バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第106話:『雲上の食材と、泥まみれの同期会』

 

「さて……青海の連中が上がってきたとなると、ここもすぐに神の軍勢だの、エネルのマントラだので騒がしくなる。せっかくの美味い飯の余韻が、泥臭い戦闘で汚されるのは御免だ」

 

俺はテーブルの上に大量のエクストル紙幣を置き、シロの手を引いてレストランのテラス席から『隠形・万里縮地』で瞬時に離脱した。

向かった先は、空島の遥か下方――雲の下に待機させてある我が拠点、漆黒のガレオン船『レヴァナント号』の船長室だ。

 

「ふぅ、戻ってきたね、クロウ! 空島のご飯、すっごく美味しかった!」

「ああ、あの環境ならではの味だったな。……っと、そうだ。ルフィたちが空島に上がってきたってことは……」

 

ふと、俺の脳内にある原作知識が呼び覚まされる。

麦わらの一味が空島で大冒険を繰り広げているこのタイミング、地上(青海)の『偉大なる航路(グランドライン)』では、別の懐かしいメンツが動いているはずだ。

 

「(バギーの野郎……東の海(イーストブルー)をとうに脱出して、今はグランドラインのどこかでキャプテン・ジョンの宝探しに躍起になってる頃か。シャンクスが『四皇』なんて呼ばれて新世界でデカい顔してる裏で、あいつは1500万の懸賞金のままドサまわりをしてやがる)」

 

ロジャーの船にいた頃、俺と一緒に見習いとして雑用をやっていた赤鼻の同期。

生存や現在地を自分の情報網(バグ巫力)でハッキングして確認すると、予想通りグランドラインの、とある無人島付近の座標が引っかかった。

 

「ねえ、クロウ? どうしてニヤニヤしてるの?」

「いや、ちょっと面白い泥遊びをしてる昔馴染み(バギー)を思い出してな。せっかく地上に戻ってきたんだ、シロ。ちょっとあいつがどんな面して泥水をすすってるのか、元同僚として直々に拝みに行ってやるか」

 

「わぁ、お出かけ! シロ、クロウのお友達に会ってみたい!」

 

俺は不敵に笑い、レヴァナント号の舵を握る。バグ巫力による空間支配を船全体へと広げ、一気に空間を跳躍させた。

一般の海賊なら何日もかかるグランドラインの航路移動だが、空間を支配する俺たちの前には、距離などただの数字に過ぎない。

 

 

ところ変わって、偉大なる航路(グランドライン)のどこか。

ある不気味な島の洞窟からぞろぞろと出てきたバギー海賊団は、全員がひどく肩を落としていた。

 

「ハァ……ハァ……。おいモージ、カバジ! 本当にここが伝説の海賊『キャプテン・ジョン』の財宝が眠る島なのかァ!?」

「へい……トレジャーマークの示す通り、間違いなくこの洞窟の奥のはずだったんですが……」

 

煤と泥にまみれたバギーが、お宝が一つも見つからなかった怒りで赤鼻をヒクつかせて怒鳴り散らしていた。

 

「全く、見苦しい男ね。少しはキャプテンとしての威厳を保ちなさいな」

 

そんなバギーを、甲板の特等席で優雅にワイングラスを傾けながら見下ろすのは、絶世の美女――“レディ”アルビダだった。

「スベスベの実」の能力によって摩擦をゼロにし、あらゆる攻撃も老廃物も弾き飛ばす美肌を手に入れた彼女は、バギーと海賊同盟を組んで行動を共にしている。

 

「うるせェアルビダ! キャプテン・ジョンの財宝さえ手に入れば、新世界のバカどもにデカい顔をしてやれたってのに……! あんなケチな島、二度と来るかァ!」

「フン、どうだか。まあ、あの麦わらのガキを追いかけるついでよ。……あら?」

 

アルビダがバギーの不甲斐なさに呆れたその瞬間、彼らの進行方向の空間が、不自然にぐにゃりと『歪んだ』。

 

「う、うわあああ!? なんだァ、海が、空が歪んでいくぞォ!!」

「前方に何か来ます! 巨大な影が……!!」

 

カバジやモージが悲鳴を上げ、アルビダも「な、何事よ……!?」と美貌を驚愕に歪める。

蜃気楼のように揺らめく空間の裂け目から、陽炎を突き破るようにして、音もなく一隻の軍艦級の巨船が這い出てきた。漆黒の船体に不気味なオーラを纏ったガレオン船――『レヴァナント号』だ。

 

海水を割って忽然と現れた謎の巨大船を前に、バギー海賊団の面々は完全に腰を抜かしていた。

 

「ぎゃあああ! お、お化け船だァーーーっ!!」

「空間から船が湧き出てきやがったぞ! な、何だあの不気味な黒いガレオン船は!?」

 

「……何、あの船。ただの幻影(まぼろし)には見えないけれど……」

アルビダがスベスベの肌を粟立たせ、冷や汗を流す。その船から放たれる規格外のプレッシャーは、最弱の海しか知らない彼女にとっても、本能的な恐怖を植え付けるに十分すぎた。

 

だが、怯え狂う部下たちの中心で、バギーはレヴァナント号の船首に立つ人影を凝視し、その眼球が文字通り飛び出さんばかりに剥き出しになった。

 

「ぶ、ぶぶ、ぶふぅーーーっ!!!?? あ、あの船首に立ってる顔……て、てめぇは……ク、クロウッ!!!??」

 

バギーの絶叫をBGMに、俺はレヴァナント号の手すりに足をかけ、隣のシロと一緒にビッグ・トップ号の甲板を見下ろす。

 

「よう、久しぶりだな、バギー。何年ぶりだ? ロジャー船長の処刑(ローグタウン)以来か。相変わらず随分とスケールの小せえお宝に振り回されて、泥まみれになってやがるな」

 

「な、なな,何でてめぇがグランドラインの、しかもこんなニッチな航路にいやがるんだァ!? ってか、今船ごと空間を飛び越えてこなかったか!? どんな能力だよ!?」

 

ガタガタと甲板で行き倒れるようにして、バギーが取り乱す。

無理もない。彼にとって俺は、あの『オーロ・ジャクソン号』で共に雑用をこなし、時にはシャンクスを交えてくだらない喧嘩をしていた同い年の見習い仲間だ。

 

「おいクロウ! てめぇ、新聞で見たぞ! 『百鬼夜行の亡霊』だぁ!? 懸賞金3億2000万ベリーだとォ!? 何が悲しくてそんな大悪党の化け物になってんだてめぇは! 世界政府を敵に回して生きてられるわけねぇだろ、バカなのか!?」

 

「誰が大悪党だ。人聞きが悪いことを言うな」

 

俺はため息混じりに肩をすくめ、レヴァナント号からビッグ・トップ号の甲板へとシロを連れて軽く飛び降りた。

瞬間、俺が放つ微弱なバグ巫力の重圧に当てられ、モージやカバジ、巨大ライオンのリッチーまでもが指一本動かせずにその場に崩れ落ちる。

 

「ひぃっ、身体が、動かねえ……っ!」

「こ、これが3億超えの化け物のプレッシャーかよ……っ!」

 

「な……っ!? 私のスベスベの肌でも、この重圧は受け流せないっていうの……っ!?」

アルビダまでもが、膝をガタガタと震わせながら息を呑む。目の前の男が、自分たちとは完全に住む世界の違う『怪物の領域』にいることを悟ったのだ。

 

「俺は自分から進んで海賊なんてやってねえよ」

 

怯えるバギーの部下たちを余所に、俺はバギーの前に立つ。

 

「ただ、俺の能力(ちから)の性質上、普通の人間が近くに居られないような領域(バグ)がどうしても発生しちまう。それに加えて、海軍のバカどもに俺が『ロジャー海賊団の元見習い』だって過去がバレちまったから、さあ大変だ。勝手に『ロジャーの意志を継ぐ世界の脅威』だの何だのと過剰に怯えられて、不本意にこんなクソ高い懸賞金をぶら下げられただけだ。俺自身はな、シロを連れて世界中の美味いもんを食って回る、気楽な美食航海(グルメツアー)がしたいだけなんだよ」

 

「……はぁ!? 元見習いがバレただとォ!? おい待て、じゃあなんで俺様の正体は海軍にバレてなくて1500万んだよ! いや、バレてなくて助かってるけどよォ! ってか美食航海だとォ!? そんなふざけた理由で3億超えの首になってたまるかァ!!」

 

「お前の事情なんか知るか。まあ、バレたら一気に跳ね上がるだろうな。それより……腹が減っては戦はできぬ、か。おいバギー、てめぇら全員、見るからにエネルギー切れじゃねえか。収穫ゼロで泥まみれのまま力尽きかけてる昔馴染みのよしみだ。お前らの船の厨房をちょっと貸せ。俺が美味い飯で宴にしてやるよ」

 

「……はぁ!? て,てめぇが料理を作るだとォ!? あの頃、オヤジの船で飯炊きのサンブルさんに毎日怒られてた、あのクロウがぁ!?」

「ハッ、いつまでも昔の俺だと思うなよ。今の俺の美食の腕は、世界政府のどの特級料理人よりも上だ。シロ、ちょっとレヴァナント号の冷蔵庫(影の収納)から、さっき空島で仕入れた食材を持ってきてくれ」

 

「はーい! シロ、美味しいお魚とお野菜、いっぱい持ってくるね!」

 

シロがトコトコとレヴァナント号へ戻り、俺の能力の応用である『影の収納』から、次々と規格外の食材を運び出してきた。丸々と太った青く輝く『スカイサーモン』や、極上の甘みを持つ空島の果実『コナッシュ』が並ぶ。

 

俺はバギーの船の厨房へと入り、バグ巫力による『空間知覚』と『調理速度の調律』をフル回転させ、凄まじい速度で極上の宴会料理を仕上げていった。

 

「おい、待たせたな。野郎ども、宴の時間だ!」

 

甲板に並べられた、スカイサーモンの香草極上ステーキや、コナッシュの特製フルーツカクテル。その暴力的なまでに美味そうな香りに、バギー海賊団の全員がヨダレを垂らし、我先にと料理に飛びついた。

 

「な、なんだこれはぁぁぁっ!? 口の中で魚が溶けるぞ!」

「今まで食ったどの海の飯より美味い!!」

 

「もぐもぐ……ふふ、バギー、これ美味しいよ! シロ、このお魚だーいすき!」

「おう、シロ、いっぱい食え。おかわりはいくらでもあるからな」

 

バギーもまた、プライドをかなぐり捨ててスカイサーモンを豪快に口に放り込み、悔し涙を流す。

「くっ……悔しいが……美味すぎるじゃねえかちくしょォォォ!! なんだよこの味は!」

 

「……信じられない。この私が、食べるのも忘れて見惚れるほどの味だわ……」

アルビダもまた、その美貌を緩ませて料理を口に運び、あまりの美味さに至福の吐息を漏らしていた。

 

「だから言ったろ、俺は美食航海をしてるだけだってな。美味いもんを食って、美味いもんを作る。それ以上の幸せが世界にあるか?」

俺はコナッシュのカクテルが入ったグラスをバギーのグラスにカチンとぶつけた。

 

「へっ……相変わらず、てめぇの考えてることはよく分からねぇよ。シャンクスは世界を揺るがす四皇になりやがって、てめぇは世界政府に怯えられながらこんな美味い飯を作ってやがる……。ロジャーのオヤジの船の見習いは、どいつもこいつも極端んだよ!」

 

バギーは文句を言いながらも、本当に嬉しそうに酒を煽り、泥まみれの顔でガハハと笑った。アルビダもそんなバギーの姿に呆れつつ、クロウの底知れない器量にどこか魅了されたようにグラスを傾けている。

かつてのオーロ・ジャクソン号の甲板を思い起こさせる、賑やかで懐かしい宴の空気が、最弱の海を越えた航路で一瞬だけ蘇るのだった――。

 

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