もし龍騎のライダーバトルに青春鉄道のジュニアが参戦したら   作:Arumisael

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クロスフォリオ内で投稿している第2話(前編)と(中編)を合体させたものです。
(後編)は熱意執筆中………遅筆と多忙のダブルパンチがいけない

毎度になりますがこの作品はフィクションですので、現実に似たような鉄道会社の用語が出てきたとしても、架空の鉄道会社だ〜とスルーしてください


1章
第2話(前編)


 千代田区内、九段下のとある雑居ビルの三階、城戸真司(きど しんじ)ORE(オレ)ジャーナルと書かれた横のドアをくぐり抜けると、室内のメンバーから一斉に視線を向けられる。だが、当の本人はそれに全く気づいておらず、自席に座り物思いに耽っていた。彼の頭は先日出会った新たなライダーと、モンスターのことでいっぱいだったからだ。

 あの後、見知らぬライダーの追跡を試みたものの、数分もしないうちに指先から粒子が散り始めた。時間切れだ、二人は顔を見合わせ、現実世界へと舞い戻った。

 駅舎を離れ、駐車していたバイクの元へ歩きだす。

「なんだったんだよあいつ」

 新たなライダーの出現に龍騎─その変身者である真司が不貞腐れた顔で呟く。その様子を気に留めることもなく、隣を歩く黒レザーコートの長身─名を秋山蓮(あきやまれん)という─が口を開いた。

「城戸、今のモンスター、動きが妙だったと思わないか」

「え?ああ…ん〜? 言われて…みれば…?」

「…呆れたな」

 どうにもわかっていない顔だ。頭にハテナマークを浮かべている同居人に、蓮は不満げな顔で説明を始めた。

 これまで、ミラーモンスターはターゲットに定めた人間を執拗に狙い襲うことはあった。しかし、今回戦ったモンスター達は、周囲の人間に襲いかかろうとする群れと、親玉らしき個体を筆頭に、どこかへ惹きつけられるかのように一方向へ突き進む群れが混ざっていたのだ。それはまるで、場の注意を逸らす囮と、本命を狙う本陣のように。

 流石に馬鹿の城戸でも気づいているだろう…と期待も空振りに終わった蓮は、思わずため息をつく、本当に馬鹿だ。

「あんなにわかりやすく違っていたのに気がつかないとはな」

「ちげぇよ蓮!それは、その、モンスターの数が多くてそれどころじゃなかったっていうか…

でもさ、もし蓮の言う通りなら、あいつらには狙ってるものがあるってことだろ? それって、もし人間だったら…!」

 ごもごもと言い訳をしかけた口が、もしもの可能性を思いつく。もしも誰かが狙われているのなら、また何も関係ない人が犠牲になってしまう。それだけは絶対に嫌だった。

「そうだな、人間かどうかはわからんが、そいつらに目的があったのは事実だ。そしておそらく、あのライダーはそれを知っている」

 秋山蓮には確信があった。あの時、紺とオレンジのライダーは〝食い止めたか〟と呟いていたのだ。

 

「…おい、おい真司!」

「へっ!?」

 パンパン!と、乾いた音が目の前で響き、真司は意識を現実に引き戻された。正面には目を細めてこちらをじっと見る編集長の大久保だ。

「これ、お前だろ」

 見せられた新聞の一面に[事件当時の東京駅 丸の内駅舎]という見出しのある写真が1枚。そこに写っているのは、鮮やかなオレンジのパーカーだった。そう、今この部屋でもひときわ目立つオレンジだ。

「あっ…」

「ほ〜らな!ったく、偶然現場にいたくせにメモ一枚も取ってないのか!」

「すんません!すっかり忘れてました!」

 ここで知らぬ存ぜぬを貫けないのが、城戸真司という男である。直角に下げられた頭と、素直な謝罪が場に響き渡った後は、彼らの疑念の視線は一気に霧散していった。

 エンジニアの島田は興味をなくしたようにブラウン管の画面へ視線を戻し、その傍らにいる先輩ジャーナリストの桃井がテキパキと荷物をまとめ始めている。

「ほら令子行っちまうぞ!さっさと準備してついていけ!」

「ついてくって…」

「取材だよ取材、この間の事件、東京駅で働いてるって人と連絡が取れたんだよ!」

***

「OREジャーナル?」

 時計の短針が7を指し、執務室も人がまばらになった頃。度重なる業務離脱で滞っている仕事に区切りをつけ、一息ついていた東海道は、話がある、と京浜東北から空きの会議室へと連れられた。

「そう、最近できたニュースサイトなんだけど、日中に例の事件絡みで取材を申し入れてきたらしくてね。君が取材に同行することになってるから、よろしくね」

「は?なんでそんなことに」

「理由なんてこの際どうでもいいでしょ? ここの記者、行方不明事件についてはかなり取材を重ねてる。接触すれば少なくとも得られる情報はあるんじゃないかな」

 京浜東北の話を聞きながら、見せられた画面を注視する。小さなニュースサイトのようだが、どう見てもインチキなザリガニの取材記事から、世間を騒がせた出来事まで、多種多様な出来事を揃えており、こと行方不明事件の記事は詳細なことまで書かれていた。

 実のところ、東海道は〝あの男〟の手掛かりは一切掴めていない。わかっていることといえば、その外見と、モンスター共と同じように鏡の世界を行き来できる、ということだけだ。このブン屋が情報を持っているかどうかは一か八かの賭けになるが、何もしないよりはずっといい。情報提供の礼を言うと、「早く面倒事を無くしたいだけだから」と、そっけなくあしらわれた。

***

 後日、ベージュのチノパンツに白のシャツ、黒のジャケットと、無難な私服に身を包んだ東海道は、品川駅に降り立つと、高輪口を抜け、腕時計を確認する。時刻は10時02分、約束の時刻にはまだ早いが、取材を承諾した駅務員との打ち合わせを行わなければならなかった。

 京浜東北曰く、自らが行方不明事件について独自に調査を行っていることは伝達済みとのことだ。しかしながら、流石に鏡の中に現れる男について探ってほしい、等と馬鹿正直に頼むのは正気の沙汰ではない。事前に建てた〈行方不明になった知人を捜している〉というカバーストーリーを何度も脳内で反芻させておよそ数分、集合場所のファミレスに辿り着いた。

 ところが、東海道を席で待っていたのは、予想だにもしなかった人物だった。

「どうしてあんたがいるんですか」

「よ、ジュニア!」

 山陽新幹線。兄の直通相手にして、一応、上司でもある男。怪物騒ぎに限れば、ライダー活動を兄に秘匿する為の協力者でもある。東海道の心情を知ってか知らずか、明るい髪の長身は人当たりの良い笑みを浮かべ、呑気にヒラヒラと手を振っていた。直ぐ様どういうことかと問い詰めれば、実は取材を受けることになったのは東日本ではなく、東海だったのだという。

 彼の話ではこうだ。当日、本来、事件が起こったのは東京駅でも東日本管轄の区域だ。天下の東海がイチ弱小ニュースサイトの取材に応じるつもりは無く、一度断っていた。ところが、その次に東日本への取材申し込みの電話をたまたま取った東北新幹線が、東海所属の兄が情報を持っていると、うっかり口を滑らせてしまったのだという。兄は東京駅での事件遭遇で通常業務に支障が出た旨を報告書として提出していたのは事実であるため、東海社員はやむを得ず応じるか否かコンタクトを入れてきた。当然兄はこれを拒否し、代理として山陽新幹線へ押し付けてきたのだった。

 想定してはいたが、兄はやはり東京駅の事件に遭遇してしまっていたようだ。()()()()()()は一匹逃さず片付けられたと確信していたが、先にミラーワールドにいた2人が()()野良共を狩り漏らしてしまっていたのだろう。

 もっとも、その思考を脇に置いて、東海道はひっかかる点があった。

 そもそも山陽新幹線の管轄は新大阪〜博多間である。滅多なことでは東京には来ないはずだ。その日に上官会議があったという話も聞いていない。何故事件の目撃者として、関係無いはずの西日本の貴方が東京駅構内にいたのか。そう尋ねれば、相手はギクリと背筋を強張らせ、途端に目を泳がせた。

「えっーと…」

「…」

「その…」

「所要で東海道に呼び出されてたのと…ついでにと思って…遅めの昼に誘いました…」

「ヂィッ゙」

「特大舌打ち!で、でも山陽さんだって頑張ったんだぜ!?前の事もあったから、大きめの反射物は全部避けて逃げたし、その後東海道の機嫌を直すのにたっかい店奢って」

「何被害者ヅラしてるんです山陽さん?兄さんの命を危険に晒すような真似をしたんです、それくらいは当然でしょう?」

「はい、スミマセンでした…」

 東海道本線はとにかく山陽新幹線が気に食わなかった。この男、元は廃止を目前に控えた田舎の赤字路線だったのだが、次期新幹線を選ぶ面接で、運良く兄の目に留まり、今の地位を掴み取った。

 与えられた仕事はこなすそこそこの優秀さはあれど、軟派者で、上官としての威厳もなし。発生した酷い遅延を管轄内で挽回できず、兄を巻き込んでしまうこともしょっちゅうだ。じとり、と、相手に向けた非難の視線はそのままに、罵倒まがいの小言を浴びせかけようとしたが、ウェイターが飲み物を運んできたため、場のぴりりとした空気に隙ができてしまった。

「まあそれで、話を戻すとさ、ほら、これってチャンスだろ?ジュニアが探してる男について、山陽さんが代わりに聞いてあげられるってことでもあるじゃん?」

 だから東海や東日本の在来たちに連絡して、ジュニアを一日借してもらったってわけ、と、そのままウィンクでも飛ばしてくるのではという声色は得意げだ。全くもって腹立たしい。最愛の兄の選択を決して、決して悪く言うわけではない。が、どうしてこんな奴が新幹線になってしまったのだろう。気を紛らわせようと運ばれてきたコーヒーを一口飲むも、どうにも苦味が強かった。

「言われなくてもそのつもりでしたよ。事件に関与していない自分が尋ねるのも不自然ですからね─というか、兄さんのことだと言ってくれれば普通に行きます、ムカつきはしますが」

 俺、一応上司だよ? と、一言言いそうになったのをぐっと堪え。山陽は話の続きを促した。これから記者相手に話す内容について、互いに小声でやりとりをする。例の男の特徴を事細かに伝え、事件の際に見た不審な男ということに設定した。

「なにはともあれ山陽さん、ボロは絶ッ対に出さないでくださいね?あんたはライダーもモンスターも何も知らなくて、たまたま現場に居合わせて、そして不思議な男を見た、それだけ言えばいいんです!いいですか?」

「声が段々大きくなってるよジュニア!わかってるって!」

「ホントですか!?」

「ちょっとは信用してよ!ほら、取材時間近づいてきてる、そろそろこの話は切り上げようぜ」

 それから暫くは互いに無言で過ごした。山陽の方は時折気まずそうに後頭部をポリポリとかいていたが、東海道は無視を決め込んだ。

 腕時計の長針が12まであと2歩の所まで辿り着いた頃、息を切らした男女の二人組が入口のドアチャイムを鳴らした。

「すみません、OREジャーナルの者ですが」

 案内された予約席の反対側にやってきたのは、ビジネススーツを身に纏い、凛とした雰囲気のショートヘアの女性と。オレンジのパーカーとデニムパンツという、古い時代に産まれた者には少々理解しがたいカジュアルファッションをした、どこか学生臭さが抜けない青年だった。

 

***

 

「「本日はよろしくお願いします」」

 互いに差し出された名刺の交換が終わり、城戸真司は手に入れたカードに記された名前を確認し、正面の人物二名と結びつける。今日の取材は先輩の桃井令子の助手のような立ち位置だ。行きの車内で散々念を押されたので、余計な言葉を言わないよう心掛けていた。

 〔西 旅人(たびと)〕と書かれた青い名刺を渡して来た男は、深いコバルトブルーのシャツにトラッドなストライプのネクタイを締めた、真司と同じくらいの明るさの茶髪の男性だった。座高はファミレスにいる誰よりも高く、しかしその上背で場を威圧することもない、不思議な親しみやすさを持った人物だ。

「それで、西さんは西日本所属の方とのことですが、何故今回の取材にいらっしゃったのでしょうか?連絡がついたのは東海の…東海(とうかい)さんという方だったと記憶しているのですが」

 令子が疑念の目を向けると、西は少し困ったような顔をして話し出した。

「ああ、その〜東海ど…東海(とうかい)は体調不良でして、彼に代わりに行ってほしいと頼まれまして」

「代わりに?」

「ええ、事件の時、彼は俺と一緒にいたんです。東海とは他社同士ですが、業務上共に仕事をすることもあって、まあ、長年の相方ってやつですね─_ッ__テ_!」

「…? なるほど、わかりました。では、隣の方は」

「彼は東海の社員で…ええと「井上です」そう、井上さん。ほら、一応は東海が受けた取材ですから、『取材を受けた』という記録は残さなきゃいけないらしいので…」

 西の隣にいる男は少々機嫌の悪そうな黒髪のくせ毛で、外見は西より少し若い。名刺によれば〔井上 勝一郎(しょういちろう)〕というらしい。随分と顔に似合わない名前だ、と、真司は思った。

 西と井上は面識があるようで、先程から互いに目配せをしていた。というより、井上が一方的に西を睨みつけていると言ったほうがいいかもしれない。一見誰から見ても好印象を持ちそうな人物に見えるのに、二人に何があったのだろう? それにしても、東海さんという名字で入社するなんて、きっと社内でも会話のネタに弄られているんだろうな。ひょっとすると、西さんとは同じ『社名と名字被り仲間』として意気投合したのかも?いや、もしかすると自分の苗字に誇りとかそういうのを持っているのかもしれない。わざわざ入社したんだし。

 横目でちらりと様子を伺った令子に小突かれるまで真司の思考脱線は続き、彼ら二人の詳しい役職、業務、その他諸々等、取材メモ帳は空白のままだった。

***

「それでは、事件発生当時、貴方が聞いたり、目撃したことを聞かせてください」

 覚えている限りで構いませんので、と告げられた声に、西─山陽は内心身を固くする。ここからが正念場だ。今日の目的は、いかにしてこの記者から情報を取り出せるかにかかっている。

 余談になるが、西 旅人の名刺は、普段から用意して持ち歩いているものだ。山陽はその見目の良さから女性に名前や連絡先を尋ねられることも多く、何かと使う頻度は少なくない。

 対して、井上の名刺は、京浜東北が画像編集ソフトを駆使し、即席で作成したものだ(本来は絶対にやってはいけない行為である)。普段は兄とお揃いの苗字で名刺を作っているが、一般的に[東海]という名字はそう多くない。余計な詮索を受けて、兄弟関係を知られないほうが良いだろう、と考えての策だった。何しろ、この〝場〟にいること自体が、兄へのトップシークレットなのだから。

 ICレコーダーの録音ボタンを押されてから、一拍、二泊、考えあぐねていれば、目の前の女性記者は山陽から視線を外し、隣にいるジャーナリスト見習いだという青年の額を、ぺちん、と叩いた。何か指摘せねばならぬことでもあったのだろう。見習いの名前は…城戸真司さんといったっけな。

 現実逃避も束の間、相手の余所見の隙をついて、山陽の横から、キッと冷たい睨みが飛んできた。隣の尊大な弟君(おとうとぎみ)から、早くしろ、とのお達しだ(偉そうなところは兄弟共々そっくりだ、と思う)。

「えー、そうですね…大体14時半過ぎくらいですかね?俺は東海_ド__ッ_…東海とヤエチカで遅めの昼食を取って、その帰りでした。それから、ちょっと食後の運動にと思って、今年の秋に新装開業する丸ビルの様子を見にいかないかと誘ったんです 」

「それで、丸の内側へ向かったんですね?」

「ええ、相方は早く戻りたいと駅構内を通りたがったんですが、どうしても人混みは避けたくて。駅の外周を回って行くことにしてもらいました」

 今の説明は半分嘘だ。店から駅の執務室へ戻る際、山陽新幹線は元軍事路線の勘により、微かなナニカの気配を感じ取っていたのだ。決定打はジュニアが兄にかけた、今日の予定をキャンセルするという電話だ。重度のブラコンである彼が兄と会う予定をドタキャンするなど、相応の理由がないとありえない。おそらくミラーモンスターが周囲に出たのだろうと推測した。

 かつ、東京駅における東海の管轄エリアは、東海道新幹線のホームがある八重洲側となっている。当然執務室の入口もそちら側にあるのだが、八重洲口は入口のドアから周囲のびゅうプラザ、お土産店まで、ガラス張りの場所が多い。半鏡面にまで磨かれた柱に、取り付けられた大型のポスターボードもある。そんなところを通ったら、万が一の時に逃げ切れない。気配を感知した時から、東海道には食後の眠気飛ばしと説得し、半ば強引にその場を離れたのだ。素直に改札内の店をチョイスすればよかった、と後悔したのはココだけの話だ。

 けれどその日は、何故だか某店のラーメンが食べたい気分だったのだから、仕方ない(ちなみに、味噌に拘りのある東海道兄弟共々、あの店イチオシの味噌ラーメンは認めていないらしく、いつも醤油か塩を頼んでいる)。ついでに言えば、山陽は密かに丸ビルのオープンを心待ちにしている。オフィス街一辺倒な東京駅の丸の内側で、飲み食いする際の選択肢が一気に増える予定だからだ。もちろん東京駅には多くの飲食店が集まっているが、アイツを誘う時に選ぶ店もワンパターン化してきていたし、駅周囲の再開発が進めば、更に色々な幅が広がるだろう。その分、より高い店も奢らされそうな気もするが。

「あの〜」

「はい?」

「すんません、〝ヤエチカ〟ってなんですか?」

 隣に座っていた真司から、思わず口に出してしまった疑問だった。話の腰を折るような発言に、令子は顔をしかめる。

「八重洲地下街の略称よ、知らないの?」

「いいんですよ。つい、いつもの調子で使ってしまったこちらも悪いですし」

 日常的にその場所に行っていないと、略称なんて使いませんもんね、と、山陽は渋い顔の記者を宥めた。

「なるほど、ありがとうございます─あっ、あともういっこ! さっきから、とうかいど、って言いかけてるのは「あぁ〜すいません!渾名です!東海のフルネームは『東海 道征(みちゆき)』なんで、繋げて漢字読みしたら『東海道』になるんですよ!」

 背中に冷たい汗が吹き出していく。焦りが伝わってしまっただろうか?テーブルに指で漢字を書きながらの必死の言い訳だった。その様子を見て、東海道本線の顔が険しいものになっていくのを感じた山陽は、心中穏やかならぬ心地で、コーヒーを一気に飲み干した。

「話をもどしますと、地下街を出た後、駅の外を回って丸ビルの建設現場へ向かったと。行方不明事件に遭遇したのは、その後に?」

「そうなり…ますね。地下街から建設現場へ向かう道のりには、特に何もありませんでした。それから、高層ビルが順調に積み上がってる様子を見て、じゃあ帰ろうか、って丸ノ内側の入口に入って─いや、そうだった、その前にちょっと奇妙な事があったんだった」

「奇妙な事、ですか」

「正確には〝奇妙な人物〟といいましょうか。ちょうど駅前ロータリーのタクシー乗り場を横切った時でした。停まっていたタクシーのそばに、男が居たんですよ。でも、男は瞬きをした途端に消えて居なくなってしまって。ただ、窓ガラスの鏡面にだけは、まだ写ってたという」

「それは…確かに奇妙ですね」

「でしょ?見た目はちょっとボサボサな毛量多めの黒髪で、背丈は…多分、俺や井上さんと変わらないくらい。それと、ベージュのコートを着てたっけな」

「えっ!?それって…」

 

「『それって』?」

「あ、いやっ、別になんでもなかったです!はい」

「心当たりがいるんですか?」

 不思議そうに言葉を繰り返した西と令子に続くように、それまであまり反応を示さなかった井上が、青年記者の反応に黒目を大きくして此方を向いた。

「いや〜その〜い、言い間違い!です!『えっ!?それで!?』って言おうとして、『えっ、それって〜!』ってね、アハハ…」

「…そうですか…」

 しまった。失態をおかしたことに気付き、なんでもないように振る舞ったが、西から出たその発言に、真司は内心狼狽えていた。その特徴、何より「鏡」という一点に、心当たりが1人いる。

 ─神崎士郎!

 ライダーバトルの主催者。人々にカードデッキを渡してまわる、未だ謎の多い男。それに、優衣ちゃんの─

「…で、駅舎の入口を抜けたあたりで、改札内と駅舎外の両側が騒々しいことに気が付いて…」 「…って声を……んですけど………はその場で立ち尽くし……なって……」

 真司の心情をよそに、取材は無機質にも続いていく。先輩に叱られたこともあり、メモを取る手は動かしていたが、頭の内側に燻る考え(ノイズ)が邪魔をして集中できない。もし本物の神崎士郎だったら、例え口に出していなくても、西さんはライダーバトルの勧誘を受けたはず。まだデッキを受け取る前なら、なんとかして止めないと!

 

 

 ─その時、聞き馴染みのある甲高い音が、耳の奥から鳴り響いた。

 

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