バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第98話:『砂漠の王の陥落と、洋上の絶対包囲網』
ナノハナの港をスマートに抜錨し、アラバスタ王国の海域を完全に離れてから数日。
どこまでも広がる穏やかなグランドラインの洋上を、我がレヴァナント号は悠々と滑るように進んでいた。
そんな航海の最中、ニュース・クーが落としていった新聞の一面を見て、俺は思わず口元を歪めた。
「……終わったみたい。あの砂のワニの人、本当におっきい麦わらの人に倒されちゃったんだね」
俺の隣で、シロが新聞の写真を覗き込みながらぽつりと呟いた。
「ああ、そうだな。王下七武海サー・クロコダイルの敗北。秘密犯罪会社バロックワークスの崩壊……。あの生気の塊(ルフィ)の前には、砂漠の英雄の仮面を被った悪党も、ただの噛ませ犬に過ぎなかったってわけだ」
俺は手首のロザリオを弄びながら、不敵に笑う。
国を揺るがした激動は、前世の記憶(原作)通りにその幕を閉じていた。あの少年たちが泥を啜りながら勝ち取った大金星を、俺たちは世界の裏側から完璧な傍観者として見届けていた。
《ふふ、主役たちの狂騒劇(ダンス)も一段落といったところですか。これでようやく、我らの「自由の美食航海」を邪魔する無粋なノイズも消えるというものですな》
実体化したマタムネが、キセルを燻らせながら満足げに頷く。
だが――世界はそう甘くはなかった。
一つのイレギュラー(麦わら)が世界を震撼させたとき、海軍本部の動きは、俺たちの想定を遥かに超える速度で加速していたのだ。
キィィィィン――。
突如として、俺の見聞色の網が、洋上の静寂を切り裂くような凄まじい『殺気(過負荷)』を感知した。
次の瞬間、レヴァナント号を取り囲む濃厚な海霧の向こうから、巨大な影が次々と姿を現す。
それも一隻や二隻ではない。海軍本部が誇る最高戦力、大型軍艦の艦隊――総勢十数隻からなる、完璧な『絶対包囲網』だった。
「――っ!? クロウ、周りにいっぱい大きな船が……!」
シロがガラガラの実の硝子化の波動をピキピキと両手に宿らせ、臨戦態勢をとる。
「チッ……! 陰陰術の偽装(幻形)を力技で見破りやがったか。ナノハナでスモーカーに顔を見られたのが、思った以上に本部に直通したらしいな。アラバスタを離れたからと油断したか」
俺は腰の黒き妖刀『黒死一文字』の柄に手をかけ、冷徹に目を細めた。
軍艦の最大級の甲板の上。そこに立つ海兵たちの中心に、見覚えのある巨躯が佇んでいた。
海軍本部の生ける伝説――モンキー・D・ガープ中将。
そしてその隣には、正義のコートを羽織った本部の将官たちがずらりと並び、殺気立った眼光をこちらへ向けている。
「ぶわっはっはっは! 幽霊船のロザリオのガキぃ! おれの野生の勘が言った通り、やっぱりピンピンして生きとったなァ!!」
ガープの豪快な笑い声が、拡声器を通して海原に響き渡る。だが、その瞳の奥にある野生の鋭さは、十数年前のあの時と全く変わっていない。
「かつてロジャーの船で行方知れずになった見習いのガキが、十数年の沈黙を破って再びグランドラインに現れるとはな……! 王下七武海の失脚に沸くこの海で、ロジャーの因縁を継ぐ貴様のような危険因子を、これ以上野放しにはできんッ!!」
将官の一人が鋭く叫ぶと同時に、十数隻の軍艦に搭載された数百門の砲門が一斉にレヴァナント号へと向けられた。
「……全艦、構えッ!! ――撃てェーーーっ!!!」
ドンッ!!!
空を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な砲弾の雨。
大砲の轟音が海鳴りとなり、レヴァナント号を木っ端微塵にせんと、全方位から理不尽なまでの破壊のエネルギーが殺到する。
「クロウ様、これは少々、露払いだけでは済まぬ規模のようですが?」
マタムネが静かに問いかける。その背後では、サクヤが俺の意思に応じるように、禍々しくも美しい霊気の輝きを放ち始めていた。
「いいさ。スマートに去るつもりの美食家を、ここまで本気で囲んでくれたんだ。海軍の犬どもに、歴史の亡霊を突っついた『厄災』の味ってやつを、骨の髄まで教えてやろうじゃねェか」
俺はロザリオを強く握り締め、不敵に笑った。
絶対包囲の軍艦を前に、空間と呪いを支配した傍観者の、本気の『調律』が今、幕を開ける――。