バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
俺はすっかり忘れていたよ。ハオというラスボスを前にようやく一息つけると思い、そのまま寝てしまった。この後の展開がどうなるか。
――パッチ・ジャンボ、無慈悲に消滅。
「おいおいおいおい、マジかよ原作通りじゃねえか!!」
上空を飛行していたはずの巨大な霊体飛行機が唐突に霧散し、乗客のシャーマンたちが一斉に大空へと放り出された。
悲鳴と怒号が飛び交う中、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、落下しながらも左手の指輪に巫力を込め、サクヤの風を借りて高度をコントロールしていた。一般モブとして、砂漠への着地くらいはスマートに済ませるだけの技量はすでに備わっている。
だが、問題は着地した後だった。
ドサリ、と砂煙を上げてアメリカの荒涼とした大地に降り立つ。
周囲を見渡せば、地平線まで続く不毛の大地。パッチの村を見つけるための本戦最初の試練、アメリカ横断の旅のスタートだ。
「よし、気配を完全に遮断して、ここからは単独で隠密行動に――」
「あ! 御門くーーーん!! よかった、無事だったんだね!」
俺が踵を返そうとした瞬間、背後から凄まじい大声が響いた。
振り返ると、砂まみれになった麻倉葉がへらへらと笑いながら手を振っており、その横には、不機嫌そうに腕を組む道蓮、リーゼントを気にする木刀の竜、ホロホロと小山田まん太が揃っていた。
(……なんでこいつら、俺と同じ場所にピンポイントで落ちてきてるんだよ!)
「偶然だねー。やっぱりオイラたち、隣の席の縁があるのかな」
「縁なんてねえよ! 俺はここから一人で西に向かうから、お前らは東にでも南にでも勝手に行ってくれ!」
俺がそそくさと距離を置こうとすると、葉は「そんなこと言わずにさぁ」と俺の制服の袖をガシッと掴んできた。
「パッチの村の場所なんて誰も知らないんだし、シャーマン同士、みんなで協力して行ったほうが楽しいって。な? 一緒に行こうよ!」
「嫌だ! お前と一緒にいたら、あのハオだか何だかって化け物にまた絡まれるだろ! 離せ!」
「諦めろ野良。葉がこうなったら梃子でも動かん」
道蓮が呆れたようにため息をつき、木刀の竜も「まぁまぁ御門の旦那、これも何かの縁っスよ! 旅は道連れ、世は情けって言うじゃないっスか!」とガハハと笑いながら俺の背中をパシパシと叩く。
「ひ、ひええ……僕、アメリカの砂漠で行き倒れるのだけは嫌だよ……。御門くん、君、昨日ハオの攻撃(プレッシャー)に耐えてたし、お願いだから一緒にいてよぉ……」
まん太までが涙目で俺のズボンの裾にすがりついてくる始末だ。俺はそんな小動物なまん太の懇願には屈したくなかった。
あわあわと手足をバタつかせながら拒絶を試みるが、葉の底なしのマイペースさと、全員からの熱烈な(不不本意な)ラブコールに、俺の一般モブ偽装計画はものの数秒で瓦解させられていく。
《くすくす……。蓮夜、諦めなさい。あの麻倉の少年は、他人の懐に潜り込むのが天才的に上手いです。それに、彼らと共にいたほうが、世界の運命が動く『特等席』を維持できますよ》
(サクヤ、お前は他人事だと思って……! ハオの視線がどれだけ痛かったか分かってんのかよ……!)
冷や汗を流しながらも、俺は大きく肩を落としてため息をついた。
「ハァ……。分かったよ、一緒に行けばいいんだろ、一緒に行けば! その代わり、飯の準備とか野宿の段取りは、お前らが全部やれよな!」
「あはは、やったね! よろしく、御門くん!」
葉はいつもの呑気な笑顔で俺の肩を組み、蓮は「チッ、足手まといになるなよ」と悪態をつきながらも歩き出す。
(まったく、最悪の展開だ。一般モブとして裏でこっそり強くなるはずが、いつの間にか原作のメインパーティーのど真ん中に居座るハメになっちまった……)
俺は指輪のチャームをそっとなぞり、照りつけるアメリカの太陽を見上げた。
ハオに目をつけられ、主人公たちに強制拉致されるという、不確かすぎる多世界周回の1周目。御門蓮夜の意図せぬ大いなる旅路が、砂塵の舞うアメリカの大地で、賑やかに幕を開けるのだった。