……いや、めっちゃ嬉しいんですよ?只ですね、妄想をAIにぶちまけて書いて貰っている小説がここまで読まれると思っていないので……
で、アンケート結果はどっちも、ということになりました。一応、今書いている話の後にゲヘナ、その後にインターバルを挟んでアヤメ誘拐になります。
言い訳として、アヤメが失踪したのがもっと前と思ってました。確か原作開始10ヶ月位前でそのくらいに百連の件なので、今の1年生アヤメはまだそんなに他人を疎んでいません。
なのでインターバルというか時間を進めるための話が入ると思います。アンケートしてくれた皆様に失礼だと思いますが、そのあたりご了承ください。
では本編へどうぞ。
「模擬戦、か。…いいぞ、やろう」
ネルの挑発的な誘いに、俺は二つ返事で頷いた。
ドローンを叩き落としてしまった負い目もある。が、何よりミレニアム最強クラスであろう実力者と手合わせして、自分の実力がどこまで通用するのか試してみたいという男特有の好奇心が勝ったのだ。
「ショウも人が悪いですねぇ。あんな好戦的なチビッ子を煽るようなことして」
「怪我だけはしないでね、二人とも〜!」
呆れるホシノと心配そうに手を振るユメ先輩に見送られ、俺たちは場所を移すことになった。
案内されたのは、ミレニアムで最近作られた特別演習室――『試作品限界試験ルーム』だった。
戦車の直撃はおろかレールガンの試射にも耐えられるという、厚さ数十センチの複合装甲板と耐衝撃ブロックで囲まれた広大な密閉空間。これならどれだけ派手に暴れても校舎を壊す心配はない。
「へへっ、いい場所だろ?ここなら小細工なしの真っ向勝負ができるぜ!」
ネルはカチャリと二丁のサブマシンガンをホルスターから引き抜いた。
ここまで来る時に自慢げに見せびらかせられた、鋼鉄の鎖で繋がれた二丁拳銃――ネルの愛銃『ツイン・ドラゴン』。ジャラリと鎖を鳴らし、小柄な身体からは信じられないほどの濃密な殺気と笑みをこちらへ向けてくる。
「……すぅー…」
対する俺は、ホルスターから愛用のハンドガンを抜くと、あえて銃口を上げず、両手をダランと自然体に下げた。少しだけ膝を曲げ、肩の力を抜き、重心をわずかに落とす。
分かりやすく言うなら、昔の指南書に描かれていた『宮本武蔵の立ち姿』のような無構えの体勢だ。
全身に無駄な緊張を一切作らないことで、前後左右、全方位あらゆる角度からの奇襲に対してゼロコンマ秒で最大初速の瞬発力を発揮できる。
……まあ、高尚な武術の理屈めいたことを言ってみたが、実際のところはキヴォトスじゃどこから急に銃弾や賞金首が飛び出してくるか分からねえ、という治安の悪さと、日頃からホシノのアクロバティックで予測不能な立体機動に付き合わされてきた結果、自然とこの姿勢に落ち着いただけなのだが。
防弾ガラスで仕切られた観覧席では、それぞれ観戦体制に入っていた。
「ショウくん、がんばれー!」
ユメ先輩が両手をパタパタと振って応援し、その隣でホシノが腕を組んで語っている。
「ショウのあの構え、一見隙だらけに見えて全身バネなんですよね。美甘ネル、初動で飛び込んだらカウンター食らいますよ。ま、ショウも適当に痛い目見ればいいですけど」
「ふふ、ミレニアムの番犬と、アビドスの未知……実に知的好奇心を刺激するマッチメイクですねぇ」
ヒマリは車椅子の上でワクワクと目を輝かせ、その横でリオが記録の為にタブレットに指を滑らせていた。
そんな緊張感が高まりかけた空気を、突如として甲高い陽気な声がぶち破った。
「リーダー!頑張ってー!かっこいいとこ見せちゃってー!!」
観覧席の扉が勢いよく開き、飛び込んできたのは――金色の長い髪を揺らした、とんでもなくスタイルのいい女子生徒だった。
ネルと同じメイド服だが、胸元が大胆なまでに大きく開き、惜しげもなく豊満な谷間を晒している。天真爛漫、無邪気100パーセントの特大笑顔で、両手をブンブンと振っていた。
「……なぁ。先に聞くけど、あれ誰?」
「はー……」
張り詰めていたネルの闘気が一瞬で霧散し、深いため息が漏れた。
「うちの部の同僚。……おいアスナァ!何でここにいんだよ!!」
「えー?なんとなく?こっちに来たらリーダーがいそうかなって?」
「なんとなくで来れる場所じゃねえだろここは……これからこいつと模擬戦すっから、そこでじっとしてろよ!後で説教だからな!」
「キャー!」
ネルの凄まじい怒声に怒られるどころか、アスナと呼ばれた生徒は楽しそうにキャッキャと笑い、そのまま観覧席のホシノたちの方へと突撃していった。
「あ、こんにちはー!わたし一ノ瀬アスナ!アビドスの人たちだよね?よろしくねー!」
初対面のホシノやユメ先輩にグイグイ絡み始めている。コミュ力の塊かあの女は。
「……仲がいいんだな」
「あー……まあ、な」
ネルはバツが悪そうに人差し指で頬をポリポリと掻き、照れ隠しをするように視線を逸らした。
普段から振り回されているのがよく分かる光景だ。
観覧席の賑やかなギャラリーを、これ以上待たせるのも悪い。
「んじゃ、行くか」
俺は一つ、深く息を吸い込んだ。
肺を満たした空気をゆっくりと吐き出しながら、頭のてっぺんから爪先まで、静かな戦意を全身の隅々へと行き渡らせていく。
フッ、と俺の纏う空気が鋭利に研ぎ澄まされたのを敏感に察知したのだろう。ネルの瞳から気恥ずかしさが消え失せ、猛獣のようなギラついた光が宿った。
「へへっ……いいねえ、そのツラ!」
ツイン・ドラゴンを低く構え、ネルはいつでも爆発的な初速で飛びかかれるよう、限界まで上体を沈めた前傾姿勢をとる。
爪を研ぎ澄ませた野性の獣そのものの立ち姿。
「ミレニアムサイエンススクール一年生。コードネーム・ゼロワン――美甘ネル」
唐突な名乗りだった。
ここへ来るまでの道中で、ネルが所属している『C&C』という裏の部活動のことは聞いていた。
そして、彼女がミレニアムの誇る『番犬』であり、誰よりも最強を目指していることも。
これはただの戯れ言じゃない。一人の戦士としてのプライドを込めた、正真正銘の宣戦布告だ。
その覚悟を真正面から受け取った以上、俺が返す言葉も一つしかなかった。
「アビドス高等学校一年生。生徒会所属――円ショウ」
堂々と啖呵を切って名乗り返すと、ネルは獰猛な笑みをニヤリと深めた。その引き締まった好戦的な表情につられて、俺の口元にも自然と不敵な笑みが浮かんでいた。
スピーカーから、観覧席のヒマリの澄んだアナウンスが響き渡った。
『――それでは、両者。制限時間なし、戦闘不能またはギブアップで終了です。……始め!』
その掛け声と同時に、テストルームの分厚い空気が、爆薬のように弾け飛んだ。開始の合図と同時に、目の前の空間が閃光と轟音で埋め尽くされた。
ネルの両手に握られた『ツイン・ドラゴン』から吐き出される銃弾は、牽制などという生ぬるい規模ではない。鉄と火薬の滝がそのまま壁となって押し寄せてくるような、圧倒的な弾幕の暴力。
「挨拶代わりにくれてやるよ!蜂の巣になりたくなきゃ踊りなぁっ!!」
「初手から全開かよ!景気のいい挨拶だな!」
俺は重心を低く滑らせ、円を描くようにネルの側面へと超高速で回り込んだ。だが、ネルの射撃は針の穴を通すような正確さで俺の機動に食らいついてくる。背後の足元に刻まれる着弾音が耳元で甲高く跳ね上がる。
この弾丸の豪雨を相手に、装弾数も連射力も劣るハンドガンで正面から撃ち合って普通は勝てるはずがない。
だったら、選択肢は一つ。
「――近接一択ッ!!」
息を吐き出し、脱力していた全身のバネを一気に解放する。弾幕のほんのわずかな隙間、ゼロコンマ数秒の射線ブレを縫い、俺の姿は残像を残し空気を追い抜く。
「チッ、消えた――!?」
ネルの舌打ちが響いた瞬間、俺はすでに彼女の右斜め前、皮膚が触れ合うほどの至近距離に肉薄していた。踏み込みの衝撃波で床の鉄板を割りながら、右足のハイキックをネルの側頭部へ向けて一閃させる。
だが、さすがはミレニアムの番犬。見失ったと気付いた瞬間の反応速度が異常だった。
ネルは驚異的な反射神経で即座にバックステップを敢行。俺の蹴りの爪先が、ネルの鮮やかなオレンジ色の前髪をパラリと数ミリだけ断ち切って空を切った。
「へへっ、いい速度だな!だが当たらなきゃ意味がねえ――」
「まだ終わって、ない!」
空振った右足を、空中で強引に運動エネルギーをねじ伏せて床へ叩きつける。足裏が地面に沈み噛んだ瞬間、それを回転軸にして全身をしならせ、猛烈な左の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
強烈な質量兵器のような打撃が、ネルの小柄な身体を捉える。
だが、直撃の瞬間、ネルは両銃を繋ぐ頑丈な鎖を左腕に幾重にも巻き付け、即席の鉄盾として蹴りの軌道に割り込ませていたのが見えた。インパクトに合わせて小さく後方へ跳ぶことで、衝撃の大半を逃がしている。
「くっそ……重ッてぇな!?」
「これも防ぐかよ!」
蹴り当てた足の感触から、直撃を殺されたことは即座に察知していた。背中を向けた体勢のまま、俺は右手のハンドガンを脇の下から後方へと潜り込ませる。
普通なら姿勢が崩れて撃てないか、反動で手首を痛める変則射撃。だが、俺の異常な筋力と握力なら、手首のスナップだけで反動を完全に殺し切れる。全身が死角だらけの態勢すら、そのまま射撃プラットフォームに変えられるのがハンドガンの最大の利点。
俺の背中が盾となってネルの視界を塞いでいた死角から、神秘を充填した重い弾丸が炸裂した。
「ガッ……!?」
至近距離から腹部を抉るような一撃を受け、ネルの身体がくの字に折れ曲がる。
生半可な生徒なら即座にヘイローが明滅してダウンする威力の直撃。だが――目の前の猛獣は、腹を押さえながら、狂暴そのものの笑みを浮かべていた。
「ぎゃははッ!いってぇぇぇ!だが最高だぜぇ、なあ、おいッ!!」
「そう言いながら、笑って撃ち返してくるんじゃねえよ!」
ネルはダメージを気合でねじ伏せ、至近距離からサブマシンガンを狂ったように連射してきた。
バチバチと俺の肩や二の腕に銃弾が直撃し、火花が散る。衝撃を頑丈さで強引に無視しながら、俺もハンドガンの引き金を限界速度で引き絞った。
「らああああっっ!!」
「おおおおおっっ!!」
火花と硝煙が二人の顔面を焼きながらも、互いの弾丸を喰らい、避け、肉薄しながら間合いをゼロへと詰めていく。全身の血が沸騰するような極上のヒリつき。競い合う楽しさに、俺の口元も自然と吊り上がっていた。
互いの鼻先が触れ合う寸前、ネルが左手のサブマシンガンを勢いよく手放した。
ジャララッ!と鎖が唸りを上げ、放り投げられた銃が重石となってフレイルのように俺の首元を刈り取りに飛んでくる。
(動きを止める気か!)
拘束の意図を察した瞬間、俺はあえて避けるのをやめ、空中で唸る鎖を左手で鷲掴みにした。
「捕まえたぞ!」
「引っかかったなバカがっ!!」
俺が怪力で鎖を引いてネルの身体を強引に手元へ引き寄せると同時に、ネルはその慣性を全身で受け入れ、加速を利用して両足のドロップキックを俺の顔面へと繰り出してきた。
普通なら顔面を粉砕されるカウンター。だが俺は、首を引っ込めるどころか、地面に胸が張り付くほどの限界姿勢まで一瞬で身を沈めてキックを真下ですり抜けた。
空中で勢い余り、完全に無防備となったネルの胴体。
「もらったぁっ!!」
俺は地面から弾丸のように跳ね起き、空中に浮いたネルの細い腰を背後からガッシリと両腕で抱え込んだ。完璧なクラッチ。ネルの顔から好戦的な笑みが消え、目が見開かれる。
「しまっ――!?」
「観念、しっ…ろぉ!!」
ネルの身体ごと、全身の筋肉を軋ませながら後方へと反り返る。
ネルも即座に危機を察知し、両手を頭の上へ回して受身の体勢をとろうとするが――遅い!
耐衝撃ブロックで固められたテストルーム全体が、直下型地震のように激しく揺動した。地面が歪み、天井からパラパラと粉塵が降り注ぐほどの、人間離れした膂力のバックドロップ。
「……ふぅ、決ま――」
ネルを地面に叩きつける事で入った凄まじい衝撃を確認し、息を吐きかけた――その一瞬だった。
「……ってぇな…」
(……浅い!?)
ネルの意識は、これだけの衝撃を頭部と首筋に食らってもなお、一片たりとも落ちていなかった。
隙を見せた俺の身体に対し、床に叩きつけられていたネルの両足が、まるで大蛇のように素早く俺の胴体を挟み込んできたのだ。
「甘ぇよ……ッ!油断してんじゃねえぞオラァッ!!」
意識が弛緩したコンマ一秒の隙を突かれ、ネルは強靭な腹筋と足の力で跳ね起きるように俺の拘束を引き剥がした。
そのまま側転で俺の腹の上に馬乗りになる体勢へ遷移し、一瞬で身体を反転させて俺の腰に跨がる。
手放さずに右手に握りしめていたもう一丁のサブマシンガンの銃口が、ゼロ距離で俺の眉間へと突きつけられた。
「チェックメイトだなあ!!」
「クソッ――!」
反射的に両腕を交差させ、顔面の前でクロスガードを組んだ。至近距離から撃ち放たれた銃弾の豪雨が、ガードした俺の両腕を容赦なく叩きのめし、視界一面が真っ白な火花で埋め尽くされた。
両腕を叩きつける銃弾の嵐。火花が散り、袖がボロボロに引き裂かれていく。
だが――過剰な神秘を宿した俺の肉体は、ゼロ距離の掃射を受けてなお、骨がきしむことすらなかった。熱と衝撃はあるものの、致命傷には程遠い。
だが、馬乗りになられたまま蜂の巣にされて終わるなんて、俺の性分が許すはずもなかった。
それも、ユメ先輩とホシノが見ている前で無様な姿を晒すことだけは――!
「根性勝負、乗ってやるよォッ!!」
俺は顔面を守っていた左腕のガードを強引に解いた。視界が開けた瞬間、至近距離にあるネルの腹部へ、右手のハンドガンの銃口を容赦なくねじ込む。
「ごぉっ!!」
至近距離から炸裂した、マグナム弾もかくやという神秘の重弾。
生身なら内臓ごと吹き飛ぶような衝撃を腹にモロに食らいながらも、ネルは吹き飛ばされるどころか、奥歯まで裂けんばかりの野性味あふれる凶悪な笑みを浮かべた。
「ハッ……!上等だオラァッ!!どっちのタフネスが上か、白黒つけようじゃねえかァッ!!」
「言ったなこの野郎!!」
互いに至近距離で絶叫しながら、至近距離での乱射の殴り合いが再開された。
だが、元よりダメージがほとんど通らない俺と、頑丈とはいえ確実にダメージが蓄積していくネルとでは、勝負の天秤は最初から傾いていた。
俺がこのまま力技でネルの腕を抑え込み、完全に押し切ろうとした――その瞬間。
『ブーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』
演習室全体を震わせる、鼓膜が破けんばかりのけたたましい非常ブザーが鳴り響いた。続いて、スピーカーから響いてきたのは、涙目になったユメ先輩の可愛らしい怒号だった。
『こらーーーーーーっ!!二人ともそこまでっ!!これは模擬戦なんだよ!?誰が殺し合い手前の命の削り合いをしていいって言ったの!?もーーーーっ!!』
ユメ先輩の悲鳴のような静止アナウンスが、頭上からこれでもかと降ってくる。
「…………あっ」
「…………あ」
頭に血が上りきっていた俺とネルは、ピタッと引き金を引く指を止めた。
硝煙が立ち込める中、互いに至近距離で目を丸くし、バツが悪そうに視線を交錯させる。俺の腰の上に跨がったままのネルは、体中煤と火薬だらけになりながら、乱れた前髪をガシガシと掻き上げた。
「……チッ、やっちまった。熱くなりすぎたぜ……」
「俺もだ……。お前の気迫につられて、ついムキになっちまった」
互いに反省の溜息をつく中、演習室の扉が重々しい音を立てて開き、観覧席にいたメンバーがドタバタと駆け寄ってきた。
「二人とも無茶苦茶よ!床の装甲ブロックが三箇所も陥没しているわ!特にネル!貴女、バイタルサインが危険水域の一歩手前まで跳ね上がっていたのよ!?」
駆け寄ってきたリオが、タブレットを抱えながら青ざめた顔で説教を始める。
「まったく……私の心臓に極めて悪い光景でした。もう少しで私のデリケートな血管が破裂するところでしたよ」
ヒマリが車椅子を滑らせて呆れ顔でため息をつく横で、アスナだけは目をキラキラと輝かせて両手をパチパチと叩いていた。
「すごーい!すごいすごい!リーダーもショウくんも、ドッカンドッカン大迫力で超カッコよかったよー!!」
「アスナ、お前は少し黙ってろ……」
頭痛を堪えるように額を押さえるネル。
そんな中、トコトコと歩み寄ってきたホシノが、俺たちの前でピタリと足を止めた。その目は、これ以上ないほど深いジト目になっていて、口元をへの字に曲げて酷く不機嫌そうなオーラを放っている。
「……あのー、美甘ネル?」
「あ? 何だよ小鳥遊」
「……いつまで、ショウの上に乗っかってるつもりなんですか?」
「……は?」
ホシノの冷ややかな指摘を受け、ネルは視線を自分の足元へと落とした。床に大の字で倒れた俺の腰に、スカートを翻した状態でしっかりと両足で跨がり、密着したままの自分自身の体勢。
「っっっっ!?」
ネルの顔が、一瞬で耳の先、首元まで真っ赤に沸騰した。
「わ、わわわ、悪気はねえんだよッ!勝負の流れでこうなっただけでッ!!」
まるで焼けた鉄板から飛び退く猫のように、ネルは凄まじい勢いで俺の身体からピョンと飛び退いた。
「う、うおおお……」
壁際に背中を張り付け、顔を手で覆いながら恥ずかしそうに唸り声を上げている。
「ふぅ……ようやく起き上がれた」
俺が苦笑いしながら上体を起こすと、ホシノがスッと横に立って手を差し伸べてきた。だが、その表情はまだどこか納得がいかない様子で、ぷくーっと頬を膨らませたままだった。
「まったく……ショウもショウですよ。ちょっと目を離した隙に、何他の学校の女の子と密着してデレデレしてるんですか」
「デレデレなんてしてねえよ!明らかに命の削り合いの最中だった!」
「知·り·ま·せ·ん!…はい、立ってください!」
グイッと強引に手を引っ張られ、俺は立ち上がりながら苦笑いを浮かべるのだった。
顔を真っ赤にして壁際に縮こまるネルを見て、背後で様子を窺っていたアスナがパッと顔を輝かせた。
「ああーっ!リーダーが初めての男の子の触れ合いに恥ずかしがってるー!かぁわいぃーい!!」
「う、うううるせえええええッ!!」
「きゃーっ!」
沸点突破したネルが怒声を上げ、二丁のサブマシンガンを振り回して突貫する。
だが、アスナは楽しそうに歓声を上げながら、ひらりと華麗なステップでネルの追撃をかわすと、逃げ込むように俺の背中へと回り込んできた。
ぎゅっ、と。やわこい物が背中に!?
「助けてショウくんー!」
「ぶふっ!?」
背中に飛びつかれ、ぎゅっと抱きかかえられる。
……背中にダイレクトにめり込んでくる、暴力的なまでに柔らかくて豊満な感触。メイド服の薄い布地越しに伝わる温もりに、俺の心臓が跳ね上がった。こんなとこで男の子の理性を試すのはやめてくれ。
「おいコラ待てアスナァ!そこをどけ!滅多打ちにしてやる!」
「ま、待て待てネル!落ち着けって!」
真っ赤になって殴りかかってくるネルを必死になだめる俺。
だが、その視線の先で――さらに別の意味で命の危機を感じる光景が広がっていた。
「…………」
「…………」
ユメ先輩がぷくーっと絵に描いたように両頬を限界まで膨らませてこちらを見つめており、その隣ではホシノが射殺さんばかりの冷え切ったジト目を俺に向けていた。針の筵どころではない。無言のプレッシャーで背中から冷や汗が吹き出す。
そんな修羅場の気配などどこ吹く風で、俺の背中に異様に懐いた様子のアスナは、すり寄るように俺の頬へと自分の頬を擦り寄せてきた。
そして、無邪気な満面の笑顔のまま、その場にいたアビドス以外の全員を凍りつかせる爆弾発言を投下した。
「ねえねえ、ショウくんだっけー?どうしてリーダーとの模擬戦で、手加減してたのー?」
「……ッ!?」
俺の身体がピシリと硬直した。
思わず息を呑み、至近距離にある瞳を見つめ返す。
「……どうして、そう思ったんだ?」
「んー……勘!」
にっこり。
春風のような混じり気ゼロの笑顔で放たれたその二文字に、俺はガクッと肩の力を抜いて脱力した。そうかぁ……勘かぁ……
何の根拠もない直感。だが、それが寸分の狂いもなく急所を射抜いているのが、恐ろしくもあり何とも言えない。
「……アスナ、それはどういうことなの?」
真っ先に反応したのはリオだった。タブレットを握りしめ、信じられないものを見るような目で俺とアスナを交互に見やる。
「先ほどの戦闘データを見る限り、極めて高水準で、二人は完全に互角の鍔迫り合いを演じていたはずよ。……ショウさん、貴方はどのあたりを手加減していたというの?」
リオの問いかけに、ネルの視線もスッと険しさを帯びた。
好戦的でプライドの高い彼女だ。「手加減されていた」という言葉が、自尊心の琴線に触れないはずがない。野獣のような鋭い瞳が俺の横顔を射抜く。
一方で、車椅子のヒマリだけはアビドスでの噂を知っているがゆえに一人で納得したように頷いていた。
隠し通せる空気でもない。俺は観念して小さく息を吐き出した。
「……手加減っていうか、リミッターをかけざるを得ないんだよ。俺の身体スペックのせいでな」
「スペック……?」
「俺、本気で地面を蹴ったら時速数百キロを一瞬で出せるし、腕力だけなら戦車くらいなら軽く持ち上げちまう。身体の頑丈さも、ロケットランチャーの直撃を食らっても痛いだけで済むレベルだ」
「はぁ……?」
ネルがポカンと口を開ける。
「だから……さっきの銃撃戦みたいに、神秘を込めたハンドガンで撃ち合うのはいいんだ。当たっても込め方次第で銃創や打撲で済むからな。だけど、俺がその馬鹿力を乗せて生身で本気の殴打や関節技を叩き込んだら……いくらヘイロー持ちの頑丈な生徒相手でも、骨が粉々になりかねねえ。だから避ける時は避ける、防ぐ時は防ぐ、攻撃は当てられる隙がある時にだけ合わせる……って感じで普段は戦ってる」
あのバックドロップにしても、砕いた床を狙って衝撃の大部分を逃がすように落とす角度を調整していたのだ。直撃させていたら今頃ネルの首の骨がどうなっていたか分からない。
俺の弁明に、ホシノが腕を組んでやれやれと首を振った。
「そうなんですよね。ショウはそもそも、殴り合いなんてしなくても、バグじみた現象だけで相手を無力化できちゃいますから。手加減しないと模擬戦なんて成立しないんですよ」
「うんうん」
ユメ先輩も頬の膨らみを引っ込め、コクコクと頷きながら言葉を添える。
「ショウくんの銃弾ってね、わたしたちヘイローを持った生徒がみんな持っているらしい『神秘』っていうのが、すっごく濃密にこもっているらしいの。だから銃弾一発でも、当てられた相手を気絶させちゃうくらい威力が高いんだよ〜」
二人の補足を聞いたネルは、腕を組んだまま、眉間に深いシワを刻んで押し黙った。
そして、何かにすがるように俺の顔を見つめてくる。
「……おい、ショウ。その『神秘』ってのは何なんだ?それを引き出せば、もっと強くなれるのか?」
どうやら強さに直結する話だと察して食いついてきたらしい。
俺は自分の頭上を指差し、身も蓋もない例えを返した。
「ん? まあ、俺のこのヘイローみたいなもんだよ。その当人だけが持つ概念を引っ張り出して力に変える、らしい」
「…………」
ネルは俺の頭上でピコピコと上下に揺れる七色のオーディオスペクトラムを、何とも言えない、すさまじく複雑な目で見つめた。
「……あたしが、その神秘とかいうのを極限まで引き出したら……」
ネルは自分の頭の上を手で撫でる仕草をしながら、ブツブツと小声で呟き始めた。
「……頭の上に、あんなゲーミングカラーのヘイローが生えてきて……ポテト出したり、ラップの芯になって覗いたりする羽目になるのか……?つ、強くなれるのはいいが……あれは流石に恥ずかしすぎるだろ……。いや、でも戦闘力は跳ね上がるしな……うーん……」
「いや、絶対そうはならねえから安心しろ」
真剣な顔で頭上の光るバーの幻影に頭を抱え、一人で明後日の方向に悩み始めたネルに、俺はツッコミを入れるのだった。
「……おい、ショウ」
頭の上の幻覚ヘイローと格闘していたネルが、不意に顔を上げた。
その双眸には、先ほど以上のギラついた闘志がメラメラと燃え盛っていた。あれだけ殴り合ってダメージを食らったはずなのに、この短時間でもう息を整え、体力を急速に回復させている。底なしのスタミナと驚異的なタフネスだった。
「さっきの話、手加減なしの『何でもアリ』だったら、あたしはどうなってたんだ?…なあ、次は手加減抜きでやってくれよ!」
「……え?」
「出し惜しみなしの全開で来いって言ってんだよ!あたしを相手に、奥の手を隠したまま終わらせる気じゃねえだろうなァ!?」
完全にバトルジャンキーのスイッチが入ってしまっていた。
キラキラと期待に満ちた目で食い下がってくる小柄なメイドに、俺は思わず引き気味に言葉を濁した。
「いや……それは流石に、怪我じゃ済まないかもしれんし……」
「やめといたほうがいいですよ、美甘ネル」
観覧席の前から、ホシノが腕を組んでジト目のまま忠告を入れる。止めてはいるが、その口調には痛い目を見るのは自分なんだから知らないよ、という諦念が滲み出ていた。
リオは手元のタブレットをじっと見つめたまま。未知のデータの誘惑に抗えないのかノーコメントを貫いている。
「ふふ、ネルさんとショウさんがよろしいのでしたら、私は止めませんよ。画面越しでしか拝見できなかったショウさんの真の力……この目に焼き付けられるのなら、一ファンしてこれ以上の歓喜はありませんからねぇ」
ヒマリは扇子のように手をパタパタさせながら車椅子の上で微笑んだ。
「えっ、ちょっとみんな……!…ユメ先輩!」
俺はすがるようにユメ先輩へと視線を向けた。
「うーん……わたしは、ショウくんがやりたいようにしていいと思うよ〜。でも、本当に危なくない程度にしてあげてね?」
ユメ先輩は困ったように眉を下げつつも、優しくふわりと微笑んで俺の意思に委ねてきた。
再び目の前のネルを見やれば、まるで大型犬が尻尾を千切れんばかりに振っているかのような、爛々とした輝きを瞳に宿して俺を見上げている。
「……ハァ、分かったよ。そこまで言うなら一発だけ付き合ってやる」
俺は頭をガリガリと掻いて承諾した。
「やりぃっ!話が早くて助かるぜ!」
「ただし、まずはその身体を治してからだ。ボロボロの相手に出す本気はないからな」
俺は頭上のヘイローに意識を集中させた。概念をこね回す感覚。漫画やゲームなら、緑色の光が回復の象徴だったはずだ。
「ええと……緑、緑……このあたりか」
ヘイローのエメラルドグリーンの光がひときわ強く脈動すると、俺の頭上のヘイローそのものから、ネルに向かって温かな光線が直接降り注いだ。
シャワールームの湯気のように、柔らかな緑色の光の粒子がネルの全身を包み込む。
その瞬間、みるみるうちにネルの頬や腕にあった擦り傷や打撲痕が吸い込まれるように消え去り、火薬で焦げて破れていたメイド服とスカジャンまでもが、まるで新品のようにピカピカに縫い合わされて復元されていった。あ、ついでに自分の袖も直しとこ。
「……よし、上手くいった」
俺が満足げに頷いた瞬間、周囲の空気が完全に凍りついた。リオとネルは、顎が外れんばかりに口をポカンと開けて硬直している。
「すごーい!服まで新品になっちゃったー!どうなってるのー?」
アスナだけは無邪気に手を叩いて喜んでいた。
「素晴らしいですね……!細胞の急速活性化にとどまらず、繊維の分子構造まで巻き戻す事象逆行……!」
ヒマリもパチパチと拍手を送っている。その横で、ホシノが引きつった表情を浮かべながら、スッと歩み寄ってきた。
「……ショウ。後で、じっくり、お話がありますからね?」
「……え? あ、うん……?」
怒られているのか呆れられているのか分からず、俺は小首を傾げて戸惑うしかなかった。
ホシノたちを安全な観覧室へと戻らせ、再び俺とネルの二人が向かい合うテストルーム。
ネルのタフネスを考えると、並の力では制圧できないから……別の手を使うしかない。俺が思考を巡らせていると、対面のネルは全身にみなぎる万全の体力に口角を吊り上げ、サブマシンガンをガチャリと構え直した。
「へっ、傷一つねえどころか体が羽のように軽いや! 遠慮はいらねえぜショウ!テメエの持ってる一番のデタラメな本気、あたしに見せてみなぁっ!!」
「……ああ。じゃあ、遠慮なく
俺も腹を括り、静かに息を吸い込んだ。
スピーカーから、再びブザーが鳴り響く。ネルが引き金を引く、その直前のゼロコンマ一秒。
俺は頭上のヘイローから光のバーを鷲掴みにし、手のひらサイズにギュッと圧縮すると、ネルの足元へ向けて全力で投げつけた。
投げ込まれた光の塊が、閃光手榴弾のように視界を焼き尽くす純白の閃光を放ち、演習室全体が目も眩むような光の奔流に呑み込まれる。
「チッ、目眩ましか!?」
ネルは咄嗟に両腕を交差させ、顔面を覆って強烈な光を遮断した。そして、光が収まるのと同時に、即座に次の銃撃へ備えて神経を尖らせ、身が構えている。
だが、ネルからしたら正面から突っ込んでくる突風もなければ、銃弾が空気を裂く音もしないのはおかしいと思うだろう。ネルの行動を見ながら俺はただポケットに手を突っ込み、その場に突っ立ったままネルをじっと見つめていた。
「あ? 何突っ立ってんだ?――」
ネルが訝しげに眉をひそめ、立ち位置を変えようと右足を一歩、床へと踏み出した。
『ぴよっ♪』
静まり返ったテストルームに、やけに情けない音が響いた。
「…………は?」
ネルがピタリと動きを止めた。部屋の隅々まで反響したその音は、どう考えても、幼児が履いて歩き回る笛入りの子供靴の音そのものだった。ネルが左足をそろりと動かす。
『ぷぴっ♪』
ネルの表情が凍りついた。
もう一歩。更に一歩。
『ぴよっ♪』
『ぷぴっ♪』
歩くたびに、靴底から絶妙に気の抜けた空気が漏れ出し、コミカル極まりない小鳥の鳴き声が部屋中にリズミカルに木霊した。観覧室を見やると、ユメ先輩とホシノは見慣れた感じで、アスナは目を光らせ、リオとヒマリは魂の抜けた顔で呆然としていた。
「な……ななな……」
わなわなと全身を震わせたネルが、顔を真っ赤にして床を踏み鳴らした。
『ピヨッ!ピヨッ!プピィーーッ!!』
「なんなんだよこれはァァァァァッッッ!!!!」
怒声に合わせて鳴り響く間抜けな笛の音に、先ほどのかっこよさは完全に消え去っていた。
「靴か!?この靴に何か仕込みやがったなテメエェッ!!」
ブチギレたネルは、両足の靴をものすごい勢いで脱ぎ捨て、靴下すら引きちぎって裸足になった。これでよし、と床を踏みつける。
『ピヨッ♪』
裸足の裏が冷たい鋼鉄の床に触れている。
それなのに、足裏の皮膚そのものから、完璧な音量と音程で小鳥が鳴いた。
「…………うそだろ…………」
ネルの瞳から光が消え失せ、口から魂の抜け殻がふわふわと漂い始めた。
足をひょこっと浮かせれば『プピ』
地面に着地させれば『ピヨ』
何をどうやっても逃れられない、魔の足音。
観覧室を見れば、先ほどまで呆然としていたリオとヒマリが、口元を両手で必死に押さえ、肩をプルプルと小刻みに震わせていた。もう、色々と限界が近いらしい。
俺はビシッと人差し指を突きつけ、悪物のような笑みを浮かべて言い放った。
「――負けを認めないなら、ネル、お前これから一生その足音のままだぜ」
「な……ッ、ふ、ふざけんなァァァァァァッッッ!!!!」
怒りの臨界点を突破したネルが、理性を完全にかなぐり捨てて俺へと突進してきた。
『ピヨピヨピヨピヨピヨピヨッ!!!プピプピプピプピプピィッ!!!!』
テストルームを激走する、かつてない超高速のひよこサウンド。ネルは涙目で俺の胸倉を掴もうと、必死にジャンプして飛びかかってくる。
だが、残酷なことに俺とネルには頭一つ分以上の身長差があった。届かないネルがピョンピョンと必死に飛び跳ねるたびに、部屋中へ音が響き渡る。
『ピヨォッ!!』
『プピィィッ!!』
『ピヨォォォッ♪』
あまりにもリズミカルで軽快な笛の大合唱。やった俺が言うのもアレだが、笑いそうになる。
「掴めねえし!届かねえ!しゃがめやオラ!……あああああ、もう!!鳴るんじゃねえよクソがっっ!!」
「ははは!ほらほら、降参しないと一生ひよこだぞー!」
ついに耐えかねた観覧室のスピーカーから、盛大な音が弾け飛んだ。
『ぶっ……ふ、ふふ……あははははははははははっっっ!!!!』
あの冷徹で合理的、感情を滅多に表に出さない調月リオも、お腹を抱えて椅子から転がり落ちそうになりながら、大口を開けて涙を流して爆笑していた。
ヒマリも車椅子の上で息絶え絶えに笑い転げ、アスナの鈴を転がすような笑い声が重なり、演習室は平和極まりない大爆笑の渦へと包まれていったのだった。
1〜3話を目安に書きます
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ゲヘナ雷帝編(雷帝ナシ)
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アヤメ誘拐編
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どっちも書いて♡
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別にいらないな、回想でいい