丹波ルキの名前の元ネタはポケモン金銀のタンバシティとルギアから。グルグルヘルメット団のグルグルが渦巻きみたいだなあと思って作りました。
見た目は艦これの168みたいな感じをイメージ。名残で服の下にスク水を着ている。
実はオデュッセイア海洋高等学校出身。ヘルメット団になったきっかけは、所属していた時に流行っていた迷信レベルのしきたりにうんざりして大暴れしたら停学をくらい、飛び出した結果。
嬉々として真っ赤な瞳をギラつかせ、ショットガンをガシャリと鳴らすツルギ。
その背後から立ち上る凄まじい闘気は、もはや味方側というより完全な討伐対象のそれだ。やる気どころか殺る気すらみなぎらせている。
だが――その気迫に冷や水を差すように、隣のホシノがスッと手を挙げた。
「……待ってください。ツルギたちのやる気は大変結構ですけれど、冷静になってください。二人はトリニティの生徒……しかも正義実現委員会所属ですよね?」
「ぎゃ……?そ、それは……そうだが……?」
虚を突かれたように目を白黒させるツルギ。
「昨日のアビドスでの戦闘は、観光中に突然巻き込まれた上での正当防衛で押し通せます。でも、ここから先は別問題ですよ。他校の自治区外――砂漠深部の敵前線基地へ私的に乗り込んで武力制圧なんてやらかしたら、他校への不当な軍事介入としてトリニティ上層部のティーパーティーから大問題にされますよ」
至極真っ当、ぐうの音も出ない正論だ。
俺もホシノの言葉に頷き、ツルギへと向き直る。
「ホシノの言う通りだな。わざわざ助けに来てくれた恩人を、俺たちの都合で他校とのトラブルに巻き込むわけにはいかない。ツルギ、ハスミ。二人はここで待っていてくれないか?」
その言葉を耳にした瞬間――。
ツルギの纏っていた猛烈な闘気が、見る影もなくかんたんな姿となって空の彼方へと霧散した。
「あぅ……」
頭上のヘイローが目に見えてしょんぼりと明度を落とし、まるで雨に濡れた大型犬のように肩をガックリと落とすツルギ。口元をへの字に曲げ、胸の前で人差し指をツンツンと突き合わせながら、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめてくる。
ハスミもまた、大人びた表情を崩さないように努めつつも、大きな黒翼を力なくパタリと垂らしていた。
うっ……そんな捨てられた子犬みたいな目で見られると、こっちの胸が痛むんだが……!
困り果てて頭を掻いていると
「ふふっ、そこは心配いりませんよ♪」
ポンと景気よく手を叩いたのはアロナだ。ペロロとタブレットを起用に小脇に抱え、自信満々に胸を張ってみせる。
「今回の作戦は、キヴォトスの統治機構である連邦生徒会が主導する【重要機密の保全および違法武装組織の強制捜査】です! つまり、連邦生徒会からアビドス、そしてトリニティの正義実現委員会へ正式に『超法規的協力要請』を出した、という形を取れば何の問題もありません!」
「……?ほ、本当か……!?」
ツルギの顔がパッと明るく輝く。
「はい!公務としての共同戦線ですから、トリニティの上層部も文句は言えません。ハスミさん、ツルギさん、力を貸していただけますか?」
「ええ、喜んで。連邦生徒会からの正式な要請とあらば、正義実現委員会としても断る理由はありません」
ハスミが凛々しい笑みを浮かべて頷き、その隣でツルギは再び真っ赤な顔でガッツポーズを固める。
「ふ、ふふふ……悪党どもを、木っ端微塵にしてやる……ッ!けひぁぁああああ!!」
懸念事項は完璧にクリア。
となれば、一刻も早く砂漠の基地へ向かうだけだが――そこで俺は、もう一つの致命的な問題に直面する。
「……ところで。あそこまで、何で行く?」
校庭を見渡して呟いた俺の言葉に、全員の動きがピタリと止まる。
人はいるが、足がない。権力、そして戦力としていかなければならないのは、俺たちアビドス組の三人にアロナ、そしてツルギとハスミ。
これだけなら、アビドス高校の車庫にある軍用ジープでギリギリ行ける。車体に幾つか擦り傷はあるものの、機関部はピカピカでほぼ新品同様の代物だ。定員オーバー気味だが詰め込めばなんとかなる。
だが、校庭にはまだ元ヘルメット団のルキたちや、カヤをはじめとする連邦生徒会の面々もいるのだ。
「私は最初から同行するつもりはありませんでしたので、お構いなく。砂漠の奥地へ出向くなど、連邦生徒会の人間が現場で直接行うような職務でもありませんしね」
カヤはペロロに舐め回された跡をハンカチで丁寧に拭いながら、穏やかな敬語の奥に隠しきれないプライドを覗かせて告げる。
「カヤちゃんには、ここで後から到着するヴァルキューレ警察学校の重護送部隊との引き継ぎをお願いしたいんです。カイザーの身柄を確実に引き渡す役目も、組織として極めて重要なお仕事ですからね」
アロナからそう言われると、カヤはスッと背筋を伸ばし、わずかに頬を緩めた。表には出さないものの、同年代であるアロナへの深い信頼と敬愛がその眼差しから滲み出ている。
「……そこまで仰るなら、お任せください。この場は私が責任を持ってお預かりします」
カヤの引き継ぎは決まった。問題は――。
「アニキ!アタシたちも後から走って追いかけるっすよ!現場の足手まといにはならないっすから!」
鼻息も荒く拳を握りしめるルキたち元ヘルメット団。
その熱意は嬉しいが、砂漠のど真ん中にある軍事基地まで徒歩で走るなんて無茶苦茶だし、そもそもツルギたち正義実現委員会まで加わった今、戦力的には過剰気味。それに彼女たちを無理に走らせるわけにもいかないし、間に合わない可能性が高い。
かといってジープ一台では、全員の装備を積むスペースすら怪しい。
さて、どうしたもんか……腕を組んで思案しながら、ふと校舎の外――砂埃の舞う通りへと視線を投げかける。
そこには、太い根っこをうねうねと器用に蠢かせながら、アスファルトの砂をガツガツ貪り食って移動する一本の木。
人の歩行速度どころか、よく見れば根の回転数が上がった瞬間、ママチャリ以上のスピードでシャカシャカと滑るように通り過ぎていく。……あいつら、よく見たら結構、足が速いんじゃないか?
俺の頭の中で、突拍子もない閃きがカチリと音を立てて噛み合った。
「あの木に乗っていけばいいんじゃないか?」
思いつきをそのまま口にした瞬間、アロナ以外の全員が呆気にとられた表情で静止した。
その場に数秒の沈黙が流れた後、全員の顔が揃って苦虫を噛み潰したような渋面へと変わっていく。
「……ショウ。ストレスで頭をやられたんですか?カイザーに向かうのはやめて、保健室で寝ていた方がいいんじゃないですか?」
ホシノからは死んだ魚のような瞳で正気を疑われ、ユメ先輩はおろおろと視線を泳がせる。
「え、えーと……木に、乗るの……?木って、あの……植木鉢とかに生えてる、あの木だよねぇ……?」
「き、木に……乗る……?木……?」
ツルギに至っては頭を抱えてフリーズし、ハスミも額を押さえて深い溜息をついていた。
「あははっ!それは名案ですね!」
ただ一人、アロナだけが愉快そうに笑い声をあげて手を叩いている。
だが、あの木々は元を正せば俺の神秘が暴走して生じた世界樹の株分けのような存在……の筈だ。
俺の呼びかけに何かしらの反応を示すのではないかと考え、息を吸い込んで鋭く指笛を鳴らしてみた。
すると乾いた砂漠の空気を切り裂く音に応じるように、街中のあちこちから十数本もの木々が、太い根を猛烈な勢いで回転させながら校庭へと突進してきた。
「きゃあああっ!?」
「ひぃっ、なんなのですかこれは!?」
「あはっ、あはははは!!よりにもよって指笛でっ!…い、犬みたいに、ぶふっ!」
突然の大群の出現にホシノやカヤが飛び退いて悲鳴を上げる横で、アロナだけがお腹を抱えて大笑いしている。
校庭に滑り込んできた木々は俺の前でぴたりと止まり、従順に枝葉を揺らして乗るよう促すかのように身を屈めた。
触ってみる感じ、木は一本につき二、三人ほど乗せられる頑丈さがあった。
「ほら、人懐っこい」
「人懐っこいとかそういう問題じゃないです……!」
絶望した表情のホシノと戸惑うユメ先輩を枝の上に座らせ、俺も乗り込む。
ツルギとハスミ、そしてルキたち元ヘルメット団にもそれぞれ別の木をあてがい、そのまま砂漠へと進発した。
砂を養分として取り込む性質があるためか、一面の砂地に出た途端、木々の根は信じられない速度で回転を始めた。
一般的な軍用車両を優に凌駕する猛烈な速度で、大量の砂煙を巻き上げながら砂漠を疾走していく。
「速い、速すぎますぅぅーーーっ!?」
「風圧で盾が剥がれちゃうよぉぉ〜〜っ!」
凄まじい風圧と激しい揺れに、ホシノとユメ先輩は必死に枝へしがみついて叫んでいた。
別の木に乗るハスミも、猛烈な速度に戸惑いながら必死に姿勢を保っている。
だが、その隣に立つツルギは全く動じていなかった。
激しく揺れる枝の上で微動だにせず仁王立ちし、冷徹な視線を前方へ据えて愛銃を構えている。俺が直接関わっていない時の彼女は、トリニティ最強の実行部隊を率いる者にふさわしい、凄まじい胆力と静かな威圧感を放っていた。
「ヒャッハー!アニキ、最高っすー!」
後ろの木では、暴走車に乗り慣れている元ヘルメット団のルキたちが歓声をあげながら追従している。
ふと横に目をやると、乗っている木を器用に操ってこちらの木へと並走してきたアロナの姿があった。触り心地が気になったのか、ペロロを小脇に抱えた彼女は、いたずらっぽく目を細めながら身を乗り出してくる。
「ショウさんショウさん。向こうに着いたら少し面白い揺さぶりをかけてみませんか?カイザーにやられっぱなしも性に合わないでしょう?ここは一つ、その横っ面を思いっきり引っ叩き、どう足掻いても逃げれなくさせません?」
「…いいな、それ。ちょうどあいつらが一番嫌がりそうな急所を探る方法なら、いくつか心当たりがある。透視、盗聴なんでもござれだ」
「ふふっ、話が早くて助かります。それなら私は連邦生徒会公式の脅し……いえ、厳正な法的手続きとして綺麗に仕立て上げてあげましょう」
「頼もしいな。逃げ道を全部塞いで、あっちから手を出させる為に外堀から埋めてやろうか!」
「ふふふふふっ♪」
「クックックッ♪」
悪巧みの方針が瞬時に噛み合い、俺とアロナは顔を見合わせて口元に怪しい笑みを浮かべる。
「ぜ、絶対に混ぜてはいけない劇薬が混ざってしまいました…!それにあの笑い方……悪影響を与えた黒服は後で必ず殴ります…!!」
その様子を間近で見てしまったホシノが、心底嫌そうに顔を引きつらせて呟き、深い溜息をついていた。
こうして俺たちは、奇妙極まりない隊列を組んだまま、カイザーの大型前線基地を目指して一直線に砂漠を切り裂いていった。
たどり着いた先に広がっていたのは、砂漠の奥地とは思えないほど高度に整備された巨大な軍事基地だった。
幾重にも張り巡らされた鉄条網に、頑強なコンクリートの防壁。等間隔に並ぶ監視塔の至る所には、見慣れたカイザーの企業ロゴが刻印されている。
「知らないうちにこんなに大きな基地が、砂漠の奥にあったなんて……」
俺特性ヘイロー望遠鏡を下ろしたユメ先輩が、信じられないものを見たように声を震わせ、ショックを隠せない様子で立ち尽くす。
「ユメ先輩。ショックを受けている暇はありませんよ。早速乗り込んで、根こそぎとっちめてやりましょう」
好戦的に前へ出ようとするホシノ。だが、その肩を横から伸びてきた手が静かに制した。
「待て。今ここで私たちが無策に武力突入すれば、相手に新たな名分を与えることになる」
制止したのはツルギだった。その瞳はどこまでも冷徹で、暴君と恐れられる姿の奥にある、正義実現委員会としての冷静な観察眼が光っている。
「ここまで来て、どうしたらいいんすか!?」
逸る気持ちを抑えきれないルキが、拳を握りしめて声を荒らげる。
「では、どうなさいますか? まさか真正面から交渉を申し入れるおつもりでしょうか」
ハスミが思案顔でアロナへと問いかけた。
「はい!私たちは連邦生徒会の名のもとに、正式な抗議と強制捜査に来ています!決定的な証拠を持つ私たちを門前払いすること自体が、カイザーにとって最大の悪手なのですよ」
胸を張って答えるアロナ。その意図を飲み込めず、頭に疑問符を浮かべたルキがツルギの横顔を見上げる。
「ええと……つまり、どういうことなんすか?」
ツルギは視線をカイザーの基地に向けたまま、淡々と状況を分析して口を開いた。
「カイザーは決定的な失策を二つ犯した。一つは、いくら過去に土地を買い取っていようと、ここはアビドスの自治区だ。存続している生徒会とその管理下にある街を、民間企業が武装戦力で襲撃したこと。これは明白な主権侵害であり、テロ行為と何ら変わらない」
普段の見た目とは裏腹に落ち着いたトーンで紡がれる理路整然とした言葉に、ルキが息を呑む。
「もう一つは、連邦生徒会を侮ったことだ。連邦生徒会が現場に現れた時点で、奴らは撤退してしらばっくれるべきだった。だが奴らは事情聴取に応じるどころか武力行使に及び、あまつさえ拘束された。その瞬間、カイザーは連邦生徒会そのものを敵に回した」
「その通りです!完璧な分析ですね、ツルギさん!」
アロナが嬉しそうに頷き、タブレットの画面を軽く叩く。
「つまり、カイザー本社としては現場の暴走として切り捨てるトカゲの尻尾切りが唯一の延命策になります。だからこそ私たちがこの基地へ乗り込み、証拠となる情報が記されたメインサーバーと今回の作戦を指示した首謀者を拘束することに、法的な瑕疵は一切ありません」
そこまで告げると、アロナはふっと不敵な笑みを浮かべて言葉を締めくくった。
「まあ、向こうが大人し私達の査察を受け入れて、抵抗しなければの話ですけれどね。ショウさん」
「はいよ」
ヘイローをアンテナの様な形にしてアロナに渡す。アロナがヘイロー付きタブレットを操作すると、基地司令室とカイザー本社を繋ぐ暗号通信と思われる音声がスピーカーから鮮明に流れ出した。
『プレジデント、考え直してください!無駄な抵抗はやめろとは、本気で仰っているのですか!この大型前線基地の戦力を投入すれば、アビドスなど数時間で更地にできます!』
スピーカー越しに聞こえる男の声は、カイザーPMC理事のものだろう。抑えきれない焦燥と苛立ちが、その言葉の端々から滲み出ている。
『落ち着きたまえ、理事。我々カイザーは、キヴォトス全域に展開する複合企業だ。今回君が犯した暴挙は、企業のコンプライアンスを著しく逸脱している』
返答したプレジデントの声は、背筋が凍るほどに冷徹で、感情の起伏が一切感じられなかった。まるで出来の悪い部下を静かに諭すような、形式ばった丁寧な口調だ。
『暴挙、ですと…冗談ではない!アビドスがこれまで必死に工面して支払ってきた利息や返済金を横流しし、裏で不良どもを買い集めて包囲網を築いたのはどこの誰ですか!全てはアビドス自治区を完全に我が社の手中へ収めるため、私が泥を被って進めてきた事業ではありませんか!?』
その理事が放った言葉に、俺たちの側の空気が一瞬で凍りついた。
「……へえ?」
ホシノの口から漏れたのは、低く、冷え切った呟きだった。そのオッドアイからは光が完全に消え去り、底知れない殺気と激しい憤怒が宿っている。
「私たちが……ユメ先輩が毎日必死に工面して、私とショウが血の滲むような思いで返済していたお金を……私たち自身を痛めつけるためだけに、不良の雇い賃に横流ししていた、ですか」
ユメ先輩も愛用の盾を握りしめたまま、唇を固く結んでいた。あまりの理不尽さと悪辣さに顔を蒼白にさせながらも、その大きな瞳には決して屈しない強い光が灯っている。
俺も怒りで奥歯が軋むのを感じていた。返済を迫っておきながら、その金で自分たちの首を絞めるための凶器を買い揃えていたのだ。外道という言葉すら生ぬるい。
通信の向こうでは、プレジデントの冷淡な声が淡々と続いていた。
『過去の帳簿の話など、今この場では無意味なのだよ。何より君は、忠告を忘れたのかね』
『ゲマトリアの、あの黒い怪人のことですか』
『そうだ。彼らは我が社へ情報をもたらす代償として、明確に釘を刺していたはずだ。『円ショウという生徒がアビドスにいる間は、決して拙速な手を出すな』とね。君はその警告を無視し、生徒会が留守にした隙を狙って浅薄な武力行使に及んだ』
(……あいつ、そんなことまでカイザーに警告してたのか)
黒服の底知れない笑みが脳裏をよぎる。あいつがカイザーを見限ったのは、最初から俺の存在と契約を優先し、こうなる未来を予測していたからこそだったのだ。
『あんな素性の知れぬ輩の戯言など、まともに聞いていられるものですか!奴らの言う通りに指をくわえて待っていれば、あの突如現れた世界樹と大オアシスの利益で、アビドスに借金を一括完済されてしまうのですよ?土地の権利を買い戻されてしまえば、我々が長年かけて進めてきた計画が水泡に帰す。次はないと本社から突き上げられていた私が、手を打たざるを得なかったのは当然でしょう!!』
必死に自己の正当性を訴える理事。
だが、プレジデントの返答は無慈悲極まりないものだった。
『だからこそ、君の手腕には失望したと言っているのだよ。連邦生徒会が直々に介入してきた今、カイザーコーポレーションが全学園都市を敵に回すわけにはいかんのでな。アビドス自治区、そして連邦生徒会に対する我が社の誠意を示すためにも、今回の不祥事は『現場責任者による独断の暴走』として処理させてもらう』
『誠意だと……。まさか、プレジデント貴様!!私をスケープゴートにして手打ちにする気か!この私が、会社のためにどれだけ――』
『君のこれまでの働きには感謝しているよ。では、ごきげんよう理事』
一方的に通話が切断され、荒い息遣いと、物を破壊するような激しい音だけが残された。アロナが静かに通信の受信を遮断する。
「プレジデントの狙いは明らかですね。この理事が知り得ない、アビドスの土地に眠る何らかの利権を諦めていないからこそ、今はアビドスや連邦生徒会と決定的な破局を避けようとしているのです。この理事を都合よく切り捨てて我が社の誠意として差し出し、時間を稼ぐ腹積もりでしょう」
「……随分と綺麗にトカゲの尻尾を切り落としたものですね。人を道具のように使い潰す、実に不快な大人たちです」
ハスミが冷徹な声で吐き捨てる。
その隣に立つツルギは、無言のまま愛用のショットガンの機関部をゆっくりと確認して、ただ静かに、悪党を根絶やしにするための冷徹な処刑人の気迫を漂わせている。
「……決まりだな」
俺は拳を握り込み、前方の巨大な軍事基地を睨み据えた。
「返済金を横流しして俺たちを潰そうとした理事も、仲間を売り飛ばして時間を稼ごうとしているプレジデントも、まとめてツケを払わせてやる」
「じゃあ正々堂々、真正面から行くか」
俺の言葉に、全員が無言で頷きを返す。俺たちは木から砂地へと降り立ち、正面に見える巨大な基地のゲートへ向かって堂々と歩き出した。
基地へ近づくにつれて、敷地内からカイザーPMCの兵士たちが姿を現し始める。連邦生徒会の紋章を掲げるアロナや、トリニティの制服に着がえたハスミたちを警戒しているのか、銃口を露骨にこちらへ向けて構えはしない。だが、誰もが銃器を手にしたまま遠巻きに散開し、いつでも引き金を引ける体勢で俺たちの周囲を取り囲んでいた。
俺たちが足を止めることなく歩みを進めると、いつの間にか兵士たちの隊列が左右へと真っ二つに分かれ、互いに無言のまま張り詰めた視線を交錯させる形になる。
その割れた道の中央を、重い足音を響かせながら一人の人影が歩み寄ってきた。仕立ての良さそうなビジネススーツに身を包んだ、大柄なロボット。多分あいつがカイザーPMC理事だ。
その佇まいは、表向きこそ巨大企業の重役らしい冷徹なビジネスマンを装っている。だが、先の盗聴での言葉には、裏社会の暴力組織じみた粗暴な本質が隠しきれずに滲んでいた。
何より、先ほど本社から無慈悲に切り捨てられたばかりという最悪の立場もあってか、その物腰にはどこか下手に出ざるを得ない焦燥が張り付いている。
「こんな遠路はるばると、一体何の用かね。ここは君たちのような生徒が立ち入る場所ではないのだよ」
もし先ほどの通信を聞いていなければ、尊大な態度を取りつつも道理を弁えて子供を諭す冷静な大人に見えたかもしれない。
その見え透いた虚勢に対し、アロナはシッテムの箱を小脇に抱え、涼やかな笑みを浮かべたまま一歩前へ出た。
「ええ、勿論ご存知の筈でしょうけれど。私たち連邦生徒会は、今回のアビドス侵略の件について少々お話し合いがありまして、こうして直々に出向いたのですよ」
アロナは端末の画面を軽くタップしながら、意味深に首を傾げてみせる。
「ちょうど本社との大事なお電話も終わったばかりでお手すきでしょうし。……上層部からご丁寧なトカゲの尻尾切りを言い渡されて、後始末にお困りの理事さんに、救いの手を差し伸べに来てあげました」
放たれた言葉は、極めて丁寧でありながら、そちらの事情や通信内容はすべて把握していると宣告する冷たい確信に満ちていた。
その言葉の裏にある意味を瞬時に読み取ったのか、理事の鋼鉄の指先が屈辱と動揺で激しく震えているように見える。
通信を握られていることへの底知れぬ恐怖と、子供相手に完膚なきまでに追い詰められた苛立ちを隠すように、理事は震える声を絞り出して誤魔化しにかかった。
「……ふむ、なるほど。そこまで言うのなら大人の対応として、その話し合いとやらを受けて立とうではないか。立ち話もなんだ、奥の応接室へ案内しよう」
どこか引きつった声を貼り付けたまま、理事が基地の内部を手で指し示す。
あからさまな時間稼ぎだ。奥へ誘い込んで話を長引かせ、その間に都合の悪いデータを処分する腹積もりなのだろう。
だが、アロナはその甘い目論見すら容赦なく叩き潰した。
「結構ですよ?私たちの用事は、今そちらが必死に消去しようとしている、地下第3サーバールームの機密情報だけですから」
涼しい顔で放たれたその一言に、理事の巨体が凍りついたように静止した。仮面のような無機質な顔面の奥で、激しい狼狽と動揺が目に見えるように渦巻いている。
無理もない。外部には一切公開されていないはずの最重要機密の所在を言い当てられただけでなく、今まさに裏で進めている証拠隠滅の行動まで完璧に看破されたのだ。
もっとも、これは俺とアロナが仕掛けたハッタリだった。
ここへ来る前、俺のヘイロー望遠鏡で基地の地下構造を透視し、大勢の作業員が慌ただしく集まって端末を操作している部屋の案内表示を確認してアロナに伝えていただけの話だ。
すべてお見通しだという事実を突きつけて心理的な逃げ道を塞ぎ、動揺を誘うという筋書き通りの展開だった。
沈黙が、砂漠の熱風と共にその場を支配した。
理事が貼り付けていたビジネスマンの薄っぺらい仮面が、音を立てて剥がれ落ちていくのが分かる。
数秒の間、絶句したように立ち尽くしていた大柄なロボットの全身から、煮え滾るような怒気と激しい機械の駆動音が漏れ出した。
「……舐めるのも大概にしたまえよ、生徒風情が……!」
絞り出された声は、先ほどまでの慇懃無礼な態度をかなぐり捨てた、暴力組織そのものの濁声だった。
理事が鋼鉄の拳を激しく握りしめると、関節の金属が軋んだ音を立てる。
「あと一歩だったのだ……!アビドスをじわじわと締め上げ、土地のすべてを我が社の手中に収めれば、私の出世は確実だったのだ!それをどいつもこいつも……!」
目元のセンサーを狂気じみた赤色に発光させ、理事は激情のままに怒鳴り散らした。
「大体、おかしいとは思わんのかね!生徒がたったの3人しかいない零細学園が、毎月の法外な利子を滞りなく払うどころか、何倍もの金額を一括返済する勢いで叩き返してくるなど常識的にあり得んだろうが!貴様ら、裏でどんな重犯罪に手を染めているのだ!」
激昂する理事の詰問に、ホシノが呆れたように肩を竦める。
「重犯罪とは心外ですね。ショウはヘイローを売っているだけなので……いや、ヘイローは生徒の命のようなもの、実質的には身売りを?……ま、まあ、法的に犯罪者なのは買い取っている黒服の方ですから?私たちの心配はありませんよ、きっと」
キヴォトスの常識に照らし合わせれば、神秘の象徴であるヘイローの一部を切り売りするなど禁忌に近い取引に見えるかもしれない。俺は少しばかり気まずくなり、そっと視線を逸らした。
「えっ……アニキ、ヘイローを身売り……?ヘイローって売れるんすか……?いや、そもそも売って大丈夫なんすかそれ……?」
突然耳に入った理解不能な単語の羅列に、ルキは激しく動揺して顔を引きつらせ、頭を抱えていた。 そんなこちらの雑談にすら苛立ちを募らせたのか、理事は青筋を浮かべて怒声を張り上げる。
「大体だな!砂漠化で滅びかけていた土地に突如として大オアシスが復活しただけでも異常だというのに、それをかき消すような巨大木が生えたと思えば、街中に化物じみた歩く木が生い茂るなど、正気の沙汰ではないだろうが! その上、裏社会で囁かれている貴様らのあだ名は何だ!『アビドスのやべー奴ら』とは何の冗談だ!?たかが噂程度で怯えて仕事を放棄する不良がどこにいるのだ!」
激しい怒号を叩きつけ、理事は息も絶え絶えに肩を上下させていた。
オアシスと世界樹の指摘には、アロナとツルギ、ハスミも揃って複雑な表情を浮かべる。 ツルギは目を気まずそうに視線を泳がせ、アロナも乾いた苦笑いを浮かべていた。
「……まあ、そこに関しては理事の言い分も分からなくはありません。いくらショウさんのせいだとしても、実際に目の当たりにした時は私も言葉が出ませんでしたからね」
ハスミが深い溜息をつきながら、静かに遠い目をしていた。
「貴様らの様な異常者が、私の綿密な計画をことごとく狂わせる!どうなっているんだアビドスは!?」
「貴様らとはなんですか。少なくとも異常なのはショウだけです!一緒にしないでください!」
「そうだよ〜!私達は至って普通の生徒なんだよ!?」
「車を片手で投げるバ怪力のユメ先輩と、ショットガンの反動で空を飛べるようになったホシノも同じだろうが!良かったな。俺達そろってカイザーからもやべー奴ら認定だもんな!名誉だぞ名誉!誇れオラッ!!」
「ショウ!事実陳列罪はキヴォトスでは良くないんですよ…!」
「ひぃん…」
だが、理事が抱える鬱屈した怨嗟は止まらない。
「本社も都合が悪くなればすべて現場の独断だと切り捨てにかかりおる……!ふざけるな、誰がやすやすと捨て駒になってやるものか!」
理事は血走ったよう光る目をこちらへ向ける。
「連邦生徒会の方とトリニティの正義実現委員会方々には、砂漠で起きた不運な事故の目撃者として、しばらくこちらで身柄を保護……いや、大人しく隔離させてもらうとしましょう。だが、残りの貴様らは別だ。自治区外の危険地帯に無断侵入し、野良の不良どもとの銃撃戦に巻き込まれて命を落とした……不慮の事故として処理すれば済む話だ!」
所詮は護衛もつけずに乗り込んできた子供だと、目の前の俺たちを侮りきった叫びだった。
その傲慢を晒したまま、理事は周囲の私兵たちへ向けて怒号を飛ばす。
「何を突っ立っている、やれ!今言った奴ら以外は息の根を止めろ!一人として外へ逃がすな! データをあいつら手に渡らせることは許さん!」
それだけ言い放つと、理事は巨体を翻して基地の奥深くへと走り去っていった。
最後の足掻きとして、決定的な証拠を消し去るために逃走を図ったのだ。
同時に、周囲を遠巻きに取り囲んでいたカイザーPMCの兵士たちが、一斉に自動小銃を構えて銃口をこちらへと向けてきた。
数にして数十、奥の兵舎からも増援の足音が無数に響いてくる。中には戦車や武装ヘリの駆動音も混じっており、本気で潰しにかかってくるらしい。
「……この程度で私達を潰そうなどと、随分なめられたものですね」
ホシノが低く冷徹な声を落とす。深い怒りが宿り、構えた銃口がブレることは微塵もなかった。
「……逃げられるとでも思ったか!虫ケラども……!」
血に飢えた猟犬の様なツルギが喉の奥で嗤う。愛用の銃を両手に構え直した彼女の全身から、トリニティ最強の実行部隊に相応しい、底知れない殺気と威圧感が吹き荒れていた。
「射線は通っています。いつでも指示を」
ハスミが長大な狙撃銃の照準を覗き込み、冷静沈着に告げる。
「うん!皆でカイザーを懲らしめちゃおう!」
ユメ先輩も大盾を前に構えて身構え、ルキたち元ヘルメット団も武器を握り直して気勢を上げていた。
「立ちはだかる鉄クズどもは、全部まとめて叩きのめしてやる!……カイザー、潰すぞ!」
俺の合図と共に、砂漠の要塞を揺るがす全面衝突の幕が切って落とされた。
ツルギの喋り方。これでいいのだろうかと若干不安。ハスミはやりやすいんだけど、叫びとキョドりと冷静な部分が、相手キャラとシチュエーションによって切り替わるから……
1〜3話を目安に書きます
-
ゲヘナ雷帝編(雷帝ナシ)
-
アヤメ誘拐編
-
どっちも書いて♡
-
別にいらないな、回想でいい