「あはは」
ってやったら一気にホラーになってしまい、怖くて消しました。ファウスト様マジファウスト。
あと、あるキャラに名前をつけました。タグにオリジナル生徒をつけるかもしれません。
柴大将が見たのは、戦闘のほんの序盤だけらしい。
手元のタブレットを淀みなく操作しながら、その場にいた生徒たちを見事な手際で指揮し、倍以上の戦力をあっという間に制圧してみせたのだとか。
その後の展開については、巻き添えを避けるために避難したため分からないという。
「分かりました。取り敢えず私達は一旦校舎に戻ってみます」
状況の輪郭を掴んだ俺たちは、ひとまずアビドス高校へ戻る舵を切る。
寸胴鍋で温まっていたペロロを預かってくれた礼を手早く済ませ、俺は柴大将へと言葉を投げかけた。
「大将、この件は俺たちが必ずケリをつける。だからさ……落ち着いたら、また極上のラーメンをごちそうしてくれよ」
店を畳ませる気なんて毛頭ないという、こちらの決意と希望を込めた一言。大将の力強い頷きを背中に受け止め、いざ校舎へ――。
「うわぁ……」
そんな逸る気持ちも、暖簾をくぐった瞬間に綺麗さっぱり吹き飛ぶ羽目になる。
柴関ラーメンを出て一番に視界へ飛び込んできたのは、白昼の町中を自由に練り歩く無数の木々。
人の歩行速度と寸分違わぬテンポで、太い根っこをうねうねと器用に蠢かせながら前進する異様な植物群に、盛大な溜息が口をついて出る。
「……悪夢でも見ている気分ですね」
隣でショットガンを俺に構えたまま、ホシノが乾いた声で呟く。ツッコミの癖で向けたのだと思いたい。
「ショウくん。あとでお説教ね」
笑顔を完全に引っ込め、真顔で冷徹な宣告を突きつけてくるユメ先輩。
「いやいや待ってください、これは流石に俺のせいじゃないでしょう!?」
まだ、何もやっていないので、思わず必死に抗弁の声を上げる。だが、返ってくる二人の視線はどこまでも冷ややか。
「オアシスにあの種を植えたのは、一体どこの誰ですか?」
ここからでも見える世界観ぶち壊し真っ最中の世界樹を指さしながら完全なる正論を放つホシノ。反論の余地など微塵もない。
ぐうの音も出なくなった俺は、八つ当たり気味に目の前の木をギロリと睨みつける。するとどうだ。こちらの不穏な殺気を感じ取ったのか、幹全体をビクッと震わせる謎の木。意思があるのかお前ら。
……いや、待て。
ふと、足元の異変に視線が吸い寄せられる。
砂嵐が日常茶飯事であるはずのアビドスの路面。そこに、いつもあるはずの砂埃がいやに少ない。少ないどころか、綺麗さっぱり消え去っている区画すらあるのだ。
よく観察してみれば、あの木々が通過した轍の跡だけ、砂が不自然なほど消え失せている。
「……なぁ、二人とも。もしかしてこいつら、砂を養分にして生きてるんじゃないか?いくら動くからって、水も無いのに行動できるのはおかしいと思わないか?」
思い浮かんだ仮説を口にする俺。しかし、ホシノは底抜けに憐れむようなジト目を向けてくる。
「何をバカなことを言っているんですかショウ。動く木というだけでも十分に頭がおかしいですけれど、流石に砂はあり得ないでしょう。そんな生物が存在したら、この世の自然環境すべてに喧嘩を売っていますよ」
至極真っ当な理屈による反論。だが――その言葉の直後だった。
俺たちの目の前でピタリと足を止めた一本の木が、まるで手足のように根っこをしならせ、周囲の砂山をごっそりとすくい上げたのだ。
そのままザザーッと、頭部とおぼしき葉の生い茂る天辺へ砂を豪快に振りかける。まるで砂浴びを楽しむスズメのような手慣れた動作。
それを器用に数回繰り返し、満足した様子で根っこを蠢かせて別の場所へ移動していく。
その後に残されていたのは――まるで綺麗に吸い取られたかのように、砂が一粒も残っていない剥き出しのアスファルト。
目の前で繰り広げられた現実。否定の余地などどこにもない。
常識を理不尽にも吹き飛ばされたされたホシノの脳内では、現実のデタラメさと培ってきた理屈が激しく正面衝突を起こし。
「…………」
「ほらみろ。俺の仮説が当たったじゃないか……ホシノ?ホシノー!?」
処理能力の限界をとうに迎えたホシノは、完全に白目を剥いたまま、立った姿勢でフリーズしている。
意識を手放しかけたその華奢な肩を強引に揺さぶり、俺は無理やり現実へと引き戻す。
「校舎まで手っ取り早く飛んで行きますんで。ユメ先輩、ホシノ。おんぶと姫抱きか、両手で担がれていくの、どっちにします?」
「えーと……じゃあ、お姫様抱っこで……」
少し頬を染めながら、もじもじと指先を弄ぶユメ先輩。だが、意識を取り戻したばかりのホシノがスッと間に割って入る。
「まあ、待ってください。ユメ先輩のその……色々と重心が偏っている体格だと、ショウの両腕にかかる負担が大きすぎます。何より視界が塞がれて危険ですよ。なのでここは私が前に行きますね」
「そ、そこまで重くないし邪魔にもならないよう!!……だいたい、ホシノちゃんこそ小柄なんだから、私の後ろでおんぶされた方が安全じゃない?前にいたら風圧で途中で吹き飛んじゃうよ?」
「私の体幹を舐めないでください。むしろユメ先輩こそ、背中に乗せたらその無駄に実った質量でショウの首が絞まります」
「絞めないよ!?」
「事実を言ったまでです。こういう時は体格的に収まりの良い私が前をですねぇ…」
「こういう時こそ年長者のわたしが前に立って守るものなの!」
いきなり始まる。譲る気ゼロの舌戦がヒートアップし――
「………」
「………」
不意に、二人の言葉が途切れる。
ヒュオオオ……と、乾いた砂漠の風が二人の間を静かに吹き抜けていく。瞬き一つせず、至近距離でバチバチと視線を交錯させること数秒。
静まり返った空気の中、二人は誰からともなくスッと腰を落とし、胸の前へと両手を構えた。
「………ふん!」
「………えい!」
バチィンッ、と手のひらが激突する乾いた音が響く。手四つでがっぷりと組み合い、グググと額を突き合わせて静かに押し合いを始める二人。
こんな一刻を争う緊急事態に、何で本気で力比べを始めてんだ!?
「よし!担いで行くぞ!答えは聞かないけど!!」
これ以上付き合っている時間も惜しい。
俺は強引に二人の間へ割り込み、右腕にホシノ、左腕にユメ先輩をヒョイと軽々と抱え込む。手足をバタつかせる二人の抗議をまるごと置き去りに、俺は地面を蹴って一気に上空へと跳び上がった。
眼下に広がるアビドスの街並み。
所々に銃撃の痕跡や崩れた外壁、激しい爆発の爪痕が痛々しく残る。だが、それ以上に視界を埋め尽くしているのは、アスファルトの上の砂を豪快に頭から浴び、バリバリと咀嚼するように吸収しながら練り歩く無数の木々。
避難所から戻って来た住民たちも、最初は恐れおののいていたものの、木がただ砂を貪り食うだけで危害を加えないと悟るや、遠巻きにポカンと眺めるばかり。怪我人は見当たらず、直接の被害も出ていないようだ。
とはいえ、植物が根っこで大地に根付かず、踏みしめて自立歩行する悪夢のような絵面は、常識人の精神を容赦なく削り取る。
「地獄です……ここはアビドスじゃないんです……私はきっと、ミレニアムのホテルのベッドで悪い夢を見ている最中なんですよ……」
抱えられたホシノの瞳から完全にハイライトが消え去り、虚空を見つめてブツブツと呪文のように現実逃避を繰り返す。
「わたしも何も見てないもん……。目をぎゅーって瞑ってるから、何も起きてないの。だからわたしたちが怒られる筋合いなんて全然ないんだよぉ……」
ユメ先輩も両手で顔を覆い、これから待ち受けるであろう住民からの猛烈な抗議を想像して涙目で震える始末。
「二人とも、しっかりしろって!ほら、もうすぐ学校に着くぞ!」
気合いを入れ直すべく声を張り上げる。だが、返ってきたのは二人からの氷点下を下回る、お前のせいだが?という恨みがましい眼差し。
理不尽な睨みつけを全身でスルーし、俺は校舎前の前庭へと勢いよく着地した。
校庭の光景は、まさに終戦直後の様相を呈していた。
敷地の中央には、武装を剥ぎ取られて数珠繋ぎに捕縛されたカイザーのロボット兵の山。それを取り囲むように、拳銃を構えた複数の連邦生徒が厳重な監視の目を光らせている。
少し離れた木陰では、ボロボロになった可愛らしい私服のツルギと、巨大なスナイパーライフルを抱えたちょっと露出が激しい私服のハスミが、スクラップを見下ろしながら何かを語り合っている姿が見えた。
さらに別の区画では、今朝のニュースで満面のダブルピースを決めていた淡い水色とピンクの髪の連邦生徒が、隣に小柄でピンク髪の連邦生徒を連れ添い、手元のタブレットを慌ただしく叩きながら周囲へテキパキと指示を飛ばしている。
敷地の外周には、騒ぎを聞きつけた他校の野次馬や私服姿の生徒たちもチラホラと姿を見せていた。そんな中――。
「あ! アニキたちが帰って来たっす!」
甲高い叫び声とともに、砂煙を上げて駆け寄ってくる一団があった。先頭を走るのは、見覚えのある作業着姿の少女。確か、あの商店でオヤジさんの店番をしていた元グルグルヘルメット団の――。
「えっと……丹波ルキ、だったか?どうしてここに?」
「へへっ!大恩のあるアニキたちの大事な街や学校に危機が迫ってるって聞いたら、アタシたちが駆けつけねえでどうするんすか!ここで助けなきゃ、女が廃るってもんですよ!!」
ルキの後ろから、同じように現場仕事やバイトでアビドスに根を下ろし始めていた元ヘルメット団の仲間たちがゾロゾロと姿を現す。
鼻の下を人差し指で擦りながら、得意げに笑うルキ。だが、その姿は決して無傷とは言えなかった。
作業着のあちこちが銃撃と爆風で無惨に引き裂かれ、煤で汚れた頬や手足には痛々しい擦り傷がいくつも刻まれている。背後に控える仲間たちも同様だ。ボロボロの包帯を巻き、手元のアサルトライフルは限界まで酷使されて黒く焼け焦げていた。
ほんの少し前まで、行き場を失い、犯罪に手を染めるしかなかった少女たち。彼女たちが、恩返しという一念だけで、どれほどの覚悟を持ってこの激戦の最前線へ飛び込んできたのか。痛烈な現実が胸を打つ。
だが、ルキはふと視線を落とし、きまり悪そうに頭を掻いた。
「……でも、カイザーの連中が攻めてくるって知ったのは、あの連邦生徒会のねーちゃんがわざわざ教えてくれたからなんすけどね。それに、いざ戦おうとしたら正義実現委員会の化け物……あ、いや、人たちが乱入してきて敵を全部ミンチにしちまって。結局、アタシたちなんて大して活躍もできなかったっす。……大口叩いたくせに、情けない話っすよね……」
自嘲気味に肩をすくめるルキの言葉。
そこに宿る微かな悔しさと引け目を、俺は即座に否定した。
「そんなこと、絶対にないさ」
目の前に立つ、泥だらけの勇敢な”後輩”たちへ真っ直ぐに視線を合わせる。
「お前たちが逃げずに立ち上がってくれたからこそ、救われた人が間違いなくいる。少なくとも、留守を狙われたアビドスが今こうして無事だと知って、俺たちは心の底から救われたよ。住民に怪我人が一人も出なかったのも、お前たちが真っ先に矢面に立ってくれたおかげだ」
胸の奥から湧き上がる熱い感情を、そのまま言葉に乗せて届ける。
「だから、胸を張ってくれ。……ありがとう。お前たちが、アビドスにいてくれて本当によかった」
俺の言葉に、隣のホシノも歩み出た。少しだけ照れくさそうに視線を逸らし、ツンとした口調を崩さないまま、それでも柔らかな声音で言葉を紡ぐ。
「……ショウの言う通りですよ。学籍もないのに、こんな無茶苦茶な戦いに首を突っ込んで……馬鹿な人たちです。でも……怪我をしてまでアビドスを守ろうとしてくれたこと、私からも感謝します。……ありがとうございます」
そして――。
「ルキちゃん……!みんなぁ……っ!」
ユメ先輩の瞳から、大粒の涙が堰を切ったように溢れ出した。次の瞬間、ユメ先輩は両手を広げ、弾丸のような勢いでルキの胸元へと飛び込んだ。
「ぶべらっ!?」
鈍い激突音とともに、ルキの顔面がユメ先輩の豊かな胸元へとすっぽり力任せに埋め込まれる。
溢れんばかりの感謝と愛情を一身に込め、ユメ先輩は少女の華奢な身体をギュウギュウと抱きしめ倒した。
「ありがとう、本当にありがとう……!あのお店でお手伝いをして、一生懸命に汗を流して真っ当に生きてるだけでも、わたし本当に嬉しかったのに……!自分たちから『アビドスの看板に泥を塗るわけにはいかない』って言って……それなのに、わたしたちの学校のためにこんなに傷だらけになるまで戦ってくれて……っ!」
涙声で叫びながら、さらに抱擁の力を強めるユメ先輩。
かつて散々街で暴れたからと、入学の誘いすら遠慮していた不器用で義理堅い少女たち。そんな彼女たちが、誰よりもアビドスを愛し、誇りを守るために血を流してくれた。その尊さが、先輩の心をこれ以上ないほど激しく揺さぶっていた。
「恩返しだなんて、もう絶対に言わせないからね……!みんなはもう、とっくに誰よりも立派な、わたしの大切な後輩なんだからぁぁぁっ!!」
「むがっ……!あ、姉御、嬉しい、嬉しいっすけど……っ!胸が……胸が分厚すぎて、息が……っ!ショウのアニキ、助けて……死ぬっ、天に召されるっ……!!」
先輩の規格外の柔らかさと重量に圧殺され、手足をバタバタと悶えさせながら白目を剥きかけるルキ。
感動の涙と命の危機が入り混じるいつもの光景に、周囲の元ヘルメット団たちからも、堪えきれない笑い声がドッと沸き起こるのだった。
「ふふっ……」
不意にすぐ真横から、鈴を転がすような聞き慣れない笑い声が届く。
ぎょっとして視線を滑らせると――さっきまで校庭の真ん中で指示を飛ばしていたはずの、あの淡い水色とピンクの髪の連邦生徒が、なぜか俺のすぐ隣にチョコンと並んで立っている。
「うおっ!?い、いつの間に……!?」
「ついさっき、ですよ♪」
人懐っこい笑みを浮かべ、小首をかしげて見せる少女。足音はおろか、気配の揺らぎすら一切感じさせない神出鬼没ぶりに、背筋がヒヤリと粟立つ。
だが、その双眸に向けられた眼差しはどこまでも澄み切っていた。ユメ先輩に抱きつかれて白目を剥くルキたちの騒がしい光景を、まるで二度と手に入らない宝物でも見つめるかのように、優しく、慈しむように見つめている。
間違いなく、この少女がアビドスを救ってくれた最大の立役者だ。
胸に埋もれて感動の嵐に呑まれているユメ先輩は、当分あそこから帰ってこられそうにない。俺は隣のホシノへ視線で合図を送り、先に二人で頭を下げることにする。
「……アビドスの危機を救ってくれて、本当にありがとう。ミレニアムへ行く前にSNSで無茶苦茶な要請を押し付けたっていうのに、嫌な顔一つせずここまで駆けつけてくれたこと……アビドス生徒会の一員として、心の底から感謝するよ」
頭を下げて実感を込めた言葉を紡ぐと、ホシノも横に並び、愛銃の銃口を地面に向けたまま口を開く。
「……私からも礼を言わせてください。過去の対応諸々で連邦生徒会には思うところだらけですけれど……今回の迅速な働きについては、少し見直しましたよ」
過去の不信感からか、まだ微かにツンとしたトゲを滲ませるホシノ。それでも、向けられた感謝の言葉に嘘偽りはない。
「そう言ってもらえると、飛んできた甲斐がありました!えへへ、連邦生徒冥利に尽きるというか、なんというか♪」
へにゃりと嬉しそうに目元を緩める少女。
そこでふと、まだ彼女の名前すら聞いていないことに思い至る。
「おっと、まだ名乗ってなかったな。俺は円ショウ、こっちが小鳥遊ホシノだ。……助けてもらった恩人の名前すら知らないんじゃアレだし、あんたの名前を教えてくれないか?」
礼儀として自己紹介を交えつつ問いかけてみる。
だが――少女はどこか困ったように眉を下げ、ふわりと視線を宙へと泳がせる。
「私の名前、ですか? うーん……言ってもきっと聞こえませんし、私のことは『連邦ちゃん』とでも呼んでくれればいいですよ?」
どこか浮世離れした、夢の中にいるようなトーンでサラリと話を逸らしてくる。名前でもないその言葉に、隣のホシノが追求すると思った矢先。
「……そうですね。では連邦さん、ということで」
驚いたことに、あれほど警戒心の強いホシノが、あっさりと納得して深く追求するのをやめてしまう。
……おいおい、嘘だろ? ホシノがこんな雑な誤魔化しをスルーするわけがない。まるで「彼女の個別の名を問う」という概念そのものが抜け落ちているかのような、奇妙な違和感。
背筋を撫でる不可解な感覚に眉をひそめつつも、俺はなおも食い下がる。
「いや、連邦ちゃんってのも雑すぎるだろ。聞こえるかどうかは試してみなきゃ分からないが……一応、聞かせてくれないか?」
俺の粘り強さに、少女は一瞬だけ瞳の奥を揺らす。
その瞳に宿ったのは、どこか遠い未来を見据えるような、ほんのわずかな諦念。
だが次の瞬間には、それを覆い隠すようにパッと破顔し、元気よく胸を張ってみせる。
「もう、ショウさんは頑固ですね! そこまで言うなら、しょうがないです。特別にお教えしましょう!」
悪戯っぽく笑い、少女が小さな唇を開く。そして、紡がれた彼女の『名』――。
「私の名前は、――」
声帯の振動。音波の伝播。……しかし、その音は世界というキャンバスから完全に抜け落ちている。
まるでキヴォトスの理そのものが彼女の認識を拒絶し、塗りつぶしているかのような、絶対的な沈黙とノイズの空白。常人であれば「何も言わなかった」あるいは「聞き取れなかった」としか脳が処理できない不可視の壁。
「ふふっ、ね? やっぱり聞こえなかったでしょ?」
得意げに笑い、いたずらが成功した子どものようにからかう視線を向けてくる女の子。
だが――俺はどうやら、世界の理の外側にあったらしい。音波の乱れ、空間の揺らぎ、ノイズの隙間に残された概念の残滓を、俺のヘイローが無理やりに拾い上げ、一つの波形へと結び直す。
途切れ途切れの、微かな欠片。それでも、確かに耳の奥へと届いた響きがある。
「…………アロ、ナ?」
俺の口から零れ落ちた言葉。
「それがあんたの名前……なのか?」
「………………」
少女の笑みがピタリと固まり、ポカンと口を開け、まん丸に見開かれる瞳が驚きで染められる。
「……え?」
「え?え……?えええっ……!?」
先ほどまでの超然とした態度は跡形もなく消え去り、少女――アロナは、世界がひっくり返ったかのように激しく狼狽し、顔を真っ赤にして後ずさっていた。
目を白黒させ、まるでありえない物でも見たかのように激しく取り乱すアロナ。
そんなに自分の名前を呼ばれたことが衝撃なのか?俺が不思議そうに首を傾げていると
「そこの貴方!私達連邦生徒会に向かって何を言ったのですか!」
目を白黒させてパニックに陥るアロナを庇うように、ツカツカと割り込んできたのは、背後に控えていた小柄なピンク髪の連邦生徒だった。
尖らせた視線で俺をジロリと睨みつけ、ツンと澄ました態度で尊大に言い放つ。
「アビドスのような落ちぶれた自治区の生徒が、この不知火カヤが所属している連邦生徒会のエリートである私達を困惑させるなど。身の程を弁えてください」
丁寧な敬語の端々から、隠す気ゼロの侮蔑と選民思想がダダ漏れしている。
確か名前は不知火カヤとか言ったか。アロナに心酔しているのは見て取れるが、この緊急時にいちいち突っかかる口調が最高に鬱陶しい。
「あ、ちょうどいいところに両手が空いてる奴がいた。ペロロ、ゴー」
「は? 何を言って――」
俺は胸元で抱えていた、スープの匂いがまだ微かに残るペロロを、文句を垂れるカヤの腕の中へ遠慮なく押し付けた。
「ひゃっ!? な、なんですかこの薄汚れた肉塊は……!?ちょっと、押し付けないでくださ……ひゃああっ!?」
腕に収まったカヤを見上げたペロロの瞳が、怪しく輝く。どうやらカヤになにか惹かれるとこがあったのか、妙にツボにハマったらしい。
「ぺろろ〜♪」
「ちょっ、やめっ……!やめなさい!この無礼な鳥!……顔をベロベロ舐めるのをやめなさい!髪が唾液まみれに……ひぃっ、耳元を舐めるんじゃないです!!」
必死に引き剥がそうとするカヤだったが、俺の神秘を宿したペロロの前には無力。
すっかり気に入られたカヤは、尊大な態度もどこへやら、顔面から首筋まで情けなくベロベロに舐め回されて涙目でじたばたともがく羽目になっていた。
「よし、静かになったな」
「ショウ、流石に連邦生徒会の役員をああするのはどうかと思います。すかっとはしましたけど」
ホシノが呆れたような眼差しを向けてくる。そんな騒ぎの最中、背後から凛とした澄んだ声が届いた。
「アビドスの皆さん、ご無事でしたか」
振り返れば、そこには整った立ち姿のハスミ。
微笑みを浮かべて歩み寄ってくる彼女の隣には、正義実現委員会が誇る最強の暴君――ツルギの姿もある。
「ぎゃ……!」
だが、ツルギはこちらと視線が交錯した瞬間、バチィッと火花が散るような勢いで顔面のバランスを崩壊させる。
赤黒い湯気が吹き上がりそうなほど顔を真っ赤に染め上げると、喉の奥で短い悲鳴を漏らし、そのままハスミの大きな黒翼と背中の後ろへ滑り込むように隠れてしまう。大きな体を必死に縮こまらせ、ハスミの服の裾をぎゅっと握りしめてプルプルと震える姿は、どう見ても猛獣ではなく怯えた小動物だ。
「……どうしてツルギさんとはハスミさんはアビドスにいるんですか?」
「今回の連休を利用して、ツルギを連れて皆さんの様子を労いに伺ったのです。過酷な環境で日々奮闘するアビドスの皆さんへ、差し入れでもと思いまして」
ホシノの問いにハスミが穏やかに事情を説明してくれる。
「ですが、いざ到着してみれば皆さんはミレニアムへ出向かれるとのこと。それならばと、せめてアビドスの街を少し観光して帰ろうとしたのですが……タイミング悪く、カイザーの不当な侵略現場に鉢合わせてしまいまして」
暴挙を目撃したツルギが許さんとばかりに真っ先に突撃を敢行。ハスミもそれに続き、敵のロボット部隊を容赦なく蹴散らしている最中に連邦生徒会と合流し、現在に至るのだという。
話を聞けば聞くほど、胸の奥が熱くなってくる。
わざわざ遠いトリニティから俺たちの様子を見に来てくれた上に、命懸けで街を守ってくれたのだ。
「ハスミ、本当にありがとう。二人のおかげでアビドスが守られたよ。感謝してもしきれない」
「ふふ、困ったときはお互い様です。お礼など気になさらないでください」
にこやかにこちらの感謝を受け取ってくれるハスミ。問題は――その背後から頑として出てこようとしない、もう一人の大恩人。
「ツルギにもちゃんとお礼を言いたいんだが……」
ハスミの背中からチラチラと覗くツルギの赤い瞳に向かって声をかけてみるものの、視線が合うたびにビクッと体を震わせ、ますます奥へと引っ込んでしまう。
困惑する俺の様子に、ハスミが深いため息を一つ。
「……ツルギ。いつまでもそんなところに隠れていては、失礼でしょう」
業を煮やしたハスミが、背後からツルギの肩をむんずと掴む。
そして、じたばたと抵抗するが容赦なく前頭部へと引っ張り出し、俺の目の前へ直立不動で差し出した。
「ほら、前を向きなさい」
「き、ぎゃ……あ、あうぅぅ……ッ!」
逃げ場を完全に塞がれ、口元から小さな奇声を漏らしながら悶絶するツルギ。顔面は耳の先まで真っ赤に熟れ、視線は地面の砂粒に釘付けのままだ。
俺は一歩歩み寄り、ツルギの正面へとまっすぐ立つ。
「ツルギ。アビドスのために戦ってくれて、本当にありがとう。お前が駆けつけてくれなかったら、今頃この街はどうなっていたか分からない。心から感謝してる」
飾らない本心をまっすぐに届けると、ツルギは胸の前で両手の人差し指をツンツンと合わせながら、蚊の鳴くような震え声でぽつりと呟く。
「た、たい……切な……その、とも……だちの……た、頼み……だからな……ッ!」
ぎこちなく、けれど精一杯に絞り出されたその言葉の愛おしさに、胸を打たれる。俺は思わず、ツンツンと合わされていたツルギの両手をキュッと優しく包み込み、その赤い瞳を覗き込んだ。
「ああ。最高の友達だ、何度も言わせてくれ。ありがとう、ツルギ」
「っ……あ、あわわわわわわっ!?」
触れ合った手のひらの温もりに、ツルギの全身が目に見えてブルブルと微振動を始める。
今度こそ頭頂部から湯気が立ち上るんじゃないかという勢いで真っ赤になり、恥ずかしさのあまり小さくうつむくツルギ。だが――その口元はどこまでも嬉しそうに緩み、恥じらいの滲む笑顔が、ふわりと花開くように綻んでいた。
「……ど、どういた……しまして……っ」
そんなツルギの姿に目を細めつつ、ふと彼女の全身を見遣る。
激しい戦闘を物語るように、せっかくの私服の裾が派手に引き裂かれ、煤と砂埃で薄汚れてしまっている。
「……せっかくの休日の服を、俺たちのせいでボロボロにさせちゃったな。ちょっと動かないでじっとしててくれ」
「ふぇ……?ぎゃっ!?」
驚いて目を白黒させるツルギを前に、俺は頭上のヘイローを意識する。柔らかく波打ち、淡いエメラルドグリーンの光の帯がツルギの全身をふわりと包み込む。
ネルのメイド服を巻き戻した時と同じ修復光線。
光がひと撫でするだけで、生地の焦げ跡や煤汚れが嘘のように消え去り、引き裂かれていた繊維が目にも留まらぬ速さで編み直されていく。数秒と経たずに、ツルギの服は買ったばかりの新品同様の輝きを取り戻した。ついでにルキ達の方へも向けておく。
じゃないとユメ先輩式絞首刑で命が危うい。
「……う、嘘……!?ふ、服が……元通りに……!?」
自分の袖やスカートを恐る恐る触り、目を丸くしてパチクリと瞬かせるツルギ。
改めてその姿を一望し、俺は率直な感想を口にする。
「よし、綺麗になった。……それにしてもさ、ハスミの落ち着いた大人っぽいコーディネートもすごく綺麗だけど、ツルギのその私服もいいな。普段の引き締まった隊服とは雰囲気がガラッと違って、女の子らしくてすっごく可愛い。本当によく似合ってる」
「…………っっっっ!?」
その瞬間。目の前のツルギから焼き切れる音が聞こえた気がした。
「か……っ!か、かわ……っ!?に、にあっ……!? わ、わわわ、わたし……っ!?」
顔面が真っ赤を通り越して熟れきったトマトのように沸騰し、頭頂部からリアルに湯気が吹き上がる。
褒め言葉の破壊力に耐えきれなくなったツルギは、両手で顔をすっぽりと覆い隠し、足をバタバタさせながら身悶えを始めた。
「ぎゃああああっ!う、うれし……っ、恥ず……っ!もう無理ぃぃぃ……ッ!」
完全に限界突破した乙女は、情けない悲鳴を上げながら、再びハスミの背中へと勢いよく顔面から突っ込んでプルプルと震えだす。
「まあまあツルギ、落ち着きなさい……。あ、ショウさん、お褒めいただきありがとうございます。ツルギも今日のために、何日も前から一生懸命服を選んでいたのですよ」
ハスミがツルギの頭をよしよしと撫でながら、自身もほんのり頬を染めて上品に微笑む。
「……ショウ、息を吸うように他校の女の子をたらし込むのはやめてください。私の目の前で堂々と口説かないでほしいですね」
横から飛んできたのは、ジト目を限界まで細く尖らせたホシノからの冷え切ったツッコミだった。
「うっ……ご、ごめん。昔、女の子が普段と違う気合いの入った格好をしてる時は絶対に褒めろって、耳にタコができるほど叩き込まれててな……」
ホシノからの突き刺さるようなジト目にたじろぎつつ、俺は苦笑いで言い訳を口にする。
脳裏をよぎるのは、かつて育った孤児院での苦い記憶。父親代わりだった院長が、突然訪ねてきた複数の女性から同時に詰め寄られ、褒め言葉の選択を一つ誤った瞬間に修羅場と化してフルボッコにされていた、あのトラウマ級の光景だ。あの時のアンパンの様な院長が残した言葉は、今でも魂に刻み込まれている。
すると、俺の弁明を聞いたホシノは一瞬だけきょとんとした後、急にもじもじと指先を弄び始めた。先ほどまでの冷たいトゲが嘘のように霧散し、耳元までほんのり桜色に染め上げていく。
「……じゃあ、もしも、私が私服を着てきたら、その……褒めてくれるんですか?」
伏せ目がちなオッドアイをそっと持ち上げ、恥じらいを含んだ上目遣いでこちらを覗き込んでくるホシノ。普段の気だるげな様子からは想像もつかない破壊力に一瞬たじろぎつつも、俺は迷わず頷いてみせる。
「そりゃ当然褒めるだろ。普段から可愛いんだから、気合入れた私服なんて見せられたら絶賛するに決まってる」
「……っ!」
俺の即答を聞いた瞬間、ホシノの表情から不機嫌の欠片が完全に消え去った。
口元がだらしなく緩み、パタパタと小動物のように尻尾を振る幻覚が見えそうなほど分かりやすく上機嫌になる。
「うへへ〜♪そこまで言うなら仕方ないですね。今度、二人で一緒にお出かけしてあげますよ♪」
機嫌をすっかり直したホシノが、得意げに胸を張って謎の約束を取り付けてくる。
「おう、いいなそれ! この一件が片付いたら、ユメ先輩やツルギたちも誘って、みんなでパーッと美味いもんでも食いに遊びに行こうぜ!」
大勢で行けばもっと楽しいに違いない――そう思って爽やかに提案した途端。
「…………はぁ」
目の前のホシノから、この世の全ての諦めを凝縮したような、深々としたため息が零れ落ちる。
苦笑いを浮かべつつ話を逸らすため、俺はふと周囲の異様な状況へ視線を巡らせた。
そこで一つの疑問が頭をもたげる。
「……そういえばさ。カイザーが襲ってきたのって昨日の昼過ぎだって大将から聞いたんだが。もしかして皆、昨夜からずっとここで夜を明かしたのか?」
見渡せば、捕縛されたカイザーのロボット兵たちは未だ敷地の真ん中に転がされたままだ。ヴァルキューレ警察学校に身柄を引き渡すでもなく、全員が徹夜明けの疲労を滲ませている。
俺の問いに、ハスミが困ったように眉を下げて頷いた。
「ええ。昨日のうちに戦闘自体は制圧したのですが……カイザー本社の法務部が『自治区内の正規警備活動だ』と強弁し、連邦生徒会との間で身柄引き渡しの手続きを巡る政治工作を仕掛けてきまして。夜通し押し問答が続いていたのです」
ここで先ほどまで驚いて止まっていたアロナが平静を取り戻し、俺達の会話に混ざった。
「おまけに夜の砂漠は視界も最悪ですし、下手に少人数で移送しようとすればカイザーPMCの増援に身柄を奪還されかねませんでしたから。シッテムの箱による捕虜のデータ解析を進めつつ、ヴァルキューレの重護送部隊が到着する今朝まで包囲・監視を維持する判断を下しました」
「ちょっ、何時までなめているのですかっ!速く離れなさい!」
ペロロに顔中をベロベロ舐め回されて涙目で悶絶するカヤを横目に、アロナが冷静に状況を補足してくれる。
だが、ツルギやルキたちがボロボロの体のまま、寒空の下でここに踏みとどまり続けてくれた理由は、そうした事務的な事情だけではない。
「何より……アビドスの生徒会長さんたちが留守の間、この学校を誰の目にも触れない無防備な状態にするわけにはいきませんから。皆さんが無事に戻られるまで、ここを預かっておくのが筋というものでしょう」
「ああ……」
誇らしげに微笑むハスミの背後で、ツルギも力強く頷いてみせる。
「アタシたちもっすよ!アニキたちが帰ってくる前にまたカイザーの別動隊が来たら大変っすから、夜通しで見張り番してやったんす!……まあ、正実の人たちが怖すぎて、眠るどころじゃなかったってのもあるんすけど!」
「コラ、ルキちゃん! 失礼なこと言わないの!」
ユメ先輩の圧殺から離れることができた、照れ隠しに笑うルキの頭を、仲間がペシッと叩く。
一晩中、アビドスを守り抜くために歯を食いしばり、俺たちの帰りを待っていてくれたのだ。その事に再び熱い物を感じてしまう。
「……もう、カヤちゃん、いつまで鳥さんと戯れているんです?」
アロナがペロロをひっぺがしてカヤを救出し、コホンとわざとらしい咳払いを響かせる。カヤもペロロのよだれにベトベトになりながら、平静を取り戻し始めたようだ。
「この屈辱、決して忘れません…!この私が偉くなった暁には、このふざけたマスコットをキヴォトスから駆逐してやりましょう…!!」
やっぱ冷静でもなんでもなかった。
「まずはアビドスの皆さんに共有したい情報があります」
アロナ両手で抱えた不思議な質感のタブレット――彼女が「シッテムの箱」と呼ぶ端末の画面をスワイプしながら、アロナはキリッとした真面目な顔つきへと切り替える。その切り替えの早さは、さすが連邦生徒会といったところ。
「捕縛したカイザーの社員の尋問、並びにクラッキングした内部通信ログの解析が完了しました。……今回の襲撃、単なる嫌がらせや突発的な暴動ではありません。カイザーコーポレーション上層部が直々に下した、計画的な軍事侵略みたいです」
「上層部が……?」
ユメ先輩が眉をひそめ、真剣な瞳で身を乗り出す。
「はい。彼らの焦りの正体は、他でもない皆さんの活躍……そして、あの世界樹と大オアシスです。アビドスが観光特需とショウさんたちの稼ぎによって急速に潤い、このままでは『抱えている莫大な借金を一括完済されてしまう』と危機感を募らせたようなのです」
「借金の完済を恐れる、ですか?」
ホシノが呆れたように目を細める。金を貸している側が返済を恐れるなど、通常の金融業者ではあり得ない話だ。
「ええ。確かに以前、困窮したアビドス生徒会がカイザーへ土地の一部を売却したのは正式な取引でした。ですが、カイザーの本来の目的はアビドスの土地、それも砂漠をメインにした地域を支配下に置くこと。借金を完済され、残された土地まで経済的に自立されてしまっては、長年の計画が水泡に帰してしまう……。だから生徒会の不在を狙い、武力で住民と観光客を追い出して、まだアビドスが所有している校舎やオアシスごと既成事実として完全占拠しようとしたんです」
淡々と語るアロナ。その瞳の奥には、何かさらに深い秘密――カイザーが土地に執着する『なにか』を知りながらも、今は敢えて伏せているような微かな揺らぎが見える。
だが、追求する隙を与えることなく、アロナはふっと悪戯っぽく口元を緩め、いたずらっ子のように片目をパチリとウインクしてみせる。
「ちなみに……カイザーの強固な暗号通信プロトコルがなぜあっさり抜けたのかと言いますと。『黒い妖精さん』が、ショウさんに伝えてほしいと手土産を置いていってくれまして♪」
(……黒い妖精さん、ね。あいつか〜?)
思わず苦笑いが漏れる。以前にした俺との契約を守った黒服が、裏でカイザーの梯子を派手に外して連邦生徒会に情報を流したわけだ。まったく、研究成果を楽しげに報告してくる普段と違い、中々食えない大人である。
「それに――これはアビドスだけの問題ではありません」
アロナはスッと表情を引き締め、凛とした強い眼差しを一同に向ける。
「過去にどんな売買契約があろうと、一民間企業が武装戦力を率いて自治権を持つ学園を武力侵略し、生徒たちの平和を踏みにじるなど言語道断です。学園都市キヴォトス全体の行政を預かり、秩序を保つ統治組織として、到底見過ごすわけにはいきません。今回は連邦生徒会の名のもとに、カイザーコーポレーションの暴挙を公式に糾弾し、相応の裁定を下す方針を固めました!」
小柄な身体から放たれる、確固たる統治組織としての威厳と気迫。
その頼もしさに、俺たちも自然と背筋が伸びる。
「……で、俺達がカイザーを完全に締め上げるには、どうすればいい?」
俺の問いに、アロナはタブレットを軽く叩いてホログラムマップを展開する。
「連邦生徒会としてカイザー本社を法的に追い詰めるには、決定的な物証がもう一つ足りません。現場のトカゲの尻尾切りで逃げられないよう、本社からの直接侵略命令ログが眠る大元のサーバーを押収する必要があります」
青く光る立体地図。そこにマーキングされたのは、アビドス自治区の外れ――広大な砂漠の奥深くに鎮座する巨大な軍事施設。
「選択肢は二つ。キヴォトス中央にあるカイザー本社へ直接乗り込むか……あるいは、今まさに撤退準備を進めている、アビドス砂漠の『カイザーPMC大型前線基地』を急襲するか。ですが、本社は法とガードマンの壁に阻まれて証拠隠滅の猶予を与えてしまいます」
「なら、答えは決まりだな」
俺はニヤリと笑い、拳を鳴らす。
「証拠を処分して逃げ出される前に、砂漠の前線基地へ殴り込みをかける。司令部のメインサーバーごと引っこ抜いて、カイザーの退路を完全に断ってやる」
「賛成です。……契約を傘に着て、学校まで土足で踏み荒らそうとした落とし前、きっちり耳を揃えて払ってもらいましょう」
ホシノがショットガンのスライドを力強く引き、オッドアイに静かな闘志を宿す。
「わたしも行くよ!もう誰にも、アビドスの街を傷つけさせないんだから!」
ユメ先輩も愛用の盾を構え、力強く頷く。
そして――。
「……アビドスを脅かす悪党ども……ッ。ショウさんのため……あ、いや、キヴォトスの正義のために、皆殺し……ゴホン、完全粉砕してやろう…!」
背後でハスミに支えられながら、ツルギが嬉々として赤い瞳をギラつかせ、ショットガンをガシャリと構えていた。
丹波ルキの名前には元ネタがあります。わかるかな〜?
1〜3話を目安に書きます
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ゲヘナ雷帝編(雷帝ナシ)
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アヤメ誘拐編
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どっちも書いて♡
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別にいらないな、回想でいい