バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第94話:『白銀のドラム王国と、雪原のラパン鍋』
リトルガーデンでの驚きの再会から数週間。俺たちのレヴナント号は、ログポースの針が示す次なる島――雪がしんしんと降り積もる極寒の冬島『ドラム王国』の海域へと入っていた。
前半の海を騒がせる“百鬼夜行”の悪名などどこ吹く風。俺は陰陽術の「幻形(偽装)」で船をただの古びた商船に見せかけ、白骨の船員たちを船内に待機させていた。
「クロウ、外、真っ白。すごく綺麗……」
船長室の大きな窓から、一面の銀世界を見つめるシロが、寒さに少し身を縮めながら小さく呟いた。
彼女のまとう『ガラガラの実』の硝子化の波動と、俺の『ヤクヤクの実』の厄災。お互いの呪いはこの極寒の船内でも完璧に相殺し合っており、俺たちの半径数メートルだけは常に暖かく穏やかな無風地帯(セーフティエリア)を保っている。
「ははは、綺麗だが、ここは医療大国なんて呼ばれながらも、独裁者ワポルによって医者が狩り尽くされた、曰く付きの冬島さ。……だが、俺たちの目的はいつだって変わらねェだろ?」
手首のロザリオを軽く撫でながら、俺は不敵に笑った。
現代日本の原作知識を持つ俺からすれば、この島でこれから何が起きるかはすべてお見通しだ。ナミが急病で倒れ、ルフィたちが魔女と呼ばれるドクトリーヌや、のちに仲間となる青っ鼻のトナカイ(チョッパー)の待つ雪山の頂を目指して命がけの登山を始めるタイムライン。
だが、俺たちのスタンスは『基本傍観スタイル』。主役たちの舞台を荒らさず、ただ特等席(モブの境界線)から世界の激動を観測する。
空間と呪いを支配した絶対の傍観者として、この冬島に来た本当の目的は、この過酷な雪原にのみ生息する、熊のような巨体を持つ凶暴な肉食ウサギ――『ラパン』の肉だ。あの強靭な肉体と引き締まった脂を持つラパンのジビエ料理は、この極寒の冬島において至高の隠れ絶品として知られている。
「今回はあくまでただの食糧調達だ。ルフィたちと鉢合わせる前に、さっさとラパンを狩って、美味い雪国鍋でも作るぞ」
俺とシロは「隠形(おんぎょう)」の術を纏って姿と気配を完全に消し去り、積雪2メートルを超える大雪原へと音もなく足を踏み入れた。
生身の肉体にかかる寒さの限界負荷(厄)を、俺の調律の波動が瞬時に吸い上げて心地よい刺激へと変換する。
ジャングルの奥深く、雪を巻き上げて俺たちの前に立ちはだかったのは、群れを成して牙を剥く巨大なラパンどもだった。
普通なら一国を滅ぼすほどの雪崩を引き起こす狂暴な猛獣だが、俺は腰の黒き妖刀『黒死一文字』の柄にそっと右手を添えた。
「マタムネ、一瞬で仕留めるぞ」
《ふふ、雪景色の中での狩りですか。お安い御用でございますよ、クロウ様》
「――オーバーソウル」
巫力を込めて呟くと、黒き妖刀の刀身が眩い光を放ち、マタムネの霊体と同化した巨大な光の巨刃――『鬼殺し』の大剣へと変貌を遂げた。
俺が一歩踏み出し、光の巨刃を大きく一閃すると、凄まじい巫力の波動が雪原を爆発的に駆け抜けた。ただの物理的な斬撃ではない。ヤクヤクの反転調律の波動がラパンの殺気(厄)を完全に無力化し、一瞬にして最も肉質の良い巨体を、傷一つつけずに眠らせるようにして仕留めてみせた。
「よし、大収穫だ。シロ、レヴナント号に戻って、特製の『ラパンの味噌仕立て鍋』といこうぜ」
「うん……! お肉、楽しみ……」
姿を隠したまま、俺たちは仕留めたラパンを抱えてレヴナント号へと瞬時に引き返した。
船長室の大きな土鍋に、冬島特産の根菜と、俺の反転調律によって『野生の臭みや固さの厄(不純物)』を完璧に排除した至高のラパン肉を敷き詰める。マタムネのキセルのような静かな気配に包まれながら、ダシの効いた極上の雪国鍋がぐつぐつと音を立てて出来上がっていった。
「ほら、シロ。冷めないうちに食おうぜ」
「……っ、すっごく、お肉がモチモチしてて美味しい……! 脂が甘くて、身体の芯からポカポカしてくる……美味しいね、クロウ……」
シロがはふはふと息を吹きかけながら、スープを口に運び、顔全体に満面の幸せな笑みを浮かべた。
俺も一切れ口に運ぶ。極寒の雪山で鍛え上げられたラパンの肉は、弾力があるのに口の中でとろけるほどに洗練されており、これまでの美食旅のなかでも最上級の旨さだった。
(ワポルが国をドラム王国を見つけ出し、ルフィたちがもうすぐこの雪山を登り始める頃だろうが……俺たちは暖かい船内で、この美味いメシを高みの見物させてもらうさ)
誰にも明かしていない前世の記憶、海賊王との最後の約束を胸に。
悪魔の実のせいで他人は乗せられないが、俺にはシロがいて、サクヤがいて、マタムネがいる。
世界のすべてを巻き込む新時代の激動を他所に、俺たちの『自由の美食航海』は、空間と呪いを支配した絶対の傍観者として、次なる未知の美味を求めて、どこまでも気楽に、そして不敵に加速していく。