バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第93話:『太古の島の青空宴と、傍観者の流儀』

第93話:『太古の島の青空宴と、傍観者の流儀』

 

リトルガーデンのうっそうとしたジャングルの開けた河原。

俺たちが仕留めた巨大な太古の怪鳥を前に、かつて東の海の『バラティエ』で出会った金髪の料理人――サンジは、信じられないほどの猛烈な手際で包丁を振るっていた。

 

「メロリーン! 待っててくださいね、おれの愛しのシロさん! このクソガキが乱暴に仕留めた鳥肉だろうが、おれの腕にかかれば天国の味に変えてみせますからァァ!!」

 

目が完全にハートマークになったサンジが、凄まじい包丁捌きで肉の繊維を切り分け、この島に自生する野生のハーブや果実を即座に調達して、特製のソースを作り上げていく。

その隣では、食い意地の塊である『麦わらのルフィ』が、よだれを滝のように流しながら「美味そう、美味そう」と、今にも生肉に噛みつきそうな勢いで大鍋を見つめていた。

 

(ははは、相変わらず手の付けられねェ料理人だが……その腕前だけは、やっぱり本物だな)

 

俺は河原の少し離れた平らな岩盤の上に、シロと並んで腰掛けていた。

お互いの悪魔の実の呪い――俺のヤクヤクの厄災と、シロのガラガラの崩壊波動は、このジャングルの喧騒のなかでも完璧に調和して相殺し合っている。二人が並んで座るその場所だけが、世界で最も静寂なセーフティエリアだ。

 

《クロウ様、あのサンジという料理人の魂の炎は、かつてバラティエで出会った時よりも、一段と激しく、そして強く洗練されています。主役たちの船に相応しい、見事な烈火の器ですね》

薬指の銀の指輪から、サクヤの楽しげな念話が届く。

 

《ふふ、あの若造、クロウ様が陰でおこなっている『ヤクの反転調律』を、今回も本能的な技術で完全に利用してやがりますね。これぞまさに、美味が繋ぐ一興でございますよ》

腰に携えた漆黒の妖刀『黒死一文字』の奥から、マタムネもキセルを燻らせるような穏やかな口調で微笑んでいた。

 

そう、サンジが肉に包丁を入れ、焚き火のコンロで焼き始めた瞬間から、俺は手首のロザリオを軽く撫で、ヤクヤクの実の力を発動させていた。

「陰陽調律・火神の煽り」――そして「食材の生臭さや不純物の厄」の完全排除。

俺が裏から火力を黄金比率へと調律し、肉の持つ『野生の泥臭さ(厄)』を完全に消し去ったことで、サンジの仕上げるジビエ料理の旨味は、彼の計算を遥かに凌駕する至高の領域へと一気に跳ね上がっていく。

 

「――よし、できたァ!!! レディのための特製・太古怪鳥のハーブ香草焼きだ!!!」

 

サンジが気合を入れまくって仕上げた、大皿山盛りの肉料理がテーブル代わりの平らな岩の上へと並べられた。

その瞬間、ルフィが「肉、肉、肉ーーー!!!」と叫んで一瞬で肉の塊へと飛びついた。

 

「おい、待てルフィ! このクソガキの分はともかく、レディの分を先に残しやがれ!!」

サンジの怒りの蹴りがルフィの頭を直撃するが、ルフィは「あだっ! だけど美味い、美味すぎるぞサンジィィ!!」と、頬をパンパンに膨らませながら大喜びで肉を貪り食っている。

 

「……シロ、冷めないうちに食おうぜ」

俺が苦苦笑しながら一皿差し出すと、シロは小さな手でフォークを握り、おでん城の夜会で大根を食べた時と同じように、ふーふーと息を吹きかけて肉を口へと運んだ。

 

「……美味しい……っ。外はカリカリなのに、中はすごく柔らかくて……。じゅわって、お肉の甘いスープがいっぱい出てくる……。美味しいね、クロウ……」

 

シロの白髪交じりの細い髪がふわりと揺れ、その美しい顔全体に、とろけるような幸せな笑顔が広がった。

 

「だろ? サンジさんの料理は、世界政府の最高権力者どもすら舌を巻くレベルだからな」

俺も一切れ口に運ぶ。

(……美味い。ジビエ特有の硬さが一切なく、ハーブの香りが肉の旨味を極限まで引き立ててやがる)

 

「おいおい、てめェら、おれが作った最高級の飯を、何当たり前みたいな顔して食ってんだ!」

サンジがタバコを咥え直し、不機嫌そうに、だが料理を綺麗に平らげていくシロの姿にどこか満足げに鼻を鳴らした。

 

そんな賑やかな宴の最中――。

 

ドォォォォォォォン……!!!

 

ジャングルの遥か奥深くから、大地を激しく震わせるような、凄まじい地響きと大砲のような音が鳴り響いた。

巨人族の戦士、ドリーとブロギーの、百年間続く誇り高き『決闘』の音だ。

さらにその裏では、秘密犯罪結社『バロックワークス』のMr.3たちが、彼らをハメるための狡猾な罠(厄)を仕掛けようと動き出しているタイムラインのはずだった。

 

長い鼻のウソップが「ひ、ひぃぃ! また巨人の地響きだァ!」と頭を抱えて怯えるなか、俺は手首のロザリオを軽く撫で、ヤクヤクの実の感覚を周囲へと広げた。

 

(……にしし。バロックワークスの暗躍か。……だけど、俺のスタンスは変わらない。基本は傍観スタイルだ)

 

未来の歴史(原作知識)を持つ俺だからこそ、この島でこれから起きるすべての地獄を知っている。だが、俺が今ここで黒死一文字を引き抜き、マタムネのオーバーソウルでMr.3のキャンドルシップを空間ごと叩き潰すような真似は絶対にしない。

おでんさんが未来を信じて自分の運命を全うしたように、俺は彼らの創る新時代の輝きを信じている。この島で巨人の誇りを救い、バロックワークスの野望を粉砕するのは、いつかここへ来る『麦わらの一味』の、主役たちの役目だ。

 

「おい、クロウ。てめェ、さっきから何を感じ取ってやがる」

緑髪の剣士ゾロが、飯を食う手を止め、鋭い目線で俺の横顔をじっと睨みつけてきた。

野生の感の塊であるルフィも、肉を骨ごと噛み砕きながら、その真っ直ぐな瞳で俺の目を一直線に射抜いてくる。

 

「何でもないさ、ゾロさん、ルフィ。……ただ、この島の奥には、あんたたちの喜ぶような『面白い笑い話』が待ってるな、と思ってね」

 

俺はフードを深く被り直し、手首のロザリオを一度強く握り締めた。

目的だった太古の巨大な美味は、十分にシロの腹の中に収まった。これ以上の長居は、俺たちの呪いの性質を周囲に蓄積させるだけだ。

 

「じゃあな、サンジさん。あんたの料理は世界一だ。……シロ、いくぞ」

 

「うん」

 

俺がシロの手を引いて立ち上がると、サンジが「あーっ! 待てクソガキ! レディの連絡先を――」と叫びながら手を伸ばしてきたが、もう遅い。

 

「――陰陽調律・螺旋門」

 

手首のロザリオから溢れ出した藍色の反転波動が、船首ではなく俺たちの周囲の空間を巻き貝のようにぐにゃりとねじ曲げた。

漆黒の海霧が河原を包み込んだかと思った次の瞬間には、俺とシロ、そして並べられていた皿の数々は、最初からそこになかったかのように、一瞬にして煙のごとく消え去っていた。

 

「な……ッ!? 悪魔の実の能力か……!?」

ゾロが目を見開いて刀を引き抜き、サンジが「またレディを連れて煙のように消えやがったァァ!!」と悔しそうに地団駄をふむ。

だが、ルフィだけは、俺たちが消え去った虚空を見つめながら、ニカッと不敵な笑みを浮かべ、その猛獣の視線を静かに楽しんでいた。

 

視界が歪んだのは、ほんの一瞬。

次の瞬間、穏やかな波の音と共に俺たちを包み込んだのは、リトルガーデンの不気味なジャングルではなく、幻霧の結界に守られた我が魔城――『黒曜螺旋城』の、あの懐かしい天然の入江の景色だった。

 

レヴナント号の船長室に戻り、隠形を解く。

窓の外には、天へとねじれ昇る黒き城郭が、静かに俺たちを迎えていた。

 

「……すごかったね、クロウ。あのお料理の人のご飯、また食べたいな」

シロがみかんの残りを口に運びながら、静かに、本当に嬉しそうに微笑んだ。

 

「にしし、そうだな。あいつらの航路を追っていけば、これからもいくらでも美味いもんにありつけるさ。……次は、砂漠の国のアラバスタか。あるいは、空に浮かぶ幻の島か」

 

仲間はいらない。ただ、呪いを相殺し合う最高の相棒・シロを隣に乗せ、死なない軍勢と黒曜螺旋城を従えた俺たちの『自由の美食航海』。

新時代の主役たちにその存在の尾をかすかに掴ませながらも、俺たちは空間を支配した絶対の傍観者として、次なる美味いものと、さらなる激動の歴史を観測するために、グランドラインの闇の先へと、どこまでも気楽に、そして不敵に加速していく。

 

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