バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
「面白そうじゃねぇか! 俺様も混ぜろォ!!」
ベロベロに酔っ払ったバギーが割り込んできて、アルビダやシロを巻き込んだ甲板の宴会は、ますますドタバタとした喧騒に包まれていく。
クロウの作った空島の極上グルメを前に、カバジやモージ、ライオンのリッチーまでもが狂喜乱舞して踊り狂う。そんなグランドラインの航路の真ん中で、誰もが油断しきっていた、その時だった。
「もぐもぐ……ふぅ、美味い。おい、このスカイサーモンの香草ステーキってやつ、味付けが最高だな。こっちの骨付き肉もジューシーでたまらねぇよ」
「ギャハハハ! そうだろゥ! なんたって俺様の同期の……って、誰だてめぇ!!!??」
宴会の中心、いつの間にか俺の作った大皿料理の真ん前に座り込み、凄まじい勢いで肉を骨ごと貪り食っている見知らぬ男が一人。オレンジ色のテンガロンハットを被り、上半身は裸。背中には見紛うことなき『白ひげ海賊団』の不敵なマークが刻まれていた。
「えっ……? お、お前……いつの間に我が船に……!」
アルビダが驚愕し、カバジやモージは武器を構えることすら忘れて硬直する。
「おいおいおい!! 待て待て待てィ!! てめぇ、あの『白ひげ』のマーク……! もしかして、火拳のエースじゃねぇかァーーーっ!!!??」
バギーが丸い赤鼻を限界まで引きつらせ、ガタガタと椅子の後ろへ飛び退いた。
だが、大皿の肉を飲み込んだその男――ポートガス・D・エースは、バギーの叫びを完全にスルーし、俺とシロの顔を見てポンと手を叩いた。
「あ! てめぇ、アラバスタのナノハナで会った、あのやたら周囲を涼しくしてた兄ちゃんじゃねぇか! あの時はウチのバカな弟(ルフィ)の巻き添えにして悪かったな! 隣の白いお嬢ちゃんも久しぶり!」
「……やっぱりお前か,火拳のエース。美味そうな飯の匂いにつられて他人の船の宴会に無断侵入してくるあたり、ナノハナの時から相変わらず野良犬並みの嗅覚をしてやがるな」
俺はグラスを傾けたまま、ため息混じりに苦笑した。
『白ひげ海賊団2番隊隊長』ポートガス・D・エース。懸賞金5億5000万ベリー。
あの砂漠の港町ナノハナで補給をしていた際、海軍から逃走中のルフィに無理やり肉盾にされかけ、そこに火炎の壁で乱入してきたのがこの男だ。
「悪かったって! でもよ、ナノハナの時はてめぇが3億2000万ベリーの『百鬼夜行の亡霊』で、ロジャーの船の元見習いだなんて知らなかったから驚いたぜ! オヤジが新聞見ながら『ロジャーの船の生き残りなら、妙な能力の有無に関わらず警戒しておけ』って言ってたのはアンタのことだったんだな!」
エースはクシャッと人懐っこい笑みを浮かべ、コナッシュのカクテルを一気に飲み干した。
世界最強の男『白ひげ』にすら存在を警戒されているという事実に、バギー海賊団の面々は「3億と5億が知り合いで、目の前で会話してやがる……!」と完全に腰が抜けていた。
「で、白ひげの看板を背負った大物が、こんな一般航路で何をしてるんだ? アラバスタでルフィたちと別れてから、まだあの『身内の不始末』を追ってる最中か?」
俺が原作の大きな嵐(頂上戦争へのカウントダウン)の引き金となる問いを投げる。
エースは一瞬だけ表情を真剣なものに変え、肉を噛みちぎりながら低く呟いた。
「ああ、そうだ。俺の2番隊の隊員だったティーチって男が、仲間を殺して逃げやがった。海賊働きの最大の禁忌(タブー)を犯したアイツを、隊長としてこの手でケジメをつけなきゃならねぇ」
「な、何だと……!? ティーチが、仲間殺し……ッ!?」
エースの口から出たその『不始末』の内容を聞いた瞬間、それまでギャーギャーと騒いでいたバギーの顔から一気に血の気が引いた。
ロジャー海賊団時代から新世界を渡り歩き、あのエドワード・ニューゲートという怪物を嫌というほど知っているバギーだ。白ひげ海賊団における『鉄の掟』――「仲間の殺害」を犯した者がどうなるか、そしてそれを白ひげがどれほど絶対に許さないかを熟知しているが故の戦慄だった。
「お、おいおいマジかよ……! あの白ひげが一番許さねェ最大のタブーを犯しやがったのか、そのティーチって野郎は……! 新世界がひっくり返るぞ……!」
ガタガタと震えながら、冷や汗を流して呟くバギー。
「……ナノハナで会った時もアンタ、どこか全てを察してるような目で俺たちを見てたが、やっぱりオヤジの顔に泥を塗った奴を放ってはおけねぇよ」
エースはバギーの怯えなど意に介さず、俺を見据えて言葉を続ける。
「……黒ひげ(ティーチ)の底知れなさはお前が思っている以上に世界のバグ(歪み)に近いぞ、エース。引き返すなら今のうちだ」
俺のバグ巫力が捉える原作の未来。インペルダウン、そしてマリンフォードの頂上戦争。
だが、そんな俺の少しシリアスな忠告の途中で――
「……すぅ。……ずぅ」
「――って、また寝てんのかよ!!!」
バギーの絶叫が甲板に響き渡った。
さっきまで真面目な顔でティーチへの怒りを語っていたエースが、口に肉を咥えたまま、ガクンと首を落として盛大に爆睡(寝落ち)し始めている。
「な、ななんなのよこの男は!? ナノハナでもこうだったの!? 3億の男の警告の途中で寝るなんて……!」
アルビダが呆れ果てて額を押さえる。
「ギャハハハ! 流石は白ひげの隊長、大物っていうかただのドマヌケだな! おいクロウ、今のうちにコイツを海に叩き落として、白ひげに恩を売るか!?」
「やめとけバギー、寝てる状態のコイツに触ったら、その瞬間に反射で船ごと焼き尽くされるぞ。……まあ、懐かしい同期の宴だ。この自由すぎる泥棒猫も、目が覚めるまでは好きにさせておいてやろう」
俺は苦笑しながら、エースから貰った骨付き肉を嬉しそうにもぐもぐと食べているシロの頭を優しく撫で、再びグラスを掲げた。
歴史を動かす『火拳』との再会すらもただの愉快なエピソードに変えながら、偉大なる航路の夜は、どこまでもハデに更けていくのだった――。