バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第100話:『幽霊船の航跡と、新たなる凶額』
ズガァァァァァァァァンっ!!!!
洋上に咲き誇ったのは、光と衝撃の超新星。
ガープが放った超質量の鉄塊は、俺の甲縛式オーバーソウル『神威厄神』の拳と激突した瞬間、その質量も、運動エネルギーも、武装色の覇気すらも「存在そのものの厄(歪み)」として強制的に分解され、一瞬にして光の塵へと還元されて消滅した。
割れた海面が巨大な潮の壁となって乱立し、軍艦の残骸を激しく揺らす。
その凄まじい嵐の向こう側で、ガープ中将は己の一撃が正面から完全に消し飛ばされたのを目撃し、その獰猛な獣の目を限界まで見開いていた。
「ぶわっはっはっは! 見事なもんだ! 十数年前より遥かにタチの悪い力を手に入れやがって……! これだからロジャーの船にいた餓鬼どもは油断ならんッ!」
自慢の拳骨を無力化されてなお、ガープは嬉々として次の戦意を爆発させる。だが、俺たちのスタンスはどこまでも『基本傍観スタイル』だ。ここで海軍の生ける伝説と朝まで殴り合いに付き合ってやる義理はない。
「面白いショーだったぜ、海軍。だが、美食家(おれ)の長旅にはそろそろ次のディナーの時間が迫っててね。……ここらでドロンさせてもらうさ」
俺はロザリオを弄びながら、不敵に笑う。
サクヤとマタムネの霊気が俺の意思に呼応し、甲縛式の巨腕が解け、レヴァナント号の船体全体を包み込むように巨大な陰陽術の結界が展開された。
「シロ、しっかり掴まってろ」
「うん……! バイバイ、うるさい海兵さんたち!」
シロが俺の腕にぎゅっと抱きつき、ニカッと笑って軍艦に向けて手を振る。
「――『隠形・万里縮地(ばんりしゅくち)』――」
俺が前世の記憶に刻まれた最高位の移動術理を起動した瞬間、レヴァナント号の巨大な漆黒の船体が、十数隻の海軍艦隊の目の前で、文字通り『空間ごと霧のように消滅』した。
大砲の衝撃、激しい潮騒、そして海軍の殺気。それらすべてのノイズが一瞬にして遠ざかり、世界の裏側へと滑り落ちるような完全な静寂が俺たちを包み込む。
ガープ中将の怒号と笑い声が霧の向こうへと消え去り、絶対包囲網を敷いていた無敵艦隊は、ただ何も存在しない空っぽの海原に取り残されるのだった。
◇
海軍の執拗な包囲網をスマートに蹴散らし、完全な未踏の海域へと逃げ去ってから数日後。
穏やかな風が吹くレヴァナント号の甲板で、俺は再びニュース・クーが落としていった最新の手配書の束を眺めていた。
「あ、クロウ。新しい手配書が来てるよ! 私たちの顔、ちゃんと載ってるかな?」
シロがいつものように、興味津々といった様子で俺の膝の上に飛び乗ってくる。
「ああ、今回は海軍本部のメンツを正面から木っ端微塵にしたからな。流石にただじゃ済まねェだろうよ」
俺が笑いながら手配書の束をめくると、そこには最新の、そしてあまりにも常軌を逸した『凶額』が刻まれた俺の手配書が一面を飾っていた。
『“百鬼夜行”クロウ』
『DEAD OR ALIVE』
『――3億2000万ベリー――』
「……へえ、一気に跳ね上がったな」
元々は東の海(イーストブルー)での初手3800万ベリー。それが十数年の空白を経て、ガープ中将率いる本部の大型艦隊を返り討ちにし、空間ごと煙のように逃げ去ったことで、海軍本部が定めた危険度は『世界を揺るがす最悪のイレギュラー』へと更新されたのだ。
3億2000万。それは現時点におけるルフィたちの金額を遥かに凌駕し、グランドライン前半の海においては文字通り「生ける災害」として世界の裏社会に君臨するに等しい金額だった。
ちなみに、俺の隣でケラケラと笑っているシロにも、しっかり『“硝子の怪異”シロ(懸賞金5500万ベリー)』という文字が刻まれている。
《おやおや、これは随分と盛大に目を付けられましたな、クロウ様。これでますます、この海の有象無象どもが我らの「特等席」を脅かそうと色めき立つでしょう》
実体化したマタムネが、キセルから白い煙を燻らせながら、どこか楽しげに目を細める。
「いいさ。狙いたいやつは勝手に狙いに来ればいい。そのすべての歪み(厄)を調律して、俺たちの美食の肥やしにしてやるだけだ」
俺は新しく更新された手配書を風に靡かせながら、どこまでも気楽に、そして不敵に笑った。
王下七武海が失脚し、時代が大きくうねり始めるグランドライン。その激動の渦中を、俺たちは誰にも縛られない絶対の傍観者として、次なる未知の美味が待つ広大な海へと、悠々とレヴァナント号を走らせていくのだった――。