もし龍騎のライダーバトルに青春鉄道のジュニアが参戦したら 作:Arumisael
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大当たりだな。
東海道本線は、突如としてきょろきょろと視線を動かす目前の青年の様子を見て、自分の考えに疑問の余地はないと悟った。女の方はともかく、この茶髪の記者見習いは絶対に〝あの男〟の情報を持っている。
その上、
ありがとう、兄さん、
願わくばもう少し揺さぶりをかけたいが、先程の(下手くそな)言い訳を見るに、これ以上の詮索は無理だろう。下手に深堀りすると、この青年が山陽さんに向けているだろう注意がこっちに飛びかねない。先程は気がはやる余り、自ら尋ねてしまったが、今日の取材で注目を浴びるのはあくまで山陽さんであり、自分はその隅で必要な情報のみ聞き集めればいいのだ。
さて、この後、自分はどう出るべきか、と、東海道本線は思案する。
急用が出来た、と断って離脱することもできるが、今日の予定では、兄さんは終日名古屋にいるはずだ。つまり、ミラーモンスターに襲われるようなことはなく、即座に抜け出すべき緊急性はない。
目の前のライダーがどう出るかもわからない。万が一、バトルに積極的なタイプであったなら下手を打つのはまずい。とはいえ、自分には
「…で、総武快速線の地下ホームまで辿り着いたんです。比較的静かな所まで来れば、彼も落ち着いてくれるだろうと思って。ただ、昔は同じ国鉄とはいえ、許可なく他社さんの改札を飛び越えてしまったんで、当然後で始末書を書かされました─ってあの、大丈夫ですか?」
当時を思い出したかのように目線をそらしながらも、山陽新幹線─西は事の顛末を語り終え、不審な挙動をする斜め向かいの青年に目を向けた。
「あっ!えっと…すみません!ちょっとお腹が痛いなぁ〜って!…トイレ、行ってもいいですか?」
既に取材進行を何度か止められている令子は、渋い顔をしつつ、早く行ってきなさい、とそれを見送った。
東海道は、対乗客用の冷静な表情を変えず、慌てた様子でファミレスの出口に駆け走る青年を目で追った。なるほど、どうやらこいつはモンスター狩りに向かうらしい。ならば自分はこのまま東海の社員役として徹することにしよう。討伐を肩代わりしてくれるのはありがたい。名刺で既に連絡先は確保している。彼の動向を探るのはまた別の手段を探せばいい。
それに、ここで待っていれば、〝ライダーバトル〟の勃発も回避できる。
『最後の一人になれば願いが叶う』という触れ込みの元に繰り広げられる、仮面ライダー同士による殺し合い。現状、兄を守る最後の手段で、カードデッキを持ってしまった以上、いつかは参加しなければならないとしてもだ。あの男の煽りを受けて、見知らぬ誰かとの斬り合いに参加するのは、どうにも癪に障った。人間様の争い事に勝手に巻き込まれるのは鉄路の常だが、それはやむを得ない場合のみに留めたいのだ。
「お忙しいところをすみません、うちの後輩が…」
「大丈夫ですよ!……元気ですね、後輩さん。城戸真司くんでしたっけ?ああいうタイプ、ウチには居ないんですよねぇ、見習いだと聞きましたが、そちらに入ったばかりなんですか?」
「え、ええまあ」
急な話題の転換に、ボイスレコーダーの停止ボタンに手を伸ばしていた令子は目を僅かに見開き、パチパチと瞬きを繰り返す。東海道が隣に目を向ければ、当の西─山陽は通りがかったウェイターに向けて手を挙げつつ、こちらへ静かにウィンクを送った。
「桃井さんも飲み物頼んじゃいますか?」
「結構です」
「そうですか。それで、彼はいつも行方不明事件の調査についてくるんですか?」
「いえ、常にというわけではないです。行方不明事件は主に私が追っている事件で─」
「なら、最近の彼は職場でどんなことを? ─ああ!ごめんなさい、急になんなんだ、って思いましたよね」
相手の警戒に気づいた山陽は、やってしまった、とでも言うかのように小さく両手を挙げ降参のポーズを取る。それから、少し照れくさそうに項をかく素振りをして、静かに相手へはにかんだ。
「ただ…個人的にあの子が気になっちゃって。さっきも言ったんですけど、ああいう元気で素直なタイプは西の職場にいないんすよね!そもそも、職場じゃ割と…年下なんで、だからああやって慕ってついてくる後輩は見ていて微笑ましくなっちゃって。今はどんな記事を書いているのか知りたいんです。これから将来、どうなっていくのかも」
そう語りつつ、彼の脳裏に浮かんだのは、数年前に東日本にやってきた、長野新幹線の顔だ。少年の姿で現れた彼は、東北や上越といった同社所属の新幹線だけでなく、他社である山陽にも『先輩』と呼び慕い、教えられたことをとても素直に吸収する子だった。彼は十数年後、北陸新幹線となり、その鉄路の半分は西日本の管轄となる。近い未来、同じ会社に所属する新幹線として肩を並べることになる幼い後輩は、どのように成長するのだろうか。あの記者見習いのように、元気な若者に育つのだろうか…
「…まだ少ないですが、城戸真司の書いた記事でしたら、サイトのメンバー一覧のリンクから飛ぶことができますので、それを参照してください。それと…取材が一通り終わったら、少し時間を設けてみます」
東海道が記者の方へ顔を向けると、女性記者は目元を僅かに綻ばせている。自身の後輩について言われたことに、悪い気はしていないようだった。
「行動力だけは一人前で、記者としてはまだまだ未熟なんですけどね。最近はよく単独行動が多くて、その割に記事はあまり書けてないんですよ。動向に関しては私も知りたいくらいだったんです。戻ってきたら彼に直接聞いてみてください」
「…ありがとうございます!」
認めたくはないが、山陽は持ち前の柔和さで桃井からの印象を悪化させることなく、いや寧ろ、少し好感度を上げつつ、若干の情報の引き出しに成功したようだ。単独行動が増えた、というのは、おそらく仮面ライダーとしての活動に出向いているからであろう。山陽の探りで得られた情報は少ないが、どうやら記者業との両立はあまりうまくいっていないことは伺えた。
その時、山陽の胸ポケットからマナーモードのバイブレーション音が響いた。社用ではなく、個人携帯からの着信だが、部下の誰かが会社の携帯が繋がらないので、と、こちらにかけてきた場合もある(山陽の部下達は何故か番号を知っている)。失礼します、と小さく断りを入れて、ファミレスの外、出入り口付近に移動する。
震え続ける二つ折り携帯を開くと、画面には〝東海道〟の文字が表示されていた。中で待機している弟の方ではない─そもそも彼の番号は〝ジュニア〟と登録してある─山陽の仕事仲間である、東海道本線の兄・東海道新幹線からの着信だった。
「もしもし、東海道?わり、今ちょっと取り込み中で───へっ?」
***
─変身!
仮面ライダー龍騎として、赤銀の装備に身を包んだ城戸真司は、迷いなく洗面台の鏡の中へと飛び込んでいく。道行く人は居らず、店の看板の文字も道路標識も反転したこの世界に足を踏み入れた真司はしかし、すぐに見つかると思われた標的《ミラーモンスター》を発見できずにいた。
「どこいったんだ…?」
気配を辿り、品川駅の高輪口を抜け、東西自由通路を走り、東口に辿り着いて漸くその姿─ミラーモンスターの群れ─を捉え、そして目を疑った。
群れとはただなんてことはない、近辺四方八方にポツ、ポツと建つビルの隙間を縫うように進んでいき、中央へと集まった小さな群れだ。ただ、その様子だけが、普段と異なっていた。
「なんだよこれ…」
異常だった。
彼らは真司に目もくれず、まるで皆、何かに引き寄せられるかのように駅の方角へと進んでいく。その動きは不気味なほどで、皆、何かを追い求めているのか、血走った眼差しで、我先にと同族を押し退き、急ぎ急ぎに無人の通路を駆け抜けていく。無秩序なようで、どこか統率が取れているようにも見える光景。個々のモンスターが意思を持ちつつ、何者かに命令を受けて動くようなその様子に、真司は口をあんぐりと開け、立ちつくしてしまった。
それだけではない。異様な小隊を成し進むモンスターの中に、真司は見覚えのある姿を捉えた。赤茶色の装甲に、二対の白い鎖飾りを持つ、二足歩行のモンスター。そう、先の東京駅で真司が戦い、蓮が指摘していた、近くの鏡からは外に出ず、何処かへと一方向に突き進んでいたモンスター…
心臓が早鐘を打つ。蓮の推測通りなら、彼らには何か目当ての獲物がいるはずだ。それが人間だったなら…いや、目的が何であろうと、相手はミラーモンスターなのだ。人を襲うそれの行動に、真司は目を瞑るわけにはいかなかった。
静止していた脚にGOサインを出し、一歩、二歩、それから一気にアクセルをかけた。赤茶色の群れから数メートル先に立ち塞がるように飛び出すと。ベルトのバックルにセットされたカードデッキに手をかける。そのまま一枚のカードを取り出し、左腕に据え付けられた、龍の頭を模した装備─
《ソードベント》
読み込んだカードを元にドラグバイザーが無機質な機械音声を響かせると、上空から一振りの
「うぉおおお!」
真司の雄叫びに、赤茶色の一団は漸く向かってくる人影へと反応を示した。先頭を駆ける三体は頭部の白い羽飾りを引き抜き、飛び道具として龍騎に投げつける。それを剣の先で受け流すと、そのうちの一体に斬りかかった。刃は胸部を深く抉り、そのまま一息に切り払うと、それはぐったりと倒れて動かなくなる。続けて残る二体が振るった斧を身を屈めて回避し、足元に蹴りを入れる。バランスを崩した一匹にすかさず体当たりを喰らわせたが、もう一匹から投げられた羽飾りの刃が肩口に突き刺さった。
「いっでぇ!」
反射で身体を急旋回させ、飛来する第二陣を刀の腹で弾くと、そのまま両手で柄を持ち、手裏剣を飛ばしてきた怪物の腹に袈裟斬りを見舞わせた。
仲間に攻撃を加えられたことで、残りのモンスターは彼を敵と判断し、一斉に襲いかからんと彼目掛けて駆けていく。振り下ろされる様々な様相と色をした武器をドラグセイバーで受け止めるが、その横から別の怪物の一撃が脇腹、太腿、手首に当たり、果てには長い二つのツノを持った金色の個体がすさまじい速さで接近し、大きな鋏のような得物が背中を直撃。衝撃で身体はアスファルトを転がった。幸い装甲が衝撃を吸収してくれたが、全身にじわじわと痛みが広がっていく。
数分の戦闘で真司が動きを止めたのは三体。だが、決定打にはなっていない。残りはまだ十数匹近くいるのに対して、真司の体力は目に見えて削られていた。一体一体がそこそこの戦力を持っているのに加え、数が多い。一つを相手する間に他のモンスターが攻撃を仕掛けてくる。まるで互いが意思疎通を図っているかのような連係だった。
「このままじゃジリ貧か…」
攻撃を受け止めつつ、後退しながら次の一手を考える。どうすればいい?ドラグレッダーを呼び出せば優位に立てるかもしれない。けれど、目の前の敵はカードに手を伸ばす隙を与えてくれない。一度撤退し、立て直そうにも時間制限がある。ライダーに変身したとはいえ、生身では消滅するミラーワールドにほんの少しの間留まることができるようになっただけのこと。活動できる時間は短いのだ。
逡巡する真司に、群れの追撃が容赦なく迫る。数匹が同時に跳躍し斧を構えて殺到した。しまった、と真司が防御の姿勢を取ったその時だった。
突如、上空から甲高い鳴き声と共に銃声が響き渡った。キィィィと空気を切り裂くようなその音に、ミラーモンスターたちの動きが一瞬止まる。真司もまた思わず頭上を見上げた。
それは一羽の
しかし、ただの燕ではない。その身体はミラーモンスター特有の金属光沢を放ち、ガラスのように無機質な瞳を持っている。広げた二メートル近い翼は深い鉄紺色の輝きで、腹と顔周りの装飾は鮮やかなオレンジ色。そう、あの東京駅に居たライダーの契約モンスターだ。
そこから視線を落とせば─モンスターがナニかを脚で掴んでいた─例のライダーが、その脚にぶら下がり、銃口を地表に向けていた。
突然の乱入者に、真司は呆気にとられて立ち尽くす。敵もまた、新たな脅威に標的を切り替えた。だが、その集団に空高く飛行できる個体がいなかったのか、なすがまま銃撃の雨に撃たれていく。一通り弱ったことを見届けると、ツバメ型のモンスターは一度敵モンスターから離れ、低空飛行で自身の契約相手を地表に降ろし、 再び空高く飛び上がった。
そこからは彼らの独擅場だった。紺と橙のツバメが大きく一鳴きをあげると、その姿がバリバリとプラズマの光に覆われていく。素早い動きでビルとビルの間を飛び回り、敵のド真ん中に突っ込んでは一突きし、飛び上がって攻撃を躱す。華麗な急降下・急上昇を繰り返し、高電流を纏う嘴で次々と敵を屠っていった。
《ソードベント》
その主人も負けてはいない。いつの間にか左腕の
飛燕の早業。
電光一閃の一撃。
それは、交戦というよりも、辻斬りと呼ぶべき一方的な虐殺だった。
その名はゲニウス。
「すげぇ…」
数分後、真司の視界に映っていたのは、砕け散ったミラーモンスターの残骸を啄むツバメの姿と、相方の様子を眺めつつ佇む一人の仮面ライダーだけだった。
そのライダー、ゲニウスは、周囲を確かめるように見回した後、ゆっくりと真司の方へ歩いてくる。
「な、なんだよ…!あっ…助けてくれて、ありがとう、ございます!」
九十度近くのほぼ直角なお辞儀を前にして、男は数秒立ち止まったが、再び足を進め、真司の横を通り過ぎていった。
「あ、あれ……?」
無言のまま自らの横を通り過ぎていくライダーに、肩透かしを食らった気持ちになりつつ、その背中を追うべきだろうかと振り返る。しかしそこでようやく、いつの間にか姿を現していた、真司の契約モンスターである真紅の龍が、ジッとこちらを見つめていることに気がついた。その瞳はどこか恨めしそうな光を放ち、真司とゲニウス、大燕、そしてほぼほぼ無くなってしまったミラーモンスターだったモノを順繰りに睨んでいる。
「もしかしてお前……自分の食べる分が無いからって、怒ってんのか?」
そうだ!とでも言うかの如く、その龍は天に向かって鳴き、赤銀のライダーに向かって詰め寄った。
「わ、悪かったって!次はちゃんとお前にやるから…な!」
ゲニウスはその様子を暫し一瞥すると、踵を返し、相方をどうにか宥めている赤いライダーに、気づかれるまで歩みを進めた。
急に引き返してきた相手に身構えるも、当の本人は武器を仕舞い、頭を捻り、ついて来い、とジェスチャーを送ってきた。言われるがまま、真司は黄昏色の仮面ライダーの後に続き、品川駅舎へと入っていく。
「おーい!」
「……………」
「…あの〜、どこに向かってるん…ですかね……?」
「…………………」
「というか、名前!あんた一体誰なんだよ!」
「…………………………」
真司の頭の中は疑問符でいっぱいだった。何故歩かされているのか、どこに向かおうとしているのか、何故ずっと黙ったままなのか。
しかし、『何故、自身に攻撃を仕掛けてこなかったのか』と、いう疑問が終ぞ真司の頭の中に浮かぶことはなかった。
***
対面していの一番、『自分を助けてくれた』という見当違いな感謝の言葉で頭を下げた男に、東海道本線は理解に苦しんだ。仮面ライダーに変身する者は皆、願いを叶えるために争い合っている敵同士なのではなかったか。
窮地を救ったからといって、不用意に他のライダーに近づかれても無防備でいる。挙げ句の果てには目の前で契約モンスターと揉めだした。まるで警戒心がない。もし、今対峙しているのが他のライダーだったのなら、真っ先に彼を殺害しているだろう。
これは自身の『ライダーバトルに興味が無く、なるべく避けたい』、という心中を見透かしているのだろうか。それとも、『攻撃される』という想定が頭から抜け落ちている馬鹿なのだろうか…
思案する東海道に、また別の異形の気配が鎧を撫でた。元々、人ならざるモノ故に、奴らミラーモンスターへの感知能力を強く有していたが、カードデッキを手に入れ変身するようになってから、その力は通常のライダー変身者以上のモノとなっていたのだ。奴らの狙いは知れている。直ぐ様狩りに向かうべきだ。が、この赤いライダーが揉めているのは、半ば自分が原因だ。目の前で腹ペコのドラゴンに食われてしまったら、心に
「あ、まてよ…名乗るならまず自分からってよく言うよな…よし、俺、城戸真司って言います!ライダー名は─」
馬鹿だ。本物の馬鹿だ。実名を名乗ってどうする!変身した姿で対峙しているのだから、ライダー名だけでよかっただろ!
警戒心のなさにほとほと呆れる東海道だが、おかげでこの仮面ライダー…龍騎が例の記者見習いの男だとは断定できた。どうやら推測は間違っていなかったようだ。
「これでも無視かよ………」
「…………………………………」
人間との縁を作ってしまうと、後々面倒くさいことになるのは目に見えている。その場限りならまだいいが、相手に情が湧くような、わかせてしまうような関わりを持ってしまったら…その後は散々だ。もう相手の顔も声も忘れてしまったが、兎に角、自分達と人の間には、時間の流れ方に決定的な差があるのだ。何よりも………人はいとも簡単に死んでしまう。
割り切って一時的に協力する、表面だけの、適当な共闘関係を作るのもアリだ。だか、こいつは明らかにそういうタイプじゃない。鈍感そうに見えるが、不用意に声を発して正体がバレてしまわぬよう、口を利かず、足早に歩き続けた。港南口から長い通路を行き、みどりの窓口に近づいた頃には、流石の相手も、目的に気づいたようだ。
「ミラーモンスター…」
奴らは既に高輪口のエスカレーターを登ってきていた。赤茶色の小さな集団が目指す先は─来年開業予定の、東海道新幹線・品川駅─その工事現場だ。
《シュートベント》
先手必勝。東海道は
「ええっ!なんで!」
そのまま手をベルトのバックル─カードデッキに手を伸ばす。「あっ!」だの「ちょっ!」だの聞こえてきたが、構わず
ファイナルベントのカード─仮面ライダーにおける切り札。所謂、必殺技のカードだ。
慌てふためく龍騎にそれを手渡すと、東海道はソードベントのカードを使い、自らの得物、雷燕刀を手に持った。
(そこで 待ってろ)
(今から 俺が こいつらを 追い込む)
(お前は それで とどめを させ わかったか?)
カードと自身を指差しながら、ジェスチャーで指示を飛ばす。OKサインで確認の意を取ると、龍騎は戸惑いつつも、ゆっくりと頷いた。
それを確認した東海道は、更に召喚機にカードを読み込ませる。
《アドベント》
読み込み音声と共に飛来したトニトゥルスワローは、一目散に群れへと駆けてゆこうとする。が、直ぐ様手を前に出し、制止のジェスチャーを向けた。どういうことかと首を傾げる燕の瞳と瞳を合わせれば、意図を汲み取ってくれたようで、不服そうな鳴き声をあげつつも場を離れ、周囲をぐるぐると旋回するようになった。
番鳥がまとう稲光に呼応するように、刀身がバチバチと唸りをあげる。得物を逆手に構え、東海道は集団の中央─ではなく、空間の最端部へと駆け出していった。
仮面ライダーゲニウスの特性は、契約モンスターの司る雷に由来した、稲光が走るかの如き俊敏性だ。そのスピードを活かし、大通路のあらゆる箇所に刀傷をつけていく。高エネルギーの塊で斬りつけた箇所は、天井にいるトニトゥルスワローの纏う高電力を送電するポインターとなり、気付けば改札口を含む周囲はプラズマの光で覆われ、駅構内は正に〝雷の檻〟となったのだ。
これでホームから目的地へは向かえまい!
行く手を塞がれたミラーモンスターの一団は、原因となった仮面ライダー、ゲニウスを狙い突き進む。だが、どうってことはない。奴らがこちらに向かうより─雷撃は早いのだ。
再び彼は得物を振るい疾走する。今度は致命傷に至らぬよう、全て峰打ちだ。
されども、刀を伝うスパークに、瞬く間に感電したモンスターたちは、猛烈な痺れに次々と悲鳴を上げてのたうち回った。
(今だ!)
「わかった!」
龍騎に目配せすれば、相手は軽く頷き、カードを召喚機へ滑らせた。
《ファイナルベント》
龍騎が構えの体勢を取れば、契約モンスター、ドラグレッダーが蜷局を巻きながら寄り添い、咆哮をあげる。足を揃え、空高く跳躍し─
「はぁぁぁぁぁ……」
空中での華麗な錐揉み回転に、龍の加護の元繰り出される、灼熱の炎の一撃。
──ドラゴンライダーキック!
気がつけば、ミラーモンスターの一団は全て爆発四散し、塵芥と化していた。その人柄からは想像できないような強烈なキックと、その破壊力に一瞬、目を奪われる。しかし直ぐ様我に返り、得物を収め、静かに息を吐いた。
対峙したくはないな、という一言が、素直な感想だった。
行動範囲が都内の駅と、その周辺という限定されたものだったが故に、これまで一度も他のライダーに出くわしたことはなかったが、龍騎のファイナルベント。あれだけの熱量と破壊力を一撃に込められるライダーは、流石にそう多くないだろうと東海道は思った。アレの直撃を食らってしまえば、どんなライダーだろうとただでは済まない。ゲニウスは瞬発力と雷撃を主体として戦う。回避は安易出来るかもしれないが、万が一の際、果たしてアレに真正面から立ち向かえるだろうか?いや、無理だ。
何よりも、おそらくあの男は戦闘の場数を踏んでいない。素人だ。だからこそ…
東海道はミラーワールドの歪な品川駅を見渡した。先程まで戦っていたミラーモンスターの群れは跡形もない。他に気配も見つからない。何より身体が粒子を帯びてきている。もうここに滞在できる時間は、無い。
東海道は、龍騎に背を向けた。
「おい、ちょっと!まだ名前!聞いてないんだけど!」
龍騎の声が背中に届く。だが東海道は黙したまま、ミラーワールドの品川駅の改札を飛び越え、走り去っていった。身体が消える前に、さっさと出ろよ。そう、心のなかで呟きながら。
赤いライダーの視線がない、関係者以外立ち入り禁止区域から、東海道は現実世界に帰還した。丁度通りがかった駅職員からの挨拶に適当な相槌を打ち、従業員口の外に出れば、たちまち駅の雑踏に取り込まれていく。ミラーワールドの静寂とは正反対の、人々の喧騒。遠くから響く電車の走行音。遅延案内のアナウンス。
─全てが、当たり前の日常だ。
東海道は大きく息を吐き、それから、二つ折りケータイを懐から取り出した。
***
ミラーワールドに取り残された真司は、アドレナリンが収まり、そこで漸く、活動限界を迎え、自身が消えかけていることに気がついた。焦りながらもなんとか男子トイレにたどり着き、洗面所の鏡面から現実世界に飛び出すと、運良く周囲に誰もいなかったことに、安堵の息を漏らす。
「危なかった…それにしてもあのライダー、結局名前教えてくれなかったな…」
カードデッキをポケットに仕舞いつつ、先程の戦いを振り返る。異様なミラーモンスターの小隊。突如現れた東京駅のライダー。協力して見事にモンスターを殲滅したこと。
「でも、あのライダー、助けてくれたんだよな……もしかして、いいやつだったりして?」
その時、ポケットのケータイから着信音が鳴り出す。画面を見れば相手は令子先輩─間違いなくお怒りの電話だ。
「も、もしもs」『もしもし!?真司!いつまでトイレ行ってるの!もう取材終わって西さん帰っちゃたわよ!』
「す、すいません!その」
『いいからオフィスに帰ってきなさい!』
ぴしゃり、と言い放った令子に通話を切られてしまい。真司の顔はサァ…と青ざめた。先輩は相当頭にきているようだ。とにかく、OREジャーナルに帰って謝らなければ。加えて今日の取材、西さんの話についても整理しないといけない。
目の前をよく確認せず、慌てて男子トイレから飛び出した真司は、勢いのままに誰かにぶつかった。
「いったた……」
「っつ…あれ、君って…」
「え、西さん!?」
ぶつかった相手、それは今日の取材相手であった、西
「偶然ですね!お手洗いって行ってたのに…どうして駅に?」
「えっと……」
なんとか誤魔化そうと繕いの言葉を考えようとするも、突然の出来事に舌がもつれ、なかなかいい弁明が出てこない。
「…まあいいや、色々事情があったんでしょ。ここで会ったことは、お互いに内緒ってことで!」
にこりと西が笑ったその瞬間、真司はふと、彼の取材での発言を思い出した。
『見た目はちょっとボサボサな毛量多めの黒髪で、背丈は…多分、俺や井上さんと変わらないくらい。それと、ベージュのコートを着てたっけな』
もし…それが真実だとすれば、西さんは神崎士郎と出会ったはず。そして、自身が変身を解除した矢先、偶然にもぶつかった。言い淀む真司に、何か理解を示しているように気遣う言葉─
まさか…いや、早とちりかもしれない…でも…
「西さん!」
「はい?」
「あの!」
立ち去ろうとする西に、真司は思い切って言葉を投げかけた。
「あの…どうして助けてくれたんですか?」
「…?そりゃだって、困ってたんだもの。鉄道員として、困ってるお客さんは助けないとね」
じゃあね、と笑顔で去っていく西に、真司は言葉を返せなかった。
西さんはさっきの仮面ライダーで、既に神崎士郎からデッキを受け取ってしまっているのかもしれない。その疑念が、頭にへばりついたまま、真司は品川駅を後にした。
***
一方、メールで帰還の連絡を送り、取材が終わり次第、山陽新幹線と駅の5番ホーム入り口で待ち合わせることになっていた東海道本線は、たった今目の前で繰り広げられた光景に、思わず舌打ちをしたくなっていた。
─何をやってるんだあの人は!
東海道を見つけ、小さく手を振りながら此方にやってきた男の腕を強く掴み、下り階段へと引っ張っていく。危ないだろ!という非難の声もお構い無しだ。
「見てましたよ、山陽さん」
「見てたって?」
「あの見習い記者とぶつかって話してたところです!あんたって本っ当に間が悪い人ですね…」
「えーっと…どういうこと?」
ホームに滑り込んできた東京行きの電車に乗り込み、そのまま反対側のドアへ山陽を押し付ける(この時代にはまだ確立していない、壁ドンの体勢だ)。
「記者見習いの男が、取材で山陽さんの発言に動揺してたのはわかってましたよね?」
「勿論、なんか知ってそうだったじゃん」
その言葉に、東海道はハーッ…と大きなため息をつき、片手で顔を覆った。どうやら、近いところまでは気づいたようだが、核心にはたどり着かなかったようだ。
「あのですね、彼は仮面ライダーだったんです」
「え」
「そしておそらく…さっきの浅慮な発言で、山陽さんのことを俺…たった今、品川駅で共に戦った仮面ライダーだと思い込んだでしょうね」
「ええ!?」
口に出しながらも、発展してしまった状況の面倒くささに目眩がしそうだった。
だがしかし、起こってしまったことは仕方がない。状況が複雑に絡み合い、解決すべき問題が積み上がってしまったとしても、東海道本線の軸は一つだけだ。
兄さんを守る。そのために、自分は戦い続ける。
「山陽さん、身代わ………影武者、頑張ってくださいね?」
「えええーっ!?」
一方は東京駅へ、もう一方はOREジャーナルのオフィスへ、二人はそれぞれの日常へと戻っていく。
仮面の下に、その正体を隠したまま。