バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
アメリカの大砂漠を歩き始めて数日。
地平線まで続く砂と岩の荒野に、俺の精神はガリガリと削られていた。
だが、俺以上にボロボロだったのは小山田まん太だ。「もう一歩も歩けないよ……」と泣き言を言う彼を、木刀の竜が背負って何とか進んでいる状態だった。
「まーまー、まん太。ほら、あそこに小さな町が見えるよ。あそこで少し休もう」
麻倉葉がのんきに指差した先には、西部劇に出てくるような寂れた荒野の宿場町があった。
俺たちは埃っぽいダイナーに駆け込み、冷たい水を喉に流し込む。生き返る、とはまさにこのことだ。
だが、一息ついたのも束の間。ダイナーの入り口のドアがカランと鳴り、一人の少年が足を踏み入れてきた。
緑色の髪に、どこか儚げな美貌。イギリスのトラディショナルな衣装を身に纏ったその少年は、手に小さなダウジングの針(ペンデュラム)を携えていた。
リゼルグ・ダイゼル。
ハオへの復讐に燃え、本戦を共に戦う「強い仲間」を探しているイギリスのシャーマンだ。
「ハオを倒すための、強い仲間……。僕のダウジングが指し示したのは、この町にいる君たちだ」
リゼルグの目は、復讐の炎で異様なほどギラギラと輝いていた。彼はダイナーの中央に立つと、葉や道蓮、そして目立たない席に座る俺を順番に見据える。
「君たちの実力を試させてもらうよ。僕の持霊『モルフィン』の速度についてこられるかな!」
リゼルグが巫力を解放し、ペンデュラムにモルフィンをオーバーソウルさせる。超高速で不規則な軌道を描きながら迫るワイヤー攻撃。
原作通り、まずは蓮や竜がその変幻自在なダウジングの動きに翻弄され、防戦一方に追い込まれていく。
(始まったか。リゼルグの仲間勧誘バトルだ)
俺は冷たいコーラを飲みながら、一般モブのスタンスを崩さずにその様子を観察していた。
リゼルグの強さは、その圧倒的な「速度」と「超精密な軌道制御」にある。だが、その動きをじっと見つめていた俺の脳内で、サクヤが静かに思考を伝えてきた。
《蓮夜。あの緑の髪の少年、動きは確かに鋭いですが……魂が『復讐』という黒い炎に焼かれ、酷く不安定です。あれでは、いざという時に霊との同調が乱れますね》
(ああ、知ってるさ。あいつはハオへの憎しみで周りが見えなくなってる。……まぁ、ここは原作通り葉が力ずくじゃなく、その『心』で受け止めるべき場面なんだが)
その時、弾かれた蓮の武器(宝雷剣)が、運悪く俺の座っているテーブルの方へと吹っ飛んできた。
さらに、それに連動するようにリゼルグのワイヤーの残響が、鋭い軌道を描いて俺の顔面へと迫る。
「危ない、そこの君!」
リゼルグがハッとして叫ぶ。一般モブが巻き添えを喰らったと思ったのだろう。
だが、俺はあわあわと慌てたフリをしながらも、左手を無造作に一閃させた。
指輪のチャームから『目に見えない巫力の障壁』をほんの一瞬だけ、ピンポイントで展開する。
ガキィィンッ!!!
火花を散らし、リゼルグのワイヤーが何もない空間に激突して弾き飛ばされた。
「……なっ!?」
リゼルグが驚愕に目を見開く。ただの一般モブの一般生徒だと思っていた男が、自分の超高速のオーバーソウルを、目も向けずに完璧に弾き返したのだ。
「あ、あわわわ! 危ねえな! 飯食う時くらい戦闘の巻き添えにするのやめてくれよな!」
俺は慌てて椅子から立ち上がり、冷や汗を流すポーズを取ったが、リゼルグの視線は完全に俺に釘付けになっていた。
「君……今、僕のモルフィンの軌道が視えていたのか……? それに、その指輪の力……」
(あー、最悪だ。また目をつけられた。俺の隠密モブ計画が砂漠の砂みたいにサラサラと崩れていく……)
「ほら見ろ御門くん! だから言ったじゃん、一緒に戦おうって!」
葉がいつものようにへらへらと笑いながら近づいてくる。リゼルグはその葉と俺を交互に見つめ、ハオの復讐への手がかりがこの奇妙な集団にあると、確信を深めたようだった。
不本意ながらも、また一人の重要キャラの因縁に深く巻き込まれていく御門蓮夜。
累積バグを持つ男のアメリカ横断の旅は、行く先々で原作の因果を歪めながら、さらなる混迷へと突き進んでいく。