バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第9話:『開示される端末と、予選第一戦の超火力』

 パッチ族の試験官カリムとの戦闘を終えた翌日。

 ふんばりヶ丘中学校の教室は、いつもと変わらない退屈な空気に満ちていた。……少なくとも、一般の生徒たちにとっては。

 

 キーンコーンカーンコーン、と昼休みを告げるチャイムが鳴り響くと同時、隣の席の麻倉葉が「ふぅ……」と大きくあくびをして起き上がった。その首にかけられたオレンジ色のヘッドホンの下、制服のポケットから、見慣れない電子音がピピッ、と小気味よく鳴る。

 

「……ん? あ、もう鳴った。やっぱり早いなぁ」

 

 葉はポケットから、金色の小さな流線型の端末――オラクルベルを取り出した。

 昨日、パッチ族の試験官シルバとの死闘の末、彼が正式なシャーマンファイトの参加者として認められた証だ。葉はそれを宝物のようにながめると、隣の席の俺、御門 蓮夜(みかど れんや)に向かって、嬉しそうにへらへらと笑いかけてきた。

 

「ねぇねぇ、御門くん見てよこれ。オラクルベルっていうんだって。昨日さ、ちょっといろいろあってパッチ族の人から貰ったんだ。これを持ってるってことは、オイラもついに――」

「ああ、それな。予選の対戦相手とかを指定してくる端末だろ。知ってるよ」

「えっ?」

 

 俺は購買の焼きそばパンを齧りながら、右手を制服のポケットに突っ込んだ。

 推して、葉の目の前へ、全く同じ形状をした銀色の端末を無造作に放り出した。

 

ピピッ。

 

 俺の机の上で、銀色のオラクルベルが小刻みに震え、液晶画面に不気味な光を灯している。

 

「ええええええええええええっ!? み、御門くん!? なんでそれ持ってるの!?」

 

 葉が目を丸くし、椅子がひっくり返らんばかりの勢いで大声をあげた。教室の数人が驚いてこちらを振り返るが、葉はそんなことも気にせず、俺の銀のベルを凝視している。

 

「いや、なんでって……昨日学校の帰りにパッチ族のカリムって奴に絡まれてさ。一撃当てたら合格だって言うから、ちょっと弓で小突いたら置いてったぞ」

「カリム……十祭司の!? っつーか、御門くんもシャーマンファイトに出るの!?」

「ただの一般モブの野良シャーマンだって言っただろ。まあ、記念受験みたいなもんだ。お前こそ、アンナの地獄のしごきに耐えてよく合格したな」

 

 俺がフッと不敵に笑うと、葉は額に冷や汗を流しながら、「あはは……。御門くん、やっぱりただの野良じゃないや……」と引きつった笑みを浮かべた。

 まさか隣の席の平穏なクラスメイトが、自分と全く同じ、世界の王を決める大戦のプレイヤーとして横に並んでいるのだ。葉の直感センサーがどれだけ蓮夜の強さを察知していようとも、このスピード感での「オラクルベル開示」は、主人公の肝を冷やすには十分すぎる一幕だった。

 

     ◆

 

 ――そして、数日後の深夜。

 ふんばりヶ丘の広大な廃工場跡地。

 

 俺のオラクルベルが突如として激しいアラーム音を鳴らし、シャーマンファイト本戦予選・第1戦の開催を告げた。

 指定された場所へ向かうと、そこには月光に照らされた一本の影が立っていた。

 

「ククク……。お前が俺の最初の生贄か、御門蓮夜」

 

 現れたのは、全身に不気味な呪符を纏い、巨大な鎌を手にした一人の男。地方の悪名高い霊場を荒らし回ってきたという、実戦慣れした野良シャーマンだった。

 彼の背後には、何百人もの怨念が凝縮された、ドロドロとした巨大な悪霊のプレッシャーが立ち上っている。

 

「俺の持霊は、戦場で死んだ兵卒たちの呪いの集合体だ。お前のようなガキの薄っぺらい霊なんざ、一瞬で呪い殺してやらよ!」

 

 男が邪悪な巫力を爆発させ、巨大な鎌へと霊を憑依させていく。その殺気は、間違いなくこれまでの木刀の竜などとは格が違う、本物の「殺し合い」のそれだった。

 

《蓮夜、不愉快な気配ですね。あのような歪んだ魂、我が一矢で即座に浄化して差し上げましょう》

(ああ、サクヤ。本戦が始まる前の予選だ。ここでモタモタして、他のシャーマンやパッチ族に変に目をつけられるのは面倒だからな。――初手から、全力で終わらせるぞ)

 

 俺は一歩前に出ると、左手中指の指輪を静かに見せつけるように構えた。

 生まれつきバグ仕様で魂の器がデカい俺の、本当の意味での『初の実戦』。

 

「――オーバーソウル」

 

 ドォォォォンッ!!!

 

 廃工場全体のガラス窓がバリバリと音を立てて微振動を始める。

 俺のデカすぎる魂の器から、まるで濁流のような圧倒的密度の青い巫力が吹き荒れ、指輪の弓矢のチャームへと収束していく。手元に具現化したのは、カリムの時よりもさらに強固に、物質的な手応えすら伴い始めた【純白に輝く巨大な光の弓】。

 

 サクヤの霊体が弓へと同調し、俺の膨大な巫力を限界まで『圧縮』し始める。

 

「な、なんだその巫力は!? バカな、ただの中学生が持っていい総量じゃないぞ……っ!?」

 

 さっきまで勝ち誇っていた男の顔が、恐怖で一瞬にして土気色に変色した。彼の背後の巨大な悪霊が、俺の放つプレッシャーの格の違いに恐怖し、主の命令を無視してガタガタと震え始めている。

 

「遅い。――『神鳴の一矢(かむなりのひとや)』」

 

 キィィィィィン……と、空間の空気が吸い込まれるような超圧縮の音が響く。

 弦を引き絞り、狙いを定めた瞬間、眩すぎる白銀の閃光が放たれた。

 

ドドォォォォォンッッッ!!!

 

 放たれた一矢は、もはや矢の形状すら留めていない。太い雷撃そのものとなった巫力の奔流が、空間を激しく衝撃波で割りながら、一直線に男へと突き進む。

 

「ぎゃああああああああっ!?」

 

 男が必死に構えた呪いの鎌も、何百人の怨念の防壁も、俺のバグじみた圧倒的な累積火力の前には文字通り紙切れ同然だった。

 閃光が男のオーバーソウルを正面から木端微塵に粉砕し、そのまま背後の廃工場の分厚いコンクリートの壁を、直径数メートルにわたって綺麗に撃ち抜いていく。

 

 ドガァン! と遥か後方で爆音が響き、砂煙が舞い上がる。

 男は持霊を完全に消滅され、巫力の全損によるショックで、一歩も動けないままその場にドサリと崩れ落ちた。気絶しているが、命に別状はない。出力をギリギリでコントロールし、霊だけを消し飛ばしたのだ。

 

「ふぅ……。終わったな」

 

 俺が指輪を下ろすと、光の弓は静かに霧散していった。

 ピピッ、とポケットの中でオラクルベルが鳴り、画面に『WIN』の文字が冷淡に刻まれる。

 

《実に見事な一射でした、蓮夜。これほどの器、世界中を探してもそうはいないでしょう》

「ありがとよ、サクヤ。でも、これで予選の1勝目だ。麻倉葉も、道蓮も、ここからどんどん化け物じみた強さになっていく」

 

 俺は倒れた男を一瞥することもなく、踵を返して夜の闇へと歩き出した。

 一般モブとしての仮面を被りながら、裏では誰も追いつけないほどの超火力を持って原作のすべてを俯瞰する。

 不確かな多世界周回充の1周目。御門蓮夜の物語は、シャーマンファイトの開幕と共に、もはや誰にも止められない領域へと加速し始めていた。

 

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