バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
世界の中心、聖地マリージョア。
その一角にある、世界政府本庁の重厚な会議室には、世界を揺るがす強者(バグ)どもの気配が満ちていた。
「フフフフフ! おいおい、元見習い同期の『百鬼夜行の亡霊』が動いただと? そいつはまたハデな宴会(ジョーク)じゃねぇか、海軍の旦那がたァ!!」
邪悪な笑い声を響かせ、大きなテーブルの上で逆立ちをするように足をバタつかせているのは、“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
その傍らには、聖書を片手に黙然と座る“暴君”バーソロミュー・くま。そして、普段ならこの手の召集には絶対に応じないはずの“世界最強の剣士”ジュラキュール・ミホークまでもが、気だるげに肘をついていた。
アラバスタ王国で王下七武海の一角、クロコダイルが剥奪されたことを受けて開かれた、後任を選ぶための緊急招集会議。
だが、その盤上は、今や別の『不条理な脅威』の情報によって激しく揺れ動いていた。
「静かにせんか、ドフラミンゴ。……これは笑い事ではないよ」
会議の席の末端で、海軍本部の“大参謀”つるが、冷徹な眼光を書類へと落としながら低く窘める。
その書類には、世界政府の諜報機関サイファーポール(CP)が、グランドラインの無人島海域の近くで極秘裏に観測した、恐るべき『断片的な事実』が記録されていた。
【不穏分子の異常接触:『百鬼夜行の亡霊』クロウ。並びに、白ひげ海賊団2番隊隊長『火拳のエース』。および、元ロジャー海賊団の見習い『“道化”のバギー』。右の三勢力、グランドライン某海域にて、黒い魔船(レヴァナント号)を中心に一時接触――】
海軍本部元帥センゴクは、怒りで額の青筋をピキピキと震わせながら、机を強く叩いた。
「クロコダイルが堕ち、世界政府の均衡が崩れたまさにこのタイミングだ……! ロジャー海賊団の元見習いであるクロウとバギー、さらに白ひげの幹部である火拳までもが、海軍の監視の目を潜り抜け、空間を歪めてまで密会を果たすなど……! これが偶然の訳があるかァ!!」
センゴクの怒号が会議室に響き渡る。
海軍側の深読みは、すでに最悪のシナリオへと到達していた。
「(クロウ……あの、普通の人間が居られないほどの異質な『領域(バグ)』を生み出す、世界政府の最大級の懸念材料。ロジャーの意志を継ぐ亡霊であるあの男が、かつての同期であるバギー、そして白ひげの血盟である火拳を繋ぎ、世界の裏側で『巨大な嵐』を仕掛けようとしている……! 奴らは一体、何を企んでいる……ッ!!)」
海軍が勝手にシリアスな勘違いをして大パニックに陥る中、ドフラミンゴは面白そうにサングラスの奥の目を光らせた。
「フフフ、3億2000万の亡霊が、新世界の四皇(白ひげ)の手を引いて動き出すか……。時代がうねりを上げてやがる。なぁ、ミホーク?」
「……知らん。私には興味のないことだ。だが、あの男(クロウ)の首は、そう簡単に誰かの軍門に降るようなタマではない」
ミホークはかつて世界を揺るがした亡霊の気配を思い出しながら、冷淡に言い放つ。
クロウ自身はただ「空島のレア食材で、懐かしいバギーたちと気楽な宴会(美食ツアー)をしていただけ」なのだが、強者たちが集えば集まるほど、世界政府の盤上は勝手に大混乱に陥っていくのだった。
――その、緊迫しきった沈黙を引き裂くように。
コツ、コツ、コツ、コツ……。
誰も気づかぬうちに、会議室の固い大理石の床を叩く、奇妙にキレのある『タップダンスの足音』が響き渡った。
「「――ッ!?」」
センゴク、つる、そして七武海の面々の視線が一斉に、閉ざされたはずの巨大な扉へと向けられる。
そこには、純白のスーツにシルクハットを被り、杖を手にした見知らぬ男が、不敵な笑みを浮かべて軽やかにステップを踏みながら立ち塞がっていた。
「おやおや……。少々、お取り込み中でしたかな?」
「て、てめぇ……! どこから入ってきたァ!!」
海兵たちが色めき立ち、一斉に武器を構える。世界政府の最高聖地、厳重な警備を誇るマリージョアの会議室に、文字通り『影のように』潜り込んできた不審者。
男はシルクハットに手をかけ、芝居がかった優雅な一礼をみせた。
「参加させていただきたく、参上いたしました。……私の名はラフィット。ウエストブルーでは広く名が通った保安官でしたが……まあ、昔の話です」
「ラフィット……! 度を超えた暴力で国を追われた男か!」
つるの鋭い目が、男の正体を瞬時に見抜く。
「フフ、光栄です。私のことなどどうでもよろしい。……私は、ある男を、その空席となった“七武海”に推薦したくてここに来たのです」
ラフィットは杖を軽く回し、センゴクの前に広げられた『クロウの異常接触の書類』をチラリと見つめ、その不気味な笑みをさらに深くした。
「我がボス、マーシャル・D・ティーチ。……通称、“黒ひげ”。彼こそが、その亡霊どもが引き起こすであろう世界の大嵐を、ハデに喰らい尽くす新たな王に相応しい」
ルフィが空島を騒がせ、クロウが世界の裏で優雅に飯を食うその瞬間。
聖地マリージョアの盤上に、さらなる闇の主役である黒ひげ海賊団の影が、不気味に這い寄り始めるのだった――。