりしていって貰えると嬉しいよ」

 

 午後九時。遊馬とカイトが共にⅣ、Ⅲと戦った場所へと呼び出された昇と輪廻に対し、呼び出した張本人である仮面を被った少年は臆面することなくそう言った。

 

「社交辞令でもそう言う時は家中の意思を一つに纏めておくべきだと思うよ。少なくとも一人、あからさまに不機嫌そうな人がいるからね」

「……全く。乱暴な男は嫌い」

 

 敵意を隠すことなく叩きつける少年に流し目を送りつつ、昇と輪廻はあからさまに息を吐く。

 

「Ⅳ、下がっているんだ」

「悪いがきけねえよ親父。俺の中の何かが警告してるんだよ、今ここでこいつらを叩き潰しておかないとやばいってな」

「一応僕達は協力者なんだけどね……まあいいや。ここで僕が協力者としての力を示しておくのもいい。君達にとって協力者の実力を見ておくのも悪くはないだろう?」

「……どうします、父様?」

「そうだね。Ⅳ、やるのなら全力でやってくれ。くれぐれも高貴な心を忘れずにね?」

「おう、俺の全力のファンサービス、たっぷりと拝ませてやるぜ!」

 

 決闘盤を構えるⅣを無視し、ここでいいのかという意味を込めてトロンに視線を向ける。問題なし。にこやかに笑みをたたえて頷いたのを確認し、昇もまたデッキを決闘盤にセットした。

 

『ARビジョン、リンク完了』

 

 最早聞きなれたものである、感情のない機械音声。

 

「「決闘!」」

 

 ここに来てから僅か数分、殆ど何も話さずに始まった決闘。

 それに何の違和感も持てないという事実に、慣れた物だなと一人思う。

 

「先攻は譲ろう、君のターンだ」

「けっ、舐めやがって……俺のターン、ドロー! 俺はギミック・パペット―ボム・エッグを召喚!」

 

 Ⅳの場に現れたのは、橙色の卵に四肢の生えたような姿をしたモンスター。

 ギミック・パペット―ボム・エッグ。攻撃力は1600と控えめだが、ギミック・パペットモンスターを手札から捨てることで発動出来る二つの効果を持つ。

 一つは相手に800ダメージを与える効果。手札一枚を昼夜の大火事に変えるといって差し支えない。相手のライフが800以下の際に引導火力として使用できるが、それはあくまでオマケ程度の物。本命は二つ目の効果だ。

 

「ギミック・パペット―ボム・エッグの効果発動! 手札のギミック・パペットと名の付いたカードを一枚墓地に送ることで、このモンスターのレベルを8にする! 俺は手札のギミック・パペット―ネクロ・ドールを墓地に送る! さらに俺は魔法カードジャンク・パペットを発動! 俺の墓地に存在する攻撃力1000ポイント以下のギミック・パペットモンスター一体を特殊召喚する! この効果で俺は墓地のネクロ・ドールを特殊召喚する!」

 

 棺から包帯を巻いた少女の人形が現れる。ボム・エッグの手札コストはただの損失ではなく、手札で腐ったギミック・パペットを能動的に墓地に送れるというメリットにもなる。ともあれこれでレベル8のモンスターが二体。さてどちらが出てくるかと思案する昇に嗜虐的な笑みを向け、Ⅳは右手を高く天に掲げた。

 

「俺はレベル8のボム・エッグとネクロ・ドールでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ユニットを構築! エクシーズ召喚! 現れろNo.15! 地獄からの使者、運命の糸を操る人形! ギミック・パペット―ジャイアントキラー!」

 

 黒い心臓が二三度脈打ち、変形して本来の姿へと変わる。

 どこからか張られた糸で吊られた人形の目に生気はなく、空中に座した格好でⅣの場へと降り立つ。頭に着けられた額当てにはは自らの番号である15の紋章が描かれているこのモンスターを見た者が抱くのは、まずその見た目の醜悪さに対する嫌悪感だろう。

 No.15、ギミック・パペット-ジャイアントキラー。

 ギミック・パペットデッキの中核を担う三体のエクシーズモンスター、その一体だ。

 

「俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

「なら僕のターン、ドロー」

 

 ジャイアントキラーは守備表示。いかに守備力2500とは言え、戦闘破壊耐性しか存在しないモンスターなどでくの坊に等しい。

 となれば、あの伏せカードはジャイアントキラーを守るカードか――あるいは、次への展開補助か。

 

「僕は魔法カード影依融合(シャドール・フュージョン)を発動。このカードは相手の場にエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、デッキのモンスターを使って融合召喚出来る」

「デッキのカードで融合召喚だと!?」

「……有り得ない」

「僕はデッキの超電磁タートルとシャドール・リザードで融合。現れろ、エルシャドール・ネフィリム」

 

 外野がざわめく中、落ちてきた巨人が主の敵へとその能面を向ける。

 その巨大さはジャイアントキラーすら上回り、それ自体が誇る神聖さとも相まって神の子の威厳をまざまざと見せつけていた。

 

「墓地に送られたリザード、そしてネフィリムの効果発動。まずネフィリムの効果、デッキからシャドールカード一枚を墓地に送る。僕は影依の原核(シャドー・ルーツ)を墓地に送ろう。さらにシャドール・リザードの効果、デッキからシャドール・ドラゴンを墓地に送ろう」

「なんだ、大層なご登場の割にはカードを墓地に送るだけかよ」

「そう思うのなら君の目は節穴だったってことだね。墓地に送られた影依の原核(シャドー・ルーツ)の効果とシャドール・ドラゴンの効果を発動。まず影依の原核の効果、墓地のシャドール魔法、罠一枚を手札に加える。僕が手札に加えるのは影依融合だ。さらにシャドール・ドラゴンの効果、このモンスターが効果で墓地に送られた場合、フィールドの魔法、罠一枚を選択して破壊出来る。僕は君の場の伏せカードを破壊する」

「何だと!?」

 

 墓地から首だけだした竜の人形が炎を吐き、Ⅳの場の伏せカードを破壊する。ギミック・ボックス。戦闘ダメージを無効にし、その数値を攻撃力として場に特殊召喚される罠モンスター。この効果で特殊召喚される罠モンスターのレベルは8、つまり彼の手札には次の展開用のカードが存在している。

 だが今、昇の手札に追撃の為のモンスターはない。

 

「バトル、ネフィリムでジャイアントキラーに攻撃」

「ナンバーズはナンバーズでしか倒せねえ、残念だったな」

「エルシャドール・ネフィリムの効果、このモンスターが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行うことなく破壊する。これは戦闘ではなく効果での破壊だ、ナンバーズだろうと効果破壊には無力だよ」

「何だと!?」

 

 焦った表情で場を見るⅣの目の前で、圧倒的質量に押しつぶされ殺戮の人形は破壊される。

 

「悔しいでしょうねえ」

「ッ、てめえ!」

「僕はカードを四枚伏せてターンエンド。さあ、次は君のターンだ」

 

 血が上りきった顔で昇を睨むⅣであったが、現在の戦況と家族達に見られているのを理解したのだろう、何とか落ち着きを取り戻す。

 

「……昇も鬼ね」

「え、何か言いましたか輪廻さん?」

「……希望を与えられ、それを奪われた時人は最も美しい顔をする」

「それは、Ⅳ兄様の!」

「……昇はそれをやるつもり。それも、これ以上ないくらい屈辱的なやり方で」

「俺のターン、ドロー!」

 

 デッキトップから鬼の形相で睨むⅣを見つめる昇の視線は穏やかだ。既に詰んでいるとさえ呼べる状況を作り上げた以上、焦る必要などどこにもない。

 後は、仕掛けた爆弾をどこで爆発させるか。

 

「俺は、ギミック・パペット―ギア・チェンジャーを召喚! さらに墓地のネクロ・ドールの効果発動! このモンスターは、墓地に存在する時墓地のギミック・パペット一体を除外することで墓地から特殊召喚出来る! 俺は墓地のボム・エッグを除外する! 甦れ、ネクロ・ドール!」

 

 タイミングはすぐに訪れた。それも、願ってもない最高の場面だ。

 

「速攻魔法、アーティファクト・ムーブメントを発動。場の魔法、罠カード一枚を破壊後、僕の場に魔法、罠ゾーンにアーティファクトモンスター一枚をセット出来る」

「だが俺の場に魔法、罠カードは――」

「何を勘違いしているんだい? 僕が破壊するのは、僕の場のカードだ」

 

 怪訝な顔をするⅣを尻目に竜巻が選択されたカード一枚を包み込み、破壊して墓地へと送る。

 破壊されたカードはアーティファクト―ベガルタ。魔法、罠ゾーンにセット出来るモンスターの一枚にして、アーティファクトの展開の要だ。

 

「アーティファクト・ムーブメントの効果で僕はアーティファクト・デスサイズをセットする。さらに破壊され墓地に送られたベガルタの効果、相手ターンに破壊され墓地に送られた時このモンスターを特殊召喚し、僕の場の魔法、罠カードを二枚まで選んで破壊する。僕はさっきセットしたアーティファクト・デスサイズともう一枚を破壊。破壊されたアーティファクト・デスサイズとアーティファクト・カドケウスの効果、この二体を墓地から特殊召喚。そしてカドケウスとデスサイズの効果発動。まずカドケウスの効果、デッキからカードを一枚ドロー。続いてデスサイズの効果、このモンスターが特殊召喚されたターン、相手プレイヤーはエクストラデッキからモンスターを特殊召喚出来ない」

「何だと!?」

「分かってるんだよ、君のやりたいことは」

 

 一切表情を変えることなく、昇は冷静に言葉を続ける。

 

「ギミック・パペット―ギア・チェンジャーの効果は場のギミック・パペットとレベルを同じにする効果だ。この効果でランク8のモンスター・エクシーズを特殊召喚するつもりなのは見えている。ほら、ギア・チェンジャーの効果を使ったらどうだい? もっとも場にレベル8のモンスターが二体並ぶだけで、エクシーズ召喚は出来ないけれどね」

「テメェ……」

「希望を与えられ、それを奪われた時、人は人生で最も美しい顔をする。それを与えてやるのが君のファンサービス、だったよね? さて、それをやり返された君は今人生で最も美しい顔をしているのかな?」

「くっ……!」

「ほら、笑いなよ。いつも君がやっているように、追い詰められた時みたいに。さあ、早く――」

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド! ギア・チェンジャーがいるとは言え俺の場にモンスターは二体。まだライフも減ってねえ以上、次のターンで俺のライフが尽きることはねえはずだ……!」

 

 この世界のライフポイントは僅か4000。4000というのはフルバーンであれば手札が五枚あれば十二分に削りきられ、モンスターのダイレクトアタックなど受ければ簡単に消し飛ぶ程度の数値でしかない。それを頼みにするなど、漂流した海上で藁にすがるようなものだ。

 しかしそれは裏を返せばそれほどまでに追い詰められているということになる。これ以上追い詰めれば下手をすれば彼が壊れていまいかねない。輪廻ももう十分だという顔をしているし、そろそろ潮時だろう。

 

「僕のターン、ドロー。僕は場のアーティファクト・モラルタとアーティファクト・デスサイズでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ユニットを構築、エクシーズ召喚。現れろ、セイクリッド・プレアデス」

 

 二体の古代遺産から現れたのは、星々の輝きを纏う眩き戦士。

 セイクリッド・プレアデス。光属性のレベル5モンスター二体を素材に指定するエクシーズモンスター。召喚条件が厳しい分、その効果はそれに見合った物だ。

 

「セイクリッド・プレアデスの効果、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、場のカード一枚を手札に戻す。僕は君の場のネクロ・ドールを手札に戻そう」

「罠発動、エンジェル・ストリングス! 墓地のジャイアントキラーを守備表示で特殊召喚し、このカードと選択したモンスターをこの効果で特殊召喚したモンスター・エクシーズのオーバーレイ・ユニットにする! 俺は場のネクロ・ドールを選択! これでプレアデスの効果は無効だ!」

「その程度ならお好きにどうぞ。カドケウスを攻撃表示に変更してバトル、ネフィリムでジャイアントキラーに攻撃」

「リバースカードオープン、聖なるバリア―ミラーフォース―!」

「カウンター罠神の宣告。ライフを半分払い、魔法、罠カードの発動を無効にして破壊する」

 

 虹色の障壁は展開することなく消滅し、ネフィリムの攻撃は止まることなくジャイアントキラーを圧潰する。

 Ⅳの場に残ったギア・チェンジャーの攻撃力は僅か100、対してカドケウスとプレアデスの攻撃力の合計は4100。

 このターンで勝敗が決する以上、ライフ半分というコストなど何の意味もなさない。

 

「バトル、プレアデスでギア・チェンジャーに攻撃、カドケウスでダイレクトアタック」

「ぐ……ぐわああああああ!」

 

LP4000→0

 

「すまなかったね、昇」

「いや、構わないさ。それより、会談の続きといこう。明日も休みとは言え、あまり夜更かしはしたくないんだ」

「分かったよ。Ⅲ、Ⅳと一緒に下がって貰えるかな? Ⅴは僕と一緒に会談に参加して欲しい」

「了解です父様!」

「仰せのままに」

 

 吹き飛んだⅣをⅢが一緒に連れていったのを確認してから、昇はⅤに案内された席に座る。隣には輪廻、机越しにはトロンとⅤ。期せずして向かい合う格好になったわけだ。

 

「お互いに益のある会談にしよう」

「そうだね。お互いに、ね」

 

 口ではそう言いつつも、そこからは話し合いに形を変えた戦いが始まる。 

 双方とも表だって嘘こそ言わないが、含みのある発言や何重にも意味が取れる言葉など様々な策をもって互いが互いを出し抜こうとする。知で知を探り合い、ぼかし合い、騙し合う。そこにルールなどという物はなく、あるのはただ知という絶対的な力のみ。

 

 狡猾な狸と狐の化かし合いは結局、日付が変わるまで続けられた。

 




「おや、もう帰ったのかい」
「ええ、彼らを自宅に送り届けるだけですから。存外楽なものでした」

 そうか、と呟いたトロンはⅤの方を向くことなく月夜を見る。

「しかし、あんな芝居までしてわざわざ彼らの実力を測ったかいがありましたね」

 Ⅳが睨んだのも、トロンがそれを諌めたのも。この流れが全て偶然であるはずがない。
 全ては茶番。協力者である昇の力を測り、自らが定めた基準を満たしていないのであれば闇に葬る、その為のテストだ。そしてその結果昇は現極東チャンピオンであるⅣに完勝し、自分の力を示すと同時にデッキのデータまで提供してくれた。
 しかし十分な成果が手に入ったはずのトロンの顔はどこか暗い。

「多分気づいてたよ、二人ともね」
「まさか。Ⅳの態度は完璧その物でした、気づける道理など――」
「そうでなきゃわざわざ、あそこまで徹底的に叩き潰すことなどしなかったはずだよ」

 決闘の一部始終を思い返すが、Ⅴはどうしても腑に落ちない。

「しかし茶番だと気づいていたら、あそこまで本気を出す物でしょうか? むしろ実力を隠すように立ち回るのでは」
「まさかⅤ、君はあれが彼らの本気だと思っているのかい?」

 トロンの発言を聞いた瞬間、Ⅴの背中に冷たい汗が流れる。

「……まさか」
「恐らく此方の目論見は全部読まれていただろうね。現極東チャンピオンであるⅣを完膚なきまで叩き潰したことで、彼らは自分達の有用性を示した。僕達の策を利用し、協力者であることの意義をこれ以上ないくらい示したんだ」
「そしてそれによって此方も彼らに最大限配慮せざるをえなくなるようにした。私達は強力な戦力を手に入れたと同時に、裏切ることを出来なくさせられた。そう言いたいのですか、トロン」
「そういうこと。踊らせていたつもりだったけど、踊っていたのは実は僕達だったっていう話さ」

 トロンの口元には、彼自身気づかぬうちに笑みが浮かんでいた。

「僕はもう寝るよ。Ⅴもそろそろお休み」
「分かりました。ではトロン、また明日」

 自室から去っていくⅤに最後まで振り向かず、扉が閉まる音がするやいなやトロンはベッドの上へと横たわる。
 相剋昇と六道輪廻。以前会った時から二人とも化物であることには気づいていた。だが今日の会談で認識を改めざるを得ない。下手を打てば喰われているのは自分ということにすらなりかねないだろう。
 さて、自分はどこまで彼らを御しきれるか――。

「少し、楽しくなってきたね」
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