バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
シャーマンファイト本戦予選、第2戦。
オラクルベルが指定した決戦の地は、深夜のふんばりヶ丘コンテナ埠頭だった。
潮風が冷たく吹き抜ける中、巨大なコンテナが迷路のように積み上がった中央の広場で、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は静かに待っていた。
「おいおい、パッチの端末がぶっ壊れたかと思ったぜ。次の相手がこんな細っちいガキとはな」
コンテナの影から足音を響かせて現れたのは、仕立ての良いライダースジャケットを着た、大柄で不敵な笑みを浮かべる男だった。
男の名は豪徳寺(ごうとくじ)。格闘技の地方大会を総なめにしてきたという、絵に描いたような肉体派のシャーマンだ。
「俺の持霊は、かつて中世ヨーロッパの戦場を駆け抜けた、重装歩兵の霊『ヘンリック』。そして、俺の媒介(依り代)はこれだ!」
豪徳寺が両腕を突き出す。その腕には、肉厚の頑丈なスチール製のナックルガードが嵌められていた。
「――オーバーソウル!」
男が叫ぶと同時、その身体を包むように巨大な『漆黒のフルプレートアーマー(全身鎧)』と、男の身の丈ほどもある『タワーシールド(大盾)』が具現化した。
物理的な衝突に特化した、圧倒的な防御力と突進力を誇る近接重装型のオーバーソウル。
そのプレッシャーは凄まじく、埠頭のコンクリートが彼の足元からピキピキと悲鳴を上げている。
「第1戦で呪術師のバカを瞬殺したらしいな。だが、あの程度の貧弱な呪いと俺の鋼の盾を一緒にするなよ! どんな遠距離攻撃だろうと、正面から叩き潰してそのまま圧殺してやる!」
豪徳寺が巨大な盾を構え、重戦車さながらの勢いで地面を蹴った。標的である俺に向かって、凄まじい質量兵器が突進してくる。
《蓮夜、なかなかの硬度です。あの盾、正面から『神鳴の一矢』を撃ち込めば相殺は可能ですが、いささか巫力の消費が嵩みますね》
(ああ、分かっているさ。ただの一般モブの俺たちが、毎回同じ最大火力でゴリ押しすると思うなよ。サクヤ、奴の死角を突くぞ)
俺は一歩も動かず、左手中指の指輪を構えた。
「――オーバーソウル」
指輪の弓矢のチャームから溢れ出た青い巫力が、手元で純白の光の弓へと形を変える。
だが、今回俺が引き絞った光の弦に番えられたのは、あの極太の雷撃ではない。極限まで細く、針のように鋭く研ぎ澄まされた、数本の【光の細矢】だった。
「無駄だァッ! 正面は完全に遮蔽している!」
大盾の裏から豪徳寺が吠える。
「正面から撃つとは言ってない。――サクヤ、行け」
《御意!》
俺が指を離した瞬間、放たれた3本の光の矢は、男の正面ではなく、**左右のコンテナの壁に向かって直進した。**
「ハッ、狙いが狂ってやがる――」
豪徳寺が嘲笑いかけた、その時。
キィンッ! と硬質な音が響き、左右のコンテナに衝突した光の矢が、あり得ない角度で激しく跳跳弾(リバウンド)した。
戦国の卓越した弓取りであるサクヤの空間把握能力と、俺のバグじみた精密な巫力コントロール。それが合わされば、コンテナの配置を反射板に変え、『見えない跳弾の檻』を作り出すことなど容易い。
ズガァン! ズガァンッ!!
「なっ……がはっ!?」
大盾の死角である、男の背後と真真横から、鋭い光の矢が正確に命中した。
オーバーソウルされた鎧の一部が弾け飛び、豪徳寺の巨体が衝撃で大きくよろめく。正面への防御に特化している分、側面や背後からの想定外の衝撃には脆い。
「おのれ、小細工をぉぉぉ!!」
激昂した豪徳寺が、無理やり体制を立て直して盾を振り回す。
だが、俺はすでに次の矢を番えていた。今度は真上――夜空へ向けて放たれた光の一矢。
それは中空でいくつもの光の雨へと分裂し、男の頭上から容赦なく降り注ぐ。
「どこを見ている、豪徳寺。お前の持霊(ヘンリック)は立派な鎧だが、お前自身の足元はガラ空きだぞ」
「ひぃっ!? し、しまっ――」
雨のように降り注ぐ光の矢が、男の周囲のコンクリートを激しく爆破し、逃げ場を奪う。
そしてトドメの一射。
俺は再び、今度はまっすぐに弓を引き絞った。手元に収束していくのは、あのカリムの盾すら粉砕した『神鳴の一矢』の、ほんの数割の出力を凝縮した弾丸のような光矢。
「これで終わりだ」
パァンッ!!!
放たれた一撃は、豪徳寺が慌てて正面に戻したタワーシールドの、まさに『巫力の結合が一番脆い中心点』を正確に射抜いた。
バリィィィィィン!!!
凄まじい衝撃波と共に、漆黒の大盾が文字通り蜘蛛の巣状にひび割れ、そのまま光の霧となって完全崩壊する。
媒介であるナックルガードがへし折れ、豪徳寺は巫力の全損による強烈なバックラッシュ(反動)を受け、白目を剥いてその場に仰向けに倒れ込んだ。
ピピッ、とオラクルベルが静かに鳴り、画面に『WIN』の文字が映し出される。
これで予選2勝目だ。
《見事な戦術でした、蓮夜。力任せの破壊だけでなく、戦場の地勢を利用した不可視の軌道……生前の合戦を思い出しますね》
「ありがとよ、サクヤ。これで本戦進出(東京予選通過)まで、あと1勝だ」
俺は光の弓を消滅させ、静まり返った埠頭を後にした。
ハオの心話に引っかからないよう、一般モブとしての冷静さを保ちつつ、裏では誰にも真似できない変幻自在の超火力で勝ち進む。
不確かな多世界周回の1周目。御門蓮夜の歩みは、シャーマンファイトのパワーバランスを確実に、そして圧倒的に狂わせ始めていた。