バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

12 / 110
第10話:『予選第二戦、鋼の盾と不可視の軌道』

 シャーマンファイト本戦予選、第2戦。

 オラクルベルが指定した決戦の地は、深夜のふんばりヶ丘コンテナ埠頭だった。

 潮風が冷たく吹き抜ける中、巨大なコンテナが迷路のように積み上がった中央の広場で、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は静かに待っていた。

 

「おいおい、パッチの端末がぶっ壊れたかと思ったぜ。次の相手がこんな細っちいガキとはな」

 

 コンテナの影から足音を響かせて現れたのは、仕立ての良いライダースジャケットを着た、大柄で不敵な笑みを浮かべる男だった。

 男の名は豪徳寺(ごうとくじ)。格闘技の地方大会を総なめにしてきたという、絵に描いたような肉体派のシャーマンだ。

 

「俺の持霊は、かつて中世ヨーロッパの戦場を駆け抜けた、重装歩兵の霊『ヘンリック』。そして、俺の媒介(依り代)はこれだ!」

 

 豪徳寺が両腕を突き出す。その腕には、肉厚の頑丈なスチール製のナックルガードが嵌められていた。

 

「――オーバーソウル!」

 

 男が叫ぶと同時、その身体を包むように巨大な『漆黒のフルプレートアーマー(全身鎧)』と、男の身の丈ほどもある『タワーシールド(大盾)』が具現化した。

 物理的な衝突に特化した、圧倒的な防御力と突進力を誇る近接重装型のオーバーソウル。

 そのプレッシャーは凄まじく、埠頭のコンクリートが彼の足元からピキピキと悲鳴を上げている。

 

「第1戦で呪術師のバカを瞬殺したらしいな。だが、あの程度の貧弱な呪いと俺の鋼の盾を一緒にするなよ! どんな遠距離攻撃だろうと、正面から叩き潰してそのまま圧殺してやる!」

 

 豪徳寺が巨大な盾を構え、重戦車さながらの勢いで地面を蹴った。標的である俺に向かって、凄まじい質量兵器が突進してくる。

 

《蓮夜、なかなかの硬度です。あの盾、正面から『神鳴の一矢』を撃ち込めば相殺は可能ですが、いささか巫力の消費が嵩みますね》

(ああ、分かっているさ。ただの一般モブの俺たちが、毎回同じ最大火力でゴリ押しすると思うなよ。サクヤ、奴の死角を突くぞ)

 

 俺は一歩も動かず、左手中指の指輪を構えた。

 

「――オーバーソウル」

 

 指輪の弓矢のチャームから溢れ出た青い巫力が、手元で純白の光の弓へと形を変える。

 だが、今回俺が引き絞った光の弦に番えられたのは、あの極太の雷撃ではない。極限まで細く、針のように鋭く研ぎ澄まされた、数本の【光の細矢】だった。

 

「無駄だァッ! 正面は完全に遮蔽している!」

 大盾の裏から豪徳寺が吠える。

 

「正面から撃つとは言ってない。――サクヤ、行け」

《御意!》

 

 俺が指を離した瞬間、放たれた3本の光の矢は、男の正面ではなく、**左右のコンテナの壁に向かって直進した。**

 

「ハッ、狙いが狂ってやがる――」

 豪徳寺が嘲笑いかけた、その時。

 

 キィンッ! と硬質な音が響き、左右のコンテナに衝突した光の矢が、あり得ない角度で激しく跳跳弾(リバウンド)した。

 戦国の卓越した弓取りであるサクヤの空間把握能力と、俺のバグじみた精密な巫力コントロール。それが合わされば、コンテナの配置を反射板に変え、『見えない跳弾の檻』を作り出すことなど容易い。

 

ズガァン! ズガァンッ!!

 

「なっ……がはっ!?」

 

 大盾の死角である、男の背後と真真横から、鋭い光の矢が正確に命中した。

 オーバーソウルされた鎧の一部が弾け飛び、豪徳寺の巨体が衝撃で大きくよろめく。正面への防御に特化している分、側面や背後からの想定外の衝撃には脆い。

 

「おのれ、小細工をぉぉぉ!!」

 

 激昂した豪徳寺が、無理やり体制を立て直して盾を振り回す。

 だが、俺はすでに次の矢を番えていた。今度は真上――夜空へ向けて放たれた光の一矢。

 それは中空でいくつもの光の雨へと分裂し、男の頭上から容赦なく降り注ぐ。

 

「どこを見ている、豪徳寺。お前の持霊(ヘンリック)は立派な鎧だが、お前自身の足元はガラ空きだぞ」

 

「ひぃっ!? し、しまっ――」

 

 雨のように降り注ぐ光の矢が、男の周囲のコンクリートを激しく爆破し、逃げ場を奪う。

 そしてトドメの一射。

 俺は再び、今度はまっすぐに弓を引き絞った。手元に収束していくのは、あのカリムの盾すら粉砕した『神鳴の一矢』の、ほんの数割の出力を凝縮した弾丸のような光矢。

 

「これで終わりだ」

 

パァンッ!!!

 

 放たれた一撃は、豪徳寺が慌てて正面に戻したタワーシールドの、まさに『巫力の結合が一番脆い中心点』を正確に射抜いた。

 

バリィィィィィン!!!

 

 凄まじい衝撃波と共に、漆黒の大盾が文字通り蜘蛛の巣状にひび割れ、そのまま光の霧となって完全崩壊する。

 媒介であるナックルガードがへし折れ、豪徳寺は巫力の全損による強烈なバックラッシュ(反動)を受け、白目を剥いてその場に仰向けに倒れ込んだ。

 

ピピッ、とオラクルベルが静かに鳴り、画面に『WIN』の文字が映し出される。

これで予選2勝目だ。

 

《見事な戦術でした、蓮夜。力任せの破壊だけでなく、戦場の地勢を利用した不可視の軌道……生前の合戦を思い出しますね》

「ありがとよ、サクヤ。これで本戦進出(東京予選通過)まで、あと1勝だ」

 

 俺は光の弓を消滅させ、静まり返った埠頭を後にした。

 ハオの心話に引っかからないよう、一般モブとしての冷静さを保ちつつ、裏では誰にも真似できない変幻自在の超火力で勝ち進む。

 不確かな多世界周回の1周目。御門蓮夜の歩みは、シャーマンファイトのパワーバランスを確実に、そして圧倒的に狂わせ始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。