――最後の手紙
新しく入ったアルバイトくんがスゴい。
ファイトが強い。
エニグマという、紙束にしか見えないデッキなのにボコボコにされた。解せぬ。
一度負けて、納得できなかったから再戦を申し入れたらまたボコボコにされた。解せぬ。
アンティとして、店のレアカードを五枚渡そうとしたら拒否された。そのくせ、感想戦でボクの――
『なんでキーカードが一枚しか入ってないんですか?』
『今までは引けてたから問題ないんだよ』
『引けなかったから負けたんですよ! もっと考えてください!』
結局、アンティの代わりに
けれどまだ
仕事がすごくデキる。
カードショップの仕事なんて、掃除してカード展示してレジのそばで座っていればいい――と説明したらものすごい顔で怒られた。
レイアウトの変更、値段の更新、カードリストの作成に新規パックの入荷……。本来ボクが教える側なのに教わっている。解せぬ。
だけど、仕事が増えて忙しくなるにつれて、お客さんが増えて店が賑やかになって、こんなコトを感じてはいけないはずなのに――楽しくなってくる。
初めて開いた店舗大会の日、何もかも初めてで、忙しくて騒がしくて、でも、みんな笑ってた日。
大会が終わって、いつもよりも早く店を閉めて、ボクが作った軽食やコンビニで買ってきたスナックや飲み物を並べて二人だけで打ち上げのような事をしてたんだ。
改善点を話したり、もっと人数を増やしたいと言ったり、景品のコトを考えたり……
『友達の話なんだけど、ね』
空になったビールの缶をイジりながらボクは言った。
友達なんてウソ。だけど、一般人の彼に闇のファイターの事なんかそのまま話すわけにいかない。
『店長に友達がいたんですか?』
『フツオくん!?』
『冗談です。続きをどうぞ』
嘘だ。絶対に本気の目で言ってた。
『キミは時々ボクに辛辣だよね……。えーと、友達には好きな人がいたんだけれど、自分のせいで別れることになっちゃって、そのせいでかな。
新しい事を始めるのに躊躇するっていうか、罪悪感があるみたいなんだけど……どうするべきかな?』
――言ってしまった。
あの子のコトを。そして、胸に秘めておくべきだった汚い想いを。
あの子なら、こんな事を言われたら怒るだろう。
ボクが前に進まないのをあの子のせいにするのは間違ってる。だけど怖いんだ。
こんな事を聞かれても困るだろうに、それでも彼はボクを真っ直ぐに見てくれていた。
『(晩ごはんどうしようとか程度だと思ってたらガチ目のが来たな……)よりを戻すってのは無しですか』
『うーん……。もう二度と会えないから無理かなぁ』
あの子のコトを思い出す。
いつも
『(店長に悲しい過去……ホビーアニメの脚本さぁ!)
ちょっと経験にないことなんで受け売りですが、『もう逢えないことよりも、出逢えたことが嬉しい』そうですよ。――店長?』
フツオくんの言葉を聞いて、デッキケースに手を伸ばす。
あの子がいた時よりもデッキは冷たくなったけれど、デッキに刻まれたあの子との思い出は今も暖かい。
――そう。そうだ!
あの子がいなくなったことは悲しい。あの子に逢えないのは苦しい。
だけど、あの子に逢わなければなんて、愛なんか知らなければなんて、どうしても思えなかった。
『これ、よかったら使ってください』
フツオくんが差し出したのは、シワのある少し湿ったハンカチ。
それを見て、頬の冷たさに気が付いた。
ああ、そっか。いつの間にか泣いていたんだ。
『ありがとう。フツオくん。
お礼に教えてあげるけど、ハンカチは女の子に使う用の一枚を用意しておくとポイント高いよ?』
ねえ、ボクは歩き出してもいいのかな。
わかってる。キミがどんな答えを返してくれるのか。
コレはボクの弱さ。独りで歩くのが恐くて――だから誰かと手を
「うん。ホントにありがとう。
ハンカチは……アイロン掛けて返すね」
涙を拭って少し重くなったハンカチ。
さすがに綺麗にしてから返すべきだろうと思ったんだけど、フツオくんが変な顔してる。
「いや……店長が火を使うと嫌な結果になりそうなので、今返してくれればいいですよ」
信用が無さ過ぎる!?
乙女としては自分の体液の付着した布を男性に渡すのは抵抗あるんだけど……。
「フツオくん。これでもボクはキミよりもおねーさんなのです。
できなければ新品三枚セットを贈呈用のラッピングして渡してあげるよ」
「はあ……。もし失敗しても新品はいいですからね」
信用が無さ過ぎる(二回目)!?
こうなったら徹底的に綺麗にしてあげよう。
このフツオくんのハンカチを……フツオくんのかぁ……。
この日から、無色だったボクの
ねぇ、フツオくん。いつか、いつかでいいから――この責任、とってくれるよね……。
なお、ハンカチは後日新しいものを渡しました。
思い出は永遠に生き続けて、
離れても、私たちをいつでも繋げている。
――荒野に吹く西風