バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第101話:『亡霊の足跡と、群雄たちのノイズ』
――新世界、とある島。
滝のように降り注ぐ酒を大盃で煽りながら、その男――四皇“白ひげ”エドワード・ニューゲートは、手渡された最新の新聞と手配書を眺めて、特有の笑い声を響かせていた。
「グララララ! 面白いガキがまた派手に暴れやがったな。ガープのクソジジイの艦隊を正面からコケにして、煙のように消えたかよ……」
その言葉に、傍らに控えていた一番隊隊長マルコが、手元の手配書に記された「3億2000万ベリー」という数字を覗き込みながら、懐かしげに笑みをこぼす。
「おいおい、あの時のガキがもう3億超えかよい。モビー・ディック号であれだけ盛大に宴会をやらかした男だ、ただのルーキーじゃねェとは思ってたが……。ガープの艦隊を返り討ちにするなんて、相変わらず無茶苦茶な力を使いやがるよい」
「……フン、昔からあいつの底の知れねェ性質は変わっちゃいねェさ。あのロジャーが最後の航海の前に『あいつは世界をただ観測するバグだ』などと、妙なことを抜かしていやがったのを今でもよく覚えている。十数年も姿を消していたと思えば、グランドラインに戻ってきて、今度は海軍本部を相手に大立ち回りか……」
白ひげはフッと目を細め、かつて幾度となく拳を交え、先日は自分たちの船で共に酒を酌み交わしたあの「不敵な傍観者」の生存と躍進に、どこか嬉しげな、不敵な笑みを浮かべるのだった。
◇
――新世界、ドレスローザ王国。
王下七武海のサー・クロコダイルが、一人の海賊(ルフィ)の手によって堕とされたという大事件。その戦後処理のための緊急召集がマリージョアで行われる裏で、己の王国の王座に腰掛ける男が、狂おしいほどの笑い声を上げていた。
「フフフフフ! 面白いじゃねェか! 砂のワニ公がルーキーにドジを踏んだ裏で、海軍本部のガープが直々に動いて仕留め損ねた『大物』がいるとはなぁ!」
ド派手なピンクの羽毛コートを羽織った男――ドンキホーテ・ドフラミンゴが、ドレスローザの王宮で長い脚を机の上へと放り出し、手元の手配書をひらひらと揺らしながら凶悪に笑う。
そのサングラスの奥の瞳は、世界のパワーバランスを根底から揺るがしかねない『歴史のバグ』の出現に、激しい歓喜を宿らせていた。
「ロジャー海賊団の元見習い、かつガープの拳骨を正面から相殺する謎の怪異……。おい、ついでに隣にいるガラガラの小娘も、ウチのファミリーの幹部並みの懸賞金じゃねェか。フフフフ、新時代への席取り合戦に、とんでもねェ幽霊が乱入してきやがったなァ!」
◇
――偉大なる航路(グランドライン)。
ドフラミンゴと同様の王下七武海の一角。
背中に巨大な黒刀を背負った男――“世界最強の剣士”ジュラキュール・ミホークは、その鷹のような鋭い眼光を、クロウの持つ黒き妖刀『黒死一文字』の不気味なシルエットに完全に釘付けにしていた。
「海軍の情報によれば、その少年が帯びる刃は、この世のいかなる名工の記録にもない呪いの結晶だという。……触れもせず、覇気すらも概念ごと調律し、万象を塵に還す不可解な理。……ただの死に損ないか、あるいは本当に現世を弄ぶ百鬼夜行の主か。一度、その刃の重さを確かめてみたいものだな……」
ミホークは静かにワイングラスを傾け、まだ見ぬ最強のイレギュラーへの興味を、その冷徹な胸の内に灯していた。
◇
――新世界、とある島。
もう一人の四皇であり、“赤髪”のシャンクスは、自身を慕う船員たちが宴を繰り広げる喧騒のなか、岩肌に背を預けて一枚の手配書をじっと見つめていた。
その赤髪を潮風に揺らしながら、左目の傷跡が微かに痛むかのように目を細める。
「……クロウ。お前、本当に威勢が良かったんだな」
シャンクスはぽつりと呟き、手元にある古い手配書と、最新の3億2000万ベリーの数字を見比べた。かつて同じオーロ・ジャクソン号の甲板で、見習いとして共に雑用をこなし、ロジャーの背中を追いかけていた少年。
ガープの猛攻を正面から相殺したという、世にも奇妙な能力。世界のすべてを傍観するというその不敵なスタンス。
「お前が動くってことは、いよいよ世界が本格的にひっくり返り始めるってことか。……だったら俺も、新時代のためにしっかりと舵を取らなきゃな」
シャンクスは愛刀『グリフォン』の柄を優しく撫で、かつての同胞であり、世界を斜め上から見下ろす絶対の傍観者たるクロウへ、静かなエールを送るように大盃の酒を飲み干すのだった。
世界が麦わらの躍進に沸き、砂漠の王の失脚に揺れるその裏側で。
空間と呪いを支配した絶対の傍観者――“百鬼夜行”クロウの名は、世界の頂点に立つ四皇や七武海たちの心に、消えない戦慄と狂おしいほどの興味として、深く、深く刻み込まれていくのだった――。