バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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閑話:『バラティエの怪異と、二人の稀人』

閑話:『バラティエの怪異と、二人の稀人』

 

少しだけ時間を遡る――激動の大海賊時代が始まり、俺が初手3800万ベリーの賞金首としてグランドラインの前半の海を騒がせていた頃の話。

 

陰陽術の「幻形(偽装)」と「隠形(おんぎょう)」を駆使して海軍の包囲網を煙に巻きながら、俺は一匹狼として世界中の美味いものを食べ歩く隠密の美食旅を続けていた。その最中、俺の小舟がふらりと立ち寄ったのが、東の海(イーストブルー)に浮かぶ巨大な魚の形をした海上レストラン『バラティエ』だった。

 

(原作知識の通り、ここの飯の美味さは世界政府の最高権力者どもすら舌を巻くレベルだからな。新世界へ行く前に、これだけは絶対に外せねェ)

 

初めて店を訪れた時は一人だった。

料理への敬意、そして何より出来立てを最高の状態で食うため、俺はフードを深く被ったまま普通に入店し、カウンターの席へと腰掛けた。

 

「いらっしゃい。……チッ、ずいぶんと陰気なガキが来やがったな。注文は何にするんだ?」

 

金髪の、まだ眉毛のねじれた若い見習いコック――サンジが、口にタバコを燻らせながら、不機嫌そうにオーダーを取りにきた。のちに新時代の主役の左腕となる男の、まだ『バラティエの副料理長』になる前の青臭い姿がそこにあった。

 

「ここにある美味いメニュー、端から全部持ってきてくれ。金ならいくらでもある」

 

俺が道中の悪党どもから身ぐるみ剥いで奪い取ってきた、有り余る悪銭(ベリー)の束をドンとテーブルに積むと、サンジは「ほう、生意気なガキだ」と不敵に口元を歪め、厨房へと戻っていった。ロジャー船長から貰った軍資金はとっくに使い切って底を突いていたが、グランドラインの悪党どもの財布から調達した軍資金は、一匹狼の美食旅を続けるには十分すぎるほどの額だった。

 

だが、他人に不運や病の厄災を撒き散らす『ヤクヤクの実』の呪いは、俺が意識してコントロールしていない限り、周囲に自動で影響を与えてしまう最低最悪の能力(バグ)だ。このバラティエの店内に俺がただ座っているだけで、じわじわと『厄』が蓄積されていく。

 

運悪く、ちょうどその時、店の窓の外に一隻の略奪船が横付けされた。ドクロの旗を掲げた血気の荒い海賊団が、バラティエを格好の獲物と見定めて襲撃を仕掛けてきたのだ。

 

「ひゃっはー! 飯の時間だ野郎どもォ!!」

「おいコックども! 出せるだけの酒とメシを全部ここに並べやがれ! 逆らう奴は全員ぶち殺して、この店の金を根こそぎ奪い取れェ!!」

 

銃や刀を振り回し、怒鳴り声を上げながら乱入してきた海賊たちによって、店内の一般客が悲鳴を上げて逃げ惑う。だが、俺は手首のロザリオを軽く撫で、店内に立ち込め始めた不運の波動(厄)を、厨房の中でフライパンを握るサンジの元へとピンポイントで『反転調律』して流し込んだ。

 

「――陰陽調律・火神の煽り(かじんのあおり)」

 

本来なら周囲を燃やし尽くすはずの不運の火種が、俺の調律によって、厨房のコンロの火力を「常に食材の旨味を100%引き出すための完全な黄金比率」へと勝手に変質させていく。

 

「……ッ!? な、何だこのコンロの火は……!? おれが弄ってねェのに、勝手に最高の火力で安定してやがる……!!」

 

厨房の奥から驚愕に満ちたサンジの叫び声が聞こえる。あいつは戸惑いながらも、大皿を両手に抱えたまま、暴れる海賊たちの中心へと文字通り突風のように駆け抜けた。

 

「おい、てめェらクソ悪党どもォ!!! 料理人の聖なる厨房の前で、ガタガタ騒いでんじゃねェよ!!」

 

サンジの華麗な蹴りが一閃し、略奪の首謀者だった海賊が一瞬にして窓を突き破って海へと叩き落とされる。直撃を免れた周囲のゴロツキどもまでもが、俺の撒き散らした瞬間的な不運(厄の波動)に囚われ、急に足の骨を勝手に折ったり、持っていた銃を暴発させたりして自滅するように床へ転がっていった。一瞬にして無力化された海賊団を他所に、サンジは息一つ乱さず、俺のテーブルへ料理をドンと置いた。

 

「待たせたな、クソガキ。――特製海鮮パスタと、最高級肉のローストだ」

 

「……いただきます」

 

俺が一皿口に運ぶ。

(……美味い。美味すぎるぞ、おい。原作の知識を遥かに逆巻く美味さだ)

 

サンジの元々の天才的な腕前に加え、俺のヤクヤクの反転調律によって『食材の生臭さや焦げの厄』が完全に排除されたその料理は、まさに至高の領域へと達していた。

俺があまりの美味さに無言で貪り食っていると、サンジは皿の空いていく尋常じゃない速度と、周囲の海賊どもが勝手に自滅していった異様な光景を凝視しながら、額に冷や汗を流して俺を睨みつけていた。

 

「てめェ……。ただの食い意地の張ったクソガキじゃねェな……。てめェが店に来た途端に、何でおれの飯が勝手に最高の状態にされちまうんだ……!?」

 

「にしし、さぁね。ただの料理の隠し味さ。……ごちそうさま.サンジさん、あんたの料理は世界一だよ」

 

俺はベリーをきっちり残し、まだ唖然としているサンジの目の前で「隠形(おんぎょう)」の術を発動させて姿を消した。

 

――そして、その数カ月後のことだ。

新世界で『毒硝子の島』へ立ち寄り、お互いの悪魔の実の呪いを完璧に相殺し合える最高の相棒、シロを仲間に迎えた俺は、今度は『螺旋門』の力を贅沢に使い、何度目となるバラティエへの来訪を果たしていた。

 

カチャリ、と店の重い木製ドアが開く。カウンターの奥から「いらっしゃい……って、てめェはあの時の……!」とタバコを落とさんばかりに驚くサンジの視線は、俺の隣に立つ、白髪交じりの細い髪をした可憐な少女へと一瞬で釘付けになった。

 

「サンジさん。今日は俺の大好物の肉料理と一緒に、この相棒(シロ)のために、あんたの作れる最高のデザートをありったけ出してくれ」

 

「オ、オロローン!!! なんてお美しく気品のあるレディなんだァァァ!!! てめェのような陰気なクソガキが、こんな綺麗なお嬢さんを連れて歩いてんじゃねェよォ!!! おれが今すぐ、レディのために世界一甘くて至高のスイーツを作って差し上げますゥゥゥ!!!」

 

目が完全にハートマークになって厨房へと飛び込んでいくサンジの後ろ姿を見送りながら、俺とシロはテーブル席へと腰掛けた。

おお互いが同じ空間にいるだけで、ヤクヤクの厄災とガラガラの崩壊波動が完璧に相殺し合い、バラティエの店内に世界で一番綺麗なセーフティエリアが出来上がる。

 

「クロウ、あの人、すごく面白いね。……でも、すっごくいい匂いがする……」

 

「ははは、あいつの料理は本物だからな。楽しみにしてろよ、シロ」

 

数分後、サンジがこれまでにないほど気合いを入れて仕上げた、不純物(厄)の一切を俺の反転調律で完璧に削ぎ落とした至高の肉料理とフルーツタルトがテーブルに並んだ。

シロがそれを一口食べ、「……甘くて、すっごく美味しい……美味しいね、クロウ……」と、静かに本当に幸せそうに微笑む姿を、俺は特等席から静かに見つめていた。

 

別れ際、俺がまたしても代金を置いて煙のように姿を消した時、サンジは「あのクソガキ……! レディの連絡先も置いてかねェで消えやがってチクショー!!」と悔しそうに床を叩いていたらしい。

 

店主のゼフが「おいサンジ、あの二人の周りの空気……ありゃあお互いの天敵の呪いごと、綺麗に飼い慣らしてやがるぞ」と、静かに片足を鳴らして呟いていたのを、俺はモブの特等席からフッと笑って聞き届けていた。

 

――そして、その時の『二人の稀人』の記憶がすべて、十数年の時を超えて、あの太古の島『リトルガーデン』での驚愕の再会へと、完璧な地続きの伏線となって繋がっていくのだった。

 

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