――状況打破
「チェラッオラーッ! この店は冥牙バベルが買い取ってやるぜオラーッ!」
地上げギャングファイターだ。コワイ!
モヒカンを振り回す様が闘鶏のニワトリめいて、周囲の客を威嚇していく。
「オラーッ! 責任者出てこい! スッゾコラーッ!」
無慈悲なヤクザスラングだ。コワイ!
このままでは平和なMeeKingも暗黒メガコーポに飲み込まれ、無法がまかり通るマッポー社会の一部となってしまう。
ああ、神もブッダもおられぬのか!
「そうはさせない! MeeKingはボクが守る!」
おお、あれぞまさしく美少……美女……美少女ファイター地柩セトではないか。
彼女のバストは豊満であった。
「来た! メイン店長来た!」
「これで勝つる!」
「ちょうど切らしてた」
「店長助かる」
「泣いた」
「ありがとう」
「モブドロ尊い」
「泣いた」
「チチショー」
穏やかなアフタヌーンは今終わりを告げ、人々との憩いの場であるカードショップは、尋常ならざるファイター達のイクサ・フィールドと化す。
「これでリーサルだ!
「グワーッ! だ、だが俺を倒しても第二、第三の地上げ屋が……」
「その時はその時だ! まずはキミを通報する!」
憐れ地上げギャングファイターは現行犯逮捕。
「……という事があって、ボクの活躍でこの店は守られたんだよ」
「店長のバストが豊満な事だけはわかりました」
フツオくんの発言に、慌てて隠すように胸を掻き抱く。
最近の彼は、時々セクハラじみた発言でボクをからかってくる。
空気を読んでいるのか、仕事中にはそんな事しないのはいいんだけど……。
他の女のコにはしてないよね……。ボクだけだよね……。心配だよ。
「それで、マスカレイドだっけ。欲しいカードがあったの?」
「いえ。今日の大会で強いファイターがいて、そいつが使ってたんで確認したくて」
今日はフツオくんがお休みで、別の店舗の大会に出ていたわけだけど、最後のファイトで負けたらしい。
そのファイターが使ってたテーマがマスカレイドだったから、店のPCを使って調べ物をしに来てくれた。ついでに閉店作業も手伝ってもらったけど……す、少しだけだよ。
今は一緒に夜食のチキンライスを食べながら、お互いに今日の出来事を話し合っていたんだけれど……。
ふぅん。なんだか、女の気配がする……。
「それで、そいつが〈
「ふうん。どっちも出たり売れたりしたら話題になるカードだけど、最近はそういう噂は聞いてないね」
ガルニチュールのキュウリをつつきながら、フツオくんの話を緩く聞き流す。
フツオくんが話している間、ボクは彼の瞳と唇、手を見つめていた。
ああ、あの目に映すのはボクだけにしてほしい。あの指で触れるのはボクだけであってほしい。あの口でボクのコトだけを囁いてほしい……。
わかってる。こんなのはただの嫉妬で、ボクの我儘だ。 フツオくんも対戦したファイターの娘も悪くない。
だけど、彼の事を好きになっていくほどに、ボクのこの汚い
「ねえ、フツオくん……」
こんな、こんな汚いボクなんか、
それでも、この気持ちは伝えておきたい。
関係が変わるのは怖い。
だけど、今なら、フツオくんがいなくてもファイトに勝てた今ならば、この恐怖にも打ち勝てるのでは――?
「あのね、ボクはキミを――ッ!!」
「なんだ!?」
突如、店の空気が変わった。
周囲を闇が包み込み、漏れ聞こえてた外の喧騒が音を失う。
勝利の高揚感や告白への決意なんかは、
ああ――ボクはまだ――何も変わっちゃいなかったんだ――。
「フィーフィフィフィ。地柩セトの他に羽虫が混じっていたとは意外でしたな」
闇の中から湧き出るように、青白い顔の老人が立っていた。
老人のデッキから感じる気配。間違いない――闇のカードだ。
体が震える。視界がにじんでいく。歯の根が合わない音を、フツオくんに聞かせないよう必死にこらえる。
「さて、地柩セト――貴女のレガシーはどちらに?」
コイツは――違う。あのバケモノとは違う!
だけど、だけど、恐怖を抑えることができない。
屈しそうになる身体を、無理矢理立ち上がらせる。
「知らないっ。もう、ボクは
レガシーなんて、持っていても……使うことなんてないさ」
「フィーフィフィ。それはどうでしょうか。
上の口で何を言おうと、危機となれば使ってしまうやもしれませんねぇ」
老人はボクの言葉を信じた様子もなく……いや、どんな答えを返したとしても、こう仕掛けてきたのだろう。
ゆっくりとデッキを取り出し、見せつけるようにバトルボードにセットする。
「さあ、見せてみなさい。かつて天才と、蒼鎖の乙女と呼ばれた貴女のデッキを!」
逃れられない。いや、闇のフィールドに飲み込んだ以上、逃すつもりなどないはずだ。
怖い。だけど、ボクがフツオくんを
ボクもボードを展開する。
フツオくんと同じ、デッキセット前に手ずからデッキをシャッフルするルーティーン。
指が、いつもより回らない。カードを落とさないので精一杯だ。
不格好なシャッフルを終え、後は宣言するだけ――
「ファっ、ファイ……」
覚悟を決めろ。
フツオくん、今だけ力を貸してほしい。
闇のファイターに立ち向かう為の――フツオくんの隣にいる為に――勇気を!!
「おい、ファイトしろよ」
聞こえてきた言葉に、俯いていた視線を前に向ける。
そこには、大きくて逞しい背中が、ボクを闇のカード遣いから守るように立っていた。
「フツオくん!?」
「すみません店長。入り込んでいた連中を片付けるのに手間取りました。
あと、壊れた椅子の修理代はバイト代から差し引いておいてください」
フツオくんの発言を聞いて部屋を見渡すと、隅の方に黒服を着た人達が倒れている。……死んでないよね?
それと、修理不可能だと見てわかるくらい壊れた椅子。お気に入りだったんだけどなぁ。……じゃなくて!
「フツオくん!」
「後はあのマッドサイエンティストのコスプレした爺さんだけです。
さっさと片付けて店の掃除をしましょう」
ダメ……ダメだ。
キミじゃなくて、ボクがファイトしないとダメなのに……。
フツオくんの背中を掴む。もう、彼にボクの震えを隠すことはできないけれど、それでも……。
「ダメだ……。あいつは闇のカードの遣い手。
ボクが戦わないと、ボクが、ボクじゃないと……」
「ああ、やっぱりそういうのあるんですね」
老人から視線を外さないまま、フツオくんはボクの震える手を包んでくれた。
いつもの固い手袋越しだけど、彼の手の温かさが伝わってきて、こんな時だけど嬉しくなる。
「後は僕がやります。店長は警察を呼ぶ準備をしておいてください」
「ダメ、ダメだよ……。コレはボクの使命で……。
そ、そうだよ。ボクは何度も経験してるし、な、慣れてるんだから。
だから、だから、こんな穢れたボクの心配なんて、しなくてイイんだ」
教会に所属していた時、
ボクらがファイトに勝利して、仕掛けてきたアンティで自滅していく姿を見てきた。
彼らはどうしようもない人間だったけれど、その人生を終わらせたのはボクらで、だから、ボクらの手も闇のファイターと同じく穢れてしまっている。
フツオくんにはそんな闇の世界とは関わらないで、綺麗なままでいてほしいんだ。
「フィーフィフィフィ。地柩セトが庇ってくれているのです。
小僧、彼女を置いて一目散に逃げるのなら、見逃してあげよう。
小物は小物らしく、ベッドの中ででもガタガタ震えておればいい」
「僕が店長と話してるんだ。邪魔すんじゃねえよ。
それに、さっきから思ってたんだが、お前の息臭えんだよ」
一瞬、空気が止まった。
「風呂に入ってんのかよ。その白衣も汚れが見えるけど、最後に洗濯したのはいつだ?
悪臭を使っての盤外戦術は
あっ、老人の青白い肌が段々と赤黒くなって……。
フツオくんは蔑んだ目で老人を見下したままデッキをシャッフルしてる……ゴクリ。
「き、き、貴様を見逃してやろうと思っていましたが、気が変わった。
貴様はカードに封じられて、何もできないままに地柩セトが嬲られるのをみているがいい!」
「お決まりの罰ゲームだな。いいよ来いよ!」
フツオくんがシャッフルの終わったデッキをセットすると同時、薄い闇の幕が二人の周囲を包み込んだ。
ファイトが始まってしまっては、ボクからはもう何も介入できない。
こうならないためにも、ボクが先に戦うべきだったのに……。
せめて、せめて何かができないかと、体が思うままに跪き、シスターに習った祈りの姿勢を取る。
教会を追放されたボクが何に祈るか、誰に祈るかも定かでないままに、一心にフツオくんの無事だけを祈り続けた――。
「うわー、だめだー!」
「アイエエエエエ! フツオ=クン!? フツオ=クンナンデ!?」
なんか普通に勝っちゃった。
ヒロインがトラウマを抱えながらもファイトして、泣いたり吐いたり負けたり犯されたりする中での精神的成長を全部キャンセルするモブ。
残りはエピローグだけなんですが、ちょっとR15タグ必要になるかもなのでここで切ります。
イメージで教授の衣装白衣にしちゃったけど、本編で服装の描写はたぶんなかった気ーがーすーるー。
なら全裸でも矛盾はなかったか。